一つ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年2月号
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1. SFマガジン 1977年2月号

とがめー。・ーだが、満足もそこにある。復讐 : ・・ : 人びとを憎め、人間 を : み。こ 7 「どうもありがとう」 ・いま映写機を調整、炎上の場面でとめろーー・眩しい おお、みごとだー これでやつらも思い知るそ ! やつら 「きたまえ兄弟、さっそく仕事にもどろうじゃないか ! 」 「うん、そうしようー ほんとにありがとう、陽気なス に教えてやれる、他人のものを奪いとることを : : : 一つの種族を減 ・ほすことを ! 発電機の唸り。旧式で、くさい : : : 犬が足もとに寝 ・ : なにし 「どういたしまして」 そべっている。足が痺れてきたが、犬を驚かしたくない・ 、イツろマーラのお気にいりだーーマーラのたった一つのおもちゃ、遊び ・ほろぼろの血液ポンプを両手でとりあげたとたんに、べ、イデ : マーラが前肢で大の耳の後ろを クの瞳はくもった。彼は椅子にもたれ、それをさすりつづけた。み友たち、生きた人形、四本足の : かくと、犬は大喜びだ。光がその上にあたって : : : 明るい眺め。そ るみる鼻の両脇にぼつんとうるんたものが生まれ、それが栄養のい : だから、シャツをぬいでいる。風が房の いアメ 1 ー・ノ 、のように育ち、細胞分裂をとけてから、棚に似た上唇のよ風が暖かい、とても : ついた壁掛けをゆする : : : カ場も窓ガラスもない・ ・ : 虫が映写機の 近辺を探険に、急いで旅立った。 まわりをとびまわる : 。翼手竜の影が燃える世界の上に ベネディックは一度たけ深いため息をついた。 リンクス 「どんな虫だ ? 」 「そう、わたしはそこにいる」 サンドール 「窓の外にはなにが見える ? 」 彼はまばたきし、唇をなめた。 ・ : 外には林が見えるーー・背の低い木ー・ー。すんぐりした輪郭た 「 : : : 外は夜だ。夜更け。原始的な住居。泥のような漆喰壁、わら「 : ・、ちょっと混じった : : ほかの明りは、せんぶ消えていて、機械からけ。どこからが幹なのか見分けがっかない : : : 枝葉が茂りすぎて。 外が暗すぎる。遠くに小さい月 : : : 丘の上にこんなものが : : : 」べ 出るそれたけが , ーーー」 ネディックの両手が、オペリスクのてつべんに突き刺されたかぶら リンクスーーー「機械っ・ : どん の形をなそってみせた。「距離や大きさはよくわからない : サンドール 「なんの機械 ? 」 な色かも、どんな材料かも : ・三」 「 : : : 映写機だ。壁に映像が : : : 惑星 : : : 大きい、画面いつばいに リンクス 「そこの地名が、コーゴの心の中にうかばないか ・ : 惑星のてつべん近くに火の斑点が : : : 三カ所 : : : 」 リンクス 「ブハプ第七惑星だ ! 六日前 ! 」 「海岸線の右側はこんなふう : : : 左側はこんなふう : : : 」 「この手でじかに彼をさわれたら、それがわかるだろう、なにもか ベネディックの右手の人差し指が、宙にその輪郭を描いた。 も。しかし、こんなやりかたでは印象をーーー表層思考をーーうけと サンドール 「ブハプ第七惑星た」 れるたけなんた。いまの彼は、自分がいる場所のことを考えてはい 二つを分けるのはむすかしい。良心のオし 「幸福でいて幸福でない ようや よ、 : : : 犬がごろんと寝返りをうって足もとから離れた

2. SFマガジン 1977年2月号

だが、コ 1 ゴは正式な法の手続を待ってはいなかった。士官としう。また、高い給料を稼げるだけ稼ごうというものもいるだろう。 一ての宣誓を破って、彼は警護隊の駐屯基地から脱走した いまやこの人びとは、一年に三つの惑星を渡り歩き、一つの都市をかかえ 銀河系でドリレン種族最後の生き残りとなったマーラを連れて。ほ た宇宙船団、空を行く鉱山キャンプのキャラ・ハンに乗って、それら かの五頭の ドリレンは、体内構造の性質から、科学的訊問に耐えらの世界に天降ってくる。銀河系のすみずみから集ったこの人びと、 れずに死んだのだ。残りの種族が、移住を拒否した時点で絶減のう機械の力と、向きあった親指の力を備え、ひたいに太陽不死鳥のし き目にあったことま、 ーいうまでもない。 るしをつけ、自分たちが横切ってきた虚空の冷やかさを瞳にひそめ 心臓のない男が人類に対して宣戦布告したのは、このときたったこの人びとーーー彼らは、自分たちの前に原子のドームを立ちの・ほ らせるにはどうすれば、 しいか、空のむこうの貨物船から長い鼻づら を持った渦流吸入機を呼びよせるにはどうすれば、 しいかを、よくむ 一つの惑星を根こそぎ絞りとるには、相当な経費がかかる。巨大得ている。そして、徹底的かっ能率的に、それをやってのける。し な爆破機や粉砕機や選別機や精練機を使って、まずその惑星を原初かも、そこに風格や伝統やフォークソングや笑いがないわけではな い。なぜなら、彼らはひたいに汗する労働者だからだ。彼らは時間 の混沌に近い状態にもどし、つぎにそこから必要な ( つまり、商業 的価値のある ) 資源をとりだすのだ。きみは、大昔に母なる星で行 ( すなわち金 ) を惜しんで働き、生産量 ( すなわち金 ) をふやすた われた露天掘りのことを、歴史の本で読んだろうか。あの当時に用めに働き、そして同業者をうち負かすために ( これは重要た、惑星 いられた原始的な方法も、猛烈さとその結果においては、これに似一つの開発は、むこう何カ月かにわたって売上に影響するのだか たところがある。だが、規模は段ちがいだ。 ら ) 働く。片手に炎、片手につむじ風をもったこの人びとーー彼ら 一夜のうちに、百マイルの長さのグランド・キャ = ョンができあは家族と家財道具一式といっしょに天降り、つかのまにメトロポリ スをそこにうち建て、大魔術を演じ、そして去ってゆくーー・消失の がるところを想像してほしい。地質学上の千年紀の何千回分かが、 まばたきのうちに逆行するところを想像してほしい。地球の氷河期手品が終われば、それで幕。 さて、その現場になにが起こり、どんな人びとがいるか、それが のすべてを頭におき、それをたった一つの季節に圧縮してみてほし 。その時間と効果がどれほどのものか、きみにも大ざっぱな見当きみにもっかめたところで、ここに問題が生まれる がつくはずだ。 一つの惑星を根こそぎ絞りとるには、相当な経費がかかる。 つぎに想像してもらうのは、輸入労働力。鉱業大コンビナートの誤解しないでほしいが、利益はそれに見合ってありあまるもの ために、探鉱や爆破や粉砕や選鉱をひきうける人びとだ。決して無だ。ただ、もっと利益を大きくすることも、やりようによってはで 教育ではない人びと。だが、大きな危険にすすんで体を張る人びきる : と。中には、高い給料につられて一年だけ、というものもいるだろ どうやって ? 7

3. SFマガジン 1977年2月号

ずいぶん楽た。昔のような気分になれる」 ないでください」 ールは持ちあげかけたナイトの駒を下におろし、上を見上「おれは怒ってないそ、エ、、 げ、また目を伏せた。 「艦長、いいですか、自分も焼き殺してやりたいやつはいます。法 「自分は : : どういっていいかわかりません、艦長。あなたが誘っ律違反とは関係なしに。しかし、あなたのようなやりかたはできま てくださるとは、思ってもみなかったんで : せん。自分なら、そうされても文句のいえないやつらだけをやりま 「どうしてフ いい部下がいてくれれば、おれも心強い。昔のようす。たたで」 に暴れまわろう。金はたつぶりある。気苦労はなにもない。タウ・ 「はっー ケチで三カ月の上陸休暇をとったあと、自分で自分に命令書をわた コーゴは一つきりのビショッ。フを動かした。 すんだ。そしてそれを実行するんだ ! 」 「おれの金をうけとりたくない理由はそれか ? 」 「艦長 : : : 自分はもう一度宇宙へ出たいですーー、出たくてたまりま「、 しいえ、ちがいます、艦長。まあ、幾分かそれもありますが : せん。しかしーー・せつかくですが・ : : ・」 しかし、それはほんの一部です。とにかく金をいただくわけには、 「どうしてだ、エ ミール ? なせいけない ? : 心から尊敬していた人を助けただけな 昔に帰って、たのしきませんーーー自分はただ : くやれるんだぞ」 んですから」 「過去形を使ったな」 「艦長、どういったらいいか : : : つまり、昔われわれが どこか の土地を焼きはらったときはーーその、相手は犯罪者ーーー宙賊でし「はい、艦長。しかし、自分はいまでも、あなたの受けられた仕打 た。法律を破ったやつらでしたーーーそうでしよう ? いまのあなたちはひどかったし、やつらがドリレンに対してやったことは、まち よ : ・ : 非道なことだと思っています。ただ、それだけでだれも : だれでも見さかいなしにー・・ー・殺すと聞きました。あー、法律がった : かれも憎むわけにはいかんでしよう。だれもかれもがそれをやった の違反者じゃない、なんていうか、一般市民をです。やつばり 自分にはできません」 んじゃないんですから」 レ コ これはやったとおな ーゴは答えなかった。工 「やつらはそれを是認したんだ、エ ルはナイトを進めた。 「おれはやつらが憎いんだ。工、、 じぐらいに悪い。それだけでも、おれはやつらのみんなを憎むこと ール」しばらくして、コーゴはい った。「やつらのひとり残らずが憎い。おまえは知っているか、やができる。それに人間はみんな似たりよったりだ。最近のおれは、 つらがプリルドでなにをやったかを ? 見さかいなしに焼きはらうようになった。それというのも、たれな ドリレンに対して ? 」 艦長。しかし、あれをやったのは一般市民でもないし、鉱んてことは問題じゃなくなったからた。あの罪はだれにも平等にあ 山の連中でもありません。人間みんなってわけじゃないんです。ひる。人類・せんたいが非難されてしかるべきだ」 とり残らすを目のかたきにするのはーー・・自分にはできません。怒ら「いや、それはちがいます、艦長。お言葉を返すようですが、イン 7

4. SFマガジン 1977年2月号

という鳴き声、その他百万もの虫が奏でるひそやかな哀歌、プラン 行くんだ」 はそんな音を聞いているのではなかった。そこにありえない、異質 6 ジルは位きだした。 の何かを求めて、彼は音のかなたにある静けさに全神経を集中させ ふたたびゴードンは、図書館の窓からもれる光を見つめていた。 ていた。長い時間がたった。何もない。やがて プランが話しだした。 。フランの意識は、ジルの思考を求めてのびひろがった。当然そこ 「死がどんなものか、ジルに説明しようとした。もちろん、無駄た には、眠る子供の思い ーー・・非現実的な夢、不活発な意識の流れがあ った。子供に死は理解できない。子供の心は未完成た。理解するに は、その前に学習しなければならない。経験をたくわえる必要があるものと思っていた。それらは見つからなかった。一つの場面から 別の場面へ何の脈絡もなく移り変る、とっぴで不明瞭な夢の思考は る。死と出会うのは、それがはじめてだった。蠅を燃やしたときに よ、。。フランよべッド の両方のふちをつかんだ。こぶしが白くなる は、死の観念はないんだから。自分が子猫を殺したことも気づいてオし いない。今夜、フォーブズやバティンを殺したことも、本人は知らまで、にぎりしめていた。悲鳴をあげまいとするだけで精一杯だっ ないだろう。自分が知っている唯一の防衛手段を使ったというだけた。 伝わってきたのは、水品のように澄みきった、堅固なジルの思考 ートよ世界に住んでいる。 だからね、ゴードン。子供は、プライベオ その一部は幻想た。おもちやを失くしたといった些細なことが、子だった。眠ってはいなかったのた。 供にとっては重大事た。死や生や誕生は、べつに大した意味もな光と闇のめくるめく交錯があった。ひらめき、変り、すさましい 。人形がこわれたと知ると、子供は火のついたように泣きたす。勢いで視界を流れてゆく。おそろしい感覚たが、つかのまプランに はその正体がっかめなかった。しかし心臓の鼓動をとめ、筋肉を凍 だが、犬が死んたといっても、けげんな顔でこちらを見るたけだ。 いうまでもないだろうが、この話はまだ終らない。あと一つ見せりつかせるには充分たった。死にものぐるいでジルの心から離れよ うとするーーだが彼は完全に呪縛されていた。 たいものがある」 ふたたびゴードンは、異質の思考が自分の心に重なるのを感じ光と闇の気ちがいしみた混乱が、不意におさまった。すべてが停 のふちか 止したーーーその場にびたりととどまった。。フランはべッド 。フランは一瞬らようやく手を離した。ふらふらしながら部屋の床にすべりおりる 今そこにあるのは、さしせまった強烈な危機感ー トの中でとっさに身をおこすと、五官をとぎすまと、背中に感じる床の堅さをこころゆくまで味わった。ジルの心か にめざめ、べッ ら逃れようとする気持もなくなっていた。光と闇が何を意味してい し、つぎにとるべき行動にそなえた。 部屋は静まりかえっているー・・ー異様な静けさたった。なぜなら外るかに気づいたのは、そのときたった。彼自身も、子供時代に経験 には、いつもと変りない夜の音があるからだ。遠く、近く、こおろしたことがあるのだ。それは、生まれながらに彼の中にあり、いま だに克服できないでいる恐怖の一つだった。 ぎが羽根をすりあわせるリーリーという音、あまがえるのゲッゲッ

5. SFマガジン 1977年2月号

「みんなを死なせてまでしてジルを救うことはできん」。フランはくあわてた。たがすぐに、自分がプランの思考を受けと「ているこ りかえした。「方法が一つしかないかもしれんということは知事もとに気づいた。思考以上のものた・ーー豊かな感情、生きている何 6 わかっている」 ・カ・ 「大佐はどうなったんだ ? 」とゴードンはきいた。ジルに発火能力 があることは納得できた。フォーブズの焼死も、サーチライトが融 6 けたのも、それで説明ができる。だが・ ( ティン大佐の死は、彼には いまだに不可解たった。 ゴードンは、プランの心の助けを借りて、そこにないものを見て 「目のとどかないところへテレポートさせたのさ。ジルのテレポー いるのだった。 テーションは、自分以外のものには完全にはたらかない すくな 。フランはテレバシーによって、これまでのできごとを見せようと くとも、生きたままとばすことはできない。肉体組織に何かがおこしているのだ。プランの心を通して、ゴードンは他人の人生の断片 るらしい」 を生きようとしていた だれか ( ゴードンはわれにかえって田 5 っ ゴードンにとって、このすべては支離減裂な情報の集積にすぎな た ) ーーー人間でさえないだれかの人生を ! かったーーー理解できないことばかりだった。小さな少女が、そんな はしめに灰色があった。 すさまじい超能力の持主だとはー いやーー・黒た。それも、ただの黒ではない。無色の闇、光の完全 「今夜のできごとは何もかも見た。信じるほかはなさそうた」とゴ な欠如。 、。いった。「たが、それを全部、その子のふしぎな力のせい ゴードンの心にイメージが形をとりはじめた たと思えというのは、ちょ「と無理な相談た。「ント 0 ールする方で、一つの意識、焦燥の芽ばえ。熱があ 0 た。圧力があ「た。震動 法が何かあっていいはすた ! 」 と軽い衝撃が、外界から伝わってくる。外界 ? 、し / し・ーの一 ? プランはい「とき沈黙した。ゴードンが納得できる説明を考えてゴ 1 ドンにはわからなか 0 た。彼の意識がいま宿「ている、人間に いるようすたった。 はほど遠い、知性のない肉塊は、そういった用語で物を考えてはい 「ゴードン、説明するにはこの方法しかない もちろん、ジルをなかった。外界に何かがあることを知っているたけたった。 つかまえるのは先決問題た。だが今のような進み方では、もうじき それはーーー肉塊はーー外界へ出たいと思った。 それも不可能になるだろう。あの子は今夜の経験を吸収し、どんど時の流れはない。動きと音の果てしない連続だけ。それに触発さ ん力をたくわえている。ゴードン、ちょ「と心をから「ぼにしてくれるように、恐怖と原始的な好奇心が交互にわきあがり、そしてー れないか ? 」 ー怒りへー 不意に、全景が移り変るような感覚がおそった。一瞬ゴードンは外に出たいという欲求は、高まり、ますます高まってゆき

6. SFマガジン 1977年2月号

リンクス 「そうた。すぐに始めては ? 」 リンクスは両肩を上げてから、下におとした。 サンドール 「いいとも。だけど、おふたりのどちらかに引出「ワラビー号はどこかで高速相推進中、そしてコーゴは鎮静睡眠中 7 しをあけてもらわなくちゃならないな。奥のほう、茶色のガラスびらしいな。完全に意識のある状態で高速相を経験すると、感覚が混 んにはいってるよ」 乱するんた。距離と時間経過が歪められる。きみはますいときに当 「わたしが出そう」ベネディックがいった りついたんだよーーーやつが鎮静状態で、連続体の衝撃にさらされて おえっ しばらくのち、ベネディックは激しい鳴咽をもらした。惑星儀のい るときに。たぶん、明日はだいじようぶたろう : : : 」 「だといいが」 並んだ棚を背にしてすわり、頬に涙を光らせ、そして両手にコーゴ の心臓をしつかりつかんでいるのだ。 サンドール 「そうだね、明日」 「つめたくて薄暗い : : : 」 「明日 : : : そうしよう」 リンクス 「どこだ ? 」 「もう一つ」と、ベネディックはつけたした。「彼の心の中をのそ いて見たんだが : : : それまで太陽のなかったところに太陽があっ 「せまい場所。部屋か ? 船室か ? 計器盤 : : : プーンという唸り ・ : さむくて、どこもかも妙な角度・ : : ・振動 : : : 痛い ! 」 た」 サンドール 「彼はなにをしてる ? 」 リンクスーー「惑星の焼き打ちか ? 」 「そう」 「 : : : すわってる、なかば横になってーーークモの巣型のクッショ にこげ サンドール ン。そばに柔毛の生えた生き物、眠っている。ねじれたーー、角度ー 「記憶 ? 」 ーなにもかもーーー変た。痛い ! 」 「いや。これから彼がそれをやりにくいところ」 リンクス 「ワラビー号た。高速相だな」 リンクスは立ち上がった。 サンドール 「どこへ向かってる ? 」 「相波通信で—o—に知らせよう。どの惑星が近く採鉱の予定か、 「痛い ベネディックはさけんた。 むこうで調べてもらうんだ。それがいつごろ始まるものなのか、見 サンドールは心臓を彼の膝におとしてやった。 当はつくかね ? 」 ベネディックは身ぶるいを始めた。両手の甲で涙をぬぐった。 「いや、そこまではわからない」 「頭痛がする」そう訴えた。 サンドール 「その惑星はどんなふうに見える ? 大陸の地形 リンクス 「一杯やりたまえ」 と配置は ? 」 ベネディックは一杯目を一息でのみほし、一一杯目をちびちびとす「わからない。思考がそこまで明確じゃなかった。彼の心はさまよ すった。 っていたーーおもに憎しみに満たされて」 「わたしはどこにいたんだろう ? 」 「いまからに連絡するーーーそのあとでもう一度やってみるか

7. SFマガジン 1977年2月号

い力」 では、彼が家を貸した人々はこんなところにいて、〈第二銀行〉 「申しわけありません」と窓口の男は言った。「わたしの誤りでしで取りひきしているのか。 ラジェーター飾りの模造品をポケットに入れ、彼はいちばんすい た。これをお渡しするのをわすれたのです」 仕切り引きだしに手を伸ばし、小さな物体をホーマーに手わたしていそうな窓口に行った。列につき、自分の前の男が預金の手続き た。それはまるで、奇怪なかたちをした車のラジェーターの飾り細をしおえるのを待った。 工の模造品のようたった。 ホーマーには、前の男の頭のうしろ側しか見えなかったが、それ その物体を手でもてあそびながら、ホーマ 1 はたすねた。「これには見覚えがあるような気がした。立ったまま、最近六週間に会っ た人々の記憶をかきまわした。 でいったい何ができるというんだ」 ルたったことがホーマーにわ 「なんでもです」出納係は言った。「それで〈第二銀行〉へ行かれすると男が振りかえり、それがダー ます。なくさないでくたさい。もどってくるのに必要ですから」 かった。つい昨晩新聞の第一面からこちらをみつめていたのと、同 「これをたた、手に持っていれば、 しいと言うのかね」 じ顔たった。 「そのとおりです」と、出納係の男がうけあった。 「やあ、ジャクスンさん」ダールが言った。「ご無沙汰しました」 「こんにちは、ダールさん。家の ホーマーはつばを飲みこんだ。 また半信半疑で、ホーマーはさっきのドアにもどった。まった く、ちんふんかんふんのことばかりだ、と思った。やつらは皆 ) ・ キ住みごこちはいかがですか」 こちらはとても静かで平穏なところ ・ウイルスンとそっくりーーーきつい冗談ばっかりた。これ「すばらしいと言うほかない。 で、もしあの出納係にからかわれているたけなのなら、やつをモッ で、とても出ていってしまう気にはなれない」 とホーマーは思った。 。フにつかって床を掃除してやると、彼は心に決意した。 出ていけないにはちがいない ドアをあけ、小部屋に踏みこんたが、そこはもう一部屋ではなか 「そううかがうとうれしいです」声に出してはそう言い った。また、銀行たった。 すすんた。 「よくいらっしゃいました、ジャク 金属部分はあいかわらす銅色で、鏡はきらめき、小鳥がさえすっ 出納係は通帳に目をやった。 ていたが、今度は客がつめかけていた。最初の銀行ではひとりたっ スンさん。頭取も、お目にかかれればよろこぶと思います。預金を た窓口の出納係が三人おり、温和で人当たりのよさそうな店長はか終えたら、寄っていただけますか」 がやく机に向かって勤勉に仕事をしていた。 窓口をはなれながら、ホーマーは頭取に会うことを考え、相手が もう一軒の銀行から出てきたドアの前に、ホーマーはたまって立何をのそんでいるのか、どんな新しいごたごたが待ちかまえている っていた。客たちが彼に気がついた様子はなかったが、ながめわたのかと思って、背筋にやや冷たいものを感じた。 ドアをノックすると、はいってくるようにとあたたかい声にむか すと、見たことのある顔が多いのにびつくりした。 、窓口へと 2 円

8. SFマガジン 1977年2月号

した双眼鏡の力を借りれば、オリオン座のリゲルの信号をキャッチしようとした、世界最初の計画恒星と、そのまわりを回る惑星との間に、ほとん ど定常的な関係が存続する必要がある、というこ の西側に、うねうねとした長大な川のような星のだった。 宇宙に、おびただしい生命の芽生えがあるとだ。 列を見ることができよう。 太陽が爆発などしては、むろんいけないし、内″ エリダスス座である。 だろうことは、今日では、常識のようになってい 明るいものでも、三等星から四等星くらいだる。が、私たちはまだ地球型の生命という、たっ部の核反応が進んで、温度が急に高くな 0 たり、 あるいは低くなったりしても、うまくない。 ~ が、肉眼で見えるおよそ一四〇個のヌカ星が、広た一つのサンプルしか知らない。 〃大な領域に、長い列を作っているのだ。 したが 0 て、宇宙の生物を探す場合にも、まず③惑星についていえば、ほ・ほ円軌道を回るもの そしてその西北の方にも、やはり淡い星をつな地球型の生命の発生するような条件の星を見つけであることが望ましい。 いだ、くじら座がある。 ることだ。それには、およそ次のようなことが考なぜなら円に近い決った軌道を回っていれば、 肉眼星数一二五で、ほど五〇度の範囲に広がっえられる。 恒星からの距離がほ・ほ一定たから、惑星表面の温 ″ている。 ①私たちの太陽のように、表面温度が六〇〇〇度が、おおむね定常的に保たれるからである。 エリダススというのは、ギリシア神話に出てく度くらいの恒星で、生誕後ほ・ほ五〇億年くらいた恒星の中には、連星とか、三重星といって、二 ″る川の名前だ。くじらは、海神ポセイドンの命をつていなければならない。 つ、三つの太陽が、共通の重心のまわりを、互に ~ 回り合っているような系も 受けて、エチオ。ヒア海岸を荒らしまわったという地球上で、人類が生れる ある。 ~ 化け鯨である。 までには、最初の光合成を ともに紀元前二〇〇〇年の昔から知られている営む単細胞の生物ができて このような系が、惑星を″ ( もっても不思議ではない。 しから、三二億年ほどかか 古い星座で、ギリシアの星座名の最古の文献と、 第 が、そのような惑星の軌道 われるアラートス ( ・ O 三一五 ~ 二四〇 ) の星ている。 望は、きわめて複雑なものに〃 人類の歴史は、三〇〇万 座詩にも歌われている。 この詩にもとづいた星図は、一八〇一年に出て年前の猿人にまでさかの・ほ なり、地球上のような規則 正しく繰り返される暦など ″いるが、それを見ると、〈くじら〉の頭部は歯をるが、銀河からの電波を受 トというものが、しよせん通″ ~ むきだした狼の如く、二本の前肢もついていて、信できるほどの技術をも 0 用しない世界となろう。 たのは、わずか数十年前の 私たちの知っている鯨とは、似て非なる怪物だ。 くじら座の南中は、一二月一三日。エリダヌスことでしかない。 表面温度も、異 0 た太陽 ~ 座のそれは、一月一四日である。 ②つまり、ある惑星上に 径に近づくたびに、目まぐる″ 芽生えた生命が、高度の通 気のしく変化し、長い年月をか ポけて、高等な生物を育てる さて、これら二つの星座を仰ぐとき、私が常に信能力をもつまでに進化す レには不適格であろう。 るには、少なくとき四、五 思い起すのは、かのオズマ計画だ。 それは人間が、どこかの星に住む知的生物から〇億年間にわたって親星の また、たとえ一つの恒星 59

9. SFマガジン 1977年2月号

マーチンはためらい、考えた。 「電報はどこにやった ? 」 「実際の逮捕とパトロールに関しては、それだけです」 「実際に電報を手にした訳じゃないんです。オクラホマシティ管制 室から伝えてよこしたんです。配車係が私に渡すのを忘れたと言う 「それは、どういう意味かね ? ので、開けて無線で読んでくれと頼みましたから」 ーベイが尋ねた。 「くそっ ! 」 「シ手ルウッドを連れて最初にロサンゼルスに着いてから、この一 ーベイが叫んだ。 件と関係ありそうなことが一一つばかり起きています」 「その電報が老検察官の祈りに応えてくれるかもしれなかったの 「それは ? 」 ーベイは眉を上げた。マーチンは予審の前にシ妥ルウッドの弁に」 彼はインタ 1 ホンに手を伸ばして、秘書を呼んだ。 護士が自分の部屋に訪ねてきたことを話した。 「ラス、オクラホマシティ管制本部をすぐ呼出して、ペン・マーチ 「で、出て行けと言って、ホールに放り出してやりました」 ン巡査部長宛の電報のオリジナル・コビーを押さえさせろ」 ーベイが興奮して身をのりたした。 ーベイは言葉をきって、マーチンを見上げた。 「その弁護士が話をしていた時、誰か一緒にいましたか ? 」 「いえ。そいつをホールに叩き出した時に、ファーガソンがちょう「電報を受けたのはいつだ ? 」 ーベイが続けた。 どやって来ましたが、話を聞いたとは思いません」 マーチンが答えた。ハ べイは落胆したように、後ろに寄りかかた 「十五日だ、ラス。オリジナルが必要だと言え。それから、その電 「第三者がいる所で話す筈もない。あいつら、そういうことには抜報に関する五六号車との交信日誌と、交信の録音テープを、ジェッ かりがないからな。な、もしシェルウッド老人か彼の弁護士がそんト機でロサンゼルスまで送らせろ。今日の午後一時までに、すっか なことをしたと証明できれば、連中も法廷に引張り出せるのだが。 り揃えてここに届いているように」 しかし、それは望むのが無理というものた」 べイは背もたれに寄りかかって、マ 1 チンににつこり笑っ こ 0 二人はしばらくの間、黙ってたばこを喫っていた 9 「さっき君は、関係ありそうなことが二つばかりと言ったな 9 もう「誰かが尻尾を出したようだ 9 電報を打つつもりはなかったんだと 一つは何だね ? 」 思う。十対一なら賭けてもいい。推測だが、たぶんこうだと思う。 シェルウッドの弁護士は、契約書と君を拘東するための書類を作ら 「シェルウッド電子工業から電報をもらいました。給料を増やし、 申し出がまだ有効というやつです」 せ、それを人事部に渡しておいた。そして、君たちがロサンゼルス 7 マーチンが答えると、ハ ーベイが椅子の上にばっと坐りなおしに戻ったところで、人目を避けて君と接触するつもりでいた。とこ ろが、人事部にいるゴマスリ野郎が、たぶん人事部長か誰かたろう こ 0

10. SFマガジン 1977年2月号

は往きと同じように平穏なもので、ライトフットは医学雑誌を読み「このあたりじゃ、水はいつでも大歓迎だ。パイプで送ってくるの すすみ、マーチンとファ 1 ガソンは六時間交替で運転して、その間でも自然のでも」 に手紙を書いたり、昇進試験に備えて青表紙の厚いマ = = アルを勉五六号車は警察用車線に戻って、西へ進みつづけた。十五分後、 大粒の雨が一つ、運転室の天蓋を打ち、一分後にビ = ーラは土砂降 強していた。 りの中にいた。マーチンはヘッドライトをつけ、ワイバーを動かし フラグスターフの郊外に来た時、嵐になろうとしていた。オクラ た。彼がスビードを時速百六十キロまであげると、雨は丸い天蓋を ホマシティを出て三日目の午後五時になろうとしていた。交通量は 少なかった。マーチンはビーラを停めてタ食にしようと言った。水玉となって転がって吹飛んだ。緑色車線と青色車線では交通量が 彼は警察用車線と緑色車線の間にある作業用車線にビューラを乗入増していたが、黄色車線は時折走る自動車があるだけだった。その ヘッドライトは雨を貫いて後ろから照らし、一キロ半も南を通って れて、無線のスイッチに手を伸ばした。 ハトカーを追越すと、突然に眩しさを感じなくなるのだった。 「フラグスターフ管制室へ。こちら五六号車。おたくの美しい都市 午後七時、フラグスターフ管制室が、交通量の定時報告と気象情 で食事をするため、停車する。こちらから呼ぶまで邪魔しないでく 報を流した。東に進んでいた嵐は現在じっとしており、再び西に戻 「了解、五六号車。市の鍵と赤ワインを一本届けるよ。。 ( トロールるという予報であった。高速道路はニードルズのすぐ東のアリゾナ 州境まで雨であった。 に戻る時は報告してくれ」 フラグスターフ管制室が答えた。 午後九時を少し廻った時、ビ、ーラはキングマンを迂回している 巨 2 っこ。 ビューラの中はどの部屋にもス。ヒーカーが付いていたので、乗組ところであった。突然スビーカーがロ 員が車内のどこにいても、管制官はいつでも呼出しをかけることが 「五六号車へ、こちらフラグスターフ管制室。アッシュフォーク監 できた。 視所からつい二分前に人った報告によると、赤と白のトラベレア マーチンは連転席から降りると、キッチンに向った。 が、黄色車線を全速力で走っている。この天気た。それにキングマ 夕食が終ると、ライトフットが皿を屑入れに放りこんで、キッチンの西の坂では、黄色車線で工事をしている。やつがトラ・フルを起 こさないうちに停められるか、やってみてくれ。このクルマは、フ ンを片付けた。ファーガソンのマーチンは運転室のバケットシート に坐り、マーチンが出発準備よしの報告をした。まだ六時ちょっと ラグスターフで二時間前に盗まれたやっかもしれん。盗んたのはテ ィーンエイジャーだということだ。そうだとすれば、以前にもひっ 過ぎだというのに、入道雲に覆われて空は早くも暗くなり、雨雲が 西から迫っていた。 かかりのあったやつだ。スビードだけが生き甲斐というやつで、ガ 1 ルフレンドを一緒に乗せてることも考えられる」 「雨になるな」 「五六号車了解。今からそいつを捜す」 ファーガソンが言った。マーチンがビューラのギャをいれた。 279