おおがみ かりや 「大神さんですか ? 狩夜です , めずら 「珍しいこともあるものね。あのボーヤから、何か聞いたの ? 「用があるのは、私ではなく、彼です。今、替わりますー とぎ 一旦声が途切れ、電話ロの向こうの相手が変わった。 聞き覚えのある、吸血鬼とつるんでいた、いけすかない少年に。 「えーっと、大神さん ? アンタ今どこ ? 警視庁にいるわけ ? 「ぶしつけね。今、帰庁中よ , むか かんし 「急いで回収された柩に迎え。そして監視しろ。何かあったら、滅ほせ , 「はあ卩 いきなり何を言っているの ? 柩が動きだすとでも卩あれは厖析の結果 「柩じゃない 断定した物言いに、蘭月はロを噤んだ。 この少年ーーー何かを知っている。 「吸血鬼がそこにいる」 「 : : : まさか。柩は、空つほだったわ。あなたも見たはず。私だって : 「本当にそう思ってるか : らんげつ つぐ ほろ
今もルシュラの自室に置かれているー。ー彼女の柩と。 「それが、船から引き上げられたものです。 えるるの言葉に、緋水はゆっくりと振り向き、問い返した。 「開くのか、コレ ? 」 うなず えるるは無言で頷いた。 緋水は元の位置に退き、柩を見つめる。 かって、ルシュラは山中で柩から目覚めたという。 そこから、「真柤」たる彼女の全ては始まった。 Ⅲ では、今眼前にある柩からは、何が出てくる ? ア 誰も答えを知らず、それでいて確実な何かを予想する中、緋水は背負うツアラブレイド ュ にぎ ラを握る手に、力を込めた。 レ」 架 字 十 銀「うむ、中々の出来だな , と、ご満悦の口調で語るのは、絶賛ケーキバイキング中のルシュラ。 おうせい 更に山盛りにケーキを載せ、旺盛な食欲でたいらげていく。 さら まんえっ の
ルシュラの中で、ファーガスの過去と、緋水の過去が少しだけ繋がった。 きゅうけつき あるいは、緋水自身、透子を殺した吸血鬼が、自分の育ての親に何らかのコンタクトを こうりよ 取ろうとしていた可能性を、考慮していたのかもしれない。 いや 「真祖」級の吸血鬼ならば、弥が上にも同族の注目を惹く。 すうはいしゃ ア敵対者でなくとも、望まぬ崇拝者や利用しようと試みる者も、大勢いただろう。 「ファーガスとやら : : : 十年前の時点で、そのミラルカという者以外、『真柤』はいない ラと申したな ? 」 ぜひ 架「残念ながら。ご存じであれば、是非ミラルカ様の消息を伺いたいのですが : 字 + 「死んだそうだ」 の 銀あえて、滅びた、とは言わなかった。 緋水が常に言うように、人に、家族に対する表現を使う。 「 : : : では、あなたは今この世にいる、最後の『真柤』ということになる。ですが、今ま 「その : : : 「真柤』の名は ? およ : 聞き及んでいます。残念ながら、不在のようで、謁見は叶いません 「、、、一フルカと : でしたが」 つな えつけんかな
102 もど ータもほしい。あとは、彼女の記憶が少しでも正確に戻るよう、縁の深い現場に行ってみ るですとか : はまべ 「うむ、では、まずはその、最初に吸血鬼と出会った浜辺とやらだー よいな " 】」 ふだん 普段なら、誰も応じない一方的な上から目線の物言い。 びしよう けれども、その日は全員が微笑しながら頷いた。 そして今、緋水達はその浜辺にいた。 すなはま ハスから降り、少し歩いたところに開けた砂浜。 さび かっては小規模な海水浴場として利用されていた浜辺だが、今では完全に寂れていて、 泳ぐ者はまずいない もつばら、近場にある交通と設備の整備された大規模なプールが利用されていて、陽射 かいむ しが強く、水浴びのしたくなるこんな日でも、利用者は皆無だ 期せずして現れたプライベートビ 1 チだが、当然緋水達の目的は、他にある。 なのに。 それなのに。 「いや、おかしくね ? 何故に全員水着 となり 緋水の隣には、ズラッと居並ぶ水着の美少女達。 だれ なぜ ゆかり ひざ
「そ、それは : さすがに反論できず、ルシュラも口を噤む。 今はほば同い年にしか見えないが、いずれは緋水だけが年を重ねていく。 血の味も変わるだろう。 それに、互いの立場も : いや、緋水だけが変わっていく。 「ア、アイツが、早くちゃんと私の下僕になればよいのだ ! そうすれば : : と言いたいところだけど、その必要はないわね。ヒ 「そんなこと、アタシがさせない・ ー君の体質じゃ、どーせムリだし おどろ Ⅲ 「そうみたいね。私も驚いたけど : : : あれだけ吸われてもまったく変化がないんだから、 ア この先もきっとムリ」 ュ アンチドラグ ラ吸血鬼化完全無効、反吸血鬼。 いくど と幾度となく彼女達の前でも血を吸われながら、緋水の肉体には何の変化もない。 しんらい 字信頼のおける実績が、ルシュラの前に立ち塞がる。 もど : いっか、必ず下僕にしてやるだけだ。今はその : : : アレだ、記憶を取り戻すの 「ふん : が重要なのだ " 】 「そうね、アンタの手助けは癪だけど、確かに早く戻ってほしいわ。そうすれば、勝手に しやく つぐ ふさ きおく
だが、緋水は小さく首を横に振った。 しようこ ぐろう 「まだ、全部推測の段階だ。説明はつくが、証拠はない。俺の取り越し苦労の可能性もあ ある。もっとも、それが一番いいんだけどな。今朝からついてないだけに、不運がそっち にも重ならないことを祈ってる」 「何を : : : 言いたいのです ? 」 れんらく 「バスの中で話す。その前に、誰でもいい、捜魔課の人間に連絡を取れ」 「それは、すぐに。ですが、どのような指示を ? 」 かくり 「簡単だよ。今すぐ『柩』を隔離しろ」 ふ だれ そうまか
ろ、きっと 「でも : : : 今は何もない あせ 「焦ってもしようがないだろ ? 」 かんべき 「 : : : うむ。アレだ、と、とりあえず、お前を完璧な私の下僕にするのだー 「ムリだと思うけど、がんばれ 「うるさい、黙れ ! アレだ、吸血鬼にならぬのなら : : : わ、私の魅力で、と、虜にして やる " ・ 「ムリなんじゃないかなあ : ア「、つるさい " 7 張り切るルシュラと、だらける緋水。 キ 防対照的ながらも、しつかり手を繋ぐ二人を、背後から透子が笑顔で見つめていた。 きずあと 架その首筋には、もう、あの忌まわしい傷痕はない。 十「思い出 : : : ありがと」 つぶや 銀聞こえないように、彼女はそう、ひっそりと呟いた。 みりよく とり - 」
「何をぶつぶつ言っておる ? というか : 言われて気がついた。 意識してないのに、勝手に手が動く。 どうやら、またやられたらしい 「透子さん : : : ついに、完全に気配を消しやがったな : : : 左手が、知らない間に犯罪犯し たらど、つしよ、つ : 「まあ : : : よいのではないか ? アイツにも、多少はその : : : そういう気分を味わわせて やっても ? 」 「かもな : : : 」 「で : : : アレだ、私がその : : : 」 「どーでもいーし」 なや 結構深刻な悩みを、あっさり否定する緋水。 むくれるルシュラに構わず、繋いだ手を引っ張るようにして歩く。 「俺は今のお前しか知らないし、知りたくもねーし」 「過去があるなら、それはそれでラッキ 1 だろ。家族がいたり、恋人がいたり、楽しいだ つな いつの間にか、私の手を握っているぞフ
出会ったばかりの彼女なら、ためらわずに、タカ派の主張を述べたところだろう。 では : : : 今は ? 「あなたの部屋、もう用意ができているようです。案内しますから、こちらへー ついきゅう 緋水はそれ以上追及せず、先導するえるるに続く。 「しかしアレだな、何か、俺だけ一人部屋ってのも気がひけるな。そっちは、そんな広く もない部屋に、四人だろ ? 」 「男女が同じ部屋で寝るわけにもいかないでしよう ? 二対三で分かれることもできませ アんし、当然のことです」 ュ「そりや、そうだけど キ 防「着きました」 えるるが足を止め、引き戸を開く。 架 うすぐら + 眼前に広がるのは、薄暗い和室と、床一面に積み上げられた布団の群れ。 の 銀「ここって : : : まさか」 「布団部屋です」 あっさり、んるるは言った。 ゆか ふとん
「いや : 「その : : : い つばい人の血を吸って、殺したり、下僕を作っていたら、どうする : 「あのファーガスという男と話して、少しわかった。少なくとも、私は十年前には : こんせき の世界にいなかった。痕跡もなかった。本当に、誰も : : : 私のこと知らないんだと、思 「そうとも限らないだろ。知られてないだけかも」 「でも、お前の知っている『真柤』と私は : : : 違うだろう ? 「まあ : 「やつばり、私は・ : 私じゃなかったんだと、思う。前は、違う誰かで、違う何かで : : ・それが全てを忘れて、今の私になった。もしかしたら、顔や体も違ったのかもしれな 霧になれる吸血鬼がいるんだ、それぐらい : : : できるかもしれないだろう ? 」 「かも、な」 緋水は否定できなかった。 自分自身、「真祖」について全てを知っているわけではない。 ミラルカはーーーあまり多くを語らなかった。 きり