8 すみ、、たたず 振り向くと、部屋の隅にそれは佇んでいた。 こんだく 顔立ちから女性と推測できるが、はっきりしたことは一言えない。まだ思考が混濁してい おお るうえに、相手の全身は赤くくすんだ古風な口 1 プに覆われて、顔だけをこちらに晒して いる。頭にもすつほりフードをかぶっているせいで、その顔ですら視線が隠れ、表情を察 することができない われら 「 : : : ずいぶんと、古風な格好だな。吸血鬼がまだこの世に深く根を張っていたときは、 きみよう そのような出で立ちで、奇妙な術を使う者が多くいたと私も記億している」 よみがえ お前達まで甦る必要はない。何故、戻った ? : 私は、失われた術の復興者。だが、、 「そ、つ : : この学校にいる ? 」 何故 : 「さて、な。私も知りたいのだ。自分が何者かをー たわごと 「戯言を : こわね ロープから、すっと白い手が這い出る。年齢が判別できない声音に対し、こちらはどう 見ても若い女性の手だ。 その手が、ビー玉程度の大きさの、黒い球体をルシュラへ放った。 本能的に受け止めるのはマズイと感じ、ルシュラはスカートの内側に手を滑り込ませる。 ねんれい さら
ひときわ 他とは違う棚に、一際大事そうに保管してある一本を手に取り、ルシュラはその場を離 れた。 「何やってんだよ。あ、それ : ルシュラがワインセラーを出たところで、緋水は持ち出されたワインに気づいた。 「返せよ」 じゃっかん 若干厳しい顔で言い、緋水はルシュラの持っ赤ワインのポトルに手をかけた。 「よいではないか、これだけあるのだから、一本くらい , 「ガキの飲み物じゃない Ⅱ ア「私は吸血鬼だぞ ? 何歳だと思っている」 つぶ ュ「知らないけど、精神年齢はガキだ。急性アルコール中毒で死ぬことはなくても、酔い潰 ラれはする。いいから返せ 靴「黙れ ! そうだっせん + 互 ) に引っ張り合う、ワイン争奪戦。 の とうとつおとず むな 銀決着は唐突に訪れ、不意にルシュラの手からすつば抜けたボトルは、空しく宙を舞った。 「あ : ルシュラが受け止めようとするも間に合わず、ボトルは凉やかな音を立てて、割れた。 ほか たな わんれい ま よ
にぎ よくよく見れば、玲奈の手には、ロザリオが握られている。 じゅうじか 吸血鬼の弱点の最たるものと言える十字架。 単なるファッションならばど、つとい、つこともないが、玲奈の手にする品は一った。 しろもの やっかい しんこう きちんと聖別され、かっ本人の信仰心を拠り所にする、吸血鬼的には最も厄介な代物だ。 「ああ、これ ? さっき教会に寄ってきたから : そう言って、玲奈が立ち寄ってきた場所を指差す。 その方角から感じる何とも言えない気配に、ルシュラは顔をしかめた。 「やめろ、その単語だけで胸がムカムカする ! 近づかないように、道を変えたのに Ⅱ ア ュ 「え、何か気分でも悪いの ? そこに公園あるし、少し休む キ ラ親切心で近づく玲奈。 たずさ その手に、ロザリオを携えて。 架 + 「や、やめろ ! それを近づけるな ! しまえ ! の 銀「え、何、これがどうかしたの ? 「やめろ、かざすな " 】見せるなリ : という噛み合わない会話を重ねた後、ようやく首を傾げながら玲奈がロザリオをし
はいる。しかも : : : 校内に。大事にならない前に、探し出さねばなりません。とりあえず Ⅱは、思いつくところから当たってみましよう。二手に分かれて : 「じゃ、アタシはヒー君と D , から ひだりうで すかさず緋水の左腕に、自分の腕を絡ませ、ついでに豊かな胸を押し当てる芽依。 けんか 「馬鹿者、ソィッと組むのは私だ ! 行くぞ緋水、私に毒を盛り、喧嘩を売った相手を探 しにいくぞ ! 」 負けじとばかり、ルシュラが緋水の右腕に自分の両腕を絡ませる。何故か、胸を当てて くるところまで一緒だ。 : え 5 っと、ゴメン。俺、狩夜と組むわ。お前ら二人で組め」 美少女二人のプーイングを受けつつ、何とか腕を振りほどき、緋水は自由を手にした。 「ほら、行こうぜ狩夜。お前達も、何かそれつほいとこ当たれ シッシ、とルシュラと芽依に指示を下し、緋水はえるるの手を引いて、いち早く保健室 を出る。 「「えええええ ばかもの
たた んな無礼な口が叩けるな。たかだか百年程度の歴史しか持たぬ、人間の紛い物が」 「何ですって : じらいふ 地雷を踏まれ、芽依が立ち上がった。 っ 同時に、机に軽く手を突く。 別に特筆することもない、立ち上がるときのごくごく自然な動作。 しゅんかん なのに、彼女の手が離れた瞬間 , ーー机は二つにバカッと割れた。 つな 元々壊れかけだったとか、繋ぎ合わせていたとかではなくてーーー単純に、パワーで破壊 された。 にんげんばな Ⅱ 「 : : : またか。ゃーめーとーけよ。巣道、そんなことしてると、ますます人間離れしちゃ リうぞ。備品壊すのは大概にしてくれよ。パワーは人間離れしてるんだから」 ュ キ「好きでこんな体じゃないわよ。それに、これでも初代よりは大分マシよ ? 」 くだ : と言ってる佛から、芽依は手に持ったポールペンを粉々に砕いてみせた。 と ちからじまん 架 字 ベキッとへし折る程度なら、まあカ自漫でもできるかもしれない のが、軽く握るだけで粉々にすることは、完全に人間の限界を超えている。 というか、人間じゃない。いかに外見が、肉感的で色つほいスタイルだとしても。 すなわち、芽依もまた、ルシュラと同じく、人間でない魔物。 こわ にぎ かのじよ たいがい
きようじん 「我が種族は、人間と比べてはるかに強靭な肉体を持つ。だが憎らしいことに、ク弱点 ぜいじゃく には驚くほど脆弱だ。それを補強する技術は、我らが種族内で生み出すというよりも むしろ、人間の手を借りたそうだ」 ルシュラは、日中の屋外では必ず差している愛用の日傘を軽く掲げた。 「こうした日よけの道具も、人間の職人の手によるものと聞く。私の物は日よけと雨よけ まじゅっ に特化しているが、武器だの魔術だの、そういうものを仕込んだ品には、おそらく魔女の 技術というものがかなり使われているはずだ 「なるほど、ね : きゅうけつき 人間と吸血鬼、それぞれの長所 西洋では、魔女と吸血鬼を同一視する考え方も根強い。 を活かし合い、 一種の共生関係を築いていたとしても、不思議はないだろう。 ほろ だんしやく やから 「この前、私と緋水で滅ばした男爵とかいう輩は、日よけのために、何やら皮膚に塗りこ んでいたそうだな」 しやこう 「ああ、遮光クリームね。それがどうかしたの ? 」 「今、流通しているものとは作り方からして違うだろうが、古くからその類のものはあっ とくしゅなんこう た。特殊な軟膏を皮膚に塗ることで、一時的に日光から身を守れる。その製法は特殊で、 必要とする我らには知らされず、忌々しいことに魔女の手を借りるしかないーーそんな話 おどろ ひがさ かか ひふめ
「まさか、私だけよ。仮に早く来たとしても、部活が理由ね。部活の朝練で来て、生徒会 ・つてとこかしら ? 室を荷物置き代わりにして本人はドロン : そう語る間にも、希璃華の手は休まず花壇に水をやり続けていた。 一か所が終わればまた別の場所に移動し、さらに目立っ雑草があれば、きちんと引き抜 いている。 くわ 園芸の知識などほとんどない緋水だが、彼女の動作から、植物に詳しく、かっ愛着を持 たんねん うかが っていることが窺い知れた。白くたおやかな手が土に汚れるのも構わす、希璃華は丹念に 手入れを続けている。 「もしかして、学校の花壇の水やりって : : : 全部センパイが ? じゅうじっ 「そうよ。うちの学校、花壇が充実してるのはいいけど、おかげで用務員さんの手には余 やとよゅう ラるのよ。外部の業者を雇う余裕なんてないから、世話は生徒会の仕事 つら 「 : : : じゃ、何でセンパイだけが ? 一人じゃ辛いっしょ ? 」 字「私しか、やらないもの」 もくもく 銀素っ気無く告げ、希璃華は黙々と作業にふける。 うわさばなし とな せられいな その姿に、緋水は教室で隣りに座る、世羅玲奈から聞いた噂話を思い出した。 生徒会長より生徒会長らしいと言われる羽乃希璃華 , ーーだが、他の生徒会メンバーから
お 前 達 へ く の だ 169 そ不ふ の機き ざ水 後嫌え 。締 め呟 どそ つ手 。を 他洗 炊ル 行見 ・食し、 手てた ん何走言っ 緋残 。か が文 、句 、か どす 収分 邪皐て 魔まる 銀の十字架とドラキュリアⅡ 目 と く れ を っ け た ル ン フ が 噛か み つ く 緋 の 先 導 で 居 間 を 出 て 行 く 人 料 理 に っ い は に あ り そ ろ そ ろ に お し た 」本 - た と も ・つ て い た い け ア リ ア リ な 顔 を し ど手流 伝 い ま す に 事 を し で 食 器 て . る と 馳ちし、 物 に 入 る じ や 行 く か 地 下 に あ る を し、 な っ も は の も む っ だ け あ て ん る る の そ の オこ め に イ云・ い に 来 ま 際。 ろ わで かす ・つ て る れ が 終 わ - つ た ら な は っ ほ な く し て 洗 物 は わ り 彼 女 の 仕 事 早 わ ま よ さ れ間 て そ の ま ま でが い る の ( よ ぞ性しオ っ ま の に ん る る 隣 り に い 0 の 雑 を 食 べ 終 ん 水 鍋 奉 行 の 仕 事 め と て の ま 片 付 と に きや ン フ は 鍋 る を ま と め て 自 の 取 皿 れ ロロ
言うことを聞かず、魔眼も効かないならーー血を吸えばいい。 「ダメよ ! 」 芽依の制止は届かない。 ルシュラは完全にーープチ切れていた。 きようふゆが 恐怖に歪む、希璃華の顔。 魔女ではなく、ごく普通の少女がそこにいた。 の なみだう 涙を浮かべる彼女に構わず、ルシュラの長く伸びた牙が首筋に近づく。 入り口から、不意に乱入者が飛び込む。 ルシュラは反射的に目を閉じ、希璃華から手を放した。 じゅうじか 十字架。 きょだい 巨大な十字架が、何者かに投げ込まれた。 しかもソィッは こともあろうに、大事な獲物を奪い去った。 かんしよく 手から消えていく、希璃華の感触。 急がないと、緋水が : 「邪魔をするな ! じゃま えものうば
「 : : : 災難ね」 かた 芽依が肩に手を置くと、緋水はカなくうなだれた。 何か非常に大事なものを失った気がする。 唯一の救いは、その後完成したポトフの出来が、やたらと、 「おお、中々イケるな ! うまいではないか」 しょ・つさい 「煮込み担当の委員長に感謝しろ。でもイケるな。レシピ詳細希望」 けんそん 緋水の言葉に、玲奈は謙遜するように手を振った。 Ⅱ 「大したこと、してないよ。市販のに、ちょっと味付けしただけ。野菜とか肉の切り方が ア よかったんじゃない ? 」 ュ とちゅう ラ会話の途中でも気を利かせ、玲奈は各自に配られた紙コップにピッチャーから水を注い A 」「、い 字飲み物の持ち込みは自由だが、水だけはピッチャーと共に、学校で用意されていた。 かくあじ 銀「いや、でもマジでイケルって。何か隠し味でも ? 」 「えっーと : 玲奈が答えかけたとき、ガシャン、と皿が床に落ちる音がした。 しはん ゆか しいことだった。