「さっき言った以上の意味はありません。行きますよ」 芽依のツッコミを軽く受け流し、えるるは建物の外へ出た。 から 二人が去ったのとは別方向へ駆け出そうとした矢先、空気の読めない約一名に絡まれる。 ワーウルフ 「ちょっと、どーゅーこと ? どーして人狼族たる私に、追わせなかったのかしら ? 昼 もっ 間の吸血鬼なんて、この私の駿足を以てすれば・ めんどう 「 : : : あなた、実に面倒な人ですね」 「何よ、それ大体、ここ見つけたのも結局この私 : 「ハイハイ、そこまで。大神さん、男心わかってないわね ア「何ですって卩」 ほこさき ュ芽依の軽口に、蘭月の矛先が変わった。 キ 「あのねえ、立派な大人を捕まえて、一体何を : 齔「大神さん」 まじめ 字 + 急に、真面目な顔で芽依が見つめてきた。 の けげん 銀怪訝な顔で首を傾げる蘭月。 かた その肩を、ポンと芽依が叩く。 「処女でしょ ? 」
きゅうかく め 視覚、嗅覚、味覚ーーー五感でワインを愛でながら、彼女は自らの手を見つめている。 仮に、ミロのヴィーナスの失われた腕が発見されたならば、これーーそんな幻想を抱か かんべき せる、完璧な造形の腕だ。 す 透き通るような肌を通り越し、病的ですらあるその白さ。 ふ おそ なが 誰もが触れたいと願い、そしてその美を壊すことを恐れ、結局はただ眺めることしかで はかな もろ きない、儚げで脆い肌。 しんしよく 全ての吸血鬼の頂点に君臨するその肌には、許されざる侵蝕があった。 ひび 手のひらにある、小さな罅。 肌荒れではなく、鉱物に生じるような、純粋な亀。 とうてい 絶対的な再生能力を持つはずの吸血鬼、それも「真祖ーたるミラルカには到底ありえな いはずの傷だ。 つぼ っ ミラルカは自身の腕を見つめ、机に置いた白磁の壺に、無造作に突っ込む。 しゅんかん その瞬間、地下に新たな香りが広がる。 血の香り。 壺の中は、真紅い血で満たされていた。 壺の周囲には、輸血用の血液パックが散乱している。 はたあ あか うで ん す つ こわ
「中々有意義な時間だったな。機会があれば、役員とやらも、やってみるか」 「やめてくんない、それはマジでやめてくんない卩」 みんな 「何を心配している ? 安心しろ、私がじっと見つめれば、皆一言うことを聞いてくれる」 まがん 「うん、それ明らかに魔眼使ってるよね ? 明らかに魔眼使う気だよね卩」 立ち上がってツッコむ緋水。 だがミラルカは構わず、空き教室にいる面々を見回している。 ワーウルフ ゅうれい 「人狼族がいないようだが、かわりに幽霊か。私の身内は、とことん魔性に好かれるな」 ふわ 「あ、はい、不破透子です ふだん ただよ あいさっ 普段はふわふわ宙を漂っている透子も、直立不動で挨拶した。 そうさせるだけの威厳が、ミラルカからは漂っている。 しかしーーーそれ以外の三人は、何とも一一一一口えない表情で彼女を見つめていた。 すず 敵意と疑念、両方の視線を涼しげに受けとめ、ミラルカは笑顔で彼女達に語りかける。 「緋水の女友達 : : : でよいのかな ? いつも身内が世話になっている」 けんきょ ごうがんふそん 言葉は謙虚だが、口調は傲岸不遜そのものだった。 小競り合いとはいえ、一度は透子以外の全員と一戦交えた身、にこやかに会話すること かおかしい ましょ・つ
163 銀の十字架とドラキュリア V 「かわい 5 んだから、このこの D ー 「何気に、紅城君のことも考えてるのよね 5 、・。案外最大のライバルかも」 、、まっぺたをこね回さないでー 「だからやめなさし ( 和気藹々と去っていく三人。 あき それを、呆れ顔で蘭月が見つめていた。 ちょうかく ・聞こえてるんですけど。人狼族の聴覚、知らないのかしら ? それともーーわざと かしら ? 」 ′、しょ・つ つぶや 帰ってくるはすもない問いを呟きながら、蘭月は苦笑した。 ワーウルフ
たくない だったらこのままでもーーーそう思った矢先、呆れたような声が、背後からした。 「何をしているのやら」 かげ がくぜんふ 愕然と振り向くと、黒いインバネスの裾をはためかせ、優雅に近づく影があった。 、、、一フ。ル . 、刀 0 はだ しやこうざい 白い肌はかすかなテカリを見せ、遮光剤を肌に塗り込んでいることが見て取れた。 カー ふつう アすでに雲は晴れ、日光は普通に差し込んでいるが、彼女は意に介さず近づいてくる。 ュ緋水を介し、見つめ合う二人。 あか 防大気そのものが真紅く染まるようなプレッシャーの中、二人の「真祖、が、相見えた。 字 すそ あき ゅうが あいまみ
おも まだ、認められない想いも、言いたいこともたくさんある。 たか、目の前にあるものが全てだ。 そうとも、死ぬわけがない。 不死身の「真祖」が死ぬわけが : : : 自分のようなちつほけな存在のために死ぬなど、あ ってはならない。 だから、信じる。 信じたい。 「結論は出たようだな。しかし緋水よ、大切なことを忘れていないか ? 「 : : : 何だよ ? 」 ア 無言のまま見つめられ、緋水は目を逸らす。 ュ あか キ か、真紅い視線は、、 ノンパな答えを許さない。 ていこうあきら と抵抗を諦め、緋水は彼女に向き直った。 かんべきびぼう ふてくさ 字その完璧な美貌と目を合わせながら、どこか不貞腐れたように、どこか疲れたように、 うれ 銀どこか嬉しそうに : : : 当たり前の言葉を紡ぐ。 「おかえり」 そ つか
260 そうだ、毎年過ごしていた。 サンタかいないことは、わりと早くに気ついたが、ミラルカはいた。 毎年プレゼントをもらって、七面鳥を焼いて、ケーキを食べた。 吸血鬼と過ごすクリスマス、そんな皮肉なイベントは、去年で終わった。 こどく 中学三年の冬、孤独なクリスマス。 ミラルカのいない聖夜。 じゃあーー今年は ? だれ 「誰と、過ごすの ? 」 たず 悪意なく、玲奈が尋ねる。 もしかしたら、特にいなければ自分とーーそう、言いたかったのかもしれない 「わから、ない それだけ答えて、緋水は逃げた。 何か言いたげな彼女を置き去りに 、緋水は教室を出る。 その背を、芽依が見つめていた。 とちゅう 緋水の姿に何かを感じ取り、芽依は帰り支度の途中のえるるに近づく。 「ちょっと : : : 顔貸してくれる ? センパイも色々訊きたいだろうし
はあるのでしようが、できるのですか、あなたに ? 」 「 : : : 何で俺が、そんな物騒なことしなきゃならねーんだよ」 あと 明言を避け、緋水はじっとミラルカの去った跡を見つめている。 「そもそも、どうしてここに ? 虫の知らせでもありましたか ? 」 「寝つけなくて一階に下りたら、血の臭いがした。地下に下りたら、アイツがいなくて、 つぼ 血を満たした壺があった。吸うには多すぎるし、アイツはあんな飲み方はしない 。気にな って、捜しに出た。念のためにツアラブレイド持ち出したら、このザマだ。何があった ? 」 「言ったとおりです。ただ、気まぐれに処女の血を狙った : : とい、つことでもないよ、つで すが。それと : 「それと ? 」 ゆくえ ルシュラの行方について訊かれた、とは何故か一言えなかった。 はんにゆう そもそもミラルカを追っていた理由である、大量の血液の搬入についてもーーー一言う気に はなれなかった。 「何でも、ないです。とにかく、あちらの言い分がどうあれ、今度人の血を吸うようなマ ネをしたら、撃ちます。あなたも余計な邪魔をしないように」 じゃま わら
212 「はあああ卩」 ・つていうか、男とロクに付き合ったことないでしょ ? 」 冷ややかな声で芽依が言う。 完全に、眼前の年上の女を見下している。 たが お互い、実体験では同レベルだが、知識量と磨いたテクニックなら、完全に芽依に軍配 か上がる。 「な、何言ってんのよ、私だって」 「だって ? 」 ワーウルフ 「 : : : 人狼族の隠れ里では、意外と、モテてた : : はず」 ワーウルフ いつばん 「男女比率が気になりますね。一般的に、人狼族は男性過多と聞いていますがフ ようしゃ 容赦なく、えるるがツッコむ。 こういうとき、彼女は実に冷たい。 おとこしやかい 「出会いを求めて街に出て、辿り着いたのは警視庁、ね。で、出会いはあったのかしら ? 」 さ そして、芽依がトドメを刺した。 : 特に」 蘭月が、悲しげに、遠い目で空を見つめる。 みが
「で : : : 私について、何か知っているのであれば、とっとと答えろ ! お前と馴れ合う気 など、ないのだからな ! 」 咬みつかんばかりのルシュラに対し、ミラルカはワインを優雅に口元に運ぶ。 ほうじゅん 芳醇な香りと複雑な味を楽しみながら、ルシュラを見つめる。 「真祖は、十二人。お前は、その中にはいない」 「だからどうした ? では、私は何なのだ」 「女だらけの十二人ーー中には、ほとんど話をしたことのない者もいた。気の合わぬ者も いた。、、こか、 な毎年一度は集まって、顔を合わせていた。年次報告、とでも言うのかな。ワ アインを飲み、パンを食べ、他愛のない話に花を咲かせていた」 ュ「「真柤』の「どーそーかい』ということか。ずいぶんと、人間臭いな。毎年、いっ集ま ラっていたのだ ? 」 架「クリスマス」 字 十真顔で一一中っミラルカに、思わすルシュラは噴き出した。 の 銀ない。 ないないないない、それはない。 きゅうけつき 「お前、ホントに吸血鬼か卩」 ふ ゅうが