それなのに今やって来た私の『上』の人間は「、、。、 しし力やりすぎるなよ」などと。目の前の 男は一体、なにを言っているのぞしよう。人を救う為の説得にやりすぎなどということはあり みな ません。この男はまだ神様てはないのてす。私より『上』と皆の間て評価されているにも拘わ だれ っ おろもの らず、誰も救おうとしない。権力欲に取り憑かれた愚か者たちが、どうして先生のお言葉を理 つど 解出来て私たちと同じ場所に集ったのてしよう。それは先生が偉大だから。そうてすね、きっと。 もら 「お前はなんというか : : : 熱心すぎる。もう少し落ち着いてたな、話を聞いて貰う為にだ、」 のが かんかっ ああうるさい。ロばかりの男の目から逃れる為、与えられた管轄から大きく外れた大通り むじゅん 向かいました。そもそも人を救う活動に管轄などというものがあること自体、矛盾しているの てす。私と同じ『所属』の女の姿もありましたが、あんな女より私の方がよっぱどたくさんの せんたく 人を救ってみせます。 たくさんの人を救える者が、人の多い場所へおもむく。この自然な選択 に気づけないのに、『上』てあっても管轄などというものを決めるのがおかしいのてす。 ④ の 『小さな神様』となるまて、時間がどれだけ残っているか分かりません。なにしろ『とてつも そ ないこと』がこれから起こるのてすから。それは明日か、それとも今日この日に起きるのか の おお 絶望の覆うような空の下てはあります。てすがその空を背景に、世界にはこんなにも青い 「鳥が死に急いています。今日終わるかも知れない世界て、それても私は誰かを救いましよう。 むか 人は誰ても死にます。終わりを迎えます。 2 そしてよき終わりを与える為に、私たちは活動しているのてすから。 き ため かか
242 ああ、青い小鳥がまた逃げてしまいました。ここから飛び立てば、もう止まる木は見つから だらく . ないの - に。 いっか必ず堕落し、地面に擦れて小鳥は死に至るのに、なぜそれを選ぶのてしよう。 なげ 私にはまったく理解出来ません。歩道に取り残された私は、逃げるように走る男の自殺を嘆 き悲しみ、浮かない気持ちていつばいてす。なぜ、人はあんなにも死に急ぐのてしようか せめて生き急げばいいのに、と願ってやみません。私がお連れしようとした先生のもとに、 たど 今の方も辿り着ければよいのてすが。そうしなければ、永遠に死に急ぐてしよう。 先生は『これからとてつもないことが起こる』と仰られていました。その具体的な出来事は くの、つ ぼんびやくこむすめ くや ご自分にさえお分かりにならない、と先生は海しそうてした。あの先生の苦悩が、凡百の小娘 かいこん そろ えいきよ、つあた にすぎない私にさえ計り知れない影響を与えたのてす。切り揃えられた苦悩と海限、そこから っちか 培われる使命感が今の私の中に燃えたぎっています。人を動かすという点において、先生ご自 けんそん 身は『そんなものてはありません』と謙遜なされますが『神様』と表現して差し支えないてし よう。救われる者にとっては救う者こそが神なのてす : てすから私もいずれ、先生ほどの大き さがなくとも『小さな神様』となることが出来る、と固く信じています。 小説つばいもの、その④ こす おっしゃ つか
160 だけど口にしなければ伝わらないものがあるという結論を出して、多摩湖さんに言う。 「俺はさ、さっきから昔の自分にヤキモチ焼いてるんだ」 : うん ? 」 まぶたくちびる 写真から顔を上げて、多摩湖さんが目を丸くする。瞼と唇の動きが止まった。 ほか よだれた 「だって多摩湖さんが他の男にぐへへと涎垂らしてるからー かしわ しゆくじよ 「ほ、他の男って、これ黄鶏君だよ ! あとぐへへとか笑ってないからー 私は淑女てすよー 「いや笑ってたよ ! と、とにかく俺の前て他の男を褒めるのは、こう、減点 ! 多摩湖さん 減点 ! 」「にやにおう ! 」 まど いきり立った多摩湖さんが席を立って、わなわなと唇を震わせる。目は逃げ惑うように落ち ほお 着かなくて、頬も真っ赤。そして俺の鼻先に人差し指の先端を突きつけてきた。 「じゃ、じゃあ私も言うけどねえー 今の私の煎て昔の私の胸をジロジロ見るとか不実だと思 います ! 」「じゃあ今のを見ます ! 」「おう存分に見つめるがいい さ ? 」「つしゃ ! 」 ぎようし あちょっと待ってという多摩湖さんの制止も無視して凝視。血走って食い入るように、多 のぞ 摩湖さんの豊胸に視線を投射。こっそり覗かないのは気持ちがいいてすなあー 「やつばダメ ! そーいうのは私たちにはちょっと早いのー 「そうてすか、それならちょっと昔に戻ってロリ多摩湖さんのお胸を」 「その路線から離れるように はな ふる たまこ
244 がわ ああ、次の青い小鳥が向こう側から、死に急いて私を求めてやって来ます。 きっと次こそ次こそ次こそ、私と共に幸せになりましようね。
気恥ずかしさによって穴だらけにされた神経を埋める為、そんなノリを維持しながら三回戦 しつぶうどとう を始めた。しかしここからが疾風怒濤にエライこととなるのてあった。 むだ 「うわっ、勝った ! 」「オラオラオラ、耳をお貸し ! ー「無駄無駄無駄、わぎや ! ちょ耳の穴 は駄目、反則、ロープロープ ! ひょいひょいあ ! 」「うわ、反応が女の子つぼいよ黄鶏君。可 ふる こわ 愛い可愛い」「きゃい、うわなんか下半身震えてる ! 布い、なんか怖いタイムアウト ! ーやーじゃー ! 黄鶏君の耳をはむる ! ー「はまれる ! ちょっと、キスじゃないのか ! 噛ん くちびる きら てる噛をてる ! 」「時には相手の唇を噛むこともあるからその練習 ! 」「嫌ってないかそれ ! 」 そうじ 「いいから大人しく耳の穴をかつばじらせなー」「俺実は五年ぐらい耳掃除してなかった気がす る ! 」「つしゃー ! 」「なんてやる気になるんだー 「ういーん ! 」「舌が耳の穴てー ! 」 「四回戦はほっ。へ ! 」「おー、唇に一番近い ! 」「そうだろそうだろー、夢があるよねー」「へい つ、キスー ヘイへイ ! 」「まだババ抜きやってないじゃん ! 、「俺たちの愛にババ抜きなん か不要てすよ ! 」「ぶっちやけっちゃったー いやいやカードゲーム研究会だから私たち ! 」 みりよく キ「キス魔訓練所に改名しません ? 」「しません ! それも魅力的だなーとか私が思わない内に さー勝負 ! 、「俺のターン ! 」「続いて私のターン ! 」「カードを引くこと以外何も出来ない俺 既のターンー 「トラップカードも発動出来ない私のターン ! 」「不毛な宣頁俺のターンー 多 「いえー、黄鶏君からのキスだ」「勝っちゃった ! 多摩湖さん空気読をて負けてよ ! 」「私の ふつう しいじゃん。男の子にほっぺにキスされるの ほっ。 ~ がご不満 ? 」「逆てしょ普通 ! 」「えー きは ため
13 8 「て、くれるんてすか ? 」 ゆず かしわ 「そこは譲らないのね、黄鶏君」 おもしろ 「勝負は賭けるものがあると面白くなりますし。焼き増しても可」 ( いよ、うん。勝ったら私も黄鶏君の写真一式貰っちゃうし。それに黄鶏君が勝つよう すてき なことがあれば、もっと素敵なものを見つけられることてしよう」 ろうどく 後半は絵本を朗読するような口調だった。素敵なもの ? もっとと言われても、銀河系ては たまこ 多摩湖さん以上はちょっと見つからないだろう。なにか誤解があるんじゃないか、多摩湖さん。 げんち オこれて歳並べに目を血走らせることがてきる。負 しかし、写真を賞品とする言質は取っ ' 」。 けて失うものが自分の締まりがない写真とか、リスクが低いのに見返りは大きすぎる勝負だ 「そういえば、どうして歳並べやろうって思い至ったんてすか ? 」 けいがん 「最初の質問が後回しになりすぎてしょ : : : 言ったじゃない、慧眼を養う為だって」 「慧眼 ? 」 「黄鶏君、私たちの時間は貴重なのよ。も、ひつじよーに尊いのよ」 かみけ 身振り手振りを交えて時間の大切さを主張してくる。ついてに自分の髪の毛を指て梳いた。 のが ちょうぼっ 「そんな貴重な時間の中て起こる、日々の相手の変化を見逃すのはもはや懲罰モノ。だから 私と黄鶏君の観察力を鍛えることにしたの」 「はあ : みぶ し きた としなら もら ため す
「じゃあ俺はどの胸を見て生きればいいんてすか ! 」 「見なくていいつつーの ! 他に見るものあるてしようが ! 」 きようさく 「ないのかよ ! 今まてどんだけ視野狭窄に生きてたの ! 」 わき 「脇 ? 」 「漢字一文字以外の場所を探そう ! 」 むな 「胸もと」 ゼれ 「誰が国語辞典の真似なんかしろと言ったの ! 」 ばつばっ などと口論というか意図不明な争 : 、 しカ勃発しながらも、多摩湖さんが四枚目の写真を置く それは俺が保育所の遠足て山に登った五歳の写真なのだが当たったとかそんなことは比較的ど うてもよくて ( 半ズボンてはある ) 、この後も、実質一一枚目あたりからほとんど変わっていない としなら 歳並べの様子が続くのてあった。「多摩湖さんの赤ちゃん、生後一年 ! 」「それだと私が子持 ちみたいじゃん ! 」「ほっかほかの多摩湖さん ! 」「一応それても君なりに修正してくれたん なが んだよね ! 」「はい次多摩湖さん ! あんまりジロジロその連中を眺めないように ! 」「過去を ひざこぞう この半ズボンて膝小僧丸出しの黄鶏君は四歳と見た」 全否定かよ黄鶏君 ! 私のターン ! 多 この不 「またかよ ! 半ズボンしかねえじゃねえか ! 」「選んて持ってきたのは黄鶏君だよー にわとり うわめづか たま おび 安そうな怯えた上目遣いが堪りませんなあ ! ー「高いところ苦手なんてすよ鶏だから ! 」「私 べ まね ひかく 0
132 けいがん 「これからの私たちは歳並べて慧眼を養うべきと気づいたのよ」 「としならべ ? かし たまこ がわ 首を傾げながら、多摩湖さんとは向かい側に当たる椅子に腰を下ろす。都市並べ、年並べフ ある ? なんだそれ。 地理か日本史の授業あたりを連想してしまう。或いは、歳並べ 「ていうか、その前にアレ。私を見てなにか田 5 うこととかある ? 」 ほお せんたん ちょうはっ なにか思わせぶりに自分の頬を指差して、 くいくいと指の先端を曲げる。目線はどこか挑発 なが 的に細められて、俺の意見を、い待ちにしているようだっ , 」。 つい今し方、ジロジロと眺めたば たず かりたけど : : : 多摩湖さんをじっくり舐め回すように見つめて思うこと ? うーん、改めて尋 ねられると照れちゃうな。 「多摩湖さんラブ ! 」 「そ、そうじゃないっての。まあいいや、その為にこれからやるんだし」 す かぼんつか 気を取り直したように、耳にかかっていた髪を指て梳いてから多摩湖さんが自分の鞄を擱む。 「どじゃーん」 ぎおん しようさい どっかの大統領みたいな擬音をご機嫌に発しながら鞄を開いた。そして詳細な説明はいっ ものように後回しにして、多摩湖さんが自分の持ってきた写真、十一一枚を見せびらかす。 わあ、小さい頃の多摩湖さんがロイヤルストレートフラッシュ。 「どうてす、これが私の成長記録と言えましよう」 ころ としなら な かみ ため す
た 6 幻るさー 、制作者の特権よ ! 」「じゃ、じゃあ戻りますね。もぞもぞ」「ういー もぐ にわとり ゆかた をて私の浴衣の中に潜ろうとしてるの ! 」「鶏が昔に戻ったら卵の中じゃないてすか ! 」「そ こまて戻れって言ってないよ ! 生まれたてまてだつつーの ! ネイキッド黄鶏君だって なんかの領域を超えちゃうエロさだか ば ! 、「多摩湖さんの、な、中 ! 」「エロイから ! 「よーし五回戦は無効試合引き ら ! 指導 ! 黄鶏君に教育的指導 ! , 「蹴りだされたー 分けローー・ 六回戦 ! 」「ジジイ来いジジイ来い手もとにジジイ参上すべし」「お祖父ちゃん 「カードオープン ! あ、揉む確定 ! きたき かこっち来ますように孫を選びますように ! まだ勝 たきた ! 」「おじーちゃーん ! 」「確定て揉む ! 」「ちょっとそこの指、気が早いよー かくう ってないのに架空のなにかを揉まない ! 」「予告ホームランならぬ予告揉み」「格好良くない から ! それと私が先にあがるからムダムダムダア ! 、「親が俺てあることをお忘れてすかー ぞしょー まず揉 ! 」「俺も出演してるからいい 行けジジイ ! 」「人の祖父を投げないように む取ったあ ! 後は黄鶏君と腰を確保すれば全てが終わる ! 」「させないっての ! 」「あ、山 札捲って取った札の裏面に黄鶏君あった ! ホップステップ ! 」「飛べねーよ ! 鶏が空を舞 はば から えるかあ ! 君はね、私にとってチキンなんだよ黄鶏君 ! 」「殻も破っていない卵に夢を阻む ことは出来ませんよ ! 、「殻はついていても走るための手足はもう生えてる ! 」「怖いわー そろ よんのた ! 」「時の卵的にスペシャルなの ! ほりや ! 揃え、揃え ! 」「そうはいかな ごと 多摩湖さんには運があっても流れがない ! 勝っ流れがないんてす ! 」「世迷い言を めく もど かしわ こわ
たんのう じられた。多摩湖さんはひとしきり目玉を堪能してから、味についての感想を述べてきた。 かしわ 「黄鶏君の目はうっすい涙の味がしたよ」 「そーっすか : : : 」 「初めてのキスの相手が目玉てしたって、私なんか誤解されそう」 「初めてにしては情熱的なキッスてございました : なが 精神的ボロ、ボロによって床にへばりついている俺を眺めて、多摩湖さんが破顔する。 「なんか私、試合に負けて勝負に勝った ? 」 「まさしくそれ」 むじゅん ていうかキスババ抜きって、負けた方が勝つんじゃないか ? 矛盾しているけど。 「そういえばババ抜きのババって、の絵札に載っているおばさんのことらしいね 「はい ? なに、その急な豆知識」 たま 「いや偶にはカードゲーム研究会の会長つぼい部分を見せないと、ふつふつふ。 ひろう とうとっ 本当に唐突だった。仕入れた知識を披露しようとしたけど忘れていて、今ふと思いだしたよ 。てもその話題の変更によって眼球を取り巻く空気も一新される。俺は立ち上がった。 せんせい 対戦相手の復活を見計らって、多摩湖さんがカードをピッと指に挟んてから宣誓する。 かくご 「次は耳よ ! 覚悟するヨロシ ! 」 「アイヤー ! 」 へんこう ゆか の はさ