るよ、つだ。 おだ 警戒ゼロの穏やかなものだ。 毛布をかぶっている寝顔は、いつもと変わりなく、 「フフフ、またしまりのない顔をして : : : 実は、こうして私に血を吸われるのを待ってい るのではないか ? 」 つぶや 起こさないよ、つにゆっくりのしかかり、舌なめずりをしながら呟く。 パッチリと緋水の目が開いた いつものように、真紅い唇を首筋に近づけたところで 「何だ、起きたのか。まあよい、じっとしていろー ア緋水は目をこすりながら、首を傾げる。 うすぐら ュカーテンは閉めたままのため、薄暗くてよく顔が見えないのかもしれないが、そもそも キ ラこの家には二人しかいない 靴「何を寝ばけている ? 自分の主人の顔を忘れたか卩」 字 + 「 : : : 主人 ? 何言ってんのフ の 私だ、とっとと目を覚ませー 銀「まだ寝ばけているのか ? えりもとっか シャツの襟元を掴み、ルシュラが緋水の頭を揺らす。 目をパチクリさせる緋水。
176 「まず成仏してください 無表情でえるるが締めた。 カ いっさい 二人プラス幽霊一体に羽交い絞めの緋水から目を離し、えるるは一切話に入ってこない ルシュラに目を移す。 こ、ついうとき、率先して緋水に抱きっき、そして他の女性を蹴散らすのは彼女のはずだ が、何も言わず、ただ俯いているだけだ。 「急務とすべきは、紅城さんの体ですが : : : どうしたものですかね ? うが きばあと くちびるゆが 緋水の首に穿たれた牙の痕を一瞥し、えるるが唇を歪める。 かく 絆創膏で隠してはいるものの、その忌まわしい傷痕が近くにあること自体、彼女は気に 入らない。 「やはり、一番手つ取り早い手段をとりましようか ? せいじゅう ルシュラに近づくや否や、えるるは聖銃アルゲントウムの銃口を、ルシュラのこめかみ っ に突きつける。 はやわざ 目にも留まらぬ早業・ : ・ : と言いたいところだが、 ルシュラの反射神経ならば、避けられ ないことはない。 じようぶつ そっせん よ
: ならいいけど」 「そ、つ : 「で、何するんスか ? かくにん 「体育祭に備えた、備品の確認よ。テントとか、パイロンの数とかね。もう今日の一限目 から設営に入っていくから、早めにやっておかないと」 「はあ : : : でも、もっと前にやっといた方がよかったんじゃないスか ? 「他に : : : やることが多くて。ここ数日は、ショックであまり仕事が手につかなかったし ジト 5 ッと睨まれ、緋水は目を逸らした。 掘り下げると、自分に返ってきそうだ。 ア「じゃあ、開けます : かぎ ュ「あ、鍵かかって : ラ希璃華が職員室から借りてきた鍵束を掲げるが、使うまでもなく、引き戸はあっさり開 架しオ 字 + 「あれ、開いてますけど ? の 銀「おかしいわね : 「とりあえず入ります」 気にすることもなく、緋水は用具室の中に入った。 かか
114 ラの手が止まる。 高速の脱衣に、止める間もなくガン見していた緋水と目が合う。 当然、ルシュラの顔は即赤くなった。 「き、きききき貴様、何を見ている , 「いや、お前が勝手に脱いで : といつものように殴られたところで、ズルッとルシュラのスカートがずり落ちた。 だいたん 「うわ、大胆」 「だから見るなあああアアアアアアアアアア , 第二撃が顎を打ち抜き、緋水はそのまま倒れた。 だま しゅんかん 倒れ伏す瞬間、まぶしい白い布が目に入った気がしたが、一一一一口うとまた殴られるので、黙 った。 数分後に立ち上がったとき、すでにルシュラは着替えを終えていた。 「 : : : んで、練習すんの ? 」 「うむ、勝利は私にかかっていると言っても、過言ではないー : うん、まあ、ルールは覚えて。えっと委員長、任せても : 用あって」 だつい 俺、野暮
142 あくまでも向こうの意向の尊重、そんな口調で希璃華が言う。 あせ そこそこ正論だけに、蘭月もイヤな汗を流し始めた。 「イヤ、あの、別に、その : : 邪魔とかじゃ : : ほら、市民の義務とも言えるし 「私なんか幽霊だから、身の危険を心配しないで色々探ったりできたけど、邪魔ならしょ うがないよね。せつかく幽霊なんだから、色々やれるのに : さび 寂しそ、つな目で透子が一一一口、つ。 ともな そう、確かに彼女ならばたとえ危険が伴う協力でも問題ない。 死んでるから。 ・ : イヤ、あの : : べ、別に、あ、あなた達がど 5 しても手伝いたいって い、つなら : : いいのよ ? 社会勉強、的な ? むしろ、やってみる、的な ? そうそ う、何事もけいけ : 言いかけたところで、蘭月は全員から冷ややかな目で見られていることに気づいた。 せき、はら コホンと咳払いし、蘭月は深々と頭を下げた。 ・ : 手伝って下さい」 「今さら何言ってんだつつーの」
「 : : : どんだけ不幸だよ、俺 ? 」 じちょう ねころ 自嘲気味に笑い、緋水はソファーに寝転がった。 えるるはそれ以上彼の過去を掘り下げようとせず、ただ現実的な対応を述べる。 きゅうけつき せっしよくさ 「それ以上吸血鬼化が進まないよう、ルシュラさんとの接触は避けてください。仮に訪ね てきても、家には入れないように」 こわ : ドア壊されたらどうするの ? 」 「私が撃ちますー : 会わないようにするわ」 「こちらはこちらで、あなたのドッペルゲンガーを追います。くれぐれも : : : 独断専行は まぎ やめてください。今のあなたは、紛れもなくただの人間ですから。 「わかってる」 つぶや 呟き、緋水は目を閉じた。 日光を浴びたせいか、妙に体がだるい。 しようじよ・つ ひんけっ そして、吸血鬼化の症状ーー貧血気味の肉体も、中々キツイ。 ためいきっ わむ 溜息を吐き、緋水は眠りに落ちる。 やがてえるるがその体に毛布をかけるが、緋水は目を覚ますことなく、ただ深い眠りに
108 ドッペルゲンガー 第三章二存在 「何で、こんなに朝早く学校に行かねばならぬのだ 2: いったん 「うるさい、原因の一端はお前にもあんの , ねむ ひすい 早朝、眠い目を擦りながら、緋水とルシュラは登校していた。 ほど まだ始業時間には程遠いが、今日はかなり早めに家を出て、学校に着いた。 きりか 理由は、希璃華の手伝いだ。 彼女の部屋での一件の後、緋水は謝罪のメールを送ったのだが : : : 返信はない。 そむ 直接謝ろうと生徒会室を訪れても、希璃華はプイツと顔を背けて、目を合わせようとし そもそも、押し倒してきたのそっちじゃん : : : と本音を言ったら、顔を真っ赤にして平 手打ちを喰らい、事態はさらに悪化した。 どうも、あのアロマキャンドルに理性を剥ぎ取られたことを、かなり気にしているらし 案外、正確な効果は知らないで、本当に二人きりで : : : お茶でも飲みたかっただけなの たお おとず
104 : ヒー君 : : : どういうこと卩部屋で二人っきりってだけでもアレなのに、 「ちょっと : むなもと な 5 んで胸元はだけてんの : 芽依の目に敵意、いや、殺意が宿る。 ひとみひゅ むか それが頂点を迎えたとき、その瞳が比喩ではなく、本当にビームを放っことを、緋水は 知っている。 「まさか : : : 最初から、それが目的だったと ? 」 じゅ・つきにぎ カチャリ、とえるるの小さな手に重厚な銃器が握られる。 毎度毎度、どこから取り出すのかわからないが、その威力と精密さは身に染みていた。 ちが 「いや、落ち着けお前ら : : : 違う、これ違うって ! 」 「何が違、つのだ : 「ざっと、三十分は二人きり : : : まあ、一回戦ならイケるわよね ? 」 「羽乃さんは、何故寝入っているのでしよう : じりじりと距離を詰める三人。 後ずさる緋水。 きん - はく かくせい その緊迫した空気が覚醒を促したのか、目を擦りながら希璃華が起き上がる。 「う 5 ん、何・ の きより こす いりよく ひかり し
振り返ったその顔は・ : 緋水そのものだ。 しかし、目には深い悲しみを宿し、いつもの彼とはまるで違、つ。 アンチドラグ 反吸血鬼モード . の体質と、この一年の記憶を持っ緋水のドッペルゲンガー かか それだけではない何かを、彼は抱えていた。 「どうして : : : 俺がここにいるとわかった ? 「俺の考えることだし、な」 「ミラルカが、体育祭つつーか、運動会的なものを観戦するときは、ここからだった。あ アまり人目につきたくないし、日傘差してる女なんざ、ビデオカメラ抱えた親御さん達には、 ロノじゃま : こっからでも充分。どうだ、当たりか ? ュ邪魔だしな。視力は無茶苦茶よかったから : 防「ああ。さすが、俺だ」 じちょう と もう一人の緋水は、自嘲気味に答える。口調も、カがない。 架 字 : 問題は、なんでこんなとこにいるかってことなんだけど ? 」 の 銀「わかってるんじゃないか、お前なら ? 」 もう一人の緋水は、じっと自分自身を見つめる。 あお 緋水は塔屋の壁にもたれかかり、天を仰ぐ。 かべ ひがさ おやご
192 「いっ帰ってきてもいいように、べッドを私の香りで満たしとかなきや D 」 ろしゆっ : と勝手な理屈をつけ、芽依はいつものように露出の高いベビードール姿で、緋水の べッドに身を投げ出す。 からだ だが、迎えるのはスプリングの軋みではなく、ポョンと跳ね返る柔らかな胸と肢体。 、、レノュラ。 A 」し、つ、刀 ) 、、 いつものように緋水の制服のシャツを着て、一足先に彼のべッドでスャスヤとやすらか ねいき な寝息を立てている。 「 : : : 何でアンタがいんのよ 2: 」 えりもとっか もうれつ シャツの襟元を掴み、猛烈にルシュラの顔を揺り動かす芽依。 こす 不機嫌な顔で目を覚まし、ルシュラは目を擦りながら叫ぶ。 「うるさい、黙れ " 】どこで寝ようと、私の勝手だー 「だから自分の部屋行きなさいよ ! 何、彼が家にいないから、せめてぬくもりだけ的 な卩則にもこんなことなかったつけ」 「黙れ、お前が来ると、アイツの匂いが消える ! とっとと出てけリ」 まくらわた 「お互い様でしょ 1 が ! さあ、そのヒー君愛用枕を渡しなさい " 「誰がやるか ! 」 たが むか にお かお ゅ やわ