入っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年6月号
200件見つかりました。

1. SFマガジン 1977年6月号

めくすきに夜の街に飛び出して行きます。時間感覚 が自由になり、疲れをしらぬ機械の足を持ったロジ ャーは怪異な姿を人々の眼にも止めず、ひた走りま す。見慣れた街角、歩きなれた歩道。このマンショ ンの六階がロジャーとドリーのホームなのです。ロ ジャーの指の爪はコンクリート の壁面に苦もなく食 いこみ、ロジャーは外壁をよじの・ほり、寝室の窓か ら入り込みます。ドリ ーの美しい寝姿。 気配に眼をさました彼女の前に立っていたのは、 モンスター ドリーは悲鳴を上げて逃げまどいま す。やっとドリーが落ちついてからも、二人の間のこ ~ 、 気まずい思いは消えません。ロジャーは迎えにきた 車にさびしく足を連ぶのでした。 遂にロジャーが火星につく日が来ます。降下艇の ハッチを開けて飛び出したロジャーの身体を暖かい 春の風がな・せて行きます。赤い惑星は気持ち良く迎 えてくれたのです。心地良い日ざし、やわらかい 風。そこに暮すべく作られたかれの身体は、初めて のびのびと活動を開始します。ここはかれの惑星な のです。 実はこのあとにドンデン返しともいうべき事件が 起きるのですが、それはちょっと書かない方が良い ような気もします。巨大コンビュータ・ネットワー クに意識があるとしたら、というのがヒントです が、この『マン・プラス』の構成としてはどうにも 00 疆酢 -- 0 0 0 0 0 0 つけ足しのようでしつくり来ないからです。でもこ こまでで大体の雰囲気はおわかりいただけたのでは ないでしようか。ともかくサイボーグ化していくそ の感覚のひとつひとつを、こうじゃないかああじゃ ないかと、しらみつぶしに書きこんでいくのはたい したもんで、特に視覚面で赤外線から紫外線まで感 ム知出来たらどうなるか、という描写は実にリアルで ~ この作品の中で最も魅力ある部分です。サイボーグ ルなどというともう何十年も前に書き尽されて、なん ウだか今さらという気もしていたのですが、そうじゃ とないんですね。コンビュータ . との連動など新しい面 をとらえたりして実に新鮮で面白いのです。に ボとって古いテーマなどないのかもしれません。 ともかく、今年のネビ、ラはウイルヘルムお婆ち 爺 うやんと、ポールお爺ちゃんの大激戦ということにな りそうです。予想としてはウイルヘルムお婆ちゃん を 賞 の方が優勢のように思うのですが、あなたはどう見 ますか ? ュ ビ四月三十日をお楽しみに、ではまた。 ネ ( 追伸、読者の皆さまにお願い致します。私のスキ ャナーは評判が悪く、ファンレターが一通も来ない ので、倉橋編集長に " オシテシ「ウゾ ! といっ もおどかされているのです。お便り下さい必ず御 返事致します。周一 ) に 5

2. SFマガジン 1977年6月号

塹壕にいる三人の仲間が、雨にうたれながら作業をしている姿壕の外へ投げすてる。二九一〇は自分の番になると同じようにや は、互いにとてもよく似ていた。毛髪のない頭部はつるつるで、躰る、それからすくいだした泥に雨が降りそそいで、それがまた壕に には体毛がなく、しなやかな筋肉は濡れて光る皮膚の下でオイルのずるすると流れこんでくるのを眺めている。その視線を追った二九 一一が彼を見てニャリと笑う。 ように滑らかに動く。 の顔は無毛で大きく、鼻は低く頬骨が高い。歯は大型 そのうちの二九〇九と二九一一の二人は、兵器を錆つかせる雨と 蛇と虫を忌みきらい、敵を憎悪しているが、彼らをとりかこむ密林犬のように尖っていて白い。そして彼、二九一〇は、その顔が自分 は平気た。しかし二九一〇と呼ばれている一人、彼らの正式な統率の顔だということを知っている。まさしく自分の顔。これは夢だと 者であり本物である彼は平気ではいられなかった。というのも二九思うのだが、疲れがひどいので夢から逃れられない。 〇九と二九一一の骨格は鋼鉄製で、二九一〇はそうではなかったか壕の下手の方から二九〇〇の割れ鐘のような声がタ食だと告げる らだ、生まれてからすっと。 と、仲間たちは道具をほうりだしてわれがちに、どろどろしたもの 彼らの幕営地は三角形だ。中央の司令部のあるところにはカイル が湯気をたてている鉢にむかって駈けだす。たが食い物のことを考 中尉とミスタ・・フレナーが眠っている。弾薬箱の入っている小屋はえると疲れきっている二九一〇は胸がむかっく。彼は、二九〇九と 泥で埋まり、小 屋の下半分は水を吸いこんだ地面に沈んでいる。そ二九一一と彼が共有している掩蔽壕にころがりこむ。ェア・マット の周囲に臼砲の穴 ( 北東 ) 、無反動小銃の穴 ( 北西 ) 、それからビノ レスにうつぶせになっているとしばらく悪夢を追いはらうことがで キオの穴 ( 南 ) がある。その向うに一直線上に並ぶ塹壕がある。第きる。家とか街路のある正気の世界へ戻るか、あるいは至福の無の 一小隊、第二小隊、第三小隊 ( 三人が属している小隊 ) 。その外側中にただ沈むか、そのほうがはるかにましだ : に第一鉄条網と対人地雷畑がある。 寝台の上で彼はがばとはねおぎた、暗闇がまだ眼をおおっている そしてその外側が密林なのた。だがまったく外 ジーン・ウルフは、七一年度ネビュラ賞候イト編の『オービット』など、オリジナル・ 側ではない。密林は成長の早い竹や象草の前哨地補作「デス博士の島その他の物語」 ( 七一一年アンソロジーが、彼のおもな発表の舞台だ。 点をこしらえ、はいまわる虫が塹壕へたゆみない 十一月号 ) 、そしてこの作品の主題や人物を生まれはプルックリン。テキサスで育った。 斥候に出かけてくる。密林は敵を庇護して、悪臭すべて反転させて書き改め、七四年度ネビ朝鮮戦争のため一時中断したが、大学ではエ 説ラ賞を獲得した「アイランド博士の死」 ( 七科を専攻する。職業は = ンジ = ア。現在妻と を放っ巨大な胸に抱きかかえて乳をやり、雨を吸 解五年九月号 ) 以来、本誌には三度目の登場で四人の子供とともにオ ( イオに住み、週末な って、人を刺す羽虫やむかでを育んでいる。 ある。デビューは比較的古く六六年。だが七どの余瑕を利用して、次々と驚くべき作品群 0 年代にはいるまで、彼の個性的なややもすを紡ぎだしている。すでに三冊の単行本を発 れば難解で特異な作風は、ごく一部を除いて表しており、その他数多くの短篇がある。 彼の横にいる食人鬼、二九一一は塹壕に流れこ ほとんど注目を浴びなかった。デーモン・ナ んでくる泥をシャベルですくい肩まで持ちあげて 9

3. SFマガジン 1977年6月号

に会い、抱きしめたことにおれは幸福を感し、そのことに驚き、また。おれは彼の甥かなんかだというのか ? ま、彼の年上の兄貴で たホッとした。 ないことは確かだが。 母はおれのケイプをとると、おれを続き部屋の居間のほうへ連れ「マイケルに尋いたってだめよ」母が言った。「月の住人は、処女 ていった。そこでおれは本当のショックをうけた。父が、微笑をう がセックスについてしゃべるみたいに、地球についてしゃべるんで いつもの。 ( イプを手にして立っていたのだ。おれは、一瞬、すからね」 おれを欺いた軍に対して怒りを感じたーーやがて、その男が ( 子供「母さん : : : 」 のころから覚えている父にそっくりだが ) 父のはすはないと気づい 「熱心だけど、なにも知りやしないのよ . こ 0 おれはマリファナに火をつけ、深く吸いこんだ。おかしなことに 「マイケルフ マイクか ? 」 甘かった。 男は笑った。 「この月人さんは年に何週間か地球にいるんだけど、そのうちの半 「そうともさ、ウィリイ」 。しいかなんてことをしゃべってい 分は、地球をどう動かしていけ・ま、 おれの弟だった。いい 中年になっている。おれが大学に入った一るんですからね」 九九三年以来あっていないことになる。当時、彼は十六歳だった。 「そうだけど、残りの半分は観察しているんですよ。客観的にね」 二年後、弟は国連探険軍に入って月に行った。 「ほら、おとくいの〈客観的〉がはじまった」母は椅子に身体を沈 「月から帰ってたのか」握手をしながら、おれは尋ねた。 めると、弟に微笑みかけた。 いや・ : ・ : ちがう。年に一、二カ月は地球に戻ってくること「母さん、あなたは : : : まあ、その話はやめましよう。ウィリイも になっているんだ。昔はそうもいかなかったらしいがね」 これからの生活でそれを見つけますよ」 月へ行く最初の新兵募集のときは、地球へは一度しか戻れない条弟はマリファナをふかした。吸いこんではいないことに、おれは 件つきだった。燃料の値段が通勤には高すぎたのだ。 気づいた。 おれたち三人は大理石のコーヒ ー・テ】ブルについた。母がマリ 「戦争のことを話してくれよ。あんたのいた攻撃部隊は実際にトー ファナをまわしてよこした。 ランと戦かったんだろ。面と向かってさ」 「なんでもやけに変わっちまったね」母と弟が戦争のことを尋ねる「うん。たいしたことはなかったけど」 目に、おれは言った。「なんでも教えてくれ」 「そうだってね」マイクが言った。「奴らは臆病だったってね」 弟は手をヒラヒラさせると、笑って、 「そういうわけ : : : でもない」おれは頭を振って、脳をはっきりさ 「話すことはたくさんあるよ。何週間もかかるがね」 せようとした。マリファナで眠気がさし、めまいがしているのだ。 「なにが起こっているか気がっかなかったんじゃないかな。射的場 弟は、おれに対してどう振舞うべきか決めかねているようだっ

4. SFマガジン 1977年6月号

爆弾の重さのためか、すこし体が片方に傾いでいる。さっと部屋の なら、彼女はとめどなく悲鳴を上げたにちがいない。 男はマリアの前に立ち、片手をさしのべて、彼女の顔や髪の毛や中を見まわしたあと、ヘン。フヒルはドアを後ろ手に閉め、彼女のほ 3 体をさわった。マリアは身を固くしていた。男はなんの欲情も抱い うへ歩みよってきた。航行士の死体をまたぎ越えるときにも、ほと ていないようだった。残酷さも、思いやりも感しられなかった。まんどそれに目もくれなかった。 「やつらは何人いる ? 」へンプヒルは彼女の上に背をかがめて、そ るで一つの空虚をまわりに放射しているようたった。 「映像ではない」若い男はひとりごとのようにいった。それからもう耳打ちした。マリアは驚きのあまり、動くことも口をきくことも う一言なにかいったが、それは「・ハッドライフ」というように聞こできず、床の上に坐ったままたった。 えた。 「だれ ? 」かろうじて声が出た。 マリアは思いきって話しかけてみようとさえ思った。だが、ほん ヘン。フヒルはじれったそうに、ドアのほうへ首を振った。「やっ の数ャード先に、絞殺された死体が横たわっている。 らた。この化け物の中に住んでいて、それに奉仕しているやつら 若い男は後ろを向き、すり足でゆっくりと彼女から遠ざかった。 だ。いま、廊下にいるときに、一人ここから出てゆくやつを見た。 そんな歩き方をする人間を見たのは、マリアもはじめてたった。男この中には、やつらが住めるようにした場所がたくさんある」 「わたしが見たのは一人だけだわ」 はヘルメットを拾い上げると、ふりかえりもせずにドアから出てい ヘン。フヒルはそれを聞いて、目を輝かした。 / 。 彼よマリアにどうす 彼女に与えられた小さな空間の一隅では、。、 , イプから水が流れ落れば爆弾が破裂するかを教え、彼女にそれを預けてから、レーザー ち、それが床に設けられた排水孔にごぼご・ほと吸いこまれていた。拳銃で彼女の足首の鎖を焼き切りはしめた。ふたりはそれからなに ここの重力は、だいたい地球なみに調節されているらしい。マリアがあったかの情報を交換しあった。マリアは、自殺を承知で爆弾を は壁によりかかって坐り、祈りながら自分の胸の妓動に聴きいっ作動させることが自分にできるとはとても思えなかったが、ヘンプ ヒルにはそのことをいわずにおいた。 た。ふたたびドアが開いて、彼女の心臓はとまりそうになった。は いってきたのは一台の機械で、どうやら食べ物らしい、ビンクと緑ふたりで監禁室から出ようとして、ヘンプヒルは一瞬ひやりとな 色の混じった大きな塊を届けにきただけだった。機械は外へ出しな った。三台の補助機械が角を曲って、彼らのほうへ近づいてきたか に、死人のまわりを一周していった。 らた。しかし、むこうは凍りついたような二人の人間には目もくれ マリアがその塊をすこしだけのどにおさめたとき、またもやドアす、静かにその前を通りすぎて、どこかへ姿を消してしまった。 が開いた。最初はごく細目に、そしてつぎに体がくぐる幅たけ開い 彼は有頂天でマリアに囁いた。「このくそったれな化け物は、自 たところで、一人の男がすばやく中にはいってきた。それは客船の分の内部に関するかぎり、七割がた盲目なんた ! 」 生き残り、あの冷たい目をしたヘン。フヒルだった。小脇にかかえた マリアはおびえた目で彼を見つめたまま、じっと待ちうけた。

5. SFマガジン 1977年6月号

「ああ、そうだと思う」 ずらっと並ぶシェルの棚ともつれあったチ、ー・フをのりこえて進 4 んでくる人影のなかに、メアリイゲイの姿はなかった。 「ウム、たいして遅れちゃいないが : : : おれたちは四時間ほどシェ 上着のベルトを締めているとき、腕輪型通信機がリンリンと鳴っ た。通信機を耳にあてる。ロジャーズからたった。 ルに入っているはずじゃなかったのか。四時間以下だったかもしれ 「マンデラ、第 3 区画を調べて。なんかおかしいのよ。減圧がはじん。たけど、いまは一〇五〇だ」 まんないものだから、ドールトンがコントロール・ル 1 ムから減圧「ウム」 しなくちゃならなかったわ」 ーグマンはまた頭を振った。おれは手を離し、横にどいて、ス 第三区画ーーーメアリイゲイの分隊だ ! おれは裸足で廊下を走っテイラーとデミイを通してやった。 た。第三区画に着くと、ちょうど内側からドアが開かれ、何人かが「じゃあ、みんな遅かったのか、減圧されるのが」。ハーグマンが言 よろよろと外へ出てきたところたった。 った。「おれたちにヤ ' ハイことはないんだな」 、よーーーおい、ステイラー 最初は・ハーグマンだ。おれは奴の腕をつかんで、 「ア 1 」不合理な推論た。「もうい 「いったいどうしたんた、・ハ おまえ中に 中から声がした。 彼はおれをのそきみるようにした。圧力室から出てきたときはみ「医者 ! 医者 ! 」 メアリイゲイじゃない誰かが出てきた。おれはその娘を押しの なそうなのたが、まだ気が遠くなっているのだ。 け、室内にとびこんだ。誰かを踏みつけ、よじ登るようにして副分 「ああ、マンデラか。知らん。どうしたんた ? 」 おれは彼の腕をつかんだまま、ドアから中をすかし見た。 隊長のストルーヴのところに近づいた。彼はあるシ = ルの横に立 「遅かったじゃないか。減圧が遅かったじゃないか。なにがあったち、手首の通信機に怒鳴っていた。 んだ ? 」 「ーーすごい血だ。輸血をーー」 メアリイゲイがシェルを着たまま横たわっている彼女は 1 グマンは頭をはっきりさせようというかのように、かぶりを 振った。 ドールトンから連絡があってーー」 「遅かった ? 何が遅かったんだ ? どのくらい遅かったんだ ? 」 全身血みどろだったその制服は血糊でギラギラ光り メアリイゲイが出てこないんでーーー」 おれは初めて時計を見た。 「まったくーー」なんてこった ! 「ア 1 ・、おれたちがシェルに入っ 鎖骨のそばにはじまったみみすばれは乳房の間をとおり胸骨をす 8 たのは〇五二〇たったな ? 」 ぎ

6. SFマガジン 1977年6月号

正気しゃないんですよ、と言うのだ。曹長殿は大尉殿を病院に入れるる。とある夜、曹長は究極的と言えそうなインスビレーションを受 のに手を貸してくれますか、と説くのだ。それからというもの、こけた。突拍子もない狡猾さを突き詰めて、ついに、事態を処理する 7 れが丸々繰り返される。大尉がああ一一一口えば、ヘイスティングズはこ には、ただ一つしか方法がないと腹を決めた。なお良いことに、曹 う言い、二人とも正気ではなかった。かてて加えて局地戦は継続中長は自分が正しいとわかっていた。誰も、曹長ほどの高度な頭の働 である。その継続する有様を見ていると、終わることがないように思きには、及ぶことができそうもなかった。 え、そしてもちろん終わることなどないのだ。曹長としても、また妻早朝三時に起き上がり、森を忍び抜けて通信テントに行くと、注 宛てに手紙を書き始めたいところたが、住所はきれいさつばり忘れ意深く、組織立てて、慈むように、万が一にも通信できることのな てしまったし、妻からの手紙は以前一通残らず投げ捨ててしまった。 いように通信機器を破壊し、それから、見た目には完全に思えるよ 今や、ヘイスティングズと大尉とが、いつも苦労の種となってい うに猛然と組み立て直した。その後、起床ラッパまで起きていて、 るのに、二人とも、自分が何をしているのか、全く気づいていな司令部からの連絡事項をなぐり書き、中隊から司令部への連絡には 。戦争を四つと局地戦を八つ潜り抜けて来た男だけが、戦争努力片端から「送信済」とインクで印した。朝食の後で連絡事項を大尉 とはいかに深刻な物か理解できるのた。週に三日、中隊は森を奪取に渡すと、大尉は受け取ってから、司令部からの典型的なクズだ、い しなくてはならない。週に三日は崖を気にせねばならす、月曜につまでたっても同じことだ、と言った。それから大尉はこう言った。 は、偵察して戦略を練るという全責任を負っている。これらすべて時折ね いや、ほんの時たまだよ、君にはわかるだろうがーーへ が曹長に委ねられているというのに、二人とも曹長をそ「としておイスティングズの言うことにも突きつめてみれば一理あるような いてくれないのだ。曹長は到底一人の手では処理しきれないほどの気がしてくるんだ、と。曹長はある巨大な概念ーー = = ークな概念 仕事をかかえていた。士官のテントを管理しつつ、兵士の士気を高 に行き当たったと感じ、その感覚が広がっていくのに身を任せ め、士官に対しては経験から得た教訓を伝え、その上、相手によってていた。その日は何が起こっても全く気にならなかった。 は、こみ入った個人的な悩み事の相談に乗ってやらねばならない。 翌朝、再び早く起き、崖を忍び抜けて通信テントに行くと、司令 曹長のような老練な兵士といえども、これでは手に負えないのだ。部からの連絡を三通書き、その中で大尉に、曹長を尖兵に据えては 今では眠りも浅く、食べた物は大部分戻してしまう。眼がチラつくどうかと勧めた。大尉はこれを読むと驚いて、これはまさに私のアイ ので戦闘でライフルを使うことはできす、結局、重圧のために押しひディアだよ、と言った。曹長はその日、隊列を率いて進み、楽しげ しがれつつあるのだと結論を下した。これほど義務を担っていなけに頭上の小鳥をライフルで撃った。強大な権力の感覚に酔い痴れ れば、そこであきらめてしまっただろう。みんな、あれほど恩知らて、その権力を試すため、次の二日はまったく連絡を書かす、中隊 ずなのだ。ヘイスティングズに大尉。大尉に〈イスティングズ。二からの連絡も「送信済」状態にしておいた。大尉は、こいつは愉快 人とも精神異常者なのに、その上、テントやら通信やらの問題もあだ、あいつらはいつもこうして黙りこんでればいいのさ、と言った。

7. SFマガジン 1977年6月号

っていた。それは事実だった。しかし、だからどうということもなを射殺した。まるで、頭の後ろに目がついているみたいだった。そ かった。かれらは人間と同様に、それが価値あることたと思えば、 れから、突然、ある朝の襲撃で、二人の男が死に、ペランも出血多量 8 何日も断食していることができるーーーそして、今この場合は、それで倒れたーー・・戦闘中に脇腹の傷が開き、出血していたのたった。そ たけの価値があるのだった。餓えることは、仲間であることの代償の日遅く、二人の負傷者が死んだ。夕方の襲撃では、ペランは日よ にすぎなかった。何日か経てば、最も空腹のものが脱落して、植物けの下に、役に立たずに横たわっていた。そして、ジャンと、残っ の実や根を求めてさまよい出るだろうが、満腹すればまた帰ってくているもう一人の入植者が、戦闘の装備をつけて、拠点のまん中の るのである。 広場に背中合わせに立ち、それそれの前にスキャナーを置き、それ : この季節は一週間もすれば終る ! 」カジャよ、つこ。 。しナ「このぞれ最寄りの二面の塀の銃を、オ ート・リモコンで発射していた。 季節が終れば、やつらはいつもよそにいくんた」 半ダースのクラハリ人が塀を乗り越え、拠点に侵入した。ジャン これはもっと正しかった。これこそ頼みの綱だった。しかし、一と入植者ーー。・・名を思い出せないがーーは手持ちの武器をひつつかん 回に二度も三度も攻撃されながら拠点に立て籠っている者にとってで、それらを射殺した。どうして、そんなに運がよいのかわからな は、二週間というのはなみたいていの長さではなかった。ラジオの いが、その男と少年はかれらを皆殺しにし、自分たちは無傷で残っ 夕方のニュースも、これを強調するようになった。 「このジャングルの小さな拠点は、クラハリ の若者たちをまったく 夜がきて、その日の戦闘は終った。だが、後になって、真夜中頃 寄せ付けずにいます」アナウンサーは冷静に喋った。「原住民の前こ 冫、たった一発たけ鋭い。ヒストルの音がして、樹上の・ほくは目を覚 進は阻止されております : : : 」 ました。・ほくはスキャナーに向かい、フードを一つ一つ上げてい ・ほくは揺れる梢で眠りこんた。 き、ジャンが日よけの前の広場に立っているのを突き止めた。塀の 次の二日の間のどこかで、ジャンがついに塀に戻った。何時から内側の隅に何かが横たわっていて、かれは半分影になって、それを だったかぼくは覚えていない。拠点の中の人たちも正確には覚えて見降ろしていた。・ほくが見ていると、かれは向きを変え、灯火の下 いないだろう。かれは自動発射になっている一連の銃を、その射手を横切り、日よけの下に戻ってきた。そこにはスキャナーがあっ が、塀を乗り越えてきたクラ ( リ人に殺された時、引き継いだにちた。前にも述べたかもしれないが、夜の陰影と屋内の灯火とのコン がいない。とにかく、かれは再び戦列に復帰したのだ。そして、戦トラストがひどく強いので、黒っぽく立っているジャンの姿と、。〈 える者は三人に減っており、二人は日よけの下で死にかけていた。 ランらしい横たわっている男の姿とを見分けるのは、非常に困難だ だから反対する者はなかった。 った。ペランは初めのうちは半ば意識がなかったが、今や、その声 砦は、その二日間は人員を失わなかった。その期間中、ジャンは が、近くの電話を通して、弱々しく聞えてきた。 塀の持場を守ったばかりでなく、塀を乗り越えた三人のクラハリ人「ー・・・ー・なんだ ? 」 こ 0

8. SFマガジン 1977年6月号

うの大きな畑の中を指差した。 跳びかかって銃を取り上げたのだ。 「わかった」・ほくはいった。「会いに、 しこう。いう事がある、ベル 耕された畑に出ると、六百ャードほど先に、一軒の入植者の家と トからハンドマイクをはすして、六名の兵士に、集合してついてく付属の建物が、空にぎらぎらと輝く白いビンホール、つまり、エ るように命じた。それから、テレメーターのビーコンをセットし、 リダスス座の歳老いたアルファ星、エイカナー星の光を受けて、 少年を連れて父親のところへいこうとして、向きを変え・ーーはっとさな黒いこぶのように見えた。・ほくの目のコンタクトレンズは即座 立ち止まった。 に黒ずんでいた。少年を見るとーーー幼なすぎてコンタクトをうまく なぜなら、二十フィートほど離れた小さな空き地の縁の、すぐ内はめることができないのでーーー日よけ帽からゴーグルを降ろして、 側に、クラハリ人の若者が二人立っていたからである。かれらは、 すでに目を覆っていた。 ・ほくが最後のしたをくぐり抜ける以前から、そここ ~ いたにちがいな「・ほくはレインジャー部隊のトウフ・レベンソン伍長だ」うねを踏 。もし動いていたら、・ほくの走査機が捉えていたはすだから。二み越えていきながら、・ほくはいった。「きみの名前は ? 」 人ともシニアで、身長はたつぶり七フィート。 皮膚は緑色で、宝石「ジャン・デュ。フレ」少年はそれをまるで、「ジャン・デ、・プレ や武器や、高い羽根飾りを頭につけていなければ、ジャングルを背イ」というように発音した。 景にした時には、姿は見えないたろう。 やっと家のそばにいくと、まだ十歩ほど残っているところでドア これくらい近くから見ると、かれらが人間型生物ではあるが、人が開き、背の高い、茶色の髪の、のつべりした顔の女が覗いた。彼 間ではないことがわかる。前腕と上腕の外側の縁には、骨質のナイ女はコンタクトが黒すんでいくにもかかわらす、目の上に手をかざ フのような刃があり、肘には骨質の。フレートがある。指には余分なして、日射しをさえぎった。 関節があるので、手は痩せ細って見える。頭髪はないが、暗緑色の ・ : 」彼女は、少年と同しような発音で、 いった。家の中 とさかが盛り上り、それがかすかに震えている。しかし、驚いたた から男の声がしたが、・ ほくには何をいっているのか、わからなかっ めか、興奮のためか、・ほくにはわからない。・ほくは連中を気にする た。それから・ほくらは戸口についた。彼女は脇にどいて、・ほくらを わけではない。ああやって、二人で、外に出ているだけだ た通し、ドアを閉めた。入ったところは台所になっているらしかっ ・カ ・ほくが少年から銃を取り上げ、そのあとで話をしているのを、 た。食卓に、一人の入植者が坐っていて、スープのようなものをポ じっと眺めて聞き耳を立てていたと思うと、ショックたった。 ールからスプーンですくって、ロに運んでいた。黒い髪を短く刈 連中は今も動く気配はない。少年をうながして、二人の前を通 り、肩のがっしりしたタイプの男たったが、少年によく似ていた。 り、空き地を出ていくと、かれらの目がわれわれを追ってきた。だ 「伍長・ーー ? 」ス。フーンを半分降ろしかけて、・ほくを見つめて言 が、見ているのは、少年でも・ほくでもなく、一てハローマー銃たっ 、それから、それを皿に落した。「やつら集まっているんだな ! た。こういうことがあるからこそ、さっきのように、・ほくは少年に攻めてくるんたな , ーー」 スキャナー

9. SFマガジン 1977年6月号

ホティガード 犯罪に関心がおありかもしれませんね。かっては、ミ シリは話題が変わってほっとしたようだ。 をつけずにニューヨークやロンドン、ホンコンの通りを歩くことは しいえ、洗脳は非常に原始的だと考えられています。野蛮なので できなかったそうですね。しかし、以前にまして教育も福祉もすぐす。いまでは、犯罪者に新しい、健康な個性をうえつけます。彼ら れたものになり、六歳のときに犯罪人の芽を見つけることができるは偏見もなく社会にうけいれられます。この方法は非常にうまくい ほど精神測定が進歩しましたので、この二十年というもの大犯罪は っているのです」 減少しています。大犯罪と呼べるものは昔にくらべてごく少なくな「監獄はありますか ? 」ュカワが尋ねた。 っており 「矯正センターが監獄のようなものでしようね。治療をうけ、釈放 「けっこうなことだ」少しもけっこうではなさそうに思わせるべされるまでは、意志に反してそこに滞在しなければ】なりませんか 、大将はつつけんどんな口調でさえぎった。「しかし、わたしのら。しかし、そもそもセンターへ行かねばならないというのは、心 の働きが狂っているからなのです」 聞いていたのとは、ちょっと違うな。なにを大犯罪と呼ぶのだね ? 残りはどうなんだ ? 」 おれは犯罪者になるつもりはなかったから、いちばん気になるこ 「殺人、暗殺、強姦。こうした個人に対する大犯罪は減少していまとを尋ねた。 す。財産に対する犯罪ーー窃盗、財産の破壊、不法居住などは依然「大将のお話では、人口の半分以上が失業手当をうけているそうで としてーーーー」 すね。おれたちも仕事につけないのでしようか ? 」 「〈不法居住〉とは何たね ? 」 「〈失業手当〉ってなんだか知りませんが、政府の補助をうけてい シリ軍曹はためらい、やがて堅苦しい口調で、 る失業者のことですね。さよう、政府は半数以上の人々の面倒をみ 「他人の不動産を非合法的に取得することによって他人の生活空門 日ています。・ほくも兵隊になるまでは仕事がありませんでした。作曲 を奪うことです」 家たったんですが。 アレクサンドロフが手をあげた。 この慢性の失業状態には、ふたつの面があることに気づかれませ 「地所の個人による所有がなくなったということですか ? 」 んか ? 地球や戦争は十億、いえ二十億の人々によってスムースに 「いえ、ちがいます。・ほく : : ぼく自身も徴募するまでは、自分の運営されうるものです。といって、残る人々が怠惰に暮らしている 部屋をもってました」なぜだか知らないが、この話題は彼を当惑さというわけではありません。 せたようだ、新しいタ・フーか ? 「でも、限度がありますけど」 全地球人は、十八年間の教育を無料でうける権利があります ルス 1 リが言った このうち十四年は義務教育です。このことと就職からの解放が、有 「犯罪人はどうしてるんですか ? つまり重罪人ですけど。人殺し史以来例をみない学究的、創造的活動の芽となっているのです こんにち はやつばり洗脳をしてますか ? 」 今日活動をしている芸術家や作家の数は、キリスト紀元の最初の二

10. SFマガジン 1977年6月号

ならないことになっている。 いるうちに、 ミサイルのひとつが敵ミサイルを捕捉、破壊した。こ メアリイゲイは続けてなにか言ったが、壁のスビーカーががなり こから千万キロほど離れた空間だった」 」てはじめたので聞こえなかった。 すぐ近くまで来ていたのだ。 「全乗組員に伝達。第六階級以上の陸軍要員および第四階級以上の 「この遭遇戦によって明らかとなったことで、ただひとっ励みにな 軍要員は、二一三〇に戦闘指令室に集合。全乗組員に ることがある。ミサイル爆発のスペクトル分析からわかったのだ スビーカーはその通告を二度くりかえした。おれは何分間か横に が、敵ミサイルは、これまでわれわれが出会したミサイルと同程度 」るため、その場を離れた。メアリイゲイは傷をーーーそして、全身の爆発力しか有していない。ということだ。したが「て、少なくと 医者と火器係に見せていたが、公式には、おれは嫉妬を感しも、きやつらの爆薬に関する進歩は、推進力に関するそれほどには ーカュ / すすんでおらんということがわかる。あるいは、さほど強力な爆発 物は必要ではないと思っておったのかもしれん。 艦長は戦闘概要を説明しはじめた。 いままでは理論家しか興味を示さなかったのたが、これは非常に 「しゃべるべきことは、あまりない。あるとしても、あまり いい = 重要な効果の初めての実例である。君」と、艦長はネグレスコを指 ースではない。 さして、「アレフ作戦で、われわれが トーランと戦ってから、どれ 今も本艦を追尾しているトーランの宇宙船が遠隔操縦のくらいたったね ? 」 、サイルを一基、発射した。発射時の加速度は八十のオーダーと「それは艦長の準拠体系によ 0 て違います」彼女はうやうやしく答 われる」 えた。「わたしにとっては、八カ月です、艦長」 艦長は一拍おいて、 「そのとおりだ。君たちは縮潰星ジャンプ中の時間短縮により、九 「そのミサイルは約一日にわたってロケット噴射をおこない、加速年を失った。その間に、工学的な面では、われわれはいかなる重要 は百四十八に到達した」 な研究も発明もなしとげておらん。 : つまり、敵艦は未来から来 あえぎ声の大合唱。 たというわけだ」 「昨日、さらにはねあがったーー・二百三 ()5 だ。言うまでもないこと その言葉が一同の心にしみこむのを待つように、艦長は言葉を切 」が、これはこれまでに遭遇したことのある敵ミサイルの加速能力った。 ) 二倍である。 「戦争が長びくにつれ、このことはいっそう顕著になるだろう。だ 本艦は四基の迎撃ミサイルを発射した。敵ミサイルの軌道としてが、トーランも相対性原理を打ち消す術は知っておらん。だから、 。っとも高い可能性をもっとコンビ、ータがはじきだした四つの軌彼らにと「て有利な事実は時としてわれわれにとって有利な事実と ~ にそれそれ交又するよう発射したのた。本艦が回避針路をとってもなりうるのだ。 田 4