・ジャクスンの店にやって来たその男は、右足に左の 「うかがいましよう」ホーマーは言い、椅子をすすめた。 靴、左足に右の靴をはいていた。 客は注意深いしぐさで腰を降ろしたが、まっすぐに背筋を伸ばし 9 ホーマーは、それにはとてもおどろいた。 たすわりかただった。 背が高く、まのぬけた様子の男だったが、衣服はいきに着こなし「オスカー・ステ 「ソーンダーズ地 ィーンと申します」と言った。 ていたーー , 靴以外は。いや、靴についても気にすることはない。た域というところに住宅街を造成しています。〈幸ノ台〉と名づけま だそうはいているというだけのことだ。 した」 ホーマーはうなすいた。「その場所は知っています。湖沿岸で ・ジャクスンさんをおたずねしたいのですがーホーマー は、最後にのこった優良地です。あれを手に入れられたとはうらや にはまるでなじみのない、ていねいなことばづかいたった ましい」 「あたしのことで」ホーマーは答えた。 「ありがとうございます、ジャクスンさん。すてきな土地だと思っ 椅子にすわって、やや居心地悪くもじもじした。これが、またギ しいと思った。 ています」 ・ウイルスンの悪ふざけでなければ、 「どうなさるつもりですか」 ギャビーは、建物の並びに店をひらいており、ホーマーをおおい 「完成させたところなのです。だが、これからがいちばん重要な仕 になやますのが大好きなのだ。ギャビーが冗談をしかけようとする ときには、大がかりにこしらえあげる。どんなこまかいことも手を事た。住人をつくらなければなりません」 「ええ」とホーマーは言った。「最近では、それがあまり容易じゃ 抜かない。そして、ギャビーの冗談は、とても手荒いことがある。 たがその客はひじようにまじめそうで、不安げな様子さえ感しらない。景気は良くないし、利息も高いのに、政府は頼りにならす、 れた。 そのうえ ・ジャクスンさんですね」 「郊外の不動産仲介をしているホーマー 「この仕事をあっかう気持ちがあるかどうか、うかがいに来たので なおも言った。 「そうです」ホーマーが答えた。 ホーマーは、一瞬息を止めたが、すぐにもちなおした。 「湖岸の不動産と田園部の土地を専門にとりあっかっておられるそれは、どんなものだろう。そういう住宅の販売は、むずかしい仕 事でしよう。あなたがたは立派な建物をつくったにちがいないし、 「あたしのことです」居心地悪くなりはじめた。この客は、些細なそうだとすれば価格もはねあがる。地所の周りに張りめぐらした石 ひとつのことにこたわっており、ホーマーにはその裏にギャビーの塀や、すてきな入口の門だのを見れば、高級住宅街をつくられたに ちがいない。あそこに関係者以外立入禁止の住宅街を建設したわけ 手がうごいているのが感じられた。 です。かぎられた顧客層しか、興味をしめさないだろう」 「あなたとお話をしたい。ちょっとした仕事があるのです」
まだ入居していない何 空家なのも、何軒かはあるかもしれない 切ればいいですか」 ほとんどはもう引っこしてきている。生活しはじめ 軒かは。だが、 六週間ののち、ホーマーはショッ。ヒング・センターの事務所に立ているはすです」 ちょった。ステ 「わたしには、そうは見えない」 ィーンは腰かけて、両足を机の上に投けだしてい 「では、あの人たちはどうなってしまったんだ。みんなどこにー た。先日の茶色の靴ではなく、黒い靴たった。いまたに左右は逆に はいていた。 「どんなぐあいかね、ジャクスンさん」気安い口調ではなしかけて「ジャクスンさん ! 」 ホーマーは椅子にすわった。「契約しおえた。五十軒全部成約し「あんたはわたしを信用しなかった。最初からのことだ。なぜだか ました」 わからない。取りひきが奇妙だと思ったのだ。おっかなびつくりだ 「それはけっこう」ステ ィーンはひきだしに手を伸ばし、小さな帳った。たがわたしは裏切らなかった。わたしが公平たったことはみ 簿を取りだして机ごしにホーマーにほうった。「さあ、あんたの取とめるでしよう」 「たしかにそのとおりです」 り分だ」 ホーマーは預金通帳をなでた。 ホーマーはそれを手に取った。銀行の預金通帳たった。ひらく「ジャクスンさん、わたしは、自分が何をしているのか、わきまえ と、四千五百ドル人金の数字が列になってページを埋めているのがている。だれかにだまされるつもりもない。計算のうえにたった見 目こは、つこ 0 地から行動しているのだ。たまって協力してくれたらどうかね。あ なたのような人間を必要としているんだ」 「造幣局みたいな身分じゃないか」ステ ィーンが一一一口った。 「もう五十軒もあればと思います」ホーマーは答えた。「それと「あの住宅街を全部、二重貸しするっていうんですか ! 」不安に駆 も、二百軒でもいいが。すごい人気になってしまった。一週間で借られて、ホーマーはたすねた。 ィーンが言った。「それからもう一度。さらに り手を全部みつけられるだろう。空家待ちのリストが腕より長くな「二度貸す」とステ っているんです」 また一度。のそむだけ契約を取るのた。借り手をみつけつづける。 だれも気にする者はいないはすたから」 「では、なぜこのまま契約を取りつづけないのかね」 「だが、その人たちが気にするでしようーーその住宅を借りた人た しかないです」 「二重貸しするわけには、 ィーンが言った。「あの住宅にはたれも住ちが」ホーマーが指摘した。 「それはおかしい」ステ 7 「ジャクスンさん、わたしにまかせておきなさい。隔離の問題はあ 0 んでいない。みんな空家でたっているしゃないか」 なたがなやむにはおよばない。あなたは、賃貸契約だけを担当すれ 「いや、そんなはすよよ、 ( オし ! 」ホ 1 マーは異議をとなえた。「まだ ンさこ 0
「ジャクスンさん」とステ ートです、ジャクスンさん」 ィーンが言った。「新方式を考えている「十四フィ ートだ。それが本物の石でできている。 のです。売る必要はない。賃貸にするのです」 「けっこう、では十四フィ 「貸し家にするというわけですか」 知っているんですーー積んでいるときに見たのだから。今どき、本 「いや、長期の賃貸です」 物の石塀をつくるやつはいない。石の化粧張りを張りつけるだけ 「たが、けつきよく問題は同じところに落ちつく。よほど高額の家だ。あなたがたがあの塀をつくるのに石を積みあげたやり方ときた 賃をつけなければならないでしよう」 「五千ドルです」 「ジャクスンさん、聞いてください。自分たちのやっていることは 「五千ドルというのはたいへんな金額た。すくなくとも、ここらあわかっているのだから。このショッビング・センターでは、落花生 たりでは。年五千ドルといえば、月にして四百ドル以上だしーー」からキャデラックにいたるまで、なんでも売ります。だが、それに 「年間ではありません」ステ イ 1 ンが訂正した。「九十九年でではお客が必要だ。そこで、お客のために住宅をつくったのです。や や裕福な、よく安定した人口の住民を形成することが望みなのだ」 いらたたしげなおももちで立ちあがり、ホーマーは店のなかをあ 「何年ですって ? 」 「九十九年です。九十九年間に五千ドルの家賃で賃貸するのです」ちこちと歩きまわった。 ィーンさん、その住宅街の住民だけをあてにしていた 「だが、ステ 「だが、そんな、そんなことはできるはずがないー いや、まるで ら、ショッ。ヒング・センターの商売はとうてい成りたたないでしょ きちがい沙汰た ! 税金の支払いたけでもーー」 「住宅ではあまりもうけす、ショッ。ヒング・センターで商売をするう。たとえば、住宅は何軒あるのですか」 つもりなのです」 「五十軒です」 「あのなかに、ショッビング・センターもっくったというわけです「五十家族では、ショッ。ヒング・センターにとっては・ハケツに水一 か」 滴にしかすぎない。たとえその五十家族の全員が買いものをすべて 「ジャクスンさあなたのところでするにしてもーー、・それもあてにはならないのだが スティーンは、ほほえみに似た表情を浮かべた。 しかしそうなったにせよ、またぜん・せん足りない。そのうえ、 ん、わたしたちは地所を確保し、よそ者がうろついて私生活をのそ 外の客と商売するつもりはないわけだーー、塀のなかに入れるつもり かれないように、塀をめぐらしました」 はないのだから」 「ええ、知っています」とホーマーは言った。「そういうふうには からったのは気がきいている。 しい宣伝になる。人々の興味をそそ 歩きまわるのをやめて、椅子にもどった。 りますから。公開するときには、大騒ぎになるでしよう。たが、あ「いや、そんなことに頭をなやませる必要はないんた」とスティ の十二フィ ートの高さの塀というのはーーー」 ンに言った。「あたしのかかわりあうことではないのだから。けっ 円 7
「そんなに興奮しなくてもいいでしよう」スナイダーが言った。 「スナイダー」と彼は言った。「あんたはこの店で大騒ぎしてい 「はなしあえば いいことなのだから」 る。あんたは仕事をちゃんとやったーー・あたしに警告したんだか 「あんたがやって来て、脅迫しみたことを言っているんた」とホ】 ら。さあ、出ていってくれ」 マーが言いかえした。「はなしあうことなんてなにもない。あたし そこまで言うつもりがあったわけではなく、彼は自分の言ったこをやつつけるつもりだって言ったんたから、さっさとそうしたらい とばにおどろいていた。だがいまやロにしてしまったあとでは、と いじゃないか」 りけすすべもなく、それに、自分のことばによって生まれた力強さ スナイダーは荒々しい動作で立ちあがった。「ジャクスン、あと 0 と独立感は悪いものでもなかった。 で後悔するそ」
ん、各戸を百回賃貸したときには、あなたは二千五百万ドルという この六週間で何人のお尋ね者をかくまいましたか」 金を手にしていることになるが、二、三年間の稼ぎとしては悪い金「ひとりも . ホーマーは答えた。 ィーンは、腕を大きくひろげた。「それな 額ではないでしよう」 「わたしもです」ステ 「とにかく」とステ ィーンはつづけた。「あなたがどう思っていたら、おそれることは何もないわけだ。悪いことはしていないのたか にせよ、わたしはだましたりはしない。正直なところをつたえたしら。少なくとも」と言いなおした。「彼らが証明できることは、何 ゃないか。家の賃貸であがる利益はいらない、 ショッピング・センも」 ターの売りあげだけでいいと言ったのだから」 現金と小切手を取りあげて、ホーマーにわたした。 ホーマーは心をうごかされていないふりをしようとした。小切手「さあ」と彼は言った。「銀行に持っていきたまえ。あなたの金な と、棒に巻いた紙幣とを、まだポケットから出しつづけた。スティ のだから」 ーンは小切手に手を伸ばし、裏書きしはしめた。紙幣はきちんとそ ホーマーは金と小切手とを受けとり、何も悪いことはしていない ろえた。 ィーンのことばを考えながら、立ちつくした。たぶん、 というステ ィーンの言うとおりなのだろう。たぶん必要もないところでホ 、、ジャクスンさん」熱心な声だった。「あなステ 「考えなおしてほしし ーマーはおそれおののいているのだろう。 たのような人が必要なのだ。とてもよくはたらいてくれたので、行 どんな罪名で逮捕されるというのか。 かれてしまうのが惜しいんだ」 詐欺広告か。広告にうそがあったというあからさまな抗議は一件 「すっかりぶちまけてほしい」ホーマーが言った。「そうすれば、 つづけましよう。おしえるだけのことを全部ーーーすべてがどういうもなかった。 仕組みになっているのか、それがどういう意味なのか、そしてあん 自動車購入の義務づけの件だろうか。ありうることたが、車を買 たは何をたくらんでいるのかを、おしえてください」 うことを取りひきの条件にしたわけではない。ただ〈幸ノ台〉自動 自車販売から車を買ってもらえるととてもありがたいという言い方を スティーンは、警告するように、指を唇にあてた。「しつー したたけだ。 分が何を聞こうとしているのか、あなたにはわかっていない」 「面倒は何も起こらないというのですか」 原価以下で販売したことでだろうか。そんなことはあるまい。賃 「わずらわしいことは、たぶんあるでしよう。だが、本当の問題ご貸を販売と証明するだけでも、法律上かなりの論争になるたろうか ら。それに、いずれにしろ、原価以下で賃貸や販売をすることは、 とは起こらない」 「法による手配犯人を、あたしたちがかくまっていると証明された犯罪ではないのだ。 人々が姿を消した件についてはどうか。だが、その人たちとは電 ら、たいへんな罪がかぶさってくるでしよう」 スティーンが、深く吐息をついた。 「ジャクスンさん、あなたは話で連絡が取れるのだし、彼らは車で自由に門から出入りできるの 幻 7
ずっとやってきた。あと何年かは、このままでやっていけるつもり 「入会の勧誘にうかがったわけではない。きのうの新聞にお出しに なった広告の件で来たのです」 「いい広告でしよう。おかげでたくさんの取りひきが舞いこんだ」 「あれはまさに、当協会にとって不快な類の広告です。はっきり言 わせてもらえば、客寄せ以外の何物でもない」 「あなた ところでお名前はなんとおっしやる ? 「スナイダ】です」男は答えた。 「スナイダーさん、もしかしてその地域の住宅を、月四ドル十六セ ントというおどろくような値でお借りになりたいというなら、五十 2 軒のうちどれでも、よろこんでお見せしましよう。時間がおありな ら、車で案内します」 「ジャクスン、 男の唇は、わなを閉じたようにむすばれていた。 わたしの言いたいことはわかっているはずだ。この広告は詐欺その もので、それを知りながら出されている。虚偽の表示だ。我々はそ れを明らかにするつもりだ」 ホーマーは帽子を取って書類戸棚の上にほうり、椅子に腰かけ
つも鍵がかカ けとった。 「もう十何回と足をはこんた。いたためしがない。い そうでない人々も姿を見せた。〈幸 / 台〉地区に空家があるとい っているのです」 ィーンに会うのにめんどうがあったことはない。 「わたしは、ステ う噂を聞いたというのである。はい、空家はあります、と彼は答え そんなにたびたび会うわけではないですが。物件の商いにいそがし た。ほんの数軒です。そして、自動車のことをわすれないように、 つけくわえた。 いものですから」 「彼がどのようにやっているのか、おしえてもらえますか、ジャク しかし、列の最後の男は、家の賃貸をのそまなかった。 「ファウラーと言います」男は言った。「郡不動産業協会の者でスンさん」 す。助力いただけると思います」 「どのようにつて、何を ? 事務所を空けていることですか」 「いや。どうして、家一軒を五千ドルで売れるのかです」 「空家はまだあります、それがお望みなのなら」ホーマ 1 が答え 「売りはしない。賃貸するたけです」 「家はけっこう。一軒ありますから」 「その言い方は別にしてくたさい。売るのと同しことなのたから。 「下取りしますから、ここに入居なさい。住宅入居の最新型です。そして、その金額では、このへんのどこでも家を建てられるはずが ない。あの住宅の一軒ごとに、彼は二千ドルかそれ以上損をしてい まったく新しい方式なのです」 とうするにちがいないのだ」 ファウラーが頭を振った。「わたしが知りたいのはたた、。 「他人が自分の金で損しようというのならーー」 ればステ イ 1 ンに会えるのかということたけです」 「ジャクスンさん」ファウラーが言った。「問題はそんなこととは 「簡単なことで」ホーマーは言った。「〈幸ノ台〉へ行けばいし まるでちがう。これが不公正な競争だというのが、問題なのです」 そこに事務所がありますから」 俊英が描く華麗な世界 伝道の書に捧げる薔薇 ワ カ ロジャー・ゼラズニイ / 浅倉久志訳 \ 4 7 0 ネビュラ賞受賞を含む代表作十五篇を収録 ! 装角田純男 / 最新刊
電話が何回かあり、彼は問いあわせに対して、これはまっとうな 「わたしにもです。だが、人が大金をどぶに捨てたいというなら、 ものだとうけあった。しかし人々はまだ確信することをためらってな。せやめさせる必要がありますか」 「どんなからくりがあるんた、ジャク モーガンは机をたたいた。 いるのだった。 スン ? 」 うちひしがれて、彼は家路についた。 「あなたにとって意味があることかどうかわかりませんが、建築主 たった一軒の契約すら、取れなかったのた。 は靴を左右逆にはいています」 モーガンはホーマーの顔をみつめた。「あんたも気がくるってい 最初にもどってきた客は、モーガンだった。月曜の朝、ひとりで るようだ。それがなんの関係があるというんだ ? やってきた。また半信半疑たった。 「いいですか」とモーガンは言った。「わたしは建築技師た。建物「わかりません」ホーマーは言った。「役に立つかもしれないと思 って、お教えしただけのことです」 の原価はわかる。どんな仕組みになっているんた ? 」 「いや、役になど立たない」 「九十九年間の賃貸料として、あなたが現金五千ドルを支払うとい ホーマーは吐息をついた。「あたしもそれには、なやまされたん うのが、仕組みです , 「だが、それでは仕組みとは言えない。買うのと同じじゃないか。 モーガンは帽子をつまみあげると、押しつけるようにして頭にか ふつうの家たと、百年もたてばとっくに価値などなくなってしまう 「また来る」と言った。おどし文句をはくような口調たっ ぶった。 のだから」 「もうひとつ、仕組みがあります」とホーマーが言った。「契約をた。 「お待ちしています」モーガンがばたんとドアを閉めて出ていくと むすぶ前に、貸し主から自動車を一台購入していたたくとありがた き、ホーマーは言った。 いのです」 ホーマーは、コーヒーを一杯飲みにドラッグストアにでかけた。 「それは違法こ だ ! ーモーガンが叫び声をあげた。 もどってくると、二番目の客が待っていた。その男は、身をこわ 「そんなことは知りません。だれも契約を強要するわけではないの ばらせて椅子にすわり、しかつめらしく膝にのせた書類かばんを、 ですから」 「その自動車の話は、ちょっと別にしよう」モーガンが説きはじめ神経質に指でたたいていた。なにか酸つばいものでも飲みこんだよ た。「わたしが知りたいのは、貸し主があれほどのところをどうやうな表情だった。 って五千ドルばかりで造成できたのかということだ。事実の問題と「ジャクスンさん」と、彼は言った。「郡の不動産業協会を代表し して、そんなことはできるはずがないと、わたしにはわかっているて来ました」 「けっこうだ」ホーマーは言った。「そんな団体に加盟しないで、 のだから」 203
ふるえる手で、机の引きだしをあけ、〈幸ノ台〉関係をおさめた新聞をひろげると、見出しが目にとびこんできた。 書類つづりを取りだした。不器用な手つきで書類をめくり、目を通 株券詐欺で していった。 三人を手配 ールと言いましたね」 「あったようです」彼は言った。 「ジョン・・ダールです」ハンキンズが言った。 ・、こ。順にその名前を レという人見出しの下には一段の写真が三枚ならんてしナ 「三週間前、〈幸ノ台〉の家の一軒をジョン・・ダーノ レ、オーガスト、ドレーク。 読んだ。ダーノ に貸している。その男だと思いますか . 新聞をきちんと折ってわきの下に押しはさんだが、汗がしたたり 「背が高く、色黒の男だ。四十三歳。行動は神経質」 ホーマーは頭を振 0 た。「お・ほえていない。すいぶんたくさんのはじめているのだった。 ( ンキンズはけっして犯人をつかまえられないだろうと、わかっ 人が来たものですから」 た。だれにもっかまえることはできない。〈幸ノ台〉にいれば、三 「ペニー・オーガストという者の記録はあるかね」 人は安全だ。そこは、すべてのお尋ね者にとって絶好の隠れ家なの ホーマーは、もう一度さがした。「・・オーガスト。ダール だということが、わかってきた。 氏の翌日です」 家を貸した人々のなかに、あとどれだけ追われている男がいるの 「それに、たぶんドレークという名前の男も ? 自分ではハンスン だろうと、彼は思った。疑いもなく、はひじように早く行きわた ・ドレークと名乗っているかもしれない」 ったにちがいない。自動車をすでに入手した人々で一日中彼の店が ドレークの名もあった。 ( ンキンズは、まったく満足したようだった。「さて、この〈幸満員たったのも、無理はなかった。 それで、このすべてのことにはどういう意味があるのか。どうい ノ台〉へはどう行ったらいいのだろう」 う仕組みになっているのか。いったいだれが、これをつくりだした 憂鬱な気分にしずみながら、ホーマーはおしえた。 魚の包みを手にあつめて、 ( ンキンズといっしょに外へ出た。立のだろう。 ジャクスンがこんなことに巻きこ そして、な・せ彼が、ホーマー ちどまり、車で走りさる警官を見おくった。 ( ンキンズが〈幸ノ 台〉からもど「て来るときには、このあたりにいたくないと思 0 まれなければならなか 0 たのか。 た。絶対に ( ンキンズにはみつかりたくないと、ねが 0 たのだ 0 家にかえると、妻の = レインがさぐるような視線で彼をみつめ 「また頭をなやませていたのね」しかるような声だった。 店に鍵をかけ、かえる前にドラッグストアに行って新聞を買っ 「なやんでいたわけじゃな ホーマ 1 は、堂々とうそをついた。 幻 5
。ちょっとっかれているだけだ」 する深い責任感は、すばらしいものた。そう思いませんか、ジャク 「死にそうなほどにこわが 0 ている」と言えば、真実に近か「ただスンさん」 ろう。 「そうです、たしかに」何を言っていいかわからず、ホーマーは言 翌朝九時に、彼は〈幸 / 台〉〈と車で向か 0 た。ドアをはいる「お前をし・ほりあげる前には、同じことばを逆の意味で言わせてや と、ステ ィーンが来客でいそがしがっているのが目にはいった。スる」 ( ンキンズが確約した。 ティーンに話をしていた男は、机からさっと立ちあがった。 彼は、たけりくるって出ていった。 「ああ、あんたか」と男が言った。 「なんていやなやつだ」スティ ーンが、冷淡に言った。 ハンキンズだと、ホーマーにわかった。 「手を引かせてもらいます」ホーマーは言った。「小切手と現金で スティ ンが、つかれたような笑顔を見せた。「わたしたちが法ポケットがい つばいになってしまった。それを引きだしたら、すぐ の執行を邪魔していると、 ( ンキンズさんは考えておられるんた」あたしは旅行に出ます。この汚い仕事をつづける男を、あなたはみ 「思いもよりません」ホーマーは言った。「なんでそんなことを考つけられるでしよう えるのか」 「今さらそんなことを言われるなんて残念だ。それも、あなたはと ハンキンズよ、 。いかりくるわんばかりだ 0 た。「あの三人はどこてもうまくや 0 ているのに。またいくらでも金はもうかるのだが」 にいる ? やつらをどうしたんだ」 「危険すぎる」 スティーンが言った。「申しあげたとおり、ハンキンズさん、こ 「たしかに危険なように見えるだろうが、じつはそんなことはない ちらではたた住宅を賃貸するだけです。契約をむすんた相手の人ののた。 ( ンキンズのような男たちが大騒ぎをしても、じっさいに何 保証人にまではなれません」 ができるというのか。わたしたちは、まったく自由だ」 「あんたらが、かくまっているんだ ! 」 「同じ家を何度も何度も又貸ししている」 「どうしてかくまったりできますか、 ( ンキンズさん。敷地内は自「そう、そのとおり」ステ ィーンが一一一一口った。 「たが、そうしなけれ 由にたちいってくれてけっこう。納得のいくまでさがしてくださば、このショッ。 ヒング・センターでじゅうぶんに商売がなりたつの に必要なたけのお客を、いったいどうあつめれま、 。ししというのた。 「どうな 0 ているのだかは、わからない」荒々しい口調で ( ンキン五十家族ではぜんぜん商売にならないということを、あなただ 0 て ズは言った。「たが絶対に見つけだすそ。そしてそのときには、二 言「たしゃないか。そしてもちろん、そのとおりだった。だが、住 人とも弁解できるように準備していたほうがいい」 宅を十回貸し、五百の家族が入居すれば、悪くはない。各戸を百回 「ハンキンズさんの」とスティ ーンが評した。「決意と、任務に対すっ貸せば五千家族たーーーそしてそれにともな 0 て、ジャクスンさ 幻 6