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検索対象: SFマガジン 1977年5月号
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1. SFマガジン 1977年5月号

ロひげについた泡をぬぐった。「きのうの晩だって ? ながら、明かりのスイッチをさがして狂乱状態で壁に爪をたてた。ス たならよかったと思うが。バスに乗れたことになるから。、、 ィッチをみつけたときまでは , ーーーそしてその間すっと、自分が・ ( ー 昨晩八時には、モーター ーにいた。そして真夜中すぎまでいっ テンに向かってカウンターをたたいているのを目にしていたのたが づけたんだ」 なんとか元気が保てた。もう崩壊寸前というところたったが。 考えこんだ様子で唇をかんでいた。「モーター 、、 ( ーか。通りを窒息しそうな気分で、まさに悪夢たった。やっとのことでスイッチ まっすぐ行ったところの ? 」おれはうなすいた。「モーター がみつかった。 ね。なるほど」おれは彼に目をやった。「もしかしてあなたは : 相手のメキシコ人は、まるで、ネズミ捕りを仕掛けたのにカニル いや、きっとそうしてほしいにちがいない」なんのことを言ってい をつかまえてしまったというような、じつに怪訝な表情をしてい るのかっかめないでいるうちに、彼は店の裏手に行き、合板のスク た。おれはどうたったかって ? きっと、眼前に悪魔そのものを見 リ 1 ンの陰から大きなラジオ蓄音機と、ジャンポ壜をもう一本引き たような顔をしていたにちがいない。い やじっさいに悪魔を見たの だしてきた。おれは壜を光にかざした。また半分のこっている。時だろう。床じゅうにビールがこぼれており、おれはやっとの思いで 計を見た。彼は壁ぎわまでラジオを引いて行き、蓋をあけてダイヤ いちばん近くの椅子にたどりついた。 ルに手をやった。 「あれは、と、おれはなんとか口に出した。「あれはなんだったん 「うしろに手を伸ばしてくれますか。スイッチがあるから」立ちあだ ? 」 がらすに手がとどき、おれはスイッチをうごかした。明かりが消え ラジオの蓋を閉めながら、男は言った。「はじめてのときは、自 た。そんなこととは思っていなかったから、手を伸ばしたまま手探分も同じように感したんだ。わすれていた」 りした。するとまた明るくなり、おれはほっとしてふりむいた。た 手がふるえて煙草を取りだせなかったから、包みの上部を引きち が、明かりがついたわけではなかった。通りを目にしているのたつぎった。「あれはなんだと聞いているんだ」 腰を降ろした。「昨晩八時、モーター にいた、あなたで 今、ビールをこ・ほし、ぐらっく椅子にすわったまま平衡を取ろうす」新しい紙「ツブを受けとったが、放心したような顔をしていた としているところで、すべてが起こっていたーーーおれはうごいてい にちがいない。そのままコップを持ちつがれるにまかせた。 ないのに通りがうごいており、昼間なのにそこは夜で、ブック・キ「いい力し ャデラックの正面におれがいてモーター ーにはいろうとしてお「ショッ クを受けたたろうと思います。最初のときのことはもうわ り、自分がビ 1 ルを注文しているのを見ている。それが夢などではすれてしまって : いやそんなことはもうどうでも、 しし明日にで なくはっきり目をさましているのがわかっているのだった。狼狽のもフリ ィッ。フス・ラジオに持ちこむのだ」なんのことを言っている あまりおれは床を踏みならして、椅子をたおしビールを頭から浴びのかわからなかったから、ロに出してそう言ってやった。彼は話を ′ 0

2. SFマガジン 1977年5月号

それそれ腰を降ろした。「どこまで手にはいったんだ ? 」 らしい。あそこはだめだ。 「頭痛のほかにかね」ジョンスンは短いリストを手わたして寄こし そのリストには、女性三人、男一人が載 0 ている。それで、英 語、フランス語、スペイン語、ドイツ語が大丈夫た。そのうち一一人 目をとおした。「全員をここにあ 0 めるのに、どれくらい時間がは東部で職に 0 いており、こちらからう 0 た電報の返事を待 0 てい かかるだろう ? 」 るところ。一人はポモーナ在住、一人はアリゾナろう学校につとめ 大爆発。「ここにあつめるのにどれくらい時間がかかるかって ? ている。できるかぎりの手はつくしたんだ」 わたしはあんたの使い走りの小僧なのか ! 」 しばらく考えをめぐらせた。「電話をかけてほしい。必要とあれ 「実務的な用件については、そのとおりだ。馬鹿なことを言うのは ば、国中すべての州に電話するんだ。あるいは外国にも」 よすんだ。い 0 までにあ 0 められる ? 」「ーが、ジ ' の表ジ = が、机を蹴 0 た。「それで、万一幸運にも全部あ「め 情を見て、くすくすと笑った。 たとして、彼らをつかってどうしようというんだ ? 」 「なにをうれしが「ているんだ、この低能め」「ー = はこらえきれ「そのときには、わかるさ。飛行機に乗せて、 0 れてきてほしい ず、大声をあげて笑いだした。おれも笑 0 た。「勝手に笑えばい あつまりおわったら、おしゃべりをしてあげよう。きみのところの い。おかしくもなんともない。廾 引立のろう学校に電話したら、一方ではない映写室がひと 0 と、保証 0 きの速記者ひとりを用意しても 的に電話を切られてしま 0 たのた。なにかのいたすらだと思われたらいた、 1 5

3. SFマガジン 1977年5月号

E For E 幵 0 「 t T ・ L . ・シャーレッド 努力訳 = 谷口高夫 数万のエキストラ、壮大なセット 剣きらめき、甲胄躍る大スペクタクル だが、そこに流れる女達の涙や兵士達の血は 時空を超えて伝えられた真実の姿だった ・ーヨ当り マいリ 1. ′ 大尉を、参謀部の自動車が空港まで出むか えた。遠い道を高スビードで車は走った。狭 、静かな部屋に将軍はすわり、背を撈杖の ように張って緊張に耐えていた。少佐が、夜 風のなか、霜の光にかがやく階段のたもとで 待つ。タイヤがきしんで止まり、大尉と少佐 。いっしょに階段を駆けのぼった。歓迎 のことばはない。将軍はいそいで立ちあが り、手を伸ばした。大尉は送達鞄を引きあけ て厚い書類の束を手わたした。将軍はむさ・ほ るように書類をめくると、大佐にひとこと命 令をたたきつけた。大佐が姿を消し、外の廊 下でそのきびしい声音が短くひびいた。眼鏡 をかけた男がやってくると、将軍は書類をわ たした。ふるえる手で、眼鏡の男は書類をよ りわけた。将軍の合図で大尉は席をはすした が、その疲労の見える若々しい顔には誇らし げな笑みが浮かんでいた。黒く光る机の表板 を、将軍の指さきがたたいていた。眼鏡の男 は、しわのよった地図を何枚かわきによける と、声にたして読みはしめた。 窓から外の景色を見るだけのことには もう飽きてしまったから、時間つぶしに これを書きはじめた。ところが、そろそ

4. SFマガジン 1977年5月号

かりのスイッチを切った。部屋は闇につつまれた。おれの肩ごしに マイクはおれに、助けをもとめた。「エ ド、このお利口さんに話 壁のほうを見て、ジョンスンがあえいだ。。ハ ーンスタインが、驚愕してやってくれないか」 のあまり小声で毒づくのが聞こえた。 おれは話した。正確にどんなことを言ったかはお・ほえていない マイクが何を見せているのかと、おれは振りかえった。 が、それはどうでもいし これがどんなふうにはじまったか、方針 たしかに、印象的なながめだった。マイクは、この現像所の真上をどうさだめたか、そしてこれからどうするつもりかを、話しただ からはじめ、垂直に空へ向かって上昇させているのたった。高く、 けだ。最後に、さっき映写したフィルムがどういうつもりのものか 高く、ロスアンジェルス市が、巨大な球体上の小さな点になるまを言って、締めくくった。 で。地平線には、ロッキー山脈が見えた。ジョンスンが、おれの腕こわいものでも見たような様子でとびしりそいた。「そんなこと をつかんだ。痛いほどだった。 をしたら、無事ですむはすがない ! 絞首刑ものだーーーその前にリ ンチにあわなかったとしてだが」 「あれはなんた ? あれはなんだ ? やめてくれ ! 」叫び声だっ 「そんなことがわかっていないとでも思うのか。おれたちはよろこ た。マイクはスイッチを切った。 つぎに起こったことは、想像がつくだろう。自分の見たものを、 んで、このチャンスに賭けるつもりなのだ」 ジョンスンは、薄くなってきている髪を、かきむしった。マース だれも信用しようとしなかった。マイクの忍耐強い説明も信じられ なかった。マイクは、そのあと二度にわたって、機械を操作しなけが口を出した。「わたしに話させてくたさい」前に出て、まっすぐ ればならなかった。一度は、ケスラーの過去を、遠くさかの・ほっ におれたちの顔を見た。 た。そこで、反応が出はじめた。 「うそではないのですね。さっきのような映画をつくりあげて、身 マースは、つぎからつぎへと煙草に火をつけており、 ーンスタを危険にさらすつもりだというのは ? あなたがたが、あの : : : あ インは神経質な様子で金色の鉛筆一本を手のなかで何度も何度もこのものを世界中の人々の手に引きわたすつもりだというのは ? 」 ろがしていた。ジョンスンは檻のなかのトラのように歩きまわり、 おれはうなすいた。「そのとおりだ」 屈強な体格のケスラーは、何も言わすに機械をみつめていた。ジョ 「そして、あなたの手に入れたものをすべて放棄してしまうという ンスンは、歩きながらぶつぶつつぶやいていた。そして立ちどまのも ? 」彼は真剣だった。おれもた。マースはみんなのほうに振り り、マイクの顔の正面にこぶしをつきつけて振った。 むいて言った。「本気なんた ! 」 ーンスタインが声をあげた。「でき 9 こないー 「おい ! 何を手に入れたのか、わかっているのか。なぜこんなと ことばが入りみたれた。おれたちの取ってきた道が、唯一可能な ころでうろうろしているんだ。簡単に世界を自分のものにしてしま 「どん 5 えるということが、わかっていないのか。こんなことと知ってさえものだったのだと、全員に信じさせようとおれはっとめた。 な種類の世界に、きみたちは生きたいと思っているのか。それと いればーー」

5. SFマガジン 1977年5月号

頭上の明かりが消え、テレビ中継の男が・ほやくのが聞こえた。お見ていた。急に、びつくりしたように、背筋を伸ばした。マイク れはマイクの肩に手を触れた。「見てやるんた、マイク ! 」 が、法廷に来て以来はじめて口をひらいた。 人間はみな本質的に興業師だし、マイクもまた例外ではなかっ 「アメリカ合衆国大統領です。この法廷から中継されている公判を た。とっぜん、何もない空間に、こおりついた奔流があらわれた。 テレビで見ています。彼は今、わたしが言っていることをそのまま ナイアガラの滝た。すでに言ったと思うが、高所恐怖症をおれはど 聞いており、テレビ画面では、わたしが機械をセットしたとおり、 うしてもなおすことができない。ほとんどの人間が、そうだろう。 一秒前の自分の姿を見ています」 垂直に降下しはじめると、長い、戦慄のあえぎがもれた。下へ向か大統領は、その決定的なことばを聞いていた。硬い視線を意味も 、静寂の奔流の水際まで降りて止まった。こおりついた荘厳士なく室内のあちこちに投げかけ、そしてまた、一秒前に自分のおこ は、神秘的とまで言えた。マイクが、十一時ちょうどに時間を止めなったとおりのことがうっしだされている画面に視線をもどした。 たのにちがいない。アメリカ側の岸に、画面を移動させた。ゆっくゆっくりと、いやいやながらというように、彼はテレビのスイッチ りとうっしていった。すこしばかりの観光客がいて、こつけいともに手を伸ばした。 言えるような姿勢で立っていた。雪が地に積もり、空中にも舞って「大統領、テレビを消さないでください」マイクの声はそっけな いた。時は止まっており、心臓も同調するかのようにゆっくりと鼓 粗野とさえ言えるほどたった。 「これだけは聞いてください、 動した。 世界中の人々の代表者として。理解してもらわなければならないの プロンスン判事がさけんだ。「止めろ ! 」 二人づれ、若者たった。長いスカート、襟のところまでボタンの こんなことがしたかったわけではない。だが、あなたと、それに ついた軍服、軍人用の長いオー ーを着て、顔を見あわせ、手をと このゆがんた世界に生きるすべての人々とに、直接うったえるしか りあっていた。マイクの袖が暗闇のなかですれあう音が聞こえたと手段がなかったのです」大統領は、身じろぎもしなかった。「老い 思うと、二人はうごきだした。娘はすすり泣き、兵士はほほえんでも若きもすべての者を狩りだす戦争、強欲から生まれて秘密のうち いた。娘が頭をふりむかせると、彼もいっしょに振りかえった。も にそだっていく戦争というものを不可能にするだけの力が、あなた う一組の男女が、うれしげに駆けてきて、息もっげぬばかりにぐるの手中にあるということを、理解してくれなければいけません」声 ぐると手をつないでまわりあった。 はやわらぎ、嘆願していた。「言わなければならないことは、それ プロンスンが、荒々しい声をあげた。「もういいー ー場面が、しだけです。それだけがわたしたちののそみでした。それだけが、す ばらく・ほやけた。 べての人ののそむことです」大統領は、身動きせず、闇のなかに消え ワシントン。ホワイト・ ( ウス。大統領。小さな爆音ほどの大きていった。「明かりをつけてくたさい」そして即座に、休廷になった。 な音で、だれかがはげしくせきをした。大統領は、テレビの画面を それが、ひと月前のことである。

6. SFマガジン 1977年5月号

うなすいた。「簡単なことです。原板の状態はどのていどですイクは大声をだして、ルースが気をきかせてむしむししないスポー ツ・シャツを買ってきてくれればいいとおれに言った。 「完璧です。今ホテルの金庫におさめてある。話の進行に、埋めな「奥さんですか」とジョンスンは何気なくたずねた。 ければならないギャツ。フがある。男女の俳優が、ごく少人数必要で 「秘書です」マイクもおなじように何気なく答えた。「昨晩飛行機 す。代役をつとめる全員には現金で支払いをするが、クレジットにで着いたもので、軽く着られるものをなにか買いに出しているので 冫なし力ない」 名前を入れるわけこよ、 す」おれたちに対するジョンスンの評価が、目に見えてあがった。 ジョンスンは、眉根をあげた。「いったいなぜですか。こちらで現像所に着くと守衛が出てきて、フィルムのリールをおさめたス は、画面に出るクレジットこそが飯の種なのに ーツケースをはこんでくれた。細長く、背の低い建物で、事務室が 「いくつかの理由がある。このフィルムは、 どこでということ正面にありじっさいの現像所はそのうしろに徐々にせばまって延び ていた。ジョンスンが横のドアにおれたちをみちびき、だれかを呼 は気にしないでほしいが クレジットはだれの利益にもならない んたが名前は聞きとれなかった。その名前不明の男が映写技師で、 という了解のもとで作製されたのだ , フィルムを受けとると映写室のうしろへと消えた。しばらくやわら 「もし運がよくて、出演の手があいている俳優をみつけられれば、 うまくいくかもしれない。だが、あなたのフィルムがはたらくに足かい安楽椅子にすわっていると、技師が準備完了をブザーで告げ るだけの価値があるものだったら、うちの者たちもクレジットに出た。ジョンスンがおれたちに視線を向け、おれたちはうなすいた。 ジョンスンが椅子の肘掛けについたスイッチを押すと頭上の明かり してほしがるでしよう。それだけの権利があるやつらですから」 たしかに論理的にはそうだろうとおれは言った。技術者たちは重が消えた。映画がはじまった。 要な位置を占めるのだから、じゅうぶんに支払う用意がある。公開百十分たって映画は終わった。おれたちはジョンスンの顔を、ネ ズミ穴の前に待ちかまえるネコのようにみつめた。フィルムの末端 できるようになるまでロをつぐんでいられるたけの金をはらおう。 いや、それよりあとまでもだまっているくらいの。 がスクリーンに白くうつると彼は椅子の横の・フザ 1 で明かりをつけ 「話をこのさきまですすめる前に」ジョンスンが立ちあがり、帽子るように合図した。おれたちの顔をみつめる。 「このフィルムをどこで手に入れた ? 」 に手を伸ばした。「そのフィルムをちょっと見せてください。また マイクは苦笑した顔を見せた。「商売になるだろうか」 ご協力できるかどうかはーーー」 彼が何を考えているかわかった。素人。御家庭映画。それともビ 「商売になるかですって ! 」熱烈な様子だ・つた。「商売になるほう ンク映画だろうか。 に、命を賭けてもいいくらいだ。今までに見たどんな商売よりも大 ホテルの安全金庫からフィルムを取りだし、サンセットの彼の現きな仕事にしてみせよう ! 」 像所に向かった。コンヴァ 1 チプルの幌が降ろしてあったから、マ 映写技師が降りてきた。「おい、すごいそ。どこで手に入れたん 6 4

7. SFマガジン 1977年5月号

「その通りです」 思いおこさせた。あるいはチ、ン・ラ。トレンザは、人間の植民者 のことを暗に指しているのかも分らない。そしてそれを口にしたと 2 「私たちがそうなるというのは、すでに分っているのです。私たち いうのは、あれたけ″いい人たちんである先住者たちが、心の底の はそれを知っているのです」 どこかで人間たちを意識しているのを示しているのかも知れなかっ 「知っていて : : : なぜ ? 」 た。かれらが植民者たちにおのれの予知能力を本気で告げようとし 「私たちは、この世界からついに出ずに終ることになると、それをなかったのは、実はその意識を反映した底意地の悪さだったと解釈 予知しているのです、 することも出来るのではないか 2 「どうして ? 」 とはいうものの、今は、それをあれこれとせんさくしているとき ランだった。「予知しているからって、何もその通りにすることではなかった。それがどうであろうとも、所詮近いうちにラクザ】 はないんしゃないかしら。その予知はまだ現実じゃないんでしょ ンそのものが消減してしまうのである。その消減にさいしての対策 う ? 変えられないの ? 何もわざわざ手をこまねいて こそが、焦眉の急なのであった。 「どうなんでしよう そのあとの言葉を口にするのをランははばかったが、チュン・ダ ハタラードが静かにいった。 マセはいった。「その宿命に対して、あなたがたのすべてが、満 「手をこまねいて滅ぶのです。私たちは、そのとき減亡します。そ足してらっしやるのですか ? そうではないのではありませんかっ・ れが私たちの宿命なのです」 宿命をひっくり返し、予知されているという未来を変えようとする 「そんな : : : 宿命だなんて」 者も、いるのではありませんか ? 」 「それが自然の道なんでしようね」 「チュン以外の者の中には、、 しるかも分りませんね」 チュン・ダ・ チュン・ラ・トレンザが応じた。「わたしたちは、未来を知るこ トが受けた。 とが出来ます。それがあいまいなうちはともかく、はっきり焦点を「チュンの中にも、いらっしやるかも知れない」 結ぶようになって来れは、その未来は避けがたいんですわ。それゆ マセは続けた。こんなことをお願いするのは不謹慎たということ えにわたしたちは長い長い間に、運命に自分をゆたねるすべを覚えも分っているのですが : : : せめて一度は、。 こ存じだという未来をく たんでしよう。宿命に従順になって行ったんです。そして、そのこ つがえそうと試みられてはいかがでしようか ? 」 とが、わたしたちの、何事がおこってもおたやかに受けとめて順応「と、申しますと ? 」 するという気質を作りあげたのではないでしようか」 「この世界から、新天地へ移るための努力をなさいませんか ? 出 そのチュン・ラ・トレンザの発一一一一口は、ふとマセに、 このラクザー来るかどうか、やって下さいませんか ? そのために : : : 現在行な ンにことわりもなく入り込んで来た人間たちと、先住者との関係をつている住民投票に参加して頂けないでしようか ? それが手はし

8. SFマガジン 1977年5月号

「それでは失礼いたしますよ」 ぎくしやくと階段を降りてくる音がして、バス停前で雑貨屋をし 9 ている爺さんが、軽いリウマチで痺れたという左半身をかばいなが ら入ってきた。俺の返事を待っ間に二階で着物を脱いでいたらし 日曜の朝、俺はプルーの水泳パンツ妻はレモン・イエローのセミ く、黒の水泳。 ( ンツ一枚で肩に手ぬぐいをかけている。 ・ビキニの水着姿で、首まで湯につかりながら食事をしていると、 「やあ、これは由・訳ない。お食事中でしたか」 二階の窓が開いて声がした。 階段の下から二段目、湯にひたされているセメントの上に立ち、 「おはようございます。もう、やっておられますか」 俺達を見おろした。 「雑貨屋のお爺さんだわ」 「言ってもらえば待ちましたのに」 妻が湯のなかから腕をぬくようにしてテー・フルにのばし、コーヒ 「いえ、かまいませんのよ、もう終りましたから」 ・カップをつかんで言った。俺とむかいあって坐っているため身 妻が湯をテー・フルにかけないようにゆっくりと立ちあがってこた 体はテーブルに隠れて見えす、首から上と右腕だけが、俺の眼の前 えた。 にぬっと出ている。 「どうぞどうぞ、いま片づけますから」 「どうしよう、待ってもらおうか」 妻から見ればさらし首が喋「ているように思えるであろう姿勢俺も言って立ちあがり、テー・フルの上のカップや皿を、すぐ横の 流し台に移した。妻が高さ六十センチのテープルの脚を上体をかが で、俺は視線を水平にして妻を見た。 め湯のなかに腕をつつこんでおりたたみ、天板を縦にして壁と流し 「でも、悪いわよ」 台との隙間に収納した。 コーヒーをひとくち飲んで彼女は言った。 「さあ、どうそ。狭い所ですが」 「せつかく楽しみになさってらっしやるのに」 「いや、これはどうも。それではひとっ」 カップを置き、トーストに手をのばした。 「それに早く入れてあげないと、すぐ混雑してくるわ。あのお爺さ爺さんは階段を降りて湯に足を入れ、手でパシャパシャと胸や腹 にかかり湯をして言った。 ん、それが嫌でわざわざ一番にいらしたのよ」 「それもそうだな」 「極楽ですなあ、こうして朝から温泉に入れるなんて」 俺も手をのばしてトーストをとり、うなすいた。食事はもうすぐ「ははは、いやなに」 終るのだ。まあ、いいだろう。そう思い、二階に陽気な声をかけ俺はあいまいに笑い、身体の表面がうっすらと寒くなったので、 こ 0 もう一度坐りこんだ。 「どうそどうそ、お入りください」 「いやあ、ナマンダ・フナマンダブ」

9. SFマガジン 1977年5月号

それについては、マイクとおれは以前に話しあっていた。「おれ いことはったわっていた。「けっこう、それはかたづいた。配給の たちに関するかぎり」とゆっくり言った。「最善と思えるようにし ヱ吶にもどりましよう。 。のそむわけではないが、 。個人的な売名でもいい これを手に入れたくてしかたがない業者が、二、三ある。すぐにてくれればい うちの者にことばを掛けさせよう。もう、ロをつぐませておく必要やると言われれば受けいれる。そんなばあいには、おれたちはせい いつばい気張った田舎者というところだ。映画がどこで撮影された がないところまで来ているのだから。あなたが公開したくないこと かという質問には声を落として答え、あいまいにしてしまう。存在 までしゃべったりはしません。それはわたしが注意しましよう。た が、あなたがたは、今以後、最高権力者となる。金はいくらでもはしない俳優のことを答える段には、きみたちはたいへんな思いをす いるし、もうけられるはすの金の総額は今までに見たどんな金持ちるたろうが、きみたちならなんとか切りぬけられると信じている」 マ 1 スがうめき声をあけ、ジョンスンはにやりと笑った。「奴が よりも多いはすだ。最初の申し出にとびついてしまってはいけな なんとか考えますよ」 い。このゲームでは、それが重要なことです」 「技術に関する栄誉は、すべてきみたちが受けるべきものだ。すば 「きみにおまかせするというのはどうだろう」 「やってみたいです。わたしの考えている業者は、今すぐに作品をらしい仕事をしてくれたのたから」ケスラーはそのことばを、彼ひ とりにあてた賞賛と受けとった。たしかにそのとおりなのだ。「話 ほしがっているし、わたしがそのことを知っているのはわかってい ない。言いなりにはらうでしよう。だが、そのうちのわたしの取りをすすめるまえに、作品の一部はデトロイトから持ってきたものだ ということをすでに御承知たろうと思う」みな、すわりなおして聞 分はどうなるのたろうか」 き耳をたてた。 「そのことは」とおれが言った。「あとで話そう。きみの考えてい ることはわかっているつもりだ。ふつうの条件で取引きさえできる「マイクとおれは、模型をつかう特撮の新技術を開発した」ケスラ ーがなにか言おうと口をひらいたが、考えなおした。「どんな工程 なら、だれと交渉して契約しようと、気にするつもりはない。耳に はいらないことで不快になるはすはないから」彼の考えていたのもでおこなわれたか、またどれだけの作業が現像室のなかでなされた それと同じだった。けっこう。このあたりでは、人の喉をかっきるかについて語るつもりはない。だが、見たかぎりではそれがどの部 分なのか見わけられないことはみとめると思う」 ような商売がおこなわれているのた。 「たしかに見わけることがで それについては、みな夢中だった。 「わかりました。ケスラー フィルムの複製を取る準備をしてく きない。 こんなに長いフィルムを自分の手で処理しながら : たいどこが・ーー」 「準備できています」 「言うつもりはない。おれたちの開発したものは特許を取っていな 「マ 1 ス、宜伝活動をはじめてほしい いし、こちらの手にあるかぎりは、今後とも取るつもりはない」不 うふうにはこんでほしいですか」 : 宣伝については、どうい 5

10. SFマガジン 1977年5月号

にも〈休業中〉という札を出して開いていたドアを閉め、壁の釘に メキシコ人たちはくつろいだ様子で出て行き、おれもあとについ ルを巻きもどしているところに行った。そしかけた栓抜きを取って壜の栓を抜いた。店はもと、食料品屋か食堂 て生気のない男がリー だったようだ。たくさんの椅子がおいてあった。おれたち二人はあ てフィルムの複写をどこから手に入れたのか、彼にたすねた。 たりを押しかたづけ、旧知のようにうちとけた。ビールはなまぬる 「最近報道関係から、歴史スペクタクル制作の話はひとつも聞いた っこ 0 ことがないが、これはとても新しいフィルムのように見える」 彼は、最近撮影されたものであることをみとめ、そして自分で制「こちらの方面に詳しいんですね」あやふやな口調。 質問と受けとり、おれはわらった。「それほどではない。それよ 作したのだとつけくわえた。おれはていちょうにそのことばを聞い 「フィルムの交換でトラックを運転し たが、それを信じてなどいないことを見てとり、相手は映写機からりまあ一杯」そして飲んだ。 たものだ」相手はそれをおもしろがった。 身を起こした。 「ここは始めてで ? 」 「信じていないんですね」 たしかに信じているし、バスに乗らなければならないのだと、お「そうとも言えるし、ちがうとも言える。おおむねはそうだ。静 脈洞炎をわずらって引っこみ、親戚の世話になっていたんだ。だ れは言った。 が、その手ももうきかない。親爺の葬式を先週済ませたから」それ 「それがな・せなのか、はっきりとおしえていただけませんか」 はお気の毒にと彼は言ったが、そんなことはないと、おれは答え ハスの時間が 「ぜひ知りたいのだ。この映画のなにがまずいのかさえ教えてもらた。「彼も静脈洞炎をわすらっていたんだ」それは冗談で、彼はま たコツ。フにビールをついだ。デトロイトの天気のことを、しばらく えれば、ありがたいのです」 「まずいことはなにもない」おれは言った。相手は、つづきのこと話題にした。 リの販それから、やや考えこんだような表情で彼は言いだした。「昨晩 ばを待っていた。「そう、たとえば、この種の映画が十六、、 路のためにつくられることはない。きみは三十五ミリの原板から縮このあたりでおみかけしなかっただろうか。ちょうど八時ごろ」追 小したにちがいない」そして、家庭映画を ( リウッド映画から区別加のビールを取ろうと立ちあがった。 するそのほかの理由をいくつかつけくわえた。話しおえたあと、相うしろから呼びかけた。「こちらはもうけっこう」だがやはりも う一壜持ってきたから、おれは腕時計に目をやった。「では、この 手はしばらくだまって煙草をくゆらせていた。 「わかりました」彼は映写機の軸からリールをはすして、ケースに一本だけ」 しまった。「裏にビールがある」ビールがけっこうなことはおれも「あなたでしたか」 「なにがおれだって ? 」おれは紙コップをさしだした。 みとめたが、しかしバスがーーでは、一本だけなら。合板のスクリ ーンのうしろから、紙コップとジャンポ壜をもちだした。気まぐれ「あなたがこのあたりまで出むいてきてーーー」 5 3