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検索対象: 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3
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1. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

ようともせず、無言でいる。 こうなったらカずくでも、と思いかけたときだった。 「お待たせした」 ろうろう 室内に、朗々たる声が響く。 もう一人いたのか、と苦い顔で振り返ったカインが見たのは、バルトに優るとも劣らない巨 漢だった。だが、胴回りは倍はあるのではないかと思われるほどふくらんでいる。肩や腕を見 る限り、厚い筋肉とたくましい骨格は認められるのだが、腹部は完全に脂肪に埋まってしまっ きゅ・つじ ていた。その巨大な肉体を包んでいるのは漆黒の給仕服だが、金色の留め金はいまにも弾けと あいきよう びそうである。陽に焼けた赤銅色の顔は、意外に愛嬌がある。 巨漢の給仕は室内を見回し、それからよく通る太い声でアリキーノに問いかけた。 「客はあなたを含めて二人と聞いていたが」 「その通りだ」アリキーノは必死に笑いをこらえているという顔で応じる。 「そこの若い二人は、まあ珍客といってゝ しい。かまわないから、運びこんでくれ」 了解した、と給仕はうなすくと、カインたちに振り返る。 勲「お客人方、私はこの店の主ォルガリオという者だ。料理を運び入れるゆえ、脇にどいていた 騎だけないか」 銀 さきほどまでの緊張した空気は既に霧散し、カインだけでなくレイクまで、男に圧倒されか 別けている。部屋に入る形で、戸口から動いた。それを確認し、オルガリオは部屋の外に呼びか

2. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

「前科のある人間は大変だよなと慰めてやろう」 「カイン、手伝え。こいつを窓から突き落として頭の中身を確かめてやる」 拳を強く握りしめ、レイクを睨みつける様子からは、さきほどの帝国皇女は想像できない。 カインは小さくため息をつくと、二人の間に割って入った。 あいさっ 「悪かったよ。でも、クローディアさんに挨拶していくぐらいはいいだろう」 「 : : : まあ、それならな」 ふんぜん 憤然とした表情のままだったが、ファリアは承知した。 カインは少し考えて、槍を手に取る。ここは異国で、何があるかわからない。持っていった ほうがいいだろう。それに、手元にあると安心する。 きようえっしごくうんぬん せりふ 「そういえば、さきほどの恐至極云々という台詞、よくとっさに一一一一〕えたな。上手かったぞ」 率直に誉められて、カインは照れて頭をかいた スッラ 「従衛だから、あれぐらいはね」 ファリアとクローディアのやりとりを見たり、 ハラム邸でそうした本を読んで、カインなり づか に言葉遣いを学んでいたのだ。大げさかなと思ったが、よかったようだ。 「だが、少々芝居がかっているようにも聞こえるな。まあ、クローディアも褒めていた。少し ずつ学んでいくといい ファリアの言葉に、カインはうなずいた。 「ところで、さきほどの私の姿はどうだった ? 」

3. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

「これで、よろしいですか ? 」 「あ、ありがとう。僕もできる限りのことは手伝、つよ。君のその生活を守れるように そこまで一一一一口って、カインははっとした。 幼いときに出会ったあの騎士は、故郷の村を守り、帝国の平和を守った。 アリキーノは自分を庇い、王国の威信と尊厳を守ったのではなかったか。 それこそが、いまの自分の目標とするものではないだろうか。 いっか騎士になったとして、どのように過ごすか。どのような騎士として生きるのか 守りたいものを、守れる騎士に。 それは、これまで考えていたものの中で最も自分にしつくりくるような気がした。 強くなろう。そのとき守りたいと思ったものを、守れるように。 「私からも、一つお尋ねしてよろしいでしようか」 イングリドのリ しに、カインは、つなずくことで先を促す。 「パルスさんは、どのような騎士を目指しているのですか」 : いまは、ちょっと一一一口えないかな」 章 勲 カインは困ったように髪をかいた。口に出してしまうと、大一言壮語すぎる気がする。イング 騎 リドの場合、既に侍女として立派に務めているから言葉に重みがあるように感じられるが、自 の 銀分は結局、まだ騎士ではない。 「君に聞いておいて、自分は言わないというのはすまないと思う。でも、決まってはいる。い うなが

4. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

た。この鈍い輝きは、どんなことでもできそうな錯覚をファルファレ口に起こさせていたのだっ ひげ 帝都郊外で、カインはグラスフォラス老人に会った。あいかわらず刷毛のような髭を揺らし かこ ながら、背負った籠に薬草やら茸やらを積んでいる。カインたちを見ると、手を振って元気に 歩いてきた。 「おう、帰ったか」 はい、と老人のそばまで来て馬から降りたカインを、グラスフォラスは頭から足元まで観察 しわ して、皺をほころばせた。 「五体満足のようじゃな。いや、呼び止めてすまんかった。疲れておるじやろうて、話とかは 明日、明後日にじっくり聞くとしよ、つ。とまれ、よく事に帰ってきた」 かばん ありがとうございます、とカインは礼を言った。それから、鞄から日記帳を取りだす。 「それじゃ、これだけはいまの内に渡しておきます。こっちは」 と、馬の鞍にくくりつけた麻袋を指す。中には弩が入っている。レイクに買わせたのだ。 「かさばるから、今度持っていきます」 ひげ うむ、と老人は髭を揺らしてうなずいた。受け取った日記帳をその場で開いて大雑把に確認 にぶ Ⅳ きのこ いしゆみ

5. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

つか一一一一〕えるときが必す来るから、そのときは聞いてほしいと思、つ。勝手なことばかり言ってる 「承知いたしました」 イングリドは静かに言って、頭を下げた。顔を上げて、微笑む。 「そのときを、楽しみに待っております」 階下でオームスとアウレリアの声が聞こえた。帰ってきたのだ。 「パルスさんは食事になさいますか ? それとも、お休みになられますか ? 」 「君の料理は久しぶりだな」 カインは立ち上がった。疲れは吹き飛んだというほどではないが、かなり癒された。 「いろいろなものを見てきたんだ。よかったら、聞いてほしいな」 「はい」 イングリドはやや弾んだ声で答える。 二人は一階への階段を静かに降りていった。

6. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

ファリアとレイクがにやにや笑いながら聞いてきたが、カインにもわからない。額に汗がに きゅ・つじ じんだ。仕方ない、教えてもらおうと顔を上げ、給仕の姿をさがして店内を見回す。 そのとき、灰色の髪をした長身の男が、給仕と親しげに言葉をかわしながら奥にある個室の 一つに入っていくのをカインは見た。 あいつは : おもわず立ち上がる。 間違いない。帝都の船着場で会ったウルバという男だ。 「おい、どうした ? 」 けげん 蚤訝そうな表情を浮かべるレイクに答えず、カインは歩きだす。カインの行動に一瞬、不思 議そうな目を向けた客はいたが、それ以上のことはなかった。 男が入った部屋の前に立ち、カインは勢いよく扉を開ける。中にいた男は屋訝そうな顔をカ きようがく インに向け、認めるや否や薄い緑色の瞳に驚咢の感情を浮かべた。 「 : : : 君は 「どうして、おまえがここにいる」 男を睨みつけ、そう言ってから、カインはいや、と頭を振ると一歩踏みだす。 「そんなことはどうでもいい。今度は、逃がさない」 ところが、男の口から発せられた言葉はカインの意表を突くものだった。 「ーー君は、誰かな ? 」

7. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

えるの。数で戦うのよ。一人一人の声は小さくても、それが大集団になれば相手をせざるを得 なくなる。そうして相手を引きずりだしてしまえば、こっちのものよ」 翌日から、アウレリアは商人や取引のある貴族や医師などをまわりはじめた。イングリドも、 まず買い物に利用する店に聞きこみをはじめ、運よく教えてもらった者を訪ねて話を聞き、さ らに鏡を売った者をたどっていき、アウレリアに教わって署名を集めた。 「事態が解決するまでは、仕事はしなくていいわ。 そうアウレリアが強引に決めたため、イングリドは聞きこみに専念することとなってしまっ じじよ た。その間の仕事は、臨時雇いの侍女が行った。ただし、その侍女は掃除と洗濯しかできない ので、バラム夫妻は外食を余儀なくされることとなった。 「ーー今日もまた、外食かい , オームスⅡバラムは結婚してから妻の行動に文句めいたことを言ったことは一度もなかった のだが、これにはたまりかねたらしい。三日目に、一度だけだがそう漏らした。 イングリドは愛想笑いができない 「あなたは、お客様の前では笑わないのね , あるとき、アウレリアにそう指摘されてはじめて気がついた。意識したことなどなかったの だが、来客に応対するときの自分は無表情極まりないらしい。

8. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

魔物が爆発したのだが、気づかない。 カインが落下していく先には、人間の形をした魔物が浮かんでいる。カインを見上げ、手を かざした。そこに水塊が生まれる。カインは歯を食いしばる。避けることなどできない。たた、 落ちていくしかないのだ。長年培ってきた槍のかまえだけを維持して、大きくなっていく魔物 を睨みつける。 せつな 那、どこからか発生した暴風が、魔物の水塊を吹き飛ばす。クローディアの駆る朱鳳によ るものだった。魔物はすかさす再度の水塊を生みだそうとしたが、間に合わない。 鈍い音を響かせて、カインの槍が魔物の胸を貫いた。 きようが′、 魔物は驚咢の表情を浮かべ、もがくように口をばくばくと動かす。カインは魔物を下敷きに 落下していくが、そこで、不意に魔物の姿が消失した。再び虚空に放りだされたカインを、紅 い輝きをはらんだ横殴りの風が抱きしめる。 「だいじようぶ ? 」 クローディアだった。カインは返事をしようにも声が出ず、必死に何度もうなずくことで感 謝を伝える。姿勢を直そうとしてかえって聖獣から落ちかけ、荒ててクローディアにしがみつ 章 勲 「 : : : 魔物は ? 銀「わからない。あれで死んだとは考えにくいから、逃げたのかも 「そ、つですか : ・・ : 」

9. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

し抜かれるだろう。 しっそのこと割り切って振りまわされたほ、つかいし 「そ、つだろ ? だったら、 はひとりで充分だと思うんだ」 「だったら君が振りまわされてもいいんじゃないか」 意地悪く言ってやると、レイクは意外そうな顔になり、次いで困ったような顔をしてカイン 、ん , 刀け - フ Q 。 「大通りを見てわかっただろ。美人が多いんだよ、赤毛のさ。紅い髪の女は情熱的だって話を 聞いたことがあるが、俺はここにいる間だけ真理の探求者になってもいい」 カインは驚きの眼差しを黒褐色の髪の友人に向けた。はじめて訪れた地で緊張している自分 とは違い、レイクははしゃいでいる。それにしても女性限定とはいえ、よく見ているものだ。 「帝都にも紅い髪の女性はたくさんいるじゃないかー 「異国なんだぜ ? インフェリアの女には、インフェリア人にしかないよさがあるはずだ」 その張り切りように、さすがに呆れてカインはたしなめる口調になる。 「君は、婚約者がいるじゃないか」 勲「ヴェスパシアは長い黒髪なんだ。赤毛と黒髪の違いを俺は知っておく必要がある。いや、知っ ておかねばならない」 みさお 銀「婚約者に操を立てようとは思わないのか , 「心の操は立ててるぜ。だから、そのへんの女の子を引っかけるようなことせすに、そういう 。でもって犠牲

10. 銀煌の騎士勲章(ライタークロイス) 3

218 アリキーノの本名は、ウルバヌスⅡバルバリニという。『アリキーノ』は役職名であり、そ の役職に就いている間は公私ともにその名でいることを強いられる。十二氏族の集まりであっ なごり た頃の、名残らしい カインカ / 丿ノ ゞヾレヾリニ家に案内してもらったのは、王都ヴェルギルを発つ日だった。葬儀など 「アリキーノ将軍は、亡くなられました」 魔物の襲撃があった日の翌日である。 「僕は、彼に槍を借りたんです。 伝えに来た騎士に、カインはそう告げた。 何故なんだ。 あれほど憎んだ。敵だと信じた。勝ちたいと思った。 それなのに、死んだと聞いて、僕は全然嬉しくない。それどころか。 「存じておりますー 騎士はうなすく。あのとき、中庭に現れた騎士だったらしい。 「返すと約東しました。彼の家族に渡したいと思うんですが、インフェリアではこの行為はお かしいでしよ、つか」 「いえ」騎士は頭を振って、短く続けた。「ご案内いたします」