シュタインボック - みる会図書館


検索対象: 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2
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1. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

246 「ルチルーー」 「退くわ。エリオをお願いー 振り返る。確かに打ちひしがれたエリオを、このままにしてはいけない気がした。 「立ってエリオ」 腕を引くと、エリオもおとなしく従った。 「逃がすと、思うのか ? 」 「ちッ 《シュタインボック》 《レーヴェ》の剣閃を受けながら、それを押し返すように足を進めるエリオットに、ヒース は《シュタインポック》を重ねて放つ。 けんこく ふたつ目の《剣刻》の一撃に、エリオットもとうとう足を止める。 「シュタインポック : : シュタインボック : : : ああ、君は、また僕の前に立ちはだかるのか」 ささや 嘆くような囁きに、ヒースはわずかに注意を向けた。 なんだこいつ、この槍に、なにか執着を持ってる : : : のか ? ヒース以外の《剣刻》所持者と戦っていたというのは、考えられないことではない。 それは気にかかったが、 ヒースはエリオの手を引き、駆けだした。ルチルもカタリーナに肩 なら を貸してそれに倣う。 「ーーどこに逃げたって同じだ。この王都は、今から滅びるんだから

2. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

空に突き上げられた槍を見上げ、エリオットの喉から震える声が絞り出される。 シュタイン、ボック : だが、ヒースの顔から緊張が解かれることはなかった。 外したー 深く抉った。 痛みも与えた。 だが、致命傷ではない。 なら、もう一撃ー 落ち行くエリオットは、地表には届いていない。 ヒースは身を捻ると、再び《シュタインポック》の狙いを定め直す。 つらめ 「ーーー貫けえええええええっ ! 」 呀えた。 流星のように槍が加速し、眼下のエリオットへと穿たれる。 「なっ、めんなああああっー 乙 銀 エリオットが脚甲の蹴りで迎え撃つ。 の フィッシェ シュタインボック 刻 《剣刻》と《剣刻》が衝突する。 剣 おうか 片や凡才のヒト。片や魔王に次ぐ皇禍。 えぐ うが

3. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

「だったら・ーー《シュタインポック》 ノーが延びるそれは、刺突専 手の中に金色の槍が紡ぎ上げられる。スカート状のナックルカヾ 用のランスだった。 けんこく オーメントーカー これが《剣刻》の正体だ。〈占刻使い〉でなくとも、紋章から伝説の武器を紡ぐ。 《剣刻》の一撃ならー 水晶の中心に槍の一撃を穿つ。 《シュタインボック》の一撃までもが、水晶に沈み込んだ。 「そんなっ そんな様子に、エステルが仕方なさそうに銀色の髪をかき上げた。 アウラ 「これ、魔カそのものを吸収分解するみたい。〈占刻〉とか《剣刻》には、ちょっと天敵かも」 のんき 暢気そうな声で一言うエステルは、すでに腕どころから肩まで水晶に飲まれつつあった。彼女 その体ごとズルズルと引き込まれているのだ。 も踏みこたえてはいるのだが、 「でも、それならそれで、やりようはあるんだよね , 女そ、つ一一一一口、つと、エステルはヒースに目を向ける。 銀「ヒース、マナを連れて離れてて ? できれば、上の階まで」 刻 「なに言ってるんだ ! エステルを置いていけるわけないだろう ? 」 声を荒らげるヒースに、エステルはどこか凄みのある笑みを浮かべた。 うが

4. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

その手には、紫の水晶球が握られていた。 : だって ? 紫の、水晶 その水晶球から、なぜかカタリ 1 ナの剣を連想した。 「いいだろう。この僕に、ここまでコケにした君だ。このカの最初の生贄にふさわしい その宣言に応えるように、巨大な水晶が輝く。エステルが閉じ込められた、水晶だ。 あれは、マズィー その腕のひと振りでなにが起こったか。その暴力が、明確に自分へと向けられている。 こうてい ヒースの予想を肯定するように、エリオットは狂気の笑みを浮かべた。 けんこく 「北の姫は、《剣刻》すら打ち砕いたよな ? 「逃げろルチルー 叫んだときには、ヒースは前に飛び出していた。 《シュタインボック》を突き出すが、先ほどの一撃に比べて鈍さが隠せない。 女 乙 銀金色の穂先は、わずかにエリオットに届かなかった。 刻 「消えろ」 放たれたのは、紅い閃光だった。 いけに . ん

5. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

238 守らねばならぬものがある。 取りもどさねばならぬものがある。 己が未熟なため、犠牲になった人がいる。 ならば、今在る全てを、そのために捧げよう。 命を賭して、初めての友と呼んだ男の命を奪い、生きてエステルを救う。 「ほら。うつむいてないで顔を上げろよ。絶望して、どんな顔をしてるのか、見せてく エリオットの勝者の笑みが、にわかに凍りついた。 顔を上げたヒースの瞳に、感情の色はなかった。 冷徹に、精密に、真っ直ぐに、ただ標的を射貫く槍の色だった。 《シュタインボック》」 呼びかけ、地を蹴る。 瞬く間に右手へ金色の光が集束し、金色の槍を紡ぎ上げる。 天へ打ち上げた槍はヒースの体ごと、頭上のエリオットへ突き抜ける。 身を仰け反らせるエリオットは、胸元から喉、顎から頬までをひき裂かれる。 つむ

6. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

つつつつつつつつつつつつ ? むな 声にならないエリオットの絶叫が、虚しく空に響く。 「そのルールを破った罪禍を、あたしは許してあげないよ ? 」 次の瞬間、エリオットの体が地面にめり込んだ。 エステルは、自分はヒトより罪禍の事情を優先すると言った。 魔王としてのエステルは、罪禍に対して、どこまでも厳しかった。 血を吐き、吐いた血が瞬時に結晶化する。 それでもエリオットは健気にエステルの手を逃れ、今一度宙へと跳躍する。 「なら、これは、どうだ ! 」 脚甲に蒼の光が灯る。 ルチルの《レーヴェ》のように、ヒースの《シュタインボック》のように、魔力の衝撃を放 女と、つとしているのだ。 乙 銀「避ければ仲間が消し飛ぶぞ ! 」 刻 エステルの後ろには、ヒースたちがいる。身構えるには、なにもかもが遅かった。 「吹き飛ばせーーー《フィッシェ》 けなげ しよら′げ・き

7. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

214 ルチルの斧の腹を突き出し、盾として閃光の一撃を防ぐ。しかし洞窟の方は無事とはいかな かった。 つ、崩れるわ , 「貫けーー《シュタインボック》 ルチルの声と共に、ヒースは金色の槍を紡いでいた。形になるのを待たずして、そのまま頭 上目がけて撃ち放つ。 ズズンツと、天井の向こうに黄昏の空が開けた。 「よっ そうして開けた天井に、エステルは軽い身のこなしで跳躍する。壁と壁とを蹴って、器用に 地上まで出ると、穴の向こうから手を伸ばす。 「跳んでー ヒースたちにエステルのような跳躍力はない。それでも、彼女の言葉に従って地面を蹴る。 フワリと、自分たちの脚カからは考えられないカで、ヒースとルチルは地上へ放り出されて いた。注意深く確かめれば、体に目に見えない糸のようなものが巻きついているのがわかる。 エステルが扱う、銀竜のワイヤーだった。 「カタリーナ先輩 : つらぬ たそがれ つむ

8. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

れは、飛び散った水晶片を飛礫のように撃ち出す。 腕に、足に、腹に、顔に、破片は容赦なく突き刺さり肉を抉る。 「ーーーそれが、どうしたっ ! 」 こんなちんけな痛みで立ち止まれるほど、ヒ 1 スは平静ではない。 こんなちつばけな痛みで、ルチルは止まらなかった。 ためら 躊躇、つことなくさらに踏み込むヒースに、エリオットが目を見開く。 「度胸だけは・ーー買ってやるよ ! 」 エリオットの手には、まだ紅い剣かある。 けんこく エステルの魔力で生み出された剣だ。《剣刻》に勝るとも劣らぬ威力だろうことは、今さら 確かめるままでもない。 力が劣っても、点に束ねれば貫けるー 《シュタインボック》と紅い剣が衝突する。 突きと斬撃の威力は拮抗するが、そこで渦巻く余波は平等に跳ね返ってくる。 「むうつ」 エリオットが気圧される。 だが、ヒースの方は気圧されるどころではなかった。 「が、あっ : つぶて つらぬ

9. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

「答えろよ、エリオ ! 」 ヒースの怒声に、エリオは少年は虫でも見るような眼差しで一言う。 「ヒト風情が、気安く僕の名前を呼ぶな」 あえ りっせん ひょうへん 豹変した少年に慄然としていると、カタリ 1 ナが小さく喘いだ。 「気をつけて、彼、人間じゃ、ない : 少年は、感心したようにロ笛を吹く。 「妻いな。ヒトのくせにもうロが利けるほど回復したのかい 残酷な笑みを浮かべて、少年はこ、つつけ足した。 「気の弱いやつなら、廃人になってもおかしくなかったんだけどな ? 」 ギリッと、ルチルが歯を食いしばった。 「どうして、カタリーナ先輩を狙ったの」 銀「その方が面白そうだったからだよ。強いて一言うなら、美味しそうだったから、かな ? 」 刻 「なんですって ? 」 「ヒトとはいえ、賢者の末裔になるとそれなりに味もいいんだよ。彼女、貴族の中でもかなり シュタインボック 第四章山羊は目覚め、双魚は別たれ海に沈む まっえい フィッシェ し

10. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 2

敵から得物を奪った最高の好機。 右足を下げ、筋肉が断裂するほどに上体を引き込み、渾身のひと突きを体ごと叩き込む。 エリオットは両手を交差させ、素手で槍を受ける。 えぐ 踏みしめた足で地面が抉れ、数セルカに渡ってエリオットの体が押し出される。 「そんな、ものかー 《シュタインボック》は、確かにエリオットの腕を抉った。 つらぬ 抉ったが、 貫いてはいなかった。 常人の目にはほば同時に見えただろう、神速の三段突き。それをエリオットは受けきった。 「その槍じゃ、僕には届かないんだよー それはエリオットのカではない。 エステルの力だ。 けんこく おうか 魔王級皇禍ふたり分の魔力に守られたエリオットには、《剣刻》のカですら届かない いや、届いたー 槍を引き戻し、ヒースは飽くことなく突きを穿つ。 剣を作る余裕なんか、与えないー エリオットはそれをも腕で防ぐが、紅い膜がまたひとっ欠けて肉が穿たれる。 うが