クラスの最後の良心と言える存在も、空しく散った。 何かもう午後の授業出たくない。 うわさ 女同士の噂の速度は、それすなわち光速に匹敵する。 さっきさよならした、平穏な高校生活。 みよう そしてこんにちは、妙なレッテル貼られた高校生活。 しんけん そば のんき 真剣に転校まで考え始めた緋水の傍で、ルシュラは呑気にいちご牛乳を啜る。 「ホントに甘いなこれ ! 血の次ぐらいに甘いんじゃないか ? 」 いっそ殺してくれ」 つぶや かげ 血を吐くような呟きが屋上に切々と流れる中、二人を見つめる影があった。 ア 玲奈達とはまた別の女生徒が、塔屋のドアの陰で、二人を、特に緋水に熱つほい視線を ュ ラ向けている い男、見 5 つけ D 」 架 字 十 の 「 : : : 貴様、今日の体たらくは何だっ、だらしないにもほどがある ! 」 「たかだか体力測定ごときで全力出してどうするよ ? 」 0 ひってき
278 「 : : : で、その部活に何でお前がいんのフ 今度はルシュラに訊いてみると、彼女は胸を張って答える。 じゃま 「邪魔しなかったら、好きにしていいと言われたからな ! 」 「うん、監視目的だろうね、確実に。で、結局何すんの、この部活 ? っーか名前は ? 「『吸血部』などはどうだよりよい吸血生活を送るために、探求しよう ! きやっか 「却下」 「では、私の出自を全力で調べる『下僕部』というのはどうだ ? 他にも私の昼の生活を、 ぜんれい 全身全霊で支えるとか」 「いや、内容に問題があるんじゃなくて、名称が。内容もどうかと思うけど」 、いけど」 「じゃあ子作り部とか ? オプラートに『たまごクラブ』とかでもし 「 : : : 何でいんのフ むだ うでから 気がつけば、芽依が隣にいた。しかも腕を絡めて、無駄に胸を押しつけてくる。 やわ すなお 個人的にはこのままでいたいが、いっ押し倒されるかわからないだけに、素直に胸の柔 ひた らかさに浸れない。 「私はえるるちゃんの協力者だもの。ギャラもあるし、近くにいて当然でしょ ? 」 ・ : そースか」 となり めいしよう
こうこっ はどこか恍惚とした表情で立ち上がり、ふらふらとした足取りで、樹里がルシュラのため おもむ に指し示した空白の席に赴いて、そのまま腰を下ろした。 みんな とつじよ せきが 突如行われた席替えに、皆が注目するが、ルシュラは気にしたふうもなく、堂々と献 じよう か 上された席に腰掛ける。 「どうした、お前もはやく座らぬか。ここはお前の席なのだろう ? これみよがしに隣を指差し、緋水に席を勧めるルシュラ。 ばうぜん 緋水は茫然としながら席に着き、そのまま机に突っ伏した。 はた 傍から見れば、両手に花の席。 いけにえさいだん せま だがその実態は、日常をぶち壊す女吸血鬼の毒牙が迫る、生贄の祭壇。 せんぼうまなざ クラスの男子は羨望の眼差しを送るが、替われるものなら替わってほしい。 波乱みなんてものじゃない、波乱しかない学校生活が始まろうとしている。 入学式の帰りに吸血鬼に血を吸われ、授業初日で吸血鬼が転入、さらに隣の席。 ぼ - つよ - ってんじよう なみだにじ 視界が涙で滲むのを感じながら、緋水は茫洋と天井を見上げ、叫びたい気持ちを抑えた。 へいおん さようなら、俺の平穏な高校生活。 こわ すす どくが おさ けん
138 すからねっーか離れろ、痛いー 「主人に向かって、何というロの利き方だ ! 金も払っただろうがー 「日本は売血制じゃねーし ! そもそも、金貨一枚で売るほど、俺の血は安くない " こ 「、つるさい、よいではないかー もが のしかかるルシュラに、鋺く緋水。 悪あがきを続ける緋水の手は、ポョ、みとルシュラの豊かな胸に触れ ォルが舞い落ちる。 「み、見るなあああつつつ 「だから、お前の : たが きしかん くもん 互いに既視感を覚える光景が繰り広デられ、悲鳴と苦悶が家中にこだまする。 しもべ 吸血鬼と人間、主人と下僕。 緋水とルシュラの生活は、こうして幕を明けた。 バサッとバスタ
S 斗ミ・ C き 7 ) 、ミミ 十月ユウ 7 8 9 8 8 9 銀の十字架とドラキュリア ISBN978-4-8291-5785-7 C0195 \ 580E 定価本体 580 円 ( 税別 ) 富士見書房 1920195005806 銀の十字架とドラキュリア 「馬鹿な・・・・・・私の命を聞かぬだと ! ? 血を吸ったのに何故た ! ? 」 くじようひすい 、、平穏きわまりない日常″を求める少年・紅城緋水は、高校生活 の初日から記憶喪失の吸血鬼の少女に襲われるという災難に見 舞われる。彼女の名はルシュラ = ダーム・ドラキュリア。吸血鬼のカ が効かない緋水に興味を持ったルシュラは、緋水の家へと上が り込んできたあげく、学校にまでついてくる始末 仕方なくルシュラの記憶を取り戻す手伝いをすることになった 緋水たったが、今度はまた、、別の秘密〃を持つ少女・芽依に誘惑 されたり、ルシュラを狙う「捜魔課」の少女に誘拐されたりと、平 穏とは程遠い日々は続く一一。学園妖魔ラブコメ & アクション ! ファンタジア文庫 戒書封殺記その本、持ち出しを禁ず 戒書封殺記その本、触れることなかれ 戒書封殺記その本、禁忌の扉に通ず 戒書封殺記その本、開くことなかれ 覇者の三剣 覇者の三剣 2 覇者の三剣 3 覇者の三剣 4 覇者の三剣 5 ダークロード漆黒の断罪者 ダークロード 2. 戦陣の姫君 ダークロード 3. 純白の死神 ダークロード 4. 黒の君臨者 クロス 銀の十字架とドラキュリア クロス 銀の十字架とドラキュリアⅡ 十月ユウ ・とづきゅう 今回、久しぶりにまとも ( ? ) な主 人公を書きました。が、彼の周りと 体質が普通でないので、イマイチま ともな日常が送れていません。読者 の方々も、「人間以外のモノとの日 常生活」を楽しんで頂ければと思い ます。紅城緋水の日常に幸あれ。 クロス トリスアギオン トリスアギオン トリスアギオン トリスアギオン トリスアギオン ク . ロス / クロス 十月ュウ 4 ファンタジア文庫 庫 タ ア フ イラスト : 八坂ミナト カバーデザイン : アフターグロウ
174 と 同時に、玲奈の傍にいた影も、闇に溶け込むように、ふっと夜の街に消えた。 の 緋水は後を追わず、地面に投げ出された玲奈に手を伸ばす。 たお 幸い、倒れ込む前に抱きとめられ、彼女はカなく緋水の腕の中に横たわる。 「おい、知か 返事はなかった。外傷は首筋だけだが、全身から血の気がなく、一時的な貧血状態にあ るよ、つだ。 かなりの量の血を吸われたーーっまりは、吸血鬼化の進行も深刻であるということ。 ふつう さっきまでごく普通に会話をしていた少女が、一瞬でなりかけに。 しゆいろ 始まったばかりの高校生活が、一瞬で忌まわしい朱色に変わった。 緋水の中にも、ドス黒い感情が湧く。 強く奥歯を噛み締めて顔を上げると、見知った顔があった。 「お前 : ルシュラが立っていた。 したた たんけんたずさ 右手に、血を滴らせた短剣を携えて。 あかしずく そして、その口元にも、真紅い雫を滴らせて。 その呼吸は荒く、彼女は肩で息をしている。 し だ わ
280 「ヒー君は何かないわけ ? 部活名の希望とか ? ・『ひで部』とかでいいよ。活動内容は『あべしつ ! 』で。もしくは放課後電磁波ク ラブとか ? したう 「それ今時の子はわかんないって。ま、とりあえずは捜魔課の下請けでしょーね。魔物が 四人もいるし 「俺を数に入れないでくれます 2: れつきとした人間なんですけど ふつう 「えるるちゃん、あれであなた達が普通に生活できるよう、色々動いたみたいよ ? 岸田 の責任もかぶって : : : だから、今は部下もいなくて人手不足と。手伝ってあげたら ? 」 こしか ぶっちょうづら 仏頂面のまま、緋水はとりあえず手近な席に腰掛けた。 そろ 「よし、メンバーが揃ったようだし、まずは今後の活動について話し合おうー 1 ダー気取りで仕切るルシュラ。 楽しげに茶化す芽依。 もくもく 黙々とキーボードを叩くえるる。 そしてやる気ゼロの緋水。 吸血鬼と人造人間とダンピールに囲まれ、少年は気だるげにばやく。 「帰ってこいよ、俺の日常」 そうま
「つれて来たぞ ! 」 ガラガラと勢いよく引き戸を開け、緋水と共に教室へ入るルシュラ。 でむか 一一人を、無愛想な声が出迎える。 「遅かったですねー たた 目を合わそうともせず、カタカタとキーポードを叩いてノートパソコンに向かっている のはえるる。何気に学校の制服を着こなしている。 「何してんの 「部活ですが、何か ? 」 ア「いや、だから、そもそも何でここに : ュ「あなたがたの監視です。人手がないので、私が来ました。より日常に密着するため、わ ラざわざ高校にまで入学してあげました。何か問題でも ? ひやっぽゆず 架「いや、大アリでしよ。百歩譲って今のくだり認めるとして、部活って何卩」 のんき 字 + 「呑気な学生生活を送るあなた達と違って、私には仕事があります。放課後、それに集中 の 銀できるスペースを作るために、部活の体裁をとっただけです」 「そースか : ひとすじなわ かいぼうけいかい この女、やはり一筋縄ではいかない。しばらく解剖を警戒した方がいいだろう。 おそ ていさい
276 この後、緋水は退院するまで毎日押し倒されたことは、言うまでもない もど 数日後、退院した緋水は学校生活に戻った。 れいな 玲奈の容態も問題ないらしく、緋水より先に登校を再開したそうだ。 きおく 咬まれていたときの記億は曖昧だそうだが、玲奈は何かしら思うところがあるらしく、 登校直後に、 「 : : : ありがと、つ」 と恥ずかしそうに言ってきた。何故か授業中も視線を感じるし、よく話しかけてくる。 かたまり とりあえずは日常に戻った と言いたいカ、非日常の塊のよ、つなルシュラが、放課後 に笑顔でとんでもないことを言ってきた。 「 : : : 部活を作った ? 名案だろう 「うむ ! 私が入れる部活がなければ、作ればい 「うんゴメン、得意満面だけど、それ、今は一周回ってむしろ王道的な発想だから だま いいから来い ! 」 「うるさい、黙れ。 ムリャリつれていかれた先は、かって芽依に押し倒されたあの空き教室だった。 何かもう、この時点でやな予感がする。
144 ここ数日で急速に現代の知識を得たルシュラを騙すのは、中々難しい 学校の勉強こそ苦労しているようだが、それも時間の問題という気がする。 すべ 「これからしばらくは見学期間とかで、全ての『ぶかっ』を見て回って構わぬと、教師も 言っていたが : : : お前は行かぬのか ? 」 「俺はキョ 5 ミないし。あれ、でもその言いぶり : : : 何だ、行きたかったのか ? 」 「さっき、ちょっとだけ見てきた。その、『ぶかっ』とやらに興じている者は、楽しげな 者が多いからな。どういうものか : : : 気になっただけだ」 素っ気無い口調だが、表情からは部活への興味が滲み出ている。 とりあえず衣食住が保証された今、彼女は様々なことへ興味を向けていた。 かのじよ 学校生活においては特に部活がその対象らしいが、吸血鬼の場合 : お前は、さ : 「けどさ、その : 「わかっている。外でやる類のものは無理だろうな。というより、体を動かすものは、ほ ば全てダメだな。それぐらいはわかる」 その身体能力の差は、たとえ吸血鬼のバイオリズムが低下する昼間で 吸血鬼と人間 も明らかだ。ルシュラが人間の部活に加わるのは、それだけで反則と言っていい。 「なら : : : 文化系、かな。見るだけ : : : 見てみるか ? 」 だま