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検索対象: 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3
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1. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

ら身を守る意味もあるのだ。 だから、エステルは手品を使ってまで止めてくれたのだ。 悪かったわ。それと、ありがとう」 「その : 手を振り払われたエステルは、なんでもなさそうに笑った。 「あっははー、わかってくれたなら笑ってくれると嬉しいかな ? シルヴィアは首を横に振った。 「でも、やつばりわからないわ。ルチル、あなたには彼らを正面から相手取っても倒せるだけ の力があるのでしよう ? 最初から、それを示して従わせれば良かったじゃない」 ルチルは首を横に振る。 「それは違うわ。最初からカで押さえつけたら、隙を見せた瞬間に後ろから刺される。彼らの 不満と欲求を、一度はなんらかの形で吐き出させる必要があったのよ」 エリナも言ったことだが、今のヒースたちにとって一番厄介なのは、刻魔と交戦中に後ろか ら狙われることだ。 力で従わせてしまったら、その力が揺らいだ瞬間に襲われる。ましてや、自分たちはこれか 乙 銀ら刻魔という人外の怪物と戦うのだ。味方に隙を見せないことなど不可能だ。 刻 「で、でも、あなたの力があったら、兵の力などなくても : 剣 「そうね。ただ刻魔を討つだけならば、それも可能かもしれない。でも : : : あれは斬れば斬っ

2. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

眼下の刻魔が、巨大な目玉を黒竜に向けていた。 家屋どころか、ちょっとした広場ほどもある巨大な塊ーーその体の半分を占めるほどの眼球 だ。あまりに大きすぎる眼球に、もはや体の方が取って付けたような姿だ。 球体状の体からは虫のような節くれ立った脚が四本生えているが、巨体を支えるには奇妙な ふきんこう ほど細い。その不均衡な様子が、奇怪な姿をより一層不気味に見せている。 体表は灰のような粉に覆われ、身じろぎをするたびにパラバラと剥離して、そこからまた異 じゅうこくま 形の分体ーーー従刻魔を生み落とす。 不快感と共に吐き気さえ込み上げる醜悪な化け物と、視線が合ってしまった。 たた 黒竜に気づいた刻魔は、周囲に広げていた脚や触手を引きよせ、体を畳むように縮ませてい 「なにを、するつもり : 乙 つぶや 銀呟いたのはシルヴィアだが、 その答えは自分でも予想できていたのだろう。大きく目を見開 刻 き、ヒッと息を呑む。 剣 まさか、跳ぶつもりか :

3. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

ると、気を失わせる程度はできても破壊には至らない。だから、今も頭部に限定してなんとか 破壊したのだ。 ′ ) くま それが刻魔本体の大きさになると、足止め程度の威力もあるかどうか。 けんこく 使い勝手の悪い能力ではあるが、魔力の衝撃に乗せて放てば十二個の《剣刻》の中でも最強 を誇る威力となる。 じゅうこくま 大地に突き立てられた《レーヴェ》は、次々と従刻魔を飲み込んでいく。 さすがに危険を感じたのか、従刻魔が一斉にルチルへと向けられるが えんたく 「戦の時間よ。共に進めーー〈円卓の騎士〉たちー 宙から、十一本の刃が出現する。 じゅうおうむじん ルチルが手放した〈白銀の乙女〉も含め、十二本揃った騎士たちは、縦横無尽に飛び交い従 刻魔の群れを造作もなく斬り裂いていく。 ヒースが一騎打ちで無類の強さを見せるように、多対一でこそルチルはその力を発揮する。 従刻魔風情では、ルチルの元までたどり着くこともできなかった。 『ーーーギュエ工工工工工工工工工工工工工ェッ工工ェッ ! 』

4. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

172 シルヴィアの目には、 ) しつの間にか涙が浮かんでいた。 それから、顔を覆ってくずおれてしまう。 「、つ・、つ、つ、つ、つ、つ、つ、つ、つ、つ、つ、つ、つ . シルヴィアは、泣いていた。 しゅうたい 醜態もかまわず、声を上げて泣き出していた。 エステルでも、これを笑わせることはできなかった。 十数分して、ようやく落ち着くとシルヴィアはハンカチで顔を拭って立ち上がった。 「 : : : 情けない、姿を見せたわね」 「森で、なにかあったのか ? 」 なにか言いたげに口を開きはしたが、 やはり言葉にはできなかったらしい 結局、ロをつぐんでうつむいてしまう。 「 : : : わたくしのことより、今は彼女の手当てを急ぐべきではないの ? 確かに、エステルは手品を見せて元気そうな素振りを見せているが、背中の傷はまるで塞がっ ていない。顔色も、まだ青かった。 「わかった。話したくないなら、無理には訊かない。だけど、助けが必要ならちゃんとそう言っ ふさ

5. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

296 それが彼女が次期魔王だという意味だと知る由もないシルヴィアは、つんと胸を張った。 「ならば、あなたのその自信を頼らせてもらうわ」 ハルベルト 槍斧を握る手に、キュッと力を込める。 「 : : : わたくしは、独りじゃなにもできない。でも、それはなにもしなくて良いという意味で はない。誰かに頼ってでも、すがってでも、わたくしは前に進んでみせる」 そんなシルヴィアの手に、ヒースも手を重ねた。 エステルが制御しているおかげか、もう焼かれることはなかった。 「なら、俺も手伝うよ。助けるんだろう ? テルヌーラさんを 三人で握ったそれは、当然ながら技と呼べるような鋭い一撃を繰り出すことはできない。 できることは、ただカ任せに前に突き出すことだけだ。 それでも、ヒースたちはそれを選んだ。 「帰ってきてテルヌーラ。怒っているなら怒っているとわたくしを叱って。わたくしを、独り にしないでーーーおかあさま ! 」 そして、真っ白に染まった槍斧は、刻魔を貫いた。 ハルベルト

6. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

「行かせると、思うなよ ! 」 叫んで、ヒースは右手の槍を頭上に向けて撃ち出した。 その隙をついてさらに掻いくぐろうとする従刻魔を、左の槍が出迎える。 右手と左手、ふたつの腕で支えた槍は、それまでとは鋭さの次元が違った。 けいっし かわ ヒースの一撃を躱せるか、あるいは堪えるつもりだったのだろう従刻魔は、頭部から頚椎ま で貫かれて即座に死滅する。 両手を使えば、一撃のあとに隙など生じさせることはない。 うつかりと踏み込んでしまった後続も、すでに突きの姿勢を取っていたヒースの一撃を受け て灰に戻っていく。 だが、取り逃がした一体を止める手はなにもなく、従刻魔は村の田畑へと飛び込む。 グシャ その、従刻魔の頭部が、無残に四散した。 乙 銀 行く手を阻むように落ちてきたのは、ヒースが放った金の槍だった。 の 「戻れーー《シュタインポック》」 けんこく 新 ヒースが呼びかけると、《剣刻》の槍は刻印に引きよせられるようにヒースの右手へと収まっ こら

7. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

思い出させた。 ヒースの行動は、どこかエステルの予想しないものだった。 おもしろいヒトだな そう思って眺めているうちに、彼はいろんな顔を見せてくれた。 こつけい せいかん 笑いを取っているとしか思えない滑稽な顔。かと思えば怒った顔はなかなか精悍で、そのく せ笑った顔は誰よりも可愛かった。 そんなヒースを見ていたい。 そんなことより、君はもっとおもしろいことをしてくれるんだろうー・ー そう言ったのはヒースだ。 たとい、つのこ、 ) ししつの間にかヒースがおもしろいことをしてくれると、期待している自分が そこにいた。 だから、エステルは見たいのだ。 ヒースが、次はどんな奇跡を見せてくれるのか。 エステルー 待っていたその声に振り返ると、ヒースがそこにいた。

8. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

238 シルヴィアは「ああ。と声を上げる。 「あなた、前もそう言っていたわね。 : わたくしに心当たりがあるのは、これくらいなのだ けど」 差し出されたのは、一冊の分厚い本だった。 「これは ? 」 「おかあさま わたくしの生みの親の、形見よ。プレギエーラ神聖国を設立した聖者の けんこく 伝記なの。魔神や《剣刻》などという名前は出てこないのだけど : ためら そこで言葉を切ると、躊躇うようにこう言った。 「竜と、それを従える少女が登場していたわ」 エステル : クラウンは一言っていた。 ほうむ 魔神を葬ったのは、賢者でもなく円卓の騎士でもなく彼女の血族だからでございます だから、エステルを狙い続けていたのだと。 「それ、見せてもらっていいか ? 」 「ええ : えんたく かたみ

9. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

198 さいカ 「ううん。刻魔でも、罪禍でもないんだって」 「それって、まさか : : : 」 「 : : : 、つん。ヒト同士で」 ヒースは立ち上がった。 「まさか ! 」 けんこく 「あ、違うよ ? ルチル先輩たちは、狙われてない。《剣刻》が狙われたわけじゃなかったみ たいなの」 「 : : : ? と、つい、つことだ ? この兵営に来た瞬間から、ヒースたちは兵たちに狙われていた。 ルチルが体を張ってくれたことで一応の終息は見せたが、その続きというわけではないのだ 「つ、つ , か 「ドートレスさんも含めて、みんなルチル先輩には従ってくれたんだけど、それとは別に今度 は兵士の人が狙われて」 「なんで兵士が ? 、。ルチル先輩や、指揮官のドートレスさんが狙われるんならわかるんだけど : 「わからなし

10. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

そぶ ルチルはわすかに迷う素振りを見せたが、やがて危険は少ないと判断したのだろう。小さく うなず 頷いた。 「わかったわ。あまり長居をするわけによ、ゝ ( し力ないけれど、湯を貸してもらうわ。シルヴィア の護衛にもなるし」 「あ、ち、ちょっと、わたくしは、汚れを流すだけのつもりよ ? そこまで迷惑をかけるつも りはないわ 「こんな時勢でも、異国の大使をもてなす程度の余裕はあるつもりよ。それにあそこまで言わ れて断るのは、彼らに対しても無礼だわ。だからあなたは気にしなくていいのよ 「そ、そうではなくて : ・・ : 」 シルヴィアは慌てた様子だったが、ルチルはそんな彼女の手を引いて宿へと入っていった。 エステル、どうかしたの ? ルチルに声をかけられ、エステルはハッとした。 シャツを脱ぎかけたまま、ばうっとしていたのだ。ルチルはすでに衣類を脱ぎ終わり、タオ ルで体を隠している。