好きな人 - みる会図書館


検索対象: 遠く6マイルの彼女
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1. 遠く6マイルの彼女

150 「二学期の間は、注意してたんだけど」 三学期の間 ? 」 「そうよ。わたし、すっと魚住くんのこと、無視してたじゃない」 俺は廊下ですれ違う京子さんのことを思い出した。 「きみが退院した頃、言われたのよ。特定の生徒の世話を焼きすぎるのは問題だって。なのに、 こんなところ見たら、わたしを許さないでしようね」 だから、京子さんは俺を避けるような態度を取ってたのか。 俺は吐き出すように言った。 しいじゃねえか。肩ぐらい。ケチくせえ」 「好きなら、 「好きになるってことが、とにかく間題なのよ。教師と生徒だもんね」 「じゃ、好きじゃなかったら、肩組んでもいいの ? 」 聞いてみた。京子さんは、思いっきり不機嫌な声で呟いた。 ゆる 「好きじゃなかったら、わたしが許さないわ」 こきゅ - っ 俺の呼吸が止まった。それはつまり、好きになってもいいってことなんだろうか。 「じゃ、じゃあ好きになってもいいの ? 」 「なによ。今まではそうじゃなかったの ? 」 「今までだって、ずっとそうだけど、でも、それならもっともっと好きになるよ」 ふきげん

2. 遠く6マイルの彼女

144 でも、無理だからって。他の人と付き合えば忘れられるかもしれないから、付き合ってみたっ 、お前と付き合えば、忘れられるかもだって。そんな失礼な話っ て言われたわ。一番仲のいい てないわよね」 京子さんは、思いっきりカをこめて、鐘をついた。俺はなんと一一一口えばいいのかわからず、た だ黙って京子さんの話を聞いていた。 「それで、別れたの ? 」 「考えさせてって言ったわ。究くんのことが好きだったのはほんとだし、徐々に好きになる恋 だってあるんだし。でも、いきなりでね。ほんとうにいきなりで」 京子さんは感情が高ぶってきたようで、目頭を拭った。 ひきよう 「それなのに、卑怯ねあの人。きちんと返事をする前に、死んじゃうし」 俺はいつだか、京子さんが車で言ってた言葉を思い出した。 『この街は嫌いじゃないわ。ただ、いろんなことがあったからね』 そんな風に言ってた。『いろんなこと』に、ほんとにいろんなことが含まれてた。兄貴が死 んだだけじゃなく : ・ 「 : : : なんて返事をするつもりだったの ? 「忘れたわ。もう、覚えてない」 それは嘘だろう。きっと、忘れたいのだろう。百八つの鐘をついて、煩悩をはらうように、 ぬぐ じよじよ

3. 遠く6マイルの彼女

商売人の顔になって、啓介が言った。それでも四十は安い。貸すと言いながら、今まで売ら けつきよく なかったところを見ると結局俺にくれるつもりなのかもしれなかった。啓介はとにかくそうい うャツなのだ。 さんたんあき 俺は賛嘆と呆れの混じったため息をつきながら、ここにはいない兄貴に向かって言った。 ぜいたくよくば 「の次は、かよ。どこまであんたは贅沢で欲張りだったんだよ」 他にも好きな女がいたって、京子さんから聞いたときと同じぐらい、俺は驚いた。まったく 兄貴は死んでからも俺を何度も驚かせやがる。 「でもなんでなんか乗りたがったんだろ」 こっとうひん 兄貴は骨董品より、実用的なものが好きだった。。 ( イクだったら『速い』のが好きなはずだ。 だからを買ったのだった。 みと おぼ 女「よくわかんねえし、覚えてねえけど。なんか、認めてもらいたいからとか言ってたな」 が「認めてもらいたいから ? 誰に ? 」 レ 和「さあね。お前が知らないんじゃ、俺が知るわけねえだろ」 啓介の店の前で、俺はのエンジンをかけた。キ、ココココココ ! キキコココココ ま ずいぶんはで 遠ココ ! と随分派手で大きなセルモーターの音を撒き散らしたあと、ぶばあおんっ ! と土ン ジンに火が入った。ボ、 : : 、ッポ。ホポポ、と心もとないアイドリングの音を奏でながら、 さ しだい が次第に目を覚ましていく。 はや かな

4. 遠く6マイルの彼女

154 海は宝石みたいに冷たく、美しく輝いている。 もう一度、京子さんに好きだ、と言いそうになった。でもやめた。 つな 嘘じゃなくて、もちろんほんとのことだけど、それはこの手を繋ぎとめるための『好き』じ ゃねえかと、そんな気が急にしたからだった。 京子さんは不安定だ。しつかりと落ち着いているように見えて、その実触っただけで壊れて しまいそうだ。 あや 危うい。ハランスの上に俺と京子さんは立っている。気をつけないと崩れてしまいそうな、そ んな。ハランスだ。 しばし俺はそんな海を眺めてしまった。 なにせ、俺の街には海しかない。 でも、悪くない。 京子さんの手を握り、俺はちょっと怒ったような表情で : : : 、海を見つめ続けた。 ほうせき なが かがや こわ

5. 遠く6マイルの彼女

ぎもんと 俺はフルネームを言った。この人は、それで自分の中の疑問を溶かすことができるだろうと 1 思ったからだ。 「ああ、そうか。弟さんね」 「兄貴を知ってるんですか ? 」 にあ こ、つすい その女の人は頷いた。うっすらと香水の香りがする。どれもが似合ってる。香水の似合う女 の人としゃべるのは初めてで、俺は緊張した。 たんにん 「昔、魚住君の担任だったのよ」 むす その言葉で、俺の中でなにかが結びついた。 かね 三か月前、京子さんと鐘つきをしたときのことだ。 『ほんとは好きな人がいる、なんて、言われたわ』 『先生だったのよ。六歳年上の。イヤになっちゃう。そんな年上好みだなんて知らなかった』 そのセリフがかたちをとり、俺の目の前に姿をとった。言葉がつながる。そうして見ると、 その女の人をすっと前から知っている気分になった。 ひいらぎ グラマーだけどね。きみたちに教えることになった、柊かすみです」 「今日から、英語を : ・ っとどよめきに包まれた。 そういってペこりと頭を下げると、教室中がほお きんちょう かお

6. 遠く6マイルの彼女

288 「どうして ? 」と聞いたら、バカ、と言われた。そして俺たちは、しばらく黙った。 京子さんは大きなため息をついた。 「あのさあ : 「なんでこんなことするの ? 大事な時期でしょ 「すいません」 あやま 謝った。 「きみって勝手に暴走して謝ってばっかり。なんなのよ、もう : : : 」 「で、でも・・ : : 」 「でも、なによ」 だいじようぶ 「もう、大丈夫だね、なんていうから。てつきりもう、見捨てられたのかなって : すなお 「ハカじゃないの。素直に成長を喜んであげたんじゃないの」 京子さんは顔を押さえて泣き出した。 なみだ すきま 。ほた。ほたと、指の隙間から涙がこ・ほれる。 「ほ、ほんとにすいません」 なぐさ 好きな女の人の涙は耐えられない。俺は必死になって慰めた。京子さんは、しばらく泣きっ ′」ども づけた。まるで子供みたいに、声をあげてしばらく泣いた。 ぼ , っそ - っ

7. 遠く6マイルの彼女

俺はため息をついた。 「そんなに、好きだったのか : およ しおかぜ 京子さんはちょっと考え込むようにして、俯いた。潮風に乗って、髪が頬の上を泳ぐ。照り りんかく つけるようなタ日が、京子さんの顔に、白い輪郭を作る。 そむ きれい とっても綺麗だこの人と思って、俺は顔を背けた。 「好きだったわ。でも、それだけじゃない 京子さんは、首を振った。 こわ 「怖いのよ」 尋ねた。京子さんは、ちょっと微笑んで、言った。 とっても悲しかった。そしてね、もう二 「そう。怖い。あなたのお兄さんが死んだとき・ : 女 おも 彼 度とこんな悲しい想いはイヤだって思ったの。そしたら、人を好きになるのが怖くってね」 の 京子さんは伸びをした。 くかえ マ 「いいなって思う人は何人かいたけど : : : 、好きになるまでにはならなかった。その繰り返し。 遠六年間」 俺は黙って、京子さんを見つめていた。 おくびよう 「臆病だなって、思う ? 」 ほほえ かみほお

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292 なんで怒ってるんだろう、と思った。 だって、京子さんは俺のことなんか別に : 「もう知らない 拗ねてる。 とういうこと。 「だ、だって、俺はぎっちり気持ちを伝えたけど、それに対する返事もらってないし : どな 京子さんは大声で怒鳴った。 「態度でわかりなさいよツー ガキイ ! 」 きっさ 「好きでもない男と、喫茶店で待ち合わせたりしないわよ ! 腕組んだりしないわよ ! 」 「じゃ、じゃあ、待っててくれるの ? 俺が卒業するまで ? 」 なさ しんとう すごい情けない声と態度で、俺はそんな間の抜けたことを言った。京子さんは怒り心頭とい った様子で、腕を組んですごい目つきでまくし立てる。 「あそこまでサインだしといて、全然わかってないってほんとガキね。なんでこんなのにしち やったんだろ。さっきの土下座して『俺の大好きな人を幸せにしてください』なんて間抜けな ことほざいてるあんたに、なんでぐっときてんだろ。わたしってば、どうかしてるわ。きっと 死んだほうがいいわ。そうしよう」 うでく

9. 遠く6マイルの彼女

しどう 「だったらなんで、今朝『やつばり勝てないのね』なんて言うんすか。柊先生の指導で俺の成 0 せき 四績があがったからって、なんでそれが自分の負けだなんて思うんですか」 「それは : と京子さんは一一一一口いよどむ。 「こだわってるからでしよう。毎年、鐘をついてたのだって、こだわってたからだ」 京子さんは黙ってしまった。 「俺、兄貴のこと : : : 、ずっとスー ーマンだと思ってた」 みな 「兄貴。なんでもできて、できないことなんかなくって : : : 、欲しいものは皆手に入って : なや 髑みなんかなくって : ・ : 、なんて思ってた」 俺は立ち止まって、京子さんの手を強く握り締めた。 まちが 「でも、それは間違いだった。兄貴も俺と同じだ。欲しいものを手に人れようとして : がいて、傍から見たら・ハ力でみつともないことやって 、そんでも手に入らなかった」 京子さんはじっと : : : 、海を見つめている。 俺は一一 = ロ葉を続けた。 れっとう 「国道 245 を吹っ飛ばしたのだって : ・ 劣等感でいつばいだったからだ。どうしようもな くって、好きな人に振りむいてもらえなくって、そんで吹っ飛ばしてた」 「なんでそんなこと魚住くんにわかるのよ」 あにき はた かね

10. 遠く6マイルの彼女

182 「お前、言ってることめちゃくちゃだそ」 「あたしはいつだってめちゃくちゃよ ! でも、言ってることは正しいの ! 」 「責任と言ったってなあ : : : 」 いっしゅん うわめづか カオルは上目遣いに俺を睨んだ。一瞬、俺はどきっとしてしまった。カオルはなにせ、結構 だま かわい 可愛い。黙ってればだけど。 そしてカオルはどっかネジが緩んでてもさすがに女で、俺のそんな一瞬の変化を見逃さなか ったらしい 「キスして」 はっきりと言った。すごい口説きだ、と俺は思った。責任とキスがどう結びつくのかさつば りわからない。 ええ ? な、なな : : : 」しかし、どもって一一一口葉がうまいことでない。 「知ってるよ。あんたが好きな人が誰だか、あたしはちゃんと知ってる。でもいいよ。二番目 でがまんしてあげる。でも、そのうち一番になってやるから」 ごういん くちびる カオルはマジらしい。すごく大マジらしい。強引に俺の頭をつかみ、がっと、唇をつなげよ うとした。なんかキスと一一一口うより『齧る』といったほうが近い動きだった。こいっキスしたこ とねえだろ、と思った。 「や、やめろ、おい」 ゆる みのが