ミセス・フーディ 「あら : : : まあ、あなたの心臓が脈打っているのが見えるわ ! あ 彼女は驚いたような顔をした。 なたの : : : 」 「あら、そんなこと考えてもみなかったわ。あたしはまだ、この能 「フィル、彼女がどうやってやるのか教えてくれないか ? 」 力を使ってみようとしたことがないのよ」 ハクスレイは鼻をこすった。 「引出しの中に、ほかに何か ? 」 「よくわからんが、たぶん : : : 」 「便箋を入れた箱たけね。ちょっと待って、スケッチするから」 彼女は二分間ほど忙がしくスケッチをした。舌が歯のあいだに、 ジョーンは、外科医が坐っている大きな椅子の上にかがみこん 目は閉じた引出しのほうにむけられて、また紙へもどる。べンは尋だ。 「かれには、 カからないの、フィル ? 「中を見るのに、引出しのほうを見る必要があるのかい ? 」 「うん、かからない。栓抜きで頭蓋骨をたたいてみること以外は、 、え。でも、役には立つの。ある物から目をそらしながらそれあらゆることをや「てみた。催眠術をかけるべき脳そのものが、こ を見ていると、目まいがするから」 いつにはないんじゃないのかな」 引出しの中身とその配置が調べられ、ジョーン がいったとおりに「怒らないで。もう一度やってみましよう。どんな気分なの、べ なっていることがわかった。コ・ ーン医師は、それが終ったあと、 静かに坐ったきり何もいわなかった。フィルは相手の無表情さに、 「いいよ。でも、はつぎりと目が覚めている」 いささか退屈して話しかけた。 「あたし、こんどは部屋の外に出ているわ。あたしが攪乱要因にな 「さあ、べン。どう思った ? どんな気がした ? 」 っているのかもしれないからよ。さあ、いい子にして、お休み、 「ぼくがどう思ったかは、わかっているたろう。きみは、きみの理イバイ」 論を完全に証明した : : ・ほくは、その意味するところを、可能性の彼女は出ていった。 いくつかを考えていた。・ほくらは外科医がどうしてもそれを使って 五分後に、 ハクスレイが彼女を呼んだ。 , 仕事をしなくてはいけない最も偉大な宝物を授けられたのだ、とぼ 「さあ入っておしてシ 、 : ・ヨーン。かれはかかったよ」 くは考えるね。ジョーン、きみは人体の内部を見ることができるか彼女が入ってきてコ バーンを見ると、かれは彼女の大きな安楽椅 子に長くなり、目を半ば閉じてしっとしていた。彼女はハクスレイ 「わからないわ。まだ一度も : : : 」 のほうをふりむいて尋ねた。 「ぼくを見てくれ」 「あたしの番ね ? 」 彼女は、かれを黙ってしばらく見つめた。 「ああ、用意してくれ」
手紙が八通、請求書が二通 使用済の入場券が二枚、フォリー 「ドクター、あなたにはびつくりたわ、 「自分の仕事に専念するんたよ」 「こんど行くときには、あたしを連れて行くって約東してくれるん 、ならね」 ポケット・クリツ。フつきの体温計 美術用消ゴムとタイプライター用消ゴム ーレスク劇場のもの 鍵三個 口紅、マックス・ファクタ 1 # 3 メモバ 、片面が使ってあるファイル用カードすこし 小さな茶色の紙袋。その中に入っているものはストッキング が一足、サイズ 9 、茶褐色 「これを買ったことを忘れてたわ。今朝は、ちゃんとした靴下を家 中探がしまわったっていうのに」 「きみの >< 線みたいな目を、どうしてちょっと使わなかったんた ー 57
になっている。そんな具合だったわ : : : あたし、自分が何をしたが「これには、鉛筆と紙を使ったほうがいいオ 、よ、・ンヨーン。ますきみ っているのかということは、わかっていたの。そしてある日、できが引出しの中に見えるものを全部書き出してくれ。それから、品物 5 たの。さあ、しつかりして。フィレ・、、 ノ力しらいらしてきたわ」 のだいたいの位置や配列がわかるように、ざっとスケッチを描いて くれ」 べンはとまどったまま黙っており、そしてフィルがかれを隅の小 さなテー・フルに案内するのにまかせた。 オーケ彼女は机の前に坐って、手早く書きはしめた。 「ンヨーン、・ほくらはどの引出しを使ってもいし力しつ・ 大きな黒皮のハンド・ハッグ イ。べン、この机の引出しから、きみの好きなように中の品物を取 六インチの定規 り去ったり、あるいは何か加えたりしてくれ。それから引出しの中 べンは彼女をさえぎった。 をのそかすに、中身をかきま・せ、その中の品物をいくつか取り出し て別の引出しに落としてくれ。・ほくはテレバシーの可能性を排除し「待ってくれ。まるつきり違うよ 。ハンド・ハッグみたいに大きなも のがあれば、、ほくも気づいていたはすだ たいんだ」 「フィル、あたしの家を散らかすなんて心配はしないでね。うちに彼女は眉をよせた。 おおぜいいる秘書は、あなたがたがそれで遊びまわったあと、その 「あなた、どの引出しだっていったの ? 」 「右のふたつめさ」 机を片づけるのに大喜びするだけなんだから」 「科学の前に立ちふさがるんじゃないよ、お嬢ちゃん。それに」 「いちばん上の引出しのことをいったんたと思ったわ」 かれは引出しの中をのそきながらつけ加えた。 「この机は、どう見「うん、そう考えたのかもしれないな」 てもこの六カ月間、片づけたことなしだ。もうすこしひっかきまわ彼女はふたたび始めた。 ーナイフ しても、別に変るわけもないしね」 真鍮製のペー 「まあ ! あたしにどうしろっていうの ? あたしはあなたのため 黒鉛筆六本と赤鉛筆一本 に、社交用の手品をいろいろお・ほえるので大忙がしだったというの ゴムバンドが十三 に。それに、どこに何があるのかみんなわかってるのよ 真珠貝の柄のペンナイフ 「 ' ほくが心配しているのもそのことさ。それで、ペンに無作為要素「これはきっと、あなたのナイフね、べン。とってもすてきだわ。 をすこし加えてほしいってわけさ : : : できるものならね。やってく どうしてあたし、前に見たことがなかったのかしら ? 」 「サンフランシスコで買ったんた。驚いたな、これは。きみはそれ 医者がそれに応して引出しをしめると、フィルは言葉をつづけをまた見ていないんたぜー 紙マッチ、サ 1 ・フランシス・ドレイク・ホテルの広告用
フィルはましめな口調でいった。 「わかるかい これが緊張をともなわなければいけない理由は、実かれは原稿の一枚を取って彼女に渡した。彼女はそれをちらりと 際のところ何もないんだ。われわれの知る限り、思考というものは見て、すぐかれに返した。かれはとまどったような顔をしていっ こ。 まったくエネルギ 1 の消費を必要としていない。人間というものは 「どうしたの ? 」 努力などしなくても、正確かっ適切に思考することができるはすな んだ。頭痛をおこさせるのは不完全な思考のせいだと、ぼくは思う「別に : : : そのとおり読んでみるから、つきあわせてみて」彼女は 早口に歌うような声でいいはじめた。「四ページ : : : さてカニンガ ね」 フィルっ・・この 問ム、第五版、五四七ページによれば、繊維組織の他方、すなわち脊 「でも、いったい彼女はどうやってやるんだい、 題の大きさを想像しようとするだけでも、・ほくの頭は痛くなる。も髄小脳神経束の後部は、脊髄側柱の内部を上にむかってのび、すこ しふつうの数学を使い、手で書いて計算しながら間題を解いていくしすっ延髄のこの部分を離れる。この束は表面にあり、そして : んだとすればね」 「彼女がどうやってやるのか、 ・ほくにはわからない。彼女自身にも「充分だ、ジョ 1 ン。やめてくれ。きみがどうやったのかは神のみ そ知るだが、しかしともかくきみは一瞬のうちに、この専門語のが わからないんた」 ? よいつまったペ 1 ジを読んで、記憶した」かれは茶目 「じゃあ、彼女はどうやってこんなことをするのをおぼえたんたらくたがいー しささか 気たっぷりの微笑を浮かべた。「しかし、きみの発音は、、 メイノ・ディッシ = 口を噛みそうだったね。ストーンべンダー祖父さんなら、完璧に発 「その話はあとにしよう。またきみに、一番のご馳走を見せてない 音していたろうな」 からね」 「どうしろっていうの ? あたしには、書いてある言葉の半分も意 「もうこれ以上は結構。もうグロッキ〕だよ」 味がわからなかったのよ」 「これは気に入るそ」 「ジョーン、きみはこういうことを、いったいどうやっておぼえた 「待ってくれ、フィル。・ほくは自分自身ので試してみたい。ジョ んだい ? 」 ンはどれぐらい速く読めるんだい ? 」 「ほんといって、ドクター、あたしにはわからないの。どこか、自 「見るのと同じ速さた」 外科医は上着の内ポケットからタイ。フした何枚もの紙を引っぱり転車の乗りかたをおぼえるみたいなものなのね : : : 何度も落ちてい るうちに、ある日とつ。せん乗れるようになって、そのまますーっと 出した。 「ふうむ・ : : ・・ほくはちょうど、、 しま調べていることをまとめた二度楽に走っていっちゃう。それだけのこと。それから一週間もしない 5 うちにハンドルから手を離して乗り、いろいろと曲芸もできるよう 目の原稿を持っている。これでジョ 1 ンを試してみよう。いいカ
「そう考えたらしいな。謝まるよ。きみに曲球を投げてしまった。 かれは無言で、しろといわれたことをした。ジョ 1 ンはかれを見 つめた。 照明があまりよくないんでね」 フィルは説明した。 「あなたはもう一度やらなくちゃいけないわ、べン。あたし、カー 「ジョ 1 ンは、目のためにいい よりも、芸術的な照明効果のほうが ドを五十一枚しか見なかったもの」 好きなんだ : : : そういうことがおこって、・ほくは嬉しいよ。彼女「どれか二枚がくつついていたんだな。もっと注意してやってみよ が透視能力を使っているんじゃなくて、テレバシーを使っているのう」 かれはそれをくりかえした。 だということがわかったからね。さて、それでは数学をすこしやっ てみよう。立方根とか瞬間的な足し算とか、双曲線関数の対数表と「こんどは五十二枚。それで結構」 いった、ありきたりの名人芸は抜かすことにする。・ほくの言葉をそ「用意はいい力し 「ええ、フィル。書き取ってちょうだい。ハ のまま信してくれ。彼女はそういうことができるんだ。そういった 単純なことについては、きみがあとで彼女を試してみられるからが 4 まで、スペードが 2 まで、クラブはなし」 ーンは信じられないといった顔をした。 な。ここにぼくが自分の家の台所から探がしてきた蜂蜜のように甘 いゲームがある。これには連読も、完全な記憶も、そして信じられ「このゲームの結果が、そうなるというのかい ? 」 「やってごらんなさい」 ないほどの数の順列組合せを操作することも、さらに二者択一につ かれはカードを左から右へならべ、それからゆっくりとゲ 1 ムを いての数学的研究、ふくまれている。きみはひとり占いをやるか 進めていった。ジョーンは途中でかれをさえぎった。 「ああ」 ートのキングの山をつづけるのよ、スペード 「違うわ。そこにはハ 「カードをよく切って、それからキャンフィールド・ソリテアをなのキングを使ったら、クラ・フのエースが残ってしまうけれど、あた らべてくれないか。左から右へ。一度に三枚すっ、手づまりになっしのいうとおりにすれば、ハ ートの残り札が三枚へるわ」 てもうそれ以上進めなくなるまで、くりかえして持ち札をめくるん ーンは黙っていたが、彼女にいわれたとおりにした。さらに ンヨーンはかれをさえぎり、違う進みかたを指示した。 「わかった。それで、どういうことになるんだい ? 」 ゲームは、正確に彼女が予言したとおりに終った。 「カードを混ぜて切り終えたら、一度だけすべてカードをめくっ ーンは髪を手でかきわけ、カードを見つめて静かに尋ねた。 て、ジョーンがそれそれのカードのマークと数字をちらりとでも見「シ 。ヨーン、きみは頭が痛くなったことがあるかい ? 」 られるように、さし上けてくれ。それから、ほんのすこし待つん「これのせいで頭が痛くなったことはないわ。努力することなど、 まるで要らないみたいなの」 ートが 6 まで、ダイヤ 24
切ってくれ、ペン」 ーンはそうした。 「さてと、きみも知ってのとおり、・ほくらは最初の二カ月間、大し て進歩しなかった。ずっと急な登り坂だった。ジョーンはまあまあ「それで ? 」 「めくってくれ、一度に一枚すつ。きみとぼくには見せて、ジョー のテレバシー能力を身につけたが、不安定で当てにならない。数学 的能力となると、彼女は九九をお・ほえはしたが、稲妻のような計算ンには見せないように。あててくれ、ジ尸ーン」 べンはゆっくりとカ , ードをめくった。ジョーンは歌うような声で 能力者としては失敗例さー となえはじめた。 ジョーンは飛び上がって、男たちと暖炉のあいだを抜け、小さな , ートのエース、スペードの 1 トのジャック、 「ダイアの 7 、 。フルマン・キッチンに入った。 「蟻がよ「てくる前に、お皿をみなこそげて水につけておかなくち 3 、ダイアの川、クラブの 6 、スペ 1 ドの 9 、クラ。フの 8 : : : 」 「べン、きみの驚いた顔を見るのは、これが初めてだぜ」 ゃあ。大きな声で話してよ、あたしにも聞こえるように」 「一組のカードを一枚も間違いなしだ。ストーンべンダー祖父さん フィル ? 」 。ヨーンは、いま何ができるんだい、 「それでシ だって、これ以上うまくはやれなかったろうな」 「話したくないね。きみがその目で見るまで待つんだ。ジョーン、 「そいつはまた大変な褒め言葉しゃないか、きみ。ちょっと趣向を カード・テ 1 ・フルはどこだい ? 」 「べ , ドの後ろよ。怒鳴る必要はないわ。あたし、賢いお祖母ちゃ変えてや 0 てみよう。こんどは、ぼくは離れて坐「ている。・ほくに んの流線型補聴器を手に入れてから、は「きり聞こえるようにな 0 カードを見せないでくれ。・ほくらは、ほかの人とのあいだでは、ま だやってみたことがないんで、うまくいくかどうかわからないが ているもの」 「わかった、娘 0 こ、見つけた。カードはいつものところかい ? 」ね。や「てくれ」 1 ンは最後のカ 1 ードをおいた。 数分後にコ・、 「ええ、すぐにそこへ行くわ」 彼女は現われ、派出な = プロンをはすし、長椅子に坐りこむと両「完璧だ ! 一枚も違わなか 0 たよ」 ジョーンは立って、テ 1 ・フルに近づいた。 膝を抱いた。 】トの川が二枚もあるの ? 」 「偉大なる気違いさま、 ( リウッドの悪霊は用意ができました。す「どうしてこのカードには、 ( べてを見、すべてを知り、呪われたることどもを語りましよう。占彼女はばらばらとカードをめくり、そのうちの一枚を引「ばり出 いに、なおし、ご家族みなさまでお楽しみいただける上品な遊した。 ートの川だと考えたけれど、 「まあ、あなたは七枚目のカ 1 ドをハ びです」 「ふざけるのはやめろよ。・ほくらはます簡単なテレバシーから始めこれはダイヤの川よ。ね ? 」 ペンはうなずいた。 よう。そのほかのものはみな、ギアをはすしておくんだ。カードを 3
のまだ仕事を割りあてられていない部分に宿っているんだ , 「でも、フィル : : : あなたは正常な個体を使って、特殊な能力がか ーンは唇をすぼめた。 れらの中で育つようにすればいいのよ。あたしは素晴らしいことだ 「ふーん : : : ぼくにはわからないね。もし、われわれすべてがそう と思うわ。あたしたち、いっ始めるの ? 」 いう不思議な能力を持っているとすれば、それがまだ証明されてい 「いっ始めるって、何を ? 」 ないとしても、われわれがその能力を使えそうにないというのは、 「あたしを相手によ、もちろん。たとえば、あの稲妻のようにすば どういうわけなんたい ? 」 やく計算する能力にしては ? もし、あなたがあたしの中にその能 「・ほくは何も証明していない : : まだね。これは作業仮説た。しか力を開発したら、あなたは魔術師ということになるわね。あたし、 し、ひとつの類推をさせてもらおう。こういった能力は、見る、聞 代数は最初の年にもうつまずいていたもの。いまでも、あたしは掛 ふれるといったものとは違「ている。それらは、われわれが生算の九九がわからないのよ ! 」 まれたときから使わざるを得ないものなんだ。つまり、どちらかと いえば、話す能力に似ている。話すという能力は、生まれつき大脳 第三章″すべての人が、 に独自の中枢を持っているが、実際に話せるようにするためには、 それそれの天才を持っている″ 訓練を必要とするんだ。耳も聞こえす、ロもきけない人たちばかり の中で大きくなった子供が、話せるようになるなどと思うかいっ・ 「始めていい力い ? 」 もちろん、なったりはしな、。 外から見た限り、 かれはひとりの話 と、フィルは尋ね、ジョーンは反対した。 せない人にすぎないということになるな」 「まあ、だめよ : : : 静かにコーヒーを飲んで、夕食をちゃんとすま ーンは譲歩した。 せましよう。あたしたち、二週間もペンに会ってなかったのよ。サ 「降参したよ = = = きみはひとつの仮説を立てて、まことしやかにしンフランシス「一で何をしていたのか、聞かせてほしいわ」 ゃべ「た。しかし、きみはどうや「て、それを確かめるつもりなん外科医は答えた。 マツに・サイエ / ティスト だ ? ・ほくには、どこでそれを確かめればいいのか見当もっかな 「ありがとう、ダーリン。でもぼくはそれより、気違い科学者とそ 。それは非常によくできた仮説たが、実験作業ができないとしたの女の子の話のほうを聞きたいな」 ら、たたのファンタジー ハクスレイは首をふった。 ( クスレイは寝ころんで、憂鬱そうに木の間を見あげた。 「トリルビーた「て、へん : : : 彼女は氷の上の豚みたいに自主独立 「それが痛いところさ。・ほくは最高の超能力者の実例を失 0 てしまさ。でも・ほくらもこんどは、きみに見せられるものを持「てるよ、 「た。どこから手をつければいいのかわからないよ」 【いック」 ジョーンは抗議した。 「ほんとかい ? そいつはすごいな。ところでなんたい、それは
かれらは、われわれみんなに本来備わっ 「そうだな。テレバシーはライン博士の実験によってはっきりとそはないんじゃないのか ? の存在が証明されているが、まだ説明はついていない。もちろんそているべき潜在的能力に偶然ぶつか「てしま「ただけじゃあないの か、という疑問さ。教えてくれ、きみがヴァルデスの頭蓋骨をあけ の以前にも、多くの人々がこれを観察しているんだ。あまりくりか たとき、見たところにどこか異常なところがあったかい ? 」 えして何度も現われているから、それを疑問視するのはおかしいと 「いいや。傷のほか、別に時別なものは何もなかった」 いったふうにまでなった。たとえば、マーク・トウェインだ。かれは ラインより五十年も昔にそれについて書いており、証拠書類とくわ「結構。しかし、きみがあの損傷個所を切除してしまうと、かれは しい目撃談もついている。かれは科学者しゃあないが、り 0 ばな常もはやある奇妙な透視能力を所有していなかった。きみはかれの大 脳の一片を、地図の描かれていない地域から取り出した : : : その機 識を備えた人だったんたから、無視されるべきじゃあないだろう。 ア。フトン・シンクレアもそうた。前兆というやつは、ちょっと厄能がまた知られていないところからね。さて、脳の多くの部分は、 はっきりした機能がわかっていないということは、心理学と生理学 介た。どんな人でも、虫の知らせや予感があとで本当のことになっ の初歩的なデータだ。 たという話の十や二十は聞いたことがあるたろう。たが、たいてい ・ダンの″時しかし、肉体のうちで最も高度に発達し高度に特殊化した部分の の場合、そういう話は追跡調査がなすかしい。・ についての実験。を、厳密な条件のもとでおこなわれた " 夢に現わ多くが無機能だということは、どうも理屈にあわない。だから、そ の機能が知られていないのだと仮定するほうが合理的た。さらにま しいな」 れる前兆″の科学的な記録として調べてみるのも、 「いまきみが話したようなことはみな、どういう点できみの気に入た、これまでにも大脳皮質のかなりな部分を切除されても、その精 フィル ? きみは″言じようが信しまいが″をただ集神能力に外見的な欠落は見られないという人間はおおぜいいる : ったんたい、 肉体の正常な機能をコントロールしている部分がふれられすに残っ めているたけじゃあないんたろう ? 」 「ああ。とにかくぼくは、山ほどのデータを集めてみなければいけている限りはね。 ところで、このヴァルデスの場合に、われわれは大脳の地図がな なカた・・・・ : 一度。ほくのノ 1 トを見てくれよ : : : そのあとで・ほくは やっと、ひとつの作業仮説を組み立てることができたんた。ぼくはい部分と、ある奇妙な能力、つまり透視能力に直接の関係があるこ とを立証したわけだ。・ほくの作業仮説は、このことから直接に出て いま、ひとつの仮説を持っている : : : 」 くる。すなわち、すべての正常な人々も潜在的には、われわれがい 「それは ? 」 : ヴァルデスを手術することでね。ぼくはすま話してきたような変わった能力のすべてを、あるいはそのほとん 「きみがくれたんだ : ・ こし前から、ある疑問を持つようになっていた。つまり、こういつどを持っており実行できるんだってことだ : : : テレバシー、透視、 た奇怪な、明らかに考えられないような、精神的肉体的能力を持っ特殊な数学的能力、肉体とその機能に対する特別なコントロール、 ている人々には、そのほかの人間とくらべて異常といえるほどの差そういったものをね。こういうことをするための潜在能力は、大脳
「かもしれん。だがかれは、用心深くなって、ほかの猿どもに、自「人間のはないね。しかし、ぼくは田舎の霊媒に会ったことがある 分が異なっているということを知られないようにしようと決心した ・ : 気持のいいやつで、霊媒を商売にしていたわけじゃない。隣り んだと、ぼくは考えているよ。いずれにしても、かれは種類は多くの家に住んでいたんだ : : : それでよく・ほくの家に来ては、いろいろ なくても、その強さにおいては驚くべき能力を持っていた。かれはな家具を床から上げて、空中に浮かばせたものさ。・ほくはぜんぜん ちらりとひと目見ただけで一ページの印刷物をすべて読むことがで酒など飲んでいなかった。あれは本当におこったか、それとも・ほく きたはずだし、それに疑いもなく完全な記憶力を持っていたんた。 が催眠術にかけられていたかだな。どちらでも、きみのいいように 完全な記憶力といえば、盲目のトムはどうだい ? 一度聞いたこと取ってくれ。空中浮揚といえば、きみはニジンスキーについていわ のある曲なら、どんな曲でも演奏できた黒人の。ヒアニストさ。もつれている話を知っているかい ? 」 「どの話 ? 」 と近くだと、このロスアンゼルス郡にだって、こんな少年がいたよ、 そう何年も前のことじゃない、目隠しして。ヒンポンや、そのほか、 「かれが空中に浮揚したって話だ。 ハラの霊〃の舞台で、かれは ふつうの人なら目を必要とすることがなんでもできた。ぼくは自分いつも空中に跳躍し、しばらく静止し、それからゆっくりと下りて インスダンティニャス・エコ でかれを調べてみた。かれはできたよ。それから″瞬間的なこたま″ きたと証言する者が、ここにもヨーロッパにも、もしかれらが大暴 というのもいた 落のときに死んでいなければ、何千人となくいるんた。それを集団 ジョーンが口を出した。 幻覚と呼んだってい : ぼくはそれを見ていないがね」 ジョーノよ、つこ。 わーし子ー 「その人のことを、あたしに話してくれなかったのね、フィル。、 れは何ができたの ? 」 「また、オッカムの剃刀ね」 「どういうことフ・ 「ほかの人がしゃべるのにあわせて、いっしょにしゃべれたんだ。 その人の言葉、その人の抑揚を使ってね。それも、その言語を知っ 「集団幻覚というのは、ひとりの男が空中に数秒間浮かんだという ているかいないかには関係なく、どこの国の言葉でもなんだ。そしことよりも説明しにくいわ。集団幻覚は証明されていないのよ : てかれは、まったく正確にその人と同じ速さで話すので、聞いてい その事実が面倒だからといって、そういう推論で片づけてしまって る者のほうは、だれひとりふたりを区別できないんた。かれは他人はいけないわ。それは、初めて犀を見た田舎者が″ああいう動物は の話す言葉を即座に、正確に、そして楽々とまねることができたんいるはすがないものだ。というのと同じようなことね」 だ。きみの影がきみの体の動きにあわせてゆくのと同じようにね 「そうかもしれないな。どんな種類の変な話だろうと、きみの聞き 「実に変わっているな、え ? それに行動主義理論しゃ説明はむたいと思うものをいってくれ、べン。・ほくはそういう話を無数に集 ずかしそうだ。空中浮揚の例に出会ったことはあるのかい、 めているから」 「前兆とテレバシーはどうだい ? 」
らにはまったくわかっていないんだぜ。南アメリカの最南端にある・ほくの生まれた町、ミズーリ州 フェゴ諸島に住んでいる連中のことを考えてみろよ。かれらは地面中に時計のある男がいたよ」 に裸で寝ていた、氷点下の気候でもたぜ。しかし、肉体はその作り「どういうことなんだい ? 」 からいって、そんなことに順応できるはすがないんだ。肉体にはそ「。ほくがいっているのは、かれは時計を見なくても正確な時刻がわ ういう機構がそなわっていない。・ とんな生理学者だって、きみにそかったということさ。もしきみの時計がかれのと合っていなけれ う教えるさ。氷点下の戸外に出された裸の人間は、運動をしなければ、きみの時計が狂っているんた。そのうえ、かれは稲妻のように ・ : どれほど複雑な算数の間題を出されても、 ば死んでしまうだけた。ところが、フェゴ諸島の連中は、新陳代謝計算できる男だった : 率とかそういったことは何ひとっ知らなかった。かれらはたた眠っその答が瞬間的にわかるんた。ほかのことをやらせると、かれは精 : ぐっすりと、温かく、気持よくね」 神薄弱者だったがねー べンはうなすいた。 「これまでのところ、きみはわれわれのまわりでおこったことにつ イディオ・サ・ ( ノ いて何もいってないな。もしきみがそれほど寛容になってくれると「それはよくある現象さ : : : 学者馬鹿たね」 いうんなら、ぼくの祖父のスト】ンべンダーは、もっともっと不思 「だが、名前をつけても説明したことにはならない・せ。それに、変 議な体験をしたということになるよ わった能力を持っている多くの人々が精神薄弱者たが、かれらのす べてがそうだというわけじゃない。・ほくの信じるところでは、かれ 「いまそれを話すところさ。ヴァルデスを忘れないでくれよ」 らの過半数の者が、そうじゃないな。そういった人のことを・ほくら ンヨーンは尋ねた。 があまり耳にしないのは、正常な知能を持った連中なら、自分たち 「べンのお祖父さんて、なんのこと ? 」 「ジョーン、べンのいるところで何かを自慢したりは絶対にするなが異なっていることを他人に疑われたりしたら、見物人がおしかけ よ。かれの祖父のストーンべンダーが同じことを、より速く、よりてきて困ったことになるか、それとも迫害されることになるかもし れないと、わかっているからだ」 楽々と、よりうまくやっていたと知るたけの結果になるからね」 べンはまたうなすいた。 ーンの目に、怒りよりむしろ悲しみの表情が浮かん うす青いコ、、、 、」 0 「その意見はおもしろいよ、フィル。先をつづけてくれ」 トーンべン「考えられないほどの能力を持ちながら、その他の点でも劣ってい 「なんだい、フィル、きみには驚いたね。もし・ほくがス ダー家の一員でなければ、そしてもし・ほくが寛容な人間でなけれない連中は、おお・せいすぐ近くにいたんだ。たとえば、リス・サ ば、いまの言葉に腹を立てかけていたかもしれない。せ。だが、きみイディスだな : : : 」 かれの能力は出つくしてしまっ 4 まるならいいよ」 「例の天才少年だろう、違うか ? 「ほう、ヴァルデスのほかにこの近くでということになるとたな。 たとばかり思っていたんだが」 ーのスプリングフィールドには、頭の