たたず 浜と海の境目に佇んでいた。 はーなが・ら 彼女の小柄な体に似合う、フリルスカートのついた花柄のワンピース水着に身を包んで いなから、けして、冰ご、つとはしない ぎよ・つし ただ、定期的に足に打ちつけられる波を凝視するだけ。 ふる 体は小刻みに震え、何かに耐えているようにも見える。 ルシュラ同様、彼女もまた、海は苦手だ。 吸血鬼と人間のハーフたるダンピールである彼女は、吸血鬼の弱点をその身に引き継い でいる。 ともな Ⅲ アすなわち、「流れ , の伴う水が苦手。 と きわ じやき ュ特に天然由来のものが苦手の極みであり、邪気を祓う塩が溶け込んだ海水など、潜れば おぼ ラまず溺れる。 それでもほほ全てのダンピールはカナ 架さすがに吸血鬼ほど苦手というわけではないが、 字 十ヅチといっていい。 の 銀泳げる場所と一一一一口えば、小学生向けの水深の温水プールが関の山だ。 そんな体質は、彼女自身が一番よく知っている。 それでも立っているのは : : : 呪わしい体を認めたくないから。 一 ) がら た のろ
めいわく 周りが迷惑 「いーんじゃないスか ? いやみ あくび 長々と続きそうな嫌味に対し、緋水は欠伸交じりにばやいた。 だま - ・つさ 「子供は黙ってなさい。これは捜査上の : 「何でそう、何もなかったことを喜べないかな ? どんだけ検査しようが、相手は吸血鬼、 じか ひつぎ 最終的には直に確認するしかない。そりや、柩の中にいたとしても、海の中なら相当弱っ てるだろうし、そこまで警戒する必要ないだろうけど : : : それ結果論でしょ ? 厳重な警 備敷いてな 5 んにもなかったからって、あの警備ムダだったんじゃね ? とか後で言い出 ばんばんざい Ⅲ したらキリねーし。念のために警戒して、ムダに終わったら万々歳。そーゅーもんでし ア ュ キ バッカじゃねーの、と思いっきり見下した感じの緋水。 と蘭月はムッとした表情で言い返す。 とりこ 字「どうやら、あなたはこのダンピールの虜になったみたいね。魔眼にでもかけられたのか 銀しら ? 「あれ、ダンピールは魔眼使えないけど。まあ、人より眼光は強い方だけど」 「単なるイヤミよ。わからない ? まがん
一っさ / 、 交錯の時は短く、決着は一瞬でついた。 ルシュラ。 敗者は 貫手は当たることなく、彼女の体は腹に叩き込まれた蹴りに吹っ飛ばされ、そのまま宙 あさせ を舞い、浅瀬に落ちた。 「お前 「吸血鬼なら、どうってことないでしょ ? この程度でダメージがあるわけでもない。ま おぼ して、夜なんだし。ああ、でも海はまずいか。溺れるかも かいむ 身を案じる気配は皆無、むしろ、楽し気に蘭月は言う。 ア「私、吸血鬼って大キライなのよ。もちろん、ダンピールもね。上が判断したなら、いっ でも始末したげるわ キ と 無言で、緋水は蘭月を見つめる。 架 ひとみ めずら 字 + 珍しく明確な敵意を込めた瞳だが、彼女は意に介さす背を向けた。 おそ みよう 銀「妙なことは、考えないことね。その吸血鬼が生かされてるのは、まだ明確に人を襲った はいじよ しし力なる理由であれ、そちらが手を出せば、排除対象 言がないから : : : ただそれだナ。、、 になる。彼女にも言って聞かせなさい
どうりよう 「狩夜の同僚。正式な刑事さんだそーだ。で : : : 何でこんなとこに ? むだ 「警告よ。狩夜えるるに協力をしているようだけど、無駄なことはおやめなさい。柩に吸 血鬼はいなかった。それが全てでしよう ? 「仮にそうだとして、協力は自由じゃねーのフ けんめい そうさ 「国家権力には、歯向かわない方が賢明よ ? 非公式な捜査で何かあっても、身の安全は 保障できない。それに、あなたは知らないでしようけど、彼女は 「ダンピール。それがどうかしたか ? さえぎ 遮るよ、つに緋水が一言、つ。 もど いっしゅん ちょうしよう 一瞬蘭月は目を丸くしたが、すぐに余裕の表情に戻り、嘲笑を浮かべる。 そば 「知っている、か : : : それでよく傍にいるわね。その吸血鬼といし あなた、本当にまだ 人間 ? 」 「どーだかね : からだ 蘭月は、緋水の体質を知らない。 ゆえに、今の言葉は皮肉交じりだが、緋水の身を案じてもいる。 むだづか 「検査ならいつでも受けるけど ? それこそ税金の無駄遣いだけどな」 「 : : : ナマイキな子ね。不要よ、そんなの。もしあなたが人間をやめれば、その時点で、 ひつぎ
「うわ、自分でイヤミって言っちゃったよ、この人。かっこわる」 口元を押さえて笑いを堪える緋水。 蘭月は顔をしかめ、憎々しい顔で吐き捨てる。 つつし 「 : : : とにかく、これに懲りたら、しばらく口出しは廩むことね、狩夜特別顧問 ? もっ とも、今後あなたの進言を上が真に受けるとは思えないけど」 そのまま取り巻きの職員達を引き連れ、彼女は去った。 残された緋水は、興味なさげにそれを見つめていたが、 もど 「 : : : 戻りましよう。お手数をかけました というえるるの言葉で、地上への帰路についた。 たず 帰る道すがら、緋水は言葉を選びながら、今回の件について尋ねる。 「お前 : : : 結構複雑な立場にいたりする ? 」 そうまか 「元から、複雑ですよ。捜魔課の成り立ちは、現代に生きる魔物の有効活用が目的です。 かんし 私の配下として動く人間は、私を手伝うと同時に、監視役でもある。まあ、吸血鬼の血を 半分引いたダンピールなんですから、当然でしようが」 「一言うなよ、そーゅーこと。あの大神って女は、何モン ? 」 「言っていたとおり、正規の捜魔課員です。少数の部下を引き連れた、班長でもあります。 こら きゅうけつき
224 弱点を突きつけられながらも、蘭月は不敵に笑う。 緋水よりも、むしろえるるヘの敵意の方が強い。 すす 「気に喰わないのよ : : : ダンピール。人間でもない吸血鬼でもない、そのくせ、血を啜る。 タチ 人を殺す。ある意味、吸血鬼より性質が悪いわ。私の一族も、大分殺された」 ワーウルフ きっこう はけんめぐ 「 : : : 吸血鬼と人狼は不仲。力が拮抗している分、覇権を巡って争ったことは数知れす。 ですが、あいにくと私はそんな歴史に興味はありません。吸血鬼を滅ほすなら、どうぞご ちゅうちょ 自由に。ただし、あなたやその一族が人間を害するなら、私も躊躇なく引き金を引きま れいてつ 冷徹に返すえるる。 種族の因縁など引きずっていない。どが、 オ同類などと蘭月を憐れむこともしない。それ が彼女だ。 「どけよ、狩夜。やりたいんなら、やらせてやれ。俺が相手をする」 えるるを押しのけ、緋水が気だるげに前に出る。 余アリアリだが、 言うまでもなく身体能力は人並み以下、絶対に勝てない すけだち 「バカにして : : : どうせ、狩夜さんの助太刀目当てでしよう ? その娘、クールに見えて 甘いわ。甘すぎる。だから、部下にも裏切られる。ギリギリなところでは、彼女はあなた よ つ いんねん あわ