じちょ・つ 自嘲気味に、んるるが言、つ。 法を守る警察の一員である自分が、法から外れた手法でなくば命を保てないとは、何た る皮肉か。 「じゃあ、他の吸血鬼も、そのルートで、血液を横流しされて : ひそ 「おそらくは。この国には、まだまだ捜魔課の把握していない吸血鬼が潜んでいます。平 おん 穏に暮らしたければ、何らかの形で、血液の安定供給を図っているはず。紅城さんの育て の親も、捜魔課と別ルートで、輸血用の血液を入手していたようです。ところが最近、ど けんざい うにも横流しの量が多すぎる。だからこそ問題が顕在化したのです」 「話はわかったけど、それだけじやどうしようもないわ。それこそ警察の仕事よ。何か、 ア 、他にわかっていないの ? 」 ラ希璃華の問いはもっともだった。 と元々、学校にかかわらないことならば、彼女が手助けする義理もない とだ はんにゆう 字「横流しされた血液の行方は、清堂市で途絶えました。つまり、血液の搬入先は、この街 銀だということです」 顔を見合わせる芽依達三人。 はあく いは
た意見しか聞けない気がしますので、私達だけでやった方が無難でしようね」 えるるはディスプレイを、芽依達に晒した。 内容は、警察の報告書だ。 血液センター、不正 : 「何これ ? 書類偽造 : わけがわからない、と希璃華が首を傾げる。芽依、透子も同様だ。 「最近、各所の血液センターから、大量の血液が使途不明のまま、運び出されています。 手術用にしても、研究用にしても、多すぎる量が。まだ明確に事件とはなっていませんが、 私の一存で、捜魔課の預かりとなりました」 「何それ : : : 売血とか、そ、ついうの ? 確か、日本じや犯罪だったと思うけど」 ア 芽依の指摘どおり、献血制の日本において、有料で人体から採血することは禁止されて ュ ラしつ むしよう とはいえ、この場合はすでに無償で献血された血液が消えているわけで、売血とは少々 架 字意味合いが異なる。 やみ 銀「闇ルートで血液が売りさばかれる : : : とか、そ、ついう感じ ? イマイチ実感できない様子で、希璃華が推測を口にする。 うなず 案外的を射ていたのか、えるるは小さく頷く。 そうまか けんけっ さら
: この 「半分正解です。闇ルートというより、グレーゾーンと言うべきなのでしようが : もくにん 国の血液の流通には、正規のルートではない、それでいて黙認された、金銭の授受を目的 とした流通経路が存在します」 「何それ : : : 何かこわ、・い」 ゅうれい ふる 自分も幽霊のくせに、透子が身を震わせる。お前が一言うな、と緋水なら言ってしまい、 ひんしゆく 顰蹙を買、つだろう。 「その流通経路って、何 ? 手術とか、研究用じゃないんでしょ ? 」 まゆね 芽依の問いに、えるるはやや言いたくなさそうに、眉根を寄せた。 「 : : : 吸血鬼用です」 ああ、と頷きかけたところで、芽依は口元を押さえた。 利用者が眼前にいると、さすがにロにしづらい に構いません。事実ですから。吸血鬼 : : : そして、ダンピールにとって、血液は おそ 必要不可欠。人を襲わす、平和的に手に入れるには、輸血用の血液を横流ししてもらうし かない。私の場合は捜魔課から支給されていますが、それも厳密に言えばルール反、正 規の使用目的とは一 = ロえません。何せ、献血の用途に、吸血鬼やダンピールの餌付けは定め られていませんからね」 わたしたち
っ えるるはさらに重い事実を突きつける。 きかん ぐうぜん 「血液が消えた直後に、紅城さんの育ての親は帰還した。果たして、これは偶然でしよう えるるは目を細め、三人に意見を求めた。 だれ 誰も何も答えない。 答えられない きゅうけつき 「さしたる犯罪性はない、吸血鬼が血を欲しがるのは当たり前ーーという考えもあります けねん か、どうにもひっかかります。さらに、懸念がもう一つ」 「な 5 に ? かわい しゅんかん こ・つちよく 透子が可愛げに小首を傾げたが、 次の瞬間、その顔は硬直した。 せっしゅ 「ルシュラさんが姿を消してから、もう一か月以上。彼女のこれまでの血液の摂取リズム、 そして性格を考えると、タイムリミットは近いはずです」 タイムリミット、という一一一一口葉の意味は、この場にいる誰もが知っていた。 のが かつぼう いかなる吸血鬼でも逃れられない、血への渇望。 けもの それが抑えきれなくなったとき、吸血鬼は獣と化す。 「いや、でもほら、あの娘だってバカじゃないし、どうにかして血ぐらい : おさ : ねえ ? 」
ぐうぜん 「生まれは変えられぬよ、私がそうであるように。しかし、ここで偶然会ったとも思えぬ 「あなたへの容疑が固まりましたので、聴取しに参りました。方々から、大量の血液を集 きゅうけつき めておいでのようですね ? 吸血鬼が飲むにしては、多すぎる。新鮮な血液を好むあなた 方が、一度にそこまでの量をストックするのも考えづらい。何が目的です ? そもそも、 なぜ 何故戻ってきたのですフ しんちょうきより 廩重に距離を測りつつ、えるるが問う。 じゅうだん ちめいしょ - っ 銀の銃弾は、たとえ相手が「真祖」といえど、頭部か心臓を撃ち抜けば致命傷になり得 、避けられれば効力はない。 ぼんびやく けんせい いりよくじゅうぶん 凡百の吸血鬼ならば、足止めや牽制の威力は充分だが、ミラルカ相手では、一発で仕留 めねば、こちらが危うい 「戻るも何も、家に帰って何が悪い ? そして吸血鬼が血を求めることに、何の不思議が ある ? 「私は、紅城さんやあなたの話を鵜呑みにするほど、お人よしではありません。滅びたは ずの吸血鬼が戻ってきた : : なるほど、よくある話です。しかし、あの紅城さんが滅びを る。 よ ち 心、よ つ し ゆ ほろ
はあるのでしようが、できるのですか、あなたに ? 」 「 : : : 何で俺が、そんな物騒なことしなきゃならねーんだよ」 あと 明言を避け、緋水はじっとミラルカの去った跡を見つめている。 「そもそも、どうしてここに ? 虫の知らせでもありましたか ? 」 「寝つけなくて一階に下りたら、血の臭いがした。地下に下りたら、アイツがいなくて、 つぼ 血を満たした壺があった。吸うには多すぎるし、アイツはあんな飲み方はしない 。気にな って、捜しに出た。念のためにツアラブレイド持ち出したら、このザマだ。何があった ? 」 「言ったとおりです。ただ、気まぐれに処女の血を狙った : : とい、つことでもないよ、つで すが。それと : 「それと ? 」 ゆくえ ルシュラの行方について訊かれた、とは何故か一言えなかった。 はんにゆう そもそもミラルカを追っていた理由である、大量の血液の搬入についてもーーー一言う気に はなれなかった。 「何でも、ないです。とにかく、あちらの言い分がどうあれ、今度人の血を吸うようなマ ネをしたら、撃ちます。あなたも余計な邪魔をしないように」 じゃま わら
みようれい 「別に何も。たまさか、妙齢の処女が通りかかった。その血の効力を試してみたかった。 それだけだ」 古尹もなげ・に一一一一口、つミラルカ。 えるるは顔をしかめながら、彼女の行動をいま一度反芻する。 不可解な量の血液。ーー確かに、食料にしては多すぎる。 では可に由をつ ? 血の効力を試すフ 何ために ? 吸血鬼が吸う以外に、何のために血を使う ? ア ふだん 普段は禁じている思考法、ダンピールたる自身の身に置き換え、ミラルカの目的を探る。 ュ キ 、、こ、、、士旧へ間に至る ~ 則に、ムマ度はミラルカか問、った。 レ」 「ルシュラとかいう吸血鬼はどこにいる ? 」 しっそう 字「何故あなたがそれを訊くのです ? やはり彼女の失踪に、何か関係が卩」 「吸血鬼の身を案じるのか ? 」 え ミラルカが、嘲りともとれる笑みを浮かべる。 自分でも意図しなかった発言に、えるるは歯噛みするが、構わす続ける。 あざけ き ・つ はんすう ため
124 ・『真祖』の生まれは、一族にとって秘中の秘。そもそも、彼女達自身が多くを = 諞らなかった。ゆえに、私とて多くは知らぬ。全ては、断片的な口伝で聞いたのみだ」 「構いません、話しなさい。『真祖』とは卩」 ほほえ きつもん つぶや えるるの詰問に、ファーガスは弱々しく微笑み、しばし間を置いてから呟く。 「彼の方々は、ク啜りし者クだ 「ク啜りし者ク 吸血鬼が血を啜るのは当然でしよう ? 何か、血液以外のものを とくしゅ 啜ったとでも ? それとも、特殊な血ですか ? 」 しんぎ 「神の血、だそうだ。真偽は知らんが」 「吸血鬼が神を語りますか ? どんな神です ? 太古の邪神とか、その辺りですか ? 」 しっしよう 失笑交じりのえるるだが、ファーガスは真顔だった。 真紅い瞳は、じっとえるるを見つめている。 その視線に、えるるも気づいた 神の意味を。 世界に神は数あれど、ヨーロッパ原産の吸血鬼にとって、真に脅威となる神は一柱しか しオし じゃしん きようい ちゅう
きゅうかく め 視覚、嗅覚、味覚ーーー五感でワインを愛でながら、彼女は自らの手を見つめている。 仮に、ミロのヴィーナスの失われた腕が発見されたならば、これーーそんな幻想を抱か かんべき せる、完璧な造形の腕だ。 す 透き通るような肌を通り越し、病的ですらあるその白さ。 ふ おそ なが 誰もが触れたいと願い、そしてその美を壊すことを恐れ、結局はただ眺めることしかで はかな もろ きない、儚げで脆い肌。 しんしよく 全ての吸血鬼の頂点に君臨するその肌には、許されざる侵蝕があった。 ひび 手のひらにある、小さな罅。 肌荒れではなく、鉱物に生じるような、純粋な亀。 とうてい 絶対的な再生能力を持つはずの吸血鬼、それも「真祖ーたるミラルカには到底ありえな いはずの傷だ。 つぼ っ ミラルカは自身の腕を見つめ、机に置いた白磁の壺に、無造作に突っ込む。 しゅんかん その瞬間、地下に新たな香りが広がる。 血の香り。 壺の中は、真紅い血で満たされていた。 壺の周囲には、輸血用の血液パックが散乱している。 はたあ あか うで ん す つ こわ
あした いや、もう今日か。学校で」 「ご協力どーも。また明日 : むだ しっそう 元々体が本調子でないうえに、体育祭での無駄な全力疾走と血液の消失ーー体調は最悪 たんさくつか だ。さらに焦燥と探索の疲れも相まって、ふらっきながら学校を後にする。 家に戻れば、あるいはルシュラが戻っているかもしれない おこ 家を空けたことを怒って、「どうして早く戻らぬ卩」などと、こちらが言うべき言葉を ぶつけてくるかもしれない 、、こゞ、ルシュラはいなかった。 どろ 緋水はそのままべッドに身を投げ出し、泥のように眠る。 朝が来て、重い体を引きずりながら登校しても、教室にルシュラはいない しゅうかく 芽依とえるるに話を聞いても、収穫はない。 こうかん 昼休みに、希璃華を交えて情報交換を行っても、同様だった。 次の日も、その次の日もーー同じことが繰り返され、結果もまた、変わらない くちき そうまか えるるの口利きにより、捜魔課も多少動いた。 らんげつ 蘭月も、ばやきながら手伝ってくれたらしい 、、こ、ミ、ルシュラは見つからない