友達 - みる会図書館


検索対象: 描きかけのラブレター
37件見つかりました。

1. 描きかけのラブレター

次に友達になったのは、橋本の予備校時代からの友人だという、伊東と言う男だった。八王 けむり 子の実家からオートバイで通学していた。やたらと古いホンダで走ると音と煙がひどかった。 東京に来て初めての日曜日、僕らは三人で国分寺にポーリングに行った。三ゲームやったあ と、駅前の居酒屋に入った。 生まれて初めてビールを飲むことは黙って、僕は乾杯した。 ころ 気分がよくなってきた頃、橋本が言った。 「なんやね。せつかく大学にこうして受かったんやから、次は彼女ゃね」 「やつばサークルかな」 伊東が言った。橋本はよく喋るが、伊東はどちらかというと無ロだった。彼も一浪というこ とだった。 「でも、ええ女は油絵にはおらんねえ」 「今時、油絵やる女は : : : 」 伊東が一一一口った。 どろくさ 「泥臭い けけけ、と橋本が笑った。 「そうなの ? ざかや よび とう

2. 描きかけのラブレター

120 まゆ ふたた 言った後、再び間違いに気づいた。円の眉が、ひくついた。それは、嘘、じゃない。でも、 ごかい 聞きようによっては、誤解されるかもしれない。 冷静になれ、と、僕は自分に命令した。 「と、友達だし。ヘンなことはなんもないって」 ふつう 「なんで、失恋した女が、男の友達んトコにくんのよ。普通、女友達のところに行くんじゃな いのフ ぎもん もっともな疑問だった。 「他に友達がいないんだってよ。仕方ないだろ」 「へえ、そう。それってつまり、あんたが一番親しいってことよね」 ちか そうかもしれない。でも、誓って言うが、円が心配しているような関係ではない。しかし、 さいぎしんかたまり 円は完全に猜疑心の塊になっていた。 とにかく誤解を解かなくちゃならない。 「あのね、ほんとに友達なんだって」 「もういい」 「あのな : ・ 円はべッドに入ると、布団を頭から被ってしまった。 「聞けよ」 ふとん かぶ うそ

3. 描きかけのラブレター

僕は当然のことを言った。 「ムリよ。フラれて、のうのうと住めるわけないじゃない 美智子は、・ほんやりと自分に言い聞かせるように言った。美智子が急に、子供に見えた。 「というわけで、住むトコないから、しばらくココにいさせて。次のアパート見つけるまでで しいから」 「え、えええええ ! 」 僕は大声をあげた。 ′」ま 「困る。ダメだ」 「なんでよ。いし 、じゃない。わたし、友達いないんだから」 ど、つじよう がまん いっしょに住むってのはムリだ。相手が男なら、まあ、我慢も 美智子には同情する。でも、 タするけど美智子は女だ。 レ プ「他の友達にしろよ」 の「わたし、あんたたちの他に友達いないもん」 そういえば、美智子が僕ら以外の誰かと、いるのを見たことがなかった。 たの 描「じゃあ、伊東に頼んでよ」 「実家よ。あの人」 「橋本は ? あいつも、一人暮らしだ」

4. 描きかけのラブレター

かた しき女子生徒が、その肩をつかんで振り向かせる。 そして、その白い頬を思いっきり張った。 とど ばちーんと、小気味いい音が僕の耳に届く。思わず口に手を当ててしまう。 たた せんばいぎやく すると、叩いた先輩が逆に泣き出した。友達が駆けよって口々に慰め始める。すでに叩かれ た一年生のことを誰も気にしていない。 僕はなんだかとても気まずくなった。見てはいけない物を見てしまった、と思った。 そのとき彼女が絵を描いている僕に気づいた。目じりが下がり、助けを請うようなそんな顔 になりかけた。 いっしゅん でも、それは一瞬だった。 そむ もど 彼女はすぐに顔を背け、さっきの冷たい態度を取り戻し、歩き去った。 一「すげえ女・・・・ : 」 たくみ 僕がとても控えめに彼女の感想を呟くと、後ろから巧のため息が聞こえてきた。 中学時代からの友達だ。 友達になったきっかけは、絵だった。中学校の頃、僕がノートの隅に絵を描いていると、巧 描が寄ってきた。巧は僕の絵を見て「うまいじゃん」と言った。それから僕たちはたまに話すよ うになった。 僕は一人で何かするのが好きなタイ。フで、巧は逆だった。彼は友達が多くて、。ハスケ部のキ ひか ほお つぶや ころ すみ なぐさ こ

5. 描きかけのラブレター

「だって、タダで泊めてもらうの、悪いでしょ ? ご飯ぐらいつくんなきや」 「朝の十時過ぎぐらいだったかな。ドアがノックされて。開けたらあの子が立ってて」 まちが 「わたしのこと見て、間違えましたって言うから、ユキオの友達 ? って聞いたのね。そした うなず だま ら頷いたから、あがってって言ったの。で、じっと黙って座ってるから、高校のときの友達 ? って聞いたの。そしたら頷いたの」 「もっとかいつまんで話せよ」僕は美智子ののんびりした説明にイラついて言った。 美智子はちょっとムッとして、今朝のことを話し始めた。美智子の話はこうだ。円は、美智 びじゅっぷ 子に、ぼつ。ほっと自分の話をしたらしい。僕と高校のとき同級生だったこと。同じ美術部だっ タたこと。今日は、東京見物のついでに寄ったこと : レ ・フ「東京見物 ? の「そう言ってたわよ。でも、ユキオに会いに来たんでしよ」 カ 「たぶんね」 描「わたしね、ちゃんと説明したからね。ユキオとは友達だから、ヘンな風に思わないでねっ 「そしたら、なんて言ってた ? 」 す と よ 0 すわ

6. 描きかけのラブレター

248 「隠してる。隠してるから、目をそらすんでしよ」 むずか ふかのう 隠し事は難しい。相手が好きな女の子の場合は、ほぼ、不可能た。 「好きな人、いるんだ」 「お前以外に ? 」 「うん」 「いないよ。何度言ったよ」 ちょっとイライラしながら言った。人の気も知らないで、呑気にやきもちを焼いている円に、 腹が立った。 みちこ 「美智子さん」 「だからな ? あいつは友達で : : : 」 「友達の家に泊まるんだ。へえ、そう」 悪意のこもった声だった。 「今、ぎくってしたでしよ。なんで知ってるんだって、そんな声だよね」 「それって、俺が、新歓コンパでつぶれたとき ? 」 ほんとに、、 とうして円が知ってるんだろう。 「わたし、あの時、聞いたんだよ。ほら、東京のあんたのア。ハートに行ったとき。美智子さん おれ しんかん

7. 描きかけのラブレター

122 うなず 橋本はもっともだと言わんばかりに頷いた。 「そんで、お前の彼女というのはあれなんか。話聞かないタイプか」 「ああ。聞いたためしがない」 「ちゃんと、説明したんやろ ? 美智子とのこと」 きちんと友達だって言ったんだろうな ? とその目が言っている。 「もちろんだ」 僕がそう言うと、橋本はなるほど、と頷いた。 「でも、その円ちゃんとかいうお前のコレは」 コレと言うと、橋本は小指を力いつばい立てて見せた。その時代がかったジ = スチャーに、 僕は頭をかいた。 「お前が、美智子は友達だよ—んと言ったのに、手当たり次第、部屋のものを投げつけて、布 ろ、つじよ、つ 団を引っかぶり、籠城を開始したと」 「ああ、籠城を開始した」 「で、何を言ってももう聞かなかった、と」 「うん」 「なんで、真っ直ぐ帰って来たんや」 「命の危険を感じたから」 きけん

8. 描きかけのラブレター

「好きにすりやいいだろ」 「友達が相談してるのに、冷たいのね」 「だつれが友達だよ。自分が俺にしてきたこと、考えてみろ」 くちびるか 円は、軽く唇を噛んだ。目が合った。同時に逸らす。 「いちいち覚えてないよ」 まど っや 円は窓を見ながらそう呟いた。 なや なるほどなあ、と思った。結局、僕が一人で悩んでた、それだけの話だったのだ。 、、、話すことはない。ほんとに、ない。 それから「なんか、言えば」と円は言ったけど、僕は円の方を向こうとしなかった。 そんな僕の様子に腹を立てたらしい レ そう言い捨てると、円は立ちあがった。 ・フ の去って行く円の足音を聞きながら、あいつは巧の告白を受けるのかな、と考えた。 け 「関係ねえよな」 ふたた 描呟いて、再びカイハスに向かう。 円の顔が、頭の中でかたちを取った。 おど 木炭が、カイハスの上を踊る。

9. 描きかけのラブレター

、」、つ力し アパートについて、ドアノブを回した。カギがかかってなくて、僕はちょっと後海した。ま だ、美智子はいるのだろうか、と思いながら、ドアを開けた。 げんかん くっ 玄関に、美智子の靴が置いてある。隣にもう一足、女物の靴が並んでいた。 美智子が友達でも呼んだのだろうか。 「美智子、いるのか ? 」 じよ、つ ふすま 玄関から、部屋に向かって声をかけた。キッチン兼玄関と六畳をしきる、襖が開いて、美智 子が顔を出した。 タ「お前なあ、友達いるんならな : : : 」 レ もんく プぶつぶつ文句を言いながら、六畳に向かった。 ラ の部屋に入った僕は、目を丸くした。 すわ か円が座って、こっちを睨んでいた。 描「円フ 円はじっと僕を睨んで、ロを開かなかった。べッドに腰掛けた美智子が妙にとりなすような 口調で僕に言った。 取ってこようと思った。もしかしたら、酔いから覚めた美智子が・ハ力な考えを改めたかもしれ よ、 0 にら こ一しか なら

10. 描きかけのラブレター

案の定、円は『僕に対してその気なんか全然ない』ことを証明するために、意地悪をエスカ レートさせた。 じ髪フじん だったらやめればいいのに、と思うのが人情だけど、円はどうやら常人とは別の回路で動い ているらしい 五月のゴールデンウィーク。美術部の皆で、海に写生にでかけた。 すわ 僕は、折りたたみ椅子に座って、カモメと漁船を描いていた。友達を何人か連れた円がやっ となりこしか てきて、僕の隣に腰掛ける。 どうせまた、何かするんだろうと思って、僕は無視していた。 そのうちにトイレに行きたくなった。 トイレに行って、帰ってくると、円たちがクスクス笑って僕を見ている。 . レ「何した。きみたち」 円は、友達と顔を見合わせて、さあ ? と首をかしげた。その仕草が憎らしい の なんせき うちゅうせん け スケッチブックを取り上げると、せつかく描いた船とカモメの上に、何隻もの宇宙船が飛ん カ 描でいた。 「これさ、写生なんだけど。ここにあるもの以外、描いちゃいけないんですけど」 「せつかく手伝ってあげたのに」 す しよ、つめい