一つ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年11月号
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1. SFマガジン 1976年11月号

覚えた。その思考は、一つ一つが本当に独立しているわけではなれがきれいさつばりと捨て去ってー・ー」 く、また、一つの指導的な思考があるわけでもない。何百ものとる「ご覧のとおりのやつなんですよ」と、アルダーはマッケンジーに にたらない考えが、ペちゃくちややりとりされているばかりで、ま言った。 るで指揮者たちがうわさ話をしているといった風たった。 「ああ、そうだな」と、マッケンジーは答えた。「だが、新しい考 黄色い絶壁が、見張りの城壁のようにそそり立っている。そしてえ方にも何らかの価値があることがよくある。たぶん彼はーーー」 崖に通じる道の上の方に、トラクターが両足を広げた甲虫のような そう言いかけた時、アルダーは非難するようにウェイドを指さし 格好で、早朝のかすかな光の中に・ほうっと浮かんでいた。 た。「あんたがこの辺りをうろっきだすまでは、やつもちゃんとし 「だが、あんたの考え アルダーは一行を迎えるため、指揮台から立ち上がった。醜い姿てたんだ」アルダーは思い切り高く叫んだ。 をした小鬼で、ねじけた両足で立っている。 のいくつかを手に入れちまった。あんたのお蔭で悪くなったんだ。 地球の代表団は地面にしやがみこんだ。デル、、、 ノートは、つかまつあんたの音楽に対するばかげた考えで - ・ーー」アルダーの思考は、激 ていたスミスの肩から下りて、アルダーに面と向った。 しい怒りに一時のみこまれ、それから再び浮かび上がった。「何だ しばらくの間、沈黙が流れた。それから、マッケンジーが、形式ってのこのこやって来たんだ。誰にもたのまれたのではないだろ ? 的な儀礼は省いて、アルダーに話しかけた。「われわれはデルバ 自分のことだけかまってりやいいのに」 ウェイドはひげにかくれた顔を真赤にし、今にも卒中で倒れそう トを救い出した」と、その小鬼に説明した。「連れもどして来たの なようすだった。 アルダーは不機嫌な顔をし、その思考はうんざりしたように・ほや「こんな侮辱は生まれて初めて受けた . うなるように言い、固めた 卩しナ「こう見えても、地球ではすぐ こぶしで自分の胸をどんと卩、こ。 けた。そして言った。「われわれは彼に帰って来て欲しくない」 マッケンジーは不意を打たれて、ロごもった。「なんだって、われたシンフォニーを書いたんだ。断じてくだらない音楽に迎合した れわれは君たちが : : : つまり、彼は君たちの仲間しゃよ、 オしか : : : 彼りなどしなかったんだ。断じてー・ーこ を救い出すのにわれわれは随分苦労したんだーーー」 ートがアルダーにどなっ 「帰って自分の穴にもぐってろよ」デルス 「あれは厄介者なんです」アルダーはきつばりと言った。「つらよ た。「お前たちには音楽ってものがわかっちゃいないんだ。毎日毎 ごしで、やくざなやつで。いつも何か事を起こしてるんだ」 日、いつまでたったって同しことの繰り返しじゃないか。人気絶頂 「お前たちだってそう大したことないぜ」と、デルバ どいつもこい ートの思考がってこともなければ、すり減ってしまうこともない。 甲高くわめいた。「たたの時代遅れのやつらの集りじゃなしカ 、、。ばつも、時代遅れの長い下着を着てるみたいなもんだよ」 っとしない金棒引きたちたよ。お前がなんでおれにむかつばら立て アルダーは怒りくるって、握りしめた拳を振り回し、ひょこひょ たかといったら、おれが皆とは違うようになろうとしたからさ。おこ飛びはねた。「なんたる言葉だ ! 」アルダーは金切り声を上げ

2. SFマガジン 1976年11月号

んでぎはしなかった。ウェイドにしてみれば、たた樹だけが歌って球のオーケストラに演奏させるよりはまだいい。いったい地球に は、ここで聴いているような演奏を夜毎できるようなオーケストラ いるのだと思っていたかった。音楽が樹々たち自身のものではない という考えが頭に浮ぶことはまれだったから、樹の中にいて、樹をがあるというんだろうか ? もし、地球の音楽好きの人々が、この サウンディング・ポー 伝響板に使い、音楽を奏でる小さな本体のことも、いつもは古い音楽堂で奏でられるそのままの音楽を聞くことさえできたら ! 地球人が来ると、ウェイドはいつも身を隠していた。やつらは、 頭になかった。本体 ? それがウェイドの知るすべてだった。他の 地球人にしたところで同じことだ。昆虫、おそらく、一本一本の樹ウ = イドを樹々の音楽から引き離して、連れて帰ろうとするに違い に昆虫のコロニ 1 があるのかもしれない それともニンフや小鬼ないからだ。 夕暮の風が吹き、かすかに、耳なれぬ音を連んできた。音楽堂で や、子供のおとぎばなしの中をはねまわるような小人たちがいるの かも。しかし、これはばかげた話だ と、ウェイドは自問自答しは聞こえるはすのない音ーーー金属が石の上でたてる、かんかんとい う音だ。 小鬼などいないさ。 ウェイドは、しやがみこんでいた場所から立ち上がり、音の出所 それそれの昆虫、それそれの小鬼が、オーケストラの一つの小さ ートを受け持っていて、指揮者の思考の動きに従う。指揮者はをつきとめようとした。また音が、音楽堂のずっと向うの端の方か 音楽を考え、頭の中にもっていると、樹の中のものたちが、それにらした。手をかかげて、まぶしい入日をさえぎり、音楽堂の向う側 の、動く人影を見つめた。 反応する。 人影は三つで、一つは地球人であることがすぐにわかった。残る こいつはあまりびったりこないな、と、ウェイドは心の中でつぶ ゃいた。とことんまで詮索することは美しさを損うものだ。素直に二つは奇妙な形をした生き物で、遠目には巨大なかぶと虫のように 見える。竜座のシグマ星の最後の光に、そのえびやかになどの堅い 受けとって、注釈ぬきで楽しむ方がいい 同じ地球人たちも時々ーー・そうしばしばではないがーー・・やって来表皮であるキチン質の殻が、きらきら輝いていた。見たところ、頭 た。この惑星のどこかにある交易所の人たちだ。その連中は音楽をは歯をむいたしゃれこうべに似ている。彼等は、黒っ。ほい装具を付 けていたが、これは明らかに道具や武器を運ぶためのものだった。 録音すると、立ち去ってしまうのだ。ひと度、この音楽を聞いて、 グルーム・フリッジ人だ ! しかし、グルーム・フリッジ人が、地球 しかもどうして離れていけるのか、ウェイドには到底理解できぬこ とだった。だが、ウェイドは、音楽の魔力に対して自分を免疫にす人といっしょに一体何をしているんだ ? 共に天を載かない商売が る方法が一つあることを、・ほんやり思い出した。自分を調節して、 たき同士で、利害が衝突しようものなら、いつまでも争いを止めな 聞いたあと離れていけるようにし、音楽に縛りつけられない程度いほどなのに。 に、感覚を鈍らせるのだ。その免疫のことを考えてウ = イドはそっ何かが光の中できらめいたーー・きらきら光を反射しているもの四 とした。これこそ冒漬た。だが、それでも音楽を録音していき、地が、刺しこまれては、何かをさぐるように動き、また刺しこまれて

3. SFマガジン 1976年11月号

星間偵察隊の隊員ジェイムズ・コネリーと、担当星区の隊長グレ宙軍団なんぞと比較評価してほしくないものだ」 ・マッキンタイヤーは、沈黙のうちに互いに相手の顔色をう「マック」コネリーは、つとめて声を低くした。「船にとりつけて 7 かがっていた。すでにかなり頭に血がのぼっていたコネリーは、今もらったいまの装備一式を使いこなすのに、・ほくは半年がかりたっ 回の話し合いも例によって例のごとくなりそうだと悟った。 たんだぜ。具合のいいのもあるし、悪いのもある。しかし、せつか 「いい力い、マック」とコネリーはいった。「・ほくの偵察船は上々 くどれがどれと呑みこんだところなんだから、よけいなことはして たぜ。ぼくと同じにね。再装備は必要ないね。新しい改良品はいらもらいたくないね」 なし。だが、一つたけ教えてくれーー・こんどの仕事はなんだい ? 」 「こんどのこと マッキンタイヤ 1 は、みるからに自制していた。 濃い眉とごく明るい淡青色の眼をして、屈強な体つきのマッキンでは、せめて論理的に考えるくらいの労はとってもいいじゃないの タイヤーは、闘牛士か決闘者、あるいはネズミにとびかかる猫のよ かね、コン ? 」 うにスキのない目でコネリーを見た。 「わかったよ。先を話してくれ」 「こんどばかりはいつもの偵察とはわけがちがうそ」と、マッキン 「よろしい。まあ聞きたまえ。さきほど話した二隻の船は、きみが タイヤーは語気をつよめた。「四カ月違いでべつべつに偵察船を二 これから出かける予定の航路で遭難した。つまり、消息を絶ってし 隻ほど送りたしたんだが、それきりどちらからも連絡がない。あきまったんだ。きみの船より高度な装備だったんだが、 にもかかわら らかになにか優勢な相手にでくわしたんだ」 ず、難破してしまったんだよ」 マッキンタイヤーは、部屋のまわりのテー・フルや椅子の上にある 「そうか、それで・ほくの船にも同じ装備をとりつけてやろうって寸 風変りな新型器械を身ぶりで示した。「われわれとしては、みすみ法かい、え ? 」 すきみを中途半端な装備で発たせるわけにはいかんのだ。こんどの 「まさか、コン」マッキンタイヤーは、びつくりしたような顔をし 仕事は危険だからな」 た。「もっとも、決めどころはそれなんだがね。いまはもっと優秀 コネリーは新しい備品を冷淡に見やり、自分の船のほうに親指をな装備がある。きみの船にはそれを取りつけてもらう」 つきたてた。 「、、、、、ぼくはこいつの倍の重さまでの並みの船「例の二隻の船はどこに向かっていたんだい ? 」 と戦って勝ってきたんたぜ。交易妨害船が出没する星域は避けてい マッキンタイヤーは、三次元星図を映写して、遠方の太陽系を指 るがね。しかし、やつらを脅しつけるなんて朝飯前た。そうしろとし示した。 いわれたら、宇宙軍団だってやつつけてやるぜ」 コネリーは顏をしかめた。 「この最短航路には惑星モー丿ー マッキンタイヤーが、い きりたって鼻をならしこ。 オ「宇宙軍団易妨害艦がうようよしている。あれはもっとも悪質のギャングた。 か。あんなもの、くそくらえだ。やつらはつねに尺子定規か、予算あの一味には新装備の大戦艦一隻がやられたことがある」 に縛られているんだ。いやしくも星間偵察隊員なら、自分の隊を宇 「わかっている」とマッキンタイヤー。彼がボタンを押すと、映し ふ

4. SFマガジン 1976年11月号

う。空間を事物が充たし、時間が現在の一瞬に限られたものとし はそのとおりにならなかった。予言には動機があり、選択的意思が 働いているから、無数の可能性のうちの一つがとりあげられるのでて、われわれを監禁している現実は、このように軽い。しかも人は ある。さもなければ、数年先のことでも、あらゆる可能性に分かれその現実をたばかって、不可避な時間の流れから頭をめぐらせ、事 て、正確に予想しようとすればするほど、不確定な部分が増し、定物を好みの装置にとりかえるために、しばしば想像力による別世界 まらなくなってくる。現在の事実はわれわれの肉体をとらえているに仮住まいを試みるのである。 その意味で、説話の発生は必然的である。人間が想像力を備える だけに、つまり想像力とはちがって肉体のほうは事物からのがれら れない構造になっており、肉体そのものは過去にも未来にも存在す動物として存在しはじめて以来、存在しない時間やや存在しない空 ることができない性質のものであるから、重く絶対的であるように 間に飛翔しうる想像力は、肉体を拘東しつくしている現実を無数の 感じられるが、本来はあらゆる可能性の一つであったにすぎないも可能性の一つとして、相対的な、本来の規模に縮めようとしてきた ものであるといえる。 のであり、過ぎてしまえば再び、不確定なものに還えるのである。 ことに世界や人類の由来を謳う神話は、説明を加えることで、事 すなわち、想像力によって経験された未来と同じように、想像力に 象の本質や人間の運命を理解可能なものとした。現実は絶対者なの よって保持される過去となるほかない。 むろん記録や統計が、歴史の解釈や未来の予測にある枠をはめるではなくて、既知の法則に拠っているにすぎないという視点が与え ことは争えないたろう。物理学や数学が科学技術の限界を拡けつつられることになった。かくて人は、天狼が太陽を食べることがわか っているから日食をこわがらなくなり、人間の先祖である神が花の 冫。しかない。現代人は無知を装おうこと あることを無視するわけこよ、 はできないのである。しかしすべてを再現することと同様にすべて化身と結婚したために死ぬ定めになっているという、もっともな論 を予測することも、本来不可能なのであって、唯一非代替的な現実理を承認した。天が落ちないのは世界の果で巨人によって支えられ ているからであり、男が女によって身をあやまるのは、それが神の なるものは、偶然 ( あるいは不可知の宿命 ) が一点に流れ集って、 またもやとらえがたいものになる隘路に似ている。一人の人間がど仕掛けたわなだからである。 ういう両親を持ち、いつどこで生れるかは、徹頭徹尾偶然によって 人智が物質界を支配しはしめると、事象につけられたこうした説 決められる。彼がいかなる配偶者と子を持つか持たないかも、偶然明は、その象徴的意味が評価されることなく、急速に実効性を失っ の領域に属するであろう。人類の発生自体が、予定されたことではていった。確かに神話は、科学のかわりも倫理のかわりもしてはな なかったにちがいない。世界は黙示録が描くように轟音とともに果らないものであって、その根源的な拘束力は美的感興に由来するの てるのではなく、日常的なささやきのうちに果てるのかもしれなである。けれども神話のリアリティは理解されなかった。そのかわ 。とするならば、自己があたかも絶対的ななにかであると考えるりに、近代小説という、現実そっくりに作られたもう一つの世界 9 ことは、根拠のない不遜な想定とのそしりをまぬかれないであろが、人の心を捉えはじめたのである。

5. SFマガジン 1976年11月号

ってるのかい ? 」 してやるんだ ! 」 エンサイクロペディアは言った。「禁止する規則があるから、あ 9 「こいつ、血清を盗んだんですよ」と、ネリイは、吠えるように言 んた方は樹を取れないんだ」 った。「血清を盗んで、岩の上でこわしちまったんです ! 」 そして、エンサイクロペディアを。ほーんと放ってよこした。この 「それで、あんたは樹のことを知ったとたんに、ここまで走ってき 知性ある野菜は、二度もバウンドして、何とかまっすぐになろうとて、血清を盗んだんだな、え ? 」 「私たちに教え込もうとしてるんですわ」と、ネリイが言った。 もがいた。それから、根を下側にしつかりとまきつけると、ちょこ 「この言い方はあまりびったりしないようね。馴らそうとしている ト逃げた。 ちょこ走って数フィ スミスが嚇すように近づき、大声をあげた、「きさまの生き胆をと言った方がいいかもしれない。多分、両方でしようね。私の言う 蹴り出してやらなきゃならねえようだな。おれたちには、あの血清ことが正しいかどうかはわからないけれど。血清を盗ってしまえ ば、私たちは樹の音楽に対して自分たちを守ることができない。だ が必要なんだ。その理由も、きさまは知ってたはすだ」 からエンサイクロペディアは、私たちが一旦音楽を聞いてしまえ 「あんたは暴力で私を嚇すのか」エンサイクロペディアは言った。 ば、行って樹を取ってくるだろうと考えたんですよ」 「脅迫の一番原始的な方法だそ」 「法があろうと、なかろうと ? 」 「それが効くのさ」スミスはぶつきら棒に言った。 エンサイクロペディアの思考は乱れなかった。それは平静に近「それですよ」と、ネリイは答えた。「法があろうとなかろうと く、相変わらす明確ですっきりしていた。「あんた方には、異星のね」 「これはいった スミスは、くるりとロポットの方へ向き直った。 ものを脅かしたり、傷つけたりしてはならんという規則があるんじ やつの考えてることがどうしてわかる ? 」 しどういうことだい ? ・ ゃないかね」 「心を読んだのよ。もくろんでいることをつかむのは難しかったけ 「なあお前」と、スミスが言った。「規則ってもののことを、もっ ど。だって、奥の方にかくしていたから。でも、あんたがエンサイ とよく知った方がいいぜ。ある種の規則が適用されんことたって、 クロペディアを嚇したとき、気持が乱れたのか一部が上に出てき いくらもあるんだ。これが、その一つさ」 「ちょっと待て」と言って、マッケンジーはエンサイクロペディアて、私の手の届くところまできたんです」 「そんなこと、できるはすがない ! 」エンサイクロペディアはきー にたすねた。「あんたは法をどういうふうに考えてるのかね ? 」 きーわめいた。「あんたになんか ! 機械じゃないカ 「依って生きるべぎ掟だよ」と、エンサイクロペディアは答えた。 マッケンジーはちょっと笑った。「気の毒だが、お前さん。ネリ 「なくてはならぬものだ。それを犯すことはできない」 イにはできるのさ。心を読んでいたんだ」 「ネリイからの受け売りさ」スミスがまたロを出した。 スミスはマッケンジーをしろじろ見た。 「禁止する規則があるから、われわれは樹を取らないと、あんた思

6. SFマガジン 1976年11月号

冫しくらかいらだってもいるようだ。 子た。それこ、、 「なにをいいたいのか、わかりませんがね」 「とぼけるな。このことについて、おれはなにひとつ、知らされて 4 まのびした、だがまじめくさっている調子で、彼はこたえた。女ない。それなのに : 性にしては、ずいぶんひくい声だ。 「なにひとつって、自分で契約したのに。これだからいやなんだ 「 : : : ああ、ぐあいはいかがですかー よ、酒のみはー 相手は、こちらを気づかっているようだ。彼は早ロでちいさく「なんたって ? 」 「いいです」といっこ。 「だから、 いったでしよう。契約のときに。不測の事故について 「そうですか」 は、当社はいっさい責任をもちませんって。あなたは大笑いしてた ホッとしたような感じだ。「そうですか、それはよかった。じつじゃありませんか。わたしのことをエフェフだかっていって」 「といったんた、 は気をもんでいたのです。目がさめてから、気分でもわるくなった ら、どうしようってね。なにしろ、あなたはだいぶ酔ってましたか そうか。そうだったのか。 「なんですか、それは。もぐりで商売やってる連中のことですか。 だったら、ちがいますよ。われわれは、ちゃんと認可をとっている」 「酔ってた ? 」 しーし 彼の ( まだ一応、彼といっておこう。意識としてはもとの人格の 、どんな商売をやってるんた ? 」 彼は声をやわらかくした。べッドに腰かけてタ・ハコをくわえた。 ままなのだから ) 目が一瞬、ほそくなった。 「そうですよ。精神安定剤ものんでましたから。きのうもすっと電「こまりましたね。肉体をリースするわけですよ。わすれちゃった 話してましたが、まるで応答がない : ・ : あ、いちど受話器をとつんですか。といっても、死体に精神をうっしかえたって、まさかゾ て、うるさいとどなりましたがね」 ンビーになるわけでもなく、ムダですから、当然生きた人間どうし 「・ほくが ? 」 の魂をいれかえるということになります。『あなたもお気軽に魂の 交換を』が、わが社のキャッチ・フレーズです。しかし、なかなか 「そうです、あなたがたです」 「いったい、。 、つ - ( ノし、カュ / し とうなってるんた」 、よ、。自分の病気とか、不利になることをわざと報告し 確信のない声で、自分に問いかけるように。 ないひとが多くて、当事者どうしに訴訟問題がおきたりしまして朝 「そんなこと、知りませんよ。ねむたかったんでしよう。まる一日人間というのは、いつまでたっても欲がふかいんですね」 ねむったから」 「それは、以前おれの小説につかったネタた。そしてあなたはこう 「そんなことじゃない」 いうんだろう。『魂と肉体というのは、おなじ瞬間に生まれたっ 彼は怒りをおさえつけた。「いまのおれの状態たよ」 て、うまくいくまでには何十年もかかります。それをちがった組み

7. SFマガジン 1976年11月号

。ハーを信じさせることが難しかったのだった。マッケンジー 「それに一番いいことは」と、スミスが言った。「一度聞いたら、 にしても、そのことでハーパ 冫ーし力ない。何 ーをそう責めるわけこよ、 また聞きに来すにはいられないだろうってことだ。飽きることもな と言っても、これは聞いただけでは信じられないようなことだから いはずだ。それどころか、始終聞いて、その上もっともっと聞きた くなるのさ。魔物のように取りついて、日課の一部になっちまうんである。だが、それなら、この惑星全体が信しがたいとも言えるた だ。みんなは樹の音楽を聞くためなら、盗みだろうと殺しだろうろう。 と、何たってやるね」 マッケンジーはポケットに手をのばして、パイプとたばこ入れを 引っぱり出した。残りの六本を掘り起こすのを手伝うことになった 「それが心配事の一つなんだ」と、マッケンジーが生真面目に言っ ら、ネリイがさそ大騒ぎすることだろう。だがネリイはやらなきや 「私はただ止めようとしただけですよ」ネリイは言った。「私たつならんのだ。一刻も早く仕事を片づけてしまわなければならない。 て、規則がそんな風に物事を抑えつけるものだとは思っていませぎりぎり一晩しか時間が無いのだ。それ以上は血清が無いからだ。 ん。だけど、何かあるんですよ。あの指揮者たちの話しぶりは。ま一壜だけだから、あまり長くは持つまい るで私たちをからかってるようだったじゃありませんか。少年たち突然、車の外から激しい叫び声が聞こえた。胆をつぶしたような のグルー。フが、通りで、まんまと一杯食わせたばかりの人を、はや叫びだ。 したててでもいるようでしたわ」 一跳びでマッケンジーは座席を離れ、ドアに飛びついた。外で、 「気でも狂ったのかい」スミスが言い放った。 あやうく、トラクターの角をまわって駆けてきたスミスとぶつかる ところだった。ウェイドも、下の方の崖つぶちにいたのだが、こち マッケンジーは有無を言わさぬきつばりした調子で言い渡した。 「これはやり通さなきゃならんのだ。こんなチャンスをむざむざ逃らに走ってきた。 すところを誰かに見つかってみろ。僕らははりつけものだそ」 「ネリイだ」と、スミスがどなった。「あのロポットのやつを見て ーと連絡をとりますかね ? 」とスミスが聞いた。 マッケンジーはうなずいた。「あの人としては地球に知らせて手ネリイは、自分の後から何かを引きずりながらやってきた。引き 筈を整えなきゃならんだろうし、樹を持ち帰るために、ただちに宇ずられているものは、はね上がり、もがいていた。ライフル・ツリ 宙船を出してくれるだろうよ」 ーの森が一斉射撃をしてきて、小さな弾丸が一発、ネリイの肩に当 って、ばっとくだけ散り、ネリイをひるませた。 「私はまた気になるんだけど」と、ネリイが言った。「何かくさい 所がありますよ」 はねているのは、エンサイクロペディアだった。ネリイはその根 っこをつかみ、でこ・ほこの地面の上を、荒つぼく引っ張っている。 これを見てマッケンジーが叫んだ。「やつをおろしてやれ ! 離 マッケンジーは、ぼんとたたいてテレビ電話を切った。

8. SFマガジン 1976年11月号

「妙だな」と、うしろでウ = イドが言った。 た。「二十世紀に、ある種のポビ、ラー音楽演奏を表現するために 「ああ」「 , ジーも相槌を打 0 。「一」 = じ、あ、何もかんで使われた言葉だよ。音楽 0 起源に 0 」て書かれた歴史 0 本で読んだ 9 もおかしいよ」 ことがある。用語の小辞典があ 0 て。あんまり突飛た 0 たから、心 「私が言 0 てるのは、あの樹たちのことた。誓 0 た 0 ていいが、デに残 0 てるんだ」 ヒ ( ートはどこもおかしくなか「た。他のだ 0 てそうだ。あいった スミスが唇をすぼめて、ロ笛を吹く格好をしてみせた。「それだ ち、皆と同じように演奏して」たよ。オーケトラ 0 編成が不完全よ、や 0 はそこから仕込んだんだ。あんた 0 考えから取 0 た 0 さ。 だ「たり、形式からはすれたと = ろがあ「たら、私が気づ」たはず = ) 一イ , 。。〈デ→一と同しやり方だが、あれほど高等じ、あね ' ケジーはくるりと振り返り、ウ = イドの腕をぐ 0 と 0 かん「 = サイク 0 。〈デ→アみたいに明確なところがないんだよ」「 ' ケンジ た。「あいつらは、演奏をめちやめちゃにしたわけじゃない 0 てい ーがつけ加えた。「自分の仕こんだ言葉が、ずっと昔のもの うのか ? ここにいるデル・、 ートも、他のやったちと全く同じよう だってことがわかっちゃなかったんだ」 にやってたのか ? 」 「やつのクビを、ひねり殺してやろうと思っているんた」と、ウ = ウ = イドはうなすいた。 イドは凄んでみせた。 「そんなことはないぜ、と、スミスの肩の上からデル・ ( ートが叫ん マ〉ケンジーはいらいらして言った。「あいつに手を出すなよ。 だ。「おれは他のや 0 らと同じようにやる 0 もりなんてないんだ。今度の取引きはひどく評判が悪」が、それでも七本の音楽の樹は音 あんなくたらんものはけっとばしてやりや ディッグ・イット・アツ・フ いい。おれはいつだ 0 て楽の樹だ。気狂いじみた取引きだろうとなかろうと、僕が最後まで ほじくり出して、窓の外につるしてやる。なんとかでっちあげて、 やり通す」 遠くへぶっ飛ばしてやるんだ」 「ねえ、皆さん」ネリイが口をはさんだ。「私はやめた方がいいと 「お前、どこからそのちんぶんかんぶんな言葉を仕込んだんた ? 」思いますよ」 マッケンジーよ、。 ひしりと言った。「そんなひどいのは聞いたこと マッケンジーは眉をしかめた。「どうした、ネリイ ? あそこで もないぞ」 何た 0 て規則がどうのこうのと騒いだんだ ? そりや無論規則はあ 「みんな、あの人から教わ 0 たのさ」と、デ化 ( ートはウ = イドをる。だがこういう場合は、ちょ 0 と違うんたよ。会社は、音楽の樹 指さしながら答えた。 七本のためなら、規則の一つや二つ曲げられるのさ。あの樹たちを ウ = イドは怒りのために顔を赤くし、合点がいかないというよう 地球に持って帰れば、・ とういうことになるか君にだってわかるだろ に、ぼんやりした目つきをしていた。 う ? ひと演奏聞かせるのに、一千ドルの値たって付けられるし、 「これは実際、昔風の言い回しだ」ウ = イドはごくりと喉を鳴らしやじ馬を追い払うのに棍棒を使わなき ~ ならんだろうさ」

9. SFマガジン 1976年11月号

片隅で、頭をかかえて坐っていた。 きつけた。だから、あの樹たちには、手出しできないんだ」 外でロケットのかすかな音がして、ネリイが叫んだ。マッケンジ 「どのみち、手には入らなかったでしような」と、マッケンジーは 言った。「あいつらは行かなかったでしよう」 1 は大あわてでドアから飛び出した。見ると宇宙船はゆらゆらと音 こうこう 「だが、あんたは取引きをしたんだそ ! やつらは行きたがってた 楽堂の上空をこえてきて、あたりを煌々と照らし出した。そして、 んじゃ すばやく急降下して、百ャードほど離れたところに着地した。 ーパーは右腕につり包帯をした姿で、ころがり出してくると、 「われわれが植物を食べ物やーーーその他のことに使ったということ こちらへかけつけてきた。 を知るまでは、そうたったんですけどね」 「燃やしてないだろうな ! 」と、ハ ーパーは叫んでいた。「燃やし「だがね : : : しかしーーー」 てはいないだろうな ! 」 マッケンジーは言った。「あいつらにとっては、われわれは本当 マッケンジーは首を振った。 に人食い鬼の一団なんですよ。小さな植物を脅かすものでね。静か ーパーはよい方の手でマッケンジーの背中をしきりに叩、こ。 にしないと、人間様が食っちまうそと言っているというわけです」 「あんたがそんなことをするはずがないと思っていたよ。最初から ネリイが、またエンサイクロペディアの頭をつかんで引きずりな がら、トラクターの角をまわってやって来た。 わかっていたさ。わたしをからかってみただけだな、え ? ちょっ と冗談にね」 「おい」と、ハ ハーがどなった。 「ここじゃ、何がもち上がって るんたね ? 」 「まるつきりの冗談とはいえませんがね」 「樹のことなんだが」と、 ーパーは言った。「われわれは、結局「強制収容所を建てなけりゃなりませんよ」と、マッケンジーが答 地球へは持って行けないんだよ」 えた。「大きくて高い塀のやつをね」そう言って、親指でエンサイ 「わたしがそう言ったでしよう」と、マッケンジー クロペディアの方を指した。 「半時間前に地球がおれを呼び出して来てな。何世紀も前からの法 ーパーは目を丸くした。「だが、やつは何もしてないじゃない ) 律があるらしいんだ。異星の植物を地球へ持ち帰ることを禁止してか ! 」 いるんだ。どっかのばか者が、昔、火星から何かの植物を一東持っ 「人間にとって代ろうとした以外はね」マッケンジーが言った。 て来たら、そいつはもう少しで地球を減・ほしそうになったんだ。それ ーパーはため息をついた。「「それじゃあ、塀を二つ建てなきや で法律を作った。それからずっと忘れられていたというわけでね」 ならんな。交易所の所のライフル・ツリー がねらい撃ちしてきやが マッケンジーはうなずいた。「そいつを、誰かがほじくり出したるんだ」 んですな ? 」 マッケンジーは、にやにや笑った。「塀は一つ作れば、その二役 「そのとおり。そして、ギャラクティック貿易商会に禁止命令をつを果してくれるでしような」

10. SFマガジン 1976年11月号

かかわりあった人間にはやさしくしてやらなくてはいけないとおも者は恋のシーズンの悲劇を描き、心理学者は・ハルタン星人の精神的 うからた』とおもいこむような、そんなものはない。ひとつの生物欠陥をつき、異星人観光客にはうらやましがられ、ハネムーン星と 3 体が、生まれてから何年も男性であって、社会も男性であることをか、もっとひどいのもあるが、たくさんの別称をおくられる。 ・ハルタン星人には、だから性転換期がひどく気にかかるものなの 期待する、というようなことはない。まれには、死ぬまですっと女 だ。地球人の女が、妊娠の期待と恐怖をもって、毎月のめぐりをむ 性であった女性、などという例が報告されている。しかし、めった かえるように・ にそんなことはない。だいたい、・ハルタン星人自身にも、自分がこ いや、最近の若い女は、そんなふうには感してな いかもしれないそ。『できたらオロせばいいんだわ』なんて、いっ のつぎの繁殖期に女性になるか男性になるか、見当がっかない。だ から、よその星からくる商売人や外交官は、ずいぶん苦労する。女てた子もすくなくなかった ) がよろこびそうな文句とか、男をおだてあげるセリフとか、そんな彼はこのところ二年ばかり、十九歳以下の地球人の女と、つきあ った経験がない。彼女たちの心象が、はっきりとはわからない。し ものは通用しないのだ。 、ようだ。 ところで彼は、以前の三シーズン、男性としてすごした。もっとてみると、べつのいいまわしをもってきたほうがいし 若いときは、女性であることが多かったようだ。この星の住人たち C ハルタン星人には、性別による不平等という観念がない。理解で は、繁殖期のあと、労働の季節にも、そのすぐまえのシーズンの性きないのた。いまだに『女性は差別されている』と叫ぶ地球のウー をひきすっている。中性になる時期というのがない。年老いると、 マン・リヴの闘士が、この星に期待して現地視察にきても、ろくな 男性から女性に転換するのがうまくいかなくて、中性になってしま報告書はかけない。この星の住人は、性がかわっても、体格はたい うひともいる。恋の季節を卒業したそういう人物は、労働力としてして変化しない。服装も大差はない。男も女も育児の機能をもって もたいして役にたたないから、廃棄処分される。異星人たちは『ひ いる。家庭というものがないし、地球的な意味あいをもった結婚と どい』というが、どこの星でもおなじようなものだ。 いうものがない。したがって、永遠の愛などという観念は存在しな ット、トリスタンとイ い。だから、心中はなく、ロメオとジュリ 今年は、女がすくないといいのに、と彼はおもう。天候が不安定 だと、どちらかの性が多すぎたり、すくなすぎたりする。だれだっゾルデ、黒いオルフェ、心中天の網島に相当する作品もなく て、稀少価値のあるほうになりたい。相手をえらべるからた。それ いないづくしだけれども この星のシェークス。ヒアは、乱痴気。ハ ほど潔癖ではないひとは、三人も四人も相手を獲得する。なかには ーティーをえがくことに心血をそそぎ : : : なんたか、つまんない話 になってきたな。そういう社会では、政治も地球的な発達の概念を 三十人も四十人も、というやつもいる。しかしそうなるとからだが もたないし、ほっとかれてもただひたすら待つ、などという・ハ力は こえているたろう。もっと人類学でも勉強しとけばよかった ) 、ない。待つ一方では、恋の相手をさがす。繁殖期の絶頂には、モ このストーリーも、だめかもしれない。 マガジンへもってい ラルなんてないからだ。哲学者はそれを嘆き、あるいは讚え、文学く原稿どうするんだ。いったい、おれに想像力なんてものが、ある 工