で何かがおこったと聞いても、それは遠い遠い地での話であり、日ら集落のもっとも上の家でも、ロポット官僚にとってはひと飛びの 常生活とは何らかかわりがないのである。ここの、昔ながらの習慣距離である。の目や耳の役もはたし、一応の司政官防護の能 いいだろう。「それじゃ、あ の枠の中で生きるのは : : : 彼には到底出来そうもないのだ。それ力もあるだけを連れて行けば を、ここの先住者たちは何十年も : : : いや生涯を : : : いやそれどこなたと私と、それにこのとで訪ねるというのはどうだろ ろか、親から子、子から孫へと、代々にわたって住み続けて来たのう」 である。それは彼に、ほとんど耐えがたい迄のイメージとなって迫「いいと思うわ」 ランは答えた。 って来た。 それに耐えられる先住者とは、どういうものなのだろう ? やは ナカいう迄もなく、今のマセの言葉は、を通じて り理解不能の一語で片づけるほかないのだろうか ? 1 に彼の意志を伝えるためのものでもある。は、と 「ラン・ m-ä O ・タルヌスが戻って来ます」 の連絡に要するほんのわずかな間をおいたのちに、が承認し いつの間にか横に来て佇立していた ()n がいった。 たのを意味する発言をした。 目を向けると : : ランが坂道をこちらへ駈け降りて来るところだ「おともいたします」 っこ 0 そのときにはもう、の指令電波を受けて、他のロポット 「大丈夫よ ! 」 官僚たちは、いつでも急に応じて司政官のところに行けるよう、車 と、ランは、まだこちらに到達しないうちに声をはりあげた。 の外に出て、その場で待機の隊列を組みにかかっていた。 マセは、ランに続いて、段々畑の間の坂道を登りはじめた。 「みんな、司政官に会うといっているわ ! お話もしたいって ! 」 そのすぐあとを、 (J)ON<< もついて来る。 「でも、出来れば、人数はなるべくすくないほうがいいんですっ道は、意外にきっかった。坂がきついというよりは、ある程度踏 み固められているとはいえ、道自体が石ころだらけの、自然に近い 彼の前に来ると、ランは息をはすませながらいった。「あの人た状態たからである。 ち、ここでは司政官の身に危害が及ぶことはないだろうといってい しばらく登るうちに、かれらは、はじめの家の前を通り過ぎた。 るんです」 そこから道は細い石段に変り、樹々や家々の間を抜けて、まがりく 「なるほど」 ねりながら上へと続いている。 マセはとっさに判断をした。望外にも ( ランにいわせれば当然の 「この一番上が、チュン・ダ・ハダラードの住む家よ」 結果たろうが ) 先住者の会見承諾をとりつけられたのだから、先方ランがいった。「わたしはあそこで泊めて貰ったんです。このミ ルル地区では、あの家が客人を迎えたり、チュンたちが集まったり の意に反するような真似はするべきではないのだ。それに、ここか 0 3

タラントガきみがそういう人間たろうと思ったからきみを採用し たんだ。気狂いが、学者や発明家とどこが違うか知っているか。 シャンコ気狂いは病気だという点です。 タラントガ分りきったことを言うな。気狂いには、約東したこと を履行したり、予測したりする能力が欠け ているという点だ : : : 気狂いの発見はなん の価値もない。まあ様子を見ていよう。帰 今日はもう用はない。 タラントガは一人でロ笛を吹きながら鞄か ら書類を取りだす。戸棚のところへ行く。 コニャックのびんを出すとグラスに注い で、香りをかぎ、また中味をびんに戻し、 少し残念そうに栓をする。電話が鳴る。タ ラントガは受話器をとる。 タラントガタラントガです。ええ聞えま 0 リす。え、なんですって、失礼もう一度。 ( 間 ) いつですか。 ( 時計を見る ) それじや一 下時間半以上前ですね。なんですって。え え、そうです : : : しかし眠っていたんじゃ ないんですか。注射をしたんでしよう、彼 に。え、さつばり分らないんですって。そ れはこっちが言いたいことですよ。院長の 様子は ? ( 間 ) やれやれ。で、気がついた んですね。え、まだ昏睡状態だって。今、 なんと言いました。靴下がどうしたんで す。砂をつめて : : : さつばり意味が分ら ん。ええ、 しいでしよう。しかしそれがわたしにどんな関係があ るんですか。分りました。気をつけましよう。こっちへ現われた らもちろんお知らせします。 ( 間 ) 。ワルシャワ行きのバスに乗っ 3 たんですね。パジャマのままじゃないんですね ( 間 ) 。失礼たが、

タラントガきみがどこからやってきて、何者かということを話し〈来訪者〉それはどういう意味。 タラントガきみの国籍だよ。 てくれるだろな。 〈来訪者〉観光旅行で来たんだよ。来ちゃいけない理由でもある〈来訪者〉意味が分らんな。コクセ : : : なんだって。 タラントガきみがいつも生活している場所のことだ。どこなんだ。 のか。だれだって来るんだから。時航・ハスが高度をさげたとき、 〈来訪者〉そんな場所はないよ、ひとっ所にじっと暮しちゃいな 俺は馬鹿なことをやっちまったんだ。自分でも認めるよ。ちょっ いから。退屈だよ。あんたが言ってる意味が生れのことだった と跳びおりたんだ。そばをいい女が通りかかったもんでね。一目 ら、マグラ人だよ。 惚れさ。俺が跳びおりたのに気がついたやつはいなかった。女の あとをつけると石で出来た小屋みたいなもんがあって、女が立ちタラントガマグラというのは何た。 止ったんでさ「そく声をかけてみたんだ。すると女がキャー「て〈来訪者〉火星にあるそういうキプリアダのことだ。 悲鳴をあげてね。なんだか知らないけど人が駟けつけてきて、車タラントガさしあたりはそういうことにしておこう。い 0 たいそ こで何をやってたんだ。そしてどこからやって来たんだ。 がついた小屋に乗せられちまった : : : そしてあの気狂い病院にほ 〈来訪者〉別にたいしたことじゃないよ。ちょっとばかりメント うりこまれたってわけ。 をやってた。 タラントガ君は何年生れだ。 タラントガそれはどういう意味だね。 〈来訪者〉三千五百六十七年。 〈来訪者〉あんた、それを知らないの。 タラントガプトレミズというのはどういうことなんだ。 〈来訪者〉。フトレミズ ? さあね、よく知らないな。死人・ : ・ : っタラントガやってみせてくれないか。 やそれを屍生させるた〈来訪者〉 ( 部屋の中を見まわす ) そりやいいけど、ここには = シ まり死体があると、そいつが自分で : : : い ックがひとつもないからねえ。 めに。フトレミズするんだ。 タラントガニシックって何たね。 タラントガ蘇生させることか。 〈来訪者〉小型のニスだよ、持ち連びが出来るやっさ。 〈来訪者〉その意味が分らんよ。 タラントガ坐ろうじゃないか、え。順序だててなにもかも話してタラントガどんなことに使うんだね。 〈来訪者〉なんだって、きまってるたろ、メントのためだよ。俺 聞かせてくれないか。 はかュなり - ・しし 、成績をたしたんだ、一ア・フストリフに十七パルグ 坐る。 タラントガおおよそ見当がつけばいいんだ、そのニシックとやら 〈米訪者〉何から始めよう。 なしでそれをやってみせてくれないか。 タラントガごみはポーランド人か。

私はおおいそぎでテレタイプを全部もとどおり電源につなぎまし人間でなければならないのです。はたがいに補足しあうふた た。たった今観察したことをしつくり考えてみるのは、輪転機が動つの文をひとつにまとめることも、内容のある情報にするために、 レデイメイド きはじめる三時すぎでもできることでしたから。 たとえば記事用に何万と記憶している出来合いのサンプルを使って あれほどみごとな的中率とそれにおとらす派手な大混乱の原因を必要な導入部を選ぶこともできます。そのイントロを記事の内容に つきとめないかぎり安心できないことは分っていました。物事がよびったり合せることができるのは、が統計的な分析をやって く分らない人はすぐ当のコン。ヒューターに適当な質問をしてみれば いわゆるキー・ワードで素早く引きだせるからにすぎません。たと ″相手チーム″というよう しいじゃないかと思われるかもしれません。そういう人たちにいわえば原稿に″ゴール / 、″ペ せれば、コンビュ 1 ターがそれほど利ロで、しかもいつもそんなに ートリイの な単語ががくりかえし現われれば、スポーツ関係のレバ 従順たというのなら、コンピューターに自分でどういう仕掛けでテ中から何か選びだすのです。要するにコンビューターとは、適当に レタイプと切り離されても動けるのか、なぜそれがあとになって仕転轍器を切り替え、列車を連結し、貨車をしかるべき方向へ送りだ 事をやめたのか説明させればいし 、と言われるかもしれません。 すことはできるが、その積荷の価値については何も知らない鉄道員 そういう発想法は電子頭脳について書かれた通俗解説書に影響さのようなものだといえます。分析と総合という数学的な操作にゆだ れています。利ロだろうが馬鹿だろうが相手が人間ならば対話は可ねられるような単語、文章、発言など純粋に外見上の特徴に精通し 能です。しかしコンビューターとはそうはいきません。なにしろコているにすぎません。だからコン。ヒューターを当てにはできませ ン。ヒューターには個性がないのです。そういうことができれば、こん。 われたタイプライターにどこをどう修理したらいいか言わせること帰宅してからもいろいろ考えると、一晩中まんじりもできません もできるということになります。コンビーターは、自分にとってでした。 まったく意味を持たない、なんの関係もない情報を処理しているの コンビューターのやることにひとつの法則があることに気がっき シ / タクシス です。イン。フットされた文章は文章論というレールの上を走る汽車ました。つまり情報源から切り離されている時間が長いとそれだけ のようなものです。それが脱線すれば、つまりなにかミスがあると情報の復元の質が落ちるということです。二十年以上記者をやって いうことです。だから、コンビューター自身には何の意味もないの いる私にはその意味がよく分ります。ご承知のようにタイムズやニ です。彼のことをランプや机とおなじようにいう根拠はそこにあるユーズウィ ークのように発行部数の多い週刊誌はおたがいに無関係 のです。 な存在です。彼らに似たところがあるとすれば、同じ世界と同じ時 私たちのには人の手を借りすに新聞記事の原稿を編集した代に存在しほぼ同じ情報源を持っているということが両誌を接近さ り校正したりする能力がありますが、それたけのことです。ひとっせているにすぎません。しかもどちらも似たような読者をたくさん ひとつの原稿にどういう意味があるのか、それをきめるのはいつも かかえています。ですから両誌に載る記事が似たりよったりだとし

ですがこれに記録してあります。私は治療に自由連想法を使ってジョンズドライ・ ( ー カラソプルール います。やりかたはごそんじですか ? 私が任意の単語をいいま ・ハングロス語呂合せ。 キャプレター して、患者に、最初に頭に浮かんだ単語を答えさせるのです。 ジョンズ気化器。 弁護士知っております。 ハングロスがテー。フレコーダーを切る。 ・ハングロス始めにお聞かせするのは、二年前のものです。よく聞 いていて下さい。 ( テープレコーダーのスイッチを入れる ) ( ングロス今お聞きいただいたのが二年前のものです。彼の場 合、フロイドのいう象徴意義はすべて自動車に戻れます。『火 ジョンズと・ハングロスの声。 花』といっても、『車体』と答えました。棒は彼には変速レ・ ( です。さて次にお聞かせするのは例の不幸な事故があった後に記 ハングロス夜。 録したテープの一部です。 ・ト一フィト。 ジョンズへ、 ハングロス暗闇。 ・ハングロス花。 ジョンズヒューズ。 ジョンズ結婚式服用べール。 ハングロスなぜヒューズですか ? ハングロス行列。 ジョンズ暗闇だってことは、つまりヒューズがとんだからだろ ? ジョンズ鑞燭。 ハングロス注意を集中して。先へ進みますよ。帽子。 ・ハングロス鑞燭と行列の関係は ? ジョンズ弁。 ジョンズ分らん。ただそういってみただけだ。 ハングロス帽子と弁がどうして結びつきますかフ シリ / ・ダー ハングロス自動車のライトじゃないんですね ジョンズごく普通にさ。帽子は筒状だろ、シリンダーには弁がっ ジョンズ違う。ごく普通の燃えている鑞燭た。 きもんたよ。 ノングロス。ヒストン。 ハングロスなるほど、では血。 ジョンズ指環。 ジョンズストップ。 ハングロス舗装道路。 / ングロスストップ ? ジョンズ旅行。 ジョンズ赤色だよ。 / ングロスガソリン。 ハングロス聖三位一体。 ジョンズ手袋。 ・ノョンズラリー。 、ングロスラリーとはどういう意味ですか ? 精神分析医はテープレコーダーを切る。 ナヴィゲ 1 ター、整備員。 8 6

行及的想像できうべきものにこれなく候。しかるに、これを人 流普 皇室はご安泰 の味間に徴せらるるは、なんというばからしきことなるや、 - - ス趣 前衆議院議員匹田鋭吉 一 ~ ン楽少しくまじめに願い上げ候。 ( 失念いたし遅引候段ご海 ダ音 レの恕下されたく候。 ) 今後一百年の間には、破壊と建設とが幾度かくりかえ されるでしよう。しかし、幾度くりかえされても、皇室 カ百 善悪ともに西洋化 は安泰である。 一上下 第三高等学校教授片山孤村 地球と火星との交通 いっこう見当がっきません。しかし百年後の日本の文 読売新聞社柴三勝衛 明は、よき意味にも、悪しき意味にも、ますます世界 人智の進歩に伴う社会事業の発展には、いろいろなこ 化、換言すれば西洋化していることは疑いをいれませ とが予想されます。 ん。それは世界の大勢が日本文化の孤立を許しませんか らであります。すなわち、われわれが再生して、百年後 ます第一に、無線電信の発達は、地球と火星との交通 の日本に来たときの感じは、今日のわれわれが初めて欧を開くかもしれませんし、東京を中心にロンドン、パ 米の土地を踏んだときの感しと同じようであろうと想像リ、ニューヨ 1 ク間に、それそれ直通の電線電話が通す いたします。 るようになるかもしれません。

らだけいえば疑いなくあなたはリチャード・ジョンズですが、肉 子供たちのところへ戻ってくればいいんだわ。 弁護士ちょっと待ってください。あなたはご自分のことを未亡人体的観点からみると : : : ( 手で否定の身振りをする ) だったら、おれは一体誰た ? だと思っておられるのですか、それとも夫のある身だと考えておジョンズ何がいいたいんだー られるんですか ? どちらなんです ? もしかりにですよ : 弁護士裁判になれば、遺された子供の父親は誰か、ということが 未亡人あなたの魂胆は分っています。私を混乱させようという腹論点になります。ジョンズさん。こういうことはいえませんか、 なんだわ。私はあなたと言い争うつもりはありません。あたしに精神的観点から、兄嫁と一緒に子供たちも引き取り、父親として も弁護士がついています。土曜日までは待ちます。それでらちが の行動をとるよう意識的な計画でも立てないかぎり、無条件であ あかなければ話し合いましよう。ただし、裁判所でしか話に応し なたが彼らの親にはなれません、そうでしょ ? ( 去る ) ジョンズはっきりいうが、いやだ。今まで彼女とおれは何もなか ませんからね。そのつもりでいてちょうたい。 ジョンズ ( あたりを警戒しながら入ってくる ) 彼女をそこで見かけた ったんだぜ。能無しだよ、あの女はー んだが、ここへ来たんだな、そうだろう ? 弁護士たしかにおっしやる通りでしよう ! しかし、私の申し上 弁護士お兄さんの奥さんのことですか ? ええそうですよ。とこ げることもよく聞いていただきたい。精神的生活を出発点にして ろであなたは彼女の要求を知っているんですか 2 みれば、法律的意味でもあの子供たちの父親ではありません。そ ジョンズ知らんはずがないだろう。あいつの欲しいのは金だけれに何といってみても『汝はこの女性を妻にせんと欲するや ? 』 さ。あるいは、その上におれという景品付きでだ。ほかにどうし という牧師の言葉に『イエス』と答えたのはあなたではありませ ようもないっていうんなら、やばい橋を渡ったっていいんだぜ。 ん。しかし、お気の毒にもあなたにあんなことがあって、あちこ そうなりや亭主としてあの金に近づけるんだ、そうだろ ? とこ ち体の部分を移植せざるを得なかった。肉体的な観点からすれ ろで何か耳寄りな話があるのか ? ' よ、だからあなたが父親であるという危惧が、いや確実な証拠が 弁護士ジョンズさん、あまりいい話ではありません。この件は思 あるのです。実は、今この瞬間にも、その天命と機能ゆえに父親で ったよりやっかいです。私は病院へ行って専門家と話してきまし あることを司る、体のあの部分をあなたが所有しているのです。 た。誠に残念なんですが、あなたが生きているのか、それともそジョンズさつばりわけが分らんが、そんなことは嘘つばちた。お うではないのか、結局はっきりさせられませんでした。 れは父親じゃないそ ! だって、おれは兄嫁に指一本触れたこと ジョンズそれは一体どういうことだ もないんだ ! まあいいさ、それ以外に方法がないってんなら、 問題は、この際主観的な立場は意味が連中を養子にしてもいいんだが、それ以上はごめんだぜー 弁護士気を落ち着けて ! なくて、法律上のことが重要なんです。婚姻関係は、精神的だけ弁護士ジョンズさん ! あなたには、またこの問題のやっかいな ことがよく分っておいでにならないー でなく肉体的な関係も意味があるのです。だから、精神的観点か 6

かなぜ予知できないのでしようか ? 矛盾は事件そのものにあるのインの理論が主張しているような単純な条件づきではないというこ ではなく、世界、ことに時間についての私たちの考えかたの中にあとに起因しています。つまり、現在という概念は観察者の位置いか るとハ ートは断言しました。未来を予知するのはコン。ヒーターでんによるが、またまったく同し位置で起る現象でもその規模にもよ はなく、私たちが世界を理解するしかたになんらかのかたちで限界るということです。 があるのだとハ ートは考えていました。 コン。ヒュ 1 タ 1 は単純にその物理的現時点に存在していますが、 これも彼の言葉ですが次のように言っています。時間を過去からその時点は私たちのそれよりはるかに時間の幅があります。私たち 未来へ延びている直線として描けば、我々の意識は線上の一点だけにとっては二分後に始まるはすのことが、コン。ヒ = ーターには、私 に接してその直線上をころがっていく車輪とみなすことができ、そたちが見たり感じたりすることが事実であると同様にすでに起って よ自分の脳の中で起っているこ の接点を現在と呼ぶことができる。それが新しい接点に場所を譲っしまっているのです。私たちの知識ー てそれが過去という時点になるのも当然である。心理学者たちの研との一部でしかありませんし、連続してなげたダイスの目を全部予 究によれば、我々が現在と考えている時点は本来時間の長さはない 言するはずのコン。ヒ、ーターをたまそうとしてたった一回しか投け のたが、実際には半秒より若干短い長さの時間の断片である。した ない決心をしても、コン。ヒ = ータ 1 はすぐにそれを知ってしまうの がって時間に想定した直線との接点はもっと長く、直線の長さをもです。 っ部分と接しているのかもしれない。その時間の断片の最大の長さ どうしてそうなるのか疑問をお持ちですね ? 実に簡単な例でそ が百三十七秒に相当するのかもしれない。 れは察しがっきます。大気中で放電現象が起るとその場所に近いと 実際にそうだとすれば、我々の物理学は、人間の感覚と知識の枠ころでは稲妻と雷鳴が同時に発生しますが、放電場所から離れると 外では何の価値もない原理から出発しているので人間中心主義的で時間差があるように感じます。この例の稲妻が、もう少しあとにダ あるとハ ートはいっています。それは、世界は物理学がかくあると イスを振るのをやめようと心の中で決心する状態に相当し、雷鳴 主張しているようなものではなく、エレクトロニクスにもとづいては、実際にダイスを振るのをやめた瞬間に当ります。コンビ = ータ いようといまいと未来予知というような正確な洞察力などありえな ーは不可解な方法で私の脳から〈稲妻〉すなわち私の決心を読み取 ートはそれには重要な哲学的な意味があると断言してい いという意味です。物理学は時間の概念に関連して悪夢のような苦ります。 境に立たされています。一般的な理論や法則によれば時間は遡るこました。つまりその意味は私たちに自由に決定できる選択があると とができるはずですが、実際にはそうはいきません。そのうえ、原すれば、その百三十七秒がすぎてからしか可能性がないということ よです。その時間の範囲内では私たちの脳の働きはまるで惰性で動い 子内現象を研究する場合の時間測定の問題には、多くのやっかいオ ことが関係しており、それが多くなればなるだけ測定できる時間間ているようなもので、思考過程の変更をする可能性がありません。 隔が小さくなります。それはたぶん現在という概念がアインシ = タよく知られているように、惰性で運動している物体の運動方向を変 9

「爆発のことをおっしやってるんですね ? 」 「どこから手に入れたんですか ? 」 「それにしてもどうしてこんな辺鄙なところに建てたんですか ? 」 「突然変異をコントロールして人工的に作りだしたんです。つまり 9 「彼の意志たったんです」とノッチンセン。「研究が成功してから現存している・ ( クテリヤに放射線を、照射量をふやしながら当て というもの四カ月は彼一人で仕事をしていました : : : 」ノッチンセて、ヴィステリヤを得たんです。その状態はふた通りありまして、 ンは相手の顔を見て体をかがめると声を落してつけ加えた。 胞子状のときはメリケン粉みたいに無害で、町に撤いてもどうとい 「原子爆弾なんか問題にならないくらい恐ろしい代物だったかもしうことはありません。しかしいったんヴィステリヤが発芽して分裂 れませんよ、もっと恐ろしい を始めたら、それで一巻の終りです」 「この世が終ることよりもっと恐ろしいことがあるんですか ? 」 「ええ、アルデルモトから聞きましたよ」ビニールマントの男。 「原爆だったら、一発たけ投下してそれで止めておくということも「何を聞いたんです ? 」 できます。しかしあのヴィステリヤは一発で : : : そう、一発で何も「・ ( クテリヤが分裂してなにもかもーーー壁も人間も鉄も食いつくし かも終りです。あれにたちうちできるものはます他にないでしょてしまうという話です」 う。おい、そこだ ! 」穴の上に体をのりだしてノッチンセンが怒鳴「その通りです」 った。「あわてるな ! 火を離すなよ、きちんと一インチずつあぶ 「それこ、 冫いったんそうなったらどんなことをしても食い止められ るんた ! 」 ないとも言ってましたよ」 「わたしには関係ないことだが、しかし : : : そのヴィステリヤとか 「まったくその通りです」 がそんなに威力があるんだったら、あの程度の弱い火じゃなんの役「しかし、それだったらそんな代物が兵器に使える訳がないじゃあ りませんか」 にもたたんでしように ? 」とマントの男。 「何を作ることになってたかご存知ですか ? 」間をおいてノッチン 「そう、そこなんです、まだ今のところそれが兵器として採用され センが聞いた。 ていない理由は。ヴィスター氏はそのプロセスを中断させる方法、 「全然知りません。アルデルモトから地元警察としておたくに手をつまりその環元方法を研究していたんです。分りますか、申しあげ 貸すように言われただけですから : : : 話によるとこれは : : : 原子。ハている意味が ? 」 クテリヤとかなんとかそんなようなものを研究していたとか : : : 」 警察の男は最初ノッチンセンを見ていたが、すぐあたりの状況に 「原子バクテリヤ ? そいつは傑作だ」ノッチンセンは声をあげて目を移し、何も答えなかった。 笑ったが、すぐ黙った。せきばらいをして言った。 土塁にかこまれた、おびただしい数の同心円の漏斗が、しだいに 「ヴィステリヤ・コスモリチカ。彼はそう呼んでいました。物質を深まっていくたそがれの中で遠くまでかすんで見えていた。その穴 食って、それで生命エネルギーを得ている微生物です」 の上に、まだそこかしこ蒸気が立ちのぼっているものもあった。

ノッチンセンが続けた。 にか有機触媒のようなものを作るらしんいです。ヴィスターは小委 「われわれとしては、できれば跡かたなくきれいさつばりとしたい 員会でもその点は詳しく報告しませんでしたし、論文や資料は全 ところです。彼がなにか馬鹿な真似をするつもりだ 0 たとは思って部、下の彼の部屋に置いてあ 0 たのでなにも分りません」 いません。しかし確信はありませんが、あるいはまた : ・ : ・」 「予期してなかったんでしよう、こんなことになるとは」と警察の 相手の顔を見ないようにして / ッチンセンが言った。 男。 「たくさんあったんですか ? 」と、マントの男が聞いた。 「あるいはまったくその逆だったかもしれませんよ」ノッチンセン 「胞子ですか ? 話によれば耐火キャビネットの中に試験管が六本があいまいな言いかたをした。 入っていたそうです」 「照明のほうが消えたんだと思っとられるんですか ? しかしそれ 「三階の彼の部屋に ? 」と、マントの男。 にしても黴はどこから現われたんですか ? 」 「そうです。今はあのとおり穴が二つあいていますが、あそこに建「なにか勘違いなさってますよ、そういう意味で申しあげたんじゃ 物が二棟あったはずです」 ありません」 ノッチンセンはそう言ってから身ぶるいした。下のほうで炎がち ノッチンセンは愕然として警察の男を見た。 らちらするのを眺めながら続けた。 「あれは、そのせいじゃありません : : : 繁殖しても爆発を起すよう 「穴たけでなく、半径五キロメートル以内の全地域をいっさい焼き なことはありませんよ。地下室に置いてあった大型。ヒラトロンに何 払ってしまう必要があります。明日の朝、アルデルモトがここへや かあったんだと思いますね。問題は、あれがひろがるのを食いとめ ってきます。彼は、軍隊を動員して、ここの人間だけで処理させるる方法を発見することだったんですが、それが見つからないまま、 ようなことはしないと約東してくれました」 万が一に備えたことにあるんです : : : 」 「で、それが始まるのにどんな条件が必要なんですか」 「万が一の場合というと、戦争のことですか ? 」 ノッチンセンは、その質問の意味がとっさにのみこめなくて、し「そうです」 ばらく相手の顔を見つめていた。 「ところで、彼はあそこで何をやってたんですか ? 」 「ヴィステリヤが活動し始める条件のことですね ? 暗闇です。耐「分りません。何か反物質に関係があることだったようですが : 火キャビネットの中は照明が点いていました。停電に備えて特殊なヴィステリヤは物質を食いますから。アンチプロトンの合成、カ場 ッテリーが組みこまれていて、ランプがそれそれ独立した別の回の形成、分離、これがヴィステリヤの生命サイクルです」 路になっていました」 しばらく二人は黙って穴の中で働いている作業員を見つめてい 「暗闇だけですか ? 他には何も ? 」 「暗闇と、 . それから黴のようなものです。黴も必要です。それがな 穴の底で火がひとつ、またひとっと消えていった。天青色のたそ 9- 0 ・