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検索対象: SFマガジン 1977年3月号
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1. SFマガジン 1977年3月号

完全に圧倒した。今こそ、人類の最も古くからの夢の一つが、実現た峰々の展望に、彼らはいうべき言葉もなかったのだ。 したのである。 ー。 ( ーは、吊り革の浮揚力に身をまかせながら、空をゆっくり 数週間前、図書部員の一人が、二〇世紀初頭の詩の中から、彼らと見まわした。彼は、まわりを取りまく巨人たちを識別しながら、 の業績をあますところなく表現した一節を発見したーーー「無慈悲な ロ 1 ーノエ、くレ / ッ 心の中でその名を呼んでいった。マカルー、 空を安らかに往く」。鳥でさえ、第三の次元の自由を、これほどま ・オュー、カンチェンジュンガ : これらの峰々の多 でに謳歌したことはなかった。これこそ真の空間の征服なのた。 くは、今でも征服されていないのだ。いや、レッヴィー・、、 カ亠ラみ、に レヴィテイタ 世代前にアクアラングが海を解放したように、空中浮揚機は世界のも事態を変えることだろう。 山や高地を解放するだろう。この装置がテストに合格し、安く大量もちろん、それに不賛成でありそうな者も、たくさんいる。だ 生産されたときには、人類文明の全局面が変化するだろう。輸送に が、二〇世紀の当時にも、酸素を使うことが「インチキ」だと考え は革命がおこるたろう。宇宙旅行は、ふつうの航空機と同じくらい た登山者がいたのだ。かって、何週間もの高地順応の後とはいえ、 金がかからなくなるだろう。人類は一人残らず空へ向うだろう。自人工的な補助具を何一つ使わすにこの高みに到達しようとした人々 動車の発明が一〇〇年前にもたらしたことは、これからおこるべき ; いことは、信しがたいことだ。ハ ー。、ーは、まさにこの場所から 茫然とするような社会的、政治的な変化にくらべれば、軽い小手し一マイル以内と思われる場所に、その遺体が今も発見されないまま らべにすぎないたろう。 に埋まっている、マロリーとアーヴィンのことを思いたした。 だが、エルウイン博士が、この孤独な勝利の瞬間に、こんなこと背後で、エルウイン博士が咳払いした。 を何一つ考えていないことは、ハ ノーには断言できた。いずれ、 「出かけよう、ジョージ」と、彼は、酸素フィルターで声をくぐも 彼は世界中の賞讃を ( そして、おそらく世間中の呪詛をも ) 受けるらせながらいった。「皆が我々のことを探しはじめる前に戻らなけ だろうが、それは彼にとって、いま地球の最高点に立っていること りゃならん」 にくらべれば、何ほどのこともないたろう。これこそ、実に、物質彼らは、自分たちよりも前にここに立 0 たすべての人々に無言の に対する精神の勝利であり、弱々しく不具にされた肉体に対する純 別れを告げ、山頂を後にして、緩い斜面を下りはじめた。今まで鮮 然たる知性の勝利なのた。それ以外のことは、色褪せた余韻にすぎやかに晴れていた夜は、暗くなりはしめた。高い雲が月面を烈しく ないのだ。 掠め、月の光がさしたり隠れたりして、時にはルート が見えないほ ーパーは、平坦で雪に覆われた尖塔の上に立っ科学者に合流どだった。ハ ーパーは天候の様子が気にくわなかったので、心の中 し、二人はやや儀式ばったぎごちないしぐさで握手した。そうするで計画の変更を考えはじめた。ことによると、ロッジに到達するこ ことが適切であるように思えたのである。だが、二人は何も口をきとを考えるよりも、サウス・コルの避難小屋をめざす方がいいかも かなかった。やりとげたことへの驚嘆、見渡すかぎり四方に拡がっしれない。しかし、杞憂にすぎないかもしれないことをおもんばか 8

2. SFマガジン 1977年3月号

いすれにせよ、われわ ーなどの極端な変化とかかわっています。んでした。それは、計算尺や対数表がなくでみましようか いわゆる主流文学との違いは、そこに なったことです。こんなことを、いっこ、 れは宇宙へ飛び出していくことでしよう。 “あるんでしよう。 だれが予想できたでしよう ? それが、こそこが、なにもない世界か、生命に満ちた 、小松そのとおりですね。こそ、現代の五年のうちに、電卓によって計算尺も対世界かなどということは小さな問題です。 圓以後の文学と一一一口える。 数表も一掃されたんです。まったく、信じそれはこの数世紀のうちに解明されていく ことですから。月への最初の着陸を、人類 ークラークそして、が現代にもっともがたいことです ! そのうちに、計算尺な Ⅲびったりした文学であるという理由としど知らないという技術者も現れるでしょの偉大な冒険と表現したのは正しかったと ⅲて、こんなことが考えられます。過去の数う。小松さん、電卓がソロ・ハンに与えた衝思います。しかし、どのように偉大な冒険 であったかを知るためには、千年もの歳月 世紀はまったく変化のない時代でした。そ撃はどんなものでした ? 同こでは、祖父と同じ仕事をその孫もやり、 を待たねばならないでしよう。これは単な 小松それについて、あなたのおもしろい -= そのまた孫も同しことをやっているのが、短篇を読んだことがあるんです。 る肉体的な冒険ではありません。心と精神 た、たい見当がつくんです。それが、このクラーク「時を掃く」 ( 編集部註Ⅱコンビの冒険です。そして、それがどこで終るか 一世紀の間にまったく変ってしまいましュータが使えなくなった宇宙船内で、乗組員が はたれにもわかりません。もちろん、われ 旧た。現代の状況では、ひとりの人間は、二手わけしてソロ・ハンを使い軌道計算をする物語 ) われは宇宙の中でのおのれの立場の卑小さ Ⅲ十年間同じ仕事をしてはいられません。とでしよう。『川の世界の物語』に収録されを思い知るでしよう。しかし、だからとい って卑屈になることはありません。天使よ いうのも、その仕事自体がそんなに長い間ていますよ。 存在しないからなんです。一例をあげてみ 小松そのアイデアは、どこで思いついたり猿のほうに限りなく近いとわかったにし ても、同時に限りない未来が約束されてい ましよう。二十年前には、コンビュータ・ んですか ? プログラマーという仕事はありませんでしクラークわかりません。でも、数学関係るのです。われわれは、かってどんな劇作 た。それが現在は立派な職業としてなりたの機械にはずっと興味を持っていたんで家も詩人も、夢想だにしなかった広大な魅 っているんですが、これからはもう存在しす。そうだ、たしか写真か漫画だったと思惑的な舞台で、より幅広く感動的な役割を なくなります。コンビュータに話しかけれうんですが、それを見てなんとなくアイデ演じることになるでしよう。かっての占星 ば用が足りるようになりますからね。これアが浮かんだんです。コンビュータのそば術師たちは、まったく逆の意味で真理を述 で、が変化を、それもしばしば根本的の壁に小さなガラス・ケースと手斧が掛っぺていたのかもしれません。彼らは、星が ていて、ケースの中にはソロ・ハンがはいつ人間の連命を定めると信じていました。し な変化を描写しうることがわかるでしょ かし、人類が星の運命を定める時がやがて いう。ささいなことですが、もっと重要なているんです。それから、こう書かれてい 贋変化の具体例をあげてみましようか。五年ます。「事故の際には、ケースのガラスを来るのです。 ( 一同拍手 ) : ところで、ひ い前には、だれも予想のつかなかった変化で割ってください」 ( 笑 ) 間す。作家にも、それは予想がっきませとっ明日の講演のしめくくりの部分を読ん 6

3. SFマガジン 1977年3月号

いのだ。しかし、彼の種族をもっとよい船乗りにかえる見こみのあわの空で聞いていた。彼の思念も、その友人たちの思念も、遠く海 るものなら、もちろんためになるにきまっている。この十年のあい の上に飛び、この世界の歴史をつうじて最大の知らせをたずさえて だに、エリスは純粋な知能だけではどうにもならないことがあるの いるかもしれない船団の帰還を、出迎えているのだった。 を発見していた。どんな精神的努力をしても獲得できない熟練とい エリスが報告をおわると、アレテノンは立ちあがり、落ちつかな うものが、この世にはある。彼の種族は水に対する恐怖をいちおうげに広間の中を動きまわりはじめた。 克服はしたが、まだ海の上では無能もい、 しところで、世界最初の航「きみたちは、われわれがあえて希望をかけた以上に、よくやって 海者となる栄誉をフィレナス族にゆずらなくてはならなかった。 くれた。すくなくともここ一世代のあいだ戦争はなかったし、食料 最初の雷鳴が海のほうからとどろいてくるのを聞いて、ジェリル の供給も、史上はじめて人口を追い越した これも新しい農業技 は不安そうにあたりを見まわした。彼女は遠い昔セロディマスにも術のおかげだ」 らった首飾りを、また首にかけていた。だが、いまの彼女が身につ アレテ / ンは彼の部屋の調度にちらと目をやり、かなりの努力で けている装飾品は、それだけにとどまらなかった。 昔を思いだした。彼の若い頃には、 いまここにあるすべての品物 「船が無事だといいけれど」ジ = リルは心配そうに感想をのべた。 が、彼自身にさえ、およそありえないもの、あるいは無意味なもの 「それほどの風はない。彼らはこれよりも「とひどい嵐を、なんべに見えたことたろう。あの当時、すくなくとも彼の種族の知識の中 んも乗り切ってきたはすたよ」 には、単純きわまる道具すら存在していなかったのだ。それがいま アレテノンは彼女にそううけあってから、一行を自分の洞穴に案はどうだ、ここには船も、橋も、家もあるーーーしかも、それはまだ 内した。エリスとジ = リルは、留守中にフィレナス族がどんな新し手始めにすぎない。 い驚異を作りだしたろうかと、興味しんしんで洞穴の中を見まわし「わたしは非常に満足たよ。われわれは、かねての計画どおりに、 た。たが、かりにそんなものがあ「たとしても、例によ「てそれら文化・せんたいの流れを変え、行く手にあ「た危険をうまく横にかわ は、アレテノンが見せる気を起こすまでどこかにしまいこまれて いした。むかし〈狂気〉を作りだしたあの力は、まもなく忘れ去られ るのだ。そういうささやかな謎でみんなをびつくりさせることに、 るたろう。あの秘密を知っている者は、わたしを含めてもうほんの アレテノンはいまでも子供「。ほい喜びを感じているらしいのだ「すこししか残「ておらす、わたしたちは死ぬまでその秘密をもらさ ないつもりだ。たぶん、子孫がそれを再発見する頃には、彼らはそ この会議には、事情を知らない傍観者ならけげんに思うような、 れを正しく使えるほど賢明になっていると思う。それに、われわれ 一種の放心したような空気があった。 = リスが外の世界のいろいろがこれたけたくさんの新しい驚異を発見したおかげで、これから千 な変化を話し、新しいフィレナス族の移住地の成功、彼の種族のあ世代ほどのあいだは、自分たちの心の中をふりかえって、そこに閉 いだでの着実な農業の成長を報告するのを、アレテノンはなかばうじこめられた力をいじくりまわすような暇はないかもしれない」 こ 0

4. SFマガジン 1977年3月号

たものである。ゴッツチョークは、彼自身が心理学間を過ごすセックス・殺人・増殖機械と大差がない『狂気の惑星』は、シグマ・ドラコニスの回りを公 者なので、この考察に詳しい ので、彼らに感情移入をするのは容易ではない。 , 彼転している地球型の惑星の植民地化の物語である。 この小説の世界では、子供達が思春期 ( 五歳 ) にらは余りにもわれわれとかけ離れており、突きはな移民たちは、人体にとって異質な環境での生活に適 なると慣習的な避けられない両親殺害を ( 社会公認して描かれているので、一抹のあわれみの情でさえ応するために耐えていかなくてはならない。物語の テク′ . 0 ジースビーク のもとに ) 行って成年期に入る。そして、朝食に五起こらないのだ。科学技術用語が大量に使用されて中心課題は早来の宇宙植民者達が、この世界をあっ 十ミリグラムのアンフエタミンを飲み、″交接マ トいるために、登場人物の会話は二台のコンビータさりと地球の複製に作りかえることができるかどう リックスに複雑な模様の摩擦べクトルを織り込みなーのデータ・インターフ = イスのような印象を与えかということである。プラナーの答はノーだ。彼ら がら″愛を営む。五歳になる二人の主人公、ジョナる。 は自ら新しい環境の一部にならなければだめなので スとキャロルはこのような世界に住み、両親を殺し、『 3000 街層に育って』がそのおそろしく巧妙なある。 最後には、 ( まだ五歳で ) 、自分達の子供を生む。技法にもかかわらず、無惨に失敗した理由はこれだ主人公はデニス・マローンといって″アスガー テレ。 ( シー能力をもっ胎児は、誕生前に既にうんざと思う。私は登場人物にまったく関心を持てなかっド″という名のこの惑星を最初に探検した四人の人 りとした様子で、羊膜液の味や子宮内生活の退屈さた。ゴッツチョークは、真のクラシックを造り出す物のうちの一人だ。この植民地は、宇宙船三隻分の を報告し、母親にロ答えをし、性的ないたずらをしことも出来たのに、本当に感動的な物語に要求され移住者で建設が予定されていたのだが、コースの計 ながら産道を出てくる。それは、電子的・機械的なる深い人間性を、そこに吹き込むのをおこたったの算ちがいから、その一隻は″アスガード″の月に衝 生命維持装置、テレポーテーション、テレバシー 突してしまう。その船で、地球に帰ることになって 体に移植されたコンビューターなどで補強された人 いたマローンは、″アスガード″に残らざるをえな 間が、天使に近づいたにもかかわらず、破壊と変態ジョン・プラナーの小説は、すくなくともアクシくなった。 性欲を通してしか、喜びを得ることが出来ない世界ョンに満ちた面白い読物だということで、いつも期合計一八七人の男女から成る移住者は、すべて健 なのた。小説の終わり近くでジョナスとキャロルは待を裏切らない。私としては、面白いだけでなく、康で、いろいろな人種から編成されている。こうい 政府から逃れる。政府はキャロルを、彼女自身のク人間についての深い考察を示してくれる小説が好きう限られた人数で、惑星の植民を企てることには疑 ローンを殺し、生死証明書を偽造した罪で、逮捕しだ。・、、 カ時には、余り考えずに読める小説ーー達者問がある。いくら各人種が混合し、自由な性的関係 ようとしているのだ。だが、二人は亡命生活をきらに書かれていて、詩的なところもあるが、全体としをと「ていたとしても、二、三世代の間に、植民 やがてまたもどってくる。 ては石けんの泡のように軽く、そしてキラキラ輝い地は悲惨な遺伝子浮動を経験することになるだろ 混み入った筋ではない。それはかまわない。多くているだけの小説ーーーもまた良いものだ。 う。彼らの遺伝子。フールは余りにも小さすぎるから の優れた本は、複雑な筋を持たないものた。しか ブラナーの新作『狂気の惑星』 "BedIam Planet ・ ) た。 し、登場人物が充電機にプラグを差し込んで睡眠時も、このたぐいの、おすすめ出来るストーリーだ。移住者は、新世界の開拓に着手する。マローン LL 、スキャナー ( こ に 4

5. SFマガジン 1977年3月号

ジェリルは、エリスが小さく身ぶるいするのを感じとった。アセとで悩み、ときおり罪悪感にうちひしがれることがあるのだった。 レナス族は水を嫌う。その理由は簡単明瞭で、彼らは骨格が重すぎアレテ / ンの話は、エリスにはよくわからないことが多かったが、 るために、泳ぐどころか、水中に落ちるとたちまち溺れてしまうのその後、年月がたつにつれて、したいに鮮やかに思いだされるよう こよっこ。 「すると敵の領土の中だ。むこうはおれに好感を持っていまい」 「われわれは歴史の転換点に到達したんだよ、エリス。われわれが 「むこうはきみを尊敬している。それに、きみが行くのよ、 なしいこと発見したカは、まもなくミスラニア族にも知れるだろう。こんど戦 かもしれない いわば友好的なジェスチャーとしても」 争が起これば、両方が破壊しつくされる。これまでの一生をつうじ 「しかし、おれはここで用のある体だ」 て、・ほくはわれわれの心に関する知識をふやそうと努力してきた 「誓ってもいいが、きみがここでどんな用をするにしても、それは が、いまになってみると、自分がこの世界に、われわれの制御しき セロディマスがきみのためにーーーそして全世界のためにーー、用意しれないほど強力で、危険なものをもたらしたんじゃないかと、そん たメッセージほどには重要じゃない」 な気がするんた。といって、いまさら後もどりすることはできな 。遅かれ早かれ、わが種族の文化はこの転換点にたどりつき、わ エリスはしばらく思考を隠してから、ほんの短いあいだべールを れわれの発見したものを発見する運命だったんだ。 開いた。 これは恐ろしいジレンマだ。そして、解決法は一つしかない。い 「考えておこう」 まさら後もどりはできないし、このまま前進すれば、災厄が待って いるだろう。だから、われわれの文明の本質そのものを変え、過去 長い旅の日々のあいだにも、アレテ / ンは驚くほどすこしのこと しか洩らさなかった。ときおり = リスは、冗談半分のさぐりを入れの百万世代と完全に縁を切らなければだめだ。どうしてそんなこと て、相手の心の防備をためしてみるのだが、それはつねにやすやすがなしとげられるか、きみには想像もっかないだろう。・ほくも実は とはねかえされた。戦争を終わらせた究極の武器について、アレテそうだった。セロディマスに会 0 て、彼の夢を聞かされるまでは。 心はすばらしいものだよ、エリスーー・だが、それだけでは、物質 ノンはなにも語ろうとしなかったが、それを作りだした一団がまだ の世界に対してまったく無力なんだ。われわれはいま、自分たちの 解散してはおらず、いまなおどこか秘密の隠れ場所にいることを、 = リスは知っていた。過去のことを話したがらないアレテノンだっ脳の力を、何層倍ともしれないほど増大させる方法を知った。それ たが、未来のことはしばしば論しることがあった。そこには未来をを使えば、これまで長年かかって解くことのできなかった数学の大 形づくるのに力をかし、そして自分の行動が正しかったかどうかに問題も、解けるようになるかもしれない。しかし、われわれの生来 の心も、また、いま作りあげた集団心も、古くからの歴史をつうじ 5 疑いを持っている者に特有な、さしせまった懸念がこもっていた。 おなじ種族の多くの者とおなしように、彼も自分のとった行動のこて、つねにわれわれとミスラ = ア族との争いを生みたしてきた一つ

6. SFマガジン 1977年3月号

ジェリルにはよくわかった。あの戦争で用いられた武器は、最後の世界に対しては、彼らはなんの支配力もなかった。家屋も、道具 それを別にすれば、たった二つだったのだ さい、ほとんど役も、衣服も いや、それどころか、どんな種類の人工物もーー彼 7 に立たない前肢についたカミソリのように鋭いひづめと、一角獣にらのまったく知らないものであった。手や、触手や、その他の操作 似た角とである。エリスは、もはやその一つを使って戦えない体に器官を備えた種族から見れば、彼らの文化は信じられないほど限定 なっていた。そして、ときには彼を愛するものたちまで傷つけかねされたものに思えることだろう。しかし、心の順応性と、それが普 ない、エリスの自暴自棄な荒々しさは、おもにこの角を失ったこと通だという事実の力はおそろしいもので、彼らはみずからのハンデ からきているのたった。 イキャツ。フにほとんど気づかなかったし、また、それ以外の生活の エリスはだれかを待っているらしい。だが、それがだれなのか、 ありかたを想像することもでぎなかった。群れをなして大草原をさ ジェリルには見当がっかなかった。エリスがこういう気分のときまよい歩き、食べ物の豊富な土地でしばらくとどまり、食べつくす に、その考えをじゃまするほどジェリルはばかではなかったから、 とまた先へ進むーーそれが当然のこととされていた。この遊牧生活 彼のそばで黙って待ちつづけた。そのあいだにも彼女の影はしだい には十分の余暇があり、彼らは哲学を語るだけでなく、ある種の芸 に長くなって彼のそれと溶けあい、丘の頂きのむこうへと伸びてい , 、にもいそしんだ。テレ。ハシー能力もまだ彼らから声を奪ってはい なかったので、彼らは複雑な声楽と、それ以上に複雑な舞踊を発達 ジ = リルとエリスの属するアセレナス族は、造化の神からのさずさせた。しかし、なによりも彼らが誇りにしているのは、思考の分 かり物では、ずいぶんいいくし運に恵まれたほうだった・ーーしか野だった。というのも、彼らは何千世代にもわたって、あいまいで し、最大の賞品の一つには、とうとう縁がなかったのだ。彼らは強果てしない形而上学の世界の中にみずからの心を遊ばせてきたから である。物理学と、そしてすべての物質科学については、彼らはな い肉体と強い精神をもち、温和な気候の、・肥沃な世界に住んでい た。人間の標準からいっても、彼らの姿は奇妙だが、決しておそまにも知らなかった・ーーそんなものが存在することさえも。 しいものではなかった。なめらかな毛皮に覆われた体は、尻す・ほみ「たれかがやってくるわ」ジェリルはだしぬけに告げた。「だれか しら ? 」 になって一本の巨大な後肢につづいており、この後肢のおかげで、 地上では十メートルもの跳躍を難なくこなせる。二本の前肢はそれ エリスはそちらを見ようともしなかったが、その返事には一種の に比べてずっと小さく、たんに支えと安定の役を果たしているにすこだわりがあった。 ぎない。前肢の先端は、鋭くとがった蹄で、これは格闘のときには 「アレテノンだ。ここで会う約束なんだよ」 恐ろしい威力を発揮するが、ほかのことにはまるで役に立たな、。 「うれしいわ。あなたがたはむかしあんなに仲がよかったんですも アセレナス族も、その近縁種のミスラニア族も、非常にすすんだのーーーあなたがたがけんかしたときは悲しくて」 数学と哲学を発達させるほどの精神能力をもっていた。だが、物質エリスはいらいらと芝を掘りかえした。当惑したり、腹を立てた

7. SFマガジン 1977年3月号

う。私は、旅行恐怖症を克服してキャンべす。 したが、みんなまたやって来ます。 ラ号の船上にいました。その時、私と海の ト松可愛らしいですね、うらやましい。 早川最後に、日本の読者や日本作家 間には、薄っぺらな鉄板があるばかりでクラークまったく可愛いんです。それクラ・フ、それにマガジンにひと言。 旧す。ところが、そこへクラークがやって来に、彼女はやきもち焼きなんです ! 友人クラーク日本を再び訪れることができて 川てーーーやっと『ポセイドン・アドヴェンチの一人で大男のボクサーがいるんですが、大変うれしい。六年前も、そして今回も充 ャ 1 』を上映するよう、船長を説得して来彼女は五百グラムほどのくせに、彼が私を分に楽しませてもらいました。が、以 と言うんです」 ( 笑 ) なでる真似をすると猛然と跳びかかるんで前にもまして日本で一般化したことは、非 ト松すると、アシモフはまだイギリスに。すよ。 ( 笑 ) ちょっと信じがたいんですが。常に喜ばしいことです。文化的、また教育 クラーク え、ニュ 1 ヨークへ帰っ ほかにも、スプートニクと、その子供のレ的な重要性はおくとしても、そこに全世界 ックスというンエ。、 て、ジャネットという、精神科医をしてい ードがいます。その犬的な作家と読者の、とてもユニークなコミ いる新しい奥さんと一緒に暮しています。三のためにも、いくらか時間がつぶされるん = ニティがあるのです。それは、社会や国 川十年つれそったガ】トルードとは別れたんです。でも、全部家の中でやっていること家の壁を越えるある種の国際的なクラブで Ⅲです。さそかし大変なことだったと思いまばかりです。私の家は、自給自足の小さなあり、来たるべき国際社会を予見させるも すよ。でも、今は非常に元気そうです。あ村みたいなものなんですよ。。フールや卓球のです。その世界は、私たちがこの惑星に “の男は、どこか欠陥があるんでしようね。 に行くほかは、めったに家も出ません。ほ生き残り、また他の惑星にまで進出すると 聯なにしろ、百七十冊も書いているんですかんの三、四キロのところにある町へも行かきに成就される世界です。そして、現在地 ら ! ( 笑 ) ないんです。図書館は自分の家にあるし、球に増大しつつある問題が片づいた後の二 ト松それを欠陥とおっしやるなら、いっ来客も多いしで。ですから、退屈すること十一世紀におけるビッグ・ビジネスは、月 旧か私の欠陥についても、じっくりお話ししはありません。原稿は、そうした用事のあや火星や水星の、また宇宙そのものの探検 ましよう。 ( 笑 ) ところで、セイロンでは い間に書くんです。 と開発になるでしよう。そして、マガ どんな毎日なんですか ? 早川アンダーウォーター・サファリと、 ジンの若い読者のみなさんが、大人になっ クラークコロンボの私の家で ? そうでう新会社を始められたとかいうお話ですた時にその任務にあたっているでしよう。 Ⅷすね、大きな家があって : 早川どうも、ありがとう・こざいます。 小松ミス・コングがいて。 クラークアンダーウォーター・サファリ ト松私は、日本 TJ 作家クラ・フからのメ しクラークそう、ミス・コングに毎日一時はほんの数年前に始めたばかりなんですッセージをあなたにお伝えしましよう。ど 贋間はとられるんです。私の胸の上へあがっ が、とてもうまくいっています。日本からうか、また日本へおいでください。ただこ Ⅲて寝てしまうんで、なにもできません。起もだいぶお客さんが来ますよ。日本人も、 れだけです。 ーこしたくはありませんし。シャツの中にもスリランカの存在に気づいたようですね。 クラークありがとう。今度来るときには、 ぐりこんで、起こすなと合図してくるんでこれまでに二十人ばかりのダイ。ハーが来まセイロンのサロンを着て来ます。 ( 笑 )

8. SFマガジン 1977年3月号

二立川中将は、下総の山かげへきえてゆく「富士」のす イオン戦車〉を完成した。 - - 表 しかし、日本も負けてはいなかった。この通告を受けがたを見おくって、いかにも痛快そうに、 とった時、日本がすべてを託す飛行潜水艦「富士」も完 と、長船の銘刀をうちふった。 - - 露成していたのである。無音ロケットを動力にした「富 る 士」は、時速三百キロのスピードで東京へ向かう。 捕虜のスミス中佐は、おどろいて、ふるえている。 立川中将は、その目の前へ、氷のような秋水をつきっ 九月三十日の朝、〈ライオン戦車〉隊は、「荒鷲」の 援護を受けながら九十九里に上陸した。さらに「荒鷲」け、 「中佐、この刀を見られよ。これには日本武士のとうと 別動隊は、東京爆撃に飛びたつ。これを迎え撃つのは、 い、たましいがこもっているのだ。このにおい、この われらが飛行潜水艦「富士。だ。・ 光、世界のどこに、こんなうつくしい、神々しい武器が 諸君、われらのまちにまった潜水艦「富士」が、とうあろうか。それから、いま、あの山かげへきえた潜水艦 「富士」、あれこそは、日本科学のカの結品だ。『荒鷲』 とうそのすがたを戦場へあらわした。艦尾からロケット の白い火をはいて、東の海へまっしぐらに急行する。 爆撃機も『ライオン』戦車も、ひとたび『富士』の前へ 空中速力は二千キロ以上出るのだが、いまはわざと速出たら、あわれな蟷螂 ( かまきり ) の斧じゃないか。こ 力をおとして八百キロた。 の日本刀のたましいの力と、あの『富士』の科学のカ 「おお、あれが武田博士の秘密軍艦か ? ふうむ、すごを、一つにしたのが、日本の軍隊ですぞ。この神聖な軍 いそ。」 隊のまもる神州を、きみらのどろ足でけがされてたまる ものか。スミス中佐、きみらは太陽に刃むかう世界の敵 ですよ。」 どうだろう。この泣かせる名せりふ。山中峯太郎同 様、決して名文とはいえないが、その歯ぎれのよさ、読 者に与える感動は海野十三や蘭郁二郎の比ではない。戦 争を知らない世代の。ほくが、感激してしまうのだから、 戦前、この小説を雑誌連載で読んだ人びとには数倍の感 動を与えたことだろう。 「富士」は、長さ百メートルの大きな翼から、青白い口 ケットの火をはきながら、「荒鷲」隊のただ中へ突進し 9 4

9. SFマガジン 1977年3月号

た。いわゆる暁民共産党 ながら、すきあらば侵 事件というのがこれだ 略による自国領土の拡 が、平田は説問に抵抗で . 霾。張、資源の略奪を狙っ きす、組織内容をスッカ ていた。 リ自白してしまったらし いうまでもなく、日 。近藤栄蔵は平田晋策 本も例外ではなかっ の性格の弱さを伝えてい た。第一次世界大戦に るが、暁民共産党がやっ タナポタ式の勝利を た工作が、ほとんど陸軍得、世界五大強国のひとつに数えられるようにはなった 大演習のため市内に分宿ものの、その実、国力は増大せす、大恐慌の影響をもろ した部隊への反軍的宣伝に受けて瀕死の状態であった。この打開策はたたひと 工作たったり、学生や労つ、戦争による領土の拡大以外にない。 働者への反戦パンフの配支那を、ロシアを倒したにもかかわらす真の強大国に 布だったりしたことを考なれない日本が、次に倒さねばならない国はどこか ? えあわせると、後年少年アメリカであった。 むきの軍事解説家となり アメリカもまた、日本を次の仮想敵国においていた。 未来戦記のすぐれた書きこの近代国家の仲間人りをして、わすか六十年かそこい 手となった平田晋策の百らしかたっていないアジアの小国は、苦戦だったとはい 八十度転換が、いかにも奇異に思えるほどだ。 ( 後略 ) え二大強国を倒し、今度またドイツに勝利して、あまり ( 尾崎秀樹「少年倶楽部名作選 2 」解説より ) にも急激に世界の一流国となってしまったのだ。このま ま、日本を増長させてはならない。 共産党員としてのスタートに失敗した平田が、こ、の アジア大陸を征覇することが、世界征服の最大のカギ 後、どのような活動をしたかはまったく不明だが、昭和であるなら、どう考えても日本の存在はじゃまであっ 五年に突然、そ方向を百八十度転換した軍事評論家とた。日米戦争近しの風評は高まる一方だった。 して再登場、「米国は日本に挑戦するか」「軍縮の不安その真最中にロンドンの不平等軍縮条約の批准だ。必 ス と太平洋戦争」などの著書を刊行し、またたくまに軍事然的に未来戦争論、未来戦争小説が流行する。 - - イ晋評論家としての地位を確立した。 検挙されてから十年間ほどのあいだこ、 冫いったいなに 同平 昭和五年といえば、世界大恐慌の翌年、ロンドン軍縮があって、平田晋策を極左から極右に転向させたのかは - 上下条約の成立した年だ。世界の列強は、互いに牽制しあい いまとなっては知るよしもないが、なんにせよ、この時 4

10. SFマガジン 1977年3月号

、ヴァン ロイヤー 昨年、アヴラム・デヴィッドスンが東京に滞在しリカ文学の主要作家とはいえなくても、一流作家で一ファンタジーであり、″疑似科学。小説である上 ていた時、私はある寒い朝、銀座の喫茶店でウイスキ「あることはまちがいない。 , 彼の作品は、常に機知に「に、これらの短篇は、・コナン・ドイルのシャー 合った。とくに彼の最新作『エズター〈イジー博士一る。その物語は、読者を豊かでふしぎな歓びにみち巧みに作られた推理小説である。そして、貴族的 の調査』 "The Enquiries of Doctor Eszterhazy" た世界にいざなってくれる。 で、多少常軌を逸したところのある天才工ズターへ が話題になった。 『エズター〈イジー博士の調査』には、八つの短篇一イジー博士は、ホームズが隠退してこのかた、最も ・ハスティーシュ 「 = 一、〈 , 、物」、純粋な = 一 , 与 . → , レが含まれ = 、り、それらな」をさ = 」も、完 ( 。【」一 ~ 、人間味ゆた」描れ〈名探偵 0 一 トとして書きました」スタイルのいいウェイトレス全に成功した″模作″として、評価されるべきで人である。 を目で追いながら、デヴィッドスンはしゃべった。ある。十九世紀の末、オーストリアⅡ ( ンガリア帝一工ズターヘイジ—•の事件は、超自然的なものから 「何も深い意味はありません。私が既に知ってい国とトルコ帝国のあいだに挾まれたスキ = ティア・世俗的なものまで及ぶ。前者の良い例としては、三 て、余り取材調査を必要としない事柄について書 。ハンノニア・トランスルカニアのトライユーン君十年間も眠り続けた女性神託者を描いた、情緒ゆた き、早いとこ一冊仕上げたかったのです。どの短篇主国という仮空の王国が、物語の背景になっていかで詩的なストーリー 「眠り女ポリ ー・チャ も六週間以上はかからずに書き上げました」 る。本の題名の博士は、法学博圭、医学博十、哲学一ズ」や、機知に富み、コミックで茶番めいた「イギリ 「要するに、お金が必要たったんですね」と私が言博十、文学博士、科学博上エンゲルベルト・ 工ズタスの魔法使いシュ ミート閣下」があげられる。偶然 ーヘイジーである。 の一致やドタバタ喜劇や、言葉の置きかえを使った 「余り深く考えずに書いたというなら、その通りで この作品は、一般文学でもめったに見られない成功 す」と彼は同意した。 をおさめている。この本の神話的なフィナーレ「王 「しかし、あれはすばらしいエンタティンメントで 様の影には果てがない」では、エズターヘイジー博 す : : : パラレル・ワールドのファンタジーとしても 士は、トライユーンの国王に瓜二つな男を追って、 ・ : 」とつけたすと、 、一貧乏人たちのみじめな日常生活を見聞きする。その 「実をいうと、あれは。ハラレル・ワールドのファン あげくに、彼は本物の王様のところへ導かれ、そし タジーとして書いたものではないのです。歴史的フ て、ある帝国の崩壊のビジョンをも目にすることに アンタジーというほうが、私の考えに近いでしょ なる。工ズターヘイジーの世俗的な事件を代表する う」とデヴィッドスンは言った。 のは「エルサレム王室の宝石」だろう。これは、こ アヴラム・デヴィッドスンは、短篇小説の書き手一ーー の本に集められた短篇の中でも最も感動的なもの としては、無条件に第一級の作家である。現代アメ "The Enquiries of Doctor Eszterhazy' の表紙で、自分をエルサレム国王と信じ込み、題名の宝石 1 CDLI- スキャ、ナー 0 一、ー過去、未来、そし星ばし AVRAM I)AVII)S()N 物 n ー面 H 叩 oa 面 Edg 町 Aw 町 TIIE ENQI'IRIES ()F Ⅲ ) ( ()R ESZTERIIAZY に 2