佐藤 - みる会図書館


検索対象: 遠く6マイルの彼女
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1. 遠く6マイルの彼女

250 「なに言ってるのよ。もうキスだってしたのよ」 「ほんと ? 」 「無理やりだよ。っていうかあんなのキスのうちに入らないから。安心しろ、佐藤」 べんかい 俺は佐藤が憐れで、思わず弁解した。 でも佐藤はもう、しどろもどろである。カオルはすまなさそうに呟いた。 「だからムリ。ごめんね」 佐藤はほんとにがつくりきた様子で、頭をかきながら出て行った。啓介がまいったな、とい った調子で頭をかいた。 それから啓介はカオルに向き直った。 「なあカオル 「なによー」 「少しは、気を遣え」 啓介は、そんな風に言った。カオルは首を振る。 「どうしてあたしが佐藤に気を遣わなきゃなんないのよ」 啓介は、ちょっと考え込んだ。それから、言った。 けっこう 「お前、結構好きだろ。実は」 「な、なに言ってんのよ ! 」 あわ つぶや

2. 遠く6マイルの彼女

164 わす 「そりやそうだ。一冬置いたら機械だって自分の仕事を忘れちまうよ」 おれ りゅうねんげんじっすがた 俺がそういうと、啓介は笑った。なんとなくほっとした。留年が現実の姿をとり、生活の中 に人り込んできて落ち込んでた俺は、初めて「まあなんとかなるさ」という気分になれた。そ んな風にほっとできる笑顔を見せてくれるヤツは少ない。 ここち そんなしんみりしつつも心地よい空気が、野太い声で吹っ飛んだ。 「啓介、やつばモンキーのタンクなかったわ」 工業の佐藤だった。啓介とおそろいのツナギを着ている。俺は驚いた。ここに入り浸ってい あまみや るのは知っていたが、今年の春卒業したあと、『雨宮輪店』のロゴが入ったツナギを着るよう になっていたことまでは知らなかった。 「よおケン」恥ずかしそうに、佐藤は言った。 「よおじゃねえだろ。お前実家を継ぐんじゃなかったのかよ」 「やめた」 「やめたってお前」 「いや、考えてみりや俺、バイク好きだし。とりあえず好きなことやろうかなって」 しぐさ そういうと佐藤は恥ずかしそうに頭をかいた。ゴリラみたいな顔つきの佐藤がそういう仕草 をすると、気持ちが悪い。そこにカオルが帰ってきた。 「なによケン。ウチに来るならそう言ってよ。ドカの後ろに乗せてあげたのに」 さと、つ のぶと おどろ

3. 遠く6マイルの彼女

北村と約束したレースの日は、きっかり一週間後の深夜一一時だった。 びた かたあし 俺は学校をさ・ほり、ほとんど啓介の家に入り浸った。啓介は片足が不自由なので、必ず助手 わずら がいる。佐藤やカオルの手を煩わすのもなんなので、俺は自分で手伝うことにした。 こ、つき むちゃ 三年の後期となれば、ほとんど自習の時間で出席なんかとらない。だからそんな無茶もでき た。京子さんから何回か電話がかかってきたが、俺は無視した。 いまさら わす 今更話すことなんかなんにもない。早く忘れたい。 啓介のオヤジは、昔ドラッグレースをやってたらしい。その頃使ってた、ドラッグ仕様の N のエンジンが出てきた。 1400CC までボアアップした化け物エンジンだ。 ちょうし そっから使える部品を取り出し、啓介はパンクを修理するような調子で、俺ののエンジ ンを組み始めた。 はいきりよう 女「パワーあげるのって、結局排気量をあけるしかねえからなあ」 つぶや がそんなわかりきったことを呟きながら、つまらなそうに啓介はエンジンを組んだ。俺がじっ イと見てるので、何かをしゃべりながらじゃないと間が持たないんだろう。 そんな風に N を組んでいると、佐藤とカオルが連れ立ってやってきた。二人で走りに行って 遠こらしい 「佐藤、あんた本気でやってんの ? 」 「やってますよ ! ーと敬語の佐藤。 けい′」 しゅうり

4. 遠く6マイルの彼女

110 けい亠 , 2 リ ひさ 冬休みが近づくある日の放課後、俺は久しぶりに啓介の家に行った。 啓介の家は、南北に細長いこの市の山側を通る国道に面している。学校から、バスで三十分 あまみや はさ くっ ぐらいの距離だ。コンビ = と靴の量販店に挟まれて、雨宮輪店と錆びた看板が立っている。店 の中はほとんど自転車だ。・ハイクはもう売れねえ、と啓介はいつもぼやいている。それはきっ と真実だ。でも、自転車もあんまり売れないらしい きっさてん 俺の代になったら商売替えをする、と啓介は言っている。その提案を受けて、喫茶店がいい とカオルは言っているらしい。カオルがコーヒーを淹れるぐらいなら、自転車売ってる方がマ シだと思う。 俺が店内に入ると、自転車の。 ( ンクを直していた啓介が顔をあげた。啓介は大体、まっすぐ 家に帰ってきて、家の仕事を手伝っている。えらいャツだと思う。そこに見慣れた顔を見つけ おどろ て、俺はちょっと驚いた。工業の佐藤だった。佐藤は俺を見ると、よ、よお、と気まずげに挨 さっ 拶をよこしてきた。 「なんでお前がいるの ? 」 しぐさ きょ一つあく にあ いやあ、と佐藤は頭をかいた。そのシャイな仕草が、凶悪な顔に似合わない。啓介が、佐藤 がいる理由を説明した。 「ウチでバイクいじってんだよ」 初耳だった。 ていあん かんばん みな

5. 遠く6マイルの彼女

しゅんかん ちよくりつ カオルを見た瞬間、佐藤は直立した。 じよう 「お帰りなさい。お嬢さん」 「お嬢さんってなによ ! やめてって言ってるじゃないよ ! 」 じゅうぎよういん いや、その、自分この店の従業員ですんで。お嬢さんはお嬢さんですんで」 佐藤はしどろもどろになりながら、顔を真っ赤にして言った。好きなのは、、ハイクだけじゃな くしよう いらしい。なんともわかりやすいャツだなあと思いながら、俺は苦笑した。 カオルは「お茶でも淹れてくるわ」となんだか疲れた声で奥へと消えた。いやお茶なら従業 員の自分が、と佐藤があとに続く。 あにき 「お前、あれに兄貴って呼ばれるようになってもいいのか ? 」 かぶりふ 俺がそういうと、啓介は頭を振った。 女「ま、それはねえだろ」 が「だよなあ、いくらカオルだって、趣味ってもんがあるだろうしなあ」 こま つぶや イ 啓介は困ったように頭をかいたあと、話題を変えるように呟いた。 マ 「ところでお前、足なくてこまんないのか ? 」 遠「 ( イク ? もういいよ。兄貴のはつぶしちゃったし」 「じゃあなんでウチにくんだよ」 「お前がいるから」 しゆみ つか

6. 遠く6マイルの彼女

すとんきよう けっこう いつの間にか結構仲良くなってたらしい。カオルは啓介がいじっているを見て素っ頓狂 な声をあげた。 「うわ ! ケン ! いじってる ! どゅこと ! 」 佐藤が積まれたエンジイフロックのボアに気づき、 「なんだお前、 ドラッグでもやんのフ 「レースすんだって」と啓介が俺の代わりに答えた。 うれ カオルは嬉しそうに笑った。 「やった ! 昔のケンがかえってきた ! 」 たんじゅん 佐藤はそれほど単純じゃなかった。啓介から、俺がかってで 245 を吹っ飛ばしてい た理由を聞いていたらしく、心配そうな顔つきになる。 、と思うけどな。俺が言う 「なにがあったか知らねえけど、そういうことは卒業したほうがいし のもなんだけど」 二時間ほど佐藤はいたけど、そのうちに帰っていった。カオルも眠いと言って二階へ消える。 ふたた 再び、俺と啓介は二人きりになった。 北村との約束の日は明後日だった。 「もし、待ち合わせの場所にあいつが来なかったら、俺、すけえ間抜けだな」 誰に言うでもなく呟いた。 まぬ ねむ

7. 遠く6マイルの彼女

どうじよう そこまで嫌がられるなんて、なんて不憫なャツなんだ、と俺は佐藤に同情した。顔か。それ だけじゃない気もする。まあ、なんにせよ不幸なャツには違いない。俺もこんな風に京子さん に思われてるのかもしれないなんて思ったら、どっと疲れた。 「そこまで言ったら、佐藤がかわいそうじゃねえか」 「関係ないもん。あたしは、あたしは : : : 」 なんだかャパイ人みたいに、カオルはぶつぶっと呟き始めた。 「どうした ? 」 そういうとカオルは、俺の胸倉をがっ ! とっかんだ。 「ねえ ! なんなのつ ! あんたっー 「どうしてわっかんないわけえ ? あたしがバイクに乗ってんのも、佐藤とレースをしたがっ たいいん たのも ! あんたが退院したとき迎えに行ってやったのも ! こんなバカみたいな髪形にして るのも ! 」 カオルは怒りに燃えた目で俺を睨んでいる。 「あんたが好きだからでしよお ! 」 どな われ かか とっぜん おどろ そこまで怒鳴ると、カオルは我に返ったらしく、突然頭を抱えた。俺はその告白に驚いて、 いきおふんいき けっとう じっとカオルを見つめた。というか告白というより、勢いと雰囲気は決闘の申し込みに近い も むなぐら むか にら ふびん っや

8. 遠く6マイルの彼女

京子さんは有無を言わさぬ調子でそれだけ言うと、車に乗り込んだ。ファミレスで安い飯を そそくさと食べると、不機嫌な様子で京子さんは帰っていった。 キタムラという人物の人となりがわかったのは、カオルたちとスケートに出かけた日だった。 うめたてち ほようしせつ おんせん 海岸沿いの埋立地に、保養施設のようなものがある。スケート場はその中にあった。温泉や、 レストランなんかもついている。休みになると家族連れでにぎわう、そんな場所だった。 なぐさ たいぎめいん うれ ふくざっ 留年した俺を慰めるという大義名分がついていた。気持ちは嬉しいが、複雑だ。 しばらく滑ったあと、俺はべンチに座って皆が滑るのをじっと見ていた。 す カオルは啓介を、椅子のようなソリに乗っけてきゃあきゃあ騒いでいる。工業の佐藤は、ホ ッケー用の靴をはいて、華麗なターンを見せていた。 あず 女そのうちにカオルは、啓介のソリを佐藤に預け、俺が座ったべンチのところまでやってきた。 ' の「滑らないの ? 」 たず イカオルが尋ねる。俺は頷いた。慣れないスケートなんかしたおかげで、足首が痛い。 「佐藤のヤツ、卒業したら、。ハイク屋になりたいんだって。物好きよね」 「いいじゃん。人は人、だ」 「そうだよね。ケンはさ、来年どーすんの ? 」 「とりあえず、勉強して大学行こうかな、と」 くっ かれい づ さわ

9. 遠く6マイルの彼女

わ。手を握ったけど拒まない、拒むほどのことじゃないし : : : 、妥協よ」 「う : なんか一発でやり込められて、俺は言葉につまる。 「ハカね。ケンはすつごく・ハカ ! ね ! 」 いちいち区切られて言われた。 バカじゃねえそ : : : 」 カオルは赤い。ハーカーのポケットに手を突っ込み、上下にぐいぐいとゆらした。そしてその からだ まま、俺に身体をぶつけるようにしてすりついてきた。 「だからあたしにしなって」 しゅんかん フレーキキャリバ ーの取り付けにてこずっていた佐藤がものすご カオルがそう言った瞬間、。 女い顔になった。 いやカオルさん ! ' の「なにそれ ! ちょっと待て ! おい、どういうこと ? おいカオルー イあなたってもしかして : : : 」 きようあく ひか 控えめに言って凶悪な顔の佐藤が、『あなた』という単語を使うとしまらない。カオルは にがにが 遠苦々しい顔で言った。 「なんで今ごろ気づくの ? あんたって」 : 、だって、そんな、ケンだなんて : まったく、考えたことすら : だきょ - っ さとう

10. 遠く6マイルの彼女

る兄貴に追いっこうとした俺は、信号を無視して交差点に飛び出した。兄貴は振り返り、目を 大ぎく見開いて俺に駆け寄り、俺を思い切り突き飛ばした。 ちゅうま 転がる俺の視界に映ったのは、バカでかいトラックと人形みたいに宙を舞う兄貴の姿。ぐし やとアスファルトに叩きつけられ、ひん曲がった兄貴の首。 その先はよく覚えていない。 京子さんを残して喫茶店を出て、しばらく走り回ったあと、深夜になるのを待ってこの交差 点にやってきた。 カオルのドカティジュニアと、佐藤のカワサキが並んでいた。スターターが振り上げた手を とちゅう 下ろそうとして、交差点に入ってきた俺に気づき、途中で手を止めた。 どな カオルが俺に怒鳴る。 「ケン ! 今から佐藤とやるよ ! こいつに勝ったら、あたしと勝負しろよな ! だま 俺は黙ってカオルの隣に、ホンダを滑り込ませた。 「なんだよ。邪魔だよ」 「どいてろ」 俺はカオルに言った。 「勝手なことすんなよー ころ じゃま すべ