「この「物語、は、俺が歩き出す物語 : : : かも知れない」 . 「急になに言ってるの ? っーか今歩いてるよ」 「いやそうあることを願っている。どこへ歩き出すかは 俺にも分からないけれど」 , 「おーい ? また妄想に邁進中 ? 」 「たた一つ確かなことは、多摩湖さんと一緒に歩いていくということたけた」 「 : : : 妄想中の方が台詞は格好いいかも知れませんなあ」 「よし、ナレーション終わり。さてそろそろ多摩湖さんとラブらないと」 「えー、街中てー ? ハカップルみたいしゃんい

2 「な、なんか知ってみたかったの ! 黄鶏君の匂いってこういうのからもするのかなって ! 」 「ど、どうてしたか ! 」 びみよう 「ちょっと微妙かなー 「それはすいません ! ていうか俺の匂いとか知ってるのかよ ! 」 「知らない方がど - フかしているー たまこ じゃあ多摩湖さんの匂いも嗅がせてよ ! 」 し」もー そ 俺と多摩湖さんは机を回りこみ、寄り添い、首筋に顔を近づける。一見、抱きあうような姿 む たが 勢だけど実際に行われていることは、五感の一つを剥きだしにして、互いの存在を確かめあう がいねん と、つげ・んきよう ちょうせん という概念への挑戦「くんくんーわー色々たまんねー 桃源郷かよ多摩湖さんは ! 「くん いっしょ くんくんくん。あ、黄鶏君のシャッと、やつばり匂いが一緒 : : : 気持ち、ふわふわするね」 いやあの、誤解しないてくれ。 かお 俺たちこれてもバカップルじゃないから。ああても、多摩湖さんは良い匂いだ。むしろ香り。 うるお かざ 部屋に飾るならハープ類とかより、多摩湖さんの方がよっぽど部屋を潤すよ。 「さて、残り一一つは ? 」 一一人て相手を嗅ぎ回しながら、次の秘密の口外を求める。多摩湖さんは鼻てはなく口を「ん っ ぐと詰まらせながらも、離れずにそのまま、半径三十センチ以内の距離を維持する。 はな か かしわ にお きより だ

たんじようび ておく理由もないし。誕生日の引っかけも少し考えたけど大丈夫、多摩湖さんは五月生ま れ。そしてこの卓球をした日はそれが過ぎてからのことだ。 さび 机の右端に十一一歳の写真を置く。多摩湖さんが手もとから一枚離れてしまったことが寂しい と感じるのは健全と末期どちらだろう。いやまあ清純派だろうな、うん。 こうたん ちょうはっ のぞ いちべっ 置かれた写真を覗きこむような仕草て一暼して、多摩湖さんがロ端を曲げる。目も挑発的 たず に笑って、ロても吹きそうな調子だった。俺はそんな多摩湖さんに解答の合否を尋ねる。 「これが十一一歳の多摩湖さん。どうてす ? 」 「正解」 よゅう あご 多摩湖さんが余裕に満ちた態度て顎を引き、写真のハ しようこ 付が正解の証拠となるわけだ。そして多摩湖さんに俺のハ きじゅっ なこと言ってる奇術師がいた気もするな。 それはともかく俺が最初にこの写真を出すのは予想済みのようだ。 すべ 会った後の写真はこれ一つだからなあ。残りは全て未体験だ てがた ん 「ポーカーのときと一緒て君は手堅いね」 な 多摩湖さんが自分の十一一歳の写真を手のひらて撫てながら指摘してくる。 しんちょう 多 「今回は写真がかかってますから、余計に慎重なをてす」 「そんな堂々と言われると、不純なのか純情なのかよく分かんなくなってくるね」 いっしょ ートマークのシールを剥がす。あの日 ぬす ートを一つ盗まれたぜ。 この街て多摩湖さんと出 してき だいじようぶ はな

ビキと引きつって上下に跳ねる。 「どっちが先に相手のことを好きになったのかなって」 あいまい まちが 「 : : : さあ」間違いなく俺つばいけど、曖昧な態度てごまかした。 なおしゅうちしん あそこまて暴露しておいて、尚羞恥心は機能していることに感心する。 にわとり 「卵が先か、鶏が先か」 また例の言葉を、なぞなぞみたいな口調て多摩湖さんが呟く。 すで ' 」ご、どっちか先かは忘れてしまった。 それって既に結論が出ていた気もするけど。オオ 「たまご : : : 」たまこ。にわとり。かしわ。 いっしょ 多摩湖さんと一緒にいるから俺は幸せなのか 俺が幸せだから多摩湖さんと一緒にいられるのか どちらが先なのか。なるほど、こいつは難題 一「夏休みにさ、一緒に海行こうよ」 と、つひ 衣「また逃避てすか ? 」 たず 苦笑しながら尋ねると、「んーん」と多摩湖さんの首と髪が左右に振られる こうきしんあふ さ 湖 「今回は好奇心溢れる冒険。ズバリ、失われた財宝を探し求める旅、 無理だから ! 」 移「それ、多摩湖さんが五月に無くした財布を探すだけじゃん。もう とが おか くちびる ちえー と多摩湖さんが可笑しそうに顔を緩めながら、唇だけ尖らせる。時々顔を出す、そ ぼ、つはリん ゆる てつがく だ。どんな哲学者も生物学者も解けまい かみ つぶや 0

128 『ふむ、じゃあ当家に何用かね ? うおつほん』 とカ隸っこり 『いや、そろそろ俺たちも一緒に登下校していい仲なんじゃないかなー 『えー、そんなバカップルみたいなのは先走りになるんじゃないかな。ほら健全なお付きあい はちゃんと段階踏まないと』 てつや 『段階を踏むための階段を徹夜てぶつ壊す人が言うとかえって説得力ありますね』 かしわ 『まあ黄鶏君がどーしてもと一一一一口うなら一緒にどっか行ってもやぶさかてなくってよ』 かあ 『どっかじゃなくて学校ッス』お義母さん後ろて睨んてるし。 ずいん 『引っかかりなさいよー しかし久しぶりに会ったら随分日焼けしたねえ』 うなず 『昨日も一緒に買い物行ったばっかりてすけど、なにしみじみと頷いてますか』 『本当、一夏の間に背もおっきくなっちゃって。カッちゃんいい男になったねー』 『なぜ親戚のおばちゃん風。 : : : あれ、むしろ多摩湖さんが背伸びた ? 』・ 『そ , フ ? じゃ、測ってみる ? 』 『どうやって ? 』 ちが 『二人て背中くつつけて。前と肩の当たる位置とか違ったら、どっちかが伸びてるってこと』 『いいてすよ : : : あ、前より多摩湖さんの肩が高い。やつばりそっちの背が伸びてます』 『うーん、成長期もそろそろ終わりのはずなんだけど。 黄鶏君が縮んだとか』 『まだそんな歳じゃないてす。ていうか、これは、あれだなあ』 ひとなっ しんせき いっしょ かた こわ にら

「なんか、部活が終わった後の解放感みたいなのを感じるよね ここち 準備室の片付けを終えて、伸びをしながら多摩湖さんが心地よさそうに一一一一口う。 けんそう そうぞう 「あー、まー 再び遠くから、少しだけ騒々しい運動部の喧噪が聞こえてくるようになっ て、そういった耳や意識の解放感は確かにあるなあ、と半分同意。 しゅ、つりよ、つ かばん っ 脱衣ポーカーが終了したのて、モコモコと着こんていた服の大半は鞄に無理に詰めこみ、 と下着も一緒に鞄にし 夏服だけの多摩湖さんとなっている。ちなみに「着け直すのめんどい のが 話てもないが。 まうのを、俺は見逃さなかった。だからどうだという一 俺もパンツ一丁を終了して服を着こみ、一介の学生に姿が落ち着いている。 カ 騒ぎ疲れってや 「しかし : : : 」部屋の中は綺麗になったのに、まったく気分が落ち着かない。 まんえん 衣つが体内に蔓延しているのだろうか。まだ色んなものが散らか「て、それを意識や五感が歔々 せ ん に追いかけ回している。そんな感覚の残留て、解放感はまるてない。むしろ解決しない所為て いらいらつの せみ なまぬるびふう さ 湖 苛々が募る。多摩湖さんが開けた窓から嬋の鳴き声の代わりに、生温い微風が入りこんてくる そ たび 多 のが救いだった。風が吹く度、熱気が少しずつ、洗い流すように肌から削がれてい となり ろうかがわ お隣の美術室の生徒もそろそろ解散するのか、喧噪の角度が廊下側に移っている。比率は女 ばくたちばかつぶるじゃなくて、へんたいかつぶるてすもの。 ふ の さわっか 0

きわ は五歳と六歳。四歳と七歳が判明しているのだから、冷静に観察すれば見極められる、はず。 しよ、つかい 、はー」「紹介 手もとに残っているのは市民プールらしき場所て水着の多摩湖さん「はー したた さっえい とちゅう あら 途中に息を荒げない ! 」プールサイドに立って水を全身から滴らせて、撮影者のお父さんに向 はだしんせん え けて満面の笑みを浮かべている。健康的に日焼けした肌が新鮮て目を引く。ちなみに水着は黄 うなず 色と白のパステル調の模様。「うむ」「水着の写真に男前な顔て頷かれるの辛いをてすけど」 いもほ ほか もう一枚残った写真は : : : 芋掘り ? 他の子たちと一緒にしやがんている、薄 水着とは別、 ぬしゅんかんと い水色の帽子を被った多摩湖さんが地面からサツマイモを引っこ抜く瞬間が撮られていた くも いっさいあた う 背景は子供たちの水色の頭て埋まって、空も曇って特色がない。相変わらずヒントを一切与え てつや ない写真選びは見事なものてある。もしかしたら今回の徹夜はゲームの考案じゃなくて写真を : さて、なにを根拠に選択したものか 一晩かけたのかもしれない 選ぶことに やろう あいにく 生憎とチキンの俺に勇気はない。しかしチキン野郎にも過去と未来はある。そして俺だけて 現在は成り立たない。俺を産んだ両親、多摩湖さんを産んだ両親。過去から続く血の繋がり。 そこに愛がある。勇気はなくとも、ニワトリにだって愛情がある。その愛て、俺は多摩湖さ だれ ん以外の誰にも負けるつもりはなかった。愛は勇気を補う、それぐらい万能愛バンサイ どうさっ たく たから愛に託そう、愛に全てを。洞察力はないかもしれないが、眼力はある。真正面から多 す 摩湖さんを見据えて、声を張る。胸を張る、自信を引かせない。ただ前へ 「こっちが六歳の多摩湖さんてす」 ばうし かぶ こんきよせんたく いっしょ 0 つな 0 うす

多摩湖さんと初めて出会ったのは、俺が小学校四年生のときだった。 当時、多摩湖さんは小学六年生 。だけど最初、子供会て見かけたときは中学生じゃないのかと まちが 見間違えるほど、俺の目には大人びて映った。案の定、後日見たときの赤いランドセル姿は似合 ば、つし わなかった。 ついてに一一一一口うと、黄色い帽子もアンバランスて、そちらは何処か可愛らしかった。 しゆく せたけ 当時は背丈の差も相まって、萎縮するばかりだったけど。 多摩湖さんはその年に、地方から引っ越してきたらしい。俺の家とは自転車て十五分の距離。 ↓ / 学 / 学 / 診 / ご学年が二つ コンビニより遠く、本屋より近い。学区は一緒て、通う小学校も同じごっ ' 」。 びみよう ともな 違うし、家も微妙な距離感を伴っていて、顔を合わせること自体が稀だった。 つど たっきゅう 一子供会の関係て公民館に集って、そこて一緒に卓球したのが、多摩湖さんと遊んだ唯一の記 ホおく 衣億になっていた。 ん この高校に入学して、一年生の教室て再会するまては。 あこが ゅうぜん 湖 憧れのおねえさんの眼差しや物腰そのままに、多摩湖さんは悠然と教室の椅子に座っていた。 先に相手の顔に気づいたのは俺だが、声をかけたのは多摩湖さんだった。俺は最初、その女の だれ 2 子は多摩湖さんによく似た妹とか誰かて、まさか本人だとは田 5 いもよらなかった。 「じゃあ、ルール説明するわね」 まなざ ものごし こ いっしょ まれ す かわい ゆいいっき き 6 り・

きな点を挙げられないなんて彼氏としてどうよ、とか思っちゃったりする。それはいいんだ。 俺が考えるのは、そんな愛すべき要素をどういう風に恋して認めて愛おしいと思うべきかだ。 わた ごけど全体を見渡しているだけごと、多 脇に恋するだけはダメ、胸を見つめるだけてはダメ。オ しようてん りんかく 摩湖さんの輪郭はばんやりとしてしまう。適切な立ち位置と焦点の合わせ方が、なかなか見 えてこない。 しこ、つさく′」 こいに隸 - んる。いやま このカードゲームというのはその愛の形を試行錯誤するための実験みオ あ、多摩湖さんにそういった深い考えがあるなんて、良い意味て思わないけど。あくまて前向 りくっ きな意味だぞ、うん。多摩湖さんは小難しい理屈なんかなくても生きていける人だからな。 たいだ 楽しいことに飛びついて、飛びつく楽しさがないなら創意工夫して怠惰な時間を盛り立てる。 うらや それが行きすぎて留年とかしたけれど、毎日が本当に楽しそうなのて、周囲から羨まれる。 いっしょ そば その多摩湖さんの側にいるからこそ、俺にとって朝日は眩しいし一緒に食べる昼ご飯は最高 ねむ て、夜眠るときも六歳の水着の写真を見つめるときもダル子さんと日付が変わるまてキスの練 習をするときも、明日への希望に満ちている。多摩湖さんあっての毎日なのだ、今は。 結局そんな、まったく関係ないことばかりをばんやり上思考して、幸せに行き着く。結婚と ふだん いかお義父さんお義母さん、そんなことを普段から夢想しているけど実際、俺たちはいつまて一 緒にいられるだろう。いつまて、一緒にいること以上の幸せが見つからないまま生きていける あふ だろう。一生、続くだろうか。それとも世界中に溢れる出会いと別れのように、俺と多摩湖さ わき まぶ

電波女と青春男⑤ 入間人間 イラスト / プリキ 当きみーくんと壊れたまーちゃん幸せの背景は不幸 入間人間 イラスト / 左 ISBN978 ー 4 ー 8402 ー 3879 ー 3 きみーくんと壊れたまーちゃん 2 善意 0 指針は悪意 撃入間人間 電イラスト / 左 ISBN978 ー 4 ー 8402 ー 3972 ー 1 当きみーくんと壊れたまーちゃん 3 死の礎は生 入間人間 イラスト / 左 ISBN978 ー 4 ー 8402 ー 4125 ー 0 当きみーくんと壊れたまーちゃん 4 絆の支柱は欲望 入間人間 イラスト / 左 ISBN978 ー 4 ー 04 ー 867012 ー 8 ISBN978 ー 4 ー 04 ー 868596 ー 2 そ 5 エリオと一緒に海に来てしまった : れだけじゃない。リューシさんだって、前 川さんだって一緒安々さんもね一応 ) 朽 これは、青春ポイント大フレイクの予感。 僕は隣に座る御園マュを見た。彼女はクラ スメイトで聡明で美人でーー誘拐犯だっ た。今度訊いてみよう。まーちゃん、何で あの子達を誘拐したんですか。って。 入院した。僕は殺人未遂という被害で。マュ は自分の頭を花瓶で殴るという自傷で。入院 先では、患者が一人、行方不明になっていた。 2 また、はじまるのかな。ねえ、まーちゃん。 街では、複数の動物殺害事件が発生していた。 マュがダイエットと称して体を刃物で削ぐ行 1 為を阻止したその日。僕は夜道で少女と出会 う。うーむ。生きていたとはねえ。にもうと。 閉じこめられた。狂気蔓延る屋敷の中に。乃 早くまーちゃんのところへ戻りたいけど、 1 クローズド・サークルは全減が華だから なあ : : : 伏見、なんでついてきたんだよ。