ヒート - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年3月号
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1. SFマガジン 1977年3月号

三十年まえに発見されたが、地球からとおいのと、地下資源などら大丈夫だろう。 : たいしてないために、わすれられた状態にある、という。 ノックがあった。 住民はおくびようで保守的、三十年まえの一大事におどろいて、 「サ・フが、ヒトデにかまれたらしいですよ」 その迷信的性格をさ・らにつよめたとおもわれる。 。ヒートがはいってくる。 彼女はキャビンへもどった。 「あれは、毒性があるのよ。あの水槽のうえには、金網がはってあ 赤ん坊はひとりであそんでいる。抱きあげて、ロのなかをしらべ ったはすなのに」 ようとすると、おそろしい悲鳴をあげた。 いよいよだ、と彼女は覚悟する。 「なにをするんだ ! 」 「それが、きようかえってみたら、破られてたらしい。彼は、これ すぐにナオシがとんできた。 は悪の赤ん坊の呪いだといっている」 「べつに、そんな : : : 」 。ヒートもやや白い顔をしている。 「船長、おれはもう、あなたを信用しないよ」 「彼はこわがってるよ」 彼は蒼白になっている。 「いま、いくわ」 「大さわぎするほどのこともないでしよ」 ジュンコは、下の層へおりていった。 彼女はわめいた。うたがいが、一挙にふきたしてくる。 サプは、包帯をして、べッドに横たわっている。 「じゃ、キ・ハネズミをもちたしたのは、たれた」 「ぐあいはどうなの ? 」 「もちだした ? 」 「薬がないんです」 しまった、それをしらべるんだった。 彼はよわよわしくいった。 「そうだ。カギは、台所にあった。そこにはおれが寝てたんだ。犯「まさか。予備の薬品類はどうしたの ? 」 彼女は、わけがわからなくなった。 人は、網を注意ぶかくやぶって、もとどおりにしといたんた」 彼の彼はふるえている。これは芝居だろうか。 「なくなっているんです」 「もっともうたがわしくないのは、あなたよ。だからーーーそんな細おちついた声にもどって、ピートが報告した。 「どうして・ : : ・」 工は、だれにでもできるわ」 「いいよ。おれは、ここにのこる」 「これは呪いだ。船長、魔法というものを信じますか」 トリックよ。あなたとい 彼女はこたえられない。 これはたれかの 「あの子に牙なんかない。 「むかしの伝説にすぎない、 とおもってますか」 う可能性もあるわ」 ヒートの声は、しだいに熱つにくなってくる。 あまり大声をたさないように気をつける。ドアがしまっているか 4

2. SFマガジン 1977年3月号

「そんなことはないだろう」 いくらかの不安をお・ほえてつぶやいたナオシに「わたしがなぜ会「トカゲがでてくるそ」 をやめたか、わかる ? そういうことを知りすぎて、内閣調査室ビート がおどかす。 」にらまれたからよ」とくる。 「彼らはほんとうにわらってるのかしら。あれしか表情がないみた 宇宙の辺境とでもいうべきところを、ヨタヨタしていれば、さま まな現実からのがれられる。クルーはいくらでも必要で、うるさ ジュンコは、植物のつるを切りおとしながら、森をすすんでいっ ことをいわずにやとってくれる。彼らもまた、逃げだしてきたの ひとつの大陸と多くの川や湖からなるこの星には、何千種類もの 「どうやって、捕獲する ? 」 生物がいるとは、かんがえられない。船の収容能力にはかぎりがあ ヒート。 、刀し、つ るし、気候がおたやかそうなこんな星のほうが、仕事がしやすいの 「神経銃でいいだろう」 ナオシがこたえた。 「きこえないか ? 」 「あいつらに、神経があるのかね」 いちばんうしろの、ナオシがたちどまった。 うさぎもどきは、あるきはじめた彼らを、絵にかいたような微笑「きこえるよ」 、見送った。 。ヒートは、ロをとがらせる。 「たいしたもんじゃないわよ。ペットとしては、適さないんじゃな「鳥じゃないよ。赤ん坊の声だ」 ナオシは目をあけた。 > の ? もっとも、ミリン星のトカゲといっしょにくらしてるひと いるけどね」 自信なさそうに、。ヒートはこたえた。 サ・フは、ジュンコのあとからすすむ。なるべく、危険な動物にお するどい声をあげて、始祖鳥に似た形の鳥が、頭上を滑空してい 」われない位置にいたいのだ。そのトカゲは、ある老人の注文によ 一て彼らが捕獲したものだが、サ・フの太腿にかみついたのた。あぶった。 いな、とはおもったのだそうだ。しかし、彼にいわせると「ある「猫じゃないの ? 」 ジュンコがいう。 3 の瞬間的な無感動」につつまれ、うごくことができなかった。片 「いってみよう」とナオシ。 ( が義眼になったのもそのせいだ。レストランに勤務する以前は、 ロ宅で彫金をやっていた。指輪をみがく機械から、ムーン・サフア「待ってよ。危険かもしれないじゃないの。船にもどって、水陸両 ・アがとびだした。彼は、わかっていながら、よけることができな用車にのりかえてきたほうがいいわ」 4

3. SFマガジン 1977年3月号

サプはべッドから、よわよわしく声をかけた。「いっしょにいく「あら、。ヒート、 わたしは、はじめあなたをうたがってたのよ」 よ。はじめはそんなこと信じなかったけど、いまひとりになるのが 「わかってますよ。遺産全部をつぎこんで、あの船を買ったことま 7 こわいんだ」 で、あやしくみえるしね。もし計画殺人だったら、そのあと宇宙へ 「あのヒトデは、毒がまわるまでに一週間はかかるのよ。うごきまひとりででてしまう方法が、いちばんだろう」 わると、それよりはやくなるわ」 花火があがった。 ジュンコは、慎重にいっこ。 クルマは、おそろしい速度で、船へむかった。 「では、十分後に出発」 サ・フが電子銃をかまえている。 「わるいけど、・ほくがここを出発するまで、外にいてほしかったん ナオシが、いちばんあおい顔をしている。赤ん坊は、はしゃいで だよ。あとの連絡はつけておく。きみたちを救助する船は、二カ月 いる。水陸両用車を連転している。ヒートは、 かなりのスビードでとくらいあとにくるたろう」 ばす。昻奮しているようだ。 それをきいたとき、ジ = ンコは彼がかわいそうになった。 五分ほどはしらせると、彼はクルマをとめた。 「サプ、いっしようけんめいやったのね。だけど、燃料はぬいてあ 「船長、このへんでいいですか」 るのよ」 その声は、確信をつよめた。 サプの顔が、一瞬痴呆のようになった。 「ええ。あかりをけして、そこの木のかげにはいって」 「ああ、ぼくは : : ・・」 サ・フには、なにかあったら、花火をあげるようにいってある。 。ヒ 1 トは、かけあがって、彼の銃をとりあげた。 彼らはくらいなかで待った。 「いつも、ドジな役ばっかりだな。トカゲにはかみつかれるし」 「どうしたんだ ? 」 彼はなぐさめるように、サ・フの肩をたたいた。彼はしずかにすす り泣きはじめた。 ナオシがたずねた。 「サ・フの経歴をといあわせたの。たいしたものは得られなかった「ああ、よかったなあ ! よかったなあ ! おい、おれと仲よくく わ。つまり、彼が殺人容疑者として追われている、ということ以外らそうぜ。 = = ーカレド = アだ、 = = ージーランドだ。よかったな あ ! おれたちは、朝日のようにさわやかに、くらすんたよ」 ジュンコは、しずかにこたえた。 ナオシは、赤ん坊を抱きあげて、何度もほほすりした。 「それじゃ : 彼は銀のフルートをとりだした。 - 「これは、全部、しくまれた芝居だとおもうね」 ヒートが、かわりにこたえた。 夜はまっくらだ。

4. SFマガジン 1977年3月号

「 : : : やつばりね」 ジュンコは、瞬間、血がひいていくのを感じた。 ジュンコはつぶやいた。ビートはするどい目で、彼女をちらとみ 1 マンなのだ。たかいビル ノハ、おれはしつはスー こ。 もひとっとび ! 」 サ・フはわざとらしく、胸をはってみせた。。ヒート が足の先でもち「あの赤ん坊は、ナオシにとって、ひどく大事なものらしいな」 あげると、それは軽々とあがった。 「過去の総決算の象徴でしようよ。彼もだいぶつかれているから」 ジュンコは、きのうの夜かんがえたことを、ロにだしてみた。ビ 「これ、おそらく、なかが空洞になってるんた」 ートは、遠慮がちに「どうおもいます ? 」とたずねる。 「おどろかせるなあ、この森は」 「悪魔の申し子 ? 」 ナオシが、はじめて笑顔をみせた。 ジュンコは、あるかんがえがうかびあがってくるのを感じなが 午後、。ヒートとジュンコは村へいった。水陸両用車がちかづく と、のろしのようなものが、あがった。ひとびとはあわてふためいら、いってみた。 「そうかもしれませんね。あるいは、われわれの到着におどろい て、家のなかにかくれる。 「どうしたんだ ? 」 て、神へささげられたのかもしれません」 「ナオシはここへのこればいいんだわ」 「おどろいただけよ。ここからは、あるいていきましよう」 。ヒ 1 トはこたえない。用心ぶかい男なのだろう、とジュンコは推 だが、どの家も戸をとざしたままだ。屋根は草でふいてある。壁 につかわれる丸太は、おそらくさっき彼らをおどろかせた、。ハイプ測する。 リーだろう。 井戸が三つ、戸外で食事するためのながい椅子のようなものがい この世界の太陽は、青つぼい。大気のせいだろうか。地球と似てくつか。 「かえりましよう。これ以上、取穫はないみたいだから」 いるが、組成がややちがうのだ。 彼らは、水陸両用車へもどった。 「あっちに広場があるみたいよ」 ジュンコは、先に立ってあるきはしめた。 集会場といって、さしつかえないのかもしれない。円型をなして夜は、それそれの仕事ですぎた。 ジュンコはひとりで、コク。ヒットへこもった。最寄りのステーシ いて、地面は石で固めてある。中央に、石の柱が四本立っていて、 ョン基地をよびだす。 まんなかに机のようなものがある。 この惑星は未発見のものたろうか、という疑問をもったからだ。 その机には、たったいまほおりだしたとでもいうように、森のな だいたいの位置をしらせると、ややあっておもったとおりのこたえ 7 かの石の台のうえにあった、白い葉のついた小枝がある。呪術的な がきた。 性格があるのは、確かなようだ。

5. SFマガジン 1977年3月号

「そんなことより、サプをどうするの」 「魔法にかかったんだから、なにかなおすものがあるはずだ。ある びとつの呪文とか : : : つまり、全部、あの赤ん坊が原因なのだか ら」 「。ヒート、おまえ」 ナオシがどなる。 「いや、宇宙にでたら、常識はすてなきゃいけない。手脚が何本も はえてくる、奇型の住人たちをお・ほえてますか。あれで、彼らにと っ・ては、まったくの正常なんだ」 彼は演説口調になってきた。 「だから ? 」 いまになにかがわかるだろう。さっき問いあわせをしたときの確 信が、ふたたびうかびあがってきた。 ピートの目は必死だ。 「たから、サ・フをすくうために、 いまから村へいかなきや、だめ だ。さもないと、彼は死んでしまう」 「そんなこと、わたしが本気で信じるとおもって ? 」 彼女は、わざといってみた。 「そんな石頭だったんですか。サプが死んでもいいのか」 彼女よ、、 。しそがしく計算している。さっき燃料をみておいた : 「わかったわー 「サプはおいていくの ? 」 ナオシがたずねる。 「ぐあいがわるいんだから」 ヒートがかわりにこたえた。 「ぼくは、まだ大丈夫た」 0 三好真幸 〈神奈川県〉〈石川県〉 続〈東京都〉 菊池幸子塚田順東泉亀山春樹 よ ジ 〈広島県〉 古屋徳夫八木路子〈福井県〉 関根タ起倉林和子吉田啓一郎 小林緑 伊藤修子大塚貴〈奈良県〉 〈島根県〉 古沢新一山田久美子佐屋直岡本紀子 〈和歌山県〉 佐藤和孝〈静岡県〉 小谷喜好 庫 藤沢浩憲瀬尾説子楠本孝〈山口県〉 文 於保真理 宀衣中森正一郎平井美由紀〈京都府〉 一ア発加藤敦子青木類秋本淑子〈愛媛県〉 村上子 ス者白石峰雄荻野加寿子〈大阪府〉 山本正文大本千代子 選長野裕子〈長野県〉 小保方繁子木下敬子〈香川県〉 山ョ加野正江 ワド下城喜美代〈愛知県〉 植田良夫大森愛子 何部売武田勇神田修身〈徳島県〉 ャカ高原秀子林義幸森田浩一竹内茂恵 者西尾昌子河合正之済原茂夫〈福岡県〉 回鈴木英夫伊藤信子黒下俊和荒木ゆかり 愛斎藤雅子馬場智子三倉美佐子常岡由岐 小沢紀一内藤裕子滝山慶一〈大分県〉 第 榎本康長〈岐阜県〉 西原明浩平川栄一 立石真也堀哲夫〈兵庫県〉 荒牧真理子 宗形サク子〈新潟県〉 佐々木光枝〈長崎県〉 梼内和喜横野文子筰原八重子坂上洋子 山田かおる矢野千重子土井英津子〈熊本県〉 吉川栄明〈富山県〉 谷地雅子赤松宜子 坂間まち鍛治明子〈岡山県〉 早川書房ーー Ⅳ 5

6. SFマガジン 1977年3月号

みた ? 」 ゃべっているのはわかるが、内容がききとれないせいたろう。 「クルマの屋根のうえから、望遠レンズをのそいたんです。ここら「。ヒートから、はなしはきいたけど : : : 」 へんの写真をとっとこうとおもってね。わりあいに原始的な集落で彼女は声をひくくした。 すが、女が皿みたいなものを洗ったりしてましたよ」 「ええ、・ほくもです。彼がおかしなものがあるっていって、森のな ふたりは、もとの場所にもどった。 かのあれをみせてくれたんですよ」 そこへ、水陸両用車がやってきた。 「歯型を発見したのは ? 」 「・ほくですよ」 「うさぎはどう ? 」 ジュンコはあかるい声でたずねる。ガスの効果は持続しているは 「吸血鬼みたいね」 ずだ。 「なんか、そうみたい。きのうの夜、・ほくとビートは下で寝たけ ど、部屋はべつです。ナオシと赤ん坊は食料庫のわきたし : : : 」 「まだ、わらってるー ナオシは赤ん坊といっしょにおりてきた。 サ・フが、しなをつくってこたえた・ 「お昼、もってきた ? 」 ナオシは無表情である。彼のひざのうえで、赤ん坊がはねてい ジュンコは、話題をかえた。 た。まったく無邪気にみえる。 「サ・フが、つみこんできたはすだけど : : : 」 「あれは、悪性新生物っていうとこね」 ナオシは、どことなく口ごもるような感じだ。しかし、彼はいっ おりてきたサ・フに、彼女は、はなしかけた。 も、そんなしゃべりかたをする。 「まったく」 彼らはそこにすわって、昼食をとった。 彼はサングラスの向こうで、わらっている。義眠をはめた目も、 「うわあっ ! 」 わらっているようにみえる。 サ・フがとんきような声をあげた。 「ほんとにさあ、ひどいのよオ。なんでもかんでも口にいれちゃう し、なんでも破ろうとするし、罐のふたあけて、中身を台所じゅう大木が倒れてくる。ナオシは赤ん坊を抱き、ジュンコもビートも にまきちらすし。これから、そのあとを追っかけてそうじしなきやとびのいたのに、彼はまたしても、逃げることができなかった。 ならないんしゃない ? あたしや、女中じゃないんだよ、 サ・フは大木の下敷きになった とおもった。ところが彼は、お 「あの子が人間だとしても、そうはおもえないな」とビートも、おそるべき怪力を発揮して、その木をもちあげ、はいだしてきたの いぎよう なじような調子で。「あれは、異形のもの、という感じだよ。かわだ。おとなふたりが両側からかかえようとしても、たがいの手がと どかないような巨木である。 いらしい奇型というところかな」 吸血鬼に怪カ男 ! ナオシは、不安そうにこちらをながめている。赤ん坊についてし

7. SFマガジン 1977年3月号

にかのイミがあるとおもいますよ」 「なんなの ? 」 「まさか、それじゃ、赤ん坊を : : : なんのために ? 」 「ここからすこしいったところに、集落があるはずですね。今朝、 「それをしらべたいんです。きようの朝、気がついたんですけど、 のろしみたいなものがあがっていたでしよう」 あの子がひとりあそびしてた台所に、サプがどうしてもといって、 「あれは、呪術的なものではないでしよう」 「いや、赤ん坊に関係あるとおもいますが。さっき、サ・フときのういれたテー・フルがあったでしよ。ちいさいものだけど。あれの脚 の場所へいってみたら、妙なものがみつかったんですよ。あのすぐに、歯型がついてたんですよ」 いけにえ ちかくに、急拠こしらえたちいさい生贄台みたいなものがあったん「だって、歯なんか、はえてないでしよう」 「ええ」 「あなたが、酔っぱらってやったんじゃないの ? 「案内しなさい」 いつもの調子で、ジュンコはいった。 ナオシとサプは、催眠ガスでねむらされた。ヒンクうさぎを水陸両 「いや、・ほくは、そんなことしてませんよ」 冫いったんひきか 用車にのせて、船にかえるところである。サプこ、 「でも、のんだでしよう」 えしてくるようにいし 、つけて、彼女は。ヒートのあとにしたがった。 「それはそうですけど」と、。ヒ 1 トはきまじめにこたえた。「いっ そこは木が切り倒され、すこしひらけている。ひらたい石のうえ に、このへんではみたことがない種類の、白い葉のついた枝がかざもほどは、のみません。それに、あの歯型はちいさいし、牙がある ってある。その石のうえに、なにか呪文がかきつけてあるちいさなみたいなんです」 「まさか」 札がたくさんついた、トゲのある植物のつるがあった。 ジュンコは首をふった。 「これは、血じゃないの ? 」 「ハリ星の、銀いろキ。ハネズミじゃない ? 」 わずかにこびりついたそれを、彼女はしさいにながめた。 おもいついて、ジュンコはいった。 「そうだとおもいますよ」 ビートは冷静にこたえた。 「そうかもしれませんね。それにしては、おかしいな。きのうは、 「あの子の血 ? 」 ・ほくたち三人と赤ん坊が台所にいて、そのあと、サ・フと・ほくとは、 「まだしらべてませんけど、たぶんね。つまり、あの子は、ここで下へおりていったんです。キパネズミなんかあがってこれるわけな いし、たとえ網を喰い破ってきたとしても、だれかが気づいたはず けがをしたはすなんですがね。すこしも血をながしていなかった。 あるいは、これはまちがいなのかもしれない。仔羊かなにかを、こですよ」 こで殺したのかもしれませんね。それにしては血がすくなすぎるか「わかったわ・調査しましよう。もうそろそろ、もどってくるころ だから : ・ : ・赤ん坊をつれてくるはずだし。集落のほうへは、し ら、そこにあつまった者たちが、指に傷をつけたとか、とにかくな

8. SFマガジン 1977年3月号

いように、気をつけなければならない。 「なにが ? 」 「二日あれば、五匹はつかまえられるでしよ。どうおもう ? ピー 彼女は、ことさらにあまい声をだした。 「・ほくは、優秀なクルーじゃない」 「楽勝だねー 「あら、ユ 1 シューよ」 「よろしい。では、あしたから五日、ここにいるわ。三日めは、あ「からかわないでくれよ。ここへのころうとおもったけど、生きて のちいさい動物にワナをしかける。四日めに出発準備」 いける自信もない。あしたから、下へいって、ピートと寝るよ」 「 O 」 これはまさに脅迫である。ジュンコは、男がいないと、イライラ 。ヒートは立ちあがり、下の層へおりていった。サ・フは、食料庫兼して判断をあやまることがある。 台所へいく。 「べッドがないわよ」 「下にはふたつあるでしよ」 せまいキャビンには、女と男と赤ん坊がのこされた。 「もうひとつは、サ・フがっかってるわ」 ジ、ンコは彼のまえに立ち、胸もとのファスナーを下までおろし「ああ、そういうことか : : : じゃ、食料庫のわきでいいよ」 た。からだにびったりついた、肌いろのウールの下着があらわれ「あなた、わたしがニンフォマニアだとおもってるんでしよ。、、 る。食欲が減退したような顔で、ナオシはそれをみていた。 わよ、ご自由に。ただし、赤ん坊は : : : 」 ナオシは、顔をあげた。 下着は、手首と足首まで、からだ全体をおおっている。胸もとの スナップを五つまではすした。それから、両腕を彼の首にからませ そのとき、赤ん坊が泣きながらおきてきた。「ヒエー」というよ る。 うな、たよりないかなしげな声をあげる。目をこすりながら、数歩 「どうしたの ? 」 あるき、ジンコにむかってたおれかけた。彼女は腕をのばして抱 ジュンコは、からかうような目で、彼の顔を下からみた。ナオシきとめる。 は目を伏せている。 腕のなかで抱きなおすと、泣くのをやめた。赤ん坊は手をひらい 「あんたには、おれの気持ちなんて、わからないんだ。あんたは、 て、彼女の肌いろの下着をひつばった。 「だめよ。いやね、この子」 浅薄で残酷な女たから」 彼は、はっきりしない発音でそういっこ。 赤ん坊はおもしろがって、ますますびつばる。ばかにできないカ 「ふん、ふん」 だ。手をはなさせると、今度は髪をひつばる。 「痛いじゃない ! 」 ジュンコはあいかわらす、ややシニックな微笑をうかべている。 「だから、けっこうです」 ジ = ンコは高い声をあげ、赤ん坊を床におろした。赤ん坊は脚を 8

9. SFマガジン 1977年3月号

くさいにおいがし ジ = ンコは、船長として重視されたくて、そのためだけに反対すやらしくしたような動物が、親かもしれない。 て、ぬめぬめした黒い肌から、毛がちょろちょろはえてて、あんな るのだ。 「そんな、大げさな。トカゲがでてきたら、あたしがかみつかれてにゾッとする生き物をみたのは、ひさしぶりよ。あれが、おそ「て くるかもしれない」 やるからさあ」 ジンコは、この赤ん坊がというより、ナオシの態度に、正常で サ・フのことばで、きまった。 はないものを感じとったのだ。 森はしだいに、まばらになっていく。大きな木の切り株に、赤ん「武器はある」 しいから、その子はおい 「たたかうのさえ、気持ちがわるいのよ。 坊がっかまり立ちしていた。よくふとった子で、ウールでできてい るようなフ = ニキア人みたいな服装をしている。なみたが . ほほをぬてきなさい。他人の子なんだから」 を。しかないよ。すてられてるの 「たからといって、ほっとくわけこよ、 らし、びつくりしたようなこげ茶の目が四人をみつめている。 「人間の子だよ」 「そのうち、ちかくで材木 「いや、さっきのは冗談さ」とビート。 サ・フが、ホーツと息を吐きだす。 「コイン・ロッカーの時代から、すて場所はいろいろにかわりますでも切りだしてる親が、昼めしでもどってくるかもしれない」 赤ん坊は、緊張したおももちで、左の親指をくわえている。だれ なあ」 。ヒートは、気のきいたことばをおもいついたつもりである。だれかがしゃべるたびに、それぞれの顔をじっとながめる。 「だってナオシ、地球の人類とはちがうかもしれないけど、やつば も同意したり、わらったりはしない。 り人間の子供みたいじゃないの。そう簡単につれていくわけには、 「人間の子であるはすがない」 かないよ。動物しゃないんだから」 ナオシが、かすれた声をだした。 サプがもっともな意見をだした。ナオシは「うむ」とかなんと 「でも、そういうふうにみえるわ」 か、ロのなかでこたえた。だが、全面的に同意しているわけではな ジュンコが首をまげた。赤ん坊はにつこりわらい、「ウーツ」と よびかけた。はしゃいで、切り株を手のひらでたたく。 ナオシはすいよせられたようにうごき、「やめなさい ! 」という「こんな赤ん坊をひとりでおいとくわけがない。道にまようっての も、かんがえられないよ。ろくにあるけないみたいだからな。こん 声もきかずに、赤ん坊を抱いた。 、とおもってるんだろう なとこへほおりだしてく親は、死んでもいし 「あぶなくなんかないよ」 冫冫し力ないよ」 よ。それを、見殺しにするわけこよ、 子どもは、彼の腕のなかにきげんよくおさまった。 彼らは、たがいに顔をみあわせている。 「だって、親がでてきたら : : : さっきの、ゴリラをうんと凶悪にい 5

10. SFマガジン 1977年3月号

ナオシも、おそらく似たような過去があるのだろう。それを口に台所では、ナオシがフルートを吹いている。曲は「朝日のように しないところが、いやらしい。もったいぶることもないのに、とジさわやかに」という、ジャズのスタンダードだ。 それにしても、かなしげなメロディーだ。 ュンコはおもう。 それから、男と女ではどちらが未練たらしいかをかんがえ、圧倒「これは、男が娼婦と寝て、朝かえってくるとぎの心境をうたった んだ」とナオシはいっていた。 的に男のほうであるという結論に達した。 台所では、ナオシとサ。フがわらい声をたてている。ナオシは、今むかしょんだ小説で、黒人の女と白人の男が同棲するはなしがあ とふと考える。彼はった。その黒人女の兄は、白人女といっしょにいたが、彼女をひど 度の航行のあと、やめてしまうかもしれない、 いめにあわせて、自殺してしまうのだ。 単純な生活がしたいのだ、といつもいっていた。いまの世の中は、 「それでもいっかは、裏口に陽がさすこともあるだろう」と女は台 あまりにも複雑すぎるよ。ニュ 1 ジーランドか、ニューカレドニア か、そのへんへいって、のんびりくらしたいね。いや、地球とはか所でうたっている。な、せ裏口なんだ、と白人男はかんがえる。 ナオシは、なにかに破れた男なのだ、確固たるものがほしいん きらないよ。ミ 1 ル星なんかは、気候も温暖で、ひとびとも親切だ ・こ、とジュンコはかんがえた。 から。 ヒートがわめいている。はきだめの人間たちがあつまって、酒を 彼もまた、自分の青春から逃げているのだろうか。ジュンコは、 彼女が強制したとき、彼があっさりとス。ヘース・サーヴィスをやめくみかわしている。それにまじって、赤ん坊の喃語もきこえる。マ 、 0 、ツ 0 、ツ 0 、 0 ンマンママン、ウー たことをおもいだした。 あれは、ほんとうに地球人の赤ん坊にそっくりだ。 サ・フが例の得意げな調子で、なにかいっているのがきこえた。な んとビートの声もする。彼はどうもアルコール : はいっているよう な調子なのだ。サプがあたえたにちがいない。彼はサ・フにはなしを 翌日も睛れていた。 つけて、ウイスキーを二十本以上もつみこんだ、なんてジュンコは 。ヒンクうさぎはじつにのろまで、十二匹をつかまえることができ 知らなかったのである。 た。老い・ほれたのは、はなしてやる。 どいつもこいつも、とジ = ンコは腹だたしくおもった。船長のあ赤ん坊は、キャビンにとじこめて出かけた。二時間ばかりする たしを、なんだとおもっている。あたしがいなきや、やつらは大気と、ナオシがそわそわしはじめた。気がかりなのだろう。三時間た しいはじめた。 っと、彼は「はやめの昼食にかえろう」と、 圏外にでることすら、できないのだ。 クルーはどこでも不足しているので、しかたがない。いいかげん「ちょっと気になることがあるんです」 ビートが、ジュンコにだけきこえる声でささやいた。 な人間ばかりあつめて ( そのなかに、もちろん自分はふくまれてい 「水陸両用車を、二時間、かしてくれませんか」 . ない ) あたしはまるで、はきだめあさりだ。 0