が、本物の人間が傷つくのを見たくはない あんたみたいな弱虫めざして走りだした。 「勝手にさらせ」ダヴァが叫んだ。「もう戻れないそ」 でもな」 「ここにいるのはみな正直な市民た」ふとっちょは銃口をにらんで ふとっちょは倒れたゴーレムをとびこえ、ドアをあけると、煙の 一一一口った。 「もうのがれられんそ。おまえの正体はちゃんとわかって中へとびこんでいった。・フレットとダヴァが街角めがけて全速力で いるんだ。おまえはーーー」 走った。ふたりが角を曲がったとたん、大爆発がおこり、通りを揺 るがせた。舗装道路が震動し、大きな亀裂がはしる。十フィート四 「・ほくたちはもう行くぜ。あんたも逃げたほうがいい」 「わたしたちすべてを殺すことはできんそ」ふとっちよが叫ぶ。唇方の土地が陥没した。ふたりはその縁をとおり、安全そうな所を捜 して走った。家々は崩れ、もうもうたる埃がまいあがった。二度目 をなめ、「この町を破壊させやしないそ」 の爆発がおこり、通りはひび割れ、その裂け目から埃がわきだし ふとっちよが仲間のほうを向いた瞬間、ブレットは撃った。一 発、二発、三発。ゴーレムがうつぶせに倒れる。ふとっちょはくるた。ふたりの周囲でビルが倒壊する。ふたりは頭を下げて走った。 っと身体をまわして、 あえぎつつ、ふたりはひと気のない通りを走りぬけた。背後から 「悪魔 ! 」と金切り声をあげた。「人殺した ! 」 たちの・ほる煙で空は暗くなる。火の粉がふたりの周囲を舞ってい 口をあけて、男は突進してきた。・フレットは横にどいて、ふとっ た。燃えるゲルの臭いが風に運ばれてくる。午後の太陽がなにもな ちょをつますかせた。男はどしんと顔から歩道にぶつかった。ゴー い道を照らしていた。朝の。ハレード のあと、しまい残されたのか、 レムどもがざわざわと前進してくる。・フレットとダヴァはゴ 1 レム房のついたトルコ帽のゴーレムがひとつ、うつろな眼をして街灯に どものみそおちゃ肩をなぐりつけた。背中や胸を殴打する。ゴーレ よりかかっている。私道にからの車が何台か駐まっている。夕暮れ ムは倒れる。・フレットは相手の拳骨をかわし、敵をよろめかせて倒の空を背景にテレビ・アンテナがわびしげに立っていた。 し、ふりむいて、ダヴァが最後のゴーレムをやつつけるのを確認し「あそこには人が住んでるみたいだ」プレットは言い、ゼラニウム た。ふとっちょはパナマをちゃんとかぶったまま、通りに坐りこの鉢植えの上にカ 1 テンがはためいている、アパートの窓を示し み、血の流れる鼻をそっと叩いていた。 た。「ちょっと見てくるよ」 「立て」プレットが命じた。「もう時間がないそ」 彼は頭をふりふり戻ってきた。 「みんな殺しちまった。ひとり残らす : : : 」 「まるでテレビのセットみたいだ。最初は本物のように見えるんだ ふとっちょは立ちあがり、急に向きをかえると、煙があふれだしがね。明りがついていたんで消してきたよ。とにかく、電気はまだ ているドアに向かって突っこもうとした。・フレット・、 カ男をひきもどきているらしい。あとどのくらいもっかなあ ? 」 す。彼とダヴァは男をひきすって、その場を離れた。一街区はなれ ふたりは住宅地の通りに曲がった。遠くの爆発で、足元の歩道が たところで、ふいに暴れだし、ふたりの手をふりきった男は、火事震動した。亀裂を避け、歩き続けた。ところどころにゴーレムがぶ プロック ロ 8
ホーマーは立ちつくし、身震いした。もはや、無知をよそおって も仕方がない。大丈夫なんだとひとりよがりに自分に言いきかせつ づけていてもしようがないのだ。一件五千ドルの商売かもしれない が、なにかまずいことがあるーーーとてもまずいことがひそんでいる のだった。 正面から見つめなければならない。手がせまりはじめていた。フ アウラーの口調は本気のようだったし、不動産業協会は明らかに、 彼が小さくでも足をすべらすのをねらって待ち伏せしていた。そし てもしちょっとでも足をすべらせたら、罠は音をたてて閉じるにち ー亠 7 、刀 . しノ 自らをまもるためには、何が起こっているのかを知らなければな らない。もう、五里霧中のまま立ちむかえる状況ではないのだ。 知識さえ得れば、このままつづけることもできるだろう。いつ手 を引けばよいのかもわかるだろう。だが、今日の午後こそそのとき だったということになるのかもしれない。 そこに立ちつくし、濡れた紙のなかの魚としたとを机の上に置い たまま、家々の長くつらなった通りを思いえがいた。その住宅街の 通りのうしろに、まったく同じ通りがあり、二番目の通りの背後に 幻 3
きとぶはずだった。ところが、ドアはずたすたに裂け、内部にとび ゴードンは、軍曹が最後に子供を見たという方角になかって歩い 5 こむと、その勢いで周囲の壁と天井の一部を引きずりこみ、同時に 大きなウインドウを割ってしまったのである。残骸は家具をいためていた。町にはすっかり夜のとばりがおりている。明りはほとんど なかった。街灯ーーーその一部。・ーーが自動的に灯った以外は、町の住 つけて道を切りひらき、つきあたりの壁に激突した。ベルがけたた ましく鳴りはじめ、ジルはとっ・せんの音におびえてとびあがった。民が避難するとき消し忘れた明りがいくつかあるばかり。なぜか建 プラン先生が自分を叱るためかけつけてくるような気がして、ジ物に身を押しつけるようにして、彼はゆっくりと注意深く通りを歩 いた。遠くで車の音が聞えたような気もしたが、確信はなかった。 ルはあたりを見まわした。近くに人影はなかった。サイ能力をこん なに使ったことを知ったら、プラン先生はおこるにちがいない。考だが、はるかな列車の汽笛はたしかに聞え、音はいっしょに煙のに えやカをコントロールするように、というのが先生の口癖だからおいも運んできた。鼻をくんくんさせると、においは消えた。想像 ・こ、とゴードンは隸った。こんなところでは想像力は無限にひろが る。 さあ、どうしよう、とジルは思った。ドアはあいた。けれども、 ・ツドに眠る気はし どこかの建物から、電話のベルが聞えてくる。ベルの音は、ゴー べッドはウインドウにある。ウインドウの中のヘ ドンが通りを進むにつれて小さくなったが、やがて不意にとぎれ たとえ人がどこにもいなくても。とっぜんジルは、店内に もペッドがあるのに気づいた。すたずたの入口を抜け、大きな部屋た。ェア・コンディショナーのはたらきだす音が聞えた。避難騒ぎ にはいる。かすかな喜びの声が喉からもれた。こんなにたくさんのでだれかが料理用ストーブの火を消し忘れたのだろう、じゃがいも ペッドルーム ! 壁にそって、小さなべッドルームがい のこげるにおいがただよっている。とある路地を通りすぎるとき、 ジルは嬉々として部屋から部屋へと走り、べッドやカーのきれい 静けさを破ってとっぜん悲鳴がひびきわたり、ゴードンは肝をつぶ さ、何もかものすばらしさにいちいち感嘆の声をあげた。やがて最してとびあがった。悲鳴と思ったのは、すぐに、発情した二ひきの 後の・ヘッドにたどりつくと、そこで寝ることに決めた。いちばんき猫のギャーギャー声とわかり、彼は声にだして自分をのろった。 れいなべッドだ。それに疲れきっていた。 通りの先にある建物から、音が聞えてくる。立ちどまると耳をす お菓子の袋を注意深くたんすにのせると、ジルは靴をぬいだ。そまし、音の正体をつぎとめようとした。そして油断なく前進した。 してペッドカバーをおろしたのち、人形を枕の両側におき、毛布に人の声た。ゴードンは、声が流れてくる店にむかって影のように忍 もぐりこんだ。べッドにはシーツがなく、すこし失望した。服を着びよった。ドアに手をかける。錠はおりていない。人の姿はない。 ドアをそっとあけ、中にすべりこむ。静かにドアをしめると、見ま たまま寝るので、ちょっとやましい気もあった。 だが、ベルの音にも子供らしい悩みにもわずらわされることなわし、「なんだ、くそっ ! 」と乱暴な声をあげた。 カウンターの上にラジオがあり、アナウンサーがニュースを伝え く、たちまち眠りにおちていた。
ずいぶん楽た。昔のような気分になれる」 ないでください」 ールは持ちあげかけたナイトの駒を下におろし、上を見上「おれは怒ってないそ、エ、、 げ、また目を伏せた。 「艦長、いいですか、自分も焼き殺してやりたいやつはいます。法 「自分は : : どういっていいかわかりません、艦長。あなたが誘っ律違反とは関係なしに。しかし、あなたのようなやりかたはできま てくださるとは、思ってもみなかったんで : せん。自分なら、そうされても文句のいえないやつらだけをやりま 「どうしてフ いい部下がいてくれれば、おれも心強い。昔のようす。たたで」 に暴れまわろう。金はたつぶりある。気苦労はなにもない。タウ・ 「はっー ケチで三カ月の上陸休暇をとったあと、自分で自分に命令書をわた コーゴは一つきりのビショッ。フを動かした。 すんだ。そしてそれを実行するんだ ! 」 「おれの金をうけとりたくない理由はそれか ? 」 「艦長 : : : 自分はもう一度宇宙へ出たいですーー、出たくてたまりま「、 しいえ、ちがいます、艦長。まあ、幾分かそれもありますが : せん。しかしーー・せつかくですが・ : : ・」 しかし、それはほんの一部です。とにかく金をいただくわけには、 「どうしてだ、エ ミール ? なせいけない ? : 心から尊敬していた人を助けただけな 昔に帰って、たのしきませんーーー自分はただ : くやれるんだぞ」 んですから」 「過去形を使ったな」 「艦長、どういったらいいか : : : つまり、昔われわれが どこか の土地を焼きはらったときはーーその、相手は犯罪者ーーー宙賊でし「はい、艦長。しかし、自分はいまでも、あなたの受けられた仕打 た。法律を破ったやつらでしたーーーそうでしよう ? いまのあなたちはひどかったし、やつらがドリレンに対してやったことは、まち よ : ・ : 非道なことだと思っています。ただ、それだけでだれも : だれでも見さかいなしにー・・ー・殺すと聞きました。あー、法律がった : かれも憎むわけにはいかんでしよう。だれもかれもがそれをやった の違反者じゃない、なんていうか、一般市民をです。やつばり 自分にはできません」 んじゃないんですから」 レ コ これはやったとおな ーゴは答えなかった。工 「やつらはそれを是認したんだ、エ ルはナイトを進めた。 「おれはやつらが憎いんだ。工、、 じぐらいに悪い。それだけでも、おれはやつらのみんなを憎むこと ール」しばらくして、コーゴはい った。「やつらのひとり残らずが憎い。おまえは知っているか、やができる。それに人間はみんな似たりよったりだ。最近のおれは、 つらがプリルドでなにをやったかを ? 見さかいなしに焼きはらうようになった。それというのも、たれな ドリレンに対して ? 」 艦長。しかし、あれをやったのは一般市民でもないし、鉱んてことは問題じゃなくなったからた。あの罪はだれにも平等にあ 山の連中でもありません。人間みんなってわけじゃないんです。ひる。人類・せんたいが非難されてしかるべきだ」 とり残らすを目のかたきにするのはーー・・自分にはできません。怒ら「いや、それはちがいます、艦長。お言葉を返すようですが、イン 7
「シ 1 ツ」・フレットが言った。「ゲルに気づかれる」 階段をおりていくふとっちょの足音がこ聞えた。 「浮気女なんか大に喰われちまえ」ふとっちょはびしやりと言う。 「はやくしろ」 「さあ、帰ってくれ。さもないと、支配人を呼ぶぞ」 ・フレットは会計係に言った。係の女は空ろな眼をして虚空を見て 「わかんないのかい ? 」・フレットが太った男をじっと見つめて言っ いた。音楽がやんだ。照明がまたたいて、消えた。闇の中、・フレッ た。「あいつらはみんな人形なんたよ。ゴーレムた。本当の人間じトは茶色い液体がそびえるのを ゃないんだ」 走った。階段を駆けおりる。ふとっちょは街角を曲がるところだ 「誰が人間じゃないって ? 」 った。ブレットはロをあけ、呼びかけようとしーー身体をこわばら 「テー・フルについてる奴、フロアにいる奴、みんな偽者なんだ。あせた。近くのドアから半透明の泥水がとびだし、彼の眼前で塔のよ んたにだってわかるはずだーーー」 うにそびえ立ったのだ。プレットはロを少しあけ、腕を前にのばし 「よくわかったよ、あんたは医者に行ったほうがいい」ふとっちょ て、眼を見開き、少し前かがみに立った。ゲルはそそり立ってい は椅子をひくと、立ちあがった。「君がここにいるなら、わたしはる。その表面を波うたせーー待った。ゼラ = ウムのような刺激的な よそで食事をする」 匂いがする。 「待て ! 」 一分がすぎた。プレットの頬がかゆくなる。まばたきをしたい、 ・フレットも立ちあがり、ふとっちょの腕をつかんだ。 くるっと向きをかえ走りだしたいという誘惑と必死に戦った。真昼 「手をはなしたまえ の太陽が、物音ひとっしない往来に、よどんたようなショーウイン ふとっちょはドアに向かった。・フレットもあとを追う。会計で・フ ドウにカッと照りつけている。 レットはふいに振り返った。茶色い液が震えつつ やがてゲルは形を崩し、平らになると、あっという間に流れ去っ 「見ろ ! 」 た。プレットはうしろによろめいて、壁によりかかり、ホーツと息 ふとっちょの腕を引っぱった を吐きだした。 「なにを見るんだ ? 」 通りの向こう側に、キャン。フ用品を飾ったショ ーウインドウがあ ゲルよ、よ、つこ 0 った。携帯ストーヴやプーツ、ライフルもある。通りを横ぎり、ド 「そこにいたんだ、ゲルが」 アのノ。フをまわした。鍵がかかっている。彼は左右を見渡した。誰 ふと 0 ちょは札をたたきつけるように置くと、急いでその場をはもいない。掛金のそばのガラスを割り、手をのばして、掛金をはす なれた。プレットは十ドル札をや 0 と捜したし、釣り銭で待たされした。中に入ると、シャベルやナイロン・ロープ、さやのついたナ イフ、水筒などをざっと調べた。望遠照尺のついたウインチ = スタ 「待ってくれ ! 」彼は叫んだ。 1 連発ライフルを念入りに見る。それを棚に戻し、二十二口径のリ に 6
もうひとっ いくつもの通りが、つぎつぎと背後にならび、それーステ ィーンも、あの住宅に入居した人々も皆くるっているのだ。 それはまったく似かよっていて、平らな平地に視界からかすむまで 魚をつつみ、不器用に包みをしばりなおした。どこから来たもの つづいている。 にせよ、どんなきちがいざたのなかにあっても、このマスはたしか きっとそうなっているのにちがいないーーー家並みの背後につぎのにおいしそうだった。そしてこの、取れたばかりのマスの味こそ、 通りがないことだけを別にすれば。ひとったけの住宅街があるきり世界中でわずかにのこっている、確かで疑いのないもののひとつで で、。ほっんと空家になって立っており、そしてそれなのに、どうしあった。 てか人々がそこに住んでいる。 きしるような音が聞こえ、ホーマーはびつくりして、机のところ 住宅を二度貸すのたと、ステ ィーンは言ったのだった、それからからさっと立ちあがった。 ドアがあけられていた ! 鍵をかけるのをわすれていたのだっ もう一度、さらにまた一度と。あなたがなやむにはおよばない。ま かせておきなさい。心配ごとはみなわたしにまかせるんだ。あなた はいって来た男は、制服こそ着ていなかったが、」 川事か巡査であ は賃貸契約だけ取ればよい ることに見誤りはなかっこ。 そしてホーマーは家を貸し、人々が引っこしてきたのたが、 「ハンキンズと言います」警察・ハッジをホーマーにしめした。 ったのは彼の貸した家ではなく、そのすぐうしろにたたずむまった く同し二番目の家だったのであり、彼が最初の家をふたたび貸す歯が鳴ろうとするのをおさえて、ホーマーはロもとをかたくむす と、人々はまた同じかたちの、一番目と二番目の家のすぐ背後にあんだ。 「お手伝いねがえるものと思う」 る三番目の家に人居したのた。そういう仕組みたった。 だがこれは、理解できないことがらに説明をー。ーーどんな説明でも「ええ」ホーマーは早ロで答えた。 いいからーー・つけようと考えだした、子どもじみた空想にしかすぎ「ダールと言う名の男を知ってますね」 まるでおとぎ話だ。 「知らないと思います」 思いを本筋にもどそうとし、合理的に考えようとしたが、それに 「記録をしらべてもらえますか」 はあまりにもものごとが異様すぎた。 「うちの記録ですか」ホーマーはおどろいて問いかえした。 自分の五感は信じてよいはすだった。目に見えるものは信じられ「ジャクスンさん、あなたは実業家だ。記録をのこしておられるに るはすだ。そして家は五十軒だけありーーー人々が住んでいるにもかちがいない 不動産を売った相手の名前や、それに類したことが かわらすそれは空家なのだ。自分の耳を信じれば、その空家に住んらの記録たが」 で夢中になっている人々と彼は話をしたのだから。 「はい」大急ぎで言った。「はい、 そういう記録なら取ってありま くるっている、とホーマーはひとりで議論した。他の人々は皆ーす。もちろん、たしかに」 「なんでも言ってください」 幻 4
という実験を提唱したのがかれ ガチャンと大きな音を立てるのを聞いた。そして風や雨の音にまじかけあわせてみたらどうなるか って、かれが通りの方へとつつ走っていく足音がかすかに伝わってである。結果は、あたりの奇怪な植物よりはるかにグロテスクなも のとなった。そしてタラング自身の毛も雪のように真ッ白となって きた。 「せめてロアナそのものは無事でいて欲しいね = 」と医師が言っしまった。しかし、それだけで済まなかったのはタラングの助手で た。「さもないとルングルッドはかれの実験をいそがなけりゃならある。かれは、平和な眠りを与える以外手の下しようがない状態に なくなるし、われわれはダルナラ市から・フウンドロム町へ移住しなまでなってしまったのだった。 けりゃならんかもしれん ! 」 ロアナの都市の灯火が消え失せ、凄まじい炎に包まれる瞬間をプ ウンドロム火山の山頂で目撃した科学者の一団があった。ちょうど ・フウンドロム町は小さな集落だが、もちろん、そこへそびえ立っその瞬間に西の方角にあたる例の荒地を偶然見下ろしていた科学者 火山にちなんでそう名付けられていた。山案内人や少数の科学者がのひとりは、ロアナ全体を灼熱の炎が掩 0 た瞬間、それに同情する かのように荒地の表面がチカチカと青白い光を放つのを目撃したと そこに住んでおり、観光客のためのホステルがいくつかある。ダル いう。そして東の方を見つづけていた他の科学者たちは、大気中に ナラ市やテイロナ市から鉄道もあるが、大部分の旅行客は空路をえ らぶ。鉄道の最後の数マイルは、絶え間もない地震のためにおそろすぐ現われた薄い積層雲のヴ = ールがフィルターとなって、なんと かロアナを肉眼で観察することができたのだが、白熱の炎が荒れ狂 しく危険で、かっ、乗心地もわるいからである。 しかし、・フウンドロム火山の栄光の日々はもはや過去のものだつうその表面には、恐ろしくなるような地割れや大穴が無数に口を開 いているのを発見したのだった。 た。その火口は茶褐色の岩滓に掩われていて、ほんの時たま、思い ロアナの表面からの熱波が大気圏の上層部へ到達したとたん、た 出したように吹きあがったりする蒸気は、この火山が静かな眠りに ちまち凄まじい雲がおこり、ロアナの終末に呼応する上うな強風と ついてしまったことを裏付けていた。 この眠れる巨人には、もはや物好きな旅人をおびきよせる魅力は雨が加わり、この世にも奇怪な光景をたちまち人間たちの眼から掩 なかった。ましてその西にひろがる荒涼たる平野がビクニック客をいかくしてしまった。 あつめる筈もない。しかし、それにもかかわらす、プウンドロム町プウンドロム火山の山裾にあるホステルでは、ロアナを壊減させ のホステルは満員たった。リングルッドも滞在していて、このあたてしまったそのカの正体について、科学者達がいっ果てるとも知れ りに存在するーーというよりも感じられるーーー奇妙なその力と、そぬ議論をくりかえした。その力が、人間ーーないしは人間に似た知 れから、酸の壷の中に立てた炭素板と亜鉛板とによって生する謎の的存在ーーの手によってつくり出されたものであることは、だれひ 力との関連をつきとめようとしていた。生物学者のタラングも滞在とり疑わなかった。そしてその力が放出されるおそろしい瞬間をか明 していた。火山のふもとにある無気味な例の荒地で、雄牛と雌牛をれらは目のあたりにしたのである。中天にかかる星の光をさえ暗く
無数にあいているが、装飾はなく、滑らかすぎてよじの・ほることは地元チームが入場してきたときのようだと・フレットは思った。楽隊 ートほどあるたろう、とプレットはっ できない。高さは二十フィ の楽器の音も聞こえる。金管楽器のかん高い音。打楽器のドンド た。もしなにかで壁に刻み目をいれられたら ン、ガチャガチャ。前方に小路の出口が見えた。旗が並ぶ陽光のふ 前方に門が見えた。両脇に灰色の柱が建っている。プレットは門 りそそぐ通りがある。人々の背中が見え、その頭ごしに、リズミカ に近づいた。スーツケースを地面におろす。ハンカチで額をぬぐっ ルに上下する行列が見てとれた。ほ・ほ同じ高さの軍帽や三角旗の列 た。壁の中には舗装された通りと建物が見えた。通りに面したそのが通りすぎていく。高い二本の柱の間に細長い幕を張り渡したもの 家々はたいして大きくない。一階か二階建てだろうが、その背後のが視界に入った。赤い字がちらっと見える ビルは塔のようにそびえたっていた。人の姿は見えす、音も聞こえ : ・わが党のために , ず、暑い真昼の空気が重くよどんでいるだけだ。・フレットはバッグ をとりあげると、門をくぐった。 ・フレットは灰色の背中を見せる群集にそろそろと近づいていっ それから一時間、彼はひと気のない歩道を歩きまわった。褐色砂 た。黄色い上衣を着た一団がトルコ帽の房を揺らしながら行進して 岩の家の正面、なにも飾ってないショーウインドウ、カーテンのさきた。小さな子供が通りにとびだし、行列にくつついてびよんびよ がったガラスのドア、あちこちに点在する雑草が生い繁り、荒れはんとびはねた。楽器は金切り声をあげ、ぜいぜいと息を切らすよう てた空地ーーーそこに自分の足音がむなしく響くのを聞いた。十字路な音をたてた。プレットは前にいる男を軽く叩いた。 で立ちどまる。ひと気のない道を見はるかした。ときどき、遠くで 「いったい何のお祭りです二 : : ? 」 音がした。かすかな警笛のような、小さな鐘の音のような、蹄の轟自分の声すら聞こえない。男は・フレットを無視した。・フレットは きのような音。 群衆のうしろを歩いて、行列のよく見える場所、人垣の薄くなって のつべらぼうの壁にはさまれた暗い峡谷のような小道にぶつかっ いる場所を捜した。前の方にはあまり人がいないようであった。群 た。その入口に立って、遠いざわめきに耳をすました。葬式にあっ衆のはすれにきた彼はさらに数ャード進み、縁石のところに立っ まった群衆のような音た。・フレットは小路に入りこんた。 た。黄色い上衣の連中はいま通りすぎるところで、そのうしろか ら、サテンのゾラウスに黒い・フーツ、白い毛の帽子をかぶった、丸 小路は数ャードまっすぐ進み、それから蛇のようにくねくねと続 いていた。小路を進むにつれ、群衆のざわめきは次第に大きくなっ丸とした股の娘たちが、音もなく、無表情にやって来た。・フレット ていった。いまでは歓声のひとつひとつを聞きわけることができから五十フィートのところまで近づくと、娘たちは突然、脚を高く る。彼は歩調をはやめた。はやく誰かと話がしたい。 あげ、ヒップを揺すり、 いばって歩きはじめた。きらきら輝く・ハト 突然、声はーーー・何百人もの声だ、と彼は思ったーー大きなどよめンを高く放りあげ、うけとめ、くるくる回し、また放りあげ : ・ き、ウワアアアーと長くひきのばされた大音響となった。試合場に ブレットは首をのばして、テレビ・カメラを捜した。通りの向こ
ているのだ。店の主人が、逃げるとき、あわててスイッチを切りそめぐらしていた。そのとき、車のエンジンの轟音が耳にはいった。 目をあげる。司令車は彼のいる歩道のそばにすべりこんできた。ま こねたのだろう。 ばゆいサーチライトが彼の顔をまともに照らした。 「 : : : 以上が、現在までにはいった国際ニュースです。地方のニュ 「ゴード 車のドアがばたんとあき、大佐のどなり声がとんだ、 ースとしては、今日の午後シルヴァートンの町に落下した爆弾にか 1 中尉といっしょに こんなところで何をしているー んする件で、先ほどもお伝えしましたとおり、軍の回収班が住民の いろと言ったはずだそ ! 」 避難した町にはいりました。爆弾は、空軍爆撃機が定例の訓練飛行 のさい誤って投下したもので、近くの空軍基地当局の発表では、投「ぼくは記事をとりに来たんですよ、大佐。役立たずの爆弾の撤去 よりは、略奪者を追いつめるほうがおもしろい記事になりますから 下されたのは、放射性のちりを内蔵した演習用爆弾であるというこ とです。飛散式のこの爆弾には、真夜中までに爆発するようにセッ 「ゴードン、この トされた遅発ヒューズがとりつけられています。また、それには、 大佐は目を細めた。その声に敵意がこもった。 妨害阻止装置と攪乱遮蔽機構がそなえられているということです。町にいるあいだ、きみはわたしの指揮下にある。騒ぎがかたづいた これらの回路は絶対に故障がおきないとされ、撤去にあたって空軍ら、きみを処罰するようにしきじきに取り計らってやる。今は拘禁 がどうような方法をとるものか注目されています。ともあれ、回中だと思え。どんな理由があろうと、このグルー。フから離れるな 収班が運びだせない場合には、爆弾はその場に残され、回収班は町 ! 」 からの撤退をよぎなくされることになります。爆発のさいには、半そうか、とゴードンは思った。大佐は爆弾がインチキであること 減期の短い放射性のちりが周囲一帯にとびちりますが、風がある場を知っているのだ。 きびしい態度のまま、いかにも腹たたしげに、大佐は車にもどっ 合、汚染が町の他の区域にひろがる可能性も残されています。た た。うしろのドアがあいたので、ゴ 1 ドンは声もなく乗りこんた。 だし、放射性のちりの寿命はわずか六時間なので、町の人びとは、 となりには二人の民間人がいた。二人とも無言で、こまったように おそくとも明朝までには日常活動に復帰できる見込みです。人びと の避難は、附近の空軍基地から出動したトラックと州軍の協力によそっぽを向いた。車は歩道ぎわからガクンととびだすと、ゆっくり と通りを走りだした。 って、すみやかに整然と行なわれました。現在は州軍に町の警備が 委ねられており、町に通じる鉄道はすべて一時的にストップしてい 民間人のひとりをふりかえって大佐がたすねた、「あとどれくら ます。病院はさいわい郊外にあったため、患者と職員を避難させる いだと思う ? 」 必要はありませんでした」 「はっきりしません」長身の男が答えた。プラン博士た。出発のと ニュースは続いた。だがゴードンは聞いていなかった。 / ー 彼ますでき簡単な紹介があり、ゴードンはお。ほえていた。「無指向性ですか ら」 に建物から出て、歩道にたたすみ、この不可解な事態について思い 5
「それだけた」といった。 材する許可を得て、知事からじきじきに交付されたパスをさしだし それが第三の不思議だった。ゴードンには合点がい力なカった たとき、大佐はこういったものである、「歓迎はできませんな、ゴ 1 ドンさん。それだけは、まず知っておいてください。今後は直接 なぜ大佐は重要な仕事を部下にまかせ、いるかどうかもわからない 略奪者をさがそうとするのか ? また、なぜ大佐が連れてゆくなかわたしの命令に従うこと。違反があった場合には、連邦政府の扱い になりますーー州知事なんそ、くそくらえだ ! 」 に民間の「専門家」が二人もおり、それに対し航空兵は二人しかい ないのか ? どちらも空軍憲兵でさえない。さらに二人の民間人、 ゴードンにとって、それは充分に威圧的だった。しかし命令にそ 。フランとフォーブズというのは、そもそも何者なのか ? 帰ったらむきたくなるほど重要な任務だとは、どうしても思えなかった。疑 すぐ彼らの前歴を洗ってみよう、ゴードンはそう心に決めた。 惑第一号は、大佐にこういった直後に訪れた、「この程度の事件に ゴードンはトラックのうしろにとびのり、伍長と並んた。伍長はですか、大佐 ? 」すると大佐はゴードンをにらみつけ、葉巻を口に つつこむと、ぶいと行ってしまったのだ。 にやりと笑うとタ。ハコをさしだし、「専門家かね ? 」といった。 ゴードンはタバコを辞退した。「落ちた爆弾とは関係ない。とい これは本当に小さな事件なのだろうか ? ゴ】ドンは首をかしげ うより、別に何の専門家でもないよ」 たものである。半減期の短い放射性のちりを内臓した遅発爆弾が、 「あと二つきいていいかい ? 」と伍長。 不慮の事故で町に投下された。六時間後には、町は完全にあけわた 「こっちも隠しごとは好きじゃない。・ほくは記者だ」 され、州軍の非常線が周辺にはりめぐらされた。町の住民が早まっ 「大佐は、あんたをあまり歓迎してないようだったね」 て帰らないよう、また略奪が行なわれないように警戒するためであ 「それは気がついた。それも謎なんだ」 るーーーもちろん、いっ放射性のちりをかぶるかもしれない町で、略 。それに、爆 「この仕事が相対的にあんまり重要じゃないことを考えると、そう奪をはたらくような酔狂なものがいればの話だが : 見てもいいな」 弾は午後に投下され、空軍は真夜中までに撤去すると約東した。 たしかに軍部にとって、これは厄介な問題たろう。爆弾を誤って 「重要じゃない ? 放射性のちりをまきちらす爆弾の回収作業を、 重要じゃないというのか ? 」 町に落した責任はある。軍部の困惑は想像できる。大佐がびりびり 「相対的に、といったんた」伍長はすいかけのタバコを靴底で踏みしているのは、爆弾を落した飛行機が、彼の指揮する大隊の機であ 消すと、通りに投げ捨てた。「飛行大隊を指揮する大佐がこんな仕ったせいかもしれない。マスコミの注視が、彼の軍務に有利なはす 事をするってのが、ちょっとおかしい。おれは不思議な気がしてた んだ。はじめは名前を売りたいのかと思ってた。ところが、あんた トラックは街なかを走りつづけた。何回も角をまがり、すべての の扱いを見ていると、そうじゃないらしい」 交通信号を無視した。すれちがう車はない。自動車の類は、まった 大佐はゴードンにあからさまな敵意を見せていた。事件を特別取くといっていいほど町から姿を消していた。ときおり、タイヤがペ