者 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年5月号
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1. SFマガジン 1977年5月号

ある。なるほど種々の条件や状況を総合すれば、その推測は出て来 るであろうし、その推測をつかんでいる者だって、決してすくなく はないであろう。けれどもチュン・ダ・ハダラードは、予想したと はいわなかった。知っていた、という表現を使ったのだ。予想して ほんのわすかな間ではあったが、マセは、相手の言葉を頭の中で いたのと知っていたのとではまるで違う。 反芻していた。 チュン・ダ・ハダラードは、はったりをきかせているのか ? し それは、つい今しがた、靴をぬぐときに聞いたものと符合してい かし先住者がそんな真似をするとは到底考えられない。 た。今しがた、チュン・ダ・ハダラードは、長い間自分を待ってい ならば、そういう表現が、先住者においては普通なのか ? たといった。そして今度は、この自分の来訪を、ランから告げられは従来のいきさつから見て、にわかには信じがたいことだが、あり る以前に知っていたというのだ。 得ないことではないかも知れない。 このふたつを組合わせた結果は : : : おのずからあきらかである。 だが、それにしても、やはり、それではチュン・ダ・ハダラード チュン・ダ・ハダラ 1 ドは、司政官が訪ねて来るであろうことを知 が、それだけの情報網を保持しているということには、変りはない る何らかの手段を持っていた、ということにしかならない。何らかのだ。 の情報網か、でなければその他の方法によって、これをあらかしめ そして : : : 留意しなければならないのは、チュン・ダ・ハダラー 予想していたということにしかならないのである。すくなくとも、 ド : 、私たちといっている点なのた。チュン・ダ・ハダラードは、 チュン・ダ・ ハダラードの言によれば、そういうことになるのであ私とはいっていない。あく迄も私たちなのである。つまり、これは チュン・ダ・ハダラードひとりが得ている情報ではなく、その仲間 それに : : マセはもう一度、相手の言葉の細部をよみがえらせたちをも含めているということになる。仲間というのが、ここに同 た。チュン・ダ・ハダラードは、明確に、そのことで、と、 いった席しているふたりの先住者のチュンたちたけなのか、もっと広い範 のである。そのこととは、先住者がどういう感覚でいるのか知りた囲を指すのかは、何ともいえないけれども : : : チュン・ダ・ハ 、そして、なぜ先住者たちが住民投票に参加しないのかを知りた ト単独ではないことを、心に銘記しておく必要がある。 い司政官がそれらを突きとめるためにここへ来るということであ と、こうして整理して並べると長いけれども、マセは、また る。 たきする位の時間のうちに、それらの想念を複雜な一個のパターン それ程に迄くわしい情報網を、先住者たちが持っているというのとして把握し、結果としては適当な間合いを置いたかたちで、おも か ? これは、ラクザーンの一般植民者たちに対してはもちろんのむろに口を開いた。 こともっと枢要な事実を知り得る立場の連中にも伏せていたことで 「それはまことに光栄です。もしお差支えなけれ・は、どうして私が 7 ( 承前 ) 8

2. SFマガジン 1977年5月号

スに餓えた新聞がつづきもので取りあげたりしたという理由もあかのどんなことばでも読みとれる者がいたら、つかまえておいてく る。どんな敵をつくるかによ「てその人を知れという古いことわざれ。たぶん必要になると思うから」電話の前にすわりこんでくる 0 を、お・ほえているだろうか。そう、知名度がおれたちの斧たった。 たように頭を振っている彼の姿が、目に浮かぶようだった。くるつ その斧にどうやって刄をつけたかは、以下のとおりである。 てしまった。レフコは暑さにやられたにちがいない。いい やつなの ( リウッドにいるジョンスンに、おれは電話をかけた。おれの声 「言ったことが聞こえているのか」 を聞いて、彼はよろこんた。「長いことを会っていない。どんな様「ああ、聞こえている。もしこれがおふざけだなどというのならー 子なのかね、エド」 「読唇術者が、何人か必要なんだ。それも、きみが部下に命じる言 「ふざけてなどいない。真剣なんだ」 いかたを借りれば、今すぐにだ」 いカりくるいはじめた。 しったい、どこから読唇術者などみつ 「読唇術者たって ? 気でもくるったのか。読唇術者になんの用がけられると思 0 ているんた、帽子からとりたせとでもいうのか ! 」 あるんだ ? 」 「それはきみの仕事だ。てはじめに、地域のろう学校からあたって 「理由は聞かないでほしい。読唇術者が要るんだ。あつめられるたみたらどうかと思う」だま「てしま 0 た。「さあ、これだけはし 0 ろうか」 かり頭にいれておいてくれ。これはおふざけなんかじゃない、真面 「そんなことはわからない。あつめてどうしようというんた ? 」 目なことだ。きみが何をしようと、どこに行こうと、どれだけの費 「あつめられるかと、聞いているんだ」 用をつかおうとかまわない。たた、おれがハリウッドに着いたと 疑わしげな口調たった。「はたらきすぎたんじゃないのか」 き、その読唇術者たちがみなあつまっているか、そこに向かってい 「いいカーーー・」 るところであってほしいんだ」 「さあ、できないとは言っていない。落ちつくんだ。いっ要るん 「いっこっちに来るんた ? 」 だ。それに人数は ? たしかなことは言えないと、おれは答えた。 「たぶん、一日か二 「メモしてもらったほうがいし しいかい。つぎの言語の読唇術者日あとだ。まだ、締めくくりがのこっているから」 が必要だ。英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、中国語、日本運命の不公平をのろい、青すしたてて毒づいた。「ここに着くま ギリシア語、ベルギー語、オランダ語、スペイン語だ」 でに、ちゃんとした言いわけを考えておいたほうがーー」おれは電 エド・レフコ、発狂したんじゃないのか ! 」 話を切った。 たしかに、あまり正気とは考えられなかったかとも思う。「そう スタジオで、マイクが待っていた。 「ジョンスンと話したかい かもしれない。とにかく、その言語については絶対必要なんだ。ほおれは話の内容をおしえ、イクが笑 0 た。「おれにも気がくる 0

3. SFマガジン 1977年5月号

な目的を持ってキャンプに入ってきたり近づいてきたりするすべて列車は少年たちでいつばいだ。どこかの転轍器を動かせないか ? の人々の心を常に調べつづけていた。だれかが疑惑をお・ほえている飲み水を汚染することはできないか ? だろうか ? このキャン。フを作る本当の目的に反対している一部の かれら以外の目も見張っていた。少年たちが列車に乗りこんで、 超能力者たちと通じているかもしれないだれかが、すでに入りこん西〈と動いてゆく。列車の中、あるいは上を飛びながら、その直接 でいるのではないたろうか ? いまさら手落ちがあったではすまさ知覚は列車の周辺地域を探ぐり、かれの責任とされた少年たちがい れないーーー手遅れになるし、犠牲はあまりにも大きい るところから数マイル以内にいるすべての心の動きを調べる。そう 中西部で、最南部地方で、ニューヨーク市とニューイングランド いう超能力者が少なくともひとりつきそっており、その義務は、少 で、少年たちはスーツケースに荷物をつめ、シャスタ・キャンプ行年たちが無事にシャスタへ到着するようにすることたけだった。 き特別周遊券を買い、うらやましげな仲間の少年たちとキャンプの もし人間の自由に対する敵対者たちが不意を打たれす、猜疑心な ことを話していた。 ど持たず、もっとよく組織されていたら、少年たちの何分の一かは そして全国のいたるところで、人間の自由と尊厳に敵対する連中たぶん、決してそこに到着できなかったことたろう。悪徳は常にそ 不正な金儲けをする者たち、悪徳政治家たち、悪徳弁護士たのような欠点を持っており、決して本当に知的であることはできな ち、いんちき宗教の教祖たち、労働者を搾取する工場主たち、狭量いものなのだ。動機そのものが、その弱点にほかならない。少年た な権威主義者たち、人間の貧困と抑圧をもたらす商売人たちのポスちのシャスタ到着を妨げようとする企みは、散りちりになり、失敗 連中、そしてみずからも心を使う技術にいくぶん通じていて、自由した。超能力者たちはい 0 きに攻勢に転じた。そしてかれらの動き な知識の危険を強く意識している者たちー・ーこういった俗悪な連中は、敵側のそれより速かであり、より合理的に計画されていた。 のすべてが、不安げに動きまわり、何がおこりつつあるのかを疑っ キャンプに人ってしまうと、厳重なスクリーンがマウント・シャ ていた。モールトンはこれまで、かれらの害になるようなことにしスタ国立公園のまわりに張りめぐらされた。長老は超能力者たちの か関係してこなかった。シャスタ山はこれまで、かれらが絶対に手持つあらゆる感覚を使い、夜も昼もパトロ 1 ルして、いやしく悪意 をふれることのできなかった場所だった かれらはその場所の名のある心を見張るようにと命じた。そしてキャンプ場自体も清めら 前そのものを憎んでいた。かれらは古い伝説を思い出し、そして身れた。指導教師ふたりと少年二十人ほどが試験の結果、傷つけられ ぶるいした。 た魂の持主だとわかり、家へ送りかえされた。その少年たちは、む かれらはふるえたが、行動をおこした。 のゆがみを告げられることなく、必要とされる行動に対して不適当 選ばれた少年たちを乗せている大陸横断特別・ ( ス・ーーその運転手だというもっともらしい理由が示された。 を墜落させられないだろうか ? そいつの心を占領できないか ? そのキャンプは表面上、ほかのそういった無数のキャンプと似て タイヤとかエンジンに細工することはできないだろうか ? 多くの いた。森についての知識を教える点でも同じだった。例によって名 てんてつき 2

4. SFマガジン 1977年5月号

マイクの機械はとりあげられ、おれたちは軍の見張りの下にあっ た。おれたちを保護するという意味もあったのだろう。一、 ックはなれただけのところで、 リンチ事件があったのも知ってい る。先週には、町の狂信者が、おれたちのことをさけびながら、下 の通りを歩いて行くのを見た。何をわめいているのかはっきりとは 聞きとれなかったが、いくつかの罵言が風に乗って来た。 「悪魔 ! キリストの敵 ! 聖書冒漬 ! あれこれの冒漬 ! 」この 市内にも、人類がそもそも生まれた炎のなかにおれたちをかえそう と、大喜びでかがり火をたいて蒸し焼きにしたがる人々もいるにち ュ〃し / . し 、よ、。真実がすぐにも明らかになるという現在、どれほど多数 の宗教団体が行動をおこそうとしているのだろうかと、おれは思っ た。アラム語、ラテン語、コプト語の読唇ができる者など、いった しいるのだろうか。それに、機械をつかった奇蹟は、真の奇蹟たと 言えるのか。 これで世の中のすべてが変わった。おれたちは移送された。どこ だかわからない。ただ、気候はあたたかく、また民間人の姿を見か けないことからどこかの軍事基地にいるのだとわかるばかりであ る。ここまできて、おれたちのぶつかっている問題は何かがわかっ た。時間つぶしの仕事として書きはじめたこの文章だが、ジョー、 結局、きみにたのみごとをするのに必要な前書きということになっ てしまった。大急ぎでこれを読み終え、そして行動を起こしてく れ ! またしばらくは、これをきみあてに託すことができない。そ こで、もうすこし、はじめたときのように時間つぶしとして、つづ けよう。たとえば、こんな切り抜きがある。 〈各フロイド〉 このような武器を、良心ももたぬ者たちの 手にまかせておいてはいけない。この下劣な二人組が最近につ くった商業映画を見れば、無関係な誤解されているいくつかの 事件を曲解してつなげると、どれほど真実をゆがめて見せるこ とができるかがよくわかる。異端主義犯罪者の手によって、人 々のすべての財産、商取引き、個人的生活はおかされ、また外 交政策は : 〈タイムズ〉 : : : 各植民地との連帯は確固として : : : 帝国の分 解をも : ・ : ・白人種の責任は : 〈ル・マタン〉 : : : 正当な地位を : : : 祖国フランスの誇りを回 〈プラウダ〉 : : : 民主主義の仮面をかぶった帝国主義者の陰謀 ・ : すぐにも我国の偉大な科学者たちが発表を : 〈日々〉 : : : 疑いもなく神の子孫であることを明らかに : 〈ラ・プレンサ〉 : : : 採油権は : : ドル外交は : 〈デトロイト・ジャーナル〉 : : : 我々の鼻先ともいうべきィー スト・ウォーレンの地に不吉な要塞をかまえ : : : 連邦政府の厳 重な監視下に置かれて : : : 当方の製造過程を熟知した技術者に よって開発され、法にもとづく行動の強力な援軍として : : : 政 治家たちに対する痛烈な批判が浴びせられ、商取引きの通念は 4

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「その通りです」 思いおこさせた。あるいはチ、ン・ラ。トレンザは、人間の植民者 のことを暗に指しているのかも分らない。そしてそれを口にしたと 2 「私たちがそうなるというのは、すでに分っているのです。私たち いうのは、あれたけ″いい人たちんである先住者たちが、心の底の はそれを知っているのです」 どこかで人間たちを意識しているのを示しているのかも知れなかっ 「知っていて : : : なぜ ? 」 た。かれらが植民者たちにおのれの予知能力を本気で告げようとし 「私たちは、この世界からついに出ずに終ることになると、それをなかったのは、実はその意識を反映した底意地の悪さだったと解釈 予知しているのです、 することも出来るのではないか 2 「どうして ? 」 とはいうものの、今は、それをあれこれとせんさくしているとき ランだった。「予知しているからって、何もその通りにすることではなかった。それがどうであろうとも、所詮近いうちにラクザ】 はないんしゃないかしら。その予知はまだ現実じゃないんでしょ ンそのものが消減してしまうのである。その消減にさいしての対策 う ? 変えられないの ? 何もわざわざ手をこまねいて こそが、焦眉の急なのであった。 「どうなんでしよう そのあとの言葉を口にするのをランははばかったが、チュン・ダ ハタラードが静かにいった。 マセはいった。「その宿命に対して、あなたがたのすべてが、満 「手をこまねいて滅ぶのです。私たちは、そのとき減亡します。そ足してらっしやるのですか ? そうではないのではありませんかっ・ れが私たちの宿命なのです」 宿命をひっくり返し、予知されているという未来を変えようとする 「そんな : : : 宿命だなんて」 者も、いるのではありませんか ? 」 「それが自然の道なんでしようね」 「チュン以外の者の中には、、 しるかも分りませんね」 チュン・ダ・ チュン・ラ・トレンザが応じた。「わたしたちは、未来を知るこ トが受けた。 とが出来ます。それがあいまいなうちはともかく、はっきり焦点を「チュンの中にも、いらっしやるかも知れない」 結ぶようになって来れは、その未来は避けがたいんですわ。それゆ マセは続けた。こんなことをお願いするのは不謹慎たということ えにわたしたちは長い長い間に、運命に自分をゆたねるすべを覚えも分っているのですが : : : せめて一度は、。 こ存じだという未来をく たんでしよう。宿命に従順になって行ったんです。そして、そのこ つがえそうと試みられてはいかがでしようか ? 」 とが、わたしたちの、何事がおこってもおたやかに受けとめて順応「と、申しますと ? 」 するという気質を作りあげたのではないでしようか」 「この世界から、新天地へ移るための努力をなさいませんか ? 出 そのチュン・ラ・トレンザの発一一一一口は、ふとマセに、 このラクザー来るかどうか、やって下さいませんか ? そのために : : : 現在行な ンにことわりもなく入り込んで来た人間たちと、先住者との関係をつている住民投票に参加して頂けないでしようか ? それが手はし

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しかし。 「知って : : : いた」 「そうです」 彼は宙に視線を向けた。 今の話が真実だとすれば : : : 先住者たちはラクザーンの太陽の新「それで : : : 人間たちには、おっしやらなかったのですか」 星化を知りながら、ここにとどまるという。予知能力を持っ先住者「人間たちが何事かをしようとするのを、どうこういう権利は、私 たちがた。 たちにはありません。未来不明の人間たちがなすがままにして、な では : : : 先住者たちは、ラクザーンから退避する必要はないと考りゆきにまかせるべきたったのです。未熟なチュンや、チュンでな い者の中には、それをいったのもおります。が、信じては貰えませ えているのか ? ラクザーンの太陽は、結局は新星化しないと : んでした。信じて貰うためには、私たちの予知能力について語らね そう信じている、いや、そう知っているからなのか ? ばならす、それを語ると、さまざまな厄介ごとが続出することが分 連邦経営機構の科学者たちは、間違っているのか ? っていました」 チュン・ダ・ 「でも、私にはお話しになりました」 ハダラードは、それを承知していたと、たしかにい 「お話しせざるを得ない情勢になったからです。そのときが来る 迄、あなたがたは信じないということも、私たちには分っていまし そのはすなのた。 た。今は、お話ししなければ、マセ司政官、あなたが納得なさらな そうなのだろうか ? いでしよう。そして今なら分って下さるでしよう。私たちがここに もう一度、確認すべきではないのか ? とどまるという事実が、私たちのいっていることの正しさと確信を 「ぶしつけなお願いですが」 彼は顔をあげ、チュン・ダ・ハダラードを注視した。「もしも、証明するのです。だから私たちは、きよう迄あなたをお待ちしてい たのですよ」 出来ることならお話し頂きたいのです。あなたがたの予知能力によ : ここの太陽は新星になるのですか ? そうではないのです「お待ち下さい」 マセは、会話がひとりでに、こちらの望む方向に進んでいるのを 意識しながら、たずねた。「では、本当にそうなのですか ? あな チュン・ダ・ ハダラ 1 ドは、柔和な表情を崩さずに答えた。 こ : こよ、この世界から出て行くおつもりはないのですか ? 」 「なります。そしてこの世界は消減します。私たちはそれを遠い昔ナカオー 「おっしやる通りです」 から知っていました」 「遠い昔から ? 」 「そういう大きな事柄は、早くから予知されるのです。私たちは、 「それでは : : : あなたがたも、この世界とともに消えてしまうので すよ」 あなたがた人間がこの世界に来る前から知っていました」 っこ。

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も、生きてなどいたくないのか」 で仕事にかかった。四カ月で、読脣術者たちの分の作業は終わっ ジョンスンがうなるような声を出した。「あのような映画をつく た。毎日ソーレンスンにロ述するぶっそうな内容について、彼らが 6 ってしまったら、そのあとどれだけ我々が生きていられると思うんどんな反応をしたかここにくわしく書いてもしかたがない。彼ら自 だ ? あんたは気ちがいだ ! わたしはちがう。自分から絞首台に身の安全のために、おれたちの最終的な目的については明かさない 頭をつつこんでいくつもりはない」 でおき、作業を終えたあとには、国境を越えたメキシコの、ジョン 「クレジット・タイトルと、製作責任の間題に、おれたちがなぜあスンが借りてあった田舎の小さな家に全員おくりこんだ。もう一 れほどこだわったのだと思う ? きみたちは、やとわれただけの仕度、彼らの手を借りなければならない。 事をつづければいいんだ。きみたちの腕をねじあけてしまおうとい フィルムの複製を取る機械が時間超過でうごきつづけ、マースは うのではない。きみたちは全員、おれたちの仕事をして、たいへん懸命にはたらいた。世界中、手を伸ばせるかぎりの全都市で、おれ な金をもうけたしゃないか。それなのに、仕事がちょっと重荷にな たちの最近作の映画が一斉公開されることを、新聞、ラジオが大々 ってくると、さっさと逃げだそうとするんた ! 」 的に報道した。おれたちがつくらなければならない、最後の映画 マースが降参した。「あなたが正しいのかもしれない、まちがっ だ。「つくらなければならない」というのはどういう意味かと、多 ているのかもしれない。あなたが気がくるったのかもしれないし、 くの人々がいぶかっているとったわってきた。組筋について事前に わたしもそうなのだろう。だが、なんでも一度はためしにやってみ発表することをこばんで好奇心をあおり、ジョンスンが配下の者た るというのが、 ・ほくの信条だ。・ハ ニー、きみは ? 」 ちにも燃えるような狂熱をそそぎこんだので、そこからも外部にも ーンスタインは冷静で、悲観論だった。 れる情報はほとんどなく、たた推測がみだれとぶだけだった。封切 「このあいだの戦争で何がおこなわれたかは、みんな知っている。 りにえらんた日は、日曜日だった。月曜には、嵐が襲来した。 これは助けになるかもしれない。本当にそうなのかはわからない 現在、あの映画のフィルムは、何本のこっているのだろうか。二 が。わからないけれど・・ーーためしもしないであきらめたと、あとに次にわたる世界大戦の期間をとりあげたのだが、それを、当時にい なって悔やみたくない。数に入れてくれ ! 」 たるまでは図書館の暗い隅にかくされたわすかな書籍にしか見ら ケスラーは ? れなかったような、世に媚びない角度からえがいたのたった。戦争 頭を振っていた。「簡単な話だ ! どうせいっかは死ぬんだ。チを準備した者たち、署名し高笑いをしてうそをついた冷笑的な者た ャンスを見逃がしにする手はない」 ち、新聞見出しの激烈なことばを利用し残虐行為の非道さを説きな ジョンスンが顔をあげた。「みんないっしょの墓でねむりたいもがらいざ幾百万の人々が死んでゆくときには旗のかげにかくれた多 のだ。気ちがいじみたことだが、やろうしゃないか」 弁な愛国者たちをえがき、そして名指ししたのである。国内と外国 共通の希望と理解にささえられて、おれたちは燃えるような勢いの、二つの顔をもってかくれる裏切り者たちも画面にうっしだし

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なんという生活をおくっているのかと、ジョンスンはのろいの声の仕事を一手に引きうけているのである。みんなが署名するまえ に、おれは短く演説をした。 をあけた。 「連絡は、コモダー・ホテルにしてくれ。それからマイクに。「記「できるかぎりの説明をしたとおり、この契約は、あなたがたの個 者たちはしばらく近づけないでほしい。あとになれば、発表するこ人的生活、業務生活を、一年間にわたって管理することになるし、 とがある」そしておれたちは出ていった。 こちらがのそむばあいにはその期待をさらに一年延長することがで ジョンスンこよ、・ キリシア語の読唇ができる者はひとりもみつけきるという条項がはいっています。率直に言おう。あなたがたは、 られなかった。すくなくとも、英語を話せる者は。ロシア語の専門こちらで用意する住居に住むことになる。必要品は、すべてこちら 家を、彼はペンシルヴェニアのアン・フリッジでさがしだした。フラの仕入れ係が提供する。認可を受けないで外部との接触をはかろう ンダース語とオランダ語の専門家は、オランダのライテンからつれとすると、契約は廃棄されるということになります。よろしいだろ てきた。そしてジョンスンは、最後の瞬間になって、シアトルで中うか。 国政府の諜報員としてはたらく朝鮮人にでくわした。女性五人に男けっこう。仕事自体はむずかしいものではないけれど、じつに重 性二人。サミ、エルズの書きおろした一分の隙もない契約書を、み要なものです。三カ月もあれば実際の作業は終了してしまうだろう 3 ~ しつでも、どこにでも出発できるよう なおれたちと交わした。サミュエルズは今や、おれたちの法律関係が、こちらの指示どおりこ、、 ・ 1 イっ

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「おっしやる通りです」 の状況では、ここで進行していること以上の重大事は考えられない 「すっと前から、はっきりと分っていたのですか ? それでいて、 はすである。これが当面、司政庁としては最優先事項なのであっ 2 何ひとつあなたがた自身では手を打たれなかったのですか ? 」 た。それはもちろん、もっと驚くべき突発事が起こらないとはいえ 「お待ち下さい。マセ司政官、あなたは私たちのチュンとしての感よ、 オしが : : : それ程迄の大事件なら、たとえ先住者との会話中であっ と 覚が、よく分っていらっしやらないようです。私たちにもうちょっても、はを使って割り込んで来るであろう。 と説明させて頂けませんか ? 」 っさの計算であったが、マセは、がこれらの条件を勘案し チュン・ダ・ ( ダラードが遠慮しながらもさえぎったので、マセて、自分の行為を認めるであろうとの成算があったし、実際、 は身体の力を抜いた。 1 がそれを認めた証拠に、は何も発言しようとはしなかっ 「ーー・どうそ」 「有難うございます。では」 ランはランで、先住者たちが自発的に話しはじめた彼女にとって チ、ン・ダ・ ( ダラードは、横のチ = ン・ラ・トレンザをかえり未知の事柄に対する好奇心に目を輝かせ、上半身を乗り出すように みた。 している。 チュン・ラ・トレンザが目でうなすく。 それたけを考え、見て取れるというのは、自分がどうやらふだん 「少し時間がかかりますが、順を追って申しあげますわ。よろしい と、マセはそう のおのれに返っているのを示すのかも分らない でしようか ? 」 思いながら、チュン・ラ・トレンザの、目がかなり馴れたとはし チュン・ラ・トレンザは、了解を求めた。 え、なおシルエットじみている面貌をみつめた。 「結構です」 「わたしたちがその能力を持つようになる条件というのは、誰にも マセは即座に応じた。こんなとき、たいていなら彼は一拍置いてはっきりしたことはいえません」 返事をする。を通じてこの場を見聞きしているが、 チン・ラ・トレンザは話しだした。「おそらく、体質や気質や 他にさらに重大な事項を伝えるべく、 cn0N<t に発言させるーーーそ生活経験といったものが複雑にからみ合っているのでしよう。それ の間合いを取るためなのだ。しかしながら今は、先住者に対して、 はある日ある時、何の前ぶれもなしに到来するのです」 司政官がためらいをおぼえているとの印象を与えてはならないので「 : ・ あった。だから即時承諾を与えたのである。しかも、こういう風に 「そのとぎ、当人よ、、 冫しまだ現実にはなっていない、 これから起き 先住者みずからが、司政官のみならず他のどんな人間たちが試みてるであろう何事かについて、あたかもそれが現実であるかのような も解明出来なかった、その内情ともいうべものを喋ろうとしている気持を抱くのです。ふつう、そうならない迄も、わたしたちは、い この機会を逃すわけには行かない。マセにしろにしろ、現下え、あなたがたもそのようですが : : : やがてこうなるかも知れない こ 0

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ここへ来ることをお知りになったのか、教えていただけますか ? 」なのでしようか ? 」 : どういう方法もあるわけではないのです。たた、感知 「別に : ハダラードは徴笑した。 「あなたには申し上げるほか、ないでしようね。ことに現在のようするだけです」 ダラ 1 ドの返事だった。 というのが、チュン・ダ・ハ な情勢のもとでは」 ことここに至っても、だが、マセはおのすから結晶しつつある唯 「といっても、マセ司政 と、チュン・ダ・ハダラードはいっこ。 官、あなたが即座に納得なさるかどうかは別ですが・・・ = ・私たちには一の事実〈の予感を、まだ認めることが出来なか 0 た。それは考え られないことなのた。そんなことは不可能として除外すべき事柄な それが分ったのです」 のだ。その認めたくない事柄とは : : : つまり : 不意に、マセの意識の中に、かってランのいったことが浮びあが それでは答えになっていない。マセは相手が続けるのを待った。 って来た。彼女がはじめてミルル地区に行き、先住者たちと話し合 が : : : チン・ダ・ ( ダラードはそれ以上何の補足もしないので ったという、あの話の記憶である。ランの言によればそのとき、先 ある。 住者たちは、司政官である自分の今後について、一種の黙示のよう やむなく、マセはたずねた。 なかたちで、予言めいたにとをいったというのである。 いいますと ? ・ 「分る、と、 と、すると : ダラードは、少し考えるような目つきになり、い チュン・ダ・ハ やはり・・ い直した。 それでも彼は、まだ単刀直入に切り込むことが出来なかった。 : 感知するというべきかも知れません」 「それはつまり : 「それは : : : 」 「感知、ですか ? 」 「いいかえれ マセは、自分でも迂遠だと思いながらいっていた。 「そうですね。そのほうが、理解して頂き易いかも分りませんね、 ば、あなたがたは、私がそうするであろうということを、あらかじ いったのは、チン・ラ・トレンザである。 めご存じだったと、そう解釈してもよろしいのですか ? 」 「その通りです」 マセはまた沈黙した。 チ = ン・ダ・ ( ダラードは、おだやかに、しかし疑いようのない どういうことか、判然としない。 明確さで肯定した。 この先住者たちは、どういうことを伝えたいのであろう。 やはり : 感知する、とは : その、マセの、思い切って口にしなければならなかった単語は、 「もう少し伺ってもよろしければ、おたずねしたいのですが」 ランがしナ : どういう方法で、 マセは一歩踏み込んた。「感知なさるとは : 9