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検索対象: 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3
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1. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

それからまたツンと胸を張る。 ふし 「英雄譚が悪いとは言わないけれど、人前で聴かせるなら節くらいつけるものよ」 ・つー・そ、そ、つか : 。気づかなかった。詩なんて歌うのは、ルチルみたいな王族だけ かと思ったけど、そうだな。門番ならそれくらいできないと駄目だよな ! 」 「それ、門番が関係あることなの ? 」 ため息を漏らして、シルヴィアはヒースを押しやる。 「手本を見せてあげるわ」 人集りの中心に立っと、シルヴィアは目を閉じ、胸に手を当てた。 『ーーーわたしが拾ったのは魔法の釘ーー』 『ーー土を打っては庭を造り、宙に投げては空を開きーーー』 うやま 『ーー褒めては敬われ、幸福の釘を拾ったーー』 それは、民謡らしかった。 せんりつつむ 鐘の音のような、静かで力強く、それでいて美しい旋律が紡がれる。 『ーーわたしが出会ったのは黒い乙女ーーー』

2. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

すでに、生きているのが自分たち二人だけであることくらい。 それを認めたくないがゆえに、その認めがたい事実を侍女に言わせた。 主人として、失格だわ。 テルヌーラは侍女だが、そうなる前は少女の乳母だった。彼女の前では、少女もただの子供 に戻ってしまうのかもしれない そこは、、つっそうとした森の中だった。大陸大平原を横断するように伸びる大街道ーーーその 西の終着地が、この森なのだ。 木々の合間から降り注ぐのは、明かりと呼ぶにはあまりに頼りない月の光だけだ。 ほうじよう 森を越えると豊かな緑と海、そしてそれとは対照的な大砂漠と大渓谷という、豊穣と荒廃に 囲まれた最果ての大国ーーエストレリヤ王国が広がっている。 オーメン その特異な環境から、この国は独自の文化と技術を生み出しており、特に〈占刻〉と呼ばれ る魔術に関しては、他国の追従を圧倒的に引き離している。 えいち ぼうだい 貿易の窓でもあり、美しい国土を持ち、魔術の発展がもたらした膨大な叡智を収めた大図書 あまた 館が存在し、数多の形容詞を用いてもこの国を語り尽くすことは難しい まく、ら一 ) とば だが、エストレリヤの名が呼ばれるときは、必ずこんな枕詞が置かれる。 ーーー騎士の国ーーー じじよ

3. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

うなす ヒースの感想を見抜いたように、ルチルは頷く。 「たったの、七つよ。そして、その半数が今ここにある じゅんぐ そう言って自分の左手を示すと、順繰りにヒース、そしてその隣にいる銀髪の少女ーーーエス あお テル。最後に、ルチルの隣に腰をかけた碧い髪の少女に目を向ける。 碧い髪の少女は、エリナだ。 ヒースが継承した黄金槍《シュタインポック》。エステルの背に現れる翼《ュングフラウ》。 ルチルが持つ大剣《レーヴェ》。そして、エリナに残された脚甲の《フィッシェ》。 《フィッシェ》は、元々彼女の兄エリオットが所持していたものだ。彼の没後は、彼が蘇生 した妹のエリナに継承されていた。 ぎよしゃ この場にいて、《剣刻》所持者でないのは、馬車の御者と、ヒースの隣に座る妹ーーーマナく らいなのだ。 エリナはキュッと唇を噛みしめると、小さく頷く。 「ここに四つ。叔父上ーーー国王陛下がひとつ。残りふたつは、名前は明かせないけれど他の騎 士が所持しているわ , 乙 銀名前が明かせないならば騎士であることも伏せるべきだ。ルチルがそうしなかったのは、ふ 鏃たりのうちひとりがヒースたちの知人で、もうひとりが名の知れた騎士ーーーっまり円卓の騎士 の一員ーーーであり、半ば公然の秘密だからだった。

4. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

こいつは、ここで仕留めなきゃいけないー 予備動作もなく、十歩の距離を一瞬で詰めた一撃に、クラウンも大きく目を見開く。 ハチンツと、赤い破片が宙に散った。 ーーー皇禍の結界 : : : 逸らされた。 クラウンの周囲には、皇禍の赤い魔力で描かれたいくつもの魔方陣が浮かんでいた。ヒース が身構えていたように、相手が構えているのは当然のことだ。 ヒースはかって、エリオットが使ったこれと同じ結界を破っているが、クラウンはそれを以 て槍の軌道を逸らしてきた。 手強い。 一手で、痛感した。 絶大な力を誇ったエリオットにヒースが勝利できたのは、彼が手に入れたばかりの力に振り 回されていたからーーー技量の上で付け入る隙があったからだ。 めたくはないが、 クラウンは魔力の扱いに関してエリオットを上回っている。 女 ヒースの技を流したということは、自分と同等以上の技量を持っているということだ。 乙 銀魔王級皇禍の力が、高い技量で振るわれる。これはなかなかに絶望的な相手だと言えた。 『これはこれは、なかなか腕をお上げになったらしい』 「 : : : なら、おとなしくやられてくれないかな。その体をお前に使われるのは、我ならない おうか

5. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

けんこく 「ーーー現在、所在が明らかな《剣刻》は、七つよ」 馬車にはヒースを含めて五人の男女が乗っている。向かい合って腰掛けてなお余裕のある造 りで、揺れも少なく上等な馬車だ。 外からはようやく昇った朝日が、あちこちに長い影を作っている。 馬車の揺れに緑の黒髪をなびかせ、そう言ったのはヒースの正面に腰をかけるルチルだ。 がんぼう りん すみれいろそうぼう 凛とした菫色の双眸に、美しく整った顔貌。エストレリヤ学園の制服の上から赤い甲冑をま とい、肩や胸部を守っている。 七つ : : : そんなものなのか。 その数を聞いて、ヒースは少ないと感じた。 えんたく 《剣刻》は全部で十二個存在する。最初に現れたとき、それらは全て円卓の騎士ーー騎士の 国エストレリヤの中でも最高位の十二人ーーーたちの手に現れており、エストレリヤ王によって 管理されていたのだ。 それが半年ほど前の事件で、失われた。 失われた《剣刻》の数だけ、円卓の騎士も命を落としたということだ。 第一章金牛は災厄を引いて シュティーア

6. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

わずかに思案するような沈黙を挟んで、ルチルはこう言った。 けんこく 「ーー王城へ向かうーーー《剣刻》の封印も兼ねて、最後の円卓の騎士こ会、 えんたく

7. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

205 剣刻の銀乙女 3 「シルヴィは、クラウンに狙われてるのかもしれない 結局、詳しく聞き出すことはできなかったが、ヒースは確信していた。 巻き込まれただけという可能性も考えられるが、少なくとも直接姿を見るほどには深く関 わっている。 ルチルが、腰の剣に手をかけた。 「ーーーそれを、先に言いなさい」 そのまま外に飛び出そうとしたときだった。 「ーーあなた方、これはなんのつもり ? 」 聞こえたのは、シルヴィアの声だった。 「これはなんの騒ぎかしら ? 」 ルチルが問いただすと、そこにはシルヴィアと数名の兵士たちがいがみ合っていた。

8. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

266 『どうぞ』 クラウンは両腕を広げる。 「キミのそれ、全部あたしのだからーーー返せ むくろ エリオットの体に残る魔力も、決着がついていない彼の骸も、全て自分のものだとエステル は言っているのだ。 今のエステルに、魔王としての魔力は残っていない ただの人間と、なんら変わらぬ娘なのだ。 せんりつ それでも、ヒースは戦慄した。 たわむ 『ひひっ、お戯れを ! 』 クラウンの両手に魔力の球体が生まれる。 ヒースの槍を造作もなく止めたそれだ。 攻撃に転じると、どうなるんだ : 対して、エステルは無防備に突っ込むだけだった。 魔力の球体に接触したと思ったときだった。

9. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

ヒースが浮気しちゃうのも無理はないかなあ : 彼に対して独占欲を持っていないわけではないが、エステルはルチルも欲しいのだ。 だから、ふたりが懇意にすることは自分にとって問題ではない。むしろ、好ましいことだと 考えている。 しい力なワ・ でも、ちょっとくらい見返りをもらっても、 心配そうな顔をするルチルに気づかれぬよう、そっと両手を伸ばした。 「熱はないようねーーーひやあっ ? ルチルが、胸を隠して飛び退いた。エステルが、おもむろにその乳房を下からもみ上げたか らだ。 「な、な、な : 顔を真っ赤にして、言葉も出ない様子のルチルに、エステルは至極真面目な顔を向けた。 「ルチル、もしかして、また大きくなった ? 」 「し、知らないわよ ! そんなこと」 「でも、制服新調したよね ? 」 エステルはルチルが普段の制服や甲冑を、窮屈そうにしていることを見抜いていた。

10. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

226 声だけでなく、足も震えていた。 「 : : : 助けて」 消え入るような声で、シルヴィアはようやくそう言った。 「助けてヒース : : 。独りじゃ、なにもできないの。テルヌーラをーーーおかあさまを助けて」 震える背中を、ヒースはそっと抱き締めてやった。 「心配するな。俺たちが、必ず助けてみせる」 それから、少し気ますそうにこ、つつけ足した。 「 : : : でも、その、先に服を着てくれると、嬉しいかな」 肌着の肩紐もズレ落ち、存外に大きさのある胸の谷間がしつかりと見えてしまっている。 ようやく自分が半裸であることを思い出したシルヴィアが、悲鳴を上げて飛び退いた。 やかて、シルヴィアはポツリ、ポツリと語りはじめた。 : テルヌーラは、わたくしの乳母だったの」 ぞんがい