章 - みる会図書館


検索対象: 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2
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1. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

ライタークロイス 扉の先はすぐに壁になっており、そこには三十を超える数の騎士勲章が飾られていた。勲 章の下には、おそらくその持ち主だろう名前が書かれている。 ライタークロイス アリキーノは手に下げていた革袋から騎士勲章を取り出すと、丁寧に壁に飾っていった。去 年から今年にかけて手に入れたものだ。その手が途中で止まる。 「一つ足りないな」 アリキーノの言葉に、ファルファレロはにたにたと笑った。懐に手を入れて、円形の勲章を 取りだす。それを見たアリキーノの顔が、険しいものになった。 ライタークロイス 「それは騎士勲章なのか : いしよう それの表面には、本来あるべき獣の意匠が刻まれていなかった。 ファルファレ口が差しだしたそれを受け取り、表面をおそるおそる据でてみる。傷一つない 滑らかな感触だった。 「召喚とは唱えないほ、つかいいよ。こ、つなりたくなかったら、ね ファルファレロは、右手を目の高さまで持ち上げる。親指とひとさし指、中指に包帯を巻い 2 た右手を。 章 : いったい、何があったんだ ? 騎「たしかなことはわからない。だから、まだ誰にも報告していない は私と君だけになるんだが 銀 そう前置きをして、ファルファレロは話しはじめた。 しよう ふところ な このことを知っているの くん

2. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

かわぐちつかさ はじめまして。他の作品を読んでくださっている方はおひさしぶりです。川口士です。 本作は二〇〇七年に富士見書房さんから出した拙作『ライタークロイス二巻』に加筆修正を 行い復刊したものです。また月刊ドラゴンマガジンに三ヶ月にわたって掲載した短編も、この 機会に分割して添えさせていただきました。 読んでいただけた方にはわかると思うのですが、当時の僕はこの二巻でいろいろと実験的な ことをやっています。三章のはじめとか、五章とか、某腐れ縁や敵の視点の話が多いとか、そ のせいで登場人物が一気に増えたとか、いきなり上下巻構成で三巻に続くとか等々。 この二巻は「せつかくだからいろいろ試してみよう」と思った巻でして、今度の復刊におい てもそのあたりはあえて直さずに出すことにしました。もしも読みづらいと思われたら、申し 訳ありません。 また短編について説明させていただきますと、一巻とこの二巻、それからいずれ出るだろう 三巻に収録される予定の短編は、一つの事件を異なる人物の視点から描いたものです。 短編一〕ファリア編 短編二〕レイク編 短編一二〕イングリド編 亠めとが当」 せっさく

3. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

しょ - つだく 今日、レイクは訓練を休んでいる。昨日の段階でクローディアに休む旨を伝えて承諾を得て おり、カインにも「明日の夜、飯食おうぜ。訓練が終わるころに中央広場で待ち合わせな」と 約束もしていた。そのときはむしろ明るすぎるほどだったのだが。 「何があったんだ ? 」 通りを並んで歩きながら、カインは忍耐強く話を聞いた。聞きながらてきとうな店をさがし たのだが、こういうときに限ってどこもいつばいである。スルム河沿いに建っている店が、河 原にテープルと椅子を置いて「ここでよければ」と言ってきて、店をさがすのも面倒くさくなっ ていたカインはそこに決めた。 そのころになって、ようやくレイクの想い人の話だと理解した。 「十字章でなんとかなるんじゃなかったのか」 放っておくわけにもいかないと思ってカインは尋ねる。 って言ってるんだがな。親戚がロ出ししてきた」 「親御さんも本人もいい、 今日休みをとったのは、その親戚たちと話すためだったらしい。鶏皮の揚げ物を乱暴に食べ ながら語るレイクの両眼には、憎悪の灯がかすかに揺れていた。 「十字章を持ってようとまだ平民じゃねえかって言、つんだよ 「ファリアはまだ無理かな、クローディアさんには言ってみたのかい」 「それも考えなくはなかったんだが、間違いなくこじれるからな。あまりに腹が立ったもんで、 来年こそ騎士になってやるから一年待ちゃがれ、って啖呵切ったら、向こうがびびって、婚約 たんか

4. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

ⅲ 章 勲 騎 ハラム邸の主人であるオームスは、朝食をすませると足早に館を出る。たいてい忘れ物をし の 銀て戻ってくるのだが、ともかく仕事に出たら、夜遅くになるまで帰ってこない。 しことよ 「商人が多忙なのはい、 「明日、俺が足を滑らせて階段から転げ落ち、そのまま死んだらどうする」 せりふ 冗談のような台詞を、冗談とは思えない口調でハイラムは言った。ファリアは一瞬、言葉に 詰まり、それから緊張と不安をはらんだ声を出す。 「恐ろしいことを仰らないでください 「未来はわからんからな。おまえはファリアⅡアステル。帝国の第一皇女だ。皇帝になる可能 性はあるし、おまえが俺より出来のいい夫を引っ張ってきたら、そいつを皇帝にしてもいい とりあえず、インフェリアへは行け 「 : : : どの街道を通っていくのですか ? 」 「最短距離だ」 短い返事に、ファリアは街道と、それが通っているいくつかの地名を思い浮かべる。 : べラ街道ということは、国境付近にウガルがありますねー 「通過点だ。こだわるな」

5. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

ネル日キメイスは、困った顔で自分の手に戻ってきた鞄を見つめている。 ちゃんとお礼を言わなければ、と逡巡している間に、彼は野次馬をかきわけて去っていって しまった。 「いた・ーーネル」 呼びかけに振り返ると、彼女の親友が立っていた。短い栗色の髪に、明るい赤い瞳をした少 女で、ラウニー日フェレスという。薄緑色の長袖と黒灰色のズボン、黒い上着というネルに対 し、彼女は細かい刺繍のある水色の上着に、裾の広い、膝の下まである白いスカートという服 装だ。 章 勲 ラウニーはネルが手にしている鞄を見て、安心したような笑顔になる。 「取り戻せたみたいね。よかったわ」 銀 、つん、とネルは小さく、つなずく。 「そいつ、どうする ? 衛士の詰め所は近くにあったと思うけど」 驚いた : あんなでかい女ははじめて見た。 故郷の村どころか、近隣の村でも、この帝都に来てからも、見たことはない。 こはくたて ようやく落ち着いたのは、角を曲がって「琥珀の盾』が見えてきたときだった。 ⅲ

6. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

とあみ 数日後、いつものようにティナと河岸でパンを食べながら、レイクは対岸で騎士たちが投網 を使って河底をさらっているのを眺めていた。 「幸せなんてのはこなかったなあ」 結局、ティナの買った鏡は残り四枚もビフロンズに引き取ってもらった。 「んー、でもあたしは幸せだよ。みんな助けてくれて、おいしいものも食べて」 銀貨三十枚は、おもいきり派手に飲み食いしたらすぐになくなってしまったのだった。 「いいなあ、おまえの幸せはそんなもんで」 「じゃあレイクはどんなのが幸せなの ? なりたいものとか、ないの ? 」 章 嘘考えてみたが、レイクには答えられなかった。金銭は欲しいし、美味いものだけを食べて暮 銀らしたい、女 子みの美女が傍にいればなおよい、では、それが幸せかというと、その通りだと断 言できない部分が心のどこかにある。 「そりやそうだけどさあ」 仲間たちはあきらかに気乗りしない様子だったが、それでもレイクは決行した。 結果として、二十枚ほどの銀貨を拾いあげることに成功したのだが、その後、すぐに騎士た ちが毎日のように河底をさらいはじめたので、それ以上はできなくなってしまった。

7. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

までなら許すとかいう話になっちまった 深く重いため息を吐く。 、じゃないか 「婚約はすませたんだろう ? だったら、あとは来年に向けてがんばればいし 野菜と赤胡椒のスープをすする手を止めて、カインは精一杯励ましてみた。だが、レイクの 反応を見ると、さしたる効果はなかったようだ。自分で言ったことだし、納得していないわけ ではないが、どうしても愚痴は出るということらしい さらに延々と愚痴を聞かされ、レイクがこんなふうになるのは珍しいと思いながら、一段落 つくのを待ってカインはロを開いた 「その想い人は、なんて言ってたんだ ? 」 「『ごめんなさい』と『ありがとう』。あと『待ってる』」 「いい子じゃないか。そういえば、いままで聞いたことはなかったな。どんな子なんだ ? 思いだしたよ、つにカインが「寺ねると、レイクは弾かれたよ、つに勢いよく顔を上げる。これ以 上はないというほどの笑顔でこう言った。 「すっげえ可愛い 章 勲 なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。レイクは適切な言葉をさがしながら説明を続ける。 騎「どっちかっていうとおとなしいかな。でも、おまえんとこの侍女の子みたいな感じでもない はかな 銀んだよな。笑顔がなんていうか儚いっていうのか、守ってやりたくなる感じでなあ」 あいづち うんと相槌を打つ。 あかこしよう じじよ

8. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

第十五代皇帝は、リラ。帝国において二人目の女皇帝である。「平和と幸福の時代 , と讃え えんきよく られるほどの善政を行ったこの女帝は「情の深い方であらせられた」と婉曲に評されることが 多い。それは、多くの史書に共通して書かれる次の文による。 あるとき、リラは良人を「浮気をした」として、煮えたぎる湯を満たした桶を抱えて宮中を 追い回した。 また、あるとき、良人を「他の女と親しくしていた」として、錆びついた剣を握りしめて宮 中を追い回した。 また、あるとき、良人を「他の女と話していた」として、右手に松明をかざし、左手に油を 満たした壺を抱えて宮中を追い回した。 どうもう 章 勲 また、あるとき、良人を「他の女を見ていた」として、獰猛な大型大を三匹ばかり引き連れ 士 嘘て宮中を追い回した。 銀 また、あるとき、良人を「他の女のことを考えていた」として、甲冑に長柄の斧という姿で 宮中を追い回した。 皇女によって「玉座ごと蹴り落とされた」という話は、現存するすべての記録に共通している ので、間違いや誇張ではないだろう。 この皇帝は懲りすに、その後も臣下に無理難題を言っては困らせ続けたという。 おっと

9. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

ファリアは山であった出来事を話し、男の死体を回収するよう命じた。捨ておけない部分が、 あの男にはあまりに多すぎる、と思ったのだ。 章 勲 だが、ファリアの命を受け、領主が派遣した者たちは、男の死体を回収することはできな のかった。彼らが死体を発見したのとほとんど同時に、インフェリアの甲冑をまとった騎兵の 銀一団が現れたのだ。 グラフィアカーネと名乗った彼らの隊長は、次のように述べた。 とまど ファリアは戸惑った顔で、クローディアを見上げた。 「さきほども申しあげたように、私にも責任があります。そして、私を処断できる立場にある のは、いまここでは、皇女殿下のみです」 ついにファリアは音を上げた。 「わかった。私が悪かった。今度の件については、私に非があるゆえに卿の非は問わぬ。約束 する。調印をすませて帝都に戻るまでは、おとなしくしている。息を潜め、身を縮こませて、 ロ数を減らし、無駄な物音を立てずにじっとしている。それでいいか ? 」 「 : : : そこまでなさらなくともよろしいですが。 クローディアはまず呆れた顔をして、それから微笑んだ。 「では、今後とも非才なる身の全力をあげて、お仕えさせていただきます。ファリア様」

10. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 2

れだけの才がないのです。言葉をかわし、心を通わせ、その上でひとを好きになるものだと、 私は思っています」 む、とアヴァルは唸った。遠まわしに断られているのかもしれなし ( し あきら だが、諦めなかった。 りゅうぎ 「では、君の流儀に乗っ取るとしよう。君さえ邪魔でなければ、俺は今後もここに通いたい。 と、つにろ、つか 君と言葉をかわし、俺という人間を理解してもらいたい。。 「かしこまりました」 イングリドは丁寧に頭を下げた。アヴァルは顔をほころばせ、花束をイングリドに半ば押し つけるよ、つに渡す。 「俺は騎士として、今日から行軍に参加しなければならない。戻ってくるのは二月後になるが、 そのとき、またお邪魔させてもらう。それでは、朝から失礼した」 ともかく、次の訪問の約束は取り付けたのである。鼻歌混じりに去っていくアヴァルを見送 ると、イングリドは静かに扉を閉めた。ちょうどそこに、客人が二人歩いてくる。 「あれ、イングリド。どうしたの、その花束」 章 勲 ラウニーとネルだった。二人は、行軍のことをアウレリアに伝えるために今朝、この館を訪 騎れていたのだ。 銀「お客様からいただきました」 仕えている人物の親戚であり、客人である娘に、イングリドは丁重に会釈する。