「だから、あんな人知りません ! は、早く下ろして : こづか むかしなじ 「遠慮するなと言っている。昔馴染みの子供だしな、そうだ、小遣いでもやろう。それと も、菓子の方がいいか ? えるるを床に下ろし、頭を撫でながらミラルカは言、つ。 それ 完全に、知り合いの子供に対する態度だ。 ・つヤ・くま すみか えるるは顔を真っ赤にして、教室の隅へ駆け出し、そのまま蹲る。 なみだ ちょっと、涙ぐんでいた。 「ねえヒー君 : : : ど、つい、つこと ? 」 父親みたいでさ。で、折り合い悪い 「いや、俺もよくは知らないけど : : : 吸血鬼なのは、、 ア ばくろ と。それをあんなふうに暴露されたらな : ュ かたすく たず ラ芽依に尋ねられ、緋水は同情交じりに肩を竦める。 とダンピールたるえるるにとって、最も触れられたくない部分だろう。 字しかも、希璃華と透子にまでーー知られてしまった。 かりや 銀「狩夜さん、ちょっと変わったところあると思ったけど、ダンピールってこと : 「アレだよね、吸血鬼と人間のハーフだよね ? そうだったんだ : ヒソヒソと語り合う、希璃華と透子。 な
: この 「半分正解です。闇ルートというより、グレーゾーンと言うべきなのでしようが : もくにん 国の血液の流通には、正規のルートではない、それでいて黙認された、金銭の授受を目的 とした流通経路が存在します」 「何それ : : : 何かこわ、・い」 ゅうれい ふる 自分も幽霊のくせに、透子が身を震わせる。お前が一言うな、と緋水なら言ってしまい、 ひんしゆく 顰蹙を買、つだろう。 「その流通経路って、何 ? 手術とか、研究用じゃないんでしょ ? 」 まゆね 芽依の問いに、えるるはやや言いたくなさそうに、眉根を寄せた。 「 : : : 吸血鬼用です」 ああ、と頷きかけたところで、芽依は口元を押さえた。 利用者が眼前にいると、さすがにロにしづらい に構いません。事実ですから。吸血鬼 : : : そして、ダンピールにとって、血液は おそ 必要不可欠。人を襲わす、平和的に手に入れるには、輸血用の血液を横流ししてもらうし かない。私の場合は捜魔課から支給されていますが、それも厳密に言えばルール反、正 規の使用目的とは一 = ロえません。何せ、献血の用途に、吸血鬼やダンピールの餌付けは定め られていませんからね」 わたしたち
246 かわ うそ 「渇いていないといえば嘘になるが、そこまで : : : では、ない。自分でも、驚いている。 毎日飲んでいたのに、意外に平気なのだな : 「空白期間を考えれば、まだ安全領域と言えなくもありません。ですが、いつまで持つか はわかりません。最悪の事態を引き起こさないよう、体調管理は万全に」 「 : : : わかっている。しかし、変わったな、お前」 「はあ ? 」 何をバカな、という表情のえるるだが、目は泳いでいた。さらに、芽依と希璃華が意味 のぞ ありげに顔を覗き込んでいる。 「な、何ですか しようへき 「べ 5 つに、最初から、ヒー君との子作りの障壁だとは、思ってたし ? やっかい 「紅城君の場合、ダンピールでも平気だから厄介よね : 訳知り顔で頷く二人。 えるるが顔を真っ赤にして否定するが、届かない。 いらだ 「何ですか、その人を苛立たせる顔は卩言いたいことがあるなら、はっきり言いなさ え、私はイ 可も。ね、センパイ ? 」 ばんぜん おどろ
確信した、そんな吸血鬼が、戻ってくることなどありえない。あなたは、何者なのです ? 」 「信用しているのだな、私の身内を ? 」 えるるの顔が真っ赤に染まる。 びしよう ミラルカは微笑したまま続ける。 「緋水が滅びたと言ったから、信じる。なのに戻ってきたから、疑う。そして今、銃口を むすめ 向ける。何のためだ、娘よ ? 私が紛いモノだとして、それを撃っことで、お前に何の益 がある ? 誰のためだ、娘よ ? 」 「誰が・ ア えるるは引き金を引いた ュ きど - っ キ 心中を反映してか、かすかに乱れる軌道。 とそれでも高速の銃弾はミラルカの顔面を狙っていた。 字 だが圭ョたり・はしない 十 銀躱しもせず、ミラルカは無造作に右手を顔の前にかざし、軽い手のスナップだけで弾丸 そうさい の力を相殺し、苦もなく掴み取る。 まちが うで 「いい腕だ。ダンピールが最高の吸血鬼ハンターと称されるのも、あながち間違いではな かわ つか わら しよう
そ、つかもしれない うすうす 薄々、感じてはいたことだ。 もう少し時が経てば、自分はミラルカの見かけの年齢を上回る。 普通に老いていく自分に対し、彼女は若く青春の美を保ったまま。 そうなれば、当然周囲からは不審の目で見られる。 いくら人目を気にし、あまり出歩かないようにしたところで、吸血鬼が長年一つの地域 に定住するのは限界がある。 とっぜん 突然の別れがなくとも、いずれは 分かたれる二人だったのかもしれない ア 「 : : : が、まあさすがに多少は様子が気になる。無事この国に帰り着いたか、高校に入れ ュ キ ラュ / 、カ・ : ぐらいはな。で、遠巻きに様子を見てみたら : : : 一体どうなっている ? 吸血鬼 とと暮らしているわ、人造人間とべったりだわ、ダンピールにボコられているわ、魔女らし ワーウルフ 字き女と話し込んでいるわ、挙句の果てに、人狼族も近くにいる。お前は私のいない間、 の 体どうなっていたのだ ? 」 「 : : : ホント、どうなってんだろね ? 」 いざ一言われてみると、自分でもわからなくなった。 まじよ
102 いずれにせよ、争いは止まる。 ただし、緋水が行動に移せれば、だ。 りよ - つが っ 人間を凌駕する身体能力の持ち主二人、距離を詰めて緋水の動きを制すことなど造作も もっとも、そうなれば互いに相手へ隙を晒すことになる。 さんすく 三竦みが成立し、三者の動きが止まる。 きんばく ミラルカ 緊迫した停滞の中、まず年長者が折れた。 やっ しゅうしん 「気の多い収だな。紛いモノのみならず、ダンピールにも執心か。そんなふうに育てた覚 えはないが」 「誤解を招くようなこと言うな。大体、お前に育てられなけりや、吸血鬼ともダンピ 1 ル かか とも関わってない」 フンと鼻を鳴らし、ミラルカはえるるから身を離した。 もど 「しばらく戻らん。食事の用意は不要だ」 緋水は答えず、えるるの前 : 、 リこ進み出る。彼女を守るためとーーー無用な追撃をさせないた めだ。 すき きより きゅうけつき
みようれい 「別に何も。たまさか、妙齢の処女が通りかかった。その血の効力を試してみたかった。 それだけだ」 古尹もなげ・に一一一一口、つミラルカ。 えるるは顔をしかめながら、彼女の行動をいま一度反芻する。 不可解な量の血液。ーー確かに、食料にしては多すぎる。 では可に由をつ ? 血の効力を試すフ 何ために ? 吸血鬼が吸う以外に、何のために血を使う ? ア ふだん 普段は禁じている思考法、ダンピールたる自身の身に置き換え、ミラルカの目的を探る。 ュ キ 、、こ、、、士旧へ間に至る ~ 則に、ムマ度はミラルカか問、った。 レ」 「ルシュラとかいう吸血鬼はどこにいる ? 」 しっそう 字「何故あなたがそれを訊くのです ? やはり彼女の失踪に、何か関係が卩」 「吸血鬼の身を案じるのか ? 」 え ミラルカが、嘲りともとれる笑みを浮かべる。 自分でも意図しなかった発言に、えるるは歯噛みするが、構わす続ける。 あざけ き ・つ はんすう ため
128 くさりのが 眼前の吸血鬼は、身をよじり、鎖から逃れようと足掻いていた。 むた 「無駄なことです。今の弱体化したあなたでは、その鎖は千切れない。仮に逃れたところ たお だっしゆっ で、私が仕留める。万が一私を斃したところで、ここから脱出できると思っていますか卩」 「そ、つ : : だな、もう、私には無理だ・ ていかんたたよ 諦観の漂うロ調だった。 ぎねん だが、逆にそれがえるるに疑念を抱かせる。 かたまり ひざくっ この権威主義の塊のような吸血鬼が、こうも簡単に膝を屈するものかフ いや、そもそも最初からおかしい やすやす いかに囚われの身であれ、こうも易々と吸血鬼の根幹に関わる事象を、話すものか ? さげす しかも相手は蔑むべきダンピール、本来ならば歯牙にもかけないはすの相手。 おかしい どこかが、根本的にズレている。 たくら 「何を企んでいるのです卩無駄な抵抗はおやめなさいー ひとあわふ 「無駄ではないさ : : お前達に一泡吹かせてやれる。もう、それだけでいいイに 何も望まん。どのみち、私にはこれ以外、何もできぬ : しんしよう 痩せこけた体から、尋常でない鬼気が溢れ出す。 あが
はくせきびぼう いかにも吸血鬼然とした白皙の美貌は、二十は老けてみえた。 緋水との戦いで負ったダメージ、そしてこの牢獄での責め苦、その二つが彼を苛み、顔 くしゅ・つ に苦渋の皺を刻み、かさつかせる。 「呪わしい、忌み子、か。この私、が、貴様のような半端者、に、見下ろされる、とは、 自嘲めいたファーガスの一言葉。 ダンピール 確かに、半吸血鬼たるえるると、「真祖」から連なる純血の吸血鬼だけでその血統を紡 ピュアオブビュア いだ、《真正純血》たるファーガスとでは、格が違う。 ア吸血鬼のコミュニティでは、えるるが最下層、ファーガスが最上級の貴族といったとこ ュろだ。 キ だが、そんなくだらない吸血鬼の因習は、えるるには関係ない。 せいしゅう AJ 聖銃アルゲントウムの銃口をファーガスに突きつけ、えるるは愉たく告げる。 架 じゅうたんく 字 + 「あなたと私、頭の位置がそのまま立場の差です。銃弾を喰らいたくなかったら、私の質 の 銀問に答えなさい」 「できる、のか・ 私が、まだ、こ、つして生き永らえている、とい、つ、こと、は ゅうよ : まだ、私に、利用価値が、ある、という : : ことだ。処刑ならば、猶予なく 121 しわ
吐息は白く、夜の冷気が身に突き刺さっている。 めいわく 「いい歳して、往来で戦り合ってんじゃねーよ。人様に迷惑かけるな」 口調はいつものように気だるげでやる気ゼロだが、顔は険しい。 浅からぬ仲のクラスメイトと育ての親が戦り合っていると、さすがに無関心ではいられ 「夜歩きは感心せんな。補導されるぞー 「お前が言えた義理か。ガキの頃から、散々連れ回されてるつつーの。っーか、とっとと 離れろ。『真柤』様が、ダンピールのガキ相手にムキになってんじゃねーよ ミラルカを相手にしても、緋水は引かない。 ア 自分がボコボコにされるのは慣れているが、えるるを見捨てるわけにはいか ュ キ たとえ勝ち目がなくても、だ。 「どうして来た ? 私が夜に外出するのはいつものことだ。わざわざっいて来るなど、子 架 さが さび 字供の頃、寂しさのあまり、泣きながら夜の街に私を捜しに出た以来だろうに」 みんな 銀「 : : : 人の黒歴史晒すんじゃねーよ ! 夜中に目え覚まして誰もいなかったら、ガキは皆 ぶっそう 不安なの ! それより、とっとと離れろ。えるるも、人の身内に物騒なモン向けるな」 ほこ えるるにも矛を収めるよ、つ告げるが、彼女は引かない といき さら ころ おまえ