プをもっていったんじゃだめだろうか シロップだって甘いじゃ ものをなさい」 ないか」 「どんな貢ぎものですか ? 」グリ 1 ン・ハ 1 グは夢中でたずねた。 「砂糖です。小人たちは砂糖が大好きでーーー・」 グリーン・ハーグは、なにかすることはないかと、あたりを歩きま 一わった。カウンターのソーダの機械をみがくことはできないし、フ グリーイハ 1 グは顔をかがやかせた。「聞いたか、エスター ランクフルトを何本か鉄板で焼いても、むだになるだけだろう。床 樽もって、ー・ー」 「小人は砂糖が大好きだが、食べることはできないのです」マイクの掃除は終わっていた。そこで彼は落ちつかない気持で腰をおろ の母親が割ってはいった。「水に溶けてしまうからしゃ。水に溶けし、我が身の難題に思いをもどした。 ない方法を考えなきゃならん。そうすれば、小人たちにも、あんた「月曜日には、何がおころうとー心に決めた。「おれは湖に行く。 明日行くつもりはない。雨が降るんじゃあ、風邪を引くだけだ」 が本当に悔いあらためているということがわかるわけです」 やっと、エスターがかえってきたが、奇妙なほほえみを浮かべて 「あ、は ! 」と、グリーン・ハーグは声をあげた。「なにか落とし穴 いた。とてもやさしく、態度はていねいで、考えこんでいる。それ があるとは思っていた ! 」 みだれた心で、彼がその問題にすべての角度から検討をくわえてはありがたかった。だが、その晩と日曜日一日とで、彼女の幸福感 の理由に納得がいった。 いるあいだじゅう、他の人々は同情に満ちた沈黙で見まもってい 町じゅうほかはどこでも雨が降っているのに、 「この場所を この店だけは奇跡 た。それから、マイクの母親が畏敬の口調で言った。 見たとたんに、マイクの言ったことがうそじゃないとわかった。生のように晴れあがっている、とエスターは言いだしたのだった。そ そこらじゅう、雨が洪こで、頭痛のためにからだじゅうが大きく動悸を打っているにもか まれてからこんな景色は見たことがない 水みたいに降っているというのに、ここの周りだけは、大きな円のかわらず、グリーイ ( ーグは、奇跡を見、暖かさを楽しもうとあっ まってくる群集を満足させるために、一人で六人前の仕事をしなけ かたちに乾ききっているなんて ! 」 ればならなかった。 グリーン・ハーグはそのことばをほとんど耳にもとめなかったが、 グリーン・ハーグ マイクはうなずき、エスターは妙にその現象に心を引かれたようだ どれだけ売りあげがあったのかはわからない。 った。彼が打つ手のないことをみとめて、さまよう思考から気をと は、そんな個人的なことを人に言わないことを習慣にしているから りなおしたとき、店のなかにはたれもおらず、エスターが数時間でだ。だが、一九二九年のときでさえ、一回の週末でこれほどもうけ たことはないというのは絶対確実だった。 かけてくると言っていたのを・ほんやりと思いだした。 「いったい、。 とうすればいいんだ ? 」っぷゃいた。「砂糖を溶けな ビールを一杯注ぎ、思いにしずみながら 月曜の朝ひしように早く、妻の眠りをさまたげまいと、彼は静か いようにするなんて に服を着がえていた。だが、エスターは、顔をあげてびじをつき、 口をつけた。「じつにやっかいなものをほしがる。ふつうのシロッ ー 08
グリーン・ハーグは無理に笑いを浮かべたが、猜疑心にいらだって 「夏のあいだの週末はたいてい雨にする」と小人はみとめた。「水 いるような笑いかただった。 消費のうち九二パーセントが平日に集中している。当然ながら、そ 9 「わたしの主要な仕事は」小人はあきらめた様子で、話をつづけの水を補充しなければならないのた。論理的に、もちろん週末が降 た。「東部の海岸地帯の降雨を調節することだ。調査委員会が、大雨のときになる」 陸の気象学的中心に科学的に置かれていて、大陸中の降雨需要を平「だからといって、この泥棒野郎め ! 」グリーン・ ( ーグはヒステリ 等に調整している。東部のある場所で必要とされる雨量がそこで決 1 気味にさけんだ。「この人殺し ! お前の降らす雨のために、お 定されると、わたしがその量の雨を降らせるのだ。さあ、帽子をかれの商売がどうなるか、わかっているのか。雨がなくたってたいし えしていただけますか」 たこともないまあまあの仕事なのに、洪水まで起こしやがって ! 」 グリーイ ( ーグは下品にわらった。「最初の嘘は、とてつもなく「申しわけないとは思う」グリーン・ ( ーグの論理の矛盾をつこうと 大きなものだったーー魚に餌を食わないように言う話のことだが。 はせす、小人は答えた。「わたしたちは、人間の利益をはかって雨 お前が雨を降らせるというのは、まるでおれがアメリカ合衆国の大を降らすのではない。魚をまもるために存在しているのだ。 統領だって言うのとおなじことだ、冗談冫 こ身をかがめて会釈した。 さあ、帽子をかえしてください。思わぬ時間つぶしをしてしまっ 「証拠は見せられるのか」 た。今度の週末に必要な大豪雨の準備をしなければならないという 「どうしてもと言うなら、簡単なこと」小人は勘忍袋の緒を切らのに」 せ、グリーン・ハーグから見て横手の、抜けるように青く晴れあがっ 足もとの不安定なポートのなかで、グリーンバーグはとびあがっ た、空の小さな一部分に向かって顔をあげた。「空のあの部分を見こ。 ナ「この週末に雨を降らすってーーー大もうけしてッキを呼びこも ているんだ」 うという、この大事なときに ? 商売の邪魔をしようというのな グリーン・ ( ーグは、調子を合わせて空を見あげた。たった今までら、面倒なことになるそ。お前も、お前の魚たちも、ゆっくりと苦 晴れていた空のそこに小さな黒い雲が急速にあらわれてきたときもしみながら死んでしまえ」 まだ、にやにや笑いをくすしはしなかった。偶然の一致ということ 怒りくるった彼は、緑色の帽子をいくつかに引きちぎり、小人に もある。だがそれから、直径二十フィート の円のなかだけに、まぎ向かって投げつけた。 れもない雨がはげしく降りだすと、あざけりの笑いは引っこみ、不「そんなことをしてしまって、心から残念に思う」小人は静かな声 愉快な気分になった。 音でそう言ったが、巨大な耳で水を打っ音には、心の怒りをしめす 彼は憎しみをこめて小人をにらみつけていたが、ついに納得がい ような調子の乱れはまったくなかった。「わたしたち妖精の小人族 った。「では、週末ごとに雨を降らせる憎たらしい根性曲がりがおは、度をうしなうような神経をもちあわせていない。だが、とき 前だったんだな ! 」 に、あなたがたの一部の人々に教訓をあたえて威厳をたもっため
汽車のなかで、計画をたてようとした。だが、彼らの直面してい 「それでどうするんだ」グリーン・ハーグはいらだって言った。「あ 冫。し力ないんだ ! 」 るのは、今までに経験したことのない事態だったから、結論などはきらめるわけこま、 出なかった。むつつりとして湖へと歩いたが、やってみて効果のな湖をまわってとぼと・ほと、なげやりにさけびながらもどった。ポ いやり方はやめにするという、場当たりの方法で行くしかないとい ト小屋にもどると、グリーン・ハーグは敗北をみとめないわけにい うことを、じゅうぶんに認識していた。 かなかった。 : ホト小屋の主人が険悪な態度で二人に向かって来 「ポートはどうする」マイクが思いださせた。 「おれが来ると、水に浮いてはいない。漕げないわけだ」 「あんたら二人のきちがいは、なんでさっさとかえってしまわない 「さて、ではどうすればいいんだー んた」ほえるような声だった。「大声でさけんで魚をおびえさせる グリーイハーグは、唇をかみ、美しく青い湖をみつめた。すぐそなんて、どういうつもりなんだ。みんな怒ってしまってーーー」 「もうさけんだりはしない」グリーン・ハ 1 グは言った。「なんの役 こに、小人は住んでいるのである。「茂みを分けて岸沿いに歩き、 力いつばいさけんでみよう。おれは逆回りに行く。向こうですれちにもたたないのだから」 ビ 1 ルを買いもとめ、マイクが、衝動的に、ポートを借りると、 がって、またポート小屋で会おう。もし小人が出てきたら、大声で 知らせてほしい」 相手はおどろくほどの早さで冷静をとりもどし、餌を出すためにた 「わかった」マイクは言ったが、確信があるという様子ではなかっちさった。 「ポートなんて借りて、どうするつもりだ」グリーン・ハーグがたず ねた。「おれはポートに乗れないのに」 湖はひじように大きく、二人はゆっくりとその周囲をまわって、 ときどき足もとをさだめては力いつばいの声でさけんだ。だが二時「あんたは乗ることはない。歩くんだ」 「また、岸辺づたいにかい ! 」叫び声をあげた。 間後、湖の直径をへだてて二人が向かいあったときにもまだ、グリ ーン・ハーグはマイクのしやがれ声を聞いた。「お 「いいや。さて、グリーイハーグさん。これだけの水をとおして ーい、小人よ】っ は、小人にこちらの声はとどいてないにちがいない。小人というの はそんなに無情なものではないのだから。声が聞こえて、あんたの ! 」グリーン・ハーグもさけんだ。「小人よ、出てこー 後悔していることがわかれば、すぐにものろいを解いてくれるだろ う」 一時間後、二人は出あった。疲れきり、絶望し、のどは焼けつく 「そうかもしれない」確信はできなかった。「それで、どうしよう ようだった。静かな湖面をみだすのは、漁師たちだけだった。 っていうんだ」 「くそくらえ」マイクが言った。「こんなことをしていてもらちが あかない。ポート 、屋にもどろう」 「思うに、なんらかのカであんたは水を押しやるが、同じだけのカ
グリーン・ハーグは静かにすわっていた。希望のうねりさえ、おしイ ( ーグはいそいで説明した。「小人の帽子をこまかく引きさいて よせてきた。だが、一瞬とも思えた時間ののち、近づいてくるサイしま「た。そこで水に手を触れることができなくされた。飲むこと レンの音をぼんやりと耳にした。そしてそのつぎには、医者と二人もできないし、あるいはーー」 の助手が上からおおいかぶさり、彼につかみかかって袋に押しこめ医者がうなずいてみせた。「そういうわけです。完全にくるって いる」 ようとしていた。 「だまって」しばらくのあいだ、マイクは考え深そうにグリーン・ハ もちろん、彼は抵抗した。恐怖のあまり、こぶしでめちゃくちゃ ーグをみつめていた。それから、「あなたがた科学者は、だれもテ に打った。「わたしをどうしようっていうんだ」悲鳴をあげた。 「そんなものはずしてくれ ! 」 ストしてみようとは思わなかったんですか。さあ、グリーン・ハーグ 「気を楽にもちなさい」医者がなだめた。「万事うまくいくのだかさん」紙コップに水を注ぎ、さしだした。 グリーン・ ら ーグは身をうごかし、受けとろうとした。水はコップ その屈辱的な場面で、法により救急車に添乗してきた警官があらの反対側の縁にかたよった。彼がコップを手にとると、水は宙へと とびだした。 われた。「何がおこったんだ」 「そんなところに立っていないで」医者の助手がさけんだ。「この「気がくるっているんですって ? 」マイクは皮肉たつぶりに言っ た。「小人や妖精などの存在をあなたたちが知らないことはわかっ 男は気がくるっているんです。拘東衣を着せるのをてつだってくだ ています。さあ、行こう、グリーン・ハーグさん」 だが、警官はまよった様子で近よった。「心配しないで、グリー いっしょに出て行き、浜へと向けて歩いた。グリーン・ハーグは最 ーグさん。わたしがいるかぎり、けがをするようなことはさせ初からの話をマイクにものがたり、個人的に不愉快なのはべつにし しナしなにごとなんた」 ても、財政的に破減してしまうたろうということを説明した。 ないカら。、つこ、、 「マイク ! 」とグリーイハーグはさけび、救い主の袖にすがりつい 「さて、医者は助けにはならない」しばらく考えて、マイクは言っ た。「妖精たちのことを、どれだけやつらが知っているというん た。「おれがきちがいだというんだー・・ーー」 「もちろん、彼は気がくるっている」医者が宣告した。「ここにやだ。それに、あんたが小人をおこらせたことをとがめるつもりもな アイルランド人だったら、うやまって応対しただろうがね。 ってきて、小人にのろいをかけられたなどと、おとぎばなしのよう ずれにしても、のどがかわいているわけだ。何も飲めないのかな」 なたわごとをならべるのだから」 「なんにもだ」グリーン・ハーグは悲しげに言った。 「どういうのろいなんですか、グリーン・ハーグさん」用心深く、マ 店についた。一目見て、客の入りが悪いことがわかったが、今よ イクはたずねた。 りもっと気分がめいるなどということはありえなかった。二人がは 「雨を降らせ魚族をつかさどる水の精と口論になったんだ」グリー
に、そういう神経をもっていたほうがいいのではないかと思うこと目を赤くしてそちらを見やり、小人の帽子の死骸の残りをほうりな がある。わたしは性悪な小人ではない。だが、お前は水と、そのなげ、ひったくるようにしてオールをにぎった。 かに住むものとをにくむというのだから、これから、水と、水のな岸へ向かおうとオールを引きよせるとーーー・当然のことながら、そ れは水に触れなかった。オールはむなしく空を切り、グリーン・ハ かに住むものとが、お前に近づくことはない」 偉大な威厳を見せてまだ腕を組んたまま、小さな水の精は巨大なグは船首に向かって引っくりかえった。 「なんてことだ ! 」歯ぎしりした。「もう厄介ごとがはじまったの 耳をはためかせ、器用に水面跳びこみをして視界から消えた。 か」舷から身を乗りたした。思ったとおり、船底は明らかに水上高 グリーン・ハーグは、広がる水の輪をみつめて、顔をしかめた。小 人の言いのこした拘東のことばにどんな意味があるのか、わからなく浮いている。 中世の人々が考えた飛行機械さながら、彼は空気をオールで漕 かった。解釈しようとも思わなかったのだ。それより、晴れあがっ た空から降ってくる異常な雨の輪を、怒りくるって横目でにらんでぎ、気もくるわんばかりの遅々たる速度で岸辺へとすすんだ。この いた。小人もやっと思いだしたのだろう、しばらくたって、雨はや屈辱的な格好を人に見られなければよいということ以外、ほとんど んだ。栓を閉めたみたいだと、グリーン・ハーグは不愉快な気持で思何も考えられなかった。 ホテルにもどりつくと、台所をこっそり抜けて浴室にはいろうと 「週末のもうけも駄目になってしまった」うなるように言った。 した。開店の前日、というより、娘のロージイに会いに男の子がた 「やっと雨を降らす議論になったなんて、もしエスターが知ったらずねてくるというその日に釣りにでかけたことをなしろうと、エス ターが待ちかまえているにちがいない。大急ぎで着がえることがで 一匹だけでも戦果をあげたいと、下手投げに釣り糸を投げた。水きたなら、妻も少しは 「かえってきたのね、このろくでなし ! 」 面をこえて糸は飛んだ。針は高く弧をえがき、落ちてきて、水面の 凍りついたように、立ちどまった。 上空数インチのところで停止した。空中に何もささえるものもない のに、しつかりと宙に浮いている。 「なんて格好をしているの ! 」甲高い声をあげた。きたないわねー 「水にしずむんだ、この野郎」ののしると、グリーン・ハーグは、馬ー魚の臭いがする ! 」 鹿げた空中浮揚をしている釣り針を引きおろそうと、竿をはげしく「一匹も釣れなかったんたそ」おずおすと言った。 前後に振った。効果はなかった。 「どっちにしても、におうわよ。お風呂にはいって、頭からっかり なさい ! 二分以内に着かえて、彼が来たらお相手するのよ。さ 絞首台にぶらさがることについて意味もないことを何かつぶやく と、あきらめてグリーン・ハーグは役立たずの釣り竿を水に向かってあ、大急ぎで ! 」 投げすてた。竿は湖上宙にさまよったが、もうおどろかなかった。 風呂場の鍵を閉めると、妻の声から逃れられてほっとした気持で 9 9
と思う。 めた。からだの内部で、何かが心臓のまわりをつつみこみ、彼はぼ で水もあんたを押しやっている。とにかく、そうだといい かんと口をあけた。 それが正しければ、あんたは水の上を歩けるはずだーそう言いなが 畏敬と喜びとに満ちたその視線を、マイクが追った。彼の目で見 ら、マイクは大きな石をひろっては、ポートの底に投げおろしてい ても、耳で水を分けておよぎ、ひじような威厳をしめして腕を組ん た。「手を借してほしい」 冫し、カ十 / ・カ どんな仕事でも、たとえ役にたたなくたって、何もしないよりはでいる小人の姿は、異様な光景たとみとめないわけこま、 た。「あなたがたは、岩を落として、こちらの仕事の邪魔をしない ましたと、グリーン・ハ 1 グは思った。マイクをてつだって、ポート 冫。かないのですか」と、小人がたずねた。 の縁がやっと水面の上に出るまで、石を積みこんだ。そこでマイクわけこよ、 グリーン・ハーグは、つばをのみこんだ。「すみません」そわそわ は乗りこみ、漕ぎたした。 して言った。「さけんたんですが、出てきてもらえなかったので 「さあ、行こう」マイクが言った。「水の上を歩いてみるんだ」 グリーイハーグはためらった。「もし歩けなかったら ? 」 小人が彼をみつめた。「ああ、あなたは罰をあたえた男じゃない 「危険なことはない。水に触れることができないのだから、おぼれ か。なぜもどってきたのですか」 るはずがない」 論理的なマイクのことばで、グリーン・ ( ーグは安心した。大胆「あなたに謝罪し、二度と侮辱することはしないとったえるために に、彼は足を踏みだした。水が足の下で鉢のかたちに急速にへこです」 み、目に見えない、強い力が水面の高さに彼をささえると、独特な「誠意をしめす証拠はありますか」静かに、小人はたずねた。 クリーン ーグは大急ぎでポケットをまさぐり、セロファン包み 達成感をお・ほえた。足もとはお・ほっかなかったが、注意さえしてい の砂糖を片手いつばいにとりたして、ふるえる手で小人に手わたし れば、早足で歩くことさえできた。 「さて、つぎは ? 」幸福な気持にまでなって、彼はたずねた。 マイクは、ポートで彼の歩く速度に合わせていた。オールを引き「ああ、じつに気がきくことだ」小人は、角砂糖の包みをむき、む さ・ほるようにロにほうりこんだ。 「この前、ロにしたのは、ずいぶ あけて、グリーン・ハーグに大きな石を手わたした。「湖じゅうにこ れをほうりこむーー底のほうをさわがせて、混乱させるんだ。そうん昔のことだ」 すれば、小人も出てくるだろう」 一瞬後、グリーイハーグは声をあげ、水面の下でもがいていた。 ど・、、たとえマイクが彼の上着をつかまえてたすけなかったにして いまや希望が出てきて、「これはあいつを起こすためーとか、 「こいつは、あののろま野郎にぶつけてやろう」などと言っているも、彼はおぼれることができるという快感を楽しんでいたにちがい と、ますます楽しくなってくるのたった。そして、石の半分も投げなかった。 おえないところで、グリ 1 ン・ハーグは石を手にしたまま、動きをと
いってくるのを目にとめると、エスターがとんできた。 かで熱望した。 「どうだったの ? 」心配そうにたずねた。 「耐えられない ! 」うめき声をあげた。「朝食がわりにビールだよ あきらめきって、グリーン・ハーグは肩をすくめた。「何も変わらんてーーープフ 1 イ ! 」 ない。医者にはきちがいあっかいされた」 「何も飲めないよりはいいでしよう」エスターが、宿命論者のよう 警官のマイクは、カウンターをみつめていた。ぎらめく瞳の奥な口ぶりで言った。 「たすけてくれ。どっちがいいのかもわからない。だが、お前、サ で、記憶が出てこようともがいているようだった。「まちがいな ・カーツのことでおこってはいないだろうね」 い」長い沈黙のあと、マイクは言った。「ビールはためしてみたの か、グリーイ ( ーグさん。子どものころ、小人や地の精など、妖精やさしく彼女はほほえんだ。「ぷう ! 持参金のことを言えば、 たちの話をたくさん母親から聞いた。母親の知識にまちがいはなすぐにもどってきますよ」 妖精はアルコールには手が出せないのだ。ためしにビールを注「わしが思ったのもそのとおりのことだ。だが、のろいについては いでみてーー・・」 どうしたものだろう」 グリーン・ハーグはすなおにカウンターのなかへと足を引きずって いそいそと、マイクが傘をたたみながらはいってきたが、年とっ 行き、樽の栓の下にグラスをもちあげた。とっ・せん、その落胆した 表情に輝きがもどった。ビールはグラスのなかで泡をたてーー・そした小柄な女性がいっしょで、母親だと紹介した。グリーン・ハーグ て逃げだしはしなかった。グリーン・ハーグが頭をのけそらせて猛然は、氷嚢とアルカリ性飲料の明白な効果を見てとって、うらやまし とのどを鳴らしているとき、マイクとエスターは笑顔を見かわしく思った。なぜなら、マイクは、前日彼と同じくらい酔っぱらって いたのである。 「マイク ! , と彼は喜びの声をあげた。「たすかった。いっ 「マイクから、あんたと小人の話は聞きました」老女は言った。 飲んでもらわなければ ! 」 「さて、わたしは妖精たちのことはよく知っているが、見たところ 「さてーー、」とマイクはカなく謝絶した。 あなたは今までに小人と会ったことのないご様子だから、小人を侮 午後遅くには、エスターは店を閉め、夫とマイクをホテルまでお辱したことについては責めますまい。けれど、のろいから解きはな くっていかなければならなかった。 たれたいと思っているのでしよう。侮いあらためているのですか 翌日は土曜日で、豪雨だった。グリーン・ ( 1 グは二日酔いになやね」 グリーン・ ( ーグは身震いした。「朝食にビールですよ ! 聞くま まされたが、それはのどがかわくたびにビールで渇きをなだめなけ でもないです」 ればならないために、ますますひどくなっていくのだった。彼は、 禁じられた氷嚢と、アルカリ性の飲みもののことを思い、苦悶のな 「では、すぐに湖に行って、小人に後悔しているという証拠に貢ぎ ー 07
TROUBLE WITH WATER ′ト人の棲む湖 H ・し・ゴー ) レド 訳 = 谷口高夫画 = 金森 〈そまじめな顔で腕を組み 巨大な耳を使って泳ぐその小人は この湖に棲む水の精だと名のった・・・ 94
あやふやな口調で言った。 にのろいを解いてもらうことに成功すれば、大金をつかむ機会を逸 ーマン」やわらかな声だった。「本当に行かなければならない するのだということを考えさせられた。 ずっとゆっくりと、彼は服を着おえた。あるところまでは、エス 当惑して、ふりむいた。「どういう意味た、それはーーー行かなけターが正しい。水のない生活に自分が耐えることさえできるのなら ればならないかって ? 」 「ええ , ーー」ためらった。そして、「夏が終わるまで待てないかし「だめだ ! 」歯をくいしばって決断した。「今ですら、友人たちに ーマン、あなた」 避けられているんだ。おれみたいに立派な男が、いつも酔っぱらっ おどろいて一歩よろめき、顔を恐怖にゆがめた。「いったいなんて、風呂にもはいらないなんて、正しいことしゃない。だから、大 だって、おれの女房がそんなことを考えたすんだ」とわめいた。金もうけは我慢しよう。金がすべてというわけではないんたーー」 そして、大いなる決断のもと、彼は湖へと向かった。 「水のかわりにビールを飲まなきゃならない。なんで耐えられる ? おれがビ 1 ルを好きだとでも思ってるのか。からだをあらうことも だがその晩、警察からの帰宅のとちゅう、マイクが寄り道して店 できない。今でさえ、人はおれのそばには近づきたがらないのに、 夏の終わりにはどうなると思うんだ。ひげは硬すぎて電気かみそりに寄ると、グリーン・ハーグは椅子にすわり、頭を両手にうずめて、 じゃ歯がたたないから、浮浪者みたいな格好でうろっくことになる苦しげに身を揺らしていた。 グリーン 「どうしたんですか、グリーイハーグさん」やさしい口調でたずね し、それに、し 、つも酔っぱらっていなければならない ーグ一族で最初のアル中だ。おれは、人から尊敬されてーー」 ーマン、あなた」ため息をついた。「でも、 グリーン 「わかっているわ、ハ ーグは顔をあげた。目をしばたいた。「ああ、マイ ロージイのことを考えたのよ この週末みたいな商売は、一度もク、あんたか」・ほんやりとした声で言った。それから視線をはっき やったことがない。もし毎週土曜と日曜が雨で、うちだけが晴れるりとさせ、意識をとりもどして立ちあがり、マイクをカウンターへ のなら、大金持ちになれるわ」 とつれていった。だまったまま、二人でビールを飲んだ。「今日、 「エスター ! 」 1 マンはショックを受けてさけんだ。「おれの健湖へ行ってきたんだ」うつろに言った。「湖のまわりを、きちがい 康はどうでもいい っていうのか」 みたいにわめきながらまわった。小人は、一度も水から顔を出しは 「もちろん、大切よ。ただわたしが思ったのは、あなたがそれに耐しなかった」 「そうだ」マイクが悲しげにうなずいた。「小人たちは、いつもい えられてーーー」 帽子とネクタイと上着をつかみ、ドアをカまかせに閉めた。だそがしがっているんだ」 グリーイ ( ーグは、哀願するように、両手をさしのべた。「で が、ドアの外で彼は逡巡した。妻の泣きわめく声が耳につき、小人 99
きねおらまびいどろえばなし 綺幻燈玻璃繪噺今日泊亜蘭 ファレルとリラピーター・・ビーグル 機器怪快横田順彌 小人の棲む湖 乙ーンゲイト山尾悠子 ナッワルスカート・クラーク 烏たちのハラード万里村ゆき子 ーネット・スワン 忍びよる樹トマス・ " 画Ⅱ深井国