134 「まあ、素人ならそうなるわよね ? 」 全員の視線が、教室の後方に集中する。 らんげつ そこには、蘭月かいた うでぐ 引き戸の縁に背中を預け、腕組みをしながら、鼻を鳴らす。 しよせん 「最初から聞かせてもらってたわ。所詮はお子様の部活動、それが限界よね。『捜魔部』 まねごと っ ・ : とか言ったかしら ? 私達の真似事をしたいのはわかるけど、下手に首突っ込まれち や、メーワクなんだけど ? 」 敵意を隠さない蘭月。 そして、相手にしない捜魔部一同。 放っておくわけにもいくまい。とりあえず、手分けして捕ま 「う 5 む、厄介な相手だが、 えるぞ ! 」 、」 0 現実的な意見をほやく芽依。 あざけ 誰もそれに答えられずにいると、教室の後ろの方の引き戸から、嘲るような声が聞こえ へり そうまぶ つか
第一章透子譚 「 : ・・ : で、ど、つい、つつもりなのかしら ? : ごめんなさい」 しゅん、としょげかえる透子。 ゆかじか 床に直に正座し、両手をもじもじさせながら、機嫌を窺うように相手を見上げるが、当 の相手は冷たく見下ろすだけだ。 うのきりか りよううで 両腕を組み、仁王立ちで透子を断罪するのは、生徒会の副会長、羽乃希璃華。 ク魔女クたる彼女こそが、透子をこの学園に留め置いた存在であり、それだけに今回の件 いや、ここ最近の事件に対して、責任を感じていた。 「学園内は好きに動き回れるとはいえ、ものには限度があるでしよう卩」 : ごめんなさい」 ますますしょげかえる透子。 とうめいど はかな 元々儚げな少女だが、さらに体の透明度が増していく。 「夏休み中、補習や部活にんでいた生徒から、目撃談が多数上がっているわ。たまたま まじよ とうこたん こおう きげんうかが
を握っている。刃に絡まる布地の切れ端から、テントを切り裂いた犯人もまた、この人物 だと理解できた。 「お前 取り押さえよ、つと思ったとき、相手がこちらを見た。 とたん こうちゃく 途端、緋水は膠着した。 カモフラージュで制服を着ているのではなく、むしろ着ているのが当然だった。 相手はうちの女子生徒。 しかも見知った相手。 ア腕を掴んだ相手は、玲奈だった。 ュ 「 : : : 何で卩」 キ え 問いかけるが、彼女は無表情 いや、口元にかすかな笑みが浮かんでいる。 ちが 架いつも教室で見かける上品でやさしげな笑みとは違う、どこか毒のある、悪女の笑み。 せっしよく からだこうちよく 字 + 思いがけない接触に、緋水の身体は硬直する。 の すきみのが 銀その隙を見逃さず、玲奈は激しく腕を振り、緋水から逃れた。 「待て : 追おうとしたが、 希璃華が気になった。それに、相手が判明した以上、追う必要はない にぎ から のが う
「あの : = = ロしかけよ、つとしたが、 相手はこちらを意に介さず、そのまま部屋を出ていく。 まだ、話は終わってないわ ! 」 「ちょっと待ちなさいよ , 追いすがるように、生徒会室から女生徒が出てくる。 希璃華だった。 みんな 「どうしていつもそうなのよ体育祭の段取り、もっと煮詰めないと、後で皆が困るで しょ卩」 しいだろ ? どうせ、俺がいても変わらない。他の役員も、 「だから、君の好きにすれば、 そう思ってるさ」 「だからって : : : どうしてもっと、ちゃんとしないのよ 2: 」 緋水に構わず、希璃華はただ会長にキッめの言葉を浴びせる。 「お前がやりすぎなんだよ。いいかげん、わかってるだろ ? だから皆、この部屋にも寄 りつかない」 だま 、つんざりしたような会長の言葉に、希璃華が押し黙る。 っ 痛いところを突かれた、そんなふうに見えた。 だれ しようだくほ 「いつもどおり、好き勝手やれよ。誰も反対しない。俺の承認だの、先生への承諾が欲し カ
中止にしてほしい。もう、観に来る身内もいねーし、な」 ひとみ いっしゅん 一瞬、緋水の瞳が遠くなる。 そう、そもそも体育祭などのイベントで頑張る性質ではないが、今となっては頑張る意 味もない。観る相手もいないのに。 ひとかわむ 「お前が委員長の暗黒面ってんなら、まあそれでいいよ。人間、一皮剥きやそんなもんだ みんな ろ ? ただ、尖りすぎると大変だから、皆良心だの道徳だの、理性だので縛ってる。お前 も、正直辛いだろ ? とっとと戻れよ。本体と、足して二で割るくらいが、多分ちょうど Ⅳ アししー 7 「わかったようなこと言わないで ! 」 キ 防「わかんねーよ。だから、二人で話し合えよ。本人同士だろ ? どこまでも緋水は変わらない。 架 字 + 玲奈相手なのだから、当然だ。 まもの 銀魔物に分類されてもおかしくない相手にこの態度、もう一人の玲奈は、思わす苦笑した。 おもしろ 「面白いのね、あなたー 「たまに言われる」 とが つら がんば
ウエレフィカが静かに問、つ。 きおく へんぼう この場で唯一ミラルカと面識があるだけに、余計に記憶の中にいる、彼女の変貌が気に なる。 「情が移ったのだろう。ただ、それだけだ。取るに足らない人間に、心を奪われた。それ だけだ。大きなことをほざいたわりに、つまらぬ女だな」 おとし しんらっ 言葉は辛辣だが、貶めるような口調ではなかった。 あいせつ むしろ、哀切と共感が宿っている。 「情が移ったのは : : : 彼女だけ ? ヒー君も : : : じゃ、ないの ? 」 きび さと ア男女の機微に聡い芽依が、無表情でばやく。 うすうす ュ ライバルは、ルシュラではなく、むしろミラルカーーー薄々感じ取ってはいたが、どうも キ ラそ、つらし、 架「かもな。だらしない奴だ、死んだ相手のことを、いつまでも引きずって。アレだ、『み 字 + れんたらたら』なのだ ! の ていない 銀明るく締め、ルシュラは邸内へ向け、歩き出した。 芽依とえるるも、ウエレフィカに一礼し、後に続く。 「また、いつでもいらっしゃ い。いつまでお相手できるかはわからないけれど、命が続く し
156 「いっから気づいてたの : かくにん 「ドッペルゲンガーが確認されてる相手を、ロクに確かめもせずに本体だと信じたりしね ーよ。最初から疑ってたのと、陸上の道具全部捨てたくだりで、カマかける気になった。 朝練のとき、委員長は結構本格的なスパイク履いてたからな。さすがに、体育祭ごときで 新調しねーだろ ? 」 「 : : : そう。でも、私の言ったことは本当よ。もう一人の私は、ずっと最後の大会のこと を引きずってる。親の言いつけで陸上をやめたことも、またアンカーに引きずられたこと も。何もかも。私を否定するのは、彼女を否定するのと同じよ ? 」 「否定 ? 何だそりや」 緋水は何言ってんだコイツ ? と首を傾げる。 元より、退治する気もない。 できるわけもない。 何せ、相手はルシュラのことで世話になっている、委員長様だ。 「別に、体育祭中止させようとしたことは、大して気にしてねーよ。そりや大事になんの めいわく ャだし、何もしてない方の委員長が迷惑こうむんのはゴメンだけど : : : 正直、俺も体育祭 おんびん ぜひ なんてキヨーミねーし出たくねーし、特にリレーめんどいし。穏便な方法なら、是非とも かし おおごと
224 苦々しげに希璃華が言、つ。 行動的な幽霊とは、実に厄介な存在だ。 「 : : : でも、確かに透子さんの存在はすごく助かるわ。私も祖母にドッペルゲンガーにつ ほそく いて色々聞いたけど、半実体のケースは、捕捉が難しいの。けど、透子さんだったら、存 れいてき かんしよう 在を感じ取れると思うし、相手も半分は霊的な存在だから、干渉もできると思う」 「逆に言うと、相手も透子さんを警戒するってことだ。今の時点で学校に何も来てないの は、透子さんがいるからじゃねーの ? 」 気だるげかつやる気ゼロの声で緋水が一言う。 きおくそうしつ まもの ど・つさっ 記憶喪失かっ吸血鬼化中でも、魔物に対する知識と洞察力は変わらない。 かんたん 蘭月も、へえ、と感嘆の表情を見せる。 「一言うわねえ。じゃあ、どうすればいいの ? 」 「別に何も。ただ、体育祭前に学校にちょっかいを出すのがムズイとなると、後は体育祭 当日に、何かやらかすか : : ってことかな。ええと、俺の隣に座ってる委員長のドッペル ゲンガーについては、何か他に情報ないの ? 」 うの ふめいりよう 「直接見たのは、あなたと羽乃さんだけです。そして今、あなたは記憶が不明瞭。何か、 思い出しましたか ? やっかい となり グランマ
近い 近すぎる。 「あの、センパイ : : : 体育祭の雑用とかの打ち合わせは ? 」 「いいわよ、そんなの。今のところ、手は足りてるし。必要なら : 帰りがけに渡してくれれば・ 「じゃあ : : : 何で部屋に ? というか、 「わから、ない ? 」 さらに、希璃華の顔が近づく。 くちびるふ それこそ、唇が触れ合うほどに。 そして、甘い匂いがまた鼻をくすぐる。 かお ちが シャンプーの香り : : : とは違う。どちらかと言えば、香水に近い じゅんしゅ か、いくらプライベートとはいえ、校則を遵守する希璃華の性格には合わない。 そもそも、そういうものは好きな相手とのデートのときにでもつけるものであって、た かだか自分を家に招いた程度でーーっけるわけがない。 「あ、あの : まずい これ以上は、マジでまずい こ・つすい : メールする」
「その方がいいかもしれないぞ」 ぎわ 「ゴメンだね : : : どんなに辛くても、死に際ぐらいは覚えていたい 「お前だから、言、つけど」 緋水は大きく息を吸い込んだ。 だれ 誰にも聞かせられない。 きっと一生、誰にも一言えない。 自分以外には、けして。 Ⅳ ア ュ「俺ーーアイツのこと、愛してた」 ゆか 架緋水の背後で、何かが床にぶつかる音がした。 くだ 宀十こぼ 十零れて、割れて、砕けるような音がした。 の とつぶう 銀 だが不意の突風が音を掻き乱し、緋水にその音を知らせない。足早に、でも気づかれな 7 いよう階段を駆けていく足音も、気づかせない。 はっこい 「母親への愛情かもしんねーし、姉に対するもんかもしんねーし、初恋の相手的なもんか