あざけ フンと鼻で嘲り、ルシュラは親指で背後を指差す。 彼女の背後には、ずらっと野良大が整列していた。 数十匹に及ぶ大達は、完全にルシラに平にし、その下僕と化している。 きゅうかく デッド・アイン 彼女のク真紅の妖視クに操られた大達は、その嗅覚を用いて緋水の足取りを追い、主人 をこの家へと導いたのだ。 「うまく使ったな : : : 何だこの無駄な統率カ ? 」 ちょっと感心したところで、ルシュラがいきなり顔を赤らめたことに気づいた。 何、どうかしたか ? 「お、おお前、何て格好をしてる卩早く服を着ろ ! 」 ア 言われて、緋水も自分の格好に気づいた。 ュ ラ風呂あがりの体は半裸で、寝間着のハーフパンツを穿いているだけだ。 と多少刺激的には違いないが、たかが半裸にそこまで反応することもあるまい。 字 なのに、ルシュラは顔を真っ赤に染めている。 十 いきなり人の首筋に咬みついてきて、ただの裸でフ 銀「え、何、恥ずかしがってんのフ とにかく、服を着ろー 「、つ、、つ、つ、つ、つフいー 「文句があるなら、入ってきたらどうだ ? 」 はんら ねまき はだか
「言ったであろう、お前がヘタクソだと一一一一口うからだ ルシュラの機嫌はまだ直らない。相変わらず、緋水と目を合わせようとしない。 「いや、だから : 「血を吸うのはやめられん。けど : : : せめて、痛くないようにしないと、お前が大変だろ 、つ ? 吸う血の量だって、私なりに考えてる : 、細いルシュラの声に、緋水はきまり悪そうに頭を掻いた。 : A 」、つ田 5 、つフ・ 「それで、お前は : 今度は、ルシュラが問いかける番だった。自分のことは全て話した。 アでは、緋水はそんな自分をどう思う ? むやみ ュ 「私が : : : お前との約束を破って、無闇に血を吸うような者だと思うか ? キ ささや ラ囁きながら、ルシュラが顔を近づける。 くちびる が、やがてその唇が言葉を形作る。 架緋水は答えない げんかん 字 十 ルシュラが耳を澄ましたとき、玄関から車が停まる音と複数の足音が聞こえた。 の 銀「何だ、こんな時間に客か ? : ここにいろ。外に出るな」 8 険しい顔のまま、緋水はルシュラを居間に残して外に出た。
ぜんばん 本的に吸血鬼の特殊能力全般は効かない」 「ば、馬鹿な : ペタン、とその場にへたり込むルシュラ。 たかだか人間ごときに、吸血鬼化と魔眼が無効化された。 何かもう、吸血鬼としての全存在を否定された。 「この私が、人間ごときに : うかが 勝手に落ち込みだしたルシュラに、緋水はいいチャンスだとバックれる機会を窺う。 が、案外ルシュラの立ち直りは早かった。 まちが 「いや : : : そんなはすがない。これは何かの間違いだ。そもそも、使い慣れていないし ア キ いや、吸血鬼なら魔眼の使用なんて日常茶飯事だろ ? それに『真祖』様 となら、それこそ数百年レベルで使いまくってるだろうに」 字もっともな緋水の指摘に、ルシュラは目を泳がせた。 のらねこ 緋水の視線から逃れるように、足元を横切る野良猫を見つめる。 えもの かん もど 「まずは、手近な獲物で、勘を取り戻すとするか」 つか 猫を掴も、つとするルシュラ。 とくしゅ してき
まさかーーー彼女が。 口に出せなかった。口に出すのが怖かった。 っ そして、当のルシュラもただ無表情で立ち尽くすだけ。 ちんもく 重い沈黙の中、弱々しく玲奈が手を伸ばす。その細い指先は、震えながらもはっきりと ルシュラを指差していた 「 : : : ど、つしたんだ ? 問いかけに、玲奈はか細い声で答える。 「あの : : かの、じよ : ュ「私、の、血を吸った、の、は : 防それだけ言うと、玲奈は再び昏倒した。本当に事切れてしまったかのように、その細い 架腕はカなく地に落ちる。 + 無言のまま、緋水はルシュラを振り返る。 の 銀今の玲奈の言葉は、ルシュラにも聞こえたはず。 彼女の反応を知りたかった。 だが、それは叶わず、彼女はこちらに背を向け、ただ口元を押さえている。 かな こんとう こわ ふる
ほほえ にがむし つぶ 苦虫を噛み潰す緋水と対照的に、満足げに微笑むルシュラ。 お 人間をやめていないのに、緋水のポジションは一気に人間以下に堕ちた。 からだのろ ・ : 今日ほど自分の体質を呪ったことはない : 「最悪だ : けんぞく しもべ 「せいぜい励め。私とて昼間も自由に動ける下僕は貴重だ。いずれ必ず我が眷属に加える がな。では、まず今日の勤めと行こう」 緋水が首を傾げた瞬間、視界が暗くなり、ルシュラの顔が近づいてきた。 気がつけば、地面に横たわる自分の体。 さえぎ おお 太陽を遮るように覆いかぶさるのは、日傘を差したルシュラ。 : ルシュラさん ? 」 「え 5 っと : 「お前、『こーばいぶ』とやらで昼食を買っていたな ? のどもと 舌なめずりをしながら、ルシュラが唇を喉元に近づけてくる。 といきかわ せま 迫る甘い吐息を躱しながら、緋水はもがく。 「コラ、やめろ ! 大体、朝吸ったろ卩量的には充分だろう卩 「うるさい、気分の問題だ ! よいではないか、少しぐらいー 「ダメだつつーの : かし ひがさ じゅうぶん 私も食事を摂るとしよう」 と
ドアを開けたまま、緋水は後ろに下がる。 玄関に踏み込めばすぐに届く距離だが、ルシュラは踏み込めない。 不可視の力に阻まれるように、その足は一歩を踏み出せないでいる。 「そうだよな、入ってこられない : : : 俺の許可がなきや 腕組みしてしみじみと語る緋水に、ルシュラは歯噛みした。 吸血鬼の特性その④ーー初めて訪れる家には、招かれなければ入れない。 まぎ あまりに不条理で非合理な特性だが、それは紛れもない事実だ。 しょ・つこ その証拠に、ルシュラはドアから先へは、一歩も踏み込めないでいる。 こうそく おきてしば すなわ 物理的には何ら拘束性を持たない掟に縛られるーーーそれ即ち、彼女が人間よりもさらに まもの あかし 観念に支配された、吸血鬼だという証。 「私を舐めるなよ、人間。早く許可を出すのがお前のためだぞ・ : あっかん ルシュラの放っ冷たい威圧感に、緋水も気圧される。だが、まだこちらが優位だ。 「それはできないな。一度許可したら、入って来放題だろう ? 」 「そうか、なら致し方ない。者共、思い知らせてやれ " しゅんかん パチンとルシュラが指を鳴らした瞬間、背後に整列する野良大達が、一斉に雄叫びをあ きより おとず いっせいおたけ
男爵はすぐさまルシュラを組み伏せ、床に押し倒す。 しもべ ていこう 「我が下僕よ、この女が抵抗したら、すぐさまそのガキを殺せー 男爵の命を受け、玲奈はふらついた足取りで緋水の下へ向かう。 ダメ押しをされ、ルシュラの体から完全に抵抗が消えた。 ほくそ笑みながら、男爵は牙をルシュラの首筋に近づける。 なみた 涙ぐみ、顔を背けるルシュラ。 視線の先に、同じように斃れる緋水がいた : えっ ? 」 ア血の気のない彼の体がーー不意に動いた。 ュ キ ラ足りない。 架血が足りない。 字 + 全身から命が抜けていくような、この感覚。 の 銀これでいい。これを待っていた。 そうしつ 血液喪失量 二リットルオー ー。ほば全血液の半分。 すなわちーーー失血死寸前。 たお
「うむ、案内せよ」 ほほえ 機嫌よく微笑み、ルシュラは緋水の腕に手を回す。 「な、何すんだよ 2: 」 「何って : : : 主人をエスコートするのは、お前の仕事だろうに」 あした 「いや、今日はもう学校出たから明日 : 「そういえばそうだな」 なっとく 納得しつつも、ルシュラは緋水の腕から離れようとしない。 「えーと、ルシュラさん ? 」 ア「どうした ? 」 ュ 「いや、その : キ ラ色々当たっていた。胸とか胸とか胸とか胸とか胸とか胸とか胸とか胸とか、胸とかが と 「何だ、男女はこうやって歩くものではないのか ? 周りにも、そんな者が多い」 架 字 十 ルシュラの視線の先にあるのは、カップルばかりだ。学校近くを離れ、駅前に近づいた の 銀だけに、腕を組んで歩く男女の姿も多い。 りふじん 5 緋水は真実を伝えようかと思ったが、確実に理不尽な仕打ちをされるのでやめた。 じよ・つさま このお嬢様は、尊大なくせに、その手のことにはやたらと無防備だ。 きげん - つで
116 「そ、つ、か : ふだん つくろ 普段ならば、緋水がどう言い繕っても襲いかかるところなのだろうが : そぶ な素振りを見せない。 はかな とにかく弱々しく、色白の体と相まって、儚げな美少女にしか見えない。 「これ、忘れ物ー ひがさ 緋水は無造作に日傘をルシュラに放る。 、ほ - つよ - っ 受け取ったルシュラは、茫洋とそれを見つめた。 そまつあっか 「吸血鬼には需品だろうに、どーして粗末に扱う ? 」 「それは : むくれるルシュラ。 まったくもって論理的でない、子供のような感情の爆発が、あの傘の投げつけだった。 「何で、雨に打たれてた ? 傘がなくても、どこかで雨宿りすればよかったのに」 「この家の前にいたら、いきなり雨が降ってきて、避ける間もなくて、だな : 「それなら、カずくで家のドアなりガラス破って入ればよかっただろ ? いくら急な雨で 弱っても、それぐらいならできただろう ? 」 もっともな指摘に、ルシュラは小さく呟く。 してき おそ ばくはっ ・ : 今はそん
ヒト あれ知らない吸血鬼あれ知らない吸血鬼あれ知らない吸血鬼あれ知らない吸血鬼。 とうひ 逃避を込めた自己暗示をかけ、緋水は夢の世界に飛ぶ。 つか が、ルシュラにあっさり発見され、首根っこを掴まれて現実に引き戻された。 「見つけたぞ。まったく、苦労かけおって : : 何で、いるのフ まぎ 覚めない悪夢ではなく、目の前の少女は紛れもない現実。 どれい わずか数秒で急速にやつれた緋水に、ルシュラはそれだけで男を奴隷に変えられそうな、 愛らしい笑みを浮かべた。 「来ちゃった D 」 「彼女かツツツツ もうれつ 猛烈なツッコミに、クラス全員の視線が緋水とルシュラに集中する。 「何だ、何を見ているのだお前達 ? 緋水は生徒へ因縁をつけ始めたルシュラの手を引き、彼女を教室の隅へ連れ出す。 「 : : : 何で来た卩 どうやって俺のクラスを割り出した卩 いんねん ヒト ヒト すみ