司政官 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1976年11月号
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1. SFマガジン 1976年11月号

するべきではない、身を減ぼすそということの、反語的表現だったやって来るのは三十名に満たないのである。司政庁からもたらされ るニュースというのは、そのぐらいの評価しかされないというわけ のか ? さらにもう一歩進めて考えれば : : : 警告たったのか ? それから : : : 帰りがけにいった、あの、巡察官もまたおのれの必であった。事実、司政官が大 = 、ースを発表したということは、こ 要性を証明したいのだというのは、どういう含みがあってのことなこ数レ 1 ン、いや十レーン以上、なかったのだ。司政官の交代挨拶 ですら、五十名かそのあたりの取材者しか集められないのである。 のだ ? けれども、マセはマセで、トドではないのであ 0 た。他人のすべ多少の面白い = = ースが発表されたとしても、それは、どこかで報 辷察官道されたあとでもう一度司政庁に赴き、もうちょっとくわしく取材 てを見透すというのは、所詮出来ない相談である。マセは、巛 の言動や心理について、それが自分の仕事とかかわりのある部分にし自分のところの媒体で報しれば済むーー。・というムードがあるよう ついての・み、注意を払っていればそれでいいのたと、自分を納得さであった。 彼は、中央廊下ではなく、壁の裏側に作られた細い通路を、第三 ホールへと歩いて行った。 第一礼装である。 クキリット、ライラリットでまとった華麗な服装なのだ。 きよう、第三ホ 1 ルに来ている記者や映像レポーター、さらには 「第十二ルーヌルに一分前です」 カメラマンなどの、そのうちの若い人々のほとんどは、司政官がこ 力し / の礼装をしているのを見たことはないであろう。この服装がます印 「分った」 象を与えるはすである。 マセは頷き、資料を手にすると立ちあがった。 彼はゆっくりした歩調で、ホールのドアをあけて入った。ついて 記者会見である。 記者会見は、第三ホールーー司政庁内の集会所としてはもっとも来るのはひとりだけである。 スポットライトが、彼をとらえた。 小さな部屋で行われることになっていた。小さいといっても、集会 所だけに、椅子を並べたとしても二百人は入れる。 その第三ホールには、すでに取材に来た連中が集まっている。椅 子は百五十用意しておいたが、来ているのは、こちらから申入れを したさい出席と返事をした者のほかに、あとから気が変ってやって 来た人々を合せて、七十名そこそこという報告を受けていた。司政 庁が戸籍整備とか宙港工事に着手し、いろんな人々の反撥を買って いるということと、数日前のロポットに守られた帰着と行進。、。ー・な どの事柄で、どうやらこれだけの取材者数になったのである。ふつ う、何も変ったことのないときに司政官が記者会見を申入れても、 〈以下次号〉 3

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「私はそう見ますね」 わらず出席しないというのは : : : そのままおのれのラクザーン上に 巡察官は椅子の背に身体をもたせかけ、ふと視線をマセからそら おける存在理由を拒否することになりかねないからだ。 して、遠い目になった。「私の乏しい経験からいわせて頂くならば そうなれば、ほとんどの、あるいは不可抗力によって出られない といっても、直接体験するのはこれが最初で、つまり古手の巡 ものを除く全部の団体が代表を送り出すであろう。前日に招集を受 けて翌日の正午に集まるというのは、ひどくきついかも分らない察官や情報官から聞いたたけのことですが : : : 緊急指揮権を手中に が、ラクザ 1 ンの一日が二十八時間であることを計算に入れなくてした司政官の方針というのは、ま、例外もいろいろありますが、大 も、どこもかしこもが、会議に何とかして出席しようとするに違い別して、三つに分けられるようなんです。ひとつは、緊急指揮権が ない。それに司政庁では、交通事情や遠隔地にあるために定刻迄に発動されるのをあらかじめ自分の担当世界に広く知らせておいて、 集まれない者に対しては、こちらから迎えの機を出す用意をしてお結局はその指揮権をほとんど使わずにいっさいをうまく協調させ り、そのことも併せて送達先に伝えられることになっているのだって、所期の成果をあげようとする人。これはその担当惑星が非常に うまくいっていて、司政官に課せられた使命が、その世界での共通 の目的として認識された場合、成功するようです」 ここでトド巛 込察官は、マセがに伝言を依頼してから四十三分後 巡察官は言葉を切り、マセはやわらかく反論した。 に、司政庁に到着した。 「それは、多分かっての、司政官にそれたけの栄光と権力があっ 「認可が出たようですね」 た、そんな時代の話なのでしようね。そうした時代には、緊急指揮 と、巡察官はマセと向き合うとおだやかにいった。「どうやら、権といっても、平生の権力にごく僅かをプラスしたものとしてしか 私としてもこれでいささかお手伝いしたことになるのでしようか受け取られなかったのでしよう。現代ではおそらくそれは伝説の一 種なのではありませんか ? 司政官なるものの、その背後にあった 「感謝しています」 光輪が消え尽きようとしている今では : : : そういうことではありま せんか ? 」 マセは答えた。 「そうですね。ご指摘は外れていないと思いますよ」 「そんな風におっしやって、 いものですか ? 」 巡察官はまだ遠い目を保っている。「ま、話を続けさせて下さ 巡察官は、相変らす静かにいうのだ。「私の見るところ、あなた 第二のタイプというのは、緊急指揮権を持ったことを徹底的 はやはり修羅場に立っ肚を決めておられるようです。私としては、 その意味で、あなたを地獄へ突き落すお手伝いをしたことになるんに隠しておいて、誰にも知らせすに、出来ることならそれを見せる ですよ」 こともせすに任務をやりとげようとする司政官です。それがどんな に努力しても駄目で絶体絶命というときに、効果的な抜き打ちとし 「修羅場、ですか ? 」 こ 0 、 0

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出す必要があるという、その動機のほうが強いのではあるまいか : ・ : それがむしろ当然なのではないか、という気もするのだった。科 5 ( 承前 ) 学センタ 1 の人々にこんな考えかたがあると推測するのは、あるい : たとえ科学者といえども、そ そういう状況であったから、マセにははじめからランの来訪意図は失敬というものかも分らないが : は分っていたし、ランもまた、遠回しな表現はしなか 0 た。彼女はの置かれている場や当人の性格によ「ては、科学者というより政治 率直に、むしろあっけらかんとした調子で、自分は科学センターの家としての行動原理を選ぶ者だ 0 て、別に珍しくはないのである。 副所長のグレイ・・ドーンにいわれて来たのだと告げ、司政マセは、実質的にセンターを動かしているこのグレイ・・ド ーンにその傾向があることを以前から感知していたし、今度のこの 庁の機を借りる約東をとりつけるつもりで訪ねたのだといった。ラ ンの話によれば、科学センターとしては、当然協力してくれるはずラン来訪が、グレイによってもくろまれたと聞けば、なおさらのこ の司政官が意外に強硬で、再三の要請に対しても色よい返事が貰えとであった。考えてみれば科学センターの所員の中で、おのれの立 ないため、海藻異変の調査担当者であるランに、直接司政官と交渉場にとらわれることがほとんどなしに司政官と話し合える、そうい う間柄になっているのは、ランひとりなのだ。グレイにしてみれ させることにしたらしい。こういう方法があまり例のない、しか ば、たとえ結果が失敗に終ろうともランを利用しない手はないはず も強引なやりかたであるのを、むろん副所長のグレイは知っている はすで : : : それでも実行に移さざるを得ないところに、センターのだったのである。 ランの申入れた機数というのは、さらにすくなくなって、七機だ 苛立ちがよくあらわれているといえた。これは何も科学センター 三分の一レーンに減ら った。その貸与要請期間も百七十ルーヌ が、海藻異変を重視しないために、担当者に交渉を押しつけたとい うーーーそういうことではない。むしろ逆なのだ。センターはこの件されていた。 をきわめて重大と考えているからこそ、こういう、司政庁との交渉「実をいうと、わたし、こんな役目は引受けたくなかったんです」 の任にある所員を飛びこした方法をとったのである。ただ、センタ と、ランはいった。「わたしがしなければならないのは、要求な ーのこれが重大だという認識は、海藻異変そのものに対してというのかそれともお願いなのか : : : それさえはっきりしていないんです よりは、科学センターと司政庁との関係に向けられているのかも知もの。そりや他の人にいわせれば似たようなものかも知れないけど : わたしにとっては、まるで違うことなんですから」 れなかった。すくなくともそういう面があるのはたしかだと、マセ は意地悪く見ている。従来、要請すれば ( センター側からの感覚と「どう違うんです ? 」 すれば ) 簡単に協力してくれた司政庁が、にわかに高姿勢になった マセがこんな質問をしたのは、別に必要だったからではなかっ のに戸惑い、戸惑いながらもこんな状態が容認され例になったりし た。ただの合いの手、でなければ、今回もまた拒絶という、あまり てはセンターの面子が立たない、何としてでも司政庁から機を借り 愉快でない返答を口にするのを、少しでも先にのばしたかったから 8

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は、そうなる確率がごく低いことと、たとえがそんな状態 巡察官は徴笑した。マセには相手が、今の事情を知っていて形式 になっても、すくなくともッラツリ大陸のロポット官僚の多い場所的に増員を辞退したのか、そこ迄は分っていなかったのか : : どち 3 にいる限り、近くの他の上級ロポット官僚との連絡が可能で、そこらとも判断がっかなかった。そんなことを考えさせるぐらい、巡察 で中継してとのコンタクトが保たれるはすたったからであ官は今のところ、自分に貸与されたロポット官僚を、そこそこにう る。 まく使いこなしているらしい。の報告ではそうらしいのであ が、巡察官がそんなに遠くへしばしば行くとなれば、今の編成でる。 は不安がある。たからマセは、即座に承諾を与えたものの、こうつ 「しかし、それにしても、随分あちこちへお出掛けになるんです け加えるのを忘れなかった。 「ただ : : : そういうことになりますと、現在使って頂いているもの と、マセはいった。「私にはもちろん分りませんが : : : そうする たけでなく、もう少し増員の必要があるでしようね」 ことがお仕事に必要なんでしようね ? 」 「いや。私は構いません。私は今の三十体で満足していますよ」 マセの試みたさぐりの手は、軽くかわされた。 「そうはお 0 しや「ても、巡察官、あなたの身を守るのは、われわ「巡察官もあまり楽じゃないんですよ」 れの義務ですからね。がしかるべき措置を講じてくれるでし と、相手は返事をした。「マセ司政官、あなたはさっき、司政官 よう」 の光輪が現代では消えかけているという意味のことをおっしゃいま ()0 は、その彼の言葉を待っていたのに違いなかった。 したね。巡察官だって同じことです。いや、司政官以上に弱い立場 「お話中、お邪魔します」 にあるでしよう。司政官の担当世界を巡察する巡察官というのは、 と、の声が流れて来た。「巡察官に現在貸与されているロ いってみれば司政官を恒星とする惑星のようなものですからね。司 ポ ' ト官僚に、もう一体、を加えたいのですが : : : よろし政官の光が弱くなれば、司政官の光を反射していた巡察官もまた光 いでしようか ? 」 を失うのです。その弱さをカ・ハーするために、司政官がさまざまな を入れるというのは : : : つまりの副官を置くと手段でおのれの使命を遂行しようとするのと同様、巡察官も巡察官 いうことである。が過負荷になると同時に、が n なりに、おのれの必要性を証明しようとするわけです。それたけの の一統以外のロポットの指揮を、一時的に引受けるわけであことですよ」 る。はその役目に好適な型の、一応上級に位置するロポッ 謎のようないいカオたた と、マセは巡察官が帰ったあと、 ト官僚だった。いささか頭でつかちの気味の編成にはなるが、簡単考えた。巛 辷察官は何をもくろんでいるのだろう ? な解決法である。 そしてまた、巡 - 、察官がここへ来た真意というのは何たったのだろ 「そうしてくれ」 う、と、彼はそれも考えた。あの巡察官には、やわらかくおだやか マセは独断でいし 、それから巡察官に会釈した。「どうか : : : わだが、どうしてもっかみ切れない何かがある。その何かが、会話を れわれの厚意を受け取って下さいませんか ? 」 かわしたあといつも残るのたった。巡察官がいったのは、あれは忠 「どうも、痛み入ります」 告だったのか ? 頑張れといったのは、実は、そこ迄強引に無理を

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て使用するため、それ迄と何ひとっ様相を変えすに仕事を続けてい 力あげて困難に立ち向おうとしておられるのに敬意を表したかった こうとする型です。この場合、司政官と司政機構以外にはその世界のです。そしてその全力というのも、あなたに与えられた任務のた の誰も、緊急指揮権発動が認可されているのを知らないで : : : 知らめの全力だと、私には分っております。どうか頑張って下さい。た ずに終ることだってあるようです。別に私は、そういうやりかたが だし : : : かりにそのために身を砕くことになろうとも、なるべくあ 良いとも悪いとも考えませんが」 とで : : : 仕事を出来るたけたくさんやってからにして頂きたいもの です。ま、そんなことにはならないと信じておりますが : : : あなた 「第三の型というのは、緊急指揮権を真向からふりかざして、使命とあなたのひきいる司政機構をだいじにしてほしいんですよ」 完遂に敵対しようとするものを斬り伏せようという司政官です。こ 「お気持は、ありがたく受取らせて頂きます」 のとき、司政官はあらゆる方策を緊急指揮権を中心にして展開さ マセは答えた。 せ、たとえわが身が砕けようとも、カの背景のもとにことを進めよ 答えながら、彼は、漠然とした巡察官への予感が、やはり当って うとするのたそうです」 いたらしいのをおぼえていた。このトド《 込察官は、マセの立場やこ 巡察官は、ここでマセを正視しこ。 ナ「マセ司政官、あなたはこのれからしようとしていることを、こちらが考えていた以上に把握し タイ。フですね」 ているみたいなのだ。それは巡察官自身が、この世界の現況を見て 「そう見えますか ? 」 取り、マセのやりかたを観察し、おのれの巡察官としての知識や経 「そう見えます。それに、あなたが今迄に推し進めて来たことは、験を総合して、トドひとりで作りあげた情勢分析であったろう。そ なべて、緊急指揮権を必要条件としてなされて来たように私には思の情勢分析は、マセに対しては当り障りのない表現で大づかみにし えるんですよ。しかも : : : あなたは現に今、緊急指揮権をいつでもかいわなかった範囲でいえば、的は外れていない。外れていないど 発動出来る立場にあるのです。それにもかかわらず、あなたはまた ころか、結構鋭いというべきなのた。そして、々セに対して話され この事実を伏せていて : : : もっとも劇的なかたちでそれをこの世界ない巡察官自身の胸中にあるもっとこまかい情勢分析が、それより の人々に認めさせようとしてらっしやるようです。第三のタイ。フ以もさらに鋭いものか、案外事実と違っているのかは : : : マセにはむ 外の何ものでもありませんね。そして、それが険しい困難な方法でろん知りようがないのである。 あり、本人の一種の英雄志向がなければ到底続きはしないことも、 「ところで、きよう、こうして伺ったのは、もうひとつ、おことわ 私には分ります。だから : : : 修羅場であり地獄であると申しあげた りしておぎたいこともあったからです」 のですよ , 巡察官はいう。「というのは : ・ : 私は、二、三日後から、今迄よ りもずっと多く、遠方へ出掛けることが増えそうだからですよ。今 「いや、どうもこれは生意気なことを喋「た感じで : : : 失礼なこと迄はツラツリットを離れるにしても、せいぜいその近郊かもう少し をしました」 先のあたり迄だったんですが : : : 時としては、ツラツリ大陸を離れ ることもまれではなくなると思います。そうなれば、あなたとこう 「とにか ~ 、 : : 私としては、あなたがここの司政機構とともに、全してお話し出来る機会もずっとすくなくなるでしようから、そのご

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「巡察官自身の見込みと、巡察官の現在位置とをあわせ考慮すれ得ないような状況を作り出しておくべきであり : : : その状況とは、 ば、移動をはしめて司政庁に到着する迄、四十五分から五十五分のラクザーンの太陽新星化を公表する記者会見によってもたらされる 社会不安であり騒動なのである。だから、急を要するのた。 間を必要とすると推測します」 しかし、急ぐといっても、記者会見を予告なしに即事行うのは無 「それだけあれば充分た。よければすぐにお越し願いたいと伝えて 理である。かっては司政庁には取材のために待機している記者や映 くれ」 像レポーターのための部屋があって、いつでも記者会見が出来たの 「承知しました」 だが、現在ではその部屋は空室になったまま、誰も詰めてはいなか マセは、文書に視線を戻して、読み続けた。 った。時折、ちょっとしたニュ 1 スを発表するために使用されはす 問題はなかった。 るものの、そのときだって、かなりの余裕を持たせて予告し、十数 本文はいう迄もなく、附帯事項というのも、あらかじめこちらが 事例を調べ、ラクザーンではどうなるかをに計算させ、そののマスコミ媒体から取材にやって来るという状態になっているの ための対処策を練っていたものと、ほとんど違わなかった。マセやだ。 がやろうとしている計画に、支障を来たしそうなものはない マセはと協議して、ここしばらく慣例になっている予告か ら記者会見迄の時間を、今回はその半分にすることにした。このこ のだった。 そのことを確認すると、彼は通告のコ。ヒーをわきへ寄せ、たたとであるいは、今度の記者会見が重大なものだとの印象を与え得る ちにはじめなければならぬ作業にとりかかった。彼はに通告かも知れないし、取材に来なければ、来なかったところがほそを噛 ということで、記者会見はきようの むことになるだけなのた。 とこちらの計画との照合確認をさせ、自分の判断にあやまりがない のをたしかめると、引き続いて、記者会見の段取り決定に移った。夜の第十二ルーヌルと決まり、ロポット官僚たちが、各マスコミ媒 記者会見は可能な限り早くやる必要がある。司政官に緊急指揮権発体への通知と出欠予定の問い合せを開始した。この出欠予定が出そ 動認可の通告があったという事実を、すでにラクザーン上の連邦直ろうには多少時間がかかる。従って記者会見に司政庁内の、従来使 轄事業体は、司政官と同時に、またはそれよりも少し以前につかん用されていた部屋をも含めて、どの室を使うかという決定は、 でいるに違いないのだ。そうした組織や団体が、緊急指揮権発動の 1 が下すことになった。 それと平行して、翌日の緊急指揮権確立のための大会議の準備 宣言が出る前に自己の利益のために工作しようとすることは疑いな いのである。かれらに時間を与えてはならない。一刻も早く緊急指も、急速に進みはじめていた。会議開催はラクザーンの正午にあた 揮権確立のための会議を開かねばならす、しかもその会議に招集さる第八ルーヌル。場所はツラツリット市内で三番目の収容能力のあ こ欠席するダイスラ・ホールとした。きよう迄マセは司政庁内の大ホールを 5 れた団体の代表者、ことに巨大有力団体の代表たちが会議冫 るという事態を防ぐためには、あらかじめ、かれらが出席せざるを使うつもりで空けておいたのだが、司政庁内に顔も分らぬ大人数を

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れでいいんです」 立ち向うほうなのだ。そのランが、ああも簡単に引きさがったとい 「しかし」 うのは : ・ : ・何ゆえであろう。多分、それはランの性格のなさしむる オしつまり、ランの見極めの早さ、諦めの良さ 「いいんです」 わざなのかも分らよ、。 が、そうした言動になってあらわれたのであろう。 ランは、にこりとしてみせた。「わたし、別に腹も立てていない そうかも知れない し、失望もしていませんわ。そちらにはそちらの事情があると、そ う聞いただけでいいんです。センターはセンターで、何とかやれる 去りぎわのランのあの台詞が、彼女のどういう心理から出たもの はすですし : : : 気にしないで下さい」 であるのか、マセにはよく分らなかった。第一、本当にまた司政庁 さばさばとした口調でいうと、彼女は外へと歩きかけ、そこで、 にやって来たいのかどうかさえ、断定は出来ないのである。ただ、 ひょいと振返った。 ランの言葉はあきらかに ( そしてこれ迄にもしばしば感じたよう 「また、ここへ来てもいいでしよう ? もちろんあなたの面会許可に ) 彼女の好奇心の強さを示していた。おのれの興味を惹くものな をとりつけてだけど」 ら、あまり前後のことを考えずに近づいて行くという、そんな性向 マセがすぐには返事が出来ないうちに、ランは補足した。「わた は、割合に熱中しやすい代りに、たいてい、飽きつぼく諦めやすい し、この司政庁というのもとても面白いんです。それに : : : マセ司ということにもつながるものだ。駄目と分ればあっさりと退却する と、マセは一応の結論を 政官、あなたが人間らしく見えたり、ロポットのようになったりすわけである。そういうことなのだろう る、その変化にも興味があって : : : ごめんなさい」 出した。 それから、ランは出て行った。 すでに公務室の入口だ。 マセは、そのまま公務室に向った。は当然今のやりとりを「報告を聞こう」 聞き、面会が終了したのを知っているから、公務室に入ると同時に 彼は椅子に腰をおろすや否や、をうながした。 報告をはじめるはすである。 「報告します、 それにしても : : と、マセは、歩きながら思った。あのラン・ さっきの質問に対する指示を待ち構えていたが喋りだし O ・タルヌスは、最初から本気で交渉に来るつもりはなかったの た。「連邦経営機構から、通告がありました。通告の本文を申しあ だろうか ? 与えられた役目をただはたすため、司政官と顔を合せげます。通告第二〇二四一ーー九二五四ー一〇三号。連邦経営 ともかくも中入れてみるためにたけ、やって来たというのたろう機構は植民世界総合連営委員会の決議を経て、第八九星域第一三二 か ? そんなことはあるまい。海藻の変異についての研究は、ラン五星系第一惑星担当司政官より中請された一三二五ー一〇三ー五四 の担当なのである。マセはランが自分の仕事をなおざりにするよう一号案件の、当該世界における司政官の緊急指揮権の発動を認可す な人間ではないのを知っていた。それどころか人一倍熱意を持ってる」

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「うむ」 寄妙に平静な心境なのである。それは : : : そう、百二十ルーヌば 来たかーーーと、彼は、不思議に静かな気分のうちに思った・ トト巡察官からラクザーンの太陽の新星化公表と植民者退 2 「通告には附帯事項がつけくわえられています」 避計画に関する義務権限賦与の通告を受けたときとは、はっきりと と、「すでに本文と共に文書化し、ご指示通りコ。ヒーもことなっていた。あのときにはやはりふだんのように構えているつ 印刷しはじめておりますが、朗読には十八分を要すると思われまもりでも、気分が高揚し気負いをお・ほえていたのは否めない。それ す。朗読いたしますか ? 」 にひきかえ今は、鞘から抜いた刃物をすぐ真近に引き寄せて無言で 「いや。文書で読もう」 観察しているような趣があるのだった。おそらく、これは、準備に 「承知しました」 準備した者の、船出に際しての興奮と、その船が大洋に乗り出し て、嵐が近くに迫りつつあるのを知ったときとの差なのであろう。 r-o は応じ、一、二秒のうちにそれをデスクに吐き出した。い う迄もなく、それもまたコ。ヒーである。連絡されたテー。フとテープ「今、よろしいですか ? 」 を文書化したオリジナルは、によって司政庁の地下深くの資の声に、彼は目をあげた。 「何だ ? 」 料保存庫にしまわれたはすなのだ。 そのコビーに、マセはおもむろに目を通して行った。ここであわ「報告します」 よ、つこ。 。しナ「巡察官のトド・ 4 ・カーツが、司政官 ててはならないのだ。確実にまちがいなく : : : 予定に従ってすべて の行動をなさねばならないのである。しかし、それを自分にいい聞との会見を求めて来ました。よろしければ、これからすぐに司政庁 かせたものの、その実彼は、おのれがそんな必要もない程落着いてへ向うとのことです。会見内容は司政官の緊急指揮権発動認可に関 いるのに気がついていた。やっと待望の緊急指揮権を手中にしたとして、ということです。お会いになりますか ? 」 いうのに、そしてこのおかげで目の前の仕事のほんの一部ーーー例え トド巡察官の用向きは、大体想像がついた。この緊急指揮権発動 ばラックスだ。ラックスの大量印刷の事実が洩れてももう責任を問 認可の通告は ( を通じて : : : あるいはそれと同時に巡察官自 われることもなく、振り出していた巨額の手形も無事決済出来るで身の通信装置を通じても ) トド 廴察官にも知らされたはずである。 あろう ( 実際に自分がやっていながら、マセは、紙幣の印刷者が手この認可申請のための保証をおこなった巡察官としては、一応、司 形を振出すという、まともな経済機構ではおこり得ないこの状況政官に挨拶をしておこうというのであろう。それに、その挨拶がて が、面白くて仕様がなかった。ま、それも今となったからそんな気ら、またこの前のように、個人的な話をしようという気もあるのか がするのであるが ) という、楽になった一部の事柄を除いて、これも分らない。い すれにせよ、否む筋はなかった。 からしなければならぬ幾多の大仕事が、具体的にくつきりと姿をあ「会おう。で : : 巡察ぎは、いっ頃ここに来ることになる ? あま らわし、こちらへのしかかって来るのをひしひしと感じながら : り早いのなら、少し待って貰わなければならない」

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も、必ずしも嘘だとはいえなかったのだ。 る、しかもランのようなタイプの人間でなければ : : : 簡単には実行 「駄目ということね」 しないであろう。先住者の居住地区というものに対して、大半の人 ランは、小首を傾けた。「やつばりそうたった : : : あの人たちの人は相手が歓迎してくれているように見えても実は迷惑しているの ではなしか、と、みずからにいいきかせたり、でなければ、自分た いった通りということたわ」 ちも先住者の居住地区を模した生活を送りたいと熱望する一部の人 「あの人たち ? 」 たちが、先住者の生活や態度のすべてをお手本にしようとするのが 「先住者たち」 通例である。相手はみんないい人だから、ふらりと遊びに行くとい 「記憶してらっしやるでしょ ? 以前、センターでご紹介した人たう発想は : : : マセにはなかった。「で、どうだった ? 」 「とてもすてきでしたわ」 ち。ほら、チュン・ダ・ハダラード、 チュン・ラ・トレンザ、チュ ン・ダ・ヤスル・ハ・ いうのが、ランの返答たった。「みんな優雅で、マイベース ・ : あの三人ー ランは、意外にこだわりのない口調で説明をはじめた。「それでで : : : 歓迎してくれましたわよ」 いっか司政官機に乗せて貰ったときにお話ししたと思うけど : : : そ「 : の人たちがミルル地区から来たということや、わたしに一度ミルル 「そのとき、わたし、先住者たちに、あなたの話もしたんです。あ いましたわね ? 地区に来ないかと誘ってくれたってこと、 わたの人たち、あなたのことをよく知っているみたい。だからいろいろ し、行ったんです」 聞いたりしたんだけど : : : あの人たち、といっても、わたしが話を 「先住者の居住地区へ ? 」 したのは主に今いった三人で : : : 司政官はこれからいろいろ苦労し 「ええ、海藻調査を終えて戻り、センターに一応の報告をしたあなければならないだろう、なんて考えを聞かせてくれたわ。それ に、これはたしかチュン・ダ・ハダラードの言葉たけれど、司政官 と、七日ばかり休瑕をとって、訪ねて行ったんです」 「ほう」 は沈んでまた浮かびあがる人だ、ただ、浮かびあがったとき、周囲 「もっとも、往復に二日かかったから、 、、ルル地区で暮らしたのは前とことなっている、といういいかたもしたつけ」 「司政官に関心を持ってくれるのは有難いがね」 は、五日間に過ぎませんけど , 「なるほど」 マセは本心でいった。「が、それはどういう意味だろう」 ふとその気になって : : : それも、先住者の、どちらかといえば儀「分らない。あの人たちは、ときどきそういう喋りかたをするか 礼的な誘いに乗って、その居住地区へ赴き、そこで数日間を暮らす、ら。 あの人たちなりの一種の黙示の形式じゃないかしら , というような気軽さは : : : マセには無縁のものであった。マセなら「で ? その黙示の中に、私が科学センターの協力要請をことわる ずとも、そうそうは出来ることではない。 ランのような立場にあというのも、あったわけ ? 」

10. SFマガジン 1976年11月号

入れることには、最初からいささかのためらいがあったのも事実だんびな地方への送達も、司政庁にある高速機をいっせいに動員すれ った。しかもはじめそれを決定したときよりも、例のデモ隊や同様ば、六時間か七時間ーーー三ルースルか三ルーヌル強で持ち込めるだ 2 の人々の動きがいよいよはげしくなってきたのと、それにもうひとろう。しかも、司政庁側では、この招集状配送とともに、電話なり っ司政庁内で会議をおこなうというのが、いかにも秘密めいて人々電信なりでそれがないところでは、最寄りの駐在ロポットが命を受 の目に映るのではないかという懸念を併せ考えた結果、彼はけて知らせに赴くことで、口頭による招集通知も行っているのだ。 と謀って、出来るなら市内の、一般に公開されている建物を使用したしかにこれは、大量の組織化されたロポット官僚があってはしめ ようということに変史したのである。そしてこうすれば会議のスタて出米る作業たった。おそらくこうした通知は、招集状と口頭連絡 イルそのものも、司政庁内でするより効果的な演出が可能であるとの両方ともに、場合によっては口頭の分だけしか間に合わないかも いう利点があった。 ( このダイスラ・ホールというのが、いささか分らないが、マセの記者会見とそれが波紋を呼び起すころ迄には、 時代遅れであまりはやらないホールであることは、マセにはよく分必す先方に届いているはすだ。 っている。出来るならッラツリットのはすれにはあるが豪華な設備そんな風に届けられた招集状や連絡に対して、かなりの、という を有するラクザーン第一会館とか、ラクザーン第一会館が完成するより半分以上の団体が鼻で笑い、黙殺しようとするであろうことは と、 迄はツラツリット一番の規模を誇っていたツラツリ円形劇場といっ想像に難くなかった。司政官すれがどういうつもりだろう たところにしたかったのたが : ・ : どちらも前日に申込んで借りられ嘲笑を浮かべるかも知れない。連邦直轄事業体にあっては、少々事 るものではなかったのた。緊急指揮権によってそれらの契約を破棄情がことなる可能性はある。連邦直轄事業体の上層幹部たちは、こ させ、強引に借り受けるには、まだかんじんの緊急指揮権がラクザれが司政官の緊急指揮権確立のための会議であると見抜くだろう。 ーン上に認められていないのである。だが、ダイスラ・ホールにし招集状にしるされているこの集会の名称は、緊急事態対策会議とな っているのた。事情を知らない団体が笑っているとき、連邦直轄事 たって、四千人の客席を有する建物なのだ。文句をつけることはな いのだった ) 出席を呼びかける団体は約二千八百。その二千八百の業体は、いかにしてこの集会をポイコットするか、考えようとする かも分らない。 団体に対して、すでにロポット官僚たちは招集状を携えて、あるい だが、それも司政官の記者会見迄なのである。記者会見でのマセ は徒歩であるいは地上車や自動管制車で、さらには航空機によっ このの発表の衝撃が人々の間を突き抜け、これからどうなるのかという て、それそれの目的地へと急いでいた。何度もいったように、 世界の、ことに植民者社会の枢要部分は、大半、ツラツリ大陸の西半不安や怖れや怒りや騒ぎへと転化していくにつれて、事態を知って いる団体も知らない団体も、あすの会議に代表を送らざるを得ない 分に集中している。従って急行するつもりなら、目的地に着くのに ことを悟るであろう。太陽も新星となり自分たちの世界が消減する それ程時間はかからないのだ。二時間か三時間もあれば、主たった へというときに、その対策のための会議に、招集されているにもかか ところにはたいてい招集状が届くはすである。それよりも遠い、