無理もない。 「 : : : なわけ、ないでしょ ーが ! アタシはヒー君の夜這いに来たの ! っていうか、何 でアンタがここに寝てんのよ ! 」 「かなり早く目が覚めて、血を吸おうと思ってきたら、アイツがいなかったのだ ! それ で、べッドでゴロゴロして帰りを待ってたら、そのまま : にどね : 二度寝ってことね。あなたがいないから、せめてべッドでぬくもりを感じて : : : っ て、どんだけヒー君のこと気に入ってるのよ」 しもべ 「うるさい、アイツは私の下僕なのだから、当然だ ! お前ごときが手出しをするな , ア「何でアンタに指図されなきゃいけないのよそもそもヒー君はどこ卩」 ュ「知るか ! 」 クリーチャーぜっせん ラ明け方から繰り広げられる、吸血鬼とフランケンシュタインの被造物の舌戦。 きかく 茱いずれハリウッドで企画されるかもしれない夢の対決が、ここ緋水の部屋で始まった。 字 + 「大体貴様、そのハレンチな格好は何だ卩下着を見せて、やらしいにもほどがある , の 銀「裸ワイシャツに言われたくないわよ ! 狙いすぎでしょ」 「これが落ち着くのだ ! 貴様、そんな格好でアイツに何をする気だ : って : はだか イ不・ノ
しんけん 方もそれなりに真剣に取り組んでいた。 : 一人を除いて。 「うむ、皆、気合いを入れて作るがよい ! 」 : ってい、つか、アンタも手伝いなさいよー ふうどうどう 威風堂々と指示を下すルシュラに、芽依が噛みついた。 もくもく さと むだ 言っても無駄と悟っている緋水は黙々とジャガイモの皮を剥き、良識ある学級委員長、 くりよ 世羅玲奈は対応に苦慮して目を泳がせている。 「そもそもアンタ、この班じゃないでしょ卩班分けは男女混合かつ出席番号順で決めた のに、何でいるのよ 「こころよく、替わってもらったのだ。何か問題があるか ? まがん 「うん、明らかに魔眼使ったよな、それ」 うつ 緋水の視線の先には、まだ少々虚ろな瞳のままの男子生徒がいた。 本来は緋水と同じ班だったのだが、ルシュラに見つめられ、そのまま他の班へ移籍して しまった。 ) の、好きにさせて ? 」 「つたく、いし 緋水に近づき、芽依が周囲に聞こえないように囁く。 ささや む せき
しゅんかん す。今この瞬間も出血は続き、じわじわと体力も削られています。彼の命はもってあと 一日かとー 感情を込めずに、結果は伝えられた。 し くじゅうか しかし、えるるの顔は苦渋を噛み締めていた。 芽依も同様だ。 きびす ただ一人、ルシュラだけが無表情のまま、踵を返してエレベーターに向かう。 おろ 「愚かな奴だ。下僕の自覚が足りん」 「ちょっとアンタ、いいかげんにしなさいよ ! 」 かた 駆け寄り、芽依が肩に手をかける。 しかし、ルシュラは振り・回こ、つとしない ふる ただ、肩を震わせるだけ。 ま . っ 「私の世話をり出して死ぬなど、許さぬ。生きて仕えることが、下僕の大前提なのだか らな」 おだま 真意に気づき、芽依は押し黙った。 げんきゅう 代わって、えるるがわずかな可能性に言及する。 やっ
「何をする卩」 「謝れー 緋水がえるるを指差して促す。 「、つるさいー ルシュラが緋水の胸を殴る。 本当に手加減なしのーー全力で ! しようげき かべたた その衝撃に細身の体は吹き飛ばされ、あえなく緋水は壁に叩きつけられた。 さらに、頭を打ちつける。 Ⅱ ア「ちょっとアンタ ! 」 ュ 「いくら何でも、やりすぎでしよう卩」 キ こぶし ラその言葉に我を取り戻し、ルシュラもはっと自分の拳を見る。 架「だ、だって : 字 + その先を一言う前に、緋水が起き上がった。額でも傷つけたのか、ばっくりと割れた傷か の 銀ら血が染み出し、色白の顔は赤く染まっている。 その形相に、その場の誰もが何も一言えない。 ふらっきながら緋水はルシュラの前に進み出ていき、同じ言葉を繰り返す。 うなが
うすぐら 薄暗いべッド下に手を伸ばす芽依。 たいこう 対抗心からか、負けじとルシュラも参戦する。 「だから何でアンタも探してんのよ卩 しもべ 「黙れ、下僕の全てを理解するのは私の義務だ ! 」 一」うぼ - っ べッド下で繰り広げられる攻防。 うでから ェロ本という名の宝を求める。 しなやかな美少女二人の腕が絡み合い が、戦果は得られない。 というか、そもそも緋水はべッドの下に何も収納していなかった。 Ⅱ ハズレ ? それとも、もっと複雑な場所卩」 しよせん 私は見つけたぞ ? ュ「ふつ、所詮貴様ではその程度ということだー ラ勝者の笑みを浮かべ、べッド下からルシュラは起き上がり、高々と戦利品を掲げる。 靴「何よ、それ ? 」 字 十 ルシュラが掲げるのは、エロ本でもなければ薄い本でもないーーー手の中にすつほりと収 の へんてつ ふう せん 銀まる、小さな瓶だった。封をしているのは、古風なコルク栓、中身は何の変哲もない 灰だ。 「はて、これは何なのだ ? びん の かか
178 しょ ? 」 「し、知らぬー ろこっ 「子作りという単語に、露骨に顔を赤らめるルシュラ。 芽依はフン、と鼻を鳴らしてルシュラを一瞥してから、さらなる探索に入る。 : ここね ! 」 「やはり、さらに深くヒー君を知るには : そうるい 野球の走塁を思わせるノリで、芽依はべッドの下に滑り込んだ。 ルシュラもその後に続く。 「ちょっと、何でアンタまで来るのよー だま 「黙れ、私の勝手だ ! というか、ここには何があるのだ卩」 「あらやだ、知らないの ? べッド下と言えば、そこは男のプライベートスペース : : : 性 癖が全て詰まっている場所と言っても過言ではないわ ! まあ、ぶっちやけェロ本の宝庫」 「『えろほん』とは何だ 2: 」 「・・ : : そこから ? 」 うす 「アレか、『どーじんし』なる、薄い本のことか ? みようへんけん ねんれい 「半分正解、半分ハズレね。全年齢向けも多いんだから、妙な偏見はやめなさいな。って、 しゆみ それより、早くヒー君の趣味を : いちべっ
しめ やわ 言い終わる前に、緋水の指先を柔らかくて湿った唇が包み込んだ。 たま・つ 小さな血の珠の浮かんだ指先を、おもむろにルシュラがロに含む。緋水の腕に小さな手 そ を添え、甘噛みならぬ甘吸いを施す。 「ちょっ : 割り込んだルシュラに押され、包丁の刃先が緋水の人差し指の先をかすめる。 「イテッツ : 「た廴知 ? アンタ、時と場所考えなさいよ ! 」 しった 芽依の叱咤に、さすがにルシュラもすまなそうに後じさった。 ばんそうこ・つ くじよう 「紅城君、大丈夫 ? 先生に言って、絆創膏、持ってこようか ? なべ 鶯込み用の鍋を用意していた委員長こと玲奈が、心配そうに近づいている。 斜水の体質では、何てことのない傷だ。 確かに少し指を切ったが、 「あー平気、平気。どうせすぐ止ま : カブツ。 ほどこ はさき うで
かんべき いたずらあくま 人間を模し、そしてそれ以上に完璧な生物として生を受けるはずが、神の悪戯か悪魔の クリーチャー しゅうあくかいぶつ 呪いで、醜悪な怪物として生まれ落ちた、かの有名なフランケンシュタインの被造物 まっえい その末裔。 しよせん つくろ いくら取り繕おうが、紛い物は紛い物だ。所詮人間にはなれぬ ! 」 「フンツ、 : つるさいわね、アンタがどう思おうが、アタシは人間になるの ! 人間と結ばれて : っていうか、ヒー君と子作りして D 「ゴメン、ムリ」 無表情に首を振る緋水。 だ 抱き締められたら、マジで壊されそう。それが巣道芽依。 「何でよ ? あの吸血鬼には、毎朝血を吸われてるんでしょ卩アタシにも白い体液を注 ぎ込むぐらいアリでしょ卩 「うんゴメン、ド直球の下ネタはやめてくれるっーかねーよー っていうか、べタベタするな ! 」 「私を無視するな ! 割り込んでくるルシュラ。 こんめい 毎回この調子で、三人のやりとりは混迷を極める。多分部活のもろもろが先に進まない のは、このせいだろう。 し まがもの きわ
ほろ そして最期はーーー緋水を救って滅びた。 もくげき 「そんなことだろうと思っていました。目撃談も、あなたの家の近辺が多かったですから ね。大方、吸血鬼の夜の散歩に、あなたが付き合ったとか、そういうことでしよう ? 「 : : : 夜、ふとコンビニに行きたくなったりだとか、屋台でラーメン食べたくなったりす るときって、あるじゃん ? 吸血鬼も一緒らしいぞ、そういうの」 少女達から目を逸らしながら、緋水がボヤく。 ひた それ そのどこか思い出に浸っているような口調は、確かに親しい身内に向ける感情だった。 よたばなし 「 : : : フン、手がかりかと思ったら、そのようなくだらぬ与太話か」 ろこっふきげん 露骨に不機嫌な口調でルシュラが鼻を鳴らした。 なだ そっちよく 宥めるように、芽依が率直な疑問を口にして、場の空気を和ます。 「 : : : でも、ヒ 1 君を育てた吸血鬼が、アンタと無関係とは限んないでしょ ? お互い同 じ土地にいて、時期はずれても同じ家に住んでるわけだし。それこそ、血縁関係アリと , カフ・ 「ナイナイナイナイナイナイナイ。顔全然似てねーし。似てるのは、ムダに胸と態度がデ カイとこぐらい。それに、アイツ肉親いないって言ってたし」 あっさり否定する緋水。 そ いっしょ なご たが
もある」 「それってあれ、何か昔話とかである魔女の秘薬っていうか、《魔女の軟膏》的なもの えん 「まあ : : : そうなのだろうな。案外、我が種族と魔女とやらの縁は深い めずら 珍しくルシュラの言葉に感心し、芽依は顔を上下させる。 正直、ちょっと見直した。 しかし今の話を聞くと、また新たな疑問が湧き出てくる。 たよ まがん 「ねえ、でも何で魔女っていうか、人間に頼るわけ ? 魔眼なり、血を吸うなりして、言 うこときかせれば簡単でしょ ? それこそ製法聞きだすとか、いっそ下僕にするとか えいきよう ア「それを試みたものも多いだろうが、大抵は失敗したらしい。《魔女狩り》とやらの影響 くわ ュか、かなり用心深いし、我らに対する対処法にも詳しい。それこそ魔眼すら破ったりだと 防か、毒で我らを弱らせたりとかな。不死の我らゆえ滅びはせぬが、かなり苦しんで、一時 靴的な仮死状態になる毒もあったと聞く 字 + 「へえ : ってアンタ、ずいぶん過去のこと覚えてるじゃない。記憶、戻ったの ? 」 の だれ ・ : 違う。これは、ただの知識だ。純血の吸血鬼なら、伝承で誰もが知るであろう、た 5 だの知識にすぎぬ。だから、覚えていても、全然実感が湧かぬ : くも うそ ルシュラの表情が曇った。そこに嘘は見えない。本当に、ただ頭の中に詰め込まれた知 まじよが