フラン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年2月号
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1. SFマガジン 1977年2月号

「何が無指向性なんですか ? 」ゴ 1 ドンはきいた。たとえ相手を脅た、「中にはいったらしい。お菓子が床にちらばっていて、持って いった形跡もある。人形にチョコレートがなすりつけられている。 迫してでも何か探りだす覚悟はついていた。 これは小さな手のあとだ」 答はなかった。やがて、もうひとりの民間人ーーーフォー・フズ 以上を関連づける考えがゴードンの頭にひらめいた。「少女が町 が「とまれ ! 」といった。 車はとまった。フォしフズがおり、一軒の店に走ると、立ちどまを荒す危険があるということですか、大佐 ? 」 大佐はゴードンをにらみつけた。「きみに説明しても始まらん り、遠くを見ながら耳をすませた。そして向きを変え、何かを拾い あげた。人形だ。大佐、。フラン、ゴードンの三人が車からとびおよ、ゴードン。自分のことを心配していろ」彼は。フランに向いた。 り、フォーブズにかけよった。彼らもフォーブズと同じように足を「何か手がかりは ? 」 とめ、耳をすませた。遠くで非常ベルか鳴っている。大佐が懐中電。フラン博士は首をふった。そして、ためらいがちに、「たぶん。 いま彼女は眠っています。しかしべッドルームのように見える残存 灯をつけ、フォーブズといっしょに人形を調べた。人形のおもて側 にしみのようなものがあるのはゴードンにも見えたが、それが何か記憶がある。たた一方の壁がなくて、ちゃんとした部屋ではありま はわからなかった。ややあって、フォーブズが「チョコレートだせんな。同じような部屋がならんでいる」 「ホテルかな ? 」と、大佐。 ! 」といっこ。 目をあげると、彼らのいるのは菓子屋の前で、ドアがあきつばな「考えられないですね」と、。フラン。「壁が三つだけなんて」 「家具店というのは ? 」フォーブズが口をはさんだ。 しになっている。 」パティン大佐がいいかけた。 「あの子はどこかこの近くにいる」大佐は店にむかって歩きかけ「あの非常ベル 4 「気をつけて ! 」。フランが叫んだ。「わたしが行きますーーーあの子 のことはくわしい」だが大佐はすでに店内にはいり、フォーブズが ジルの眠りは浅かった。慣れない環境がおちつかなくさせたの あとに従っていた。 ゴードンは、考えをきめかねるように立ちつくしている。フランをだ。夢を見、寝返りをうちながらも、この長い年月ではじめて自分 、・ツドに寝ているのに気づいていた。眠りにおちたの ふりかえった。 「。フラン博士、どういうことなんですか ? 大佐ののではなしへ は、ひとえに疲労のせいだった。ジルは、ねじれた道を歩く夢を見 いった″あの子″とは何です ? 」 フォーブズ博士にきいたほうがいい」プランていた。両側には、大木と丈の高い茂みが続き、茂みからは見知ら 「いやーー , ・それは ぬけものの声が聞えてくる。ジルはこわくなった。とっぜん、まっ はしどろもどろにいった。 大佐とフォーブズが人形を持ってもどった。大佐がプランにいっ黒な夜がおりた。けものの鳴き声がますます大きく、恐ろしくなる っ一 5

2. SFマガジン 1977年2月号

気がつくとゴードンは、。フランの目を通して、荒涼とした雪の平り急がないで。赤ちゃんが寒がるわー 野を見わたしていた。 残りのものたちが、黄麻布でくるんた靴をはき、音もなく近づい 「ポーランドだ」プランの内なる声がかすかにささやいた。 てきた。彼らの吐く息が小さな雲となっては消えてゆく。みんな男 ポーランド プランの生まれた国。プランは、広大な湿地を横の服装をしている。赤ん・ほうを連れているのは、。フランの姉だけた っこ 0 切る小径を歩いていた。両側の凍った水面には、枯れた葦の茂みが 山となって続いている。足元の地面はかたく冷たかった。沼地のひ「近くに国境巡視隊がいる」。フランは一同にいった。「音をたてて ねこびた木々はすべてはだかの姿をさらしているが、執念深く夏のはいけない、話してはいけない。 ' ほくが息をするなといったら、息 ひからびた葉をつけている枝もある。幹や枝にはまた枯れた蔓草をするな」 姉は声にならない声で赤んぼうにささやきかけ、機嫌をとってい も、春を待ちうけるようにからみついている。 プランは曲りくねる小径づたい冫 こ、沼地の木々の中を進んだ。彼た。 彼らはさらに二キロ、湿地の中を進んた。やがて。フランが立ちど のとぎすまされた感覚は、油断なく周囲の気配をうかがっている。 プランの無言のささやきによって、ゴードンは、それが三十五年まり、一行をとめると、音をたてるなと合図した。 「なんてこった ! ープランはひとりつぶやいた , ・、ーー三十五年後の 前、ポーランド革命のさなかのできごとであることを知った。。フラ ンは十九歳、自分の能力にめざめたばかりた「た。他人の思考を感今、相手の意識のフィルターを通してさえ、ゴードンは驚きと恐怖 「さっきから感しなくなっていた が内にひろがるのをお・ほえた 知することはかろうじてできるが、まだ未成熟なため、あてにはな らない。彼は十二人の逃亡者を国境から連れだそうとしていた。男んだー ゆらめきまたたく未成熟な感覚が、一時的に機能をとめていたら はプランひとりだった。 とっぜん・ーーこちらにむかってくる男たちの存 三十五年後、。フランの目を通して情勢をながめ、ゴードンは納得しい。プランは 在に気づいた。引き返すにはおそすぎる・ー、・・進路を変えれば国境へ した。ポーランドからの脱出に、これ以上ふさわしい時期はな、。 寒気の中では、巡視隊の活動も鈍くなるからだ。湿地を通れば、危の道はさらに遠くなる。 「六人はそこに隠れ 険も最小限におさえられる。凍った地面には足跡も残らないし、沼「早く ! 」彼はきびしい声音でささやいた。 ろ。残りはついて来い ! 」 にはまりこむ心配もない。 グルー。フは二つに分れた。第一のグルー。フは小径を離れ、枯草の 。フランは肩越しにふりかえると、姉の耳にささやいた。 中に姿を消した。 ダ、静かにしてるんだ・せ。国境はすぐそばた。兵隊がいる」 小径を左にはいったところに、倒れた木が沼になかば埋れて見え 弟のふしぎな能力を最近知らされ、驚きのさめやらぬ姉は、彼を ふりかえると、ささやきかえした、「ヴォルフ、おねがい、あんまている。。フランのグルー。フは、木のむこうに散った。。フランは、姉 7

3. SFマガジン 1977年2月号

気力もなかった。頭も満足に回転しない。おそらくプランはそんな中にとびこんだ。ほどなく最後のレンガが地上に落ち、。フランとゴ 1 ドンは車のかげから出ると、破壊された建物をながめた。明りが 5 つもりで言ったのではないだろう。ゴードンはよろめく足で店を出 断ち切られた送電線から、火花が電 ると、司令車に近づいた。車にもたれて体を支え、店の入口を指さ少ないので、あたりは薄暗い。 柱めざしてのぼってゆく。建物の前にあった消火栓は折れ、水をふ す。二人の航空兵はけげんな顔で彼を見つめた。 「あの子を眠らせるものがほしいと。フランが言ってる」かろうじてきあげている。水音はゴードンの耳にも聞えた。 車の中にいたひとりが、うかつにもサーチライトをつけた。男は 言葉が出た。 二人の航空兵は顔を見あわせ、車を運転していた男が建物へと歩建物のあった場所にライトを向けた。一瞬ーーーだれもが息をとめ た。完全な沈黙がおりた。 きだした。だが道を半分も行かぬうちに、・フランが青ざめた顔でと サ 1 チライトのまばゆい光の中にうかびあがったのは、ひとりの びだしてきた。 少女の姿たった。少女は押し黙っている。遠すぎて、はっきりした 「逃げた ! 行ってしまった。ーーおびえている ! 」 顔たちはわからない。だが、その幼い顔が、恐怖と子供つ。ほい敵意 「どこへ行きました ? 」航空兵のひとりがたずねた。 「わたしが知るかー 問題はそれじゃない。あの子はこわがってるにゆがんでいるであろうことは、。フランには想像がついた。つかの ま少女はまばゆい光にふちどられて、彫像のように立っていた 闇をこわがっているんだ」 つぎの瞬間、サーチライトが溶解した ! 悪たいをつき、とびおり ゴードンは当惑し、首をふった。 る航空兵。内部の電球が爆発し、器具は白熱してあたりに光を投 「あの子は闇がこわいんだ」。フランの顔は汗でぐっしより濡れてい げ、融けた金属をとびちらせた。それはしだいに。ヒンクの輝きに衰 た。「何をするかわからん ! 」 。フランの言葉を裏書きするように、半プロック先の低い建物が鳴えると、光を失いーー・闇にのみこまれた。 うめき、毒づく声。焼けただれた肉のにおいがたたよい、ふたた モ 1 ションの映画を見るように、爆 動をはしめた。そしてスロー・ 発した。・ーー家の中に巨大なこぶしがあり、それが天井や周囲の壁をびゴードンは吐き気におそわれた。 「おれの腕が ! 」男のひとりがすすり泣いている。 押しひろげたかのように。木材や金属の裂ける音、それにまじって 痛めつけられたレンガの、腹の底にひびく咆哮。四つの壁はそれそ「だれか助けてくれ ! 」もうひとりの叫び。まもなく、その声はと れ外側にむかってはりさけ、隣接する建物にめりこみ、正面では通ぎれた。 りに散乱した。屋根は崩れ落ちょうとするが、落下できない。逆 ゴードンはプランと並んで立った。。フランの荒い息づかいと、と に、常軌を逸したカに押しあげられると、梁や漆喰やタイルを、下めどないつぶやきが聞えた。 航空兵のひとりがよろめきながら司令車にもどると、マイクをフ 以外のあらゆる方向にとびちらせた。 。フランとゴ 1 ドンは車のうしろに避難した。二人の航空兵は車の ックから外した。片腕が萎えたようにぶらさがっている。

4. SFマガジン 1977年2月号

にあとについて来るように合図した。彼は木のかげにおちつき、フ だ。そこに何もないことも。 リーダと赤んぼうがうしろに寄り添った。季節が夏でないのが悔ま残りの女たちも、幽霊のように葦のかげから現われ、見つめてい れた。夏ならば、葉が生い茂って隠れやすく、多少音を出しても、 かえるや虫の声にまぎれるだろうに : : 。だが、それらはないのた長いあいだ、姉は無言たった。 った。角を曲って、三人の国境警備兵が靴音高く現われた。二十メ やがて彼女はささやいた、「ヴォルフ、もう何をしても無駄よ」 ートルほど離れたところで、ひとりが咳こんだ。三人はとまった。 咳の音でプランたちはーーーさしあたりーーー救われた。フリーダの 9 腕の中で、赤ん・ほうが弱々しく泣きだしたからた。 「くそっ ! 」。フランは姉の耳にささやいた。「ぼくによこせ ! 」 。フランがいナ 「このとおりさ、ゴードン。一度あったこと 。フランは赤ん・ほうを胸もとに抱きよせた。厚地のコートにつつまは、またあるんた」 れて、泣き声はか細くなった。たが充分ではない。三人はこちらに だが、その眼差しはおだやかだった , ーーそして確信にみちてい むかって歩きだし、ふたたび大声で談笑を始めた。それもいくらか た。彼は立ちあがると、ちらりとゴードンを見やり、図書館にむか だが充分ではない。 助けになるだろう って歩きだした。 倒れた木のところまで来ると、三人の兵士は小休止をきめこんた湿地の身を切るような寒さ、赤ん・ほうのうつろな心に探りをいれ ようすでタ・ハコをすいはじめた。。フランは、男たちの動きをあやった瞬間の恐怖ーーゴードンはしびれたように立ちつくし、それらの る運命の神々を呪った。彼の心は、男たちが気づいてもおかしくな経験を心からふりはらおうとしていた。 そのときガラスの割れる音が聞えてきた。 いほど激しい憎しみを放射していた。彼は赤ん・ほうのロを片手でふ さぎ、泣き声をとめた : プランが窓ガラスを割ったのた。彼の姿は図書館の中に消えよう としている。 聞かれてはならない声だった。 ゴードンはわれに返ると、あわててあとを追った。 警備兵は酒びんをまわし飲みし、任務と天候をさんざんにののし ジルが侵入に気づいたかどうかは問題ではなかった。当然、気づ った。そして、また酒びんをまわした : いたはすた。ジルのむに緊張と恐怖が高まってゆくのを、プランは 。フランの手の下で、赤ん。ほうはもがき、息をつごうとしていた。 すぐに感しとった。どうやら面倒なことになりそうだった。 だが、まもなくおとなしくなった。 「ジルは気づいてる。あのおびえ方 男たちが去ると、。フランはまる一時間かけて小さな体に生命を吹彼はゴードンにささやいた。 きこもうとした。だが自分の意識が、赤んぼうの小さな心のあるべからすると、相当な力を使うそ , 「あの子に投射は効かないのか ? 」ゴードンはささやいた。「ぼく き場所に達しているのはわかっていたーー、最初からわかっていたの 2

5. SFマガジン 1977年2月号

の上の宙を夢中で見つめているのだ。 ジルが何をしたか、プランが思いあたったのはしばらくしてから プランは少女のうしろから音もなく歩みよると、ちょっとふざけだった。驚きのあまり、彼は棒立ちになっていた。異様な恐怖、不 6 一ー・ティルを引っぱっこ。 安の冷気が心に忍びこんでいた。 「ジリーは何をしてるんたい ? 」 彼は新しい超能力の誕生を目撃したのた。 「ほたゆ、みてゆのよ ! 」 1 のおばかさん ! それは螢じゃないよ。どこにでもいる普 通の蠅さ。螢は夜しか飛ばないんだ」 ジルは顔をしかめて観察を続けた。やがて承服しかねるように、 二人の男は、ふたたび図書館前のペンチにすわっていた。 ゴ 「はえしゃないもん。はえと、ちがいますよーっ」 ードンはべンチにもたれかかり、はすみで倒れそうになった。 プランは思わす笑った。「たって、螢は光をたすんたよ。ゅうべ 言葉もなくプランを見つめる。彼はこの男の中にいたのだ。。フラン 見ただろう、柳の木のそばで。蠅は光らないんだ。ほらね ? 」 の目を通して物を見、プランが思いだすことを思いだし、。フランの ジルがくすくすと笑った。「そんなら、ジル、ひかい、つくゆすることをした。 , 。 彼よプラン自身であったのだ。 おそろしい、すばらしい経験 「ジル、蠅は光が出せないんた。光が出せるのは螢たけさ。そうい だがプランは、ゴードンが耐えている精神的負担に気づかなかっ うふうになっているんだもの」 た。プランの目は、希望も未来も知らない男の目たった。その目が 「ジル、ひかい、つくいますよーっ ! 」少女は強情にくりかえす閉じられた。顔は石に刻みこまれたようだった。 と、またくすくすと笑った。 「またある。蠅だけでは終らなかったんた」。フランは疲れきった声 その瞬間、宙を舞っていた小さな黒い点が、とっぜん・ほっと光をでいった。「一カ月後には、ジルは重さ五ポンドの鉛の玉を融かす 放ち、落下した。また一つ。さらに、また一つ。。フランの耳に、ジようになりーーーっぎには十ポンドにあがった。その能力がどんなふ ルの笑い声が聞えた。「ほたゆ、ほたゆ ! 」 うにはたらくか、もうきみにはわかるな」 「ジル ! 何をやったんだ ? 」 ゴードンには理解できた。燃えるサーチライトのイメージと、肉 「ジル、ほたゆ、つくってゆの」少女は愉快そうに いった。「まの焼けるにおいが鮮やかによみがえった。彼はそくっと身震いし あ、きえい ! 」 た。「そのうち」と。フランよ、 日をおいた。 小さな炎の爆発が、空中でおこっていた。それらは中庭に落下す ゴードンは、。フランの思考がふたたび自分の中にすべりこむのを ると、コンクリートにぶつかる間もなく、うっすらとした灰の雲と感じた : なって消えていった。 「重いポールをとばせるかい、 どこかへ ? 」

6. SFマガジン 1977年2月号

ゴードンはためらっていたが、やがて。フランのあとを追った。彼 冫しった。「助けてくれ ! 」 「助けてくれ ! 」男は弱々しくマイクこ、 ・ハテは。フランに追いっき、肩をならべた。それから何分か、二人は通り 5 車のラウドス。ヒーカーから声が流れた。「ハティン大佐フ を埋める残骸のあいだを縫うように進んだ。煙で視界はかすんでお イン大佐ですか ? どうしました ? 」 り、目が痛んた。二人とも咳こんでいた。折れた消火栓のあたり 「大佐は死んだ。何もかもめちゃくちゃだ。来てくれないか ? は、足首までつかる水たまりになっていた。ゴードンは送電線が切 ねがいた ! 」 「そちら、だれた ? どこにいる ? どうしたんだ ? 」ラウドス。ヒれていたのを思いだし、その一本に出会わないようにと願った。水 ーカーから声がとどろいた。 から出たほうがよいと注意したかったが、。フランは断固とした足ど りで歩いてゆく。残骸からぬけだすと、ゴードンはきいた。「子供 「来てくれ ! 死んじまう ! 」男は興奮した口調で叫ぶと、マイク はどこにいる ? ・」 を落し、あえぎながらすわりこんだ。 。フランの返事はなかった。考えにひたりこんでいた。 ゴードンは途方に暮れて見つめていた。手のほどこしようもなか った。物の燃えるばちばちという音が聞え、通りの先の建物に新し 5 い火の手があがった。少女の姿はない。通りのむかい仰、別の方角 からも煙が流れてくる。ゴードンがふりかえると、プランは、意識 を失った航空兵を司令車に引きすってゆくところだった。プランは 街を歩きつづけるうち、二人は、とある低い、レンガ造りの建物 男を・ハックシートに押しこむと、ばたんとドアをしめ、フロントシの前に来た。青白いほのかな光が、建物の窓のほとんどからもれて 非常線 ートにいる男のほうに体をのりだした。「運転できるか ? いる。。フランが立ちどまったので、いっしょにゴードンも足をとめ まで行きつけるか ? 救急班がそこにいる」 た。建物の前には、水のとまった噴水があり、そこにペンチがあっ ゴードンは、車の運転席のある側にまわりかけた。「・ほくが運転た。二人はならんですわった。 しよう」 「きみが来てくれてよかったよ」プランがいった。その顔は、数分 「これで何もかもが明るみ プランがどなった。「いかん ! きみはいっしょに米るんだ」彼前とは見違えるように老けこんでいた。 に出る。発表したまえ。アメリカ中に知れわたるだろう、われわれ は車の中に体をいれ、運転席に移ろうと苦労している男にむかっ のしていることがーーーしてきたことが」彼はいいなおした。「町の て、もう一度いった、「できるか ? 」 航空兵は苦しげにつぶやいた。「腕が : : : 」 あちこちで建物が破壊されるのを、一発の遅発爆弾で説明できる か ? それに、大佐とフォー・フズ博士の死ーー二人はどうして死ん 「やってみろ ! 」プランはどなった。そしてゴードンにむかい 「今はわたしの問題だ。あの子をつかまえる。来てくれるか ? ー答だのか ? 死ぬものはまた出そうだ」。フランはつけ加えた。サーチ ライトの融けた金属でやけどした航空兵のことを思いだしたのだろ も待たす、彼は夜の中に歩きだしていた。

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にしたみたいな」 がある。それは、きやしゃな肩越しに、恐怖の色をうかべて彼を見 弓金をひき つめていた。その目がわすかに大きく見開かれた。指がー 。フランは首をふった。「ジルの心は鋼鉄の隔壁だ。それに、・ほく しぼった瞬間、体内のすべての細胞が絶叫した よりカも強い」 まだ子供だ ! 子供じゃないか ! 射ってはいかんー プランはゴードンを従えて、本が山と積まれた中央デスクのそば を通りすぎると、暗い廊下に出た。部屋を見つけるたびに、プラン銃声がとどろいた。 焼けこげた手からリポルバーが落ち、燃えながら床をすべりだし は注意深く中をのそきこんだ。やがて立ちどまり、うなすくと、一 た。カートリッジから弾丸がとびだし、続けざまに爆発がおこった つの部屋にはいった。ゴードンがあとに続いた。角に来ると、彼は ジルの気ちがいじみた抵抗が、暴発をひきおこしたのた。 プランがしたとおりに中をのそいた。書棚がいく列もならんでい それはジルにとって最後の抵抗でもあった。 る。。フランはその中央通路のつきあたりで、書棚のかげをうかがっ ゴードンは立ちつくしたま ていた。。フランはポケットからそろそろとリポルーをとりだし、 弾丸は四方八方にとびちっていたが、 ( ンマ 1 を使うように銃身の部分をにぎった。少女をなぐって失神まだった。弾丸の存在に気づいてさえいなかった。暴発の音も聞え ず、自分が危険にさらされていたことも知らなかった。 させる気なのだ。 どうでもよいことだった。 「ジル」。フランが小声で呼んだ。「ジ 。フランの体が宙でとんぼ返りを打ち、頭を天井に激突させた。材彼は呆けたように書棚にもたれかかった。はすみで書棚が揺れ、 木が折れるような音がひびいた。何かがゴードンの肩に落ちてき南北戦争関係の分厚い書物が、頭や肩に落下した。彼はそれにも気 , ノ一ーだ。ゴードンは。ほかんと見つめたのち、。フランをふづかなかった。感覚は麻痺していた。見えるのはジルだけ。感じて た。リヂレ・、 りかえった。天井にぶつかった衝撃で男の頭は割れ、脳髄と血と折いるのは、引金をひいた瞬間、彼の内におこった変化だけだった。 しつくい 人形の好きな八つの少女。ジルはまだ両脇に人形を抱えていた。 れた骨がごたまぜになっていた。その上には漆喰のかけらがこびり つき、赤と灰色の液体が床にとびちっている。一瞬のできごとだ 0 ドレスはよごれているが、はなやかな色彩をまだ失てはいない。 たので、ゴードンには事実を噛みしめる暇もなかった。天色の脳漿ジルは眠るように、狭い戸口のむきだしの床に横たわっている。さ いわい顔は視界の外にあった。 を見つめるうち、しびれたような感覚は薄れていった。彼は床に目 しばらくしてゴ 1 ドンは立ちあがり、歩きだした。 をおとし、リポルバ 1 を拾いあげた。銃は血でぬるぬるしていた。 たったひと 目をあげると、つきあたりの戸口からジルがはいでようとしている彼は図書館の外のペンチにすわり、待ちうけた り、プランと少女の死体とともに。兵士たちが包囲の輪を狭め、注 のが見えた。ジルがふりなき、二人の視線があった。 彼の心の中で何かがおこった。彼はリポ化 ( 1 をあげると、慎重意深く近づいたときも、彼はその姿勢のままだった。 に狙いを定めた。銃身のかなたに、皿のように見開かれたジルの目 7

8. SFマガジン 1977年2月号

場合があるからだよ。そういうときには、観念動力がはたらいてい づいた。ジルは両手で体をつつみこむようにしていた。夜もおそい る可能性もある。たしかなことはわからないが」 ので、空気はもう冷たい。だが、はたしのまま立ち、うっとりと何 6 かを見つめている。 「ジルをとりあげた医者は何といってる ? 」 「産科医はいなかった。着いたときには終っていた。 「ジル、こんな夜中に何をしてるんたい ? 風邪をひくよ」 ジルはプランを見やりもしない。 「ジル、さむい。これ、なあ プランはおちつかなげに身じろぎした。「ジルの能力は、そ れからの二年間におそろしく発達し、両親はとうとう娘を手離してに ? 」指さす。 しまった。そのうち・ー・ー・ほかの能力が発現しはじめた。ジルがユニ 「螢たよ、ジル。さあ、中に行こう。あたたかいべッドが待ってい ークな超能力者であることが、それでわれわれにもわかった。たとるよ」 「ほたゆ ? わあ、きえいね ! 」 ふたたび間があり、転位感覚。 幼い顔を感動に輝かせ、見つめている。たれさがる枝やジルの周 気がつくと、ゴードンの意識はまたも他人の体の中にあった 囲で、螢のむれは黄色いモザイク模様を描いていた。地平線高くの 今度は。フランの体だ。。フランは眠っている。 ・ほった満月が、柳の枝のあいだから光を投げかけている。かすかな 眠っているところを、。フランは男に揺りおこされたーー病院の看風が、ジルのナイトガウンのすそをはためかせている。 護士だ。病院 ? そう。ジルが最初に収容されたところ。 「帰ろう、ジル」プランはささやいた。 「プラン先生 ! 。フラン先生 ! 」看護士はあわてふためいている。 「ジル、ほたゆ、すきよ」 「あの子が消えました ! 」 「みんな、螢は大好きだよ、ジル。だけどもう夜だし、おやすみの プランはとびおき、・ハスロー・フに手をのばした。「またか ? 時間じゃないか。し 、つしょにおいで」 つだ ? 」 ジルはぶっと頬をふくらまし、螢に背をむけた。そして、がっか りしたようにうなだれると、プランの手に引かれるままになったー 「ここ十五分のあいたです ! 」 「どこだ ? 」 ー建物にはいり、長い廊下を通り、階段をの・ほってジルの部屋へ。 転位。 「わかりません、先生 ! 」 ロー・フをひっかけると、プランは ( ゴードンの意識を内に宿した まま ) 夏の夜の中に歩みでた。さがす場所は見当がついていた。 また別の遠い日が再現された ・ノリー」 「ジル。おーい、 」ハ声で呼ぶ。 ジルは片手をあごにあてがい、われを忘れてすわっている。暑い 日で、ジルは髪をきついポニ ガレージのわき、柳の木立ちの近くに、月光に照らされて白いか ・ティルに結んでいた。そこは台所 たちが見えた。ナイトガウンを着たジルだ。。フランはそろそろと近に通しる狭い中庭で、フロアにジャムがこ・ほされている。ジルはそ ナイコキネシス

9. SFマガジン 1977年2月号

何かあるにちがいない。あるはすだ。 爆発が五官をおそった。 ぬくもりと圧力は消えた。冷たい荒々しい光が五官を容赦なく打「ジルが生まれようとしたとは、どういうことなんだ ? 」ゴードン は小声でいった。 ちのめし、異様な感覚が脈打ち、交錯する。だが、それは外界にい 「あれが、ジルの誕生なんだーーー・超能力の誕生でもある。ジルのカ 奇妙な、それでいてどこか馴染み深い思考の流れがとっぜん絶は、生まれる前から始ま 0 ているんだよ、ゴードン。ジルは生まれ サイ「一キネシス たかった。だから生まれたんた。観念動力を使ってね . え、ゴードンは。フランを見つめていた。 ゴードンは無言だった。みすから生まれる力をそなえた胎児とい 「ジルは生まれよ 「ジルの胎児期の精神たよ」と。フランがいった う観念を、なんとか理解しようとしていたのだ。しかし、あまりに うとしたんだ」 なめらかに噛みあう歯車のように、ゴードンの中でさまざまな事も途方もなさすぎだ。 実が組みあわさ「た。。フランは投射能力者なのた。自分の思考、感「これはもちろん、ジルの記憶・ ( ンクから手に入れた。研究所に来 情、経験ばかりか、他人の思考、経験までも相手に投射できるすばてからだ」プランは続けた。「ジルの能力を正しく評価するのに、 らしい能力。。フランはこの力を知事と・ ( ティン大佐に用い、住民のこれは重要なファクターにな「た」 避難が必要なことを説いたにちがいない。官僚や軍人の心を動かす「しかし早産児は珍しくない ! 」 「そのとおり」プランは憂鬱そうにいった。「しかし早産の原因は のに、これ以上効果的な証明法はない。しかも完璧だ。それは たいてい医学的なものだ。超心理学的なものじゃない。たいていと 代理経験によってーー、信じられぬほどの短時間に教育するのだ。 言ったのは、母体にこれといった異常はないのに、早産してしまう ゴードンは、その男に新たな尊敬の念をお・ほえた。しかし、また ←思考の憶え描き金 最吉【鍋一粤十四色使用変形版価 2800 円 イラスト界のパイオニアが繊細で秀麗なイラストレイションと奔放 なイマジネイションを駆使して織りなす四十二の宇宙改造計画 ! 早川書房 3 6

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う。「あらいざらい書いてしまえ、ゴードン。そうすれ・は、神がゆ「いったいどうするつもりだ ? 」 「さあね。どうしようもなければ、薬を使って眠らせたうえで、あ つくり進めようとしている。フロセスを、たれも加速しようなんて気 とのことを考えるというのが最初の計画だったんだがーー・出てくる はおこさなくなる」 ー・カに、カ ように説得するか ? さつばりわからんよ」。フランはこ・、 。フランはため息をつき、芝生のむこうの建物を指さした。「ジル に言った。「ああいう子供をどう扱う ? 」 はあの中たと思うよ」 プランは言葉を切り、適当な言いまわしをさがしていた。やがて 「どうしてわかる ? 」 彼は続けた。 「わたしは遠感能力者だ」。フランはそっけなくいった。 「ゴードン、きみにはわからんだろうが、子供の心にはいるのは大 場ちがいの気ちがいじみた質問が、何百もゴードンの頭にうかん だ。ーー人の心を読むとは、どんな感じのものなのか ? 犬、猫、変なことなんだ。おとなの心だってひどいものだ。だが子供はそれ 魚、蜘蛛、そういった生き物の原始的な思考を読みとることができ以上た。子供の心には、ときどき手に負えないような冷たい怒りが わきあがる。それが : : : 」プランはまたロごもった。「だが、しょ るのか ? またフォーブズ博士や、、ハティン大佐のことを思いだし、 っちゅうというわけじゃない。わたしはジルがかわいくてならない 悲惨な死を迎える人間と、最後の瞬間に心が結ばれているというの んた」その声には愛情がこもっていた。彼はすこしのあいだ沈黙し は、どういう感じたろう : 「本屋にいるようにも見えるが、どうもそうは思えない」。フランが 考え深げにいった。 「ジルの心を通して見える、本の並び方からす「ゴードン、わたしには、ジルは自分の子供みたいな気がする。あ の子が二つのときから知ってるんた。歌ったり泣いたり、笑ったり ると、あの建物にまちがいない。図書館だ」 第七回星雲賞受賞 ! ・、義ーカ ロジャー・ゼラズニイ / 小尾芙佐訳 \ 2 7 0 ュ受 ヒ 装幀角田純男′ 俊鋭ゼラズニイが超未来に展開する神話世界。 9 5