ペンは、指のそばまで燃えてきた煙草をもみ消した。 「どうも、今朝のみなさんは、だれひとりとしてあまり幸せそうに 「それは、・ほくが見た夢を驚くほど正確に記録したものだな。ただ は見えませんな。それも無理はない。記録を体験した直後に、幸せ きみがジョ 1 ヴと呼んでいる長老を、ぼくはアフラマッダ の神 ) そうに見えるものはだれもいません」 と考えていたよ」 べンは椅子をうしろにおし、ビアスにむかってテー・フルごしに体 「それからあたしは、ロキをルシファ をのり出した。 スト教の悪だと思ってい たわ」 「あの夢は、ぼくらのためにわざと見せられたものだといわれるの フィルはうなずいた。 ですか ? 」 「きみたちはどちらも正しいよ : : ・ほくはどのひとりについても、 「ええ、そのとおりです : : : われわれは確信していますが、みなさ 名前をあげて呼ばれていた記憶はない。ただ、かれらの名前を知っんはあの夢によって利益を得られる用意ができているはずです。と ているような気がしていただけなんだ」 ころで、わたしがここに来たのは、みなさんが″長老″に会われる 「あたしもそうなの」 ことをお願いするためなのです。もしみなさんが、かれに会われる べンはロをはさんだ。 まで質問を待っていてくだされるなら、そのほうがすべて簡単にな 「なあ、・ほくらはまるで、三人の見た夢が本当にあったこととでもりましよう」 いうように話しているしゃないか : ・ : まるで、・ほくらが三人で同じ「長老ですって ? 」 映画を見に行ったみたいにさ」 「みなさんはまだ、かれに会っておられません。われわれの活動に フィルはかれを見つめた。 参加してもらうのに、最適な人だと判断したとき、こんなふうに紹 「それじゃあ、きみはどう思うんだ ? 」 介させていただくのです」 「ああ、きみと同じように考えている、ようだね。とにかくばくは くたびれたよ。朝飯を食べても、 ・ : それとも、コーヒーを エフライム・ ハウの顔は、ニュ ・イングランドの丘のようにで 飲むぐらいは ? 」 こぼこで、指物師のようにやせて節くれだった手をしていた。かれ 暗黙の合意によって三人は簡単な食事のあいだ口を閉ざしていたは若くなく、そのほっそりと背の高い姿には、宮廷風の優雅さがあ そして、食後にもう一度話しあおうと思っていたのたが、その った。かれのすべてーーその淡く青い目のきらめき、手の握りか チャンスができる前に、ビアスが入ってきた。 た、ゆったりとした話しかたーーそのすべてが、誠実さを示してい 「おはよう、お嬢さん。おはよう、紳士諸君」 た。そして、かれはいった。 「おはようございます、ビアスさん」 「どうそ、おかけください : : わたくしはまっすぐ要点 ( かれは。ヒ かれは三人の表情を探ぐりながらいった。 ントと発音した ) に入ります。あなたがたは、多くの奇妙な出来事 田 6
あまりにも行きすぎて : : : によって明日にも暴露されること全国からワシントンに向かうという話だ。すべての報道機関が連邦 軍の直接の管理のもとに置かれているのではないかと、だれもがう たがっていた。電話回線は、議会に対する多数の請願と要求とのた 〈ロセル・ ( トレ・ロマーノ〉枢機卿会議は : : : 頻繁に発表されめに焼き切れてしまったようで、めったに通じなかった。 「このホテルはもう、閉店したほうがい ある日メ 1 ドが言った。 ることが期待されて : いみたいです。この階は封鎖されているし、ドアというドアには憲 ・クラリオン〉 : : : 正しく使用すれば人兵が見張っていて、他の全部のお客を荷物をまとめしだい追いはら 〈ジャクスン・スター っています。ホテルじゅうに、あなたがたあての手紙や電報があふ 種平等ということばの欺瞞性が明らかにされるであろうし : れているし、お会いしたいという人々もたくさんつめかけていま ほとんどおなじようなことばで、新聞はわめきたてていた。ペグす。会えるはずはないですけれど」荒々しい声音になっていた。 「ホテルには将校たちがどっさり見張っていますから」 ラーは興奮し、ウインチェルは斜にかまえていた。新聞からたけで マイクがおれをみつめ、おれはせきばらいした。「事件全体をど は、事態の表面しか知ることができなかった。だが、防衛軍は個人 う思っているんですか」 の集合で構成されているのだし、ホテルの部屋はメードが掃除し、 なれた手つきで枕をたたき、裏返した。「あなたがたのいちばん 食事は給仕がはこびと、その連鎖はひじように強力なものなのだー 。生活のためにはたらいている人々のことばこそ、真実なものな新しい映画を、禁止になるまえに見たんです。最初のから全部見て います。非番のときに、裁判の中継も聞きました。わたしが結婚し のであると、おれたちは考えた。 街頭や屋内で集会がひらかれ、二つの在郷軍人会で職員の馘首がなかったのは、恋人がビルマ戦線からかえってこなかったからで おこなわれ、上院議員三人と十人以上の下院議員が「健康上の理由す。あの坊やに、どう思っているのかたずねてごらんなさい」そう 言って、彼女におしゃべりをさせないためについてきたと思われる で」職を辞して、世情は騒然となってきた。海外旅行者が、ヨーロ ノ。 ( でも同様たと報じた。アジアは沸きたっており、南アメリカ各若い兵士のほうを、頭をうごかして指ししめした。「彼に、いやな 地の飛行場では出発準備のととのった輸送機が待機していた。うわ連中に命令されて、自分とおなじように哀れな人たちに向かって銃 を射ちたいのか、聞いてみなさい。答を聞いたら、詐欺師たちが自 さでは、類似の機械を個人的に所有することを完全に禁止するとい う憲法修正案が、強引に通過されそうだという。連邦政府だけがそ分の取り前をふやしたいからといってこちらの頭上に原爆を落とす れを製造し、法にもとづく政府機関と、財政的裏付けのある企業ののを、のそむかどうか、あたしに聞いてください」急に彼女は部屋 みに貸しだすというのである。自動車デモ隊が組織され、おれたちを出て行き、兵士もそのあとを追った。マイクとおれはビールを飲乃 み、寝床についた。翌週、新聞がこれ以上大きな活字はないという の告発が真実なのかどうか裁判所が裁定をくだすように要求して、
スに餓えた新聞がつづきもので取りあげたりしたという理由もあかのどんなことばでも読みとれる者がいたら、つかまえておいてく る。どんな敵をつくるかによ「てその人を知れという古いことわざれ。たぶん必要になると思うから」電話の前にすわりこんでくる 0 を、お・ほえているだろうか。そう、知名度がおれたちの斧たった。 たように頭を振っている彼の姿が、目に浮かぶようだった。くるつ その斧にどうやって刄をつけたかは、以下のとおりである。 てしまった。レフコは暑さにやられたにちがいない。いい やつなの ( リウッドにいるジョンスンに、おれは電話をかけた。おれの声 「言ったことが聞こえているのか」 を聞いて、彼はよろこんた。「長いことを会っていない。どんな様「ああ、聞こえている。もしこれがおふざけだなどというのならー 子なのかね、エド」 「読唇術者が、何人か必要なんだ。それも、きみが部下に命じる言 「ふざけてなどいない。真剣なんだ」 いかたを借りれば、今すぐにだ」 いカりくるいはじめた。 しったい、どこから読唇術者などみつ 「読唇術者たって ? 気でもくるったのか。読唇術者になんの用がけられると思 0 ているんた、帽子からとりたせとでもいうのか ! 」 あるんだ ? 」 「それはきみの仕事だ。てはじめに、地域のろう学校からあたって 「理由は聞かないでほしい。読唇術者が要るんだ。あつめられるたみたらどうかと思う」だま「てしま 0 た。「さあ、これだけはし 0 ろうか」 かり頭にいれておいてくれ。これはおふざけなんかじゃない、真面 「そんなことはわからない。あつめてどうしようというんた ? 」 目なことだ。きみが何をしようと、どこに行こうと、どれだけの費 「あつめられるかと、聞いているんだ」 用をつかおうとかまわない。たた、おれがハリウッドに着いたと 疑わしげな口調たった。「はたらきすぎたんじゃないのか」 き、その読唇術者たちがみなあつまっているか、そこに向かってい 「いいカーーー・」 るところであってほしいんだ」 「さあ、できないとは言っていない。落ちつくんだ。いっ要るん 「いっこっちに来るんた ? 」 だ。それに人数は ? たしかなことは言えないと、おれは答えた。 「たぶん、一日か二 「メモしてもらったほうがいし しいかい。つぎの言語の読唇術者日あとだ。まだ、締めくくりがのこっているから」 が必要だ。英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、中国語、日本運命の不公平をのろい、青すしたてて毒づいた。「ここに着くま ギリシア語、ベルギー語、オランダ語、スペイン語だ」 でに、ちゃんとした言いわけを考えておいたほうがーー」おれは電 エド・レフコ、発狂したんじゃないのか ! 」 話を切った。 たしかに、あまり正気とは考えられなかったかとも思う。「そう スタジオで、マイクが待っていた。 「ジョンスンと話したかい かもしれない。とにかく、その言語については絶対必要なんだ。ほおれは話の内容をおしえ、イクが笑 0 た。「おれにも気がくる 0
「あなたがたは、あたしの安全について責任なんかないわ。あたしきまくる雪がまわりで渦巻き、眼を刺す中で、かれらは体をよせあ はひとりの自由な市民ですからね。いずれにしても、登山は別にあ 、そしてン ・ヨーンはなんと答えるべきかを考え、やがて思いきっ なたがたの害になどならないわ。あなたがたが冬に備えて貯えてきていった。 た、その皮下脂肪を減らす役には立つでしような」 「そう思うわ。でも、目をつぶってみても、この雪が何もかも違っ フィルが尋ねた。 たふうに見せてしまうのよ」 「それで・ほくも困っているんた。、ほくらがガイドを使う必要はない 「な。せ、きみはそんなにとっ・せん、この登山をすると決心したんだ と決めたのは、大失敗だったようだな : : : しかし、晴れた夏の日が 「とっ・せん決めたわけじゃないわ、ほんとよ、フィル。ロスアンゼ雪嵐で終るなんて、だれにも考えられないことたからね」 べンは両足を踏みしめ、両手をたたきあわせてうながした。 ルスを離れてから、あたしは何度も何度も同じ夢を見たの。自分が : もしこの道に間違いないとしても、山小屋にたど どこかへ登っている、どこか高いところへ登っている夢を・ : ・ : そし「先へ進もう : て、その登山のせいで、あたしとっても幸福になったの。今日、ありつくまでに、・ほくらの前途には最悪の難所がひかえているんた ぜ。・ほくらが渡った氷河の幅を忘れるなよ」 たしは、自分の登っていたのがシャスタだったとわかったのよ」 フィルはしょん・ほりと答えた。 「どうしてわかったんだい ? 」 「とにかく、わかったの」 「忘れたいね。こんなひどい天気の中で、あそこを渡るなんてそっ 「べン、きみはどう思う ? 」 とするよ」 医者は花崗岩の破片をひろ、 し川があると思われる方向にむかっ 「・ほくだってそうさ。でも、ここにじっとしていたら、凍りついて てそれを投けた。かれは、小石が数百フィート下の斜面でとまるましまうからな」 で待っていた。 こんどはべンを先頭にし、顔を風からそむけ、目を半ば閉じて、 「どうやらわれわれは、鋲の打ってある・フーツを何足か買ったほうかれらはまた注意深く前進をはじめた。二百ャードほど進んでか 力いいようたな」 ら、べンはもう一度警告した。 「気をつけてくれ、きみたち。ここの道はほとんど消えてしまって フィルが立ちどまったので、かれの背後のふたりも、せまい山道いるし、すべるそ」かれは二、三歩前に出た。「まるで : : : 」 ふたりは、かれが。ハランスを取りもどそうともがき、ついでどさ でとまらなければいけなくなった。かれは心配そうな口調で尋ね こ 0 りと落ちた音を聞いた。 ノョ 1 ン、これは・ほくらが登ってきた道かい ? 」 フィルは叫んだ。 氷のような風が錆びついた剃刀の刀のように顔面を切りつけ、吹「べン ! べン ! 大丈夫か ? 」 る 7
のまだ仕事を割りあてられていない部分に宿っているんだ , 「でも、フィル : : : あなたは正常な個体を使って、特殊な能力がか ーンは唇をすぼめた。 れらの中で育つようにすればいいのよ。あたしは素晴らしいことだ 「ふーん : : : ぼくにはわからないね。もし、われわれすべてがそう と思うわ。あたしたち、いっ始めるの ? 」 いう不思議な能力を持っているとすれば、それがまだ証明されてい 「いっ始めるって、何を ? 」 ないとしても、われわれがその能力を使えそうにないというのは、 「あたしを相手によ、もちろん。たとえば、あの稲妻のようにすば どういうわけなんたい ? 」 やく計算する能力にしては ? もし、あなたがあたしの中にその能 「・ほくは何も証明していない : : まだね。これは作業仮説た。しか力を開発したら、あなたは魔術師ということになるわね。あたし、 し、ひとつの類推をさせてもらおう。こういった能力は、見る、聞 代数は最初の年にもうつまずいていたもの。いまでも、あたしは掛 ふれるといったものとは違「ている。それらは、われわれが生算の九九がわからないのよ ! 」 まれたときから使わざるを得ないものなんだ。つまり、どちらかと いえば、話す能力に似ている。話すという能力は、生まれつき大脳 第三章″すべての人が、 に独自の中枢を持っているが、実際に話せるようにするためには、 それそれの天才を持っている″ 訓練を必要とするんだ。耳も聞こえす、ロもきけない人たちばかり の中で大きくなった子供が、話せるようになるなどと思うかいっ・ 「始めていい力い ? 」 もちろん、なったりはしな、。 外から見た限り、 かれはひとりの話 と、フィルは尋ね、ジョーンは反対した。 せない人にすぎないということになるな」 「まあ、だめよ : : : 静かにコーヒーを飲んで、夕食をちゃんとすま ーンは譲歩した。 せましよう。あたしたち、二週間もペンに会ってなかったのよ。サ 「降参したよ = = = きみはひとつの仮説を立てて、まことしやかにしンフランシス「一で何をしていたのか、聞かせてほしいわ」 ゃべ「た。しかし、きみはどうや「て、それを確かめるつもりなん外科医は答えた。 マツに・サイエ / ティスト だ ? ・ほくには、どこでそれを確かめればいいのか見当もっかな 「ありがとう、ダーリン。でもぼくはそれより、気違い科学者とそ 。それは非常によくできた仮説たが、実験作業ができないとしたの女の子の話のほうを聞きたいな」 ら、たたのファンタジー ハクスレイは首をふった。 ( クスレイは寝ころんで、憂鬱そうに木の間を見あげた。 「トリルビーた「て、へん : : : 彼女は氷の上の豚みたいに自主独立 「それが痛いところさ。・ほくは最高の超能力者の実例を失 0 てしまさ。でも・ほくらもこんどは、きみに見せられるものを持「てるよ、 「た。どこから手をつければいいのかわからないよ」 【いック」 ジョーンは抗議した。 「ほんとかい ? そいつはすごいな。ところでなんたい、それは
オームと化し去ったかの観があった。そして彼は、右側 人が、しみしみと孤独を思う晩秋の、とある日を、散のプラットフォームに向けて歩一歩、あわてす騒がず、 りばう病葉の影にしてあわれ秋や逝にけん、と、感傷の大いなる自信に充てるが如く、而もやはり何か未だ己れ 頭をめぐらす、うすら冷たい日のひねもすを、あやしけの思案に耽りながら、規則正しい彼の動作を続けゆくの そこばく であった。 なる商売の群に伍して、若干の利を争うに疲れた私が、 ゅぎよう たまたま 空間を歩む ! 空中遊行術 ! 会々一郊外電車のプラットフォームに、寒々と肩をすぼ ああ、何ということー めて、終電車を待っていた。 茫然と、私は例の柱の隠から、泳ぐ様な上半身の姿勢 例によって、この物語も城ならではの独得の文体ではでそれを見守って居たのである。 じまる。だが、電車はなかなかこない。電車を待ってい そして此の、私の驚嘆と怪訝の中に目出度く外人は、 る人たちは、みんな寒そうにたたすんでいたが、ひとりその空中遊行術を終って、向側の。フラットフォームに到 の外人だけは、プラットフォームの端から端を、なにご達すると、コツン、と鋪石に靴底が音をたてた。 その靴音で、初めて外人はふと気付いた如く立止まる とかしきりに考えこんたようすで、行ったりきたりして いた。そして、そのなん度目かに、その外人は、まわれと、ぐるり、四辺を睨々するかの様に見廻した。それで 右をしかけて途中でやめ、線路のほうに向かって足を踏私も亦我に帰り、思わすも、危く、その美事なる彼の技 , 、に対しては拍手することが礼儀ではあるまいか、とそ みたしてしまったのた。 ところが、当然、この外人が線路上に落っこちるであれを実行に移そうとした処であった。 さて、それから、彼はもう一度前後左右を見廻すと、 ろうという主人公の予想に反して、外人は二歩、三歩と はて此れは合点がゆかぬわいと云った風に一寸頭を振り 空間を進みはじめたのである。 ながら、今度は例の思案の漫歩ではなく、目的地を指す 空間を ? それは不可能であらねばならない。奇蹟で歩行を線路を横切る地上に求め、今迄のプラットフォー あらねばならない。然らざれば、我々の物理学は破産しムへと戻って来た。 なければならぬ。 そこへ、待っていた電車が人ってきて、外人も主人公 而も、見よー も車中の人となるが、ここで主人公は、なんとしても、 彼外人が、今、悠々と空中を濶歩してゆくではない この外人から空中遊行術の伝授をしてもらわなければと 全く、私の今迄の憂慮が、全部杞憂に止って了ったと駅に降りた外人のあとを追って話しかける。 ところが、話しかけられた外人ジャマイカ氏は、目を 誰が思おう。 ばちくりさせて、自分にはそんなことはできないと否定 その場景はあたかも、線路上一面の空間がプラットフ っ 4
ルースといっしょに出発した、 たように思えるよ。だが、彼ならあつめられるさ。本当に読唇術者おれがことばを 0 づけた。「 あのときそっくりだ。ほとんど、おなじだろう」 なんていう人たちが存在して、そして彼らが金を好きだとすれば。 マイクがゆっくりと口に出した。「まるで、ちが 0 ている」おれ ジョンスンは、独創的な機略をもっている人間なのたから」 おれは帽子を、部屋のすみにほう「た。「や「とかたづけおわはもう一本ビー ~ をあけた。「ここでまだやりたいことがあるか 「よし。これだ しのこした仕事は ? 」ないと、おれは答えた。 る。そちらの結着はつくのか、 「終わ「た。もう出発できるんた。→ル、やノート類はおくりたけ飲んでしまおう。必要なものを車に積みこむ。空港に行くまえ したし、引きわたしをする不動産会社も待機している。女の子たちに、ちょ「とクアヴィルの・ ( ーに寄ろう」 「だって、ビールならまだのこっている 意味がわからなかった。 の給料も今日の分まで、ポーナスをすこしつけて支払いすみだ」 おれはひとりでビールの栓を抜いた。「イクも一本取る。「事務のに 「だが、シャンペンがない」 セットはどうしようか」 的な書類はどうなっている ? このパ 「よし。おれも馬鹿だな、いつもじゃないが。さあで わかった。 「書類は、銀行で保管してもらう。。 ( ーだって ? そこまでは考え かけよう」 なかった」 ・セットを車に積みこみ、不動産会社にわたす ビールは冷えていた。「箱につめて、ジ ' ンスンにおくってやろ機械と、簡易・ ( スタジオの鍵を角の食料品店にあすけて、空港に向かうとちゅうク 「ジ = ンスンは名案た。彼にはこれが必アヴィルの・ ( ーに寄り道した。ルースはカリフ ' ル = アにいて、だ 顔を見あわせて笑った。 ジョーはシャンペンを店に置いていた。空港に向けて出たの 要なんだ」 かなり遅くなってからだった。 おれは、例の機械のほうにあごをしやくった。「あれはどうするは、 ロスアンジ = ルスで、マースが出むかえた。「何が起こ 0 たので 「航空貨物にして、おれたちとい「しょの飛行機ではこぶ、「イクすか。ジ = ンスンを天手古舞させたりして」 こわ「わけは聞いているかい」 「どうしたんた が、おれの顔をしげしげとのそきこんた。 「気ちがいしみたことを言「ている。新聞記者が二人来ています。 いのかい」 なにかしゃべりますか」 「いや。おじけづいているんだ。おなしことか」 「今はだめだ。行こう」 「こちらも同様さ。衣類はみな、朝のうちにおくりだしてしまっ 「これ ジョンスンの事務室で受けた歓迎は、冷淡なものたった。 た」 っこ、、中国語を読唇できる人間が、どこで でせいいはいだ。いナし 「着換えのワイシャッ一枚ないのか」 みつかると思うんですか。あるいはロシア語でも」 「着換えのワイシャッ一枚もない。まるで、あのときとーーー」 6
「そうしたさ。畜生、・ほくは考えられる限り、あらゆる条件で三週ひとりとして知らないんた。生命とは何か、思考とは何か、また、 間も試してみたんだ」 自由な意志とは現実なのか幻想なのか、あるいは、そういう最後の 「そうなると、われわれは必然的につぎのような結論を得たことに質問には意味があるのかどうか、なんてことはね。 ーンは指を折った。 : この個体は、肉 なる。第一に : かれらのうちで最も優秀な連中は、自分たちの無知さ加減を認め 体的な感覚器官の媒介なしに見ることができたということ。そしてている。そして、最もくだらん連中は、独断的な理論をとなえてい ・ : たとえば、機械論 第二に、ひかえめにいっても、このふつうでない能力は、かれの右るが、そういうのは明らかに不合理なものた : 大脳半球のある部分となんらかの形で関係していたということた的行動主義者のあるものは、パヴロフがベルの音ですたれを流すよ な」 うに犬を条件つけることができたという、ただそれたけの理由で、 ・ハデレフスキーがどうやって音楽を演奏するかということがわかる 「ブラボー ! 」 などと考えているんた ! 」 そう叫んだのはジョーンだっこ。 ライブオーク フィルはうなすいた。 大きな南部樫の木蔭に寝そべり、黙って耳を澄ましていたジョー ンが声をかけた。 「ありがとう、べン。・ほくももちろん同し結論に達していたんた 「べン、あなたは脳外科医ね、そうでしょ ? 」 が、それでもたれかほかの人に同し意見をいってもらえると非常に フィルは保証した。 心強いからな」 「その中で最も優れたひとりさ」 「ほう、そういうことか。きみの意見はどうなんだ ? 」 「はっきりわかっているわけじゃない。 こんなふうにいわしてもら「あなたは、脳をたくさん見てきたわね。それもあなたは、それら おうカぐ まくは人がどこかの教会に属するのと同し理由から、心理が生きている状態で見ているはすね。ほとんどの心理学者よりもは 学を勉強しはじめた : : というのは、そういう人間は、自分自身とるかに多く。あなたは思考というものを、なんだと考えているの ? 自分のまわりの世界を理解する必要があるということを強烈に感しあたしたちを動かしているものはなんたと思っているの ? 」 ーンは彼女に徴笑してみせた。 ているからだ。まだ若い学生だったころ、ぼくは近代心理学がその 、・ヨ 1 ーン。・ほくは知っているふり 解答を示してくれるものと考えた。しかしすぐに、どれほど優れた「痛いところをつつつくんたねシ などしない。それはぼくの商売じゃない。・ほくはたた修理屋でね」 心理学者でも、こういう問題における本当の核心については、まっ 彼女は体をおこした。 たく何ひとっ知らないのだということがわかった。 いや、・ほくはこれまでにおこなわれてきた心理学の研究をけなし「煙草をちょうだい、フィル : : : あたしはフィルとまったく同じと ているわけじゃないよ。それらの研究は非常に必要なことだった ころにたどりついたの。といっても、違う道筋をたどってなのよ。 し、それなりに役立ってきたんだからな : : : しかし、かれらのたれあたしの父は、あたしに法律を学ばせたがっていたわ。でもあたし ー 45
見出しで報じた。 最後の手段なのたから。そして戦争はもう、おれたちの機械さえあ れば、不必要なものとなってしまう。暗闇のなかで計画したらどう 7 合衆国、奇蹟の光線を保有 かって ? 完全な暗闇で計画をたて、険謀をくわだててみたまえ。 憲法修正は各州の同意待ち そうする以外にはないのだから。何も書きのこすことなく作戦を立 ラヴィアーダ・レフコ釈放 て、戦争を遂行してみたまえ。そういうことだ。さて : 軍は、マイクの機械を押さえている。軍はマイクの身柄も押さえ たしかに、おれたちは釈放された。・フロンスン判事と大統領のカている。軍事的な必要性のため、とでも称しているのだろう。馬鹿 によるものにちがいない。だが、大統領も・フロンスン判事も知らな だれにだって、その機械を保持し、かくしてしまったら、世 かったのだと信じるが、即時におれたちは再逮捕された。提案され界中の国々から攻撃を受けることはわかるだろう。自衛のための攻 ている憲法修正案を必要な数の州が批准しおわるまで、〈保護〉の撃を。もしすべての国家が、あるいはすべての個人がその機械をも もとに置くと言われたのだ。祖国に反逆した者たちは皆、この〈保っていれば、各自それそれの手の内が平等に相手にわかり、平等に 護〉のもとに置かれるのだ。おれたちも、彼らとおなしような末路安全をまもることができる。たが、もし一国だけが、あるいはひと を遂げるたろう。 りの人間たけが相手のことを見ることができるのであれば、ほかの 者はそういつまでも盲目でいることに耐えられないたろう。そもそ 新聞もラジオもゆるされず、外部との連絡は、発信も受信もいつもの出発点からおれたちはやりかたをまちがえていたにちがいな さいみとめられていない。まるで当然のことのように、その理由も おれたちがこのことを何度も考えたのは、神が知っている。人 知らされない。けっしてそこから出してくれそうもないが、もしそ類がみすからかけた罠におちいらないよう、おれたちができるかぎ んなことをしたら彼らは馬鹿た。外部に連絡できず、そしてあの機りの努力をしたことは、神が知っている。 械をもう一台つくることができなければ、おれたちは牙を抜かれた ずっとまえに、きみにひとつの鍵をわたしておいた。それをつか も同然だと、やつらは思っているのだ。興奮がさめはてれば、おれうようにたのむときが来なければ、 しいと思っていた。今そのときが たちはわすれさられ、ただの人になってしまうのだと。そう、おれ来た。それは、デトロイト貯蓄銀行の貸金庫の鍵た。貸金庫に手紙 たちにはあの機械をもう一台つくることはできない。だが、外部と がたくさんはいっている。一時にではなく、場所を変えて、それを 連絡することは ? 投函してほしい。おれたちがよく知っている、そしてじゅうぶんに こんなふうに考えてみてほしい。兵士は、祖国に尽くすことをね観察した世の中の人々に宛ててあるのだ。賢く、正直で、手紙に同 がうからこそ兵士になる。自分の国が戦争で苦しんでもいないとき封した設計図を読みとる能力のある人たちだ。 に、兵士は死ぬことをのそみはしない。そんなときでさえ、死は、 さあ、いそいでくれなければいけないー いっかはたれかが、お
者はみな、手術台の上で死んでしまった。まったく愉快なんてもん ″その道もまた、閉ざされているさ″ ヒステリーに捕われ、最終防衛線がくすれたとき、彼女はより強じゃないよ : : : それに、夢ではない別のこともおこったんだ。・ほく かみそり 、精神の腕に抱き取られ、その落ち着いた静かな善意が彼女を包みがまた、旧式の剃刀を使っていることを知っているだろう。髭を剃 り終え、剃刀のことなどすっかり忘れていたら、そいつが・ほくの手 こみ、忍びよっていた悪の存在から彼女を守った。 に飛びこんできて、のどを大きく深く切りつけたんだ。見てくれ、 彼女はさけんだ。 マスター・リン また完全には治っていない」 「林 ! 林名人 ! 」 そして、彼女は胸をひき裂かれそうな悲しさにむせび泣いた。 かれは首の右側に斜めに走る細い赤い筋を示した。 ジョーンは悲鳴をあげた。 彼女は林の笑顔が穏やかに元気づけさせようとしているのを感 じ、いつぼう、かれの心の指はのばされ、彼女のこわばった恐怖を「まあ、べン ! 殺されていたかもしれないのよ」 なだめ消していた。やがて、彼女は眠った。 かれは平気な顔でうなすいた。 林の心はひと晩中、彼女とともにおり、目覚めのときまで、すっ 「・ほくもそう思ったよ」 と話しあっていた。 フィルはゆっくりといっこ。 「わかるかい、お嬢ちゃん。こういうことは、偶然しゃあないん べンとフィルは、前夜の出来事についての彼女の説明を、心配そ 「ここをあけろ ! 」 うな顔をして聞いていた。フィルは決心した。 : ・ほくらはこれまで、あまりにも不注意 「それでは、こうしよう : そう命令する声が、ドアのなこう側でひびいた。ひとつの心とな いまからこの事件が片づくまでのあいだ、・ほくらは昼も夜った三人の直接知覚は、かたい樫板をぬけ、怒鳴った人間を調べ くッジを見られな も、おきているときも寝ているときも、精神結合をつづけよう。実た。かれらが相手のチョッキについている金色のノ かったとしても、そいつが何者なのかは、私服を着ていてもわかっ のところ、・ほく自身も昨夜、ジョーンにおこったことと同じではな いが、ひどい目に会ったんだ」 た。もうすこし小さくて同じような職業の男が、そのそばで待機し ている。 、、・ほくもだよ、フィル。きみには何がおこったんだ 「そうカ べンはドアをあけ、おとなしく尋ねた。 「大したことじゃあない : : : 長々とつづく、ただの悪夢さ。その中 でぼくは際限なく、自分の能力に対する信頼を失いつづけ、ぼくら「何かご用ですか ? 」 ーンは動かなかった。 がシャスタ山で勉強したことを何ひとつできなくなっているんしや大きいほうの男が中に入ろうとした。コく 「・ほくは何かご用ですかと尋ねたんですよ」 あないだろうかと疑いつづけたよ。きみのはどんなのだ ? 」 「だいたい同じようなことさ。ひと晩中、手術をしつづけたが、患「頭がいいやつだな、え ? おれは警察から来たものた。おまえが 209