たたず 浜と海の境目に佇んでいた。 はーなが・ら 彼女の小柄な体に似合う、フリルスカートのついた花柄のワンピース水着に身を包んで いなから、けして、冰ご、つとはしない ぎよ・つし ただ、定期的に足に打ちつけられる波を凝視するだけ。 ふる 体は小刻みに震え、何かに耐えているようにも見える。 ルシュラ同様、彼女もまた、海は苦手だ。 吸血鬼と人間のハーフたるダンピールである彼女は、吸血鬼の弱点をその身に引き継い でいる。 ともな Ⅲ アすなわち、「流れ , の伴う水が苦手。 と きわ じやき ュ特に天然由来のものが苦手の極みであり、邪気を祓う塩が溶け込んだ海水など、潜れば おぼ ラまず溺れる。 それでもほほ全てのダンピールはカナ 架さすがに吸血鬼ほど苦手というわけではないが、 字 十ヅチといっていい。 の 銀泳げる場所と一一一一口えば、小学生向けの水深の温水プールが関の山だ。 そんな体質は、彼女自身が一番よく知っている。 それでも立っているのは : : : 呪わしい体を認めたくないから。 一 ) がら た のろ
最後に、えるるが締めた。 ひがい 「あなたは、立派な人です。被害は大きかったですが、抑えることはできました。胸を張 ってください」 「、つん : えがお 透子は、さっきからずっと笑顔のままだ。 なみだ そ、つしないと、涙で顔がくしやくしやになってしまう。 「 : : : 楽しかった。ひょっとしたら、生きてるときより、ずっと。おかしいよね、そんな じようだん ア「笑えない冗談ッスね : もう、逝くね。皆、あっち向いて。その間に、私逝くから。見られてる ュ「ふふふ : ラと恥ずかしいし : : : 泣いちゃいそうだし」 だれ うなず 誰ともなしに頷き、背中を向ける。 十振り向いたとき、もう彼女はいない。 らいにん せんばい 銀十年先輩の幽霊で、依頼人。 「バイバイ : みんな
くちびるうば 「スキみて唇奪うとかなしな」 「 : : : しないわよ。横顔見せて」 : こ、つ ? 」 けげん 怪訝な顔をしつつ、緋水は真横を向いて横顔を晒す。 芽依が顔を近づけてくるが、特に警戒はしない。さすがに、この顔の向きならほっぺに キス : : : 程度だろ、つ。 さらに顔を近づける芽依。 といき 吐息が耳に当たり、何だかこそばゆい。 とい、つカ : : : さすがに近すぎる。 「あの : 違和感を覚えたときには、もう遅かった。 かんしよく とうとっ 唐突に耳たぶを襲う、甘く濡れた感触。 おそ おそ さら
た少女は、生ゴミでも見るような目つきで吐き捨てる。 「死ねばいいのに」 「今、本気で言ったろ、お前 : : : ? 」 「すいません、視線を向けないでください。それだけで、人間としての格が落ちてしまい そうです」 「お前は俺をなんだと思ってんだよ : Ⅲ ア精神をへし折られて、えるるから目を離せば、じと 5 っと見つめてくる女子三人。 ュ皆息ピッタリで、部屋の戸を指差している。 つまりは、「行けとい、つことなわけで。 架「 : : : そうなっちゃいます ? 正直、もう寝たいんですけど : 字 十「いいわよ別に、まあ、アタシのパワーで永遠の眠りになるかもだけど の のろ 銀「悪夢にうなされるかもね、私の呪いで」 かなしば 「金縛りって : : : 旅行先で起こるっていうわよね ? ほほえ うなず 人造人間と魔女と幽霊に微笑まれ、無力な少年は小さく頷いた。 みな ねむ
が、会話の中心となるネタは 「ね、ヒー君って、家だとどんな感じ ? どうせい 「ドラキュリアさんと同棲しているわけだけど : : : その辺、どうなの ? 」 しんしん 興味津々で緋水のプライバシーを訊いてくる、芽依と希璃華。 透子も同年代の少女達と会話できるのが楽しいのか、ノリノリで天然ストーカーのスキ ルを発揮して得た情報を伝える。 ・ : 部屋にこもって、グラビアアイドルが表紙を飾ってる雑誌を見てたわ , 「、つん 5 っと : きょにゆう しかも巨乳 ! 」 : 好きなんだ ? 」 「へえ、、・やつばり : しよせん 「所詮は、あなたもそちら側ね : 「ムムムツツ、私というものがありながら ! 」 : ルシュラまで参加していた。 いつの間にカ しかも、何かべクトルがすれている。 はださら 「負けるものか。そのような肌を晒しただけの女よりも、私に目を向けさせてやる ! 」 のうさっ 「 : : : 確かに、夏休みも近いし、ここは私の水着で悩殺しておかなきや くじよ・つ 、、、、リに、紅城君に見せようとかじゃ 「ちょうど、新調しようかと思ってたのよね。あへ き
一っさ / 、 交錯の時は短く、決着は一瞬でついた。 ルシュラ。 敗者は 貫手は当たることなく、彼女の体は腹に叩き込まれた蹴りに吹っ飛ばされ、そのまま宙 あさせ を舞い、浅瀬に落ちた。 「お前 「吸血鬼なら、どうってことないでしょ ? この程度でダメージがあるわけでもない。ま おぼ して、夜なんだし。ああ、でも海はまずいか。溺れるかも かいむ 身を案じる気配は皆無、むしろ、楽し気に蘭月は言う。 ア「私、吸血鬼って大キライなのよ。もちろん、ダンピールもね。上が判断したなら、いっ でも始末したげるわ キ と 無言で、緋水は蘭月を見つめる。 架 ひとみ めずら 字 + 珍しく明確な敵意を込めた瞳だが、彼女は意に介さす背を向けた。 おそ みよう 銀「妙なことは、考えないことね。その吸血鬼が生かされてるのは、まだ明確に人を襲った はいじよ しし力なる理由であれ、そちらが手を出せば、排除対象 言がないから : : : ただそれだナ。、、 になる。彼女にも言って聞かせなさい
まくら せいじゅう だがそれも一瞬、近くの枕を拾いあげ、浴衣の内側から愛用の聖銃アルゲントウムを取 り出し、その銃口を緋水に向けた。 「あ、あの狩夜さん、相変わらず、その銃どこにしまってんのかな、 5 。そして、その枕は、 まさか防音用かな ? 「さようなら」 ひがい 「いや、ちょっと待て、俺は被害し : 弁解の間もなく、引き金は引かれた。 てんまっ 枕越しに放たれた弾丸は、宿の者には事の顛末を知らせない。 ふとん ア数分後、布団を運び出しに来た仲居に、ゾンビと見紛う、ボコボコにされた少年が発見 ュされ、いわくつきのこの部屋に、また新たないわくが加わった。 くもんえんさ たお : そんな苦悶と怨嗟を漏らし、そ 違う、俺は悪くない、だから押し倒されてムリャリ のゾンビ、もとい少年は助けを求めたとか。 おそ + その様子に恐れをなした仲居は部屋を飛び出し、以後その部屋は布団部屋としてのみに しゆくはく 銀使われ、ついぞ宿泊客を泊めることはなかったそうな。 だんがん みまが
「もう、お嫁にいけない : : : 耳だけが、大人の階段を五段飛ばしくらいで駆け上がってし まった : たお しまらない遺言を残し、緋水は斃れた。 心なしか、顔は幸せそうだ。 「貴様、コイツに一体何をした ただでさえ弱っているのに・ か 「あ 5 ら、いつもガプリと下品に噛みつかれてかわいそうだから、やさし 5 く、甘噛みし ラブドール すどう てあげたわけじゃない。この完全無欠の人造人間こと、巣道芽依様の四十八の央楽機能、 ましょ - っ おかた ノミ』の威力を見てくれた ? アタシの舌は、イ〇リー岡田よりよく動くの 「ぐぬぬ : 反論したかったが、 未だ央楽に悶えている緋水を見れば、言い返せなかった。 きゅ - つけつき 確かに、吸血鬼に血を吸われるよりはマシだろう。 「悔しかったら、アンタもヒー君の耳たぶをハミ、 ノミしたげ・れば 5 フ 甘噛み一つできな いようじゃ、ペットの大や猫以下よ卩」 「むむむツツツツ ! 」 挑発され、ルシュラは緋水の耳に唇を近づける。 『魔性のハミ、 ちょうはっ よめ いり・よ′、、 もだ
序章 「それでは事前に言っていたとおり、来たるべき夏休みに向け、部の活動を決めたいと思 おのおの う。さあ、各々意見を持ち寄るがよいー ひこうにん そうまぶ 学校非公認部活、捜魔部の本日の活動は、部長のこの一言からーー始まらなかった。 ふけ 空き教室に居並ぶ部員達は、いつものようにダラダラと思い思いの行動に耽る。 すどうめ ケース 1 ーー巣道芽依。 かみ Ⅲ枝毛がないか髪の毛をいじって確認しつつ、ファッション雑誌に目を通す。 ア かりや ケース 2 ーー狩夜えるる。 ュ たた キ いつものよ、つにノートパソコンのキーボ 1 ドをカタカタと叩いているが、今日はいつも より若干顔つきが厳しい。 くじようひすい 字そしてケース 3 及びケース 4 ーー紅城緋水と、新入部員。 十 の こちらは一風変わって、複数枚のプリントをステープラーで綴じる作業を、根気よく行 っていた。 「これで終わりつスね、センパイ」 じゃっかん およ と
せいどう 彼ら以外には見えていない彼女の先導で、緋水達は休日を利用して、清堂市のとある浜 辺に向かっている。 ざいせき きゅうけつき 彼女の在籍していたオカルト研究会のメンバ 、その少女達が、最初に吸血鬼と出会っ たという場所がそこだった。 なぜみな ほったん 何故皆でそこへ向かっているのかーーー事の発端は、部長たるルシュラによる「取り調べー からだった。 十年前に現れたという吸血鬼、透子の死、柩の謎ーー解き明かすには、まず透子から詳 しく話を聞き出す必要がある。 そ・つさ というわけで、ルシュラが捜査を決定した直後、ルシュラいわく、「取り調べ。が始ま ア った。 ュ キ もちろんルシュラだけでは不安というか、話が一向に進まないのは確実なので、横には とえるるかついている。 字そして何故か、緋水は彼女達に背を向ける格好で、調書的なものを書きつけるように指 銀示されていた。 えいきよう 「いや、おかしいじゃんこの構図。完全に、この前観た刑事ドラマの再放送に影響されて ちょうしゅ かりや るじゃん。っーか、狩夜のパソコンあるんだから、俺いらなくね ? せめて、聴取の方に ひつぎ み