アタシたちほんもの あかし 人造人間が人間になった証でしょ ? それがアタシの使命で、高校に入学した目的 D 「なるほどねえ : : : 確かに、そりや人間そのものだ。けど、それなら余計に普通に恋愛し ろよ : : : 巣道なら、その、っちいくらでも : 「う 5 ん、正確に言うと、『恋』は目的じゃなくて、過程かな ? 目的に至るまでの 奇妙な言い回しに、緋水は首を傾げた。 特段、人造人間だの、生命創造の秘密だのには興味がないが、わざわざ高校に入学して じようじゅ まで成就させたい目的は気になる。 「何だよ、その目的って ? 」 たず 尋ねられ、芽依はにつこり笑って答えた。 「子作り D 」 気づいたときには、遅かった。 たお ゆかあおむ いつの間にか押し倒され、冷たい床に仰向けになっている。 またが 見上げれば、自分に馬乗りの格好で跨っている芽依がいる。
ようま - っ みにくきよくかいぶつ が、美しい容貎を持って生まれるはずの生命体は、世にも醜い巨軅の蚤物だった。 クリーチャー それこそがフランケンシュタインの被造物。 まもの 今や吸血鬼とその知名度を一一分する、魔物の代名詞。 ひそ こよーー吸血鬼同様、確固たる実体を持ち、今なお人間社会に潜む、 そして緋水の知識し ( 数少ない魔物のク種クとして記億にある。 「世間でもよく知られた『原典』が、実は実話を元にしたフィクションって話は聞いたこ とがある。まさか、お前 きょ・つき 「そ、かの狂気の天才、ヴィクター・フランケンシュタインが生み出した人造人間ーーア けいふ タシはその系譜に連なる、ク最新型 . 。よ。あの刻印は、あなたの言うとおり、型式番号。 ア いまいましいけどね」 けんお きずあとあっか ラ醜い傷痕を扱うように、嫌悪に満ちた仕草で芽依は右の太ももを撫でる。 と いかにその外見が人間を模倣しようと、その部分だけは、自分が一人の天才が生み出し 架 字た人ならざる人間の末裔だと実感させた。 銀「『原典』じゃ、あの醜い被造物に子孫はいなかったはずだけどな : 緋水はかって読んだ名著の内容を思い出し、芽依の素性に思いを馳せる。 こどく ヴィクター なぐさ クリーチャー うよきよくせつ その外見で創造主に疎まれた被造物は、紆余曲折の果て、孤独を慰める自分の伴侶とな ヒト まっえい はんりよ
「それじゃ、どーやって生まれたんだよ ? クローンとか、養とか ? じゃあるま いし : : : 成功例なんて、ないだろ」 「あるわよ : : : 成功例なら。十一月のわびしい実験室で、ね」 「はあ ? 」 きおく 首を傾げつつも、芽依の言葉は、緋水の記憶の底にある、とある有名な小説の一節と重 なった。 昔読んだ、わりと原典に忠実な訳書ーーその内容がゆっくりと思い出されてい 「今さら隠してもしようがない、か。勘がいいみたいだし、吸血鬼とつるむ男なら、アタ シの素性にも気づくかと思って手なずけたかったけど。っていうか、あの吸血鬼、正体隠 ひがさ す気ゼロでしょ ? あの日傘といし わかる人間なら、すぐ気づくわよ ? ろ・つら′、 緋水の籠絡を諦めたのか、さばさばした口調で彼女は続ける。 「ねえ紅城君 : ・ : ・『フランケンシュタイン』ってお話、知ってる ? 」 「 : : : ああ。昔読んだし、内容も覚えてる」 ひあい えカ 世界的に有名な、人造人間の悲哀を描いた名著。 若き天才、ヴィクター・フランケンシュタインは生命創造の秘密を解き明かし、自らの じっせん 理論を実践すべく、人造人間を創りあげた。 かん 0
おどろ 「何無能丸出しの顔で驚いているんです ? 我々は、魔物から国民を守るのが仕事です。 はあく 人でないモノの存在を把握して当然でしよう ? 「いや、そりやそうだけど : : : でも、協力者ってのは ? 」 「そのままの意味ですよ。あの一族は、人間になることが目的ですから、人間と敵対の意 ちが 志はない。吸血鬼とは違ってね。ゆえに、協力関係を結ぶのはやぶさかではありません。 こせき あちらが人間としての生活を送れるよう、こちらは戸籍の発行などの援助を行う。あちら だいしょ - っ は、その代償として我々の任務に協力すると。何か問題でも ? : 今は何も言いたくない ア「何を落ち込んでいるのです ? 彼女は義務を果たしただけですよ。それこそ、人間とし ュてのね。人造人間の方が、よっほど人間としてまともですね。生きてて恥ずかしくないん ラですか ? ばとうよ、つしゃ えるるの罵倒は容赦がない。 架 ぼ・つよう 字 + 傷口に塩を塗り込まれた緋水は、茫洋と事の真相を口にした。 の なりかけ 銀「 : : : 巣道からの報告で、吸血鬼の傍にいる俺も、犠牲者だと疑われたわけか」 「そのとおりです。ですが、吸血鬼化が進行している人間、あるいは吸血鬼を普通の人間 ひっす と見分けるのは、これで中々困難でしてね。精密検査は必須です」 えんじよ
「あ、あの : : : 巣道さん ? 」 ピッタリと胸を密着させてくる芽依。 マズイ。 じようきよう きしかん 昼休みと既視感を覚えるこの状況ーー・確実に、彼の何かが狙われている。 「お、お前、何考えて : 「一言ったじゃない、子・作・り。恋の成就の証明。ヴィクター・フランケンシュタインが わたしたち せいしよく 『原典』で危惧したように、人造人間って、元々生殖能力は存在してるのよね。でも、同 族同士で子供作ってもしようがないじゃない ? 本当に『人間』になるためには、人間と ア の間に作らなきや。それがアタシの目的で、創られた意味なのよ。というわけで ュ キ と 他当たれ、他リ」 「何がというわけで : : : だ " 架 字「いーじゃない、認知しろとか言わないから D , ほど ていせい 銀「その時点で恋でも何でもないリ訂正する : : : お前、人間にはまだ程遠いぞ " 】外見を みつくろ 見繕っても、根本的にずれてる " 】」 「うるさいわね : : : 別に、アンタの意田 5 は訊いてないわ」 ほか き ねら
280 「ヒー君は何かないわけ ? 部活名の希望とか ? ・『ひで部』とかでいいよ。活動内容は『あべしつ ! 』で。もしくは放課後電磁波ク ラブとか ? したう 「それ今時の子はわかんないって。ま、とりあえずは捜魔課の下請けでしょーね。魔物が 四人もいるし 「俺を数に入れないでくれます 2: れつきとした人間なんですけど ふつう 「えるるちゃん、あれであなた達が普通に生活できるよう、色々動いたみたいよ ? 岸田 の責任もかぶって : : : だから、今は部下もいなくて人手不足と。手伝ってあげたら ? 」 こしか ぶっちょうづら 仏頂面のまま、緋水はとりあえず手近な席に腰掛けた。 そろ 「よし、メンバーが揃ったようだし、まずは今後の活動について話し合おうー 1 ダー気取りで仕切るルシュラ。 楽しげに茶化す芽依。 もくもく 黙々とキーボードを叩くえるる。 そしてやる気ゼロの緋水。 吸血鬼と人造人間とダンピールに囲まれ、少年は気だるげにばやく。 「帰ってこいよ、俺の日常」 そうま
文字通り牙を剥き、男爵は芽依を襲う。それだけで充分武器になる爪をきらめかせ、カ 任せにみかかってきた。 「あら、カ勝負フ かくとうぎ ガシッと格闘技で言う手四つの体勢で男爵と両手を重ね、芽依は不敵に笑う。 かれん 可憐な少女と吸血鬼ーーカ差歴然と思いきや、むしろ分は芽依にあった。その体に似合 ご、つりき わぬ剛力で、男爵を押し返していく。 クリーチャー 「ほう : : : さすがはフランケンシュタインの被造物、か : 「これでも、パワ 1 は大分先柤より下なのよ ? でも、あなたよりは上」 「かもしれん。だが、先祖同様、愚かだ」 「何ですって ゅうぜん いか 怒りを込めて押し返すが、男爵はカ負けしながらも悠然と問う。 : このなりかけは、ど、つしたものか ? 「ところで人造人間 : 愕然と芽依は見落としに気づいた。 : 人がいる。限りなく吸血鬼に近づいた、それでいてまだ人間で 倉庫内にはまだ : ある者が。 玲奈が、男爵の背後にいこ。 おろ おそ じゅうぶん
を見分ける眼力には長けている」 「お互い、正体に感づいてたわけか。言ってくれればいいのに」 ぐち しりめ 愚痴る緋水を尻目に、吸血鬼と人造人間の対立は深まる。 ふぜい 「すいぶん言ってくれるじゃない : : : 吸血鬼風情が」 「何い あざけ ルシュラの言葉に、芽依もまた嘲りを返す。 クリーチャー 吸血鬼対フランケンシュタインの被造物ーーモンスターの二大巨頭と呼んでも差し支え ない存在が、今ここに対峙する。 「アタシが紛い物なら、吸血鬼なんて、ただの人の形をした蚊じゃない。い え、それ以下 つぶ ね。蚊は潰せるし、血を吸われても痒い程度だけど、アンタ達は人間の尊厳を奪い去るん ほろ だから。滅びればいいのに」 「貴様・ : うめ 敵意 いや、殺意を押し殺した呻き。 その瞳は真紅の光を放ち、たおやかな手を飾る優美なも長さを増し、尖 0 ていく。 すでに日は落ちかけ、ルシュラのバイオリズムは活性化する一方だ。 本気で暴れ出せば、何が起こるかわからない。 かゆ きよとう つか
「何してるって : : : ナニだけど、それが何か ? 」 「下ネタじゃねーか : 起き上がりながら、緋水がツッコむ。 かべ よろめきながら芽依と距離を取り、再度押し倒されないよう、壁に背を預ける。 「あら、つれないのね。さっきはアタシのテクでよがってたくせに」 「感じてしまう、自分がイヤだ : しみじみと語ったところで、緋水は初めてルシュラの存在に感謝した。 きゅうだん が、当の救い主はその自覚がなく、芽依同様に緋水も糾弾する。 きよう 「お前、仮にも私の下僕でありながら、何故こんな紛い物に身を許している卩少しは矜 ア 持というものを持て ! 」 ュ ラ誰がお前の下僕だーーというお約束の前に、芽依がルシュラの言葉に反応した。 と「ちょっと、紛い物って何よ ? 」 字腕組みをし、みつける芽依。 ことば しらいふ の ルシュラの禁句は、人造人間の地雷を踏んでしまった。 銀 まね 「紛い物は紛い物だ。人間の姿をいくら真似たところで、吸血鬼たる私の目が誤魔化せる まちが とでも思ったか ? 間違っても下賤な存在の血など吸わぬよう、我が種族は人とそれ以外 じ げせん ツッコ、く まが きゅうけつき こまか
ほ・つかい 授業初日に学校を崩壊させないために、緋水は気だるげに仲裁に乗り出す。 「やーめーとーけ。ゴジラ対ガメラ的な夢の対決は、夢のままにしとこう」 やっ 「アタシは別に、こんな奴ど 5 でもいいわよ。ただ、血を吸われたくないだけ。アタシ達 が人間になれたところで、吸血鬼に血を吸われたら全てがパーだもの」 「だからキライってか。なるほどね」 「誰が吸うか ! 『真祖』たる私は、貴様のような紛い物の血は絶対吸わぬわリ」 ・『真祖』 ? 何、マジで言ってんの かたふる 肩を震わせて、芽依は笑う。 くも アますます顔を険しくするルシュラに、緋水もいよいよまずくなったと顔を曇らせる。 さかのぼ ュ 「『真祖』って、確かアレでしよ、吸血鬼の血統を遡った先にいる、原初にして至高の存 キ ラ在とかいう奴でしょ ? 何でそんなのが、こんなとこで高校生やってんのよ ? そっち 齔「人造人間が言えた義理か」 よ - っしゃ 字 + 緋水の容赦ないツッコミに一瞬目を泳がせながらも、さらに芽依は続ける。 こっとうひん 銀「そんな骨董品的な存在、もう滅びてるはずじゃない。何言ってんだか」 だま 「黙れ、私は本物だー 「じゃあ証明してよ。アタシ達にもわかるように。ねえ ? 」 いっしゅん