んだ。 プを入れておく小物入れや椅子に敷くクッションなどは、少 結城さんの元夫は薄いピンク色の野球帽を被り、すみれ色しすっ結城さんの持参品とすり替えられていった。私の方が のシャツを着ていた。「妖精のような彩りにもかかわらず就業が三カ月ほど早かったため、あるときから突如様相を変 印象は粗野である」という結城さんからの情報どおり、長身 え始めた机周りに最初こそ呆気にとられたが、もともとの備 で褐色の肌の精悍な人物で、必要以上にリラックスしてい 品に愛着があったわけでもない。長続きした例がないという た。キャンプ用の椅子に立て膝でふんぞり返り、隣のプース この席の代々の前任者たちが、何の思い入れもなく受け継い の店主と軽口をたたきあっている。私はテントの軒下に入っ できたのがよくわかる物ばかりだった。小物を整理する容器 た。彼は自信ありげに「こんにちは」と言った。 はお菓子の空き箱だったし、かって誰かの貯金箱だったと思 陳列された商品がアクセサリーとそれ以外とに二分される しき「 \ 」「 $ 」模様の筆立てには、「創立五十周年記念」 のは誰の目にも明らかだ。「それ以外」の中で二分すること 「やめよう違法駐輪」と印刷されたペンに紛れて、埃をか が今日の私の任務だが、 ますは挨拶程度にごっいデザインの ぶった造花が一本挿されていた。別のものに取り替えられて ネックレスを手に取った。元夫は、・ とう考えても自分のプラ いっても、何の末練もなかった。ただ、洗練されたきれいな ンドが似合いそうにない客相手に、「それつけるだけで雰囲もので統一されていくのではなく、どちらがましとも言いか 気がらっと変わるから。新しい自分になれますよ」とそっな ねるものに更新されていくのには、首をかしげた。どれも簡 く丸い鏡を向けてみたりした。私はちょっと笑い、「それ以単には見つかりそうにないデザインなのだ。水墨画の描かれ 外」に視線をずらして「そのデスクライト素敵ですね」と たホチキス、豆電球型のオプジェがぶらさがった修正液、錦 言った。 鯉を模した消しゴム、多肉植物に似せた鉛筆削り、ロシア語 「そうでしよ、貰い物でね。新品同様ですよ」 の詩がプリントされたテープカッター、青い鰐の文鎮。従来 でも結城さんからの贈り物ではない。私にはわかる。ここ の事務用品とすり替わっていくのみならず、単に追加されて挨 のアクセサリーと馴染みそうな肌の、二人連れの女性客が足 いくものもまれにあった。輪ゴムにまじっていた白鷺の帯へ をとめ、元夫が接客に本腰を入れ始めた。その隙に私は少し留。クリップ入れだと見当をつけて漆塗りの小箱を開けた房 姿 俯き、一気に集中して、私たちの事務机を思い起こした。 ら、極彩色の異常に小さい毛糸玉がぎっしり詰まっていて、 絵 結城さんは自分の所有物にこだわりがある人だ。 思わず周囲を窺いながら蓋を閉めたこともある。付箋やスタ 前任者が残していった、筆立てやブックスタンドやクリッ ンプといった小物の整理には結城さんも空き箱を使う。しか