札 - みる会図書館


検索対象: 多摩湖さんと黄鶏くん
225件見つかりました。

1. 多摩湖さんと黄鶏くん

198 「いえいえ、こっちの話てす」ニャニヤ。 さて、どの札を取ったものか。中央には , ハ枚の札。めばしい絵札は多摩湖さんに取られてし にわとり まって、残っているのはカス札中心。梅を背景に、鶏が木の枝から落下して羽をばたっかせて あいにく オいやこの 仕方なく、菊のカス札を取ることにしご。 いる札はあるけど生憎と手札に梅がない。 ふさわ 表現も相応しくないのか。札の有用性は時と立場によって大きく ゲームの場合、カス札という じようきよう かたよ 変動する。①とか③の札が偏って②がないって状況もあり得るわけだし。 「菊って何月だっけ ? 七月 ? 」 「九月、だったような」 多摩湖さんのカードゲーム研究会にあるまじき質問に答えながら、手の中て札をひっくり返 かた あまが す。取得したカス札のワードは『①多摩湖さんが』『②肩を』。はだける。舐める。甘噛みする。 ③に来て欲しい俺の希望ワードを幾つか思い浮かべる。即座にこんな単語が出てくるあたり、 多摩湖さんの教育が実を結んているといえよう。昔の俺ならどんな言葉を連想したんだろうか もっと丸くて、世界のどこにもとっかかりが持てないような優しい言葉ばかりだったろうな。 なが 手札にある七枚を眺めても、③として命令を完成させられる札はない。多摩湖さんが肩を抱 っこするという日本語は俺の辞書にない。 めく 「なにしてんの ? 一枚捲らなきや」 「あ、そうか やさ

2. 多摩湖さんと黄鶏くん

206 わきばら ひらめさと て、脇腹を軽く小突いて自制する。俺の閃きを悟られてはならないのだ さっそく 「ては早速、絵札頂き」 にわとり 多摩湖さんが桜のカス札て、学生服の鶏を前回同様に持っていく。 山札を捲り、出てきた梅 のカス札は中央の場に置かれる。俺はその間、手札の裏面を確かめてその発見にを緩ませて さこっ 徹夜の多摩湖さんは、やつばり規制が緩い。『②鎖骨を』があるじゃないか。 「俺のターン、と」 ゃなぎ にわとり 柳の下て鶏が卵を守っている絵札もあったけど、それより先に見覚えのあるカス札を取った。 うれ 「カス札取った割にすんごく嬉しそうだね 「俺もカスてすからー」 もみじ そばしか 適当に返事しながら捲った札て紅葉のカス札と、紅葉の側て鹿せんべいを食べる鶏の絵札を かくとく なが 獲得する。それの裏面を眺めると : しい③てある。さすが脇をキン グに任命しちゃう徹夜の多摩湖さんだ。今回もちゃんと、俺好みの札を用意してくれている 後はここて多摩湖さんが命令を作って勝負を決めなければ、いける。多摩湖神にても祈ろう。 がわ 神様っていうのは人の内側にいるらしいし。まあ出身地も昔の人の脳みそだろうしねえ。 「んじゃ、行くよー」 も 揉んて一層柔らかくなったばかりの肩をぐるんぐるんと回して、「はりや ! 」と手札の一枚 ざぶとんたた そろ かたずの を座布団に叩きつける。揃うな、揃うな。もしくはこい こいしてくれ。固唾を呑んてジッと、 たまこ てつや やわ かた めく お ゆ る わき 0

3. 多摩湖さんと黄鶏くん

胸ばなんとやらを実践しろってことかね。中央の札を捲ると、ボタンのカス札だった。あ、場に つど もある、頂きと。これてカス札が六枚、手元に集った。 め かしわ 「黄鶏君ってば、絵札がお気に召さないの ? 」 たまこ まだ人の胸もとから目を離していない多摩湖さんが俺の取り札を揶揄してくる。「いやまっ ◆かいとう たく」と同意しながら取った札の裏を目て追うと、①に該当する札ばかりだった。おいおい。 「命令出来た ? 」 けいかし かくにん 警戒したロぶりて俺の手を確認してくる。ううんと口を開く前に、結果は分かっていても敢 もてあそ えて札の順番を入れ替えたりして悪あがきしてみる。そうして札を手て弄んていると、中学の きおく ころ よみがえ ・ : 多摩湖さんとエロ単語力ード、 頃に英単語力ードを使って勉強していた記憶がふと蘇った。 いやいや。 「多摩湖さんが黄鶏君に多摩湖さんの黄鶏君を、とかダメてすか ? あしぶ 「そんな足踏みして前に進んてない命令は実践出来ません」 ふんいき 「結構良いこと言っている雰囲気はあるんだけどなあ」 「多摩湖さんの黄鶏君を : : : って別に改まって言うことてもないし」 「まあそれもそうてすか」 し はつはつは、と笑って締めた。出来役のないまま、再び多摩湖さんの番になる。多摩湖さん はまた目を光らせて、「頂き ! 」と包丁爺さんを捕獲する。そのまま山札も捲らずに「出来 むな じっせん か はな じっせん ほかく めく あ

4. 多摩湖さんと黄鶏くん

207 「たまこい ' 全身が石になったように身動ぎせず見守る。多摩湖さんは得た札を「んー」と確かめて、「い まいち」と苦い顔て評した。中央の山札を捲っても揃う札はなく、場に置かれて終わる。 かしわ 「ちえー、①がないじゃん、黄鶏君ががさー」 「つまり揃ってないんてすね、俺の番てすね ? 」 「うん、てもなんて急かすの ? 」 さこっ それに答えず、手札の中にある『②鎖骨を』の札を使って中央の札を取る。そして山札を一 かくにん 枚捲ってから、取った札の裏面も確認せずに力強く宣言した。 「よし、これて終わります ! 」 いこいしないだって ? 男らしくないなー」 「どのロがそれを言いますか」 に 「女の子は勝ち逃げが基本なのよ、覚えときなさい」 す 鼻をツンと澄ました多摩湖さんが得意げに語る。なるほど、じゃあここから『勝たせない』。 そうすれば逃げられないというのだから簡単てある だきよ、つ 手しに、非常に残念だが揉むはない。 またも妥協するしかない、たが次は必ずー その決意のもとに歯を食いしばり、俺の作成した、命令は。 「①黄鶏君が、②鎖骨を、③舐める・ : : 亡す」 っ おごそ ずずい、と三枚の札を多摩湖さんに突きだす。将軍様への貢ぎ物みたいに厳かな雰囲気を損 か せ みじろ な 0 みつもの ふんいき

5. 多摩湖さんと黄鶏くん

213 「たまこい ゃいや、多摩湖さんはも の腰、略してタマコシ。近所のスー ハーの名前になってしまった。い ぞくせい むえんびぼう ・「よーし、変態君の暴走を止めるぞーおや、失敬な意 っとこう、俗世と無縁な美貌がだな : ざぶとん ゆかたそでかた 気込み方だこと。浴衣の袖を肩の近くまて捲って、気合いを入れた多摩湖さんが札を座布団に きり たた 叩きつける。桐のカス札に、その桐を踏んだことてお爺さん ( 包丁持っている爺さんと顔が一 おこ わた オこれまて、絵札はほとんど 緒 ) に怒られている鶏の描かれた絵札が多摩湖さんの手に渡っ ' 」。 が多摩湖さんの手に渡っているな。通常の花札だったら、多摩湖さんの方がツキはあるようだ。 しかし現状、多摩湖さんの鎖骨を舐めた俺の方に場の流れは向いている。不思議な勝負だ 「一枚捲ってー : あ、さっき取った札だね」 包丁ジジイがまた場に現れた。その刃の切っ先がイラストの鶏を通り越して俺に向けられて いる。鏡て確かめれば、必死な鶏と今の俺の表情がシンクロしているかも知れない。 「多摩湖さんって、お祖父さんと仲は良好なんてすか ? 」 「うん、両親どっちのお祖父さんとも仲いいよ」 それかど , フしたの ? ・とい - フ 様子て首を傾げてきたのていえ、と短く言葉を吐いて打ち切っ 孫の彼氏って祖父さん的にはどうなんだ、歓迎されるのか ? それともこれか、庭を包丁 持って追いかけ回されるのか あいにく そのお爺さんの絵札が欲しいところだけど、生憎と同種の札は手の中にない。代わりに桜の ちり カス札を一一枚、手 もとに引き寄せる。本当にカス札ばかり集まるな、今日の俺は。塵も積もれ かし

6. 多摩湖さんと黄鶏くん

19 ) 「たまこい 八枚、俺と多摩湖さんの手もとにも八枚ずつ札を準備する。札を受け取って、まずはその表 に描かれたイラストを確かめた。多摩湖さんの髪と同じ色合いの卵が転がっている。次。茶色 にわとり ・ : イラスト、基本全部卵か鶏かその組み合わ い鶏が包丁を持ったお爺さんに追われている。 せじゃねーか。いわゆるカス札も卵か鶏が描かれている。ただその背景は花札に準じて、桜や ずいぶん 菊の花が描かれていた。これて種類と季節を判別出来るようだ。小さな札に随分と芸が細かい な、とカの入れ具合に感心してしまう。 はあく かくにん 続いて札をひっくり返して裏面の命令ワードを確認する。むしろこちらの把握が重要なのだ。 かしわ ←須か、ら頂 . に、ーしこ ( 書かれた言葉を目て追う。『②足に』『①多摩湖さんに』『①黄鶏君が』『③ かた 抱っこする』『①多摩湖さんの』『②背中を』『③撫てながら』『②肩を』。以上、八枚。 足に、抱っこと来たか。希望が湧く。多摩湖さんの足にロづけすることは俺にとってご褒美 だ。足の指先を舐めるのも悪くない 、と今年の夏に経験済みてある。ドキドキするヨー それとどうやら③て完結するものもあれば、④へ続く内容もあったりするみたいだ。 俺の手 元に④の札はよい。 枚数の多いカス札てはなく、得点の高い絵札にあったりするのだろうか わかどり 「どうても いいけどさー、若鶏って一言葉あるよね」 とうとっ 自分の手札を確認しながら、多摩湖さんが唐突にそんな話を振ってくる。 「はい ? はあ、若鶏、のもも肉百みたいなやってすよね」 「てもあれってこの鶏が若くして死んだって言ってるわけだよね」 かみ ほうび

7. 多摩湖さんと黄鶏くん

212 臓が鼓動を速めている。「これは新たな恋の兆し ? 「順調に危なくなってるだけだと思う」 おお、そ - フカ じゅんすい さこつな 「鎖骨を舐めるとかそういう変態セレクトせずに、純粋にゲームを楽しみなさい」 「そもそも舐めるとか鎖骨とか書く方が悪いのては」 「だってさー、意外と命令の言葉なんて思いっかないじゃん。ついめんどくなっちって」 も 「いやいいんてす、揉むがあったから全て許されるんてす」 ・ : 段々触れる面積が増えてきた気がする」 「今度は揉むことに目覚めたのかよー くちびる まあそりや唇や舌よりは手のひらの方が大きいわな。さて、無難なところて : : : これにして えが にわとり たまこ おくか。『①多摩湖さんが』と裏面に書かれた鶏のカス札て、卵の描かれた雨札を取る。 「そういえば雨って何月の札てしたつけ」何気なくそんな話題を振ってみた。 「んー、雨だし六月 ? 」 : たったかな」 めく 十一月だった気もする。中央の山札を捲ると、「あ」雨の絵札だった。雨に打たれて、髪の おび びき ようなトサカが禿げることに法える鶏一匹。そしてその鶏の胸て雨宿りする卵が一つ。 「残念だったねえ」 まえかが うれ 嬉しそうに多摩湖さんが言う。「そんなことないッスよ」と強がりながら、前屈みになってい からだ た身体を引っこめる。俺の取った札は『①多摩湖さんが』の他に『②腰を』。腰。多摩湖さん こどう すべ きざ ほか かみ

8. 多摩湖さんと黄鶏くん

ふつう ちが このゲームは普通のこいこいと違って、次の相手の番て命令が成立する確率は非常に高い そろ 特定の絵札を揃える必要もないからだ。だからこ いこいはあまりしない方が勝ちやすいとは : まあいいか。ついさっき言ったが、俺は多摩湖さんに命令されても負けを感じない しようぶ 「んふふ、ゲーム続行て私の番と。軽く菖蒲の札ても取っちゃおうかな」 にわとり まえかが 同じ絵の札を重ねる。前屈みになった 多摩湖さんが鼻歌演奏中の鶏と菖蒲の描かれた札に、 むな しゅんかんゆかた かく すき とっさ のぞ ぜんけい 瞬間、浴衣の奥に隠れた胸もとが隙だらけになるのてはと俺も咄嗟に前傾姿勢を取って覗こ あら さこっ うとする。けど露わとなったのは鎖骨まてだった。俺はこれても健全力ップルの片割れなのて、 くや だきよう はだ , 」こて悔しがらない、鎖骨て妥協する。鎖骨と肌の間に舌這わせてみたいなあ。 めく 「捲って、あ、残念」 山から捲られた札の中ては、舞い散る桜の下、学生服を礼儀正しく着た鶏が直立不動してい いっしゅんかんき やっと鶏がマトモな出番を与えられた、と 一瞬歓喜しかけたが人間のように背筋を伸ばし うで て立っ鶏は予想以上にキモかった。しかも普通に腕生えてるし。ちょっとムキムキてグレート チキンに似ていた。 多摩湖さん、筋肉質な俺が好みなのか ? いや存在しねーけど、そんなの。 「ても取った札と、こう組み合わせれば : : はい、出来たー ! 」 もろて はず 多摩湖さんが諸手を上げて、弾んだ声て完成を報告してくる。 「あれ、こい こいはフ・」 「するかそんなもん ! なははー、勝ち勝ちー あた れいぎ の

9. 多摩湖さんと黄鶏くん

196 じようきよう 「 : ・・ : あの、この状況とそれはどういう関係が ? 」 かしわ わかどり 「いや全然関係ないけど、ふと隸った。後、黄鶏君はそんな若鶏にならないように し おうぎ あいまい たまこ 世間話なのか心配なのか曖昧に締めて、多摩湖さんが「さ—' ゲーム開始よ」と手札を扇 なな 状に構える。ただその手札の角度は斜めになって、裏面のワードを俺に読み取らせないよう配 ふんいき 慮してあった。別にバレても支障ないように思えるけど、そこは雰囲気重視だろう。 「親は私からていい ? 」 「いーッスよ。年長者だし」 「君に年上を敬う精神があるとは思わなかったねー。じゃ、いきまーす」 にわとり 座布団の上に置かれた八枚の中て、多摩湖さんが最初に選んだのは茶色い鶏が、包丁を持っ に たた たお爺さんに追われて必死に逃げている絵札だった。多摩湖さんの叩きつけたカス札の背景が しらが ばうず 燭しト卵 4 が 坊主の山だから八月か。お爺さんの白髪には藍色の卵がぶら下がっている。どうも、 がいと、つ あっか 他の遊び方ていう一一十点に該当する札なんだろ 両方描かれている札が高得点の扱、み ' 」 う。なるほど、ても良い札を取っていくことか、このゲームを有利に進める定石となるのか ? 「どう、この絵。ちなみに包丁のお爺ちゃんはウチの母方のお祖父ちゃんがモデルね 「あの、俺、将来はこんな風にお祖父さんに追いかけ回されるんてすか ? 「やだなあ、実在する人物とは一切関係ありませんみたいなアレよ」 今、お祖父ちゃんがモデルって言ったじゃないか ! ェアジジイとても一一一一口うつもりかー りよ ざぶとん いっさい ほか

10. 多摩湖さんと黄鶏くん

197 「たまこい よゅうしやくしやく 余裕綽々な表情の多摩湖さんが取った札を回収してから、中央の札の山を一枚捲る。「あ、 りようし ラッキー」捲った松の札て、場にあった松の絵札まて回収してしまう。イラストは鶏が猟師 的な罠にはまって絶体絶命、のところを藍色の卵に救出されているという構図だった。 ひどあっか 「さっきから鶏が酷い扱いなをてすけど 「若鶏ちゃんはおいしそうだから仕方ないんじゃないかなー」 なっとく 理由になっていない納得を押しつけられた。多摩湖さんには俺を苛めたい欲望が内在してい ゆえ ・・ : : - フ , わし J るのだろうか。もしその表れだとして、それ故の命令ワード完成ゲームだったら はず きめいてる。胸が非常に前向きに弾んてるぞ。なんてそれが誇らしげなんだろう、俺。 「残念、この四枚じゃ命令が作れないね。はい、君の番」 「ウッス」 そうか、一手目の時点て命令が完成するケースもあるわけだ。てもそこて終わるか、続行す るかを選べる。俺だったら納日寸いくまてこいこいを宣一言するだろうな。だって多摩湖さんに命 令されてもある意味て勝ちなのだから。喜びの歌とかに流れちゃうから。となればこの おそ ゲームにおいて俺の敗北はない。そして多摩砌さんは恐らく、それにまだ気づいていない。 命令しても、されても。どちらに転んても俺の至福は満たされる。 つぶ 「一粒て二度おいしいつでこのことだな」 「わはに、がフ・ わな めく