特殊な街であるくせに、どこにでもありそうな、ありふれた : : : そんな街。 きょてん 辺境の地にある、物流の重要拠点たる街。しかしながらそうであるが故に様々な人や物 が入り込み、誰もが故郷を思い出せる不可思議な街ともなっていた。 旅人や商人にとっては、この街を訪れることが首都間の旅における最大の楽しみだとす る者も少なくない。 様々な土地の人が行き交い、様々な物産が取引され、そして : : : それら以外の望まれざ るものもまた : 毎日のように巻き起こる様々な事件、事故、問題 だがそれでもなお、そこに住む人達にとって、全ては当たり前の日常でしかない。 どそれが、リキュールという街なのだ。 カ の 市 都 雄 英
178 遠方からやって来た屋台の売り子が声を張り上げ、クジ引きで良い物が当たった時だけ たた 使われるべルがけたたましく鳴り、大道芸人が球体の上で笛を吹き、ドラが叩かれ、子供 ろうにやくなんによ はくしゆかんせい あふ が歌声を上げ、人々の拍手と歓声が上がり、老若男女の笑い声と雑談が溢れ : : : 様々な音 が混じり合い、独特の音楽が作られている。 : 前日だというのに、すでに それらに人々の活気と明日への期待と興奮が混ざり合い : リキュールの街ではク祭りクの雰囲気が生まれつつあった。 せいだい モルトは、こういう空気が何より好きだ。年に何回もない、盛大な大騒ぎ : : : 街が、生 きているのを感じる。そして、その中を歩くだけで自分もまたその街、そしてその祭りの ワンピースなのだと思えて、不思議な心地良さを感じるのだ。 : たとえ、金がなかろ、つとも。 これで夜ともなれば、行き来は難しくなるほどだ。とはいえ、それはこのリキュールの じゅうたい 街の中央部、アルコ・ホールと呼ばれるエリアだけであり、それを除けば渋滞が起こるよ うなことはないので、街の人間ほど裏道を使う。 夜に比べればまだマシとはいえ、今でも十分な混雑具合。それなのにモルトがあえて人 ながえとうかっ 混みの中を長柄刀を担いで歩いているのは、何も祭りが好きだからというだけではない。 トラブルを求めているのだ。 おおさわ
180 しんし 十中八九彼らは街の外の人間だろう。酒が入っているのかもしれない そこに「どうした」という、自警団の声が上がるわけなのだが : : : それは、若き自警 団団長ライのものだ。 その小柄な風貌が人混みをかき分けていくのを見た街の住人達は、さらに苦笑した。 よりにもよって、運のない : ・ : と。住民達はこの後の展開を想像して、男達に同情した。 : で、ど、つしたんだ ? 」 「よせよ、折角の祭り前なんだ。 邪魔すんじゃねえよリぶつ殺すぞリ なんだあ、このちっせえガキはよお。 きた むだ かけら ライの外見は無駄など欠片もない鍛え上げられた体をしているものの : : : 服の上からは あまいろかみ わかりづらく、また姉のオリービーと同じ温かみのある亜麻色の髪に童顔とあって : : : と しつねんれい いうか実年齢からして一八歳なので、もはや長柄刀を担いでいるだけの少年にしか見えな いのは致し方なかった。 ライは自分がこの街の自警団団長であり、大通りでもめ事を起こすのは見過ごせないと よそもの わかりました」と応じる 真摯な対応をするのだが : : : 当然、彼に対して余所者が「はい、 わけもない あ ぶつはー 笑えるぜ、この街の自警団ってのはガキを担いでるのかよ ガキは家でママのおつばいで れか、そんだけ平和な街だってアピールしたいのか こがらふ・つぼう じゃま くしょ・つ
そこは、リキュールとい、つ街。 山の麓にある、小さくも人で賑わい、物が大きく行き交う街。 なぜ どこぞの国の首都ならいざ知らず、何故、こんな辺境の地に、山の湧き水を利用した上 水道はもちろん、下水道まで整備された街があるのか : : : 遠方の人間からすると不思議に 見えるはずだった。 この不可思議な街の活気の秘密、それはそこを択む二つの大国にあった。 ワ】 さらち 、も 一〇〇〇年もの昔、森を更地に、更地を砂測へ変えるほどの大戦争を行ったロテ国とオ い」 おもわく ひんばん カ ードビー国。かって大戦争を行った二カ国ではあったが、今や王族は政略の思惑なく頻繁 あいだがら 市に姻戚関係を結ぶほどの間柄となり、両国の国境は実質的にないに等しいまでになってい 雄た。 きずあと がつべい だが、それらの間には戦争の傷跡が今もなお残り、不毛の土地は合併に対する厚い壁と して数百年を過ぎてもなお変わらずにあり続け、人が生活を為せる土地になるまでさらに いんせき ふもと ・あらすじ にぎ
「しつかし、こうなると仕事を探すどころじゃねえなあ。自警団め、マメに仕事しやがっ てか、りに 人が増えれば比例して数を増すのがトラブルだ。 、そんなことは何でも屋であるモルト以外も当然承知であり、見知った同業者が徘 徊しているのはもちろん、それ以上の数で、街の治安を預かる自警団の連中が目に付く。 この街の伝統的な武器であり、モルトもまた現在肩に担いでいる一八〇センチにもなる 長柄刀は人混みの中では異様に目立つ。 そしてそれを持っ連中はどこかで罵声が上がろうものなら、何でも屋よりも早くに現場 へ駆けつける。彼らの勤勉さこそ、何でも屋にとって最大の敵と一一一一口えた。 なんだコノヤロウ おおうおおおう、威勢がいいじゃねえか ! 一発やるか どこのお どせい 人混みの向こうから怒声。身長がやや高いモルトには、かろうじて二人の男が胸ぐらを の 都つかみ合っているのが見えた。 雄 ちが 英罵声を聞く限りだと、道ですれ違う際にぶつかり、それで : : : ということらしい この街の大通りでよくもまあ大声を出せるものだと、モルトだけならず、罵声を聞いて だれ いた街の住人は誰もが思う。 むな
まったく違う二人でありながら、その胸に抱く願いだけは同じ : : : 。何とも不思議で、 ほほえ そしてどこか温かい気分になって、自然と微笑みが漏れてしまう。 「依頼はわかった。任せろヌヴォー この何でも屋であるモルトが思う存分女のおつばい を揉ませてやる。そうと決まればまずは店の予約だリ」 「あ、お店はダメです , 「任せろって。お前が一三歳だとしても、うまいこと潜り込ませてやる」 英雄都市とも言われるこのリキュールは、大国の首都間を結ぶ最短ルート上に存在する えいきよう こうや 街である。北にある山と森を除けば、街の周辺は大戦時の影響で広大な不毛の荒野と成り 果てているため、どれほどの命知らずとて街を通らずに旅をすることは望まない、そんな ど当然、行き交う旅人は多く、彼らを相手にする商人達もまた群れを成す。 カ そして、そんな賑やかな街であれば、当然ながらク大人のお店もあるのだが、無論、 の 市未成年は入ることはできなかった。 から : そういうお金が絡む感じの、プロの方々はちょっと避けたい 英「いえ、違うんです。 「何だ、差別は良くないぞ、ヌヴォー。おつばいは平等におつばいだ」 「モルトさん、よく見てください。僕です。僕を見るんですー 、えいゅ・つ
とうたっ 最後に地下神殿最下層の二九階に到達したのは、実はもう一〇年近く前で、それ以来い とちゅう かいそう つも途中で全パーティが潰走している有様であり、当然のように我人続出、それ以上も ひど 出てくるし : : : 酷い時になると、地下から逃げてくるパーティを追い掛けて大量の魔獣が おそ 山を下って街を襲ったり : : と、なかなかに笑えないエピソード が盛りだくさんである。 ちなみにリキュール図書館にある『リキュールの歴史』コーナーにはそういった内容が 綿密に記録された書物が並んでいるが、それを目当てに街を訪れる者も少なくないほどに ハンチの効いた内容であったりする。 この祭り、やはり裸同然であるということに加え、武器がないというのがあまりに苦し けんよろい いのだ。魔獣は爪や角、場合によってはどこぞから持ち込んだ剣や鎧を着ている場合すら 2 ある。 、も ど「モルトさんは参加なさるのですわね。では : : : そちらのサシャさんは ? 」 : さすがにあんなのは : : : 」 「私は不参加です。 市 サシャが見やった先には、褌姿で腕を組み、横一列になって観客の間を抜けてくる漢達。 よ - つけい 雄 英街外れで養鶏場を営むサケノッグ、トマト栽堆を生きがいとするトマトマ、そして街の あら しゃてい 荒くれ者であるジンとその舎弟であるジュニバーだ。 」は′、」はっ や そろ ジュニバ ーこそ白髪色白の美少年然とした痩せつほっちだが、他の三人は揃えたように つめつの おとず か
「ライだ。噂は聞いてるだろ。オリービーさんに手を出そうとしたら、アイツに身も心も ャられちまうぞ」 かつやく えいけっ わざ かっての大戦時で活躍した英傑達の技と伝統を受け継いだリキュール自警団、それをわ ずか一八歳の身で治める男である。その実力は街でも五本の指に入るとされていた。 モルトにとっては年下の兄弟子であり、一時は相棒という間柄でもあった。 「モルト、丁度良かった ! アパートで寝ていたら引っ張っていこうと思ってたんだ」 0 確かに三番街にはモルトが住む三階建てのアパートもあるのだが : 「何だ、ライ。デカい事件でも起こったか ? 」 まじゅ・つ きょ・つは」・つ 「街の外れで魔獣の群れが出た。山を下ってきたらしい。狂暴な種じゃないらしいけど、 ワ」 数が多いみたいだ。とにかく人手が必要 : : : なんだけど、仕事中か ? ど魔獣が現れるのはこの街では比較的よくあることだ。他の土地ならば大騒ぎになるだろ カ バうが、リキュールならば自警団だけで十分な対処が可能である。 市人類が扱える武器ではないとさえ言われる、リキュール伝統の巨大な長柄刀は、魔獣相 英手ならば百の剣より頼りになった。 じゃま 「仕事中なら仕方ねえや。邪魔はしたくないしさ」 悪いな、とモルトがロにすると、ライは幼げな笑顔を向けて来る。 あっか たよ ひかくてき っ きょだい
376 一人苦笑した。 あさって あした : 働こう。明日も、明後日も。そしてその次の日も。 いっしょ 稼いで、家賃を払って、飲み喰いして : : : そして、みんなと一緒に笑って生きていこう。 この街で。このリキュールで。この、アルコ・ホール三番街のアパートで。 風が部屋に入り込む。 山から吹く風は、どこかもう、秋の匂いがした。 かせ にお
英雄都市のバカども 2 173 街が の リ 何リ モち祭 街 . のほ ア ッ と をツ ルより 飾と の 力、ル ッ 偉ッ り ん 大 トろっ らコ 付 が そ は ど 動 ろ はいて は 呆 自 っ な 脈 お の け で ホ 金 去 は た 明あー に い モ 。顔 い も カゝ せ る 日たル で ら ル ま い ち い 大カ で 月要 顔 も だ ら 番 ト だ ろ 通 を 先渡 手 の街 ん ん り 上 月 さ を だ 、お しこ 癶 に げ 分 れ当 欠 か面 り あ ま て 仕 た り げ る し に る 事 で お 目 て 備 で ア の 金 が 当 ふ 力、 ワ ノヾ し ) ス - 分 を ん そ て な ン る る り の 街 ト で算 り 遠広 も ら の の し 返 中 方 そ様 々 ス よ と に っ 子階 の い な い り 見みだ カゞ フ の 訪渡たが く よ 角 ら れずせ 月 ら く 立に 、そ 見屋 で た 左 を も ・つ た 転 達 る よ た 昼 ⅱ月い の所 り 。過 カゞ っ 姿 に も ぎ た る て ま 皿 周 の で ち り る 日 つ け 。見 並 に 差 家 び し て 賃取始階 み を ま が ぐ め ま 取 れ 揺 ら る た り あ で い 。屋 あ 込 た ち 台 る む か や 建 よ そ ろ - つらなし ・第四話『お祭り前夜と占い師』