実は誰も証明してない」 そ、つ。 永遠に生き続けた吸血鬼などいない。 ほろ 「真柤。ですら、皆滅びた。 ひごう 自分の身内も、非業の死を遂げた。 げんそう 不老不死とは、吸血鬼のアイデンティティであり、大いなる幻想にすぎない。 「 : : : そんなの、ただの言葉遊びであろう 2: 大体、ありえぬなら、何故永遠などという 言葉がある」 「永遠なら、あるかもな」 緋水の目が遠くなり、ただ一人の家族の、最期の光景を映し出す。 日に灼かれて死んだ身内は、最期の瞬間に、こう言っていた。 はり・つリ 永遠など : : : ありはしない。だが、私は証明したかった。生き続けることで。磔に 処された彼の生き様が正しいものだと、思いたくなかった。だから、生き抜くことで私は 永遠を証明したかった。 ワケわかんねーこと言うなよ : : ・死ぬな ! 私は、独りだった。それこそが、永遠への道だと思っていた。私を除く、あのとき や しゅんかん なぜ
くちびる 言いかけた緋水の唇に人差し指を当てて制し、ルシュラは続ける。 「そもそも、この透子とやらの言葉を信用せねば、何も始まらん。仮に、まったくのウソ ほろ ひつぎめ であったとしよう。吸血鬼がすでに滅んでいる、あるいは柩から脱け出し、遠く手の届か ぬところにいる、そもそも吸血鬼などいない : : : そのような結果であったとしよう。だと すれば、それはそれで問題あるまい ? 最後の言葉は、えるるに向けたものだった。 してきおどろ 座ったままのえるるは、ルシュラの意外な指摘に驚きつつも、頷く。 きようい そうさ 「確かに。捜査が徒労に終わるのは残念ですが、そもそも脅威たる吸血鬼がいないのなら むだづか Ⅲ ば、それに越したことはありません。私達だけで動けば、税金の無駄遣いということも、 ア ュないでしよ、つし : キ いなければそれでよし。いた場合は、対処せねばならん。いずれにせ ラ「そ、つであろ、つ ? 架よ、真相がわかれば、お前も・ : : ・『じようぶつ』できるであろう ? 」 字 + 見つめられ、透子は小さく頷く。 の ひとみ なみだにじ 銀その瞳にうっすらと涙が滲んでいることに、緋水は気づいていた。 「では、「とりしらべ』はこれで終わりだ。取り急ぎ、何をするべきだ ? しょ・つさい しんびようせい 「情報収集 : : : でしようね。彼女の証言の信憑性を確かめたいですし、吸血鬼の詳細なデ きゅうけつき
220 ない。情報の公開とか、避難の呼びかけとか、やることあんじゃねーの ? 」 「必要ないわ。捜魔課の仕事は、絶対機密。ある意味、公安より秘密主義よ。そもそも、 魔物の存在を国家が声高々に主張してどうするの ? 心配しなくても、やることはやるわ。 それに、その吸血鬼もバカじゃないでしよう ? プランクはあっても、現代社会での生き むやみ 方はわかってるはずよ。無闇に死人は出さない 「それがケーサツの一言うことか、こら ? たいだ いつもの気だるげで、怠惰な口調。 ひとみ しかし、瞳の奥には、怒りの炎が燃えている。 「ええ、警察のお仕事よ。国家の治安維持、組織の維持。正義ってのはね、とかく面倒な のよ。正義の味方でいるのは、もっと面倒。そして百人死んでも、千人助かれば万々歳。 割り切らなきや、やっていけない 大人の言葉だった。 組織の正義と自分の正義、とっくの昔に割り切りを済ませた、大人の言葉。 だから、ガキである緋水には届かない 「ご高説ど 5 も。じゃ、俺帰るんで ? 」 「どこへ行く気 ? 余計なことはしないで。する気なら、全てが終わるまで、ここにいて ひなん ほのお めんどう ばんばんざい
ムダに説得力のある言葉だった。 実際、死んでいる相手が言っているわけで。 : って、誤魔化されねーし ! 勝手な思い込みで、人の体操るの、マジやめてもらえ ます しもべ 「そうだ、私とこやつは、吸血鬼と人間で : : : 主人と下僕だ ! そんな、その : : : そうい うのでは : 言葉では否定するくせに、ルシュラの声は小さい。口調も、もごもごしている。 あき かたすく 透子は腕組みして二人を見比べていたが、やがて呆れたように肩を竦める。 あまず ア「まあいいわ。正直、あなた達の関係よりも、私がちょっと甘酸つばい青春を味わってみ ュたかっただけだし」 防「うん、余計にタチ悪いっスよ、それ」 架「そもそも、私は緋水君に取り憑いた身だから、あなたが動くと、自動的に憑いていっち 字 十ゃうのよね」 の 銀「うわあ、マジでタチわる : 「まったくだ。四六時中張りつかれたうえに、体まで乗っ取られるとなると : じようぶつ まず成仏させた方がいいのではないか、そんなことをルシュラと緋水がアイコンタクト ごまか きゅうけつき
122 「ううん、ここで間違いはないけれど、それ以上は・ ゆかり めぐ 「 : : : とすると、後は他の縁の場所を巡るか、この辺で聞き込みとかかな」 「今日は遅いですし、後は私でやります。宿の手配もしていますし」 はかど 「でも、私がいないと捗らないよ ? えるるの言葉に、透子が自分自身を指差す。 どうはん 確かに彼女を同伴しないと何も始まらないが、当の彼女は : : : 緋水に憑いている。 そうさ いっしょ 「じゃ、緋水君も一緒ね。三人で捜査を続けましよう」 むじやき 無邪気に言う透子。 りゅうび その言葉に、残る三人の少女が柳眉を寄せた。 しもべほ . っ 「 : : : 下僕を放って帰るわけにもいかぬな。そもそも、私が部長だ。事の経過を見守ると しよ、つ ! 」 「えるるちゃん達だけに、苦労させるわけにもいかないし、アタシも付き合うわよ ? 」 がいはく 「か、下級生同士で、が、外泊なんて : : : ダメよ ! 責任者として、同行します。あ、あ くまでも上級生として、生徒会の副会長としてだからね りくっ 各々勝手な理屈をつけ、片付けを始める三人。 その背中を見ながら、帰る気満々でいた緋水は、面倒そうに天を仰いだ。 おのおの おそ めんどう あお
「うわ、自分でイヤミって言っちゃったよ、この人。かっこわる」 口元を押さえて笑いを堪える緋水。 蘭月は顔をしかめ、憎々しい顔で吐き捨てる。 つつし 「 : : : とにかく、これに懲りたら、しばらく口出しは廩むことね、狩夜特別顧問 ? もっ とも、今後あなたの進言を上が真に受けるとは思えないけど」 そのまま取り巻きの職員達を引き連れ、彼女は去った。 残された緋水は、興味なさげにそれを見つめていたが、 もど 「 : : : 戻りましよう。お手数をかけました というえるるの言葉で、地上への帰路についた。 たず 帰る道すがら、緋水は言葉を選びながら、今回の件について尋ねる。 「お前 : : : 結構複雑な立場にいたりする ? 」 そうまか 「元から、複雑ですよ。捜魔課の成り立ちは、現代に生きる魔物の有効活用が目的です。 かんし 私の配下として動く人間は、私を手伝うと同時に、監視役でもある。まあ、吸血鬼の血を 半分引いたダンピールなんですから、当然でしようが」 「一言うなよ、そーゅーこと。あの大神って女は、何モン ? 」 「言っていたとおり、正規の捜魔課員です。少数の部下を引き連れた、班長でもあります。 こら きゅうけつき
ちゅうかく おぼ ゆくえ かってのオカルト研究会の中核メンバーと思しき生徒達は、全てが行方不明となってい きょひ かくにん しっそう る。失踪、転校、登校拒否ーー全ての事例を確認したわけではないが、透子の言葉を信じ るならば、おそらくーー皆、咬まれた。 じよじよ のっと 「現代の吸血鬼にとって、古式の礼に則って、一人ずつ、数日の間を置いて徐々に血を吸 けんぞく 、つとい、つのは、非宀吊にハ ードルが高い。周囲に気づかれる危険も高いですし、眷属に加え いん。へい ず吸い殺せば、死体が残る。その隠蔽も、それなりに骨の折れる仕事です。ですが、高位 から な吸血鬼ほど、それに固執する。おそらく、魔眼による精神操作を絡め、徐々に彼女達が あや そとぼりう 失踪しても怪しまれぬよう、外堀を埋めていったのでしよう」 調べた中核メンバーのデータ、そして自身の知識から、えるるが吸血鬼の所業を推理し ていく。 こうてい うなず 透子は頷き、えるるの言葉を肯定した。 : なんだと、思う。気がついたら、あのとき浜辺で彼と出会った中で残ってたの 「そ、つ : うめぼ は、私一人だけだった。自れじゃなくて、気に入られてた : : : みたい。だから、最後に とっておいた : : 私の血を吸おうとしたとき、そう言ってたわ」 部室に重い空気が満ちていく。 むご しゅんかん たず 死者に命を失うその瞬間のことを尋ねるーーーこれ以上惨い仕打ちが、あるだろうか ? こしゅ・つ
276 「安心しろ、透子。いっか、お前もちゃんと逝かせてやる ! さあ、新たな仲間も加わっ きおく た。これからも、私の記憶とよりよい吸血生活向上のため、頑張るのだー すなお 「素直に頷きたくないな、それ : しやくぜん ルシュラの言葉に釈然としないものを感じつつも、緋水は新入部員を受け入れた。 「とりあえず、よろしくね、緋水君。成仏するまで」 あくしゅ でも握手は、できなかった。 透けてるから。 にぎ 握れないから。 リアル幽霊部員、不破透子。 現世に未練たらたらの彼女が無事成仏するのは、まだ遠い先の話である。 ふわ がんば
終章 「いよいよ、お別れか : 放課後、夕日に照らされる校門を前にしみじみと呟く。 気持ちは、他のメンバーも一緒だ。 とうこ あの一件の決着がっき、透子自身、首筋の傷も消え、心にけじめをつけた。 も、つ、逝かなくてはならない。 見送りはいいのか、どうすればいいのか : : 考えた末、結局放課後のここに落ち着 「やつばり、お別れのイメージあるしな」 さび 「うむ、どことなく寂しさもある」 しんみよう しんけん 神妙な顔つきの緋水とルシュラ。さすがに、死者を送り出すときは、真剣な顔だ。 ゅうれい 「幽霊に言、つのもなんだけど、元気でね」 「お墓に : : : お供え物、しますー きりか 芽依と希璃華も思い思いの言葉を告げる。 いっしょ
214 すなお 芽依の言葉は、皮肉ではなく素直な疑問だった。 自分が害されたのならいざ知らず、殺されたのは取るに足らぬはずの人 もう死んでいるのに。 「あのままだと : : : 『じよーぶつ』できぬであろう ? 傷の痕も : : : そのままだ」 「それはわかるわよ。同情もするし、どうにかしてあげたいと思う。けど : : : それが普通 の吸血鬼でしょ ? 否定したら、アンタも辛くなるだけよ だま ルシュラは押し黙った。 わかっていたことだ。 やっていることは、吸血鬼としては、偽善以外の何物でもない。 「いいんじゃない ? 少なくとも、紅城君の血しか : : : 吸っていないのなら、わからない でしよ、普通の吸血鬼の感覚なんて」 仲裁するように、希璃華が二人の間に割って入る。 しかし、その表情は厳しく、ルシュラを擁護するわけでもない。 「けど、いっか紅城君の血でも、満足できなくなるかもしれない。そうでなくとも、彼以 外の血を吸っていた自分を、思い出すかもしれない。そうなったときは、私達、きっと今 ぎぜん よ - つご 間ーーーしか、も、