、つ意味か : : とか 一通り受け入れないでもないが、最後のだけはどういう意味だというのか。 かたべ : ひょっとしてピーちゃんに手を握られていた辺りのことを語り部連中が面白おかし きやくしよく く脚色して大変な事態を招いているのではないか : のうり モルトの脳裏におぞましい想像が浮かんだものの : : : 怖かったので、とりあえず考えな いことにした。 いっしゅん ふっしよく 何より仮にそうだとしても、一瞬でそれを払拭することは可能である。 モルトはキリッとした顔でクラツツの手を取った。 うれ 「 : : : でも、そんな俺を信じ、こうして看病に来てくれた : : : 嬉しいよ、クラツツ。どう うわさ 2 だろう、そんな噂を払拭するためにも俺達、そろそろーー痛い ーも ど ペちっと、クラツツはモルトの頭を叩いた。 カ ノ 「さて、帰ろうかな」 の 都「もう少しいて欲しいな」 雄 英「いや、帰れよ 声は意外な方向から聞こえ、モルトはクラツッと共に見やれば : : : そこにいたのはヨレ めがね ョレの白衣に、 : ホサポサのショートボブをした眼鏡の女。 う 0 こわ おもしろ
ひとかわむ 生意気で、年齢の割にしつかりし過ぎていて、そのくせして一皮剥けば弱々しい幼い少 女が顔を出す。どちらが本当の彼女なのか、長い付き合いのクラツツでもわからない。多 分、本人もわからないだろう。 モル . 、「は : : ど、つなのだろ、つ ? 「ん ? どうしたクラツツ。窓から落ちるぞ。危ないなあ。どれ、俺が : モルトが着替えて来たようだ。クラツツははいはい、 と応じながら窓を閉め : : : よ、つと かんしよく したのだが、 尻を据で上げる感触に「うひやっ」と声が上がった。 そして、窓の縁に置いてあったカナヅチを反射的につかむと、クラツツは何ら躊躇いの いちげき ない、殺意一辺倒の一撃をニャニヤしていたモルトに放ったのだった。 ワ」 目の前でガタイのいい男が頭から血を噴き出しながら倒れていき、カーテンを押しのけ、 ーも おおかぶ みぞおち どェビだかの女神の上に覆い被さった : : というか、モルトの肘が女神の鳩尾に入り、彼女 なぞうめ もまた「オプチッ ! 」と謎の呻きを上げ、二人が同時にべッドから落ちて病院の床を転が 都ったのだった。 雄あら あしもと 英荒い息のまま、今一度血に濡れたカナヅチを手にしたクラツッと、その足下に転がった こいびとうわき 男女二人。まるで恋人の浮気を目撃し、激情に駆られてついやらかしてしまった殺人事件 かのような状態であった。 めがみ ねんれい か たお ひじ ゆか
さまよ すみすきま モルトは視線を彷徨わせ、カウンターの隅の隙間をめざとく見つけると、まだ日暮れ前 つぶ だというのに飲んだくれて潰れかかっている爺さんを押しのけ、席を確保する。 「どうせ一杯たかりに来たんでしょ ? 無一文で」 「 : ・・ : 何でそ、つ思、つんだよ」 「さっきリツツちゃん来てたの。モルトが来たら確実に無一文だからさっさと追い返して って言われてるからねー こむすめ 「おいおいクラツツ、たかだか一二歳の小娘と目の前にいる二十代のイケメンと、どちら の言葉を信用するというんだ ? 」 「じゃお金持ってる ? まど まぶ っ乙 ・ : 今日のクラツツ、一段と綺麗だよ。眩しい程だ」 すなお い」 「うん、素直でよろしい。はい、、 お水」 カ ノ そう言ってクラツツはグラスを乱暴に置いて、さっさと他の客のためにシェイカーを振 の 都り始めてしまうのだった。 雄 : 別に媚びを売ったわけでもないんだけどな」 かたむ くちびるしめ 苦笑しつつグラスを傾け、水で唇を湿らせると、モルトはカウンターの向こうで働くク ラツツを見る。 きれい ほか
モルトとやら、頼むぞ。女神はモルトに声を掛けると共に、人々の視線の中、席を立つ。 さかびん 3 彼女と共に店を出ようとする際、モルトはクラツツから小ぶりな酒瓶とサンドウィッチ おそ わた を渡されたが : : : 恐らくは、事の成り行きを隠れながら見ていたグレーンからの差し入れ だろ、つと、モルトは察した。 「恐らく魔獣が出るようになったのは、辺り一帯が戦火で焼かれたせいだろう。荒れ地と なっては魔獣とて暮らせぬ。山に逃げ込み、そして神殿の中に入り込んだのだろうな」 そんな女神の話を聞きながらモルトは山の階段を上っていた。 ぼん いっしゅう やじうま 議員や野次馬達は女神に「見送りはいらぬ」と一蹴されると共に、歪んだ盆を持ったク きようはくまが ラツツから椅子に座った以上は必ず何か注文しなければ店から出さない、と脅迫紛いに言 われたがために、今は二人だけだった。 うすぎ 薄着の美女と男、モルトが手にした魔光球が収まるランタンを提げているとはいえ、暗 い階段を上り行くというのは : : : その後の展開をいろいろと考えさせるものだが、さすが に意識混濁から目覚めて数時間の今のモルトに手を出す気力はなかった。 たの
あえ リツッと二人で身を震わせ、モルトは喘ぐ。 しつかりと焼かれた肉汁の旨味はもちろんのこと、ネギの甘い汁がたまらない。先程の 牛肉巻きにあった刺激などこれつほっちもなく、ただただ、とろりと甘い。 くだもの なめ 砂糖菓子や果物の持っ甘さとはひと味もふた味も違う、その滑らかな甘さ。 のうみつ しかもその味わいは牛肉の脂とぶつかることなく咀嚼するに交じり合 い、濃密な旨味へ つぶ と繋がっていく。さらに多めに岩塩の粗い粒が、ロ内でそれらの汁に溶け、塩味を強めに 発揮するのだが : : : それがまた甘味や旨味を底上げするのだ。 しおから 二種の食材に塩だけのシンプルな料理だが、岩塩の塩辛さが素材の味を引き立て、味わ モルト おどろ いに箔を付け、頭で想像していた以上に強い味わいとなって喰い手を驚かせる。 ひね これも当然のように、うまい。しかしやはりリツツは難しい顔をして首を捻る。 たず ど どう ? と、クラツツが視線で尋ねてくるので、モルトは頷いて応じた。 カ 「うまいよ。串で出てくるのも一々フォークを持たなくていいから楽だし」 都あのさ、とリツツが難しい顔のまま、どこか不満げに口を択んだ。 英「どっちもおいしいと田 5 、つけど : : : 味、濃すぎない ? それにパンとかにも合わなそ、つ。 というか、多分、この長ネギって食材自体がパンに合わないと思う。サラダにも : 案の定のリツツの意見に、モルトは笑いを堪えつつ、クラツッと顔を合わせる。そして、 つな ふる こら
めとした大勢の街の人間達である。 あんびてい たた ちなみに安美亭の看板娘にして、とりあえずモルトが肘打ちを叩き込んだ責任もあると えいゅう して仕方なしにエビーザを店に連れてきたクラツッと、今年の英雄が一人にして彼女を地 下より連れ出してきたグレーンもまた穏やかではいられない。 大衆酒場らしく広い店内は人という人でごった返しているものの : : : 誰も彼もがエビー ザの話に注目する余り、日が落ちて幾らも経つのに誰も食事や酒を注文しないのだ。席が 埋まって立ち見が出ている以上、新しい客も入って来られす、開店休業状態である。 すみ いしやりよう そんな店内のカウンターの隅にて、新しい包帯を頭に巻いたモルトは、慰謝料代わりに いつ、はい びんぼう クラツツからウイスキーを一杯いただいたので、それをチビチビと貧乏たらしく舐めつつ 事の成り行きを見ていた。 ど医者からしばらく酒を止められていた気もしたが、グラスの中の琥珀色の方がそれより もはるかに、つまくモルトを従える。 の 都本当ならばリツツに頭を下げに行った方がいいのかもしれないが : : : 何分、自分達が連 英れてきてしまったエビーザが気になる : : : という建前の元、問題を先送りにしていた。 かぎか 帰宅したら鍵が替えられている可能性が十二分にある。そんな哀しみを急いで味わうこ ほうじゅんかお ともない。今は芳醇な香りに身を委ねていたかった。 ゆだ こはくいろ だれ 4 な
290 やはり無毛の女の方こそどうにかせんとなあ、とポャきながら彼女は病室を出て行った。 クラツツは大きく息を吐くと、わずかに開いていた窓を大きく開けた。 「 : : : だってさ」 反応はない。 わきがいへき うつむ チラリと横目で見やれば、窓の脇の外壁に体を預け、俯いているリツツがいた さみ ほほえ 哀しげで、寂しげな彼女を見ていると、クラツツは思わす微笑んでしまう。 「もう、いいかな ? そろそろ夜のお店の用意しないといけないのよ。お祭り後はお客さ んが多くってねー」 「 : ・・ : ありがと、クラツツ」 「あとは自分で、しつかり、ね。できるわよね ? 」 ・え、、つ、、つん : あ、いや、でも : 「はっきりしないなあ」 クラツツは窓からいくらか身を乗り出して、リツツの頭を撫で、笑ってみせる。 「だってだって。そんなことばかり言ってちやダメだって」 相も変わらずかわいい子だと、クラツツは思う。
あめいろ その薄切り牛肉は飴色のタレを纏い、それに包まれるようにして、食む前からシャキシ しんせん のぞ ヤキという食感を予見させる新鮮な長ネギの千切りが顔を覗かせていた。 きんばっ クラツツが右目にかかっている金髪を軽く掻き上げると、尻を突き出すようにしてテー あご うわめづか プルに両肘を突いて、その手の上に細い顎を置き、モルトの顔を上目遣いのようにして見 てくる。 コルセット・ベストで強調されているクラツツの胸が重力という名の友を得て、なお強 だれ 調される。花屋を営むオリービーのように素で豊満さが誰しもに伝わる大物は当然大好物 だが、クラツツのように程良いサイズの胸を強調させているのも、またそれとは違う美し さと好ましさを持つものだと、モルトは田 5 う。 むなもと 2 モルトはそんなことを考えながら、リツツにバレない程度にクラツツの胸一兀へ視線を どわせた。 当のクラツツは気付いているだろうが、彼女の場合見られるのも仕事の内だと一七歳で 都ありながら達観しているので、嫌がることはない。 英そういったところもめて、彼女はモルト好みな女である。 っ 「それはタレに漬け込んだ薄切り肉で、千切りにして水に晒した生の長ネギを包んで軽く 焼いて、最後に煮詰めたタレをもう一度かけたもの」 さら
一杯注がせるべきだった。あとはツケだろうが何だろうがどうとでもなったものを 男達が噛み合っているのか噛み合っていないのかわからない会話をしている間に、出発 時間になったらしく、クラツツがリュックを背負い始めた。 「携行用の魔光棒なら、うちの店にあるけど。サシャ達、使う ? 」 「クラツツ : : : 君のその優しさを私は神々からの贈り物だと信じて疑わないよ」 さかだる 「クラツツ : : : 君のその優しさで俺に酒樽からの贈り物をくれると信じて疑わないぜ」 あさ クラツツは男達の言葉に何ら反応することなく、カウンターの下をごそごそと漁り、ガ せんたんそ ラス玉を先端に添えた小型の杖のような、二〇センチほどの棒状のものを二本出す。それ てわた を一本をサシャに手渡し、そしてもう一本でモルトの頭を叩いてからカウンターに置いた。 こ・つこう モルトが不満げにしつつも先端部をこすると、棒の先が煌々と光り出す。 ど店の非常灯用のものらしいが、これなら十分使えそうだ。 しゅうてん しいから。壊さないでね」 「魔カ満充填して返してくれれば、 アイテムひも 都その魔光棒は紐も付いていて、首からかけておくこともできる物で、地下にるには丁 雄 英度良さそうなアイテムだった。 「ありがとうクラツツ。後はこの魔導具で居場所を特定すれば仕事は終わったも同然だ ライム風味の水をちびりちびり口にするモルトをよそに、美男美女の二人のやり取りが っ か っえ こわ
ど「ねえ、先生、さすがに厳しくない ? モルト、結構 : : : その、アレだったんでしょ ? ためら 少し躊躇いがちに訊いたクラツツに、ソイは「はんツ」と小鹿にしたような声を返し の 市 、」 0 雄 英「病院で寝てようが、家で寝てようが変わらんさ。何より少し調べりやわかるが、アイツ ほか はそんなャワな体はしていない。他の奴ならともかく、あの何でも屋の体なら大した怪我 じゃないのさ。 : そこの小さいのにもそう伝えておけ そんなことを一一 = ロわれても、とモルトとクラツツは少々顔を見合わせた。 くさ 「怪我や病で意識がないわけじゃないのが面倒臭い。起こしようがない。医者の出番じゃ ないだろう」 「そう愚痴られても : あー、ともかく着替えるかな。 : そういや、俺の服は ? 」 「あ、それならあたしが預かってる」 わた はい、とクラツツから服が渡されたので、モルトは更衣室にて病衣から着替える。 誰の手によるものかわからないが、すっかり洗ってあって、気持ちが良かった。 っ 0 きが こうい