身体 - みる会図書館


検索対象: 二度めの夏、二度と会えない君
57件見つかりました。

1. 二度めの夏、二度と会えない君

どうなっているんだ ? 俺はさっきまで厚着でいたはずだし、ギターなんてもう一一か月以上触っていない。部屋の隅 で埃にまみれているはずで、こんなに手入れが行き届いているはすがなかった。 大体、河原での練習なんてもう半年以上前の習慣で 「半年前 なにかとても嫌な予感がした。 とっさ いますぐここから離れたほ、つかいいと咄嗟に田 5 った。 けれどそのとき、俺の身体は強ばって動かなくなる。頭の中がぐしゃぐしやになって、身体 だけでなく心まで硬直してしまったみたいだった。 ち 持 背の高い雑草の陰に隠れて、小動物のようにこちらを見ているその少女と目があってしまっ 気 いたのが原因だった。 え「あ、見つかっちゃった」 云 ・もり・や幸 6 そこにいたのは、森山燐その人だった。 章 一見間違うはずがない ひとみ 高校生にしてはかなり小さな身体、くりりと大きくまっすぐな瞳、触れるのがためらわれる こわ

2. 二度めの夏、二度と会えない君

燐の声は落ち着いていた。 夜霧のように静かで冷たかった。 しのはら 「だってあなた、篠原君のことを好いているでしよう」 「うん。好きだよっ 一転して、燐の声は跳ねるように明るい。 一瞬、俺の身体全体がカッと熱くなった。 けど燐の一一一一口葉にそ、ついう意味合いがないことはすぐにわかった。 「仲間としてではなく、異性として好きかどうかを訊いているのよ」 会長のイライラしたような一一一一口葉に、燐の声は今度こそ氷のように冷たかった。 「好きじゃないよ」 本当は、それほど冷たい声音ではなかったかもしれない 「 : : : あなたでも、そんな嘘がつけるのね」 さとし 「嘘じゃないよ。あたしは智君のこと好きだけど、そういうんじゃない」 けれどその声はあまりに無機質で、突き放すよ、つで。 それまで俺の中でどうしようもなく暴れていた身勝手な気持ちが、ろうそくの火みたいにふ あぜん っと消え去った。それはもう、唖然とするほどにあっけなく、簡単に。 あとに残ったのはほっかりと胸に穴があいたような感覚と、胃の腑を満たす鈍い痛み。 りん

3. 二度めの夏、二度と会えない君

燐の歌声に引っ張られ、指先が別の生き物になる感覚。 からだ 指先が弦を弾く感触、そうして奏でられた音が増幅されて身体を揺らす心地良さ、そのサウ ンドと燐の歌声とが重なる快感、そのすべてがダイレクトに俺を貫いた。 俺たちの歌に合わせて飛び跳ねる無数の影。 さくれつ 暗く狭い箱の中に満ちる躍動の中心で、一人一人を繋ぐ電気信号を炸裂させる全能感。 燐の歌声が会場を満たし、全身を包み、ギターを介して一体となる。 笑顔の燐と演奏している間だけは、燐と一緒にいる痛みも、罪悪感も、少しだけ薄れてくれ るよ、つな気がした。 俺たちの持ち時間はあっという間に過ぎ去った。 クライマックスにさしかかり、俺はタイミングを計っていた。 終わらせたくない。もっと演奏していたい。けれどここで失敗しなければ、燐はドラムスと べ 1 スに出会、つことができなくなる。 どれだけいまの時間を手放しがたくとも、燐がちゃんとバンドを結成できるように、最低限 やるべきことはこなさなければならない かな

4. 二度めの夏、二度と会えない君

生徒を収容して行われる。 各クラスが合唱やダンスを行い、総合点を競いあうのだ。 他にも各文化部の発表や外部から招いた団体による公演など、毎年バラエティに富んだ演し 物が行われ、生徒たちは最終日に向けて静かにヒートアップしていく。 「いよいよ明日だ ! 」 文化ホールでの発表が終わったあと、大半の生徒は学校へと戻る。 三日目の校内展一小の準備を今日のうちに終わらせてしまうためだ。 だれ きたこ、つさい 北高祭のクライマックスに向けて誰もが熱に浮かされていて、その中でも燐はこれ以上ない ほどにはしゃいでいた。 のどっぷ 「いまから喉が潰れるまで歌いまくりたいくらい ! 」 「バカ一一一一口うな」 クラス展示の準備を手伝ったあとに音楽室を借りて練習する予定だが、通し練習は既に何度 もやっている。今日これからの練習は最終調整みたいなものだ。 「じゃあさじゃあさ、前夜祭ならぬ中夜祭やろうよ ! 明日に向けてばーっとさあ ! 」 からた 「本番前はしつかり身体を休めないとダメよ」 「もお ! 会長は堅すぎるよ、毎度毎度ー。ヒミコちゃんに強制連行させちゃうよー」 「 : : : 頑張ります : りん

5. 二度めの夏、二度と会えない君

784 からだ た理性が身体の中で暴れ回り、いまにも内側からはじけ飛んでしまいそうだった。 辛くて、嬉しくて、しんどくて、愛おしくて、泣き出しそ、つだった。 はんりゆ、つの 頭も、いも、相反する気持ちの奔流に呑み込まれ、完全にパニックになっていた。 そうして、燐の肩を掴んでいた両手が、少しだけ動いた。 「あっー 燐が戸惑うように声を漏らした。 俺の両手は、そっと拒絶するように燐の身体を押し返していた。 それは本当に些細な力の流れだった。 「えと、ごめん : : : ちょっとはしゃぎすぎたかな」 燐のセリフは過去に聞いたことのないものだった。 そこには放っておけない不穏な気配が滲んでいて、俺は思わず燐の名前を呼んでいた。 いまのは違、つのだと説明したかった。 けれどそこからどんな風に過去がねじ曲がるか想像できなくて、そうこうしている間にヒミ そで : これ : コが「 : と燐の袖を引いた 不意に犯してしまった俺のミスをよそに、過去はどんどん流れていく。 りゆ、つ ヒミコが持っていたのは、身体をなくした龍の頭部だった。 からだ

6. 二度めの夏、二度と会えない君

冬のあの日、ほんの少し手の甲が触れあっただけで、あんなにも胸が高鳴って、ろくに話す こともできなくなったとい、つのに。 汗まみれの燐はあのときよりもずっと強烈な存在感とともにそこにいて、香ってくる女の子 うず の匂いが頭を真っ白にする。燐は俺の胸辺りに顔を埋めていて、熱い吐息が服に、肌に、しみ こんでいく。 身体が勝手に動きそうになった。 ライプ会場からの帰り道で思ったときよりもずっと強く、燐を抱きしめたかった。 これまで気持ちを抑え込んで、冷静でいようとしていた反動だろうか。こみ上げてきた衝動 がほとんど反射的に身体を動かそうとしていた。 だが、その爆発みたいな衝動が身体を突き動かそうとするのと同時に、俺の脳裏には「出て って ! 」と叫ぶ燐の顔が浮かんでいた。 「 : : : 、つうつ 燐の背中に回そうとした腕が、燐の両肩へとその行き先を変える。 Éそれでもなお急激に膨らみ続ける燐への想いを抑えつけながら燐の両肩を受け止める。 のど 町か引き絞られて、か細い音が漏れた。 章 第そのまま燐の両肩を受け止めていればよかったのかもしれない。 め ししーし力ないという使命感にも似 だが、燐を抱きしめたい本能的な気持ちと、浮かれるわナこよ ) 、

7. 二度めの夏、二度と会えない君

ぎよっとして身体が強ばった。胸の辺りが甘く痛んだ。 そこにいたのは会長ではなく、昨日俺が河原に置き去りにしたギターを抱えた燐だった。そ の小さく頼りない身体に不釣り合いな央活さで勝ち気に笑うと、 「はいこれ ! 忘れ物だよっ。届けてあげたんだから、あたしと一緒にバンドを・ーー」 燐が全部言い切らないうちに、俺は田 5 い切りドアを閉めようとしたのだが、 「あっ、ちょっと待つぐえっ卩」 すきま 燐がドアの隙間に身体をねじ込んでそれを強引に止めた。 「うわっ、すまんつ」 かなりの勢いで燐を挟み込んでしまったことに面食らい、咄嗟に謝ってドアを緩めてしまっ ち たのが運の尽き。 燐はギターを抱えたまま、さっと玄関に侵入してきた。 がまち 止める間もなく上がり框に座り込み、 て 「バンド組んでくれるまで、ギターは返さないよっ ! 」 え ほおふく 伝 ぎゅっとギターを抱きしめ、「むふー」と威嚇するよ、つに頬を膨らませる。 章 なにも知らない頃だったなら、ただ好ましいとだけ思っていられたはずのその仕草が、いま 第 さいな 万は激しく胸を締め付ける。俺を苛む。いますぐ逃げ出せば、もしくは燐を追い出せばこの苦し ころ こわ とっさ ゆる

8. 二度めの夏、二度と会えない君

からだ 寒いなと思って身体を丸めた。 意識が少しずつはっきりしていき、はっと身体を起こす。 体中雪まみれだった。 真っ暗な河川敷。 降り積もる雪。 吐いた息は白く、手足はかじかんでいた。 「戻って、きた : スマホで日付と時間を確認した。 あまりよく覚えていないが、あのとき河原を転げ落ちてから大して時間は経っていないよう だった。 「・ : : ・夢、だったのか ? 来 一瞬そ、つ疑う。 だが、さっきまでいたはすの病院のソフアの感触がまだ残っている。 の むしば 君 リアルな痛みが胸の辺りでいまだに俺を蝕んでいた。 終俺は間違いなくタイムリープしていて、いまこうして戻ってきたのだった。 燐のいない世界に

9. 二度めの夏、二度と会えない君

意識を取り戻して身体を起こしたとき、すぐ違和感に気づいた。 「 : : : な、んだ ? 冬とは思えない強い西日が俺の顔を照らしていた。河川敷には雪などなく、整備が行き届い ていない場所からは雑草が勢いよくほうほうと生えている。 蒸し暑い空気がじっとりと身体を包んでいて、剥き出しの腕は汗で湿っていた。 俺の手には電池式のミニアンプに繋がれたギターが抱かれていて、いままさに練習をしてい たかのような風体だった。 その穴だらけの曲は、俺と燐が出会ったとき、燐が歌っていたものだった。 歌声が聞こえてくる方向に一歩踏み出した。 、つわっ」 と、俺は雪の降り積もった傾斜に足を滑らせ、土手を激しく転がり落ちた。 強い衝撃が頭に響き、意識がプラックアウトしていく。 薄れていく意識の中に、その懐かしい歌声だけが響いていた。 ◆ からだ つな

10. 二度めの夏、二度と会えない君

ノ 82 たくさんのゴミの奥に、懐中電灯の明かりを受けて鈍く光るものが見えたのだ。 俺の漏らした声を敏感に察知した燐が、ヒミコを連れてびゅんと近づいてくる。 三人で周りのゴミを嶼重にどかしていく。 ろくろ、つ そこにはあの日六郎に見せてもらった、立派な龍の顔が不自然な角度で覗いていた。 「よかった : 自然と声が漏れていた。 ろくろう 記億にあるよりもすっと遅れてしまったが、きっと誤差の範囲だ。これで六郎も仲間に 「やったああああああああっ ! 」 それは完全に不意打ちだった。 過去の記憶にない出来事だったし、なにより彫刻が見つかって気が抜けていた。 燐が、俺に飛びついてきていた。 燐も気が抜けたのか、それは抱きついてくるというよりもしなだれかかってくるようで、俺 は正面からそれを受け止める。 からだ 燐の儚げな細い身体が、それなのに太陽みたいに火照る温かな身体が、薄い夏服を介してそ こにあった。燐の細い両手が背中に回され、ぎゅっとシャツを掴んでいる。 り・ゅ、つ