ですか」 は、映写が終わるやいなや、激しいいきおいで質問を浴びせかけて マイクが視線をおれに向けた。おれが言った。「これ以上は明かきた。おれたちは、ジョンスンに答えたときとおなじように答え 4 た。その反応がうれしかったから、そうったえた。 せない」 ジョンスンが部下の者を見ると、彼は肩をすくめた。「おれのか ケスラーが鼻を鳴らした。「たれがカメラをまわしたのか知りた かわる問題じゃない」 ー〉以来の最高傑作だ。いや、〈べン・〈ー 釣り針をぶらさげた。「こちらでつくられたものではない。それろじゃない。すごい手際のやつらだ」 がどこかは気にしないでほしい」 鼻を鳴らしかえした。「そのことだけはおしえてあげられる。そ ジョンスンは立ちあがり、針にかかっておもりごと釣り糸を飲みのすごい手際のやつらは、今きみの目の前にいる。おことばありが 「ヨーロツ。、、 こんだ。 なるほど。ドイツた。いや、フランスとう」 か。多分ソ連た。アインシュタインとか、アイゼンシュタインと 四人がいっせいにおれたちをみつめた。 か、そんな名前の男なのでしよう ? 」 マイクが言った。「そうなのか」 おれは頭を振った。「それは問題しゃない。主演者たちはみな死「なんてことた」とマース。全員が、見なおした様子でおれたちを んでしまったか、現場からはなれてしまっているが、その後継人がみつめていた。いい 気分だった。 言わんとするところは、わかるでしよう」 沈黙が長引いて間がもたなくなろうとするところに、ジョンスン ジョンスンはわかった。「完全に了解です。運まかせにするわけが口を出した。「予定表では、つぎは何をすることになっているん よ、。 0 戈りのフィルムはどこに 「見当もっかない。 これだけ引きあげるのでせいいつばいだったん つぎの問題にすすんだ。マイクは、、 しつものとおり、おしゃべり は全部おれにまかせて、目を半分閉じたまま話を耳に入れてすわっ 「できます」しばらく考えて言った。 ーンスタインを呼んでくていた。 れ。ケスラーとマースもいたほうがいい」映写技師が席を立った。 「全巻にわたって、音声を人れたい」 数分後には、大柄なケスラーと、そわそわとして煙草を手ばなさな ーンスタイン。 「喜んで」と・ハ い若者のマースが、健康そうな。ハ ーンスタインとともにあらわれ「今見た主要人物によく声の合った声優が、すくなくとも十人以上 た。おれたちは三人に紹介され、もう一度映写するのにつきあっては必要だー くれるかたすねた。 ジョンスンがうけおった。「簡単にあつめられる。セントラル・ 「ええ。こちらからお願いしたいくらいだ」 キャスティングに行けば、創業以来の俳優の写真が全部そろってい ーンスタイン それほどではなかったが。ケスラーとマースと・、 る」
に今までどおりに仕事をしてもらいたいと思う。のこりの二本をつから立入禁止になっている。ロシア人が何をしているかだれも知っ くるときに、おれたちの動機と方法とが明らかになる。動機も方法ている者はいないからーーー」 もそれそれおなじくらいに重要なものなのだ。さてーー・これでじゅ 「だめです ! , マースは断定的に言った。「あの映画がロシアから うぶんだろうか。その線ですすめられるだろうか」 来たなんて、すこしでもにおわせたち、我々全員がアカの集団にさ ケスラーには、じゅうぶんでなかった。「それだけでは、なんのれてしまう。興業収入は半分になってしまいますよ」 ジョンスンは口調をはめた。「わかった、ロシアからではない。 意味もない。おれたちをなんだと思っているんた。日雇い馬車の集 団か」 シベリアか、アルメリアか、どこかそのへんの保護国になっている ジョンスンは、預金通帳の帳尻について考えていた。「あと五共和国のひとつにしよう。ロシア製の映画ではないわけだ。じつは 本。二年か、四年ぐらいかかるたろうか」 これらの映画は、戦争後ロシア人にとらえられ、移住させられたド マースは懐疑的だった。「そんなに長いあいだ、かくしとおせるイツ人とオーストリア人のグループによってつくりあげられたの とでも思っているのか。あなたのスタジオはどこにある ? 俳優は だ。戦時の狂熱も冷めてきて人々はときおり、そのドイツ人たちが どこにいるんだ ? 野外セットはどこに組んでいるのか。衣装やエ有能なことを思い出した。不完全な機械をつかい、馴れない風土の キストラはどこから調達しているのか。必要とあれば、たったひともとで超スペクタクル映画をつくり つづけるその難民たちに、昔な つの場面に、四万人のエキストラを動員する ! あたしのロは封じがらの同情があつまって、ゲシュタポだったか何かの鼻先をかすめ られるかもしれないが、メトロやフォックスやパラマウントやて密出国させたと これでいこう ! 」 O から問い合わせの来ている質問には、だれが答えることになるん疑わしげに、マースが言う。「そんなことを言ったら、ロシア人 ですか。みんな馬鹿じゃないし、それそれ商売を知っている連中は、我々が気ちがいだと世界中に発表するでしよう。密出国したド だ。自分自身経過も知らないで、どんな宣伝ができると思うんですィッ人など、ひとりもいないということで , ジョンスンは歯牙にもかけなかった。「新聞の裏ページなど、だ ジョンスンが、しばらく口をつぐんで考えるように命じた。マイれが読むものか。ロシア人の言うことを気にかける者などいはしな クもおれも、こんな場面はみつとも好きじゃなかった。だが、どう 。みな我々のことばを真に受けて、自分の裏庭にもなにかあるん すれ・はよかったのだろうーー真実を話し、抱東衣を着せられてすべではないかと、さがしはじめるだろう ! それでいいですか」マイ てをおしまいにするか。 クとおれにたずねた。 「こんなふうにはこべないだろうか」沈黙をやぶって彼が言いはし「こちらは、それでけっこう」 ーンスタイン ? 」 「きみたちも、 しいカね。ケスラー ? めた。「マース、この人たちはソ連政府に手づるがある。シベリア のどこかで仕事をしていることにするのだ。付近は何マイルもさき完全に納得したわけではないし、幸福な様子でないことも明らか 5 5
だったが、おれたちが真相を明かすまでのあいだ、ゲームをつづけ部を要求して告訴した。ジョンスンがつけてくれた弁護士は、その ることに合意した。 あわれな男を法廷にひきずりだし、ずたずたに切りきざんだ。六セ 5 感謝で胸があたたかくなった。「きみたちに後悔はさせない」 ントの賠償金すら、その男は取れなかった。弁護士のサミュエルズ ケスラーは、それも信用しきれないおももちたったが、ジョンスと、マースとは、莫大な報償金を手にし、王位要求者はホンジラ ンがみなをなため、仕事にもどらせた。またひとっハ 1 ドルを跳びスへ逃げた。 こえた。あるいは、脇によけたと言うべきか。 このあたりの時点で、新聞の論調が変わりはしめたのだと思う。 〈ローマ〉は、予定どおりに公開され、同様に好意的な批評を受けそのときまで、おれたちは、シェークスピアと・ハーナムをむすぶ掛 た。「好意的な」ということばたけでは、切符を買う列が何プロッ け橋たという評価を受けていた。長いあいだかくされていた真実を クにもわたって伸びる原因になった多くの批評のことを言いあらわ白日の下にさらすようになってから、何人かの悲観論的な著名人 せない。マースは、宣伝の面で見事な仕事をした。のちに悪意をこ が、もしかしたらおれたちは呪われた疫病ではないかという疑念 めておれたちを非難することになる系列の新聞でさえ、このときにを、小声で表明しはじめた。「そっとしておくべきではないか」こ はマースのことばにまんまとひっかかって、読者に〈ローマ〉をぜちらの大規模な宣伝予算だけで、それ以上の発言は押さえられてい ひ見に行くようにすすめる評文をまるまる一ページつかって載せた たのたった。 のである。 ここでしばらく筆を止め、こんなことがおこっているあいだじゅ 三本目の映画〈フランスの火炎〉で、おれたちはフランス革命に うの、おれたちの個人的な生活について書いておこう。おれは、マ まつわるいくつかの誤解を訂正し、新方針におずおずと数歩踏みだ イクをうまいこと表舞台に出さないですましたが、それはマイク しはじめた。しかし、幸いなことに、そうとりはからったわけでも がのそんだからだった。おしゃべりを全部おれにまかせ、おれの身 ないのだが、当時パリで政権を取っていたのは、たまたま自由主義を危険にさらさせながら、自分は目につくなかでいちばん居心地よ の勢力たった。フランス政府は、おれたちに必要な確証を出して、 さそうな椅子をみつけてすわりこんでいるのである。おれが大声を 最後まで後押ししてくれた。おれたちの要請にこたえて、大量の書出して議論し、彼はだまってすわっている。その濃褐色の顔からは 類を公開してくれたのだが、それは国立図書館の奥深くにおさめらめったにことばが発せられることはなく、その優しげな眉のうしろ れて、具合よく現在まで発見されなかったものだった。いつの世に に脳みそがつまっているという様子さえ、けっして見せることはな も絶えないフランス王位要求者が、そのときたまたまたれだったのかった。脳みそどころか、クマの罠みたいにすばやい、致命的なユ ノ・ツ・、 か、名前は思いたせない。世界中に散らばるマースの配下の宣伝係 1 モア感覚とウ トカつまっているのに。そうだ、あそびまわっ が巧妙につついたのだと信じているのだが、王位要求者は、・フルポ たり、ときにはどんちゃん騒ぎをしたこともあるけれど、おおむね ン家の高潔な家名が毀損されたと申し立て、おれたちの得た利益全は、一刻も惜しんですすめている自分たちの仕事に、いそがしが
かりのスイッチを切った。部屋は闇につつまれた。おれの肩ごしに マイクはおれに、助けをもとめた。「エ ド、このお利口さんに話 壁のほうを見て、ジョンスンがあえいだ。。ハ ーンスタインが、驚愕してやってくれないか」 のあまり小声で毒づくのが聞こえた。 おれは話した。正確にどんなことを言ったかはお・ほえていない マイクが何を見せているのかと、おれは振りかえった。 が、それはどうでもいし これがどんなふうにはじまったか、方針 たしかに、印象的なながめだった。マイクは、この現像所の真上をどうさだめたか、そしてこれからどうするつもりかを、話しただ からはじめ、垂直に空へ向かって上昇させているのたった。高く、 けだ。最後に、さっき映写したフィルムがどういうつもりのものか 高く、ロスアンジェルス市が、巨大な球体上の小さな点になるまを言って、締めくくった。 で。地平線には、ロッキー山脈が見えた。ジョンスンが、おれの腕こわいものでも見たような様子でとびしりそいた。「そんなこと をつかんだ。痛いほどだった。 をしたら、無事ですむはすがない ! 絞首刑ものだーーーその前にリ ンチにあわなかったとしてだが」 「あれはなんた ? あれはなんだ ? やめてくれ ! 」叫び声だっ 「そんなことがわかっていないとでも思うのか。おれたちはよろこ た。マイクはスイッチを切った。 つぎに起こったことは、想像がつくだろう。自分の見たものを、 んで、このチャンスに賭けるつもりなのだ」 ジョンスンは、薄くなってきている髪を、かきむしった。マース だれも信用しようとしなかった。マイクの忍耐強い説明も信じられ なかった。マイクは、そのあと二度にわたって、機械を操作しなけが口を出した。「わたしに話させてくたさい」前に出て、まっすぐ ればならなかった。一度は、ケスラーの過去を、遠くさかの・ほっ におれたちの顔を見た。 た。そこで、反応が出はじめた。 「うそではないのですね。さっきのような映画をつくりあげて、身 マースは、つぎからつぎへと煙草に火をつけており、 ーンスタを危険にさらすつもりだというのは ? あなたがたが、あの : : : あ インは神経質な様子で金色の鉛筆一本を手のなかで何度も何度もこのものを世界中の人々の手に引きわたすつもりだというのは ? 」 ろがしていた。ジョンスンは檻のなかのトラのように歩きまわり、 おれはうなすいた。「そのとおりだ」 屈強な体格のケスラーは、何も言わすに機械をみつめていた。ジョ 「そして、あなたの手に入れたものをすべて放棄してしまうという ンスンは、歩きながらぶつぶつつぶやいていた。そして立ちどまのも ? 」彼は真剣だった。おれもた。マースはみんなのほうに振り り、マイクの顔の正面にこぶしをつきつけて振った。 むいて言った。「本気なんた ! 」 ーンスタインが声をあげた。「でき 9 こないー 「おい ! 何を手に入れたのか、わかっているのか。なぜこんなと ことばが入りみたれた。おれたちの取ってきた道が、唯一可能な ころでうろうろしているんだ。簡単に世界を自分のものにしてしま 「どん 5 えるということが、わかっていないのか。こんなことと知ってさえものだったのだと、全員に信じさせようとおれはっとめた。 な種類の世界に、きみたちは生きたいと思っているのか。それと いればーー」
た。読唇術者たちは、仕事をよくやってくれた。当てすつ。ほうでもをかたむけていた。 なければ、枯れしなびて粉々の記録からみちびいた推論でもなく、 : さらに、本日つぎのメッセージがメキシコ共和国政府あ まさに、愛国の名のもとに語られた反逆のことばそのままが、暴露 てにとどいている。内容はつぎのとおり。「アメリカ合衆国政 されているのである。 府は、以下の人物のすみやかな逮捕、引きわたしを要請する。 外国の地では、公開はほとんど、一日とつづかなかった。たいて エドワード・ジョセフ・レフコウィッツ」通称レフコレリス いのばあい、検閲職権の発動に対する報復として、上映館はいかり トの最初だ。魚ですら、ロをしつかり閉してさえいれば、面倒 くるう群衆のために打ちこわされた。 ( ついでに言えば、マース に巻きこまれることなどないっていうのに。 が、事前検閲なしで上映できるように、役人たちに数十万ドルにお 「ミゲル・ホセ・ザパータ・ラヴィアーダ」マイクは脚を組み よぶ金を贈賄してあったのた。そのことが発覚すると、多くの検閲 かえた。 官が、裁判もなしで射殺された ) 。バルカン半島では、革命がいく ・ジョンスン」彼は葉巻きを床にほうりな 「エドワード・リ つも勃発し、多くの大使館を群衆が焼き打ちした。上映が禁止さ げ、椅子に深く身を落とした。 れ、あるいは廃棄された土地では、内容を文字にした印刷物が自然 ート・チェスター・マース」また煙草に火をつけた。顔 発生的にあらわれて、街頭や喫茶店で手わたしされた。密輸版が、 面がひきつっている。 よそ見をしている税関役人のところを通過して、持ちこまれた。王 「べンジャミン・ライオネル・バーンスタイン」口元をねじら 家がひとつ、スイスに逃がれた。 せてほほえみ、目をつぶった。 ここ、アメリカでは、二週間の論争ののち、荒れくるう新聞、ラ 「カール・ウイルヘルム・ケスラー」うなり声。 ジオの突きあげを食った連邦政府は、「公衆の安寧をたもち、国内 以上の人物が、アメリカ合衆国政府により指名手配されてい の平穏を維持し、外交関係の安定をつづけるために」、この映画の る。告発されている公訴理由の範囲は、異法なサンディカリズ すべての公開を中止させるという前代未聞の手段を取った。不平の ム、暴動の教唆、反逆者隠匿ーーー 声がーーーそれに暴動もひとっーーー中西部で起こり、それがひろがっ てきて、権力側はやっと、ほうっておけばたいへんなことになると かちりとラジオを切った。「さて ? 」とくにだれに向かって言っ 気がついた。それも、すみやかに手を打たなければ、世界中のすべ たわけではない。 ての政府が、みすからの重みで崩壊してしまう。 ーンスタインが、目をあけた。「地元の警察がこちらに向かっ おれたちは、ジョンスンが読唇術者たちのために借りたメキシコ の農家にいた。ジョンスンは、葉巻きをぐいと食い切りながら、床ているにちがいない。もどって、責任を取ったほうがいいだろうー を歩きまわり、おれたちは、検事総長本人が出ている特別番組に耳ー」ワーレスで国境をわたった。が待っていた。 7 6
「わかっている。そこはもうしらべずみだ。問題はない。彼らに現ダさんといっしょにセントラル・キャスティングに行き、ファイル コモダー・ホテルで連絡を取 金で支払い、クレジットには入れないということは、すでにジョジをしらべるのをてつだってほしし る。さて、事務所のほうで、費用の面の御相談をーー」 スンさんに話したとおりだー マースがうめき声を出した。「それはおれの仕事ですね」 ジョンスンは気にとめなかった。「そうさ。ほかには ? 」おれに 簡単なことだった。 いや、その仕事が簡単にすすんだとかいうわけではない。じっさ たすねる。 わからなかった。 、そのあとの数カ月というもの、おれたちは働き蜂みたいないそ 「ただ、配給元のことをまだなにも考えてない がしさだった。セントラル・キャスティングに登録されたなかでア んだ。たいへんな仕事になるだろう」 レクサンダーにいちばんびったりの男が、エキストラのリストでお 「丸太から落っこちるみたいに簡単なことだ」その件についてはジ ョンスンは楽観的だった。「ラッシュをひと目見れば、あの見る目呼びがかからないことに希望をうしなってサンテの田舎にかえって のあるユナイテッド・アーティスツがとびついてくるにちがいなしまい一介の若きアメリカ人となっているのをさがしに行ったりー 1 サルをし、衣装係や道 ーそして、ほかの俳優の配役を決めてリ マ 1 スが口を出した。「のこりの部分はどうなっていますか。脚具係をどなりつけ、跳びまわりつづけた。ルースは、機嫌を取る手 紙を書いて父親と和解していたが、彼女ですらはじめて給料に値す 本家はえらんであるのですか」 「撮影台本としてとおるだけのものが用意してある。いや、あと一る仕事をした。おれたちは交代で、マイクとおれ自身と若いマ , ース 週間もあればそれができあがるというところだ。い っしょにしあげとが満足する脚本ができあがるまで、彼女にロ述筆記を取らせたの ますか」 である。若いマースは、セリフに関してはキツネみたいに才能があ 彼はそうしたがった。 ることがわかった。 「時間はどれくらいあるのですか」ケスラーが口をはさんだ。 「こ簡単だったというのは、そしておおいに満足してもいることなの れは大仕事になるだろう。いつまでに我々はこれをほしいのだろこ たが、つぎつぎに発表される傑作、愚作の映画をみな知っている食 うーもうキ語が〈我々〉になっていた。 えない男たちの心を、おれたちが簡単につかんでしまったというこ 「今、ほしいんだージョンスンがびしりと言い、立ちあがった。 とである。みな、おれたちの成しとげた仕事に、心から感銘を受け 、よ、フ・ワーナー ていた。残りのフィルムの撮影におれたちが手をくださないと知る 「音楽についてはなにか考えていますか ? ジャンセンのところに当たってみよう。 ーンスタイン、そのフィ と、ケスラーはがっかりした。おれたちはただ目をしばたき、いそ ルムについて、以後責任をもってくれ。ケスラー、きみのチームをがしすぎるし、きみにも完全におれたちとおなじだけにできると信 9 呼んで、見せてやるんだ。マ 1 ス、きみはレフコさん、ラヴィアー じて安心しているのだと言った。彼は全力を尽くし、おれたち以上
も、生きてなどいたくないのか」 で仕事にかかった。四カ月で、読脣術者たちの分の作業は終わっ ジョンスンがうなるような声を出した。「あのような映画をつく た。毎日ソーレンスンにロ述するぶっそうな内容について、彼らが 6 ってしまったら、そのあとどれだけ我々が生きていられると思うんどんな反応をしたかここにくわしく書いてもしかたがない。彼ら自 だ ? あんたは気ちがいだ ! わたしはちがう。自分から絞首台に身の安全のために、おれたちの最終的な目的については明かさない 頭をつつこんでいくつもりはない」 でおき、作業を終えたあとには、国境を越えたメキシコの、ジョン 「クレジット・タイトルと、製作責任の間題に、おれたちがなぜあスンが借りてあった田舎の小さな家に全員おくりこんだ。もう一 れほどこだわったのだと思う ? きみたちは、やとわれただけの仕度、彼らの手を借りなければならない。 事をつづければいいんだ。きみたちの腕をねじあけてしまおうとい フィルムの複製を取る機械が時間超過でうごきつづけ、マースは うのではない。きみたちは全員、おれたちの仕事をして、たいへん懸命にはたらいた。世界中、手を伸ばせるかぎりの全都市で、おれ な金をもうけたしゃないか。それなのに、仕事がちょっと重荷にな たちの最近作の映画が一斉公開されることを、新聞、ラジオが大々 ってくると、さっさと逃げだそうとするんた ! 」 的に報道した。おれたちがつくらなければならない、最後の映画 マースが降参した。「あなたが正しいのかもしれない、まちがっ だ。「つくらなければならない」というのはどういう意味かと、多 ているのかもしれない。あなたが気がくるったのかもしれないし、 くの人々がいぶかっているとったわってきた。組筋について事前に わたしもそうなのだろう。だが、なんでも一度はためしにやってみ発表することをこばんで好奇心をあおり、ジョンスンが配下の者た るというのが、 ・ほくの信条だ。・ハ ニー、きみは ? 」 ちにも燃えるような狂熱をそそぎこんだので、そこからも外部にも ーンスタインは冷静で、悲観論だった。 れる情報はほとんどなく、たた推測がみだれとぶだけだった。封切 「このあいだの戦争で何がおこなわれたかは、みんな知っている。 りにえらんた日は、日曜日だった。月曜には、嵐が襲来した。 これは助けになるかもしれない。本当にそうなのかはわからない 現在、あの映画のフィルムは、何本のこっているのだろうか。二 が。わからないけれど・・ーーためしもしないであきらめたと、あとに次にわたる世界大戦の期間をとりあげたのだが、それを、当時にい なって悔やみたくない。数に入れてくれ ! 」 たるまでは図書館の暗い隅にかくされたわすかな書籍にしか見ら ケスラーは ? れなかったような、世に媚びない角度からえがいたのたった。戦争 頭を振っていた。「簡単な話だ ! どうせいっかは死ぬんだ。チを準備した者たち、署名し高笑いをしてうそをついた冷笑的な者た ャンスを見逃がしにする手はない」 ち、新聞見出しの激烈なことばを利用し残虐行為の非道さを説きな ジョンスンが顔をあげた。「みんないっしょの墓でねむりたいもがらいざ幾百万の人々が死んでゆくときには旗のかげにかくれた多 のだ。気ちがいじみたことだが、やろうしゃないか」 弁な愛国者たちをえがき、そして名指ししたのである。国内と外国 共通の希望と理解にささえられて、おれたちは燃えるような勢いの、二つの顔をもってかくれる裏切り者たちも画面にうっしだし
てくることが見えます。ですから兵士を補充しなくてはなりませ ひと晩ぐっすり眠って、考えてくたさい。わたくしたちは、も ん。そこで、あなたがたが選ばれたのです。 う一度話しあうことにしましよう」 こんどの危機はナポレオン以来、わたくしたちのあいだに広がっ てきているものです。ヨーロ ッパはすでに失われました。そしてア 第八章″教訓、そして教訓″ ジアは : : : 権威主義、全体主義、指導者原理といったナンセンスの もとに屈服し、自由にはあらゆる種類の束縛が課せられ、そのため もし、シャスタ山上のその場所が大学であれば、そして入学案内 人々は、個人としてなんの価値もなくなり、その人数だけの経済的とでもいうものがあれば、そこで与えられるコースには、つぎのよ 政治的な単位としてしか扱われなくなっているのです。個人の尊厳 うなものがあったことだろう。 われたとおりにしろ、いわれ というものば存在していません : : : い たとおりに信じろ、そして口を閉じていろ ! 労働者、兵士、繁殖 テレバシ 全学生必修の基礎コースで、試験による選抜はな 単位 : ・ い。精神感応までの実施教育。全学科の必修科目。実験室。 もし、こんなことが人生の目的だとしたら、その体系の中に良心 論理的推理 ( 1 、 2 、 3 、 4 ) 、記憶。 2 、知覚 ( 千里 を入れる余地はないではありませんか、まったくー 眼、遠聴、質量・時間・空間の識別、非数学的関係、秩序、そして この大陸は、自由の避難所であり、魂が成長できる場所でした。構造、調和的形式と間隔 ) 3 、二重の平行思考プロセス、超越。 しかし、世界のほかの地域から光明を消し去った多くの力が、ここ 4 、瞑想 ( セミナー ) にも広がりつつあるのです。かれらはすこしすっ、人間の自由と人自動力学ーー個別的な筋肉連動の知覚。超感覚的知覚による内分 間の尊厳を削り取ってきました。抑圧的な法律、弱い者いじめする泌腺の制御。情緒的感覚への応用。疲労抑制への応用。再生。変身 教育委員会、迫害という苦痛のもとに受け人れられる盲目的な教義 ( 独変身魔術の医療的側面 ) 。性の決定。逆転。自己麻酔。若返り。 : 人々を鎖につなぎ、かれらに目隠しをするような原則、こうし 遠隔動力学ーー生命・質量・空間・時間の連続体。必須知識とし てかれらは二度と失った遺産を取りもどすことができなくなってして自動力学を要する。テレポートその他の一般的な遠隔行動。投 まうのです。 射。動力学。静力学。見当識。 わたくしたちは、それと戦うための援助を求めています」 歴史ーーー再生映像によるコース。テレバシー記録と関連した精神 ハクスレイは立ち上がった。 測定についての特別討論。霊の転生についての特別討論。価値評価 「・ほくらを信用していただいて結構です」 はこの学科のあらゆるコースの必要条件である。 コ・ハーンが口を開く前に、長老はそれをさえぎった。 人間美学ーー セミナー。自動力学とテレ。ハシー記録法 ( 精神測 「まだ答えないでください。部屋にもどり、お考えになってくたさ定 ) の技術。必須課目。 田 8
ルースといっしょに出発した、 たように思えるよ。だが、彼ならあつめられるさ。本当に読唇術者おれがことばを 0 づけた。「 あのときそっくりだ。ほとんど、おなじだろう」 なんていう人たちが存在して、そして彼らが金を好きだとすれば。 マイクがゆっくりと口に出した。「まるで、ちが 0 ている」おれ ジョンスンは、独創的な機略をもっている人間なのたから」 おれは帽子を、部屋のすみにほう「た。「や「とかたづけおわはもう一本ビー ~ をあけた。「ここでまだやりたいことがあるか 「よし。これだ しのこした仕事は ? 」ないと、おれは答えた。 る。そちらの結着はつくのか、 「終わ「た。もう出発できるんた。→ル、やノート類はおくりたけ飲んでしまおう。必要なものを車に積みこむ。空港に行くまえ したし、引きわたしをする不動産会社も待機している。女の子たちに、ちょ「とクアヴィルの・ ( ーに寄ろう」 「だって、ビールならまだのこっている 意味がわからなかった。 の給料も今日の分まで、ポーナスをすこしつけて支払いすみだ」 おれはひとりでビールの栓を抜いた。「イクも一本取る。「事務のに 「だが、シャンペンがない」 セットはどうしようか」 的な書類はどうなっている ? このパ 「よし。おれも馬鹿だな、いつもじゃないが。さあで わかった。 「書類は、銀行で保管してもらう。。 ( ーだって ? そこまでは考え かけよう」 なかった」 ・セットを車に積みこみ、不動産会社にわたす ビールは冷えていた。「箱につめて、ジ ' ンスンにおくってやろ機械と、簡易・ ( スタジオの鍵を角の食料品店にあすけて、空港に向かうとちゅうク 「ジ = ンスンは名案た。彼にはこれが必アヴィルの・ ( ーに寄り道した。ルースはカリフ ' ル = アにいて、だ 顔を見あわせて笑った。 ジョーはシャンペンを店に置いていた。空港に向けて出たの 要なんだ」 かなり遅くなってからだった。 おれは、例の機械のほうにあごをしやくった。「あれはどうするは、 ロスアンジ = ルスで、マースが出むかえた。「何が起こ 0 たので 「航空貨物にして、おれたちとい「しょの飛行機ではこぶ、「イクすか。ジ = ンスンを天手古舞させたりして」 こわ「わけは聞いているかい」 「どうしたんた が、おれの顔をしげしげとのそきこんた。 「気ちがいしみたことを言「ている。新聞記者が二人来ています。 いのかい」 なにかしゃべりますか」 「いや。おじけづいているんだ。おなしことか」 「今はだめだ。行こう」 「こちらも同様さ。衣類はみな、朝のうちにおくりだしてしまっ 「これ ジョンスンの事務室で受けた歓迎は、冷淡なものたった。 た」 っこ、、中国語を読唇できる人間が、どこで でせいいはいだ。いナし 「着換えのワイシャッ一枚ないのか」 みつかると思うんですか。あるいはロシア語でも」 「着換えのワイシャッ一枚もない。まるで、あのときとーーー」 6
う。当時も今も、ごく少数の人々しか知らないことだが、じつは観「エド」と言うのだった。「仕事がそれでおしまいになるにして 測気球として、キリストとその時代描写とを、おれたちはすこしばも、おれはあのフィルムをどこから手に入れているのかをつきとめ 5 かり入れておいたのだ。この部分はカットしなければならなかつるつもりだ」 た。検閲委員会は、御承知のとおり、カトリックとプロテスタント いっかはおしえてあげられることになると、おれは答えた。 とで構成されている。彼らーー・委員会は、まさに興奮の極みにおち「いっかってことを言っているわけでもない。今すぐに知りたいん いった。おれたちの「扱いかた」が、不敬で、見苦しく、「キリスだ。ヨーロッパでどうかしたというたわごとは、一度はとおった ト教のどんな基準に照らしてみても」偏しており、不的確だという が、二度はだめた。ちゃんと知りたいし、みんなもそうだ。さあ、 彼らの主張に、強いて反論はしなかった。「たいいち」と彼らは言どうなんだ ? 」 った。「ちっともキリストらしくないではないか」たしかにその マイクと相談しなければならないと言い、そうした。打ちあわせ とおり、まるでキリストらしくなかった。今までの映画で見るかぎをし、それから会合をもった。 りのキリストには似ていなかった。そのときその場から、他人の宗 「ケスラーが言うには、問題があるということだ。それがどんなこ 教的信条をかきみだしても意味はないと、決めたのである。おれたとか、みなわかっていると思う」みんなわかっていた。 ちの映画には、信仰の対象となるような歴史的、社会的、宗教的人 ジョンスンが、遠慮なく言った。「彼の言うのももっともだ。我 物の描写が、一般に受けいれられているのと衝突するようなかたち々もよく知りたい。あれをどこで手に入れたんだ ? 」 では出てこないが、それにはそんな理由があったのだ。さて、その マイクのほうにふりかえった。「きみから話したいか」 ローマ史の映画は、けっして偶然そうなったわけではないが、学校頭を振った。「あんたのやりかたでけっこうだ」 でつめこまれた歴史からほとんどそれることがなかったから、ごく「わかった , ケスラーがやや身を乗りだし、マースはまた煙草に火 少数の熱狂的な専門家から彼らが誤ちだとする件について指摘を受をつけた。「撮影方式がおれたちの発明だと言ったのには、うそも けるだけにとどまった。おれたちはいまだに、歴史を全面的に書きなければ誇張もない。あのフィルムのすべての部分は、この数カ月 かえるだけの立場になかった。情報をどこから仕入れているのか、 内に、国内で撮影されたものだ。ただ、理由も場所も言うつもりは 明かせなかったからである。 ないし、それがどのようにおこなわれたかもおしえてあげることが できない」ケスラーが、うんざりしたように鼻を鳴らした。「最後 そのローマ史映画を目にしたとき、ジョンスンは心中、不動の姿まで言わせてほしい」 勢で敬礼した。ジョンスンの配下がすぐさまうごき、最初のときと「おれたちはみな、すごい勢いで金をもうけている。これからもっ おなじようにして仕事をすすめた。ある日、ケスラーがおれを部屋ともうけるつもりだ。こちらの個人的な予定表では、あと五本の映 のすみに呼びこみ、じつに真剣な表情で言った。 画をつくることにしている。そのうちの三本については、きみたち