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検索対象: 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1
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1. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

132 「つまり、自分が騎士になったときの体験を再現させているわけか」 「そういうことだな。ちなみに、当人は馬を駆ったのに、なぜ試験では戦車になっているかと いうと、試験をはじめたころは馬に乗れない志願者ばかりだったから、だそうだ」 くふふと笑みをこばしながら、ルーフアはレイクとカインをそれぞれ見た。バルトにも視線 を向けたが、 大剣を抱えた黒髪の戦士はそれを無視して風景を眺めている。 「ある意味正しい志願者じゃないか、俺たちは」 「そう主張したければ、せめて百年前に生まれてくるべきだったな」 レイクは荷台の縁にだらしなくもたれかかって反論の言葉を考えていたようだが、いい文句 が思い浮かばなかったらしい。御者席のカインに観察するような視線を向けた。 「そういや、おまえはいつもその格好だよな。黒い服とズボンで、褐色の上着ー 「下着は替えているし、身体も洗っているが」 臭うのだろうかと思って、袖に顔を近づけてみる。ルーフアが笑って言った。 「臭いではない。見映えがしないと言っているのだ」 じゅ・つし せつかい カインは自分の服を見下ろす。やや襟のよれた麻の服。黒いズボンはなめし革を獣脂や石灰 ちゅうぼ - っ で煮込んで硬くして、さらに虫除けの効能を持っ薬草の汁を塗りこんだものだが、長旅と厨房 たんれん での仕事、日々の鍛練で薄汚れていた。要所を革で補強した上着も同様だ。 ルーフアは袖のない青い上着に薄紫のスカート、 黒いズボンという格好で、一見いつもと変 わらないようだが、 上着をよく見ると昨日着ていたものとは違い、金色の縁取りがほどこして

2. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

クローディアがおさえた『幸せになる鏡の会』会場で名簿や帳簿が発見され、事態はファリ アの手から離れた。報告を受け、提出された書類に目を通した若き皇子ハイラムはファリアに よくやったと褒めたか、 ' 、釘を刺すのも忘れなかった。 「だが、夜遊びは控えろー スッラ しっせき 従衛であるクローディアは叱責を覚悟していたが、ハイラムの言葉は予想外の称賛だった。 「これを見てくれー ハイラムに渡された数枚の書類に目を通したクローディアは、驚きの声をあげた。それは「幸 せになる鏡の会』の仕組みや、推定、と注意書きされた鏡の分布図、アンドラスの逃亡の可 能性を示唆した内容だったのだ。 「他の者の報告だ。私も具体的な内容を知ったのは今日でな、通常の対策では間に合わなかっ たかもしれん。卿は、本当によくやってくれた」 「殿下。それでは、皇女殿下に対してもお褒めになるだけでよかったのではーー」 つい、クローディアは訴えた。それに対するハイラムの返事は、次のようなものだった。 勲「あれは、ただ褒めたり甘やかしたりすると調子に乗る。無謀さだけが突出しかねん。卿には 苦労をかけるが、今後も頼む 銀

3. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

繝 アンドラスの屋敷は職人街と住宅街の境目あたりにあった。平和な帝都の中でも、このあた りは危険な地域の側にわけられる。すぐ近くをスルム河が流れているのだが、河を挟んで対岸 おんしよう にあるのが貧民街と呼ばれる区画だからだ。貧民街は偏見と侮蔑から犯罪者の温床などとされ るが、嘘ではない。アンドラスの屋敷は、そのスルム河を背にする形でそびえている。帝都の 富裕層にはよくある白い大理石造りの建物は、月明かりに照らされ、夜の闇を背景にばんやり と浮かび上がっていた。館を囲む塀は高く、引っかかりもないうえに最上部は横に大きく張り 出してのばれない工夫がされている。 ファリアは自分に従っている騎士たちを、帝都を巡回する衛士に変装させ、まず、屋敷を一 周させて様子を見た。彼らの半分は短い柄の鉄槌を握りしめ、残り半分は先端に光灯石を取り ルーメン 付けた棒をかまえている。光灯石は、太陽の光を浴びた分だけ暗闇の中で発光するという性質 ファリアが陣頭指揮を執る必然性はないのだが、クローディアはそれについては触れなかっ しっせき た。ハイラムが知れば間違いなく止めるだろうし、報告を怠った自分は叱責を受けるだろう。 だが、その未来を予期していても、彼女は率先して動いているファリアが好きだった。だから こそ、仕えている。 「騎士はいっ用意できる ? 「明日の夜までには ぶべっ ルーメン

4. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

運ばれてきた冷茶を端に置いて、クローディアは三枚の貨幣を並べた。 「金貨を〇、銀貨を△、銅貨を口としてお聞きください。〇という人物が入会金兼鏡の代金と して銀貨二十枚を支払い、五枚一組の鏡を受け取ります。そして、〇は△を勧誘し、△が入会 したら、△は銀貨二十枚を支払って鏡を受け取る。〇は三割の銀貨六枚を自分の利益として受 け取り、残り十四枚は会に収められるという形ですね」 「それで ? 「次に、△はロを売り手として勧誘します。勧誘に成功したら、△には三割の、〇にも二割の 利益が入るようになっています。口がさらに誰かを勧誘し、成功した場合、ロには三割、△に は二割、〇には一割の利益が入る : 。そのような形が半永久的に続くわけです。四人誘えば 銀貨二十四枚が手に入るので、その時点で元は取れます。そして、誘った者が新たに誰かを誘 えば、自分は何もしなくても金が入ってくる形ですねー スッラ 「さすが私の従衛だな」 きょ - っしゆく 「お褒めいただき恐縮です」 えしやく 手を叩いて喜ぶファリアに、クローディアは微笑を浮かべて会釈する。 勲「しかし、やはり事件性があるようには見えません。とても奇抜な商売のやり方だとは思いま すが」 銀黒髪の従衛の言葉に、ファリアは首を横に振った。 「最後に入会した人間は一方的な取られ損だ。 スッラ

5. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

みぞう 「私とて、未曾有の混乱を期待しているのではない。民には害が及ばず、それでいて事件性が あって退屈せす、かっ解決に手間取りそうな出来事を望んでいるー 「それは充分に未曾有の混乱だと思います , 「卿には想像力が足りない せりふ 身勝手な台詞を返し、ファリアは林檎溶を一口飲むと、ため息とともに空を見上げた。 ひざ 帝都ラウルクでは、ここ数日穏やかな天気が続いている。陽射しのやわらかさと凉しげな風 が、秋の気配を伝えていた。この中央広場では、恋人たちが並んで座って談笑したり、数人の 主婦が楽しげにおしゃべりをしたりしている。 平和的な光景を見ながら、クローディアは彼らをうらやましく思った。彼女だって今日のよ うな晴れた日には友人たちと買い物を楽しんだり、おいしいと評判のお店に行ったりしたい。 恋人はいないが しかし、いま彼女は仕事の真っ最中だった。仕事内容は、彼女の隣で平和を呪っている金髪 の少女の護衛である。監視といってもいいかもしれない。 クローディアは今年で二十一歳になる。ファリアより五つ年上で、肩のあたりまで伸ばした 勲波打っ黒髪と黒目がちの瞳が特徴的な美女だ。 スッラ 嘘十七歳で騎士登用試験に合格して騎士となり、それから三年目で皇女ファリアの従衛に任じ 銀られたとき、クローディアは彼女の主となった皇女殿下に尋ねたことがある。 スッラ 従衛とは何をすればよろしいのでしようかと。皇女殿下は次のようにのたまった。

6. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

皇女スアリの護衛役となったカインは、 慣れない帝都での生活と活動的すぎる ラアリアの行動に心休まる時がなく。 ライターク、当をろ , 『銀煌の騎士勲章』 2 巻も迅社文庫より好評発売中 !

7. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

ライタークロイス ぎんこう 銀煌の騎士勲章 1 かわぐちつかさ 川口士 一一〇一四年八月五日初版発行 発行人杉野庸介 発行所株式会社一迅社 〒一六〇ー〇〇一三 東京都新宿区新宿一一ー五ー十成信ビル八階 電話〇三ー五三一二ー七四三二 ( 編集部 ) 〇三ー五三一二ー六一五〇 ( 販売部 ) 装丁 木緒なち (KOMEWORKS) 印刷・製本大日本印刷株式会社 乱丁本、落丁本はお取り替えいたします。 本書の内容を無断で複製、複写、放送、データ配信等をすることは、堅くお断りいたします。 定価はカバーに表一小してあります。 本書のコピー、スキャン、デジタル化などの無断疆は、著作権法上の例外を除き禁じられています。 本書を代行業者などの第三者に依頼してスキャンやデジタル化をすることは、 個人や家庭内の利用に限るものであっても著作権法上認められておりません。 ◎ 20 ー 4 Tsukasa Kawaguchi Printed ⅲ J 叩 an ISBN978-4-7580-4593-3 C0193 作品に対するご意見、ご感想をお寄せください。 〒 160-0022 東京都新宿区新宿 2-5 -10 成信ビル 8 階株式会社一迅社ノベル編集部 かわぐちつかさ 川口士先生係 / アシオ先生係

8. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

りがとう ) 」ざいました。それから編集のさん。最初、間違えて古い原稿を渡してしまい、申 し訳ありません。また、当時富士見書房でお世話になった編集さまにも、この場を借りてお礼 を申しあげます。あのとき面倒を見ていただいたおかげで、いまの僕があります。 本作が書店に並ぶまでの工程に携わった方々にも、感謝を。 最後に、ここまで読んでくださった皆様へ。ありかとう ) 」ざいました。 それでは、また二巻でお会いしましよう。 二〇一四年慌ただしい夏の日に かわぐちつかさ 川口士

9. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

ヴァナディース 文庫さんから出している『魔弾の王と戦姫』シリ 1 ズに近いものは、これになるでしよう。 もちろん世界観はそれぞれの作品ごとに異なるのですが、作品の雰囲気や登場人物の性格に どこか通するものがあると思われたら、作者の癖とい、つことで。 七年前、僕と当時の編集さんは青春ものというテーマで『ライタークロイス』をつくりはじ めました。青春ものと一言でいってもさまざまですが、僕がそのとき考えたのは「田舎から上 京した若者が、新しい環境や出会いに驚きながら成長していく」というものです。今回の復刊 にあたっても、その部分だけは揺らがないよう意識しました。 ちなみにライタークロイスというのはもちろん造語なのですが、最初に出した企画書のタイ トルが「騎士勲章」というたった四文字だったことに頭を抱えた編集さんが「何かルビをふつ て。かっこいいのーとのたまった末にそうなりました。 ぎんこうライタークロイス それが七年の時を経て「銀煌の騎士勲章」となるのだから、感慨深い気持ちになります。 なお復刊にあたって編集のさんに「別レーベルから復刊ということですし、せつかくだか ら違うタイトルにしましよう」と言われた僕は胸を張って「騎士勲章」と提案したのですが、 e さんはにこにこ笑いながら「何かつけたしましよう。かっこいいのーと有無を言わせぬ態度 でおっしゃいました。タイトルを考えるのはいつの時代も大変です。 それでは謝辞を。 引っ越しやら何やらで多忙な中、多くの登場人物を描いてくださったアシオさん。本当にあ しやじ

10. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 1

316 はじめまして。他の作品を読んでくださっている方はおひさしぶりです。川口士です。 せっさく 本作は二〇〇七年に富士見書房さんから出した拙作『ライタークロイス』に加筆修正を行い 復刊したものです。また月刊ドラゴンマガジンに三ヶ月にわたって掲載した短編も、この機会 に分割して添えさせていただきました。 復刊というのは、基本的に中身に手を入れないのだそうですが ( 以前、僕はスクウェア・エ ニックスさんから出した拙作『ステレオタイプ・パワープレイ』を改題・改稿の上で一迅社さ んより出したことがありますが、あちらは過去の作品を新たに作り直すクリメイクッというこ とで、けっこう手を入れました ) 、登場人物のデザインをあるていど変える必要もあり、いま になって読んでみるとわかりづらい部分もありということで、それなりに手を入れさせていた だきました。楽しんでいただければ幸いです。 しかし『ステレオタイプ・パワープレイ』のときにも思ったことですが、過去の自分の文章 せお ほど破壊力のあるものはないですね。同業の瀬尾つかささんも今回過去作品を一作復刊してい るのですが「読み直していて酒を飲まずにはいられなかったーとか言ってたし : 「ライタークロイス』は僕のデビュー作から数えて三つめの作品ですが、西洋風の異世界ファ サウザンド ンタジーということもあり、現在刊行中の一迅社文庫「千の魔剣と盾の乙女』シリーズや あ一とが」