魔術 - みる会図書館


検索対象: 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3
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1. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

すでに、生きているのが自分たち二人だけであることくらい。 それを認めたくないがゆえに、その認めがたい事実を侍女に言わせた。 主人として、失格だわ。 テルヌーラは侍女だが、そうなる前は少女の乳母だった。彼女の前では、少女もただの子供 に戻ってしまうのかもしれない そこは、、つっそうとした森の中だった。大陸大平原を横断するように伸びる大街道ーーーその 西の終着地が、この森なのだ。 木々の合間から降り注ぐのは、明かりと呼ぶにはあまりに頼りない月の光だけだ。 ほうじよう 森を越えると豊かな緑と海、そしてそれとは対照的な大砂漠と大渓谷という、豊穣と荒廃に 囲まれた最果ての大国ーーエストレリヤ王国が広がっている。 オーメン その特異な環境から、この国は独自の文化と技術を生み出しており、特に〈占刻〉と呼ばれ る魔術に関しては、他国の追従を圧倒的に引き離している。 えいち ぼうだい 貿易の窓でもあり、美しい国土を持ち、魔術の発展がもたらした膨大な叡智を収めた大図書 あまた 館が存在し、数多の形容詞を用いてもこの国を語り尽くすことは難しい まく、ら一 ) とば だが、エストレリヤの名が呼ばれるときは、必ずこんな枕詞が置かれる。 ーーー騎士の国ーーー じじよ

2. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

294 こくま このままだと、刻魔以前に俺たちが全滅する。 ヒースが青ざめていると、雷を掻いくぐり、槍斧に伸びる手があった。 「エステル ? 」 「ーーーちょっと借りるよ ? 」 ハルベルト エステルは、苦もなく槍斧を拾い上げる。 アウラ いや、違うな。正反対の 「ふうん : : : ? 変わった魔術だね。これ、魔力の流れを止めて : くさび そうさい 波長の魔力を流して相殺してるんだ : 。あたしのが〈門〉なら、こっちはさしずめ〈楔〉っ てところかな ? つ、危ないエステルー しげしげと見つめるエステルに、刻魔の脚のひとつが襲いかかる。 ハルベルト エステルは片目を細めると、その脚に向かって槍斧を振り下ろす。槍斧の扱いは初めてなの か、腰も入ってなく、鋭いとはいえない一撃だった。 その一撃が、柱のような脚を粉砕した。 「ーー理屈がわかれば、破り方もわかる」 放電が、紅く染まっていた。罪禍の紅だ。 銀色の髪が紅蓮に染まる。全身に纏わりつく紅い光は、極小の魔方陣だ。 魔力が、戻った ? さいか ハルベルト ハルベルト

3. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

ただ、無防備な寝顔を間近で見つめ続けることになったのだ。目を覚ましてくれるまで、な かなか落ち着かない状況だった。 「まあ、いつもは逆だからねー 「ヒースは本当にエッチだからね」 えんざい 「冤罪だと思、つよ : : : 」 普段はエステルを恥ずかしい目に遭わせたヒースが殴り倒され、彼女の膝枕に介抱されるこ とがほとんどお」。 とはいえ、それは彼女の魔術の副作用なのだから、全面的にヒースが悪いと言われても困っ てしま、つ。 苦笑いを浮かべて、ヒースはふと真面目な顔をした。 「ねえ、エステル」 「なんだい ? 」 「魔力、戻ってないんだな」 ピクリと、華奢な肩が震えた。 ・・、つん」 きやしゃ

4. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

盟 《シュッツェ》 譲渡したのだ。 それでもシルヴィアはやんわりと笑った。 「確かに、わたくしは余所者かもしれないけれど、ここだからこそできることもあると思う」 そう言って、シルヴィアは自分の手へ視線を落とす。 くさび 「ーー〈楔〉ーーーあのときの、雷かい ? 」 刻魔を退け、エステルの魔力をも封じた白い雷だ。 エステルの方は、自力で魔術の構造を解析して破ることができた。全盛期にはほど遠いが、 それでも今のエリナと同等程度には回復したらしい 回復しきらないのは、やつばり奪われた分なんだな : エリオットに奪われた魔力のうち、半分はエリナの蘇生に消費され、残りはクラウンに持ち 逃げされた。そう考えると、戻ってきたのはせいぜい三分の一程度なのだろう。 おうか だが、三分の一とはいえ、皇禍の中でも圧倒的な力のはずだ。それを一時だが完全に封じ込 めてしまったのが、シルヴィアの雷だ。 その力を調べると言って、テルヌーラは去っていったのだ。 けんこく テルヌーラが所持していた《剣刻》は、今はルチルの腕に宿っている。

5. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

234 けんこく 《剣刻》以外に、まだ狙われる理由があるのか ? ヒースの疑問に気づくことなく、シルヴィアは語り続ける。 「さすがに、わたくしたちもプレギエーラに引き返そうと思ったのだけれど、今度はなにかの さえぎ 魔術に遮られて国境を越えられなくなって : : : 」 。それは《剣刻》を国外へ持ち出させないための魔術なんだ。エステルも、それで 「ああ : 帰れなくなって学園に来たようなものだし」 「エストレリヤの魔術師にも破れないほどのものなの ? 」 オーメン 「無理だと思うよ。《剣刻》の機能を利用したものらしいから、〈占刻〉のカじゃ届かない」 現在《剣刻》には、一定以上王都を離れると引き戻される魔術がかけられている。散り散り になった《剣刻》の分散を閉じ込めるための措置だ。封印に組み込まれた〈門〉の機能を使っ たもので、エステルでも破るのが難しい 魔術がもっとも発展しているのは、エストレリヤだという話だ。異国の魔術師ではこれを破 ることはできないだろ、つ。 「 : : : そう。では、わたくしはこのあとの身の振りも考えないといけないようね 「なんなら、学園に来るかい ? ルチルならたぶん、悪いようにはしないと思う」 シルヴィアは少し意外そ、つな顔をした。 ゝことがあるの ? 」 「学園だとなにかいし

6. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

149 剣刻の銀乙女 3 ちゃったらこの様だし : : : 」 背中の傷は軽いものではない。 応急処置はしたものの、それはエステルの命を取り留めるためのものだ。動けるようになる だけの治療をするには、ルチルのいる兵営に戻って魔術による手当てが必要だ。 どうけし 「あたしは、道化師でいられればそれで良かったのに、でも今道化に走るのって、ただ逃げて ることになるんじゃないかって : : : 」 「そんなこと・ーーー」 「ーーそうなんだよ。さっきだって全然面白くない芸で、観客を怒らせちゃったもん」 毒入り紅茶を飲もうとしたシルヴィアを止めるために、エステルは手品でそれを取りあげた が、失敗した。 気に、してたんだ : シルヴィアはシルヴィアで、視察団の部下たちを失って気が立っていたのだろう。それでど れほど面白い芸を見せたとしても、笑わせることは難しい だが、道化師としてのエステルは、そんな理由では納得できない。 こくまじゅうりん 自分の命を狙う敵でさえも笑わせ、刻魔が蹂躙する戦場にすら歓喜を振り撒くのがエステル なのだ。それが、彼女の道化師の信念なのだ。 「あたし、どうなっちゃうのかな : 。もしも、このまま魔力が戻らなかったら : アウラ

7. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

ホッと胸をなで下ろして、エリナは眉をひそめる。 ホクたち皇禍でもなのかい ? 」 「その化け物に飲まれるっていうのは、 : さいカ エリナは皇禍と呼ばれるカ在る罪禍だ。ヒトとはカの桁が違う。 「んー、体に宿してるわけだし、あたしたちでもちょっと逃れられないんじゃないかなー えんたく エステルは生徒会室の円卓にぐてっと身を投げ出し、指先でクルリと小さな円を描く。 「あたしが魔力の円環ーー〈門〉で、場所と場所を繋ぐのは知ってるでしょ ? ちょ、つやく 空間跳躍ーーそれがエステルが扱う、彼女だけの魔術だ。 どうやら皇禍の中でもエステルの血族にしか継承されていないらしく、エリナは存在すら知 らなかったという話だ。 けんこく 「どうもね、《剣刻》って、あたしの先祖が作った、〈門〉で、刻印はあたしで言うところの円 環に当たるみたいなんだよね。だから、ここじゃないどこか別の場所に繋がってる」 「そ、そんな話、初めて聞いたよっ ? 」 さすがに青ざめたエリナに、ルチルが申し訳なさそうな声を漏らす。 「ごめんなさい。おいそれと口にできる話ではなかったものだから : 「いや : ・・ : それはそうだと思う。・ : ・ : 詳しく、聞かせてくれるかい ? 」 「ええー ? 面倒臭いなあ : ・・ : 」 : どうやら、それがここでやる気もなく伸びている理由らしい。 おうか

8. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

「シルヴィ : いかけは、最後までロに出すことはできなかった。 ハルベルト 槍斧か、真っ白に輝いていた。 「な、なに、これ : : : ? 」 シルヴィア自身も困惑の声を漏らすが、槍斧の光は電光となって周囲を駆け巡る。 「エリナ、避けてー っ ? エステルの声に、エリナが宙へ飛び退く。 からと 雷のひと枝がエリナを搦め捕ろうとしたのだ。 エリナは間一髪それを避けるが、電光の枝は再生を続ける刻魔をも呑み込んだ。 じゅ・つこくま 従刻魔が、瞬時に消失する。それでも雷の枝は止まらず、刻魔本体へも登っていく。 けんこく 《剣刻》で砕かれても悲鳴を上げなかった刻魔が、絶叫を上げた。 なんだこれ : 。プレギエーラの魔術なのか ? だが、もっとも魔術の発展した国はエストレリヤだと一言われている。そのエストレリヤでも 刻魔に対してこれほど効果的な魔術は存在しない むしろ、エステルの《ュングフラウ》に近い : : : ? だが、それほどの力がヒースたちにだけ都合よく働いてくれるはずもなかった。 ハルベルト

9. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

エステルが砕けた《剣刻》を再封印できたのも、それが理由だ。 ほ、つむ クラウンも、魔神を葬ったのはエステルの血族だって言ってた。 ただ、それでも完全には滅ほしきれなかったとも。 「エストレリヤの歴史もあとから創作されたものと考えた方が良さそうだしね : : と、言われていた。だが歴 エストレリヤに伝わる魔神の伝説は、史実に基づいた史記だ : 史というものは必ずしも真実のみが記されているわけではない。 問題なのは、どこまで事実で、どこまでが創作なのか確かめる術がない点だ。王族であり円 卓の騎士でもあるという立場のルチルでさえ、突き止められなかった。 おうか エステルたち皇禍側には、その伝承さえ伝わっていないのだ。無理もない 「そのクなにかクっていうのは : エリナが恐る恐る問いかけると、エステルはなんでもなさそうに答える。 「そりゃあ、エストレリヤでいうところの、魔神そのものなんじゃないかな ? 」 というか、その魔神というのはボクやエステルでも倒せ 「どっ、どうしてそんなものが : 女ないものなのかい ? 乙 銀確かに、この世界でもっとも力のある種族は、竜を別格とすれば罪禍だ。そこで竜を別格と するのは、それが神話の時代から生きるク神の一種だという節もあるからなのだが。 剣 その中で、次期魔王筆頭がエステルであり、エリナにしても支配地の違いはあれ魔王候補の さ、カ えん

10. 剣刻の銀乙女(ユングフラウ) 3

266 『どうぞ』 クラウンは両腕を広げる。 「キミのそれ、全部あたしのだからーーー返せ むくろ エリオットの体に残る魔力も、決着がついていない彼の骸も、全て自分のものだとエステル は言っているのだ。 今のエステルに、魔王としての魔力は残っていない ただの人間と、なんら変わらぬ娘なのだ。 せんりつ それでも、ヒースは戦慄した。 たわむ 『ひひっ、お戯れを ! 』 クラウンの両手に魔力の球体が生まれる。 ヒースの槍を造作もなく止めたそれだ。 攻撃に転じると、どうなるんだ : 対して、エステルは無防備に突っ込むだけだった。 魔力の球体に接触したと思ったときだった。