題だけでは論じられない性質をみせている , ーーということです。す「そのことは、 TZ 比の増大と無関係ではない。つまり、コイズミ なわち、交信には物質を供給することが必要でしたし、また、先方くんの挙げた二種類の特異現象は、宇宙人の存在を介して、ひとっ につながっている。たから、間題は要するに、宇宙人の謎を解くと からの信号はエネルギ 1 ・運動量テンソルを伴っていました : : : 」 う一事につきる」 コイズミはポードに描いた記号を消し、そして、ゆっくりと、会 ギシギシッ 議卓の片隅に腰をおろしている宇宙人を指さした。 と、いすのきしむ音がした。 べイトマンが、悪寒におそわれたように、身体をふるわせた。 宇宙人が、かすかに身体を動かしたのだ。 ールが、宇宙人と同じくらいゆったりとし 宇宙人は、コイズミの言葉を理解しているはずなのたが、能面の 「コイズ、、、くんーー - ー」 「ーーーその他、話した ような表情を変えることなく、沈黙をまもっていた。 た動作で、腕を組みなおしながら、言った。 コイズミは、一呼吸おいて、話をつづけた。 いことはないかね ? 」 「 : : : ということはまた、単なる記号的情報の交換だけでは満足し コイズミは答えた。 えないような、特殊な状況下に宇宙人が置かれていることを意味し「とくにはありません。コールドウエル、アーベル両氏の補足は、 ています。それがどのような状況であるかは、まだわたくしにも判今のところ、わたくしの感想と大きくは矛盾しておりません。しい 然としません。しかし、特殊な重力場に関係のあることだけは確かてつけ加えるならば、ここにいる宇宙人が、宇宙船 O ーーーすなわち です。″ペニオナリーの墓場″が生みだした一連の奇跡のうちのひ三番目に出現した宇宙船ーーーからの信号によって誕生したものだー とつである以上、そうとしか考えられません。ところでーー・・」 ーということぐらいでしようか。はじめに現われた宇宙船 << ・か らは、ちょっかいは出されましたが、これほどきびしい信号は送り コイズミはコールドウエルの神経質そうな蒼白い顔を見やった。 こまれてきませんでした : : : 」 これに似た話が古典文学にあったような気がしますが : : : 」 コールドウエルは、にやりとした。 宇宙人の擬人類的な姿態が、もう一度、わすかにかしいだ。 「ホイルの″アンドロメダの <t ″がそれだ。しかし、参考にはなら んだろう。あの小説の中の宇宙人は、信号をコンビュータにかけた 人間の好奇心と、コン。ヒュータの出力を実際にためそうとした 宇宙船 0 ーーと地球人たちが仮称している、虚無から出現した謎 つまりシミュレーションの段階をとび越してしまったーーー人間の無 分別とが重なった結果誕生したものだ。ところが、今回のこの宇宙の宇宙船が、『オロモルフ号』に向けて放射していたエントロビー 人は、そのような無分別や好奇心を抑制してもなお、ここにこうしと丁ネルギー・運動量テンソルの流れが、とっぜん途絶えた。『オ ロモルフ号』は自由をとりもどした。その姿は、魔法使いの呪縛か 0 て存在しているんだ : : : 」 アー・ヘルが口をはさんだ。 ら解き放たれた少年のようにみえた。
その行動は不可解だった。この惑星では、何にしたって、こうい は持ち上げられる。 った移動のし方はしない。ちょっとの間、疑いが、蔓の端から端ま 8 ・エジャ 1 トン・ウェイドは恐布にそっと凍りついたようにな でをふるわせて走った。これほど自信に満ちたやつを襲うことが賢 と、ウェイドは心の中でいっ明かどうかという疑いである。だが、ためらいはほんの東の間で、 そんなことがあってたまるかー すぐに消えてしまった。貪欲な期待が、この性悪な植物を、ライフ レ . ノリ . 1 ー の森の寝ぐらから、駆り立てた。蔓は、かすかに震えて 音楽堂の向うの三人は、音楽の樹を掘り起こしていたのだ。 、たーーー巻きひげを通して伝わってくる振動に、少しばかり酔って いたのだ。 その蔓植物は、ざわっく草の海の中を、そっと動き回っていた。 鋭敏な巻きひげが持ち上げられ、獲物をねらっている。そこへ、奇変なやつは、がたがたと進みつづけ、蔓は緊張し、すべての繊維 妙な、がちゃがちや音を立てる物が、横にそれもしないで、ごろ ) 」が戦いのための警戒体制に入っていた。ただ、わすかででも、ひと たびそいつをつかまえることが、できうるならば ろと進んでくるーーー止まって、前方の地面を採って確めるというこ ともせす、突然受けるかもしれない攻撃にそなえて、ジグザグに進獲物が近づいてきた。そして、ちょっとの間その獲物が手の届か ぬ所へ行ってしまいそうになり、瞬間意気がくしけそうになった。 むこともしないのた。 - 第 . なノイイ
もとより、おそらく論理的にも打ち破ることができない。無限の時むろんこれは、時間のみを基準にした、ごく大まかなものである 間規模と無辺の空間規模をもって考えるなら、あらゆることはすでから、いくつもの註釈が必要である。それそれがかかわっているの 5 に起ってしまったのである。宇宙は一方では無尽蔵の可能性に分かは主観的な意味での時代区分であって、暦年上の時代と一致するも れていくから、まったく同じ事象がくりかえされることはない。ものではない。神話時代は、考古学上の歴史時代と重なりあうことが しも同じことが起ったとすれば、時空が無窮であるという証明にはあるであろう。風俗文学はここでは世態風俗の描写を主体とする文 ならないのである。循環と不同という矛盾する二つの原理で、時空学と解しており、私小説もこれに含められないわけではない。古典 は変化している。そこに、神話が過去と未来のそれそれの彼方に出は実証できる未来を扱ったというものではなく、実証できると 現する論理が見出せるだろう。 信じた未来にかかわっていたのである。これらのうち、神話文学・ を未来の彼方の神話と規定するとき、過去の歴史的時代の彼幻想文学・現代は、実証的方法を前提としないものであり、そ 方にある神話と同列に扱うことができないのは言うまでもない。すの意味で、歴史文学・風俗文学・古典と対照する。 でに見たように、過去の神話は現在を説明する手がかりであった。 ただし実証的といっても、物理的数量的な実証性を意味するもの 未来の神話のほうは、現在によって説明せられるであろう。その場ではないのであって、広い意味では幻想的ならざる文学はない。事 合、科学的予測が、説明の手段にならないことはすでに述べた。厳実にたいする信頼がその技法を限定しているという意味で、実証的 格に言えば未来神話としてのに論理的実証的な説明らしきものとするのである。狭い意味での幻想文学は、現実を描きながら超自 はない。たた、現代の様相の成立するきっかけとなるのである。も然的なものをそこへ導人する。現代はいわば、未来の彼方の超 っとも、仔細に検討すれば、過去の神話もまた、実証的に説明でき現実を舞台とすることによって、超自然的なものを当然のできごと るものではなかった。神話によって現実の事象の縁起が語られるとに転化しようとする。その意味で、現代が古典の発展線上 見えながら、じつは現存する状況が神話の機縁として用いられたに にありながら、技法的には幻想文学に親近性を有するとしても、怪 すぎないと考えられるのである。 しむには足りない。たとえば、・ タニエル・キースの「アルジャーノ を未来神話と規定することによって、時間を基準にする一応ンに花東を」では、未来が舞台になっているという予解のもとに科 の小説形式の分類が可能ではないだろうか。すなわち、 学物質によって知能がどこまでも発達するという前提が自然なもの 神話文学ーー不確定過去 となっている。しかも作者が実証性を拒んでいる点、古典とは 歴史文学ーーー歴史的過去 明らかに一線を画している。この作品と、スチ・フンソンの「ジキル 幻想文学・風俗文学ーーー現在 博士とハイド氏」の技法上の相違は、舞台が作者の主観で現在に設 古典ーー実証的未来 定されているか、未来のある時期が想定されているかにかかってい 現代ーーー不確定未米 るのみであるから、本質的相違はない。人為によって変化させられ
た。わが『オロモルフ号』の内部で、その時たいへんな論争がおこ画書が実行に移された後になってはじめて、真の効果を上げうるの ところでコ 、、ールは持っているにちがいない。 だという見通しを ったことよ、 。いうまでもない。宇宙の大変異を相手に『オロモルフ ″ペニオナリーの墓場″に近イズミーーー 」べイトマンは人なつつこい表情でコイズミを見た。 号』が戦うことができるだろうか ? ? たが、ダランベルトは決断した。試「ーーーきみは自分の案を各部長に説いてまわったが、きみ自身の属 づくだけの価値があるのか みないかぎり勝利はあり得ないというのが、あの船長の信念だったしている戦闘技術部の部長には説明してあるかね ? なかったとし たら、いざという時に、ますいことになる : : : 」 のだ。アンドロメダから″べ・ニオナリーの墓場″までの航行中、さ コイズミは苦笑した。 らに新しい事実が判ってきた。それは、集中した質量がコロイド状 に分散し、無数の重い星ができ、そしてその大部分が重力崩壊して ある視点からは、この『オロモルフ号』のすべてをーーー船長ダラ プラックホールへと向かっているということだった。すなわちわれンベルトをも含めてーーー把握しているつもりなのたが、別の観点か われは、プラックホールを根絶させる義務を負うはめにおちいったらは、抜けたらけなのである。 のた。だが、本当にそんなことが可能なのだろうか : 「ありがとう」 コイズミは、このお人よしの好敵手にあいさっすると、すぐに戦 コイズミは、ポードに方程式を書いた。 R - = = ート g え日 T 闘技術部長のガリレオ・ガポールの居室に足を運んた。 ガポール部長は相変らすだった。 そして、べイトマンの明快なお喋りにひとつだけ、つけ加えた。 「重力常数んが変化することによって、地球文明は大きなよりどこ広大な部室を眼下に見おろす高台に陣どって、つぎつぎに命令を ろを失うことになるという不安が、あらゆる努力の原動力となって発し、指示を下している。 いる。わたしは必すしもそうは考えてはいないが、相対論からまた そのかん高い声にはよどみがなく、判断には遅滞がなかった。 ひとつ、絶対的なコンスタントが失われることだけは確かだろう。 コイズミはわすか三十秒の時間を秘書のヤングから許されただけ そして、恒常的なもの、正則的なものの存在が減るにつれて、こ だったが、何とか説明を終えた。 の『オロモルフ号』の存在意義が希薄になることもまた、真実なの ガポール部長はせわしげにうなすき、コイズミが渡したコ。ヒーを あわただしくデスクの上のファイルに放りこむと、すぐにまた声高 それからコイズミは、自分の作戦について説明した。ガモフがと に指令を出しはじめた。 くいそうな顔つきで、プラズマ分析時の様子を話した。 部長が多忙をきわめる理由はよく判っていた。つぎからつぎへと べイトマンはにこやかな顔つきになって、立ち上がった。 おし寄せてくる事象の地平面をかいくぐり、また撃退するのが、こ 「よく判った。そして、司令室長の ( ールが今のような態度に出ての戦闘技術部の仕事であり、そのためには、部長自らが、常に高度 いる理由も納得がいく。きみの立案した作戦は、フーリエの戦闘計の判断力を駆使していなければならないのである。
燃料管を修理したほうがましだ」 「どう、おもしろいじゃよ、 オしカ ? ・」とコネリー。 「あんたや・ほく、 マッキンタイヤーが行ってしまうと、コネリーは、変だそ、と漠 8 あるいは他のたれでもいし 、わざわざ苦心して、危険区域を避ける然とした直観を抱いた。しかし、ヘルメットをぬぐのに夢中で、そ 迂回路を N にセットしてやる。すると、どうだい、 のやつはれどころではなかった。精神感応とは機械と人間の器官そのものと ご丁寧にも、近道を知らないとはあまりにもお馬鹿さんと判定しの相互作用に関連した言葉だ、と彼は胸のうちでつぶやいた。おそ て、ぼくらが通りたくない所をもろに通らせてくれるってわけだ。 らく、人間の態度がヘルメットに影響をおよ・ほすのだろう。コネリ ところが一方、規格品の航行計は、が進路を変更したのをまっ ーはうつむいて、ヘルメットが取れるさまを心に思い描き、取れよ たく知らないから、パイロットが気づいたときはあとの祭りってこ と念じ、促し、強要し、信じた。 とになるのさ」 ドシッという音とともに、ヘルメットが床に転げ落ちた。 マッキンタイヤーは、不愉快そうに頭をふった。 一瞬、コネリーは苦労も悩みもけしとんだように感じた。と、そ コネリーはいう。「ぼくは直観的に、装備に故障があったのではのとき、新型制御。 ( ネルに、見覚えのある黄色い光が点減している ないかと思った。しかし、事実を知らなかったので、直観の正しさのが見えた。 を証明できなかったんだよ」 光は、イントルグラ・フⅥー ( 中型 ) がその他の完全自動装置と 「だが、それにしてもーとマッキンタイヤーが反駁した。「事実を同様、黒か白か、明晰冷徹な理論冫 こよって義務を遂行中であること 知らずに、どうして推察できたんだい ? 論理的しゃないなあ」 を告げていた。 「いや、そんなことはないよ。理論は一連の事実を個別的に把握すしかし、コネリーはまたもやマッキンタイヤーを解き放ってやり るが、直観は、一団の事実を総合的に同時に把握するのだ。よく知ながら、そのことをからかおうとはしなかった。 った形ーーーたとえば家族の顔みたいにねーーーは、たとえ細部まで正 確にわからなくとも認識できるものだ。ときには間違いもあるが、 そういう場合は理論と照らしあわせればいし 。ものごとは直観で見 て、理論で確かめるべし、さ」 興奮がさめてきたコネリーは、ふたたび空腹感を覚え、いらいら した。「このヘルメット の仕掛けをぜんぜん知らないのかい ? 」 サイオニック 「精神感応回路になっていると思う。わたしにわかっているのはそ れたけた」マッキンタイヤーは航路制御装置の便覧をにらみつけて したカ、いきなり叩きつけた。「ちくしよう、なんてことた。あの
片隅で、頭をかかえて坐っていた。 きつけた。だから、あの樹たちには、手出しできないんだ」 外でロケットのかすかな音がして、ネリイが叫んだ。マッケンジ 「どのみち、手には入らなかったでしような」と、マッケンジーは 言った。「あいつらは行かなかったでしよう」 1 は大あわてでドアから飛び出した。見ると宇宙船はゆらゆらと音 こうこう 「だが、あんたは取引きをしたんだそ ! やつらは行きたがってた 楽堂の上空をこえてきて、あたりを煌々と照らし出した。そして、 んじゃ すばやく急降下して、百ャードほど離れたところに着地した。 ーパーは右腕につり包帯をした姿で、ころがり出してくると、 「われわれが植物を食べ物やーーーその他のことに使ったということ こちらへかけつけてきた。 を知るまでは、そうたったんですけどね」 「燃やしてないだろうな ! 」と、ハ ーパーは叫んでいた。「燃やし「だがね : : : しかしーーー」 てはいないだろうな ! 」 マッケンジーは言った。「あいつらにとっては、われわれは本当 マッケンジーは首を振った。 に人食い鬼の一団なんですよ。小さな植物を脅かすものでね。静か ーパーはよい方の手でマッケンジーの背中をしきりに叩、こ。 にしないと、人間様が食っちまうそと言っているというわけです」 「あんたがそんなことをするはずがないと思っていたよ。最初から ネリイが、またエンサイクロペディアの頭をつかんで引きずりな がら、トラクターの角をまわってやって来た。 わかっていたさ。わたしをからかってみただけだな、え ? ちょっ と冗談にね」 「おい」と、ハ ハーがどなった。 「ここじゃ、何がもち上がって るんたね ? 」 「まるつきりの冗談とはいえませんがね」 「樹のことなんだが」と、 ーパーは言った。「われわれは、結局「強制収容所を建てなけりゃなりませんよ」と、マッケンジーが答 地球へは持って行けないんだよ」 えた。「大きくて高い塀のやつをね」そう言って、親指でエンサイ 「わたしがそう言ったでしよう」と、マッケンジー クロペディアの方を指した。 「半時間前に地球がおれを呼び出して来てな。何世紀も前からの法 ーパーは目を丸くした。「だが、やつは何もしてないじゃない ) 律があるらしいんだ。異星の植物を地球へ持ち帰ることを禁止してか ! 」 いるんだ。どっかのばか者が、昔、火星から何かの植物を一東持っ 「人間にとって代ろうとした以外はね」マッケンジーが言った。 て来たら、そいつはもう少しで地球を減・ほしそうになったんだ。それ ーパーはため息をついた。「「それじゃあ、塀を二つ建てなきや で法律を作った。それからずっと忘れられていたというわけでね」 ならんな。交易所の所のライフル・ツリー がねらい撃ちしてきやが マッケンジーはうなずいた。「そいつを、誰かがほじくり出したるんだ」 んですな ? 」 マッケンジーは、にやにや笑った。「塀は一つ作れば、その二役 「そのとおり。そして、ギャラクティック貿易商会に禁止命令をつを果してくれるでしような」
た。「あんたたちはこのことを、私に隠しておいたんだな ! 」と、 数じゃあないからな。それを強行する手だてがあんた方にないんだ マッケンジーをとがめた。 ものな」 マッケンジーは手を突き出して、乱暴にエンサイクロペディアを「わたしらは何も隠してなんかいないさ」と、マッケンジーは言い : つまり、人 放った。「そのことを考えたことがなかったんだ。 つかみ、トラクタ 1 の中に放り出した。 間は、ある時代には植物を何に使ったのか、また、今でも、ある特 「さあ、このドアから出られるか、やってみろよ。マッケンジーは どなった。「そうすりや、暴力に訴える方式ってのが、どの程度の定の場合には植物を何に使うか、それを思い起こすこともなかった のさ。わたしらが今では、植物をそういろいろなことには使わない ものか、すぐにわかるさ」 という理由は唯一つ、わたしらが進歩して、その必要がなくなった エンサイクロペディアは立ちあがり、毛を逆立てた雌鶏のように ということだ。その必要を、また生じさせるんならーーー」 全身をゆすぶった。たがその思考は、冷静そのものだった。 「あんたたちはわれわれを食べたんた」エンサイクロペディアが、 「こんなことをして何の得になるのか、私にはわからんねー ぎゃあぎゃあいった。「あんたたちの小屋を建てるのに、われわれ 「スープができるさ」と、つつけんどんにマッケンジーは言った。 を使った ! 自分勝手な目的のために、熱を起そうとして、われわ 彼は = ンサイクロペディアの品さだめをした。「上等な野菜スー プた。キャベツに似ているな。わたし自身はそれほどキャベツのスれを殺したんだ ! 」 「静まりたまえ」と、マッケンジーは言った。「お前はかっかとす ープが好きってわけじゃないがーーー」 るが、それがわたしらのやり方なんだよ。わたしらはそうする権利 「スープ ? 」 があると考えた。わたしらは出かけては取った。くれと頼むことさ 「ああ、スープだ。食べるものだ。食料さ」 えしないし、植物の方ではどう考えるかなんて思案することもなか 「食料だって ! 」エンサイクロペディアの思考には、不安のおのの った。それが、お前たち種族の体面を傷つけるんだな」 きがあった。「あんた、私を食料にするのか ? 」 マッケンジーは言葉を切って、戸口の方へ近寄った。下の音楽堂 「なぜ悪い ? 」マッケンジーが聞き返した。「あんたは、野菜にす ートの準備、音合 から、最初の調べが響いて来たのである。コンサ ぎんのだよ。知性ある野菜だ。それはみとめてもいい。だがやつば わせは終っていた。 り野菜は野菜さ」 「よろしい」と、マッケンジーは続けた。「ついでにもう少し傷つ マッケンジーは、エンサイクロペディアの思考が、こちらの心の けさせてもらうか。お前はわたしにとっては植物でしかないんだ。 中を覗きこみ、探ってくるのを感じた。 「だがな、見つかるのお前が文明的なやり方をいくらか学んだからって、それだけじゃあ 「やってみろよ」マッケンジーは言った。 わたしと同等にはならないぜ。決してな。われら人間は、過去の経 は、おまえの気には入らないものだろうよ」 エンサイクロペディアの思考は驚きにほとんど息がつまってい験をそう簡単に忘れることはできないんだ。お前のようなものを、 ー 08
「宇宙船 O は、三隻の『オロモルフ号』を偶数にして正則性を保ち 原「オロモルフ号』 ながら合体させるために、やむなく″自然″が作りあげた仮の存在 2 〈回転する・フラックホール〉 だったのだろう。だから、あの船だけが、宇宙船・と少し異な った挙動ーーー・素粒子をまといっかせるようなことまでしたーーーを示 『オロモルフ号』 『オロモルフ号以』 し、それがわれわれを混乱させたのだ」 〈回転するプラックホール〉 〈回転する・フラックホール〉 工がどんな顔をする 「司令室長室での報告会が楽しみた。フーリ か。またしても考古数学の勝利なのだからな : : : 」 『オロモル 『オロモル 『オロモル 『オロモル べイトマンはかげりのない声でこう言うと、大股で去っていっ フ号』 フ号 O 』 フ号』 フ号』 ← た。コイズミはそのうしろ姿を見送り、ふたたびソフアに身体を沈 〈シュ・ハルッシルト型・フラックホール〉 新『オロモルフ号』 めると、かすかにため息をついた。 ← 彼は、べイトマンの快活さに羨望の念を禁じえなかった。『オロ モルフ号』の正則性は、今回の事件で因果律からの挑戦をうけてお べイトマンは陽気さをとりもどし、ロ笛を吹いた。 り、それをはねかえすのは、容易なことではないのだが、べイトマ 「思いだしたよ。結果を知ったきみは憤然として異議をとなえた。 ンにそれがわかっているのかどうか : 閉ロした地球のテク / クラートたちが、。フランを白紙にもどすた め、『オロモルフ号・』を O と同じ方法で消去させようとし考えこむコイズミに向かって、突っ立ったままのガモフが、不安 げに声をかけた。 た。それが不成功だったってわけだな」 「おおよその経緯はのみこめました。ただ、心配があります。四隻 コイズミは疲れた背筋を伸ばしながらうなすいた。 の『オロモルフ号』が合体してできたこの新しい『オロモルフ号』 「テクノクラートたちは古い考え方に興味を示そうとしなかった。 だから、とがこの宇宙のどこかにあるホワイトホールから放出の中のわれわれは、前のわれわれと同一なのでしようか ? 変容し てしまっているのではないでしようか : される可能性のあることを無視してしまったのだ」 「 O はどうだったのだろう ? 」 コイズミは、ゆっくりとガモフを見上げた。 「わたしの直観たが、 O だけは確かに他の宇宙に消えたのだと思 その時、断続的な・フザーの音がひびいた。新しい『オロモルフ う。つまり、『オロモルフ号』が新しい『オロモルフ号』 っ号』が帰還への準備をはじめた合図だった。コイズミはその非音楽 まり一瞬前までのわれわれの宇宙船ーーとなり、とが同じ宇宙的な不協和音が終わるのを待って答えた。 の他の時空に転移し、そして O だけが存在しなくなったのた」 「それは、われわれを迎える地球の連中が決めてくれることさ・ : 「すると :
隈にあるサマンサの父親の家のポーチだった。たった五万ドルのあ「真実の愛の勝利のために」そういうと、彼女も乾杯した。 ばら家である。これがイリノイ州ビオリアのような片田舎なら、ち「ケンタッキーの水は、心のなかのいちばん大切なものをおもてに ゃんとした暖房設備コミでも一万二千ドル以下で買えただろう。 出してくれるわい」 ふたりは裏庭へまわり、そこでツェッ ペリンの模型を仕上げてい ゴールドビーター老人は、自分の娘と・フラスをこもごも見くらべ るゴールドビーター老人を見いたした。老人が最後に乗り組んだそた。 の飛行船は、イギリス上空への爆撃行で炎に包まれて墜落したので 「いつごろから、あんたはサマンサと寝とるんかね ? 」 ある。その模型は、老人の一世一代のカ作だった。全長三十フィ 四つのゴンドラのそれそれには、本物そっくりに回転するガソ 「まだほんの序のロですよ。・フラスは答えて、お代りの請求にグラ リン・エンジンがついており、司令ゴンドラは小男なら乗りこむこ スをさしだした。 とができるーーーただし、胎児の姿勢をとることがいやでなければた「どうだ、娘はいい体をしとるじやろう ? それに、頭はちょっと ・」船体の横腹には、大きな黒い鉄十字と、アメリカ国旗と、カリ たりんかもしれんが、心の温かい女じゃ。あのイカレポンチのアー フォルニア州旗と、ダビデの星が描かれていた。 ビングにはもったいない。それにひきかえ、あんたは見るからにた ・フラスは感想を述べるのを控えた。いままでにもこれ以上に奇妙のもしい若者じゃよ」 な組合わせを見たことがあったからだ。 老人はグラスをぐびりとあおった。 老人は驚いた表情だったが、すぐにニッコリして、勢いよく・フラ 「アービングのやつめ、ダイキリなんかを飲む異教徒の小娘と浮気 スの手を握りしめた。三人は家の中にはいった。家の中は、裏庭のするとはな」 よりも , 少さいツェッ。 そくっと老人は身ぶるいした。 ヘリンや、その他さまざまな飛行船の模型で、 1 ポンのお代りをついでもらった。 サマンサは腰をおちつけ、 足の踏み場もなかった。老人は指の幅で六本分を固執して、グラス アルコールは大嫌いだったが、手近な麻酔薬はそれしかなかったの になみなみとパ 1 ポンをつぎ、プラスも遠慮なくそれをうけた。 守【」 0 ゴールドビータ 1 老人はいった。 いっからそれを知ってたの ? 」 「では、馬たちの帰遠と、ついでにアプダル・フォン・シックルグ「パ 「おまえがやってきたときからさ。遅かれ早かれ、いずれは起こる ーの没落に乾杯じゃ」 「ガス袋の復活を祝して」と、・フラスは応じ、仲よくグラスをあけことじゃった。おまえが禁断の果実をーーライ麦パンのポーク・サ ンドイッチをそう呼んでよければだがーーー食べすぎて、どんな男に ふたりが驚いたことに、サマンサも自分のグラスに・ハーポンをつもそっ。ほを向かれるほど肥りでもせんかぎりはな」 ぎはじめた・ ・フラスはサマンサの母親のポートレートに目をやった。サマンサ
た。そうなのだ、この質問がしたくて仕方なかったのだ。こんなやちにも、この地球にやってきて理解を実証するまで公表することが り方をしてまでとは思わなかったけれど、ドレイクの仕事にあってできませんでした」 は親切や人間性など必要性の前にはかすんでしまうものなのたろ「どんな理論なんだ ? 」とドレイクが詰問した。熱つぼさがまた眼 に戻ってきている。 何度も何度もそういいきかせて、ローズはソーラン博士にこんな 「わたしの研究を進めていくうちに、今までの″抑制死″に対する ことをしているドレイクがいやでたまらなくなりそうになるのを、 アプローチの方向がまったく誤っていたということがわかってきま 一所懸命我慢していた。 した。肉体的な面からせまってみても謎を解くことはできないので す。″抑制死″というのは文字どおり心の病いなのです。 ホーキンス人が答える。「すべてお話ししようと思ったら、わた ローズがさえぎった。「そうでしようか、ソーラン博士、たしか しに残された一時間ではとてもたりません。脅迫されてしゃべらなに精神身体症なのですか」 ければならないなどという辱めにあおうとは思いませんでした。わうすい灰色の半透明の膜がホーキンス人の眼にかかってきてい たしの惑星でしたら、こんなことはとてもできないのですよ。ここる。すでにもう見えなくなってきたのだろう。「いし えちがいま だけ、この胸が悪くなる惑星たけなのです、わたしがシアン化物をす、ミセス・スモレット、精神身体症ではありません。本当に心の 奪われてしまうのは」 病いなのです。精神感染とでもいえますか。患者たちはみな心がふ 「あなたの時間を無駄にされてはいませんか、ソーラン博士」 たつあったのです。調べてみますと、うちひとつは明らかに固有の 「最後にはすべてお話するつもりだったのです、ミスタ・スモレッ 心であるのですが、いまひとつの心の存在を示す証拠があって、そ 。あなたの助けが必要でした。そのためにこちらにお邪魔したのれはーーー異星人なのです。″抑制死″病の患者についてわたしの です」 惑星以外の生物についても調査してみますと、やはり同じ結果が出 「まだ質問に答えてもらってませんね」 ました。早い話が、この録河系の知性体は五種類ではなく六種類な 「これから申しますよ。何年もの間、わたしは通常の研究のほかのです。そして六番目は寄生体たったのです」 に、″抑制死〃で死んだ患者たちの細胞を個人的に調べてきまし ローズがいった。「そんなとっぴなーーーあり得ないわ ! 間違わ た。秘密冫ー こよ気をくばり、アシスタントもなしにしなければならなれたんじゃありません、ソーラン博士、 かったのは、患者たちの身体を調べる方法が世間の人に知られたら「間違ってはおりません。地球に来るまでは、もしかしたら誤りか きっと眉をひそめられてしまうようなものだったからです。あなたもしれないと思っていました。しかし大学でしばらく研究し、失踪 がたの社会でいえば、ちょうど生体解剖に対して反感を持たれるよ人係で調査をしたりして、いまでは正しいという確信を持っていま うなものです。この理由から、わたしは研究の成果を同僚の医者たす。寄生知性体という概念はさほど考ええないものではないでしょ グレイ 26