次から次に参考論文や関連図書を追って、棚から机へと往復す ーグ・ソーランが昨晩いっていたのもこのことだったのだろう か ? ″抑制死″の発生率は地球にもっとも近いかれらの世界でも 4 知らぬ間に二時間も医大ですごしてしまった。すべてがすんで、 っとも高く、地球にもっとも遠い星で最低という。ホーキンス人が これだけがわかったーーーホーキンス人のハーグ・ソーランという医ほのめかしたことにつけ加えて、彼女自身が医大で読んだ事実が重 者がいて、かれが″抑制死″の専門家であること。そしてローズのくのしかかってくるーーー発生率が極端にはね上ったのは星間交流が 大学とつながりのあるホーヤンスの研究組織に所属していること。 さかんになって地球人と接触するようになってからなのだ : もちろん、これだけではかれが実在の人物の役を演しているかもし徐々に気はすすまないながらひとつの結論を引き出さざるをえな れない可能性を否定はできないけれど、な・せそんなにまでする必要かった。ホーキンス星の住人はこう考えたにちがいない 地球は があるのかしら ? 偶然″抑制死″を引き起す因子を見つけ、それを故意に銀河系の異 星人間にばらまいたのではないか、その目的は多分、銀河征服 ! ここまできて彼女はすっかり動顧してしまった。そんなはすはな ポケットから折りたたんだメモを取り出すと、「誠実」と三つ並 ありえない。人類がそんなことをするわけがない。・ とう考えた んだ疑問符のとこに彼女は大きく「」と書いた。大学にまた 戻ってきた時には午後四時になっていたが、もう一度机に向った。 交換を呼んで、これからどんな電話にも出ないからというと、ドア 科学発達に関して見るならば、ホーキンス星の人々も地球人も同 じような状況にあった。″抑制死″自体も何千年も昔から発生して に鍵をかけた。 おり、医学もこの点については完全な失敗に終っていた。冷静に判 『ハーグ・ソーラン』の欄に今度は二つの疑問符を書き並べる。 「な・せハーグ・ソーランはひとりで地球に来たか ? 」ちょっと間を断してみて、地球の生化学をもってしても異星人の生態に影響を及 ・ほすほどのことができるわけもなかった。事実、彼女の知る限りで あけて、「失踪人係に興味を持ったのはなぜか ? 」 ″抑制死″についてはホーキンス人のいったとおりで、これは問題は、地球の生物学者や医者でホーキンス人の病理学を云々できるほ ない。医科大学で読んだところによればホーキンス星ではこの解明どのものはいもしなかった。 それにもかかわらず、ハーグ・ソーランはなにかを疑って地球に に最大限の努力を払っているようだった。かれらは地球人がガンを やってきて、わたしたちの疑惑のまなざしを受けているのた。さま 恐れるよりもっと怖がっているらしい。そしてもしその解決手段が 地球にあると思っているなら、ホーキンス人は全面編成の大調査団ざまな想いをこめて、「なぜハーグ・ソーランはひとりで地球に来 を送り込んでくるにちがいなかった。やはりそうとも全面的に受けたか ? 」という疑問の下に答えを書いた。「ホーキンス星では″抑 とられておらず疑いもあって、たった一人の医者を調査によこした制死″の原因は地球にありと考えている」 のだろうか ? しかし、この失踪人係の件 . はなにを意味しているのだろう ? 科 る。
とっても大切なことなのよ」 「肝心のやつらはどうなんだ ? 」 「どうもないわよ。完全に無害な生物だし、うれしいことに菜食主「なぜ ? 」 「だって、ドレイク、ある期間かれがここに滞在してくれたら、綿 義なの」 「それがどうだっていうんだ ! 夕食には干し草をひとたば出すっ密に研究ができるのよ。生物学的にも心理学的にも個体としてのホ もりなのか ? 」 ーキンス人や地球外知性体に関してほとんど知られていないのよ。 「ドレイク、あなたった社会や歴史については少しわかってはいるけれど、それだけなんた ローズの下くちびるがふるえはじめた。 らすいぶん意地悪なのね。地球にだって菜食主義のひとはたくさんわ。この機会を逃しちゃいけないのよ。ここに来てもらって、よく 観察して、話して、習慣を見つけ出してーーー」 いるけど、干し草なんて食べやしないわ . 「興味ないね」 「それなら、おれたちはどうするんだ ? かれの目の前で肉を食っ たら、人食い人種のように思われるんじゃないのか ? やつに合わ「ああ、ドレイク、あなたって人がわからないわ」 すためにサラダを食べて我慢したりしないからな、おれは。今から「おれがこんなことは好きしゃないんだっていおうとしたのか、ち はっきりいっておくそ」 「そうよ、あなたはまるでわかっちゃいないんだわ」 「そんなにわけのわからないこといわないでよ」 ローズはもうお手上げだった。彼女はかなりの晩婚たったが、学 ドレイクは黙りこんでしまった。ぐっと考えこんでいる様子で、 者としての経歴は立派なもので、確固たる地位をその分野では築い ていた。科学技術省の職員としてジ = ンキンス大学で生物学の研究高いほお骨や角ばったあごがひときわ効果をそえる。 「いいか、おれもホーキンス人につい やっと口を開いていった。 を行ない、すでに二十冊をこす著書を出している。早い話が、本の 虫になってしまって気づいた時はオールドミスだったのだ。そしてて仕事の関係で少し耳にしたことはある。かれらの社会についての 三十五歳にもなっていながら、自分がまだ結婚一年にもならぬ花嫁研究はあっても、生態学的調査はないといったな。あたり前しゃな いか。それはただホーキンス人が標本として研究されたりするのを であることを思い知らされて意外に思うのだった。 ときおり夫をどう扱ったらいいのかまるで見当もっかないでまご好かないというだけで、おれたちだって同じじゃないかな。地球訪 ついてしまうこともあった。男たちが意地を張り出したらどうした 問のホーキンス使節団のボディーガードを何度もやった仲間と話し たことがあるが、やつらは割りあてられた部屋からはよほどの公式 らいいのたろう ? 学んだ分野は何の役にもたたなかった。自活し てきた彼女の人格と経歴が、甘えたりへつらったりすることを許さ行事以外には一歩も出ないそうだ。地球人とはなにひとっ交渉をも よ、つこ 0 とうとはしないんだ。やつらたって気分が悪いのさ、おれたちを見 仕方なくじっとかれをみつめ、さらっと口にした。「わたしにはてね。おれ自身やつらを見るとへドをはきたくなるのと同じなの
「ではニューヨークの失踪人係から無作為に抽出されたケースはこ ローズが答える。「ちっともかまいませんわ。あんまりお忙しす の惑星の平均値と考えられましようか ? 」 ぎたんじゃないかしら、きっと。地球より重力の大きな当星から来 2 「もちろん、そう思いますわ」 られているものだから、つい簡単にわたしたちよりすっと耐久力が ホーキンス人がせきたてられるようこ ーいった。「では、それでおありになると思ってしまうんで、いけませんのね」 は、経済的説明がこの事実にも、星間旅行が活発になったころから「いや、そうではありません。肉体的には決して疲労しておりませ 行方不明者の中の若者の比率が過去に例のないほど高まっているとん」いいながら、かれは彼女の足もとを見つめ、眼をしきりに。 ( チ いう事実にも、つけられましようか ? 」 クリさせた、何か面白がっているのた。「おわかりいただけるでし そのとき、ドレイクがビシッときめつけた。「なんですかそんな ようが、地球の方々を拝見しておりますと、たった二本の後肢で立 こと、ちっとも不思議でもないでしよう。ちかごろでは逃げ出そう っておられて、前か後ろに倒れられるんではないかとそれが気にか と思えばそれこそ大宇宙のどこへでも行けるんですよ。やっかい事 かりましてね。もし言葉が過ぎておりましたらお許し下さい、たた からとんすらしたけりやただ手近の宇宙貨物船にもぐりこめばいし 地球重力のことをおっしやったものですから、ふと心に浮かびまし んだ。いったってクルーが足りなくて困ってるから、ろくに何もき たのです。わたしたちの惑星では二本の肢では不充分でしよう。ま かないし、そうなったらもう後を追おうにもめったにわかるもんしあこれはこれとしておきましよう。あまりにたくさん新しく珍しい ゃないよ、本気で隠れていようと思ってたらなおさらだ」 概念を得たものですから、しばらくの間″精神遊離んをしてみたい 「それにその大部分が結婚後一年以内の若者なのですが」 と思ったのですー ローズは思わす笑い出してしまった。あわてていいそえる。「ま ローズはおやおやといった想いだった。そうね、他種族を理解す あ、それは男にとってなにもかもうっとおしく思われる時期なんしるのはいかに大変かってことよ、結局。ホーキンス星への調査隊の ゃないかしら。一年目が過ぎてしまえば、もう逃げたいなんて考え報告によれば、ホーキンス人は意識を自由に生体組織から遊離さ なくなるものなんですわ」 せ、何物も入りこめぬ深い瞑想の世界に沈め、地球時間で数日にも ドレイクはどう見ても気嫌がよくはない。ローズはまたかれがい わたりその状態を保つ能力があるという。ホーキンス人にはえもい やに疲れて気に病んでいるように思った。な。せかれはなにもかも自われぬ喜びなのたそうで、適当にそうしなければならないというの 分一人の身にしよいこもうとするかしら。いったってそうた。そし だが、果してどんな目的効果があるのかまだかいもくわかっていな てふとこう思いついた、もしかするとそうしなければならないので そしてまた逆に、ホーキンス人に『睡眠』の概念を説明するのも ホーキンス人が急に口を開いた。「もしもあなたがたのお気にさほとんど成功していなかった。他の異星人もわかってくれなかっ わらなければ、しばしの間中座いたしたいと思うのですが ? 」 た。地球人が眠りとか夢とかいうものが、ホーキンス人には精神崩
ローズ・スモレットは喜びいさみ、意気揚々といった様子で家に なら儀礼的なおっきあいで悩ませられてしまうこともないし、それ 戻ってきた。せかせかと手袋をとり、帽子も放り出すと、瞳をきらにかれだって自分の好きなようにやれればすっと研究も進むと思う 3 めかして夫を見つめる。 わ。わかってくださるでしよう ? 」 「ドレイク、かれが来ることになったのよ、ここに」 「なぜおれたちの家でなきゃいけないんだ ? 」 ドレイクは困惑した顔付きで見返した。「タ飯はもう食べちゃっ 「だって、わたしたちのとこならすっと便利だと思ったんですも た。せ。七時ごろ戻ってくるたろうと思ってたんだ」 の。みんなもわたしさえよければっていってくれたのよ、それに打 「もう、そんなことどうだっていいのよ。途中でちょっと食べたかち明けたところ」と彼女はちょっぴり意地になっていいたした。 ら。それよりもねえ、 ドレイク、かれがここに来ることになったの 「これは大変な名誉たと思うわ」 「いいか ! 」ドレイクは茶色の髪に手をやると、クシャクシャにし 「たれが来るって ? なにしゃべってるのかまるでわからないな」ながらいった。「おれたちはなかなか便利でこぎれいな家に住んで 「ホーキンス星から来た博士よ ! 今日の会議の議題たっていった いるーーそれは認めるさ ! しかし、地上でもっとも素晴しい場所 でしよ。ほんとに一日中その討議をしたわ。こんなに嬉しいことっ なんかじゃよ、、 オしただおれたちには充分だというたけだ。その上、 てないじゃない ! 」 この家のどこに異星人の客を泊める部屋があるのか教えてもらいた ドレイク・スモレットは顔のあたりにたゆたわせていた。 ( イプを いものたね」 離した。彼はパイ。フを眺め、それから妻に眼をやった。「はっきり させておこう。ホーキンス星から来た博士というのは、今大学にい ローズも心配になったようだった。メガネをとると、ゆっくりと るあのホーキンス人のことか ? 」 ケースにしまう。「客間でいいんしゃないかしら。かれたって自分 「そうよ。ほかにいるわけないじゃない」 のことぐらい始末できるはすよ。ちょっと話をしたこともあるけれ なにゆえ 「それでは、何故さような異星人を我家に招待せねばならぬのか貴ど、なかなか気持ちのよい人だったわ。実際のとこ、わたしたちの 殿に尋ねたいね」 しなけりゃならないことっていえば、かれのペースにあわせてやれ 「わからないの ? ばいいのよ 「なにをわからなきゃいけないんた ! きみの大学はそいつに興味 ドレイクがいった。「ほんのちょっとかれのペースにあわせるだ があるんたろうが、おれにはないね。個人的にまでかかわりある必と ! ホーキンス人はシアン化物を呼吸するんだぞ。おれたちもそ 要はないだろう ? それは大学の領分だ、ちがうか ? 」 れに適応しなけりゃならないな、ちがうか ? ー 「でも、あなた」ローズは我慢づよくいいきかせた。「ホーキンス 「シアン化物は小さなシリンダーに入れて持ち運ぶのよ。ちょっと 人だってどこか個人の家庭に泊りたいと思ってるでしようし、それ見にはわからないぐらいよ」
っとかれは夜自分の部屋で静かに反芻するのだわ、ローズはと思い いただいていますか、先生 ? 」 「ええすっかり。奥様に過分のご配慮を突然ドレイクが同じことに気づいて気分を悪くしてテープルを立っ ホーキンス人が答えた。 たりしたらどうしようと心配となった。しかし、ドレイクは何ひと いただいております」 っ気にかけるふうもない。 「何かお飲みになりますか ? 」 「ソーラン博士、あなたの脇のシリンダにはシア かれはいっこ。 ホーキンス人はそれには答えず、ローズに向って何かいいたげな 顔つきをしてみせたが、ローズにもその意味がわからなかった。ちン化物が入っているのでしよう ? ローズは眼をみはった。正直にいって、。せんぜん気づかなかった よっと気をつかって彼女はいった。 「地球にはエチルアルコールが入っている飲物をとる習慣があるののだ。円筒形の金属製で、飲料水のカンを思わせるもので、皮膚に びたりとついていて、着衣に半分隠れている。そうなのだ、ドレイ です。わたしたちには素敵な刺激物なのです」 「ああ、そうですか。残念ながら、わたしはお断り申し上げなけれクの眠は刑事の眼なのだ。 ホーキンス人はまるで気にもしていないようすで、「そのとおり ばなりますまい。エチルアルコ 1 ルはわたしの代謝機能にかなりか いいながら、ひづめのついた指先で細い柔軟なホースをつ です」と んばしからぬ影響を与えると思われますから」 ドまみ上げると、自分の黄色つぼい肌に合わせた色合で身体にそって 「これはまいった、人間だって同じことですよ、ソーラン博士」 レイクが切り返す。「でも、わたしが飲む分にはかまわんでしよう伸びていて、先端がロの端に入っているのを見せてくれた。ローズ は着衣の中を見せられて、すこしどぎまぎしてしまった。 ドレイクがまたいった。「中には純粋のシアン化物が入っている 「もちろんです」 ドレイクはローズのわきを通ってサイドボードのところへ行ったのですか ? 」 ホーキンス人はユーモラスに眼をパチクリさせた。「地球人に対 が、ひとことだけ言い放った。ぎりぎりし・ほったささやき声で、ひ とこと " 神さま ! 。といったたけだが、感嘆符が十七個もついていする危険性についてならまったくご心配には及びません。シアン化 物のガスがあなたがたにとって非常に危険なものであることは充分 そうな言い方だった。 承知しておりますし、わたしの必要とする量はほんのわずかなので ホーキンス人が食卓に向「て立 0 ている。そのナイフ類をあっかす。シリンダーの中は五パ 1 セントの青酸ガスで、残りは酸素で うさまは器用さの見本ともいえるようなちょ 0 とした見物たった。す。わたしがこのチ = 1 ・フを吸わなければ出てきませんし、それも ローズは食べている姿をできるだけ見ないようにしていた。くちびたまにやるだけでいいのです」 「なるほど。このガスはあなたが生きていくには絶対に必要なので るのない口がびつくりするほど大きくあいてのみこみ、かむときに は大きなあごがこれまた面くらうことに右から左へと動くのだ。きすね ? 」 メタポリズム はんすう
るのが遅かったためにホーキンス人がいる前で話すわけにもいかず選んだのかしら ? どこでもよければ大学の生物学者の家庭はまだ い出しそびれてしま「たのだ。ただもう今とな「ては、すっかり他にもあるのだ。もしかするとたんに自分の好みでいちばん気にい ったところ、どんな基準か知るよしもないけれど、を選んだにすぎ 事態が変ってしまっていた ないのかもしれない。 レコーダーをセットしたのも研究者としては当り前のことだっ た。ホーキンス人の話やそのイントネーシ ' ンなどは大学の各種専そうだとしたらーーーたとえスモレット家だけをはなから対象に考 門家によ「て徹底的に研究する必要があった。隠しておいたのも目えていたとしてもーー , 初めはあんなに嫌が 0 ていたドレイクがすい ドレイクはきっと何か の前に置かれていたのでは変に意識してしまって自由に話ができなぶん好意的にな「た理由がよくわからない。 ーにを知っていて、いわないんだわ。ああ、もうわけがわからない。 いだろうという配慮からだったが、今ではこれは大学のメイ ( 決して見せられないものになってしま 0 た。いつのまにか別の要素星々の間の陰謀の可能性に思い及んだとき、彼女は徐々に身体が ふるえるほどの胸さわぎをお・ほえた。この銀河系に知的生命体の存 が入りこんでいたのだ。どちらかというと不純な要素が。 としつき 在が確認されてもう長い年月がたっているが、いまだに五つの知的 彼女はドレイクをスパイしようとしていた。 スイッチを押した時、何の関係もなく、ドレイクが今日どうやっ種族間に敵意や嫌悪感があったためしはなかった。今までのところ て事を始末していくのかしらと彼女は思った。地球外世界との交流互いに憎しみ合うには離れすぎていたといってもよい。交流を保つ はいまなおさほど活発でもないし、街中にホーキンス人の姿が見かだけで精いつばいであった。経済や政治などが争いの種になること もなかった。 けられたらきっとやじ馬が集まってくるにちがいない。でもドレイ しかし、それは彼女の考え方にしかすぎす、地球安全保障委員会 クならうまくやるでしよう、と彼女は思う。ドレイクはいったって はどうかわからない。もし争いごとが起るのなら、もしなにか危険 みごとに処理してしまうのだ。 いま一度昨晩の録音を聞き、面白そうなところはくり返してみがあるのなら、もしホーキンス人の調査団の目的が平和なものとは た。彼女はドレイクのいったことたけでは納得していなかった。な限らないとする理由があるのならーードレイクは知っているにちが ぜホ】キンス人はとくにわたしたち二人に興味を持たなければなら でもそうたとすると、ホーキンス人の医者の訪問には危険が内在 なかったのかしら ? でも、ドレイクのいったことにも嘘はなさそ うだった。よっぽど地球安全保障委員会に行って確かめてみようかしていることを、ごく簡単に知り得るほどドレイクは委員会におい とも思 0 たけれど、とてもできっこないのはよくわか「ていた。そて高い地位についていることにな 0 てしまう。いままでにかれの地 れに、そんなふうに考えるなんてすいぶん不実じゃないかしら、ド位なんてごくごく下っ端なんたとしか思っていなかったし、あのひ とだってそうじゃないなんてひと言もいいはしなかった。でも、も 4 レイクが嘘をつくなんて決してあり得ないわ。 でも、それでは、いったいなぜハーグ・ソーランはわたしたちをしかすると
ホーキンス人は笑いの意味か眼をパチクリさせた。「おっしやり そこでですが、これら知性体相互間の相違が詳しく調べられるに たいことはよくわかります」という。「わたし自身、あなたが警官つれ、 くり返しくり返しわかってきたのは、他のどの生物よりもあ 3 であるというのはどうもね。わたしの世界では警官というのは非常 なたがた人類がいちばんュニークだということだったのです。たと に専門化された特殊な人々なのです , えば、呼吸作用に金属元素が関与しているのは地球だけです。あな 「ほうそうですか」ドレイクはなぜか冷淡にいうと、話題をかえたがたたけが青酸ガスを有毒としています。知性体で肉食性なのも 「こちらに来られたのは観光旅行ではないのでしよう」 あなたがたたけです。草食動物から進化しなかったのはあなたがた 仕事で来たのです。あなたがたが地球と呼んでいるこの奇だけだといってもいし 。それに、もっとも興味をひかれるのは、知 妙な惑星を研究しようと思っています、まだ誰も手をつけたことが られた限りの知性体のうちで、成熟してしまうと成長がとまるとい ないのです」 う生物もあなたがたたけたということです」 「奇妙な ? 」ドレイクはきいた。「どういうことですか」 ドレイクはにやりと笑いをみせた。ローズは鼓動が早くなってき ホーキンス人はローズに眼をやった。「かれは″抑制死″のこと た。うれしい、なんてやさしい人なのかしら、ああして笑いをみせ を知っていますか ? 」 てくれて、それもとっても自然な仕種だし、わざとらしくもない ローズはとまどってしまった。「かれの仕事はとても重要なんでし、みえみえなんかじゃない。なんとかこの異星人をお客として迎 す , と答える。「わたしの研究の細かな話題に耳をかたむけているえようとっとめてくれているのた。素敵に振舞ってくれていて 余裕は残念ですけどなかったと思いますわ」どうにもさまにならなそれもたた彼女のためにやってくれている。こう考えて彼女の心は い言い訳で、彼女自身がホーキンス人の疑わしげな気持ちの動きを暖かい想いで満ち満ちて、何度も何度もそう考えてみる。ただ彼女 そこはかとなく感しとっている始末たった。 のためにしてくれている、ホーキンス人にやさしくしているのもた 異星人はゆっくりドレイクに振り向いた。 だ彼女を想えばこそなのだ。 「あなたがた地球人が自らの非常に風変りな性質にほとんど気づき もしないというのにはいつも驚かされますね。この銀河系には五種 ドレイクは笑いをうかべたままいった。「あなたはそう大きくも の知性体がいます。そしてこれらはすべて個別に発展してきていな ないようですが、ソーラン博士。そうだな、わたしより一インチ高 がら、面白いことにあるひとつの型に収歛してきているようなので いぐらい、大体六フ ィート二インチといったとこでしよう。あなた す。ある種が繁栄するためには、知性自体がひとつの精神的型式をはまたお若いのか、それともあなたの世界の方は概して小柄なのか 必要としたのだといえるかもしれません。まあこの問題は哲学者に どちらです ? 」 まかせるとしましよう。この点についてくどくどいわすとも、あな 「どちらでもありません」とホーキンス人。「成長につれて年間の たがたはもうよくご存じでしようからね。 発育度は減少していきますから、わたしぐらいの世代では一インチ
事にいたしましよう」 間生き永らえることができるということだった。 「ご主人 ? 」かなりの間、かれはひと言も口にしなかったが、やっ とこうつけ加えた。「そう、そうですね」 ドレイクが鍵をまわす音を耳にして彼女は身を固くしてしまっ 彼女はかまわないことにした。この銀河系の中だけでも五種の知た。 性的存在が知られていて、それらの間の気が遠くなるほどの混乱の かれが実にスマートにやったことは認めてやらなければならな 原因は、性生活と社会形態に関する差違にあったからだ。夫と妻と 。入ってくると、ためらいも見せすホーキンス人に手をさしのべ いう概念自体が、例にとれば、地球にしか見られぬものだった。他てきつばりと言ったのだ。「これはようこそ、ソーラン博士」 の種族は夫婦というものを何か知的な相互理解といったものですま ホーキンス人は大きなどっちかというと不体裁な前肢を出し、そ しているらしく、感情的なつながりをもっているものはなかった。 して二人は、握手 ( というのだろう ) をした。ローズはすでにこの 彼女はいった。「大学の仲間とあなたのメニュ ーについていろい儀式をすませていたので、握ったときのホーキンス人の手の奇妙な ろ相談しましたのよ。お気にさわるようなものはないと思います感触を思い起していた。ざらざらしていて、熱く乾いていた。ホー キンス人にはきっと、わたしやドレイクの手は冷たくねっとりした ホーキンス人は目をすばやく。ハチパチやった。ローズはこのジェ ように感じられただろうと彼女は思った。 スチャーが″楽しみ″の意味なのを思い出した。 そしてこうした形どおりの挨拶をしながら、異星人の手をじっく ・フロティン ・フ「ティン かれはこう答えた。「蛋白質は蛋白質なのですからミセス・スモり観察する機会が得られた。それはまさに進化収歛の原則の典型的 。わたしの身体が必要とする微量元素であなたがたの食物に なケースだった。形態的進化の道すじは人間のそれとまるで違って 含まれていないものは、濃縮飲料の形で持参しておりますから、十いるのにもかかわらす、驚くほど似かよった形状にな「ているの きゅうか 分かと思います」 だ。指は四本あるが、親指はない。すべての指に自在に動く球窩関 ・フロティ / そう、蛋白質は蛋白質なのだ。ローズはこの事実もよく知ってい 節が五カ所もあった。これで、親指がないことによる適応性の欠如 た。この異星人の食事に気を配っているのも、要はフォーマルなもを各指の触手的性質の付与によって補っていることがはっきりわか てなしということだった。外宇宙の星々へ飛びその惑星に生命体をる。生物学者としての彼女の眼により興味をそそったのは、ホーキ 発見していったあのころ最も興味をひいた共通点というのは、生命 ンス人の指の先にかすかながらひずめの痕跡がうかがえるというこ ・フロティノ 体の基本構造が何も蛋白質である必要もなく、それどころか炭素をとで、素人眼には定かでないほどのものではあったが、人間の指が 主元素としなければならない理由もないのに、なぜかすべての知性かって木登りに適合していたように、明らかにホーキンス人が平野 的存在が基蛋白質性の生物であるという事実たった。つまり五種のを走る有蹄獣だったことを示していた。 知性的存在のどのひとつも、他の四種の生物の食物でもって相当期 ドレイクがいかにもうちとけたふうに話しかけた。「くつろいで ロ 4
です。地球人の生化学構造のどこかに この免疫性の秘密が隠され かれはきいた。「お仕事は警察官たとおっしゃいましたね ? 」 ているにちがいありません。これを発見できたならどれほどうれし ドレイクはそっけない。「そうです , い力」 「それではひとつおカ添え願いたいことがあるのです。お仕事をう ドレイクはいった。「そうでしようか、地球は免疫たともいいきかがってから、お願いしようしようと思いながらなかなか切り出せ れないのではありませんか。わたしの眼から見れば、百パーセント ないでいました。ご主人や奥さんにごやっかいをおかけしてはと気 汚染されているように思えますね。地球人はすべて成長が停りますにかかったものですから」 し、また死んでいきます。われわれはみんな″抑制死〃で死ぬので 「できることなら何でもお手伝いしますよ」 「わたしは地球人の生活に興味を持っています。それもわたしの 「ちがいます ! 地球人は成長が停ってからも七十年の余も生きっ星の人々にはあまり一般受けしないかもしれませんが。それで地球 づけるではありませんか。地球人の″死″というのはわたしたちに の警察機構の一部門をぜひ見せていたたきたいと思うのです」 はよくわかりません。死に至る病いには無制限な細胞の成長による「わたしは警察機構に直接所属してるわけではないのです、お考え ものがあるそうですね。ガン、というそうですが いや、これはのようにはね」とドレイクは用心深く答える。「それでも、ニ = すみません、すっかり退屈されたことでしよう ヨーク市警にツテはありますから。なんとかできるでしよう。明日 ローズがすぐとんでもないといい始め、ドレイクもこれまた熱心にしますか ? 」 にロ添えしたのだが、ホーキンス人は心に思うところがあるのか話「わたしにとってもそれなら好都合です。できれば " 失踪人係。を 題をかえてしまった。そしてそれからのドレイクの様子にローズは見たいのですが ? 」 疑惑で心を悩ませることになった。かれは言葉に注意しながら ( ー 「なんですって ? 」 グ・ソーランにあれやこれやと話しかけ、驚くほどの話術を駆使し ホーキンス人は四肢をぎゅっと引きしめて、なにかいやに緊張し てホーキンス人がはしよってしまった話の続きをききだそうとしてているようだった。「わたしの単なる趣味なのですよ、いつも変っ いる。あからさまでも、みえみえでもないけれど、よく知っているていると皆にからかわれる始末でしてね。たしかわたしのうかがっ ローズにはかれが何を追っているのか手にとるようにわかってい たところ、あなたがたの警察機構の中に、行方知れずの男達を捜す た。仕事のためにききだそうとしているのかしら ? そして、ちょ のを主な仕事としているグループがあるということでしたが . うど彼女の想いに答えるかのように、ホーキンス人がとり上げた話「女子供もね . とドレイク。「ですが、どうしてこれがそんなに面 題が心の中で永遠に回るターンテーブルにのった古レコードそのま白いのですかねえ」 まにくり返しささやきかけていた。 「なぜと申しますなら、これまたあなたがたがユニークな点なので す。わたしたちの星には、″失踪人係。のようなものはありませ ホステス ー 40
はないそうだ。おれはただの地球人で、どれ ほどの怖ろしさかビンとこないが、わかるだ ろ、わからないか ? 」 ホーキンス人のロが大きく開き、なにか中 で黄緑色のものが震えている。ローズは吐き そうになった。叫びたかった。シリンダーを 返して上げて、ドレイク ! しかし一声も出 せす、眼をそらすこともできなかった。 ドレイクがいった。「あと一時間ぐらいた ろう、過ぎたらもう手遅れだ。さっさと話す んだな、ソーラン博士、そうしたらシリンダ ーは返してやる」 と、かすかなシュウシュウという亠日も止った。 「そのあとでーーーと」ホーキンス人。 「おれたちに、とドレイク。「危険なほどガスが洩れたのかどうか 「そのあとで、どうなったっていいだろう ? それから殺されると よくわからないな。だがね、もうこれでどういうめに合うかわかっしても、それはひと思いにやられるんで、シアン化物欠乏の死じゃ ただろう。もし答えないのなら、答えるようにしなければならない ないからな」 ホ 1 キンス人の内部でなにかが起ったように思われた。いやに喉 それも真実を話しているとおれが確信を持てるようなやり方で にかかった声になり、言葉も不鮮明で正確に英語を話そうという気 力が失せてしまったようだった。こういった。 「わたしのシリンダーを返して下さい」とホーキンス人がいった、 それもゆっくりと。「でないと、わたしはあなたを襲わなければな「質問はなんですか ? ーそしていいながらも、その眼はドレイクの らなくなり、そうすればあなたはわたしを殺さなければならなくな手にあるシリンダーを追っているのだ。 ドレイクはわざとそれを振ってじらしているようだった。異星人 ります」 ドレイクは後ろにさがる。「そうはならんね。襲ってきたら肢をの眼がそれを追い , ーー追って ドレイクが尋く。「″抑制死″に関する理論はなんだ ? なぜこ 撃つからね。なくなってしまうだろう、四本ともね、そうなったと してもまだ生きつづけているだろうから、かなり苦しいだろうな。 の地球にまで来たんだ ? 失踪人係を見に行ったわけはなんだ ? 」 ロ 1 ズは息をつめて答えを待っている自分に気づいて驚いてい そしてシアン化物欠乏で死んでいくんだ。これ以上みじめな死に方 1