入っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年4月号
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1. SFマガジン 1977年4月号

ポールが二個ある ! たったいま熱湯からひつばりあげたばかり ドに横になっていて床が揺れるのを感したから、それだけでもあの だと一 = ロっても、 しいほどあたたかかった。どちらのポールにも中心にちつ。ほけなポールの中には測り知れないほどの威力が秘められてい 0 小さな核が黒い不透明な点となって見えていた。 るということは納得できた。その荘厳さで人を圧倒する自然現象ー 言うにいわれない至福感と感動が体の中を走った。体がふるえ ー一瞬、目の前でぼっかり大きな滝壺が口をあけるとか、足許の地 た。だがそれは寒さのためではなかったのだ。興奮のためたった。 面がぐらぐら揺れるというようなーーを前にして覚えるような感情 ひょこのようにあたたかい二個のポールを掌の上にのせると、ほに襲われた。短い音とともにその威力が一瞬開放され、たちまち消 とんど重量がない。床の上へ吹きとばしてしまわないよう慎重に息えてしまう。音のこだまをまた壁が吸収しているように思えた。こ を吹きかけはじめる。それからひとつひとっ銀紙にくるんでガラスれはなんとも比較しようがない感覚たった。驚愕は急速に去り、朝 カ・ハーの下へしまった。 になるとそれが全部、悪夢だったように感しただけだった。 ほかにまだ何かしてやれることはないだろうかと、懸命に考えな次の夜、暗闇の中で観察することにした。こもったにぶい音と空 がら長いことポールを見守っていたが、己の無力なことにいくらか気の衝撃波といっしょに閃光がジグザグに走り、ふくれあがった卵 腹だたしい思いをしながらも涙がでるほど感動し、高なる胸をいたを切り裂いて、一瞬にして消えることをそのときはじめて知った。 いて静かにペッドに戻って行った 閃光がひらめくのは、それが起ったことに気がっかないほど短い、 「あのチビどもは俺のもんだ」 文字通りまばたく間たった。 幸福で、健康な眠りに引きこまれながらつぶやいた。 男は、通りの角にある店まで行くだけで、めったに外出しなかっ 一カ月もたっとポールはもはやガラスカ・ハーの中では場所がない た。だからその冬に雪が降ったかどうかということすら覚えていな ほど殖えていた。さらに一カ月たっと、もはやその数はかそえきれかった。春が近くなるころには部屋の中は、ひしめきあう小さなポ よ、つこ 0 ールで埋っていた。もはやいちいち銀紙でくるむこともしようとは 黒い小さな粒が普通の大きさになると、すぐ両極がふくらみはししなかったし、そもそも当人がいる場所すらなくなっていた。 める。分裂するのはきまって夜中だった。その分裂の瞬間を待ち伏ポールがいたるところで揺れ動いていた。足許にぶつかったり、 せてみたが、成功したのはたったの一度きりだった。 本棚から音もなくこ・ほれ落ちたりしていた。埃が白く薄い層になっ ガラスカ・ハーの中からとどろきわたる分裂するときの音はし。はらているところでは、その跡や輪郭がかすかに描きだされるので、よ く分った。 く耳が聞えなくなるほどの激しいものだったが、暗い部屋を一瞬、 昼間のように明々と照らしだすちょっとした稲妻のような閃光のほ そしてたえすなにかが起った ( オートミールやミルクの中からポ うにもっとびつくりさせられた。 ールが出てきたり、砂糖のパックの中に入りこんだり、透明人間の いったい何が起っているのか、それは分らなかった。だが、ペッ ように食器の中から転がりでてきたこともある。スープと一緒に煮

2. SFマガジン 1977年4月号

はサスカ・ケムパに住んでおります : : : 騒ぎを起して、ご迷惑を いてまわりました。やっとオプレンツインに入ってることが分っ おかけしたんじゃありませんか : たのです。でもあそこでとんでもないことをしでかしていたんで 5 タラントガいやそうなことはない。 す。警察ぬきではもうすみません。さあ、行きましよう、カジ 妻先生は礼儀上そうおっしやっているんです、主人の目を見れば ク。あたしの前でそんな演技をするのはおやめなさい、教授に恥 分ります : : : この人は二カ月おきにこうして逃けたすんです、想ずかしくないんですか。さあ、家へ帰りましよう。この人今何様 のつもりでいますの、興味がありますわ。オパールⅣ星座から来 像してみてください。はじめは協同組合に就職口をみつけてまい たクサフィリウス公爵ですか。 りまして、勤めさせたのですが、この人の頭にあることといった ら : : : ありもしない作り話ばかり喋ってたんです。主人にはそのタラントガ しいや、火星のマグラ人た。 方の才能がありますし、夜通しでも聞けるぐらい面白い話です妻火星 ? まあ、火星からですの。じや火星人というわけね。さ が、それは問題が別です。でも正式な妻であるこのあたしのせい あ、火星人さん、行きましよう。 じゃありません、とんでもない。この人に何が分ってるもんです ノヴァク、おとなしく彼女についていく。タラントガ、彼らを見お か。もともとあたしの主人はサーカスの腹話術師でしたが、素面 くる。 でいたためしがないので馘になりました。ところが全然働く気が ないんです。あたしが養ってあげるからいいから家にいなさいっ妻 ( ドアのところで ) 先生、失礼します。この人がごやっかいをお かけして本当に申し訳ありませんでした。それにお時間をとらせ て言ったんです。そのときは神妙に聞いているんですが、二、 て : 日するとそんなしおらしいところは影も形もありません。しかも だんだん悪くなっていくんです。考えてもみてください、この人タラントガいやいや、かまいません : は、誰たって当然そう願う結構な住いで妻と一緒に暮すより、気妻おやすみなさい。 狂いのふりをするほうが気に入ってるんです。この人、ここで何 退場。シャンコとタラントガ、顔を見あわせる。 番目の演し物をやってみせましたの、興味がありますわ。昨年、 病院へ入ったときは、自分にはビートワとかいう所のマンドラゴ シャンコなんてことです。あの男は二時間もここに居坐って、ど うやらあなたに駄ぼらを喋っていっただけらしいですね、ペテン ロス王で、帰属した惑星が四十四あると言ってました。そんな調 にカカりましたね、 ・ ( 声をあげて笑う。だがすぐ口をとじ 子なんですよ。いやになると、すっかり良くなった振りをするの る ) 失礼しました。 で、病院は健康になったものとして退院させますから、家へ帰っ てきます : : : でも今度はどういう訳かすいぶん長いこと姿をくらタラントガ要するにきみの意見では、あの男は未来から来たんじ ゃないというんだな。 ましていました。だからあたしはあちらこちら駆けまわって、聞 しらふ

3. SFマガジン 1977年4月号

發さん。お手紙ありがとう。 たがいさまですがね ( なんのことかわからなかったせる。ロジャー ークスンという金髪の若者がい 御推察のとおり、今回のスキャナーには四苦八ら、十一月号を見てくたさい ) 。 ちばん現場に近かった。現場の六層下でゴルフをや 苦しています。前回の末尾に「次回はハ ード T'J に ジョン・ヴァーレイはいま二十八歳。年間最優秀っているところだったのである。ロジャーは。 ( ター ついて考える」と書いたのが手枷足枷。書くんじや新人に与えられるジョン・・キャンベル賞を、 を持ったまま、アンと共に現場に向かう。その車中、 なかったなあというのがホンネ。ここ数年、僕がやム・リーミ イとあらそって、おしくものがしました彼はアンをデートにさそった。事件がかたづいた ろうとしてきたのは、読者のみなさんに僕の考えが、とにかく期待の新人ですよ。 ら、いっしょにタ食をとろうと言いだしたのだ。し 方、観といったものを知ってもらおうというこ〈ギャラクシイ〉の七六年十月号にのった = B 品 a ( e ・かし、とアンは思う。事件は本当にかたづくのだろ とでした。つまり、このコラムで紹介する本を僕が lle ・・というのは、こんなお話 うか。もしかたづかなかったら、ニ・ユ ー・ドレスデ おもしろいつまらないと評価する、そのパックポー 「わたしは爆弾である。いまから四時間五分十七秒ン市はこつばみじん。そして、月に住む人々には隠 ンを知ってほしかったわけです。それがどうしたわ後に爆発する。わたしの爆発能力はトリニトロトルれる場所がないのである。 けか、僕自身の好みの原点を探るほうへと向かってエン五万英国トン分に相等する」 現場についたロジャーは一眼で、爆弾がサイボー しまいました。そして、センス・オヴ・ワンダーや場所は月の地下につくられたニュ ー・ドレスデングであることを見ぬいた。車の中枢部には、人間の ら。 ( ロデイやらミステリやらをながめてきたわ市。その地下第四十七層、レイストラッセと呼ばれ脳が入っているのた。車のまわりには線がひいてあ けで、その一環としてハ ードを考えてみようとる地区。爆弾は直径一メートル、長さ二メートルほって、そこから一歩でも中に入ったら、ただちに爆 いうことだったのですが、やれやれ、実はこの年どの横だおしになった円筒状で、四つの車輪がっ発すると、警告がある。 の間に原点みたいなものが見えてきてしまったのでき、円筒の上では四つのテレビ・カメラが九十度ずロジャーは、すぐ下の階から x 線を放射するよう すよ ( ワア、どうしよう ) 。それは、本当は原点じつをうけもって外界を走査している。道路清掃車ににと命じた。それで機構に狂いがでればめつけも ゃなく、単なる比喩にすぎないかもしれない。かり似ていたものだから、そこに来るまで誰も気づかなの。でなくても、車の構造がわかるだろうと思った に原点だとしても、ひとっしかないものだともかぎかった。その爆弾車はバガッテルという花屋兼プレのた。それと同時に、コン。ヒ、ーターを使って、爆 らないわけで、そんなアヤフヤなものをスキャナーゼント屋の前でとまると、 発を予告された時間に何か意味がないか調べさせ に書いていいものだろうかと思いなやみ、苦吟して「わたしは爆弾である。あと四時間四分三十七秒でる。やがて、この日その時間に生まれた ( ンスとい いるわけなのです。 爆発する」 う男が浮かんだ。彼はある事故が原囚で、人間は機 たいいち、今度紹介したいのはジョン・ヴァーレ報告を受けたのは、アンⅡルイーズ・ ( とい械の一部品であると信じるようになり、みずからも イという新人なのですが、実はその件でも困っていう都市警察署長 ( 名前からわかるとおり、女性、そいちばん美しい機愀ーー原爆になったのである。爆 ます。この新人、去年十一月号のスキャナーで安田れも美人なのだ ) 。彼女はすぐにコン。ヒ = ーターに弾は、自分が ( ンスであることを認めた。 均氏に油揚げをさらわれてしまったのです。ま、お命じて、体霰で月に来ている爆弾処理専門家を捜さ ロジャーはその日が彼の誕生日だと知ると、あき 0 0 % 見 2

4. SFマガジン 1977年4月号

せいたたけませんか 2 ジョンズ様子 ? 金が入ってくるのを待ってるよ。暮してくのに それがいるんだ、そうたろ ? 弁護士もちろんです。私がお説きしているのは、彼女がご自分の ことを未亡人だと思っておられるかどうかということです。 ジョンズじゃあ何かい、他に何か考えようがあるとでもいいたし のかい ? 分りきったことを訊くなよ、亭主が死にや、その女房 は後家になるって決ってるだろう、え ? 弁護士おっしやる通りです、ジョンズさん。疑問をさしはさむ余 地はありません。この件をおまかせくださったのは賢明でした。 すぐにいい知らせをさしあげられると思います。 アテンション ジョンズそういってもらえると安心だぜ。 ( ト書きのところで説明声 ( ス。ヒーカーから ) 注意リ本院からの通達。三六六 / 九およ した彼の兄とそっくりの笑いかたをする ) び一七九 / は四五 / Q および五一 / で再検査。 弁護士 ( 疑惑がまた頭をもたけて ) ジョンズさん、ところであなた 女子従業員がひとつの容器から心臓と肺を取り出して別の容器に移 し変え始める。その背後で、保険会社の代表が弁護士と電話で話し ジョンズおれが何か ? ている。 弁護士あなたは、ご自分がつまりリチャード・ジョンズであっ て、トマスではない、 と自信をもって言い切れますか ? 代表者ジョンズ氏の代理の方ですね ? この件を裁判に持ち込む ジョンズなぜおれがトマスでなきゃならんのだ ? 自分は自分 ことは見合わされた方がよろしいですよ。敗訴になるにきまって トライ・ハーじ ・こ、亠、つ、かし 兄貴はナヴィゲーターたったが、・ ますからね。なぜですって ? それは、ジョンズ兄弟が傷害保険 くーはこのおれだ。また証拠たったらある やよかっこ。ドライ / に加入していなかったからです。生きているのはどちらだ、と説 ぜ。 いておられるのですね ? 生きるために欠かせない器官が働いて いる方が生きているということになるでしような。つまり器官が 弁護士証拠 ? どんな証拠ですかフ どこで動いていようと、そんなことはとるにたらんことです。こ ジョンズ後家になった兄嫁には子供がいるってことさ。子供たち の人間であろうとあの人間であろうといっこうにかまいません。 7 は父親を失くしたんた、そうだろ。 弁護士そのとおりです。つまり、訊き落しのないよう念入りに調要は機能をはたしている、ということなんです。器官が働いてい べておくのが私たちの務めなんですよ。この件が好転して、あな たにご満足いただけるようになることを期待しております。それ では今日のところはこれで : ジョンズじゃあまたな。 弁護士、保険会社に電話を入れる。 ーのテー・フルに似 『コンソリデーテッド』保険会社の大きな部屋。 た小さな四輪車付きの机の列の間に、取りはずし自在の臓器ーー・心 臓、腎臓、肝臓、肺などーー・がおさまっている。フラスチックの容器が おいてある。

5. SFマガジン 1977年4月号

いたのです。考えられますかそんなことが ! その十九人目の女年齢は、供給者の平均年齢で決めることがよくあります。 性の身元照合にはひと苦労でした。身分証明のこと、出生証明の看護婦 3 失礼します、博士。第七手術室から電話がかかっており 6 こと、父親は ? 母親はどこだ ? ます。患者の準備ができております。 弁護士しかし、そんなことが本当に起るもんですか ? 博士今行く。申しわけありませんが時間がありませんので : ( 去る ) ほかならぬクレーギー博士 博士だから申し上げているでしょ のところであったことだと。ヒボクラテスの誓いをはたすため に、私たちはひとつでも多くの生命を救うのが義務たとこころえ 弁護士、考え込んで白い布に覆われた運搬車を押していく看護人の あとについていく。看護人につづいて、くもりガラスのドアの中へ ています。患者が全員、よくふとっていて背も高かったんだと思 入る。ものの一秒もたたないうちに悪魔にでも追いかけられたよう います。腕のいい仕立屋は切れつ端ひとっ残さんものだといいま に跳び出してくる。 すからね。他に何かお説きになりたいことがありますか ? 弁護士の事務所。未亡人が入ってくる。 ざわめき。牧師が現われる。激しい身振りをまじえて、遠くの方か らソプラノでわめきたてる声が聞える。 弁護士ようこそ。ジョンズ夫人でいらっしゃいますね ? 牧師私はこういうことには耐えられません ! これで、聖職者と未亡人ええ。あなたが彼の弁護士さんですの ? あたしがここへ とあなたに申 うかがったのは、あの人は簡単には逃げられない、 しての私は終りです。こんな声で聖書が朗読できますかー 博士聞きわけのない人だ ! 直しようがないんです、前によく説し上げるためです。 リチャード 明してさしあげたでしよう ! ( 並んで立っている医者に ) きみ、彼弁護士あの人、と申しますとどなたのことですかフ さんですか ? の面倒をみてくれたまえ。 未亡人そのこともまだ問題があるの。彼、リチャードなんです 牧師、去る。 弁護士疑っておいでなんですね ? 弁護士ほかに、なにか役に立ちそうな話はありませんか ? 博士婚姻関係においては、精神面と同様セックスの面も非常に重未亡人もちろんよ、疑問だらけだわ ! どっちにしてもあたしに 要です。心理的側面についていえば、あなたの依頼人が治療をう は同じことですけどね。でも、リチャードだとしたら、あたしの 主人が死んだおかげで手に入れた体のかわりに、保険金は全部あ けている精神分析医におききになれます。あなたも慣れる必要が ありますよ。私たちはこういう、似たようなケースにしよっちゅ たしがいただくわ。もしトマスだったら、あんなふうにホテル住 うぶつつかります。器官の供給者が多い場合、蘇生させた患者の いをしたり、弁護士たちに無駄金をばらまいたりしないで、妻と

6. SFマガジン 1977年4月号

ジョンズそういうこと。どっかこのへんた。 ( 腿をあいまいな仕種で でいくのはうまくないですよ。それをあなたが認めてしまったら 示す ) ひどいもんだぜ。しよっちゅううすくんた。それを、おじ終りです ! とかいう野郎は、おれに餓鬼の面倒までみろ「てぬかしゃあがジ。一ズなんだ「て ! 前にもあんたにい「たろ ? 今日みたい る。脅迫めいた手紙までよこしたんだ。そら、これがその手紙 な雨模様たと、関節が : だ。 ( ポケ〉トから手紙を出す ) 『おまえがこの先、子供たちの養弁護士そんなことは取るに足らないことです。その足があなたの 育費を出してくれるか、さもなければ、私の姪の形見を先祖代々物ではないことをい「たん認めてしまえば = の墓〈すぐにでも入れてくれることを要求する。故人の名残りをジ ' ズおれの物た ! おれはこの足で歩いてるんだぜ、そうだ いいかげんに扱うやつは誰であろうと、この私が許さん』これで も何かいうことがあるかい ? まったく良心もへったくれもない 弁護士いずれにせよ、告訴人たちと、どういう形にしろ口論した やつらばっかりだー り談合なさったりすることは絶対にやめてもらわなければなりま 弁護士ふううん ! 少し多すぎる。書きとめさせてくたさい。 ( ぶ せん。今この瞬間から、あなたの利益を代表するのはこの私だけ つぶつロの中でつぶやきながら書きとめる ) ううん : : : 冒漬、金冠、 だということにしていただきます。 ブリッジ、子供が三人、母親の義務、リーチ : : : さて、そこでジンズ結構。 ジョンズさん、あなたがすべて私に説明してくたさった以上 : 弁護士ところで、何か犬のことをおっしゃいましたね ? せんせい ジョンズどうしてそれで全部になるんだ。 ミラー博士への借りの ジョンズ男のそばにいたやつのことだ。男は助かったが犬は、 ことがあるし、大のこともある。 ーボクサーだがねーー・どっかへ消え失せちまったんだ。それでそ 弁護士博士が何かあなたに要求でもしているのですか 2 の男は、おれが犬をどっかへ隠したと思いこんでるんだ。 ジョンズリュー マチの治療代を払えとさ。タイネルはやつにかか弁護士あなたが ? 0 ていた。それで、治療代は年ぎめで一年に一回払「てたらしジ = ンズそうなんだ。くだらん。やつはでまかせをい「てるん 。丁度その支払期日が来てるってわけだ。博士は、足の治療は だ。大なんておれの全然あずかり知らんこった。・ハ ートン博士だ していたんたし、その足は今もちゃんとあるんだから、今その足 っておぼえてないっていってるんた。せ。 を使「て歩いている持ち主が支払うべきた、とこうお「しや「て弁護士ち 0 と待「てくたさい。ともかく書くだけは書いておき るわけ。払わなきや、告訴して、竸売にかけて売り払うそ、とお ましよう。大、種類はボクサー。これでよし、と。さて、これで 「かないこともい「てるんた。ところが、ますその関節がやけに全部ですか ? しつつこくおれを苦しめてるときてる : ジョンズ今のところはそうだ。 ( 立ち上る ) どこへやったんたろ 弁護士いけません。それはまずいですよ、ジョンズさん。その線う ? たしかこのへんに置いたはずなんたが : ・ : ・あんた気がっか 6 6

7. SFマガジン 1977年4月号

「ジョン・トマス。みんなの もちあげにかかったが、だめだった。 けるのたった。 九月三十日の朝七時半、ジョン・トマスはリンゴの木の下へと出おどろく顔が見たいというので、おまえが鉄の棒を埋めこんだんじ ゃないのか」 ていった。朝食を待ちさえしなかった。寝床から、ころがるように 「まさか , 息子は答えた。「そんなことはしない。本当たよ。最初 抜けたすと、着るものを着てとびだしたのた。と思うまもなく、か あさん、ちょっと見にきて、と叫びをあげた。けれど母親は、トー からこうなっていたんだ」 コンをいため、ジョンの父親にコーヒーをいれて 「シャベルで掘ってみたらどうかしら」夫人が賢明な提案を出し ストを焼き、べー と、とてもいそがしかった。はやくもどって顔をあらいなさい、ご はんにしないと学校に遅刻するわよと言うたけだった。 「そうしてみよう」トン。フスン氏はそのことばにしたがい、園芸用 の鋤をガレージからとってきて、立方体の下の地面へとななめにそ ジョン・トマスはいつも、とてもすなおな良い子なのだが、この 朝にかぎっては母親の言うことにしたがおうとはしなかった。「でれを突きさした。鋤はなんの障害物にも当たらず、やわらかく土の も、かあさん」と言うのである。「てんでおかしいんだよ。金属のなかにもぐった。 「おや」とトンプスン氏が言った。「埋めこまれているわけではな かたまりなんたけれど、とても重くてもちあがらない。おねがい、 見にきて」 そして鋤をにぎりしめると、その物体ごと土をすくおうとかかっ 「行ってやったらどうだ」ジョン・トマスの父親が言った。 たが、だめだった。つぎには、両手を鋤の柄のさきにかけてにぎり ジョン・トマスのいるリンゴの木の下へ、母親は出ていったが、 最初はなにも目にはいらなかった。けれど、息子に指さしておしえなおし、てこの力をつかってもちあけようとした。柄はかすかにた られ、なにもはえていない地面に、一インチ四方の完全な立方体がわんたが、金属のほうは、こゆるぎもしなのった。 あるのが見えた。 ンクリン編の「オムニバス・オヴ・サイエン 「きれいにみがきあげた鉄のようね」そう言うとト 「アトランティック・マンスリー」 一九四五ス・フィクション」というアンソロジイに収 ンプスン夫人は身をかがめ、それをつまみあげよう 年八月号に掲載された短篇。そんな時期に、録された。 これほどほの・ほのとユーモラスな目で人間を作者の経歴などはわからなかった。文学方 とした。しかし、おどろいたことには、それはびく みつめた作品を書いた人がいたというのは、面の大家のペンネ】ムではないかという説も ともうごこうとしなかった。「こんな奇妙なことっ て見たことない」光る表皮に指がすべると、そう言信じがたい思いがする。その後、文芸的香りあるが、どんなものだろうか。しらべたかぎ の高いであれば一般誌既発表のものの転りでは、関係の作品としてはこれひとっ っこ 0 載を辞さない八いう態度をとっていた「だけのようである。 このときまでには、トン。フスン氏みずからなにが ( 訳者 ) 」誌五一年八月号に載り、さらに翌年コ おこったのかと出てきており、やはりその立方体を 説 る 9

8. SFマガジン 1977年4月号

ました。 よ寝つく役には立ちました。 〈要注意。これは最新報。要注意。地震による犠牲者数は現在千人目を覚ましたときはかなり気分がよかったのですが、どうすれば 7 に達した。ロジャース。以上〉 その謎もしくはそれらしきことが解明できるか見当もっきませんで それを読みとるあいだ私は電話のことを忘れていました。 「おい、どうかしたのか ? 訂正はどうなったんだ ? 作動しているときのテレタイプは振動します。その振動でコード レングホーンが下から催促してきました。 がコンセントから外れることがあります。その振動が情報源になっ 私は溜息をついて、 ているようなことはないだろうか ? おそまつな、実にまどろっこ 「すまん、相棒、ミスじゃなかった。こっちの勘違いだった。悪かしい人間の脳しか持ちあわせていない私でさえ、音でテレタイ。フの ったな。問題はない、そのまま進めてくれていいそ」 違いが聞き分けられるくらいです。パリにつながっているテレタイ 私はあわててパイプをおくとテレタイプのところへ行ってその訂プが始動すれば、その瞬間に金属的な文字を打ちたす音でそれと識 別できます。コンピューターの入力装置はそれより何百倍も敏感で 正電文を六回読みかえしました。 読みかえすたびにたんたん気分がおかしくなってきました。まるすから、文字を打ちだすごくわずかな音の違いでも完全に聞き分け で足許の床がぐにやぐにやにやわらかくなっていくような感しでしられるかもしれない 。もちろん百パーセントそれが可能だとは思い た。疑惑と恐怖を感しながらコンビューターを眺めまわして、そのません。コン。ヒーターはテレタイ。フが打ちたす文章を一字一句そ 周囲をぐるっとひとめぐりしました。どうしてこいつにあんな芸当のまま繰り返すのではなく、多少それに手を加えて編集するからで ができたんたろう ? 私にはさつばり理解できませんでした。起っす。情報に足りないところがあれば自分で遠慮なく補います。たと た事実を考えれば考えるほど頭の中が混乱してきそうな気がしましえばあの犠牲者の数について言うと、ここでは数字的機械である本 領を発揮したのです。地震で倒壊した家屋敷と死亡者数との間には 帰宅してペッドに入ってからも寝つけませんでした。精神科医が統計的な相関関係があるはずです。たぶんコンピューターは瞬時に いぼっとおり、あんまりとっぴょうしもないことは考えまいとしまし計算できる能力を使って、それで千人という正しい数字を割りだし た。結局たいしたことじゃない。人に言える話でもない。話したとたのだと思います。我々の特派員にそんな計算ができるわけがあり ころで信じてくれる者がいるはすがない。悪くすれば冗談ととられませんから、現地で知らされた数字を忠実に伝えてきたのです。だ からもっと正確な情報が入るとすぐに訂正してきたわけです。コン かねないし、しかも幼稚で悪質な冗談と。それで、さっき見たこと にあまりこたわらないで、コンビューターからテレタイプを切り離。ヒューターが出す数字は、噂ではなく、記憶パンクに入っている正 したらどうなるか、これからも定期的に観察してみようと決心する確な統計デ】タに情報の根拠をおいているから信憑性が高いのだ。 と、なんたか気持ちが楽になったような気がしました。いすれにせとまあそんな解釈をして私はすっかり安心してしまいました。

9. SFマガジン 1977年4月号

実の父親が自分の子供を養子にはできません、肉体的に父親で る。その時、話のけりをつけよう。今よりはもう少し頭が他のこ ある以上、精神的父親のわけがない。婚姻関係にもとづいていえ とにもまわるだろう : ば、この子供たちの母親と教会で式を挙げたのはあなたでなく 弁護士結構です。しかしまだもうひとっ問題が残っています。費 て、あなたの兄さんである。つまり結論としていえることは、あ 用がかさんできていることはご承知ですか ? できれば前金を入 なたは部分的には義理の弟でもあり、部分的には彼女の夫でもあれていただければと思「ているんですが : ると。そしてまさにそのことが、父親であることと関係があるの ジョンズラリ ーが終ってからた。勝てば払う。全部で五万もあり です ! 一部分たけ結婚していたり、一部分たけ調子を合せた や充分だろう、え ? 借金取りがうるさくてかなわん。おれをし り、三〇パーセントだけ離婚したりすることは法的に不可能なん っこく追いまわし、おれのいくところ、どこでもついてまわって です " 】法廷で、あなたが事故以前に兄嫁と通じていて、子供は るんた。まったく運のない男だよ、おれは ! 彼女に産ませたあなたの子供であって、兄の子供ではないと認め 通りで、出てきたジョンズを様々な年齢の男数人が取りかこむ。 ない限り、あなたは兄嫁と離婚もできなければ夫婦関係も持てな いのです ! ジョンズ放せ ! おれをそっとしといてくれ ! とっとと消えう ジ ' ンズすると、そうすれば父親になれるんだな ? そいつはあせろ ! 金なんか一文も持っちゃいないんだ。土曜日に話そう。 そう、土曜日だ。土曜日まではオケラだ ! ( 自動車で去る ) 弁護士とんでもない。そんなことをしてみても、せいぜい子供た 借金取り、呆然とそのあとを見送る。 ちの叔父になれるぐらいかもしれませんよ ! 亡くなった兄さん の籍に入っていたことを考えると : : : 駄目だー なにしろ、第三 弁護士の事務所。ジョンズが入ってくる。かすかだが、足を引きず 者が関係していたことになってしまいますからね。子供たちの父 っている。手に婦人用のハンド・ハッグ。それをそっと脇へおく。 親が他の場所におり、あなたはそれを全然知らなかったし、知り もしないということたってあり得るわけだ。なんて事件だー こ弁護士これはようこそ、よくおいで下さいました。お久しぶりで んな奇妙なケースは聞いたこともないー 前代未聞の判例だ ! す。 ジョンズおれをほっといてくれないか ! あんたは何をそんなに ジョンズ ( そっと坐りながら ) ああ、まあね。三カ月ぐらいかな。 よろこんでいるんだ 3 ・畜生、おれはどうしたらいいんだ ? しまいましいがとうもうまくいかん。 弁護士どうか落ち着いて下さい。これは私の手にあまる , 弁護士あなたには本当に同情します。それにお悔みをいわせてく ジョンズはっきりしてることは、今おれは神経をたかぶらせるわ ださい。聞いております。たいへんな事故たったそうで : ・ : ・ご自 けにはいかんということた。金曜日にラリーがある。土曜日に来分の : : : つまりその : : : 奥さんーー・でもそれはこのさい二義的な 2 6

10. SFマガジン 1977年4月号

のエリザベータは立体コンテストで三位に入った立派な女でし な。こいつはてめえの女房なんかじゃない、とっととうせろ》と た。彼女の儀典研究がどんなにみごとな出来たったか、お見せし ね、ところが一一一一口いぐさがいいじゃよ、 ・ / しか、《とんでもない、ただ たいくらいです。これでお分りいただけましたか。あっ、おい離ちょっとなんだと思ったから : : : きみの邪魔をするつもりはない れろ、間抜け。今話してやる、それは何た。お前を告訴してや よ : : : 》だってさ。ゃぶから・ほうに、あの野郎はいきなり下司み る、みてろ、屑め。 たいに俺の女房に乗っかろうとしたんたぜ。あんた聞いてるの か。もうたくさんだ。うせやがれ。畜生、今度は俺の番だ。 顔つきが気狂いじみてくる。ギッペルコルンの声に入れ替る。 荒々しい表情が痙攣する。自分が自分をげんこつでおどす。 〈来訪者〉やつの言うことなんか聞くな。うせやがれ、くそった れ。やつの言うことに耳を貸すな、教授。なんた、俺のことを何〈来訪者〉 ( ノヴァクの声で ) 教授、あれは全部でまかせです、胸く を喋ったんだ。いや、あんたに言ったんじゃないよ、教授、やっ そが悪い。彼のべリルダが・ほくには必要なんです。たしかに脳な にだ。なんて自惚れやだ、あいつは。とっとと出てうせろ、こん しで、彼に似合いの女です。教授、あのギッペルコルンを一時的 なことはもうまっぴらだ、うんざりた。俺達二人があのナンをつ に無害にするにはどうしたらいいかいま説明します。・ほくはあな かまえたのは、たまたまそうなったたけの話だ、これで終りだ。 たのためにセンセーショナルなニースをごっそり持っていま ナンた、ナン一匹でどえらいことになるんだそ。ナンを見たやっ す。ます手始めに歴史的情報ですが、最近四百年間に起った事件 はまだ一人もおらんのだ。一匹のナンでどんなことになると思っ の経過をあなたにお話します。ぼくはそのテーマで学位論文を書 一′ノチナノール てるんだ。どっかで抗ナン剤がみつかるかもしれん : きましたから、年代は全部暗記しています。あのメント・ マニヤ タラントガきみはギッペルコルンか。 のギッペルコルンみたいなうすのろとは違います。それから次 〈来訪者〉あたりまえだ。やつの言ったことは全部うそっぱち に、あのナンの件をかたづける必要がありますが、あれは : だ。中傷だ。やつの女房はとんでもないスケだぜ。あの男は正真 ( 体中をふるわせはじめる。抑えつけられたような声で叫ぶ ) 教授 : 注射器を持ってきてください : 正銘の豚野郎た。俺は前から訴えてやりたかったんた。もともと ・ : なにか催眠薬を : やつのほうから俺と合体させてくれと言ってペこペこ頭をさげて いそいで : : : ひっこんでろ。 頼んできたんじゃないか。ところが今ごろになって、分るかい、 〈来訪者〉 ( ギッペル「ルンの声で ) 野郎、俺に麻酔をかけるつもり あんた、俺が女房と一緖にいるところへ野郎、強引に割りこんで たな。そうはさせるもんか。教授、注射をしないでくれ。戻った 来るんた・せ。・ヘリルダが眠って、てめえの女房の番がくるまであ らすぐ俺はやつを告訴してやる。みていろ、ぶつこわれた脳みそ ぶたやろう いつは待ってられんのだ。こそこそ隠れて変なことをしやがるか の中へ追放させてやるからな。こんなグルムロフじゃなしに、好 ら、俺は言ってやった。《慾しいもんがあるなら、てめえで探し きなやつの中に俺を合体させてくれるはすた。